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「日銀探訪」第17回:金融機構局総務課長 千田英継

銀行の日々の行動把握、「手触り感」が強み=金融機構局総務課(1)〔日銀探訪〕(2014年1月27日掲載)

金融機構局総務課長の写真

日銀法には、「物価の安定」と同時に「金融システムの安定」を図ることが日銀の目的と規定されている。この後者の目的達成に向けたプルーデンス(信用秩序維持)施策の立案や業務を主管するのが金融機構局だ。日銀のプルーデンス施策というと、金融機関に立ち入って経営状態を調査する日銀考査や、金融システム全体に危機が及ぶことを防ぐために、一時的に流動性不足に陥った金融機関に無担保で融資する日銀特融が思い浮かぶ。しかし、金融業界の急激な変化に対応して、日銀の手掛ける施策も多様化・高度化しているという。また、組織改正も頻繁に行われてきた。現在、金融機構局は7課1センターから成り、約330人の人員を抱える。

このうち総務課には、総務、信用政策企画、国際信用政策の3グループがあり、約40人が所属している。局の運営に関する企画をしたり、局全体の情報管理や庶務を行ったりするほか、信用秩序維持のための施策の企画・立案、当座預金や貸し出しの取引先選定などを手掛けている。

千田英継総務課長は、日銀がプルーデンス施策を手掛ける利点について、「金融機関との日々の取引を通じて資金繰りなどのミクロの情報が得られるため、各金融機関の現状をリアルタイムで把握できる」と説明。日々の動きをチェックする「手触り感」が、危機への対応に役立つと強調する。千田課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「金融機構局の大きな母体の一つが考査だが、これは昭和金融恐慌後の1928年に、金融制度調査会の答申を受けて日銀内に新設された考査部が始まり。旧日銀法ができた42年に考査局となった。98年の日銀法改正時に、旧営業局にあった金融機関の資金繰り監視機能を継承。立ち入り調査である考査と、各種経営資料の分析や役職員との面談、電話でのヒアリングといった立ち入りなしのオフサイト・モニタリングの連携強化が図られた。2004年に、金融政策にも貢献する局との位置付けを明確にする中、金融市場局にあった預貸金統計の作成とその分析機能を引き継いだ。05年には、不良債権問題への対応などの企画機能を担っていた信用機構局と統合し、金融機構局が誕生した」

「こういった経緯から、金融機構局が所管する業務は多岐にわたる。支店32カ店にも金融機関担当がそれぞれいるので、連携しながら仕事をしている。具体的には、金融危機時の最後の貸し手としての流動性供給、考査やオフサイト・モニタリングを通じた金融機関の経営実態把握と健全性維持に向けた指導・助言、セミナー開催などによる金融機関のリスクや経営管理の改善支援などだ。さらに、最近ウエートが高まっているのが、金融システムレポートに代表されるマクロ面からのリスク分析と評価、国際的な規制・監督に関する議論への参画という二つの業務。預貸金や貸出約定平均金利などの統計作成に加え、金融界で使う情報インフラの整備にも取り組んでいる。これらの取り組みから得られた情報やリスクに関する分析・評価は、金融政策運営上の判断材料としても活用される」

「日銀が金融システムの安定に責任を負うことは、法律によって規定されている。一方、諸外国では、金融システムの安定を中銀の目的として挙げていない国も少なからずある。また、90年代後半の英国のように、中銀を金融政策遂行の組織として純化する傾向が高まった時期があった。物価の安定と金融システムの安定を分けて考えるようになると、金融システムの問題への関心や感覚がどうしても低下しがちとなる。こうした傾向が強まっていたこととグローバルな危機の発生は無関係ではなかったとの反省もあって、金融システム問題への対応で中銀の役割を見直す動きが広がっているのが現状だ」「日本では、日銀と金融庁がそれぞれの機能を生かして金融システムの安定に努めており、日ごろから個別金融機関や金融システム全体の動向について、情報・意見交換を頻繁に行っている。日銀の特性としては、最後の貸し手機能の発揮のほか、金融政策運営における情勢判断への活用を念頭に、マクロ的な視点での点検や運営をより重視している。また、日々の金融取引を介して資金繰りなどミクロの情報を得る機会が多いので、リアルタイムで金融機関の現状をつかめる点が挙げられる。この手触り感が、危機への対応をはじめ日銀の政策遂行に役立っている」

