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「日銀探訪」第6回:業務局国債業務課長 真鍋正臣

入札から元利金支払いまで、縁の下で支える=業務局国債業務課(1)〔日銀探訪〕(2012年11月14日掲載)

業務局国債業務課長の写真

わが国の国債発行額は年々膨れ上がり、今年度の市中発行予定額は約150兆円と、10年前の1.5倍に達した。入札は年170回程度に上り、入札・発行事務はほぼ毎日実施されている。これだけ大量の国債の発行や流通に関わる事務を行っているのは日銀だ。今回の取材対象である国債業務課は、国が決定した毎年度の発行計画に基づき、入札、発行、決済、元利金の支払いなど「国債の一生に関わる業務」(真鍋正臣課長)を担当している。国債の円滑な発行・流通を支える縁の下の力持ち的存在といえる。

同課は総勢が約60人。入札、発行、決済の各業務を手掛ける国債業務グループ、戦没者の遺族に対して弔慰金の代わりに支払われる記名国債に関する事務を主に行う国債証券業務グループの2グループから成る。

国債の入札通知(オファー)、発行、代金(払込金)の受け入れまでの一連の事務は、金融機関と日銀を結ぶ決済システムの日銀ネットを通じ、すべてオンラインで処理されている。また、2003年1月に日銀ネットのデータベース上で国債決済を行う国債振替決済制度が導入され、国債のペーパーレス化が実現。これにより、国債決済も電子処理されるようになった。既に国債残高の99%以上がペーパーレスとなっている。一方で、国債の元利金支払い事務や記名国債に関わる事務などは、手作業で対応しているものも少なくないという。

真鍋課長のインタビューは、3回にわたって配信する。

「国債の入札・発行予定日や予定額は、財務省が事前に発表する。入札に参加しているのは銀行、証券会社など約250社。日銀は、日銀ネットを通じて入札参加者にオファーを送ったり、応募を集計したり、購入代金の払い込みを確認するなどの入札・発行関連事務を行う。入札・発行はほぼ毎日あり、すべて日銀ネットによるオンライン処理で、時限性が高く対外的影響も大きい。オンライン処理とはいっても、入札関連データの入力、確認、送信や、応札・落札結果の確認、送信など、課員が端末操作で処理する事務が要所要所にある。万一誤りが発生すれば国債市場などに影響が及ぶ可能性もあるため、極めて高い緊張感の中、課員一同、気を引き締めて対応している。特に気をつけているのは公平性と時限性を確保するためのきめ細かな対応だ」

「何らかの事情で入札参加先の端末が作動していなかったり、回線がつながっていなかったりした場合、オファーは入札先の端末に出力されず、オファーの電文が迂回(うかい)されて国債業務課に戻ってくる。この迂回は、1カ月に2、3回程度起こる。その際は、当該入札参加先に電話するとともに、ファクスでもオファーを送付する。迂回の原因の特定が短時間では不可能な中、入札の公平性を保つには、こうした丁寧な対応が不可欠だ」「時限性の点では、1日に国庫短期証券と利付国債の2種類の入札があるときは、10分間で2本のオファーを送信しなければならない。この場合、オファーに誤りがないように、課員3人と入札事務責任者合わせて4人で確認している。さらに、3カ月に1回程度と頻度こそ少ないが、迂回出力と1日2種類の入札が同時に発生することもある。この場合、対応する課員は、日銀ネットの端末、電話、ファクスとめまぐるしく動き回ることになるが、事務処理が錯綜(さくそう)しないよう、担当者同士でたえず声を掛け合ってコミュニケーションを取り、業務の進展状況をしっかりチェックすることによって、迅速かつ正確な事務処理に努めている」

税金精算、国債差し押さえは手作業で処理=業務局国債業務課(2)〔日銀探訪〕(2012年11月15日掲載)

2003年1月に、日銀と金融機関との間の決済に使われる日銀ネット上において国債決済を行う国債振替決済制度が導入され、国債のペーパーレス化が実現した。現在、この制度の下で、1日当たり1万5000~2万件、金額では80兆円程度の巨額の決済が行われている。振替決済をはじめ国債に関する事務の多くはオンライン化されているが、一方で、税金の精算に関する業務や国債の差し押さえなどに対しては、書面に基づき必要事項をシステムに入力するなどの手作業処理が存在している。

国債の利子に対する課税額の精算事務の仕組みは次のようなものだ。事業法人や個人などが保有する国債の利子への課税は源泉徴収されるが、金融機関は源泉徴収が免除されている。振替決済制度の下では、金融機関が事業法人や個人などから国債を購入した場合、元利金支払日には本来は免除される源泉徴収が行われた利子をいったん受け取り、後日、日銀に対して一部税金の還付を求めるという手順を踏む必要がある。真鍋正臣課長は「地味ではあるが、税金に関わる重要な業務であり、日銀も金融機関とともに、誤りがないよう気を使ってしっかりと事務処理を行っている」と話す。

また、裁判所や税務署が国債を差し押さえると、日銀は国債の決済や、もともとの保有者に対する元利金の支払いの停止措置を取る必要がある。差し押さえ事務は、年間20から30件程度と事務量こそ多くはないが、あらかじめスケジュールが定められているわけではないため、事前に予測のつかない臨機応変の対応が要求される。

