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総裁対談

世界経済の潮流・最先端の技術を捉えながら、チャレンジし続ける

小谷  本日の対談を前に資料を拝見して、日本銀行が金融政策をはじめとする様々な仕事をされていることを改めて理解しました。それらの仕事については、後ほど詳しくお聞きしますが、先ず、日本銀行を取り巻く環境の変化──日本銀行にとってのチャレンジとも言えると思いますが──これについて、お話を伺いたいと思います。
 黒田総裁には、以前、スイスのダボスで開催される世界経済フォーラムでお会いしましたが、総裁はその他にも様々な国際会議に出席されています。こうした国際的な場での意見交換・情報交換を通じて、世界経済の潮流を捉え、最先端の技術の動きなどを知ることは、日本銀行の政策・業務運営にとっても重要になっているのでしょうか。

黒田  その通りです。日本銀行は、「物価の安定」と「金融システムの安定」という2つの目的に向けて、金融政策をはじめとする政策・業務運営を行っています。この仕事を的確に行うため、日本銀行は、テクノロジーの進歩などに応じて、政策・業務運営の土台となる仕組みの見直しに常にチャレンジしています。例えば、日銀ネットという日本の資金・証券決済の根幹となる決済システムの高度化や、銀行券の偽造防止技術の深化、経済・金融統計関連の情報システムの整備などにも取り組んでいます。そのためには、国際会議などを通じて、最新の金融経済情勢やIT関係をはじめとするテクノロジー関連の話題などを常にフォローし、将来の変化を意識しておくことが必要です。最近では、フィンテックの話など、聞いていて興味深いですし、日本銀行の仕事だけではなく日本の金融システム全体にも影響を与える可能性があり、重要なテーマだと思っています。また、金融規制や決済関連の国際会議の動向は、直接、日本の金融・決済システムに大きな影響を与えますから、しっかりとフォローしていくことが不可欠です。

小谷  金融政策面でも、世界の経済金融情勢の潮流を捉えることは必要ですよね。例えば、消費をはじめとする海外経済の現状と先行きや、地政学リスクによる資源価格の動き、国際金融資本市場の動向など、日本経済の先行きを見通す上で、重要な要因になると思いますが。

黒田  ご指摘の通りです。金融政策は、経済全体の底流にある動きを捉えながら行うものですから、日本経済に影響を与える海外経済の動向や様々なリスク要因をしっかりと把握することが必要です。また、金融政策は、金融資本市場への働きかけを通じて実体経済に影響を与え、実体経済が安定的に成長するもとで、物価安定を達成していくものです。その意味で、市場の動向もとても重要な情報です。特に、金融資本市場は、様々な情報を消化して先行きを予測しながら動いており、時に急激に変動することもありますから、その動向を常時しっかりと把握しておくことが大切です。また、金融政策がうまく実体経済に伝わっていくためには、金融システムの安定も必要となります。金融システムはグローバルにつながっているため、海外の中央銀行と常に情報交換し、連携を取りながら、金融システムの安定に向けた取り組みを進めています。

小谷  世界の潮流を捉えることが中央銀行にとって大事になっているとのお話しですが、そのためには、どのような姿勢で国際会議や海外との意見交換・情報交換に臨むことが必要でしょうか。

黒田  私自身は、日本銀行総裁として、IMF(国際通貨基金)総会やBIS(国際決済銀行)の中央銀行総裁会議、アジア開発銀行の総会など様々な場に参加しています。また、日本銀行の多くのスタッフが国際会議や海外当局との会合に出席しています。私が国際会議等に参加する際に意識していることは、3つあります。第1に、表面の事象に囚われず問題の本質と底流にある動きを意識しておくことです。国際会議では、カレントな事象を議論することも多いのですが、その際、事象の底流にある大きな動き──最近であれば、2008年のリーマンショック後の世界的な金融経済情勢の大きなトレンドが、現在の事象にどのような影響を与えているのか──をしっかり意識・把握して意見交換をするように心がけています。第2に、他の人・国の意見や議論にしっかりと耳を傾けつつ、言葉の裏の意図・考え方をしっかりと読み解くことも意識しています。第3に、公式な場でのディスカッションとは別に、トップ同士のコーヒーブレイクでの会話や個別に行う会談で話す内容が色々と参考になる、ということです。

「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するために「量的・質的金融緩和」を着実に推進する

小谷  ここで話題を変えまして、日本銀行の2つめのチャレンジとして、金融政策についてお話しを伺います。私自身の経験ですが、世界経済フォーラム主催のあるセッションにおいて、2013年4月の日本銀行による大胆な金融緩和実施後の日本の経済金融情勢の変化を説明する機会がありました。その際、金融市場の動きなどを整理して振り返ってみたのですが、為替や株価などが大きく変化しており、改めて驚きを覚えました。本当にインパクトがあったと思います。総裁は、どのような狙いであの大胆な金融緩和を実施されたのでしょうか。