最後の貸し手機能、時代に合わせて見直し=金融機構局総務課(2)〔日銀探訪〕(2014年1月28日掲載)

経営内容の悪化した金融機関が資金繰りに行き詰まると、別の金融機関がそこから支払いを受けることができなくなったり、預金者や企業の不安心理が高まったりして、金融システム全体に危機が及ぶ可能性が出てくる。システミックリスクと呼ばれるこの危機を防ぐために、日銀は無担保で融資を実行することがある。日銀の最後の貸し手機能だ。同業務を所管する金融機構局の千田英継総務課長は「危機時の資金供給というと、かつては資金不足に陥った金融機関に1対1で行う貸し出しを想定していたが、大震災などで資金が回らなくなったときに、同時に複数の先に資金を出すことなども想定しなければならない」と説明。時代の変化に対応して、危機時の資金供給の在り方を不断に見直していると話す。

「総務課では、信用秩序の維持に資する政策の企画・立案を行っている。具体的には、最後の貸し手機能、金融機関からの株式買い入れ、破綻処理制度の整備、災害時の業務継続への対応などだ」

「最後の貸し手機能は、金融システムの不安定化を防ぐために必要な資金を供給するもので、担保付きが原則だが、無担保で融資を実行する場合もある。一つは日銀法38条に基づいた貸し出しで、システミックリスクの恐れがあるとして政府が要請してきた場合に実施するもの。日銀特融と呼ばれる。証券不況時の1965年に行った当時の山一証券向けから数えて、2003年のりそな銀行と足利銀行に対するものまで、出資も含めて25件発動した。一方、コンピューター障害や災害などで一時的に資金不足が起きた場合は、同37条に基づいて無担保融資できる。これまで発動した例はないが、大災害が午前中の早い時間に起きた場合などに、決済が円滑に進まなくなることも想定される。瞬発的な反応が必要なので、準備を怠ることはできない」

「所管は異なるが、リーマン・ショックの際には、CPや社債の買い入れ、企業金融支援オペ、ドル資金供給オペなどを実施した。これらは、いわば市場取り付けともいうべき、市場の流動性や機能の著しい低下に対応した措置。本質的には最後の貸し手機能の役割に根差したもので、時代や危機の態様に即した機能の発揮と考えている」

「システミックリスクへの対応という観点からは、制度整備にも力を入れている。具体的には、金融機関の自己資本や流動性などに関するさまざまな国際金融規制の国内適用や破綻処理制度の整備に向けた検討や関係者への働き掛けなどがそうだ。例えば、これまでの破綻処理制度は銀行を対象としていたが、リーマン・ショックをきっかけとする金融危機を踏まえて、13年6月に証券会社なども対象に加える法改正が行われた。総務課は、金融審議会への参加などを通じて検討作業に参画。今春からスタートする新制度の下では、日銀も政府の対応会議のメンバーとして、制度発動の判断などに加わることになる」「総務課は、日銀との当座預金取引や貸し出し取引を希望する先から申し出を受けると、基準に基づいて審査を行い、是非を判断する。例えば当座預金取引は、金融機関間の資金決済の円滑確保に直接関係するため、取引相手としては、資金や証券決済の主な担い手で、信用力にも問題のない先を選ぶことになっている。当座預金の取引先は現在、約550ある。他国の中銀と比べた場合の日銀の特徴は、70年以上も前から証券会社と当預取引を開始し、モニタリングなども含めて付き合っている点だ。証券会社とこうした付き合いをしてきたことが、今回の市場型の金融危機への対応で役に立った面もある」