「国債利子の税額精算事務において、金融機関が源泉徴収免除分の税金の還付を求める場合には、書面で国債業務課に請求する。国債業務課では、1件ごとに源泉徴収対象期間をチェックし、金額を審査した上で、データをシステムに入力していく。国債の利払いが集中する3月、6月、9月、12月の月末近くの数日間は、申請も5000件程度に達する。通常の担当は4人だが、このときは、課内の定例事務打ち合わせや毎日のミーティングの中であらかじめ応援態勢を相談しておいて、担当外の課員が臨機応変にサポートに回る。結果的には、8人から10人くらいまで要員が膨らむこともある」「国債の差し押さえへの対応は、事前に予測がつかない突然の事務だ。事務の流れとしては、まず裁判所や税務署などの執行機関から、国債の口座を管理している銀行や証券会社などに差し押さえの通知書が送られてくる。国債業務課は、銀行などから電話で連絡を受け、国債の振替決済や元利金の支払いを停止する措置を取る。裁判所による差し押さえの場合は、元利金支払日が到来すると、法務局に金銭供託を行う。一方、税務署による差し押さえの場合は、指定された預金口座に振り込みを行うほか、後日に地方税を納入する。差し押さえの発生後、通常とは異なる元利金、課税の取り扱いや、確実な期日管理が必要となる複雑で難易度の高い事務処理だけに、実務関係者と連携を取りながら確実に事務を遂行している」

記名国債事務、戦没者遺族にきめ細かく対応=業務局国債業務課(3)〔日銀探訪〕(2012年11月16日掲載)

国債の振替決済制度導入に伴い、通常の国債はペーパーレス化されたが、今でも券面に基づいて金銭が支払われている現物の国債がある。戦没者などの遺族に対して弔慰金や給付金の代わりに、基本的に一定期間ごとに支給される記名国債だ。分割償還方式で、10年間にわたって毎年1回償還金が支払われるのが一般的な仕組み。年間支払件数は約160万件、額にして約800億円に上る。日銀は、この記名国債に関する事務も担当している。

同国債は受取人が死亡した際の相続が可能。国債業務課は、相続人などからの記名変更請求に基づき、戸籍や印鑑証明書の確認を行い、現物証券に記載された記名を変更する。記名変更事務は年間5万件程度に上るが、1件1件手作業で処理されている。真鍋正臣課長は「迅速で正確な事務処理に加え、戸籍、住所、印鑑などの重要な個人情報を扱うので、適切な個人情報管理も徹底している」と話す。東日本大震災の際には、被災者支援策の一環として、償還期日前に記名国債を買い上げる前倒し償還などを実施したという。

「記名国債証券の券面には、弔慰金の受取人氏名が記載されている。受取人は利札に当たる賦札(ふさつ)と引き換えに償還金を受け取る。受け取り場所は郵便局が非常に多い。国債業務課は、償還金と引き換えられた賦札を受け入れて、受取人への支払い状況を管理するとともに、賦札を保管する」

「記名国債は、譲渡や担保権設定は原則禁止されている。一方で、受取人が死亡した場合は相続が可能だ。証券に記載されている氏名を相続人などに書き換える必要があり、この場合、相続人などには、日銀に国債証券と戸籍など相続を証明できる書類を添えて記名変更を請求していただくことになる。記名変更などの請求事務はこれまで支店でも取り扱っていたが、昨年10月に本店に集約した。迅速で正確な事務処理、丁寧な対応を実践するとともに、記名国債現物の管理、戸籍、住所、印鑑証明書などの重要な個人情報の管理も適切に実行するよう、日々のミーティングでも書類の整理・保管について徹底している」

「東日本大震災では、所在不明となった記名国債が少なくない。通常の手続きでは、紛失の申請から3カ月後に代わりの証券を発行するが、被災者支援策として、償還期日の到来した償還金については、まだ支払われていないと確認でき次第、支払いを行っている。現在までに約1400件の対応を行った。また、償還期日が未到来の償還金についても、記名国債の買い上げによる償還の前倒しを行っており、約180件実行されている」

「課の運営で心掛けていることとして、金融機関から個人まで裾野の広い国債保有者の利便性を確保し、さらに向上させることが大事だと思っている。レアケースや想定外の状況にも適切に対応するためには、総務課の企画部署などと連携しながら、関係者の知識や経験に裏打ちされた英知を集めて付加価値を付ける仕事をしていく必要がある。新しい制度や事務処理を実施する際には、現場部署の視点に立って、事務処理の改善策や気付いたことを提案・発信していくことも心掛けている。また、事務処理の正確性、時限性、公平性を確保するために、担当同士でたえず声を掛け合って、事務処理の進展状況を確認しながら遂行していくのも重要だ。システム化が進む業務は、操作手順を覚えるだけでは障害や災害への対応力が向上しないので、事務処理の仕組みをしっかり理解するように、研修や訓練をたゆみなく実施している」次回は業務局統括課を、11月下旬をめどに取り上げる。

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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