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総裁対談

多様な銀行業務を通じて、国民経済の健全な発展という公的な使命を追求する

小谷  次に、3つめの話題として、日本銀行のその他の仕事についてもお伺いしたいと思います。金融政策をはじめとして、日本銀行の仕事は、私たちからすると、やや距離が遠く馴染みの薄いものと感じてしまいます。しかし、さきほど賃金のお話しが出たように、これをお読みになっている学生の皆さんの生活にも大きく関わってくるものです。私としては、日本銀行の仕事が、国民一人ひとりの生活に直結しているということを、もっと多くの人に理解していただきたいと思います。

黒田  ありがとうございます。日本銀行は、「物価の安定」と「金融システムの安定」の2つを目標として仕事をしていますが、この言葉だけでは、やや抽象的に聞こえるかもしれませんね。しかし、日本銀行が実際に行っている業務には、人々の生活に密接に関わる様々な仕事があります。具体的にお話ししますと、日本銀行は、日本の中央銀行として「お金」を発行するとともに、決済システムを運営することで、人々の経済活動・生活基盤を支えています。すなわち、1つには、「発券銀行」として紙幣を発行し、その円滑な流通を維持するために、日本銀行の本支店を通じて流通ネットワークを築いています。偽札や汚いお札が流通しないよう常にチェックも怠っていません。2つめに、「銀行の銀行」として、銀行に対する融資や預金の受入れとともに、日本の資金・証券決済の中核システムである日銀ネットを運営しています。ここでは、毎日100兆円以上の資金決済が行われています。3つめに、「政府の銀行」として、税金の受入れや年金の支払いなど政府の歳入・歳出事務も取り扱っています。学生の皆さんには、日本銀行の仕事が全ての人の生活と経済活動に密接に関わり、これを支えているということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

小谷  今、「本支店のネットワーク」という言葉がでてきました。日本銀行は、本店以外にも全国各地に支店や事務所をもっていますが、どのような役割を果たされているのでしょうか。

黒田  日本銀行は、全国に32の支店、14の国内事務所を配置しており、地域経済の健全な発展を支える役割を果たしています。具体的には、「お金」の流通拠点として、全国どこでも必要な量の「お金」が流通するように、本支店間・全国の金融機関との間で「お金」の流通網を構築しています。また、「銀行の銀行」や「政府の銀行」としての仕事も全国各地で行っています。さらに、各地域の金融・経済動向を調査・分析し、その結果を対外的に公表するとともに、本店に報告しています。こうした各地の情報は日本経済の現状・先行きの把握に不可欠で、金融政策運営にも役立てています。

小谷  これまでのお話しから考えますと、日本銀行は、公的な組織としての側面と、銀行としての民間的な側面の両方を持っていると理解してよろしいですか。

黒田  日本銀行は、政府とは違いますが、「利益目的」ではなく、「物価の安定」と「金融システムの安定」という公的な目的のために仕事をしているという点で、パブリックな性格を持つ組織です。一方、その目的達成をどのような手段で実現するかという点では、金融機関・金融市場での取引や、決済システムの運営など、銀行としての機能を利用しており、民間的な性格を持つ組織でもあります。言い換えれば、銀行業務という民間金融機関と同じような機能を通じて、国民経済の健全な発展という公的な使命を追求していることが中央銀行の仕事の特徴だと言えます。

パブリックマインド・チャレンジ精神を持った多様な人材に集まって欲しい

小谷  そのような特徴を持つ、日本銀行に向いている人は、どのような人でしょうか。

黒田  ひとつは、パブリックな仕事をやってみたい人だと思います。日本銀行は「物価の安定」や「金融システム安定」という公的な使命を帯びているので、パブリックな仕事に関心がある人、日本経済に貢献したいという意気込みがある人を求めています。また、日本銀行の仕事には、金融政策の立案だけではなく、金融機関の考査、決済システムの構築、経済・金融市場の分析、発券業務、システム関連業務など実に様々なものがあるため、多様なバックグラウンドを持った、チャレンジ精神のある人たちに来てもらいたいと考えています。それと最近は、海外の中央銀行との協調が非常に進んでいるので、国際的な仕事に関心ある人にも是非入って欲しいと思います。