課題は不良債権処理から収益力強化に=金融機構局総務課(3)〔日銀探訪〕(2014年1月29日掲載)

多様化、複雑化する金融危機に対応するため、国際決済銀行(BIS)など国際組織による金融安定化に向けたルールづくりが進んでいるが、これとは別に、米国のボルカー・ルールのように各国レベルで規制や監督を強化する動きも出ている。金融機構局総務課は、各国が独自で行う規制強化の動向に注目しており、その導入によって日本市場へのマイナスの影響が懸念される場合には、相手当局に見直しを働き掛けている。ボルカー・ルールに関しても、米金融規制当局に対し、規制の域外適用を控えてほしいなどとする要望を、金融庁と連名で行った。千田英継課長は「国際的な議論を喚起するなど、他国の監督当局との連携も意識しながら、働き掛けを行うようにしている」と話す。各国の規制をめぐる動向は、日銀の海外事務所とも頻繁に連絡を取り合って情報収集しているという。

「リーマン・ショックを踏まえ、金融監督当局間の連携が大事だということになり、国際的に活動している金融機関をめぐって、関係する二国または各国の当局者が集まり、金融システムの動向や当該金融機関の経営状況などについて意見や情報を交換する機会が非常に増えている。また、国際組織である金融安定理事会の主導で、金融システム上重要な金融機関に関するデータを集め、取引状況を把握しようというプロジェクトも進んでいる。この結果、当局間で共有する情報量は増え、その機密性も一段と高まっている。総務課はこれらの会合に参加し、情報共有を誰との間でどのような形でするのかに関する枠組みづくりや、他当局との取り決めの締結などを行っている」

「一方、各国独自の規制・監督強化の動きも出ているが、日本で活動する金融機関にもそうした規制がかけられると、日本市場の流動性や金融機関の機能発揮に影響が出てくる可能性もある。そうした規制は、国際的な規制に比べて強めになるケースも多い。そこで、日本への影響が懸念される場合には、コメントレターを出すなどの方法で、国際的な議論も喚起しつつ、見直しに向けた働き掛けを行っている。これまで、米国関連の5件の規制でコメントレターを出した」

「局の課題として考えていることをいくつか挙げたい。日本の金融機関の状況をみると、不良債権問題を抱えていないし、自己資本も全体として見ればかなり充実してきた。しかし、継続的な利ざやの縮小により、基礎的な収益力が落ちている。わが国は、デフレ脱却や経済活性化に向けて総力を挙げて取り組んでいるところなので、金融機関にも積極的に信用仲介機能を果たしてもらい、経済を動かしていってほしい。その中で収益を上げられるようにして、経営基盤の安定を確保してもらいたい。また、海外に出て行く企業や取引をサポートし、海外の成長力を取り込むことも期待される。金融機構局としては、個々の金融機関と経営課題を共有しつつ、そうした取り組みを支援していく考えだ。もう一つ挙げると、国際的にさまざまな金融規制が導入される中、金融機関のビジネスモデルやリスクの取り方も変化していくことが見込まれるので、海外との連携や、マクロ的な調査分析、政策遂行力の向上が一段と重要だ」「課の運営に当たっては、次の点に注意している。金融機構局は、金融システムだけでなく、日銀の政策や業務など全般についてのフロント部署だと思う。課員には、国内外の金融情勢やそれと相互関係にある実体経済の動向について高くアンテナを張り、局内だけにとどまらず、広く問題提起や課題設定を行っていってほしい。また、局が扱う情報には機密性の高いものが少なくないので、総務部署として情報管理には細心の注意を払いながらも、局の多岐にわたる機能を結び付けて最大限発揮していくために、情報を共有して問題意識をそろえる必要もある。情報の管理と共有のバランスが重要だ」

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