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「日銀探訪」第27回:システム情報局情報システム開発課長 山崎真人

大量アクセス対応に知恵絞る=システム情報局情報システム開発課(1)〔日銀探訪〕(2014年12月10日掲載)

システム情報局情報システム開発課長の写真

日銀が情報発信を行うための手段として、ホームページの重要性が日増しに高まっている。日銀の情報に対する内外の関心は高く、特に金融政策決定会合の結果や日銀短観などの重要統計の公表時には、1分間に1万件を超える大量のアクセスがあるという。このホームページのシステム開発や維持管理を担当しているのが、今回取り上げるシステム情報局情報システム開発課だ。大量アクセスの負荷を分散する工夫や、不正アクセスに対するセキュリティー確保などに知恵を絞ってきた。

同課の所管は、銀行取引や国庫・発券業務以外の日銀業務に関するシステムの開発・維持管理。具体的な対象は、統計作成、取引先金融機関からの各種報告のデータベース、外貨準備の管理、日銀の保有資産管理、予算管理、行内の情報共有、電子メールなど幅広い。山崎真人課長は「取り扱う業務の多様性に加え、それを実現する技術もまた多様だ」と指摘。多くの選択肢から最適なものを選び出し、身の丈に合ったシステムを構築することが、ユーザーの利便性向上やコスト管理の観点から重要と強調する。山崎課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「中央銀行の業務のシステム化に当たっては、特に機能面で配慮しなければいけない点がある。例えば、企業や金融機関からいただくデータを取り扱うシステムでは、通信面でのセキュリティー確保を重視した構成としているほか、行内でも厳格なアクセス制御を実現している。一つ例を挙げると、われわれが開発した国際収支システムでは、外為法に基づく企業などからの電子ベースの報告書を基に統計を作成するが、当課職員が報告書の内容に関するデータに勝手にアクセスし、目を通すことはできない仕組みとしている。これは短観や金融機関情報についても同様だ」

「日銀のホームページの特徴として、金融政策決定会合や短観の発表など重要イベントの際には、短時間にアクセスが集中する。これらを処理するため、通信ネットワークに関して十分な回線帯域を確保しているほか、システム内でも複数のサーバーでアクセスを処理する。システム設計面では、各サーバーの状況を全体的に把握して負荷を分散する装置を設け、一つ一つのアクセスを効率的に処理できるようにした。また、ホームページへの資料掲載は情報サービス局の担当だが、大量のアクセスで掲載作業に支障が生じる事態に陥らないよう、サーバーの構成を分けてアクセス処理の影響を遮断している。なお、ホームページの運用状況は常にモニターされ、問題が発生したら直ちに当課に連絡をもらう体制だ。金融政策決定会合などの重要イベントの際には、通常以上に注意を払うよう気をつけている」 「中央銀行という立場ではなく、人事・給与や資産管理など一企業体として日銀が行う業務の処理は、市販の汎用(はんよう)パッケージソフトウエアをベースにシステムを開発することで、コスト抑制を図っている。近年の技術進歩に伴い、クラウドや外部業者が提供するITサービスなど、日銀が採用できる技術の選択肢も広がってきた。これらを活用することで、ユーザーの利便性向上やコスト削減を図れるケースも多い。日銀のそれぞれの業務の特性をしっかり見極めた上で、ベストな技術の選択を行うよう心掛けている」

統計の連続性、シミュレーション環境で確認=情報システム開発課(2)〔日銀探訪〕(2014年12月11日掲載)

システム情報局情報システム開発課の所管業務の中で最も独特なものの一つが、統計作成システムの開発・維持管理だろう。多量のデータを長期間にわたって保持しなければならず、データの加工や分析がしやすい柔軟な仕組みも求められるなど、特有の難しさがあるという。山崎真人課長は、こういった難しさに対する取り組みの一例として、統計の連続性確保のための工夫を挙げる。例えば物価統計は、社会環境の変化に応じて対象品目などを見直す基準改定を定期的に行う。その際、新しい基準に切り替える前に、実際に稼働しているシステム(本番環境)をコピーした「シミュレーション環境」をつくり、その中で改定後の基準に沿った統計を試しに作成して、従来のものとの連続性を確認している。こういった手間のかかる対応が、信頼される正確な統計づくりにつながっている。

「統計によって作成方法や使われ方が異なるため、システムは基本的に統計ごとに開発する。その多くに共通する特徴として、多量のデータを長期間にわたって保持する巨大なデータベースの構築ということが挙げられるが、留意しなければならないいくつかのポイントについて説明したい。まずシステム構築の考え方について。20年くらい前は、公表資料など形の決まったアウトプットを得るために、データ群の中から必要なものを抜き出すというシンプルな構成だった。しかし現在は、ため込んだデータをどのように引き出して分析するかという視点が求められる。データ分析ツールとして、適当な市販ソフトがあるか、あるいはアプリケーションプログラムを自前で開発するのかを考え、そのツールに落とし込みやすいデータベースを構築していくというのが現在の方法だ」

「統計はデータが多いため、集計や検索など負荷の高い作業を実施する場合の性能確保に苦労している。例えば、ある基礎データを月次、四半期、地域別などいろいろな形で集計すると、システムの中ではそのたびごとにデータを吸い上げて編集し直すことになり、負荷が大きい。対応策としては、メモリーを増やすなどハード面の性能を上げる方法もあるが、コストとのバランスも勘案し、データを引き出すプログラムの書き方を工夫する『チューニング』で処理速度を上げるアプローチも活用している」

