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「日銀探訪」第34回:国際局総務課長 大谷聡

通貨スワップなどの交渉、法務面からチェック=国際局総務課(1)〔日銀探訪〕(2015年11月9日掲載)

国際局総務課長の写真

経済のグローバル化により、主要国の中央銀行は、金融政策を決定するに当たって、世界経済の分析に一層力を入れるようになっている。また、各国中銀や金融当局間で連携して金融危機対応などに当たるケースが増え、国際会議への出席も含め、トップから担当者まで各レベルでの情報交換の重要性も高まった。日銀国際局は、こういったいわゆる「国際」のカテゴリーに入る業務を幅広く手掛ける部署だ。具体的な業務は、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議や国際決済銀行(BIS)などの国際会議関連事務、新興国中銀などへの技術支援、日銀が保有する外貨の運用・取引に関する事務、統計作成と、多岐にわたる。大谷聡総務課長は「業務の幅広さを反映して、さまざまなバックグラウンドの人材が集まっている」と説明する。

その中で総務課は、局全体の運営に関わる総務事務や日銀が保有する外貨の運用・取引などを手掛ける。また、外国中銀との間で通貨スワップやクロスボーダー担保などの金融協力に関する取り決めを結ぶ際には、法律面からのチェックを行うほか、日銀内の他部署との調整も手掛けているという。大谷課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「国際局は5課で構成され、在籍者は全体で約180人。内訳は、国際収支統計を作成する国際収支課が50人超と最も多く、他の各課はそれぞれ30人程度。日銀本店の15局室研究所の中では6番目の多さだ。国際交渉の専門家、業務企画に造詣が深い法務系の人材、エコノミスト、統計作成の専門家、現場事務のベテランなど、多様な人材がそろっている」

「総務課の人員数は30人超で、スタッフ・サポートグループと企画・管理グループに分かれている。このうちスタッフ・サポートグループは庶務の仕事を担っているが、国際局は他局と比較すると海外出張が突出して多いことから、航空券や宿泊先の手配とそれに関する経費支出などの事務の比重が大きい。国際局の2014年の海外出張は128件。1回の出張の平均期間が3~4日なので、1年を通じて局員の誰かは海外出張中という計算になる」

「一方、企画・管理グループが携わる主な業務は 1)日銀が保有する外貨の運用・取引 2)外国中銀が日銀に預けている円貨預金の管理・運用や日本国債の保護預かり 3)国際金融業務への法務面での関与—の三つだ。このうち、最後の法務面での関与について説明する。日銀は最近、タイやシンガポールの中銀との間でクロスボーダー担保に関する取り決めを結んだ。これは、例えばある邦銀が、タイ中銀が日銀に開いている口座に日本国債を担保として入れると、タイ中銀がこの邦銀のタイの現地法人にバーツを供給する仕組み。日銀は、外国中銀との間で、こういった金融協力案件をめぐり多くの取り決めを行っているが、詳細についての交渉は国際連携課が行い、総務課が法律的な視点からチェックして、契約書に落とし込む。また、例えばクロスボーダー担保スキームは、実務は業務局の手を借りる一方、金融機関との窓口は金融機構局が担うなど局をまたいだ連携が必要で、こういったケースでは国際局総務課が行内調整も引き受ける」

機関投資家として7兆円の外貨準備を運用=国際局総務課(2)〔日銀探訪〕(2015年11月10日掲載)

外貨準備と聞くと、一般的には、為替介入の原資などに用いられる外国為替資金特別会計(外為特会)のことがまず思い浮かぶだろう。しかし、日銀も7兆円余りの外貨準備を保有していることは、あまり知られていないのではないか。日銀が保有する外貨準備には、国際金融協力、日本の金融機関に対する緊急時の外貨資金供給、金融政策の一環としての金融機関へのドル資金貸し出しという、独自の三つの用途がある。国際局の大谷聡総務課長は日銀保有の外貨準備について「高い信用力と流動性を持つ外国の国債を中心に、極めて保守的なパッシブ運用を行っている」と説明する。日銀が、機関投資家としての顔を見せる唯一の業務だ。

「日銀が外貨資産を保有しているのは、1951年以降、数回にわたって外為特会の介入資金の資金繰りに協力したためだ。当時は固定相場制で、円買い圧力に対抗して国が円売りの為替介入をする際、日銀が外為特会の外貨を買い取って円を供給したことがある。買い取った外貨の元本は80年までにすべて売り戻したが、積み上がった運用益は2015年3月末時点で約7.1兆円に上る」

「一方、外為特会が保有する外貨の運用は財務省が行っており、日銀国際局国際業務課が事務を引き受けている。海外の例を見ると、外貨準備の運用主体は、政府、中央銀行、その両方とまちまちだ。統計はないが、中銀が運用しているケースが多いように思う」

「日銀は、リーマン・ショック後に国際金融市場が大幅に変動したことを踏まえ、保有する外貨資産の運用方法について12年に見直しを行った。まず、外貨準備の保有目的を 1)国際金融協力 2)緊急やむを得ない場合のわが国金融機関への外貨資金供給 3)金融政策の一環として行う、わが国経済の成長基盤強化に資する投融資へのドル資金供給—の三つと整理。緊急時や協力案件にすぐに対応するためにも、より流動性の高い安全な資産で持っておこうという方針を決めた。それまではややリスクの高い資産にも投資していたが、見直し以降は非常に高い流動性と信用力を持つ国債を中心に、極めて保守的なパッシブ運用に限定することにした。保有している通貨は、米ドル、ユーロ、英ポンドの3種類」

「国際金融協力の具体例としては、アジア通貨危機を踏まえ、アジアに債券市場を育てようという観点から創設されたアジア・ボンド・ファンド(ABF)への出資がある。米ドル建て債券に投資するABF1と現地通貨建て債券に投資するABF2という二つのファンドがあり、合計で3億ドルを出資した。この資金は、日銀保有の外貨準備から出した」

「資金運用に当たっては、計画・執行やポートフォリオの管理を行うフロント機能と、リスク管理や取引先との調整などを行うミドル機能にチームを分けて、相互けん制させる一方、業務企画面では協力し合ってシナジー効果も発揮できるような体制を構築した。機関投資家の立場で国内外の金融機関と取引する、日銀内でもユニークな業務だ。金融取引の実務知識が蓄積されるし、海外金融市場の動向に運用者の立場で触れることもできて、メリットが多い」「外貨資産の運用以外にも、米ドル資金を市場に供給するオペレーションでは、当課が米ニューヨーク連銀との為替スワップを行う」

外国中銀に銀行サービス提供、協力関係強化に貢献=国際局総務課(3)〔日銀探訪〕(2015年11月11日掲載)

日銀は、預金・貸し出しなどの銀行サービスを民間金融機関に提供しているほか、政府の預金も受け入れており、「銀行の銀行」「政府の銀行」と呼ばれる。これに加えて、外国の中央銀行や国際通貨基金(IMF)などの国際機関に対しても、「海外預かり金勘定」を通じて銀行サービスや国債の保護預かり(カストディー)といったサービスを実施している。いわば「外国中銀の銀行」の役割も果たしているわけだが、この業務は「海外預かり金サービス(海預サービス)」と呼ばれる。通貨スワップ協定に基づき、主要中銀などが国際金融危機の際に通貨を融通し合う際にも、この海外預かり金勘定が使われる。日銀内でもあまり知られていないという海預サービスについて、国際局の大谷聡総務課長は「地道な業務だが、中銀間の政策協力の土台になっている」と指摘する。海預サービスの国際会議も、毎年開催されているという。

「日銀は、外国中銀や国際機関に対して、銀行サービスやカストディーサービスを提供している。これらは海外預かり金サービス、略して海預サービスと呼ばれる。日銀法に基づき、外国中銀などとの協力を図る観点から行う業務だ」

「具体的な内容としては、外国中銀が外貨準備として保有している円資金を預金として受け入れたり、外国中銀が保有する日本国債を保護預かりしたりするものだ。また、外国中銀の緊急の円資金調達ニーズに応えるため、預かっている有価証券を買い切りまたは売り戻し条件付きで買い取る仕組みも設けている。海預サービスは、外国中銀の外貨準備資産の管理という点で、高度な秘匿性、安全性、信頼性を備えたサービスの提供でなければならない。2014年度末時点では、91の中銀または国際機関に海預サービスを提供している」

「海預サービスの歴史は古く、20世紀初頭にまでさかのぼる。当初は、ニューヨーク連邦準備銀行やイングランド銀行が、自国の通貨を外貨準備として保有している他国に、決済サービスや銀行サービスを提供したのが始まりだ。その後、主要国中銀が順次開始し、最近では新興国中銀でも開始するところが出てきている。その理由としては、金融のグローバル化への対応に加え、一部の新興国には自国通貨を外貨準備として他国に持ってほしいという思いがあるようだ」

「関心の高まりを反映し、近年は海預サービスに関する国際会議が毎年開かれ、日銀の担当者も出席している。最近の会議で取り上げられたテーマは、海預サービスと金融システム安定との関連性。具体例を挙げると、主要国などの中銀は通貨スワップ協定を結んでおり、金融危機の際には中銀間のスワップ取引で外貨を調達し、外貨の資金繰りが厳しくなった国内金融機関に外貨資金を供給する。このスワップ取引に海外預かり金勘定が用いられる。この例に見られるように、金融システム安定の観点からも海預サービスがかなり使われるようになってきた。それ以外にも、業務継続計画(BCP)に絡んで、災害が起きたときに海預サービスの提供をどのように継続するかといった議論もある」

「『都市の空気は人を自由にする』という表現があるが、職場の雰囲気が良くないと、自由な良い発想は出てこない。無駄話も含め、できるかぎり明るくオープンな職場にしていくのが、良い仕事をする上での運営の基本と考えている」

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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