黒田  私が日本銀行総裁に就任する直前の2013年1月、政府と日本銀行の共同声明が出されました。その中で、日本銀行と政府それぞれの政策的な役割が示され、日本銀行は大胆な金融政策を行い2%の「物価安定の目標」を出来るだけ早期に達成することとなりました。私は、総裁就任直後の4月に、この共同声明に沿って、出来るだけ早く「物価安定の目標」を達成する施策として「量的・質的金融緩和」を開始しました。ポイントは、①消費者物価の前年比上昇率で2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭においてできるだけ早期に実現する、というはっきりとしたコミットメントを行うこと、②それを裏打ちするため、大量の国債買入等により、質・量ともに次元の違う金融緩和を実施することでした。人々の期待に働きかけてインフレ予想(将来の物価動向に対する見方)を引き上げるとともに、金融市場でイールドカーブ全体の金利を押し下げることで、実質金利(名目金利とインフレ予想の差)の低下を促し、投資や消費を刺激するルートを念頭に置いています。この過程で、株価や為替市場にも影響が及ぶとは思いましたが、為替や株を狙って実施した政策ではありません。

小谷  2%の「物価安定の目標」に関しては、その達成時期を巡り、様々な意見も聞かれています。ただ、原油価格低下の影響があり、物価の基調が分かりにくくなっていることも議論を複雑にしていると思います。物価のトレンドを把握する際には、生鮮食品を除くだけではなくエネルギーも除いた消費者物価の方が良いとか、物価安定目標自体をエネルギー除くベースの消費者物価に変更してはどうか、との意見もあります。総裁はどうお考えでしょうか。

黒田  日本だけではなく、アメリカや欧州の中央銀行も同じですが、物価安定の目標自体は、生鮮食品・エネルギーも含めた総合の消費者物価指数となっています。ただ、その時々の物価の動きを評価するためには、短期的な振れを除いた基調を確認する必要があり、幾つかの指標が利用されています。「『物価安定の目標』としてどの指標をみるか」と「目標に向かって進んでいるかを測るためにどのような指標をみるか」というのは、別の話ということです。我々も物価のトレンドを把握するために様々な指標をチェックしています。従来は、季節性による振れが大きい生鮮食品を除く消費者物価を重視していましたが、今のように原油価格が大幅に下落しているときは、エネルギー関連品目を除く指標も確認しなければトレンドを把握できません。また、賃金の上昇率と物価の上昇率は、長期的にみると連関性が非常に高いため、賃金の動向も確認していくことが必要です。専門家の間でも色々と議論されているテーマであり、日本銀行でもエコノミストが各種指標の特徴や景気との関係について研究を進めています。そうした研究の成果も活用しながら、適切な金融政策運営に努めているところです。

小谷  日本銀行による大胆な金融緩和とあわせて、政府が財政政策なども含めてよりスピーディーに動いていれば、物価上昇をもう少しスムーズに牽引することはできたのでしょうか。

黒田  その点については色々な意見があると思いますが、政府は機動的な財政政策を行いつつ、持続可能な財政構造を確立するための取組みを着実に進めていると思います。また、規制緩和等による民間投資を喚起する成長戦略についても、対象が幅広いためにまだ進行途中ですけれども、いくつかの分野では取組みはかなり進んでいます。必要なことは、政府と日本銀行が合意した共同声明にしたがって役割分担をしながら、日本銀行は日本銀行の責任で2%の「物価安定の目標」の達成に向けて政策を進めていく、政府は政府の責任で政策を進めていくことだと思います。

小谷  物価が基調として上昇していることに加え、緩やかな景気回復が続き、企業収益は好調と言われています。こうした中で、賃金のベースアップの動向が注目されていますが、総裁は、今後、賃金上昇率がどうなっていくとご覧になっていますか。企業経営者の方に伺うと、「企業に蓄積された利益である内部留保を吐き出すのは難しい」と引き続き利益を温存しておきたいという意識が強く、経営サイドとしては賃上げへの抵抗感が強いようにも感じますが。

黒田  ご指摘のように、企業収益は、原油価格の下落によるコスト低下と極端な円高の修正という環境変化もあって、過去最高水準にまで改善しています。また、国内の労働市場は、この1~2年着実に需給がタイト化しており、失業率等は既に完全雇用の水準(求人と求職のミスマッチに起因した失業のみが残る水準)に達しています。このように日本経済のトレンドは明確に変化しています。そうしたトレンドを把握して、賃金の動向をみていく必要があります。多くの企業では、この20年ほどベースアップが実施されていませんでしたが、2014年・2015年と2年続けてベースアップが実現しました。2016年についても、先ほど述べたような企業収益・労働市場の状況を踏まえると、賃上げの環境は十分に整っているとみています。この点に関して、小谷さんご指摘の通り、企業経営者の方々の中には、20年続いたデフレ期の経験もあって、設備や人材投資に消極的な方もいらっしゃいます。しかし一方で、勝ち残りのため、将来を見越して設備・人材投資に前向きに取り組まれている企業も少なくありません。日本銀行が先日(注:2015年12月18日)決定した「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置」もこうした企業のサポートを狙った施策です。日本銀行は、金融政策面からもチャレンジを続けています。

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