小谷  多様なバックグラウンドということですが、経済学を専門にしていない人は日本銀行に縁がない、ということではないのですね。

黒田  そういうことは全くありません。日本銀行の仕事は幅が広く、経済学部を出た人だけではなく、法学部、工学部、商学部、経営学部などを出た人にとっても、各自が自分にとって関心がある仕事を見つけることができると思います。また、入行した後に仕事を通じて、専門的な知見を磨いていくこともできると思います。

小谷  これは対談を前に資料を拝見して初めて知ったのですが、日本銀行の職種は一つではなくて、総合職と特定職(業務分野特定タイプ・専門分野特定タイプ)と一般職に分かれているのですね。

黒田  職種が分かれているという点では、民間金融機関や官公庁とも同じだと思います。総合職は、日本銀行の政策・業務全般にわたって高度な分析力・企画力などを発揮しながら幅広く仕事を経験してもらうことになります。特定職は、特定の分野において、高度な専門性を活かして活躍してもらう仕事です。例えば、日銀ネットのような巨大なコンピューターシステムを改善・運営していくためには、IT分野に詳しいシステムエンジニア、決済実務の専門家、法律に詳しい専門家などの協同作業が必要となります。一般職は、本店や支店において、中央銀行業務を支える実務のエキスパートとして重要な役割を担っています。

小谷  少し話題を変えて、黒田総裁ご自身の職業選択についてもお伺いしたいのですが、黒田総裁を存じ上げなかったころ、ある経済学者に「黒田さんってどんな方ですか」とお尋ねしたら、「ものすごく博識な方だ」と言われていました。また、学生のころドイツ語の難解な本を読まれていたという話も伺いましたし、もしや、学者志望ではなかったのかと思いました。

黒田  私は、大学は法学部だったものですから、司法試験の勉強をして裁判官になろうと思っていましたが、4年生の時に就職説明会で、「経済や社会の変化に応じて大蔵省も変わっていくので、新しい考え方を持った若い諸君に来て欲しい」という話を聞いて、これは面白そうだと思ったことがきっかけで、大蔵省に行くことにしました。それから大蔵省で三十数年間働いて、そこを辞めた後に、一橋大学の教授を2年、アジア開発銀行の総裁を8年やって、2013年3月に日本銀行総裁になりました。自分が日本銀行総裁になることについては、全然予想をしていませんでした。こうした一連の職業選択は、自分で意図してなったという以上に、巡り合わせという性格が強かったと思います。

小谷  最後に、日本銀行で働きたいという意欲を持っている学生の方々に対して、総裁から期待していることをお話しください。

黒田  日本銀行の使命は変わりませんが、これを実行するうえでの政策や仕事の進め方は、時代とともに変化していきます。これまでのバックグラウンドは問いません。日本銀行には様々な仕事があり、新しいことにチャレンジしつつ、日本経済に大きな影響を与える中央銀行で国民経済の発展に貢献したいと考えている方に、是非来て欲しいと思っています。

(この対談は2015年12月に行われました)

日本銀行総裁 黒田東彦 (Haruhiko Kuroda)

●1944年、福岡県生まれ。
●1967年 東京大学法学部卒業、大蔵省に入省。
1971年 オックスフォード大学経済学修士号取得。大蔵省主税局、国際金融局などを経て、1996年同財政金融研究所長、1997年同国際金融局長、1998年同国際局長、1999年財務官。
●2003年3月内閣官房参与。同年7月より一橋大学大学院経済学研究科教授を兼務。
●2005年2月より2013年3月まで、アジア開発銀行総裁。
●2013年3月、日本銀行総裁に就任。

ジャーナリスト 小谷真生子 (Maoko Kotani)

●大阪府生まれ。
●1986年日本航空入社。
●1990年に退社後、NHK総合「モーニングワイド」「おはよう日本」、NHK-BS1「ワールド・リポート」などのメインキャスター。
●1994年10月にテレビ朝日「ニュースステーション」に参加。
●1998年4月より16年間、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」メインキャスター。
●BSジャパンの企業トップのインタビュー番組「小谷真生子のKANDAN」も並行して出演。
●2014年よりBSジャパン「日経プラス10」メインキャスターとして出演中。
●現在、世界経済フォーラム(World Economic Forum)IMC(International Media Council)とGAC(Global Agenda Councils)のメンバー。
●2015年、経済協力開発機構(OECD)年次総会モデレータ。

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