「データを長期にわたって扱うことからくる難しさもある。金融機関関連のデータは、合併などで不連続が発生した場合にどう処理するかが悩ましい問題だ。さらに、統計の連続性確保でも苦労が多い。物価統計は5年ごとに基準改定を実施するし、短観も調査対象の企業が大幅に変わることがあるので、その際にはシステム内に本番環境から切り離したシミュレーション環境を設け、調査統計局がそこでいろいろと試行錯誤する。その上で、両方を1期程度並行稼働させて問題がないことを確認した上で、新旧の入れ替えを行う。シミュレーション環境を構築する上では、本番環境との共通機能と相違点を確実に押さえることで、シミュレーション環境で行った作業が本番の環境に影響してトラブルを引き起こすことのないよう、十分注意を払っている」 「統計データの移行についても話したい。システムを搭載するハードウエアの保守サポート切れに合わせて、基本ソフト(OS)やデータベースシステムなども数年に1回バージョンアップするが、その際に多量のデータを移行する。データの吸い上げや反映作業には、数日かかることも珍しくない。開発上、データ移行は要の作業であり、複雑な移行の段取りを漏れなく検討・整理して、バージョンアップ後の円滑な稼働再開につなげている」

ユーザーとコストやリスクの認識を共有=情報システム開発課(3)〔日銀探訪〕(2014年12月12日掲載)

日銀内で銀行取引や国庫・発券業務以外の幅広い分野のシステムを手掛けるシステム情報局情報システム開発課には、各局から開発に関する多様なニーズが寄せられる。これらのニーズはどのようにふるいにかけられるのだろうか。山崎真人課長は、寄せられたニーズを、制度変化への対応、事務の高度化、事務の効率化などに種類分けすると、対応が必要かどうかを決めるポイントが分かりやすくなると説明。システム開発を決めた後では「ユーザーとの間でコストやリスクの認識も共有しつつ、実現方法を具体化していく」と話す。これによってユーザー側の納得が得られやすくなり、システムの機能要件を現実的な水準に収めることが容易になるという。

「開発したシステムの維持管理は、地味な作業だが、システムやひいては業務の安定運行にとって必要不可欠だ。例えば、重要なシステムの運行状況は常時モニターされており、システムからの何らかの異常メッセージが検知されると、直ちに当課の職員に連絡が入り、必要があれば、深夜・早朝でも駆け付けて対応する。また短観の発表がある日は、調査統計局の担当者が早朝から出勤してデータ出力などの最終的な準備作業を行うが、当課の職員も万一のシステム的なトラブルに備えて、やはり早朝出勤対応を行う。維持管理作業は体を張った仕事で大変ではあるものの、短観の公表が無事に終わったと報告を受けたときなどは、日銀の業務遂行の一端を担っていることを実感する」

「当課には約60人程度が所属しており、その大部分はシステムの専門家として採用された特定職のシステムエンジニア(SE)。新規システムの開発や既存システムの更新といったプロジェクトを立ち上げる際には、SEがエンドユーザーのニーズを踏まえてシステムの全体像を検討し、入札条件書にまとめて、入札を実施する。落札したITベンダーが、日銀のSEによるプロジェクトの全体管理の下、開発の実作業を遂行していくというのが、当課の一般的な手順だ」

「ユーザーからのシステム開発要望は、ニーズの種類を分類すると検討しやすくなる。会計や税制などの制度変更に伴い対応が必要な場合は、優先度の高いものとして開発を決めることが多い。一方、事務の高度化が狙いならば、世間一般や海外中銀などと比較して、どこまで実施する必要があるかを考える。事務効率化ならば、費用対効果を基に判断する。システム開発を決定した後では、コストやリスクについて、ユーザーとの間で認識を共有することも重要だ。一例を挙げると、将来的に生じうる業務の変更に備え、ユーザーは誰もが拡張性の高いシステムを望むと思うが、維持管理がしやすいシステムを具体的に実現するためには、機能要件としてマスターによるデータ制御やユーザー側の保守運用も発生するとか、テスト負担がかさみ、開発期間が長期化する恐れがあるといったことが分かれば、ユーザーとしてもコストと業務の変更の可能性を勘案したバランスの良い機能要件を判断することが可能になる。当課のSEには、ユーザー部署の運用や事務プロセスにまで踏み込んでシステム化の要否や実現方法を考えるよう求めている」

「システム開発は、当局の職員、ユーザー部署の職員、ITベンダーという異なるバックグラウンドを持つ3者が一堂に会し、協力して一つのものを作り上げていく作業だ。現場では、関係者の個性やこだわり、創意工夫、努力などがぶつかり合いつつ、質の高いものを目指して取り組んでいる。まさにものづくりの現場であり、人間くさい仕事と思う」

「当課には、多くの女性SEが在籍している。お子さんがいる方も多いが、技術的なスキルを持ったSEやプロジェクト管理を担う職位者など、さまざまな立場で活躍している。システム技術は日進月歩なので、出産や育児によるキャリアの一時的な中断は復帰の際のハンディキャップになると思われるかもしれないが、中央銀行業務のエッセンスに関する理解や洞察、品質管理に関する経験やノウハウなど、日銀のSEとして汎用(はんよう)的なスキルを身に付けることで、多少のブランクがあっても、それを補って長く活躍できると思う。実際、多くの女性が育児休暇から復帰して、各自の個性を生かしながら業務に貢献してくれている」 「日銀の中での当課の特徴としては、取り扱う業務分野、システム的な要素技術、関係する人々のいずれの点から見ても、幅の広さや多様性が挙げられる。今後も先進性や多様性の面でさらなる強みを引き出して、中央銀行業務の円滑な遂行や職員の生産性向上に一段と貢献していきたい」

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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