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「日銀探訪」第35回:国際局国際連携課長 副島豊

G20やBIS、議題調整からロジまで担当=国際局国際連携課(1)〔日銀探訪〕(2016年1月12日掲載)

国際局国際連携課長の写真

日銀が関与する国際会議の数は多い。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議や国際決済銀行(BIS)総裁会議は報道などを通じてよく知られているが、日銀の日々の業務に関わる会議も多数ある。しかも、金融経済のグローバル化や国際的な金融規制強化の流れの中、会議の数は増加の一途という。国際局国際連携課は、主に日銀の総裁や国際担当理事が参加する国際会議とその作業部会に事務方として関わる。また、国際収支危機に対するセーフティーネットの構築や現地通貨建てのアジア債券市場育成といった国際金融協力や、途上国・新興国への金融技術支援、海外中銀や国際機関に対する窓口となる国際渉外業務なども所管する。副島豊課長は「課の名前のとおり、いろいろな人と連携、調整しながら仕事をやっていく部署」と説明。「幅広いカウンターパートと協力しつつも、自国の利益や競争優位を模索しながら交渉し、意見調整しながら落としどころを探り、日銀の国際活動を推進していく役割を担っている」と話す。副島課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「当課は、アジア諸国との会議や国際交流を担っていた部署と、G20やBISなどグローバル会議を担当していた部署の統合により、2014年6月に発足した。グローバル会議で新興国の存在感が大きくなる一方、アジアの会議で先進国の政策や国際金融規制などについて議論が行われる機会が増えてきた。そこで、情報や知見、ノウハウを共有し、すべての国際会議に統一的に対応しようということになり、組織が統合された」

「国際会議や交渉で最前線に立つグローバル会議担当とアジア担当の審議役2人を、20人半ばの課員が支える形で運営している。業務内容が広範にわたるため、課員のバックグラウンドは多様だが、共通点は一般職を含めて全員が英語で仕事できること。また、総合職、特定職、一般職を問わず、女性の比率が高い。スタッフの3分の2が女性だ。こうした中、当課では細かな情報共有を進めて弾力的な業務運営を行っており、家事や育児、介護、自己研さんなどのプライベートとキャリア育成を両立させているスタッフが多数活躍している」

「当課の主要業務の一つが、国際会議の企画調整。BIS、G20、国際通貨基金(IMF)、金融安定理事会(FSB)、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)などの国際会議には、日銀からは総裁や国際担当理事が参加する。扱う議題は、景気動向・経済成長、金融・財政政策、金融システムや金融市場の動向、国際金融規制、決済インフラなど多様だ。総裁や理事をサポートするため、当課では議題を詳細に検討して日銀としての対応方針案を準備したり、事前に議題の調整・交渉を行ったりする。国際会議の作業部会には、審議役や企画役が日銀代表として参加し、上位会合で議論すべきポイントを検討・整理する」

「多岐にわたる専門テーマを当課だけではカバーできないので、他部署にも協力を依頼する。日本の金融政策や景気動向だけでなく、世界全体の課題について意見を求められる場合も多いため、事前の行内調整で、日銀としてどのようなスタンスで議論をリードしていくのかを決めるのは大切な仕事だ」

「EMEAPやASEANプラス3といったアジアの国際会議では、他の国際会議以上に日本の役割が大きい。EMEAPは、1991年に日銀の提案によって設立され、金融政策運営や中銀業務などについて情報・意見交換を行っている。その長い歴史の中で、日銀が主導的役割を果たし続けている。14年には、主要会合である金融安定委員会の議長に、当行の理事が就いた。アジアの金融経済動向がグローバル経済に及ぼす影響力は高まる一方で、金融安定委や他のワーキンググループの重要性は一段と増してきている。EMEAPの事務局機能や議事運営などを担うことで、議題の選択やアジア債券市場育成プログラムの発展方向などをリードしている」

「国際会議への対応を効率的に進めるには、ロジ運営も極めて重要。他部署に総裁や理事へのレクを依頼したり、各種のスケジュール調整を行ったり、現地での動線や通信執務環境の確保をしたりする。これらも大切な仕事だ。金融規制関連の会合の増加に加え、新興国が国際会議のメンバーとなったことで、国際会議の日程調整は非常に難しくなった。財務省と共同で臨む国際会議も少なからずあり、事前調整や現地での連携、対外公表文の内容確認などで、同省の国際会議担当部署との共同作業が深夜に及ぶことも多い」「5月に仙台で開催される先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、当課が行内の事務局機能を担い、財務省と協力しつつ準備を進めている。会議運営に加え、セキュリティーの確保という面でも大仕事となる。仙台市や宮城県警の全面的な協力をいただいており、ここでも連携がキーワードとなる」

国際収支危機対応でセーフティーネット構築=国際局国際連携課(2)〔日銀探訪〕(2016年1月13日掲載)

アジア諸国は、1997年に起きたアジア通貨危機の教訓から、ドル資金不足に陥った国に域内の他国が通貨スワップでドル資金を供給する危機対応スキームの構築を進めてきた。日本はその中心的な役割を担っている。中央銀行として実務を担う立場にある日銀は、危機時にスムーズに対応できるよう、各国中銀と協力して制度整備を進めている。国際連携課の副島豊課長は「セーフティーネットの存在自体が、危機時に連鎖的に通貨が売られていくことの歯止めになり得る」と話す。最近は、アジアに進出した邦銀の現地通貨調達で最後のよりどころとなるクロスボーダー担保スキームという仕組みを構築しているという。

「当課の業務の柱の一つに、危機対応としての国際金融協力がある。きっかけは、97年から98年にかけて生じたアジア通貨危機。アジア諸国は、海外からの短期のドル資金ファイナンスに依存した経済成長がショックに対して極めて脆弱(ぜいじゃく)だと痛感し、これを改善していく必要性を強く認識した。同時に、アジア域内での危機対応スキームが必要と考えるようになった。そこで、大臣級会合として始まった東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)で、ドル資金不足に直面した国に通貨スワップを通じてドルを融資する体制の構築を決めた。チェンマイ・イニシアチブと呼ばれる多国間通貨協定だ」

「ASEANプラス3財務大臣会合には中銀総裁も参加するようになり、日銀は中央銀行、財務相の代理人という二つの立場で、危機対応スキームの構築や他の政策推進に貢献している。ASEANプラス3の実務者下部会合では、危機時にスキームが円滑に機能するよう、さまざまなシナリオの下で定期的に発動訓練を行っている」

「チェンマイ・イニシアチブは、国際通貨基金(IMF)の危機対応融資スキームと併存活用できるような工夫がなされている。IMFは、平時のモニタリング、ドル融資を行うかどうかの判断、融資後の監視のいずれも自ら行っているが、チェンマイ・イニシアチブにも同様の機能が必要だということで設立されたのがASEANプラス3・マクロエコノミック・リサーチ・オフィス(AMRO)。シンガポールの現地法人として発足し、近く国際機関化の予定だ」

「多国間契約のチェンマイ・イニシアチブ以外に、これを補完する2国間のドル通貨スワップの取り決めもあり、同様に日銀が実務を担当する。こうした補完的手段も用いながら、セーフティーネットの構築を進めている」「日銀はこのほか、海外に進出した邦銀が現地中銀から現地通貨を調達できるようにする『クロスボーダー担保スキーム』という仕組みをつくり、アジアに進出した邦銀とその顧客である日系企業の支援に取り組んでいるところだ。アジアには既に多くの日系企業が進出しており、現地での原材料・部品調達や販売のウエートが高まるにつれ、現地通貨の決済需要が増えている。その一方で、現地の金融機関の貸出金利は高く、邦銀の現地支店は預金などの安定調達手段が限られている。そこで、邦銀が日本国債や円現金を担保に現地中銀からオペで資金調達できるよう考え出されたのがこのスキーム。例えば、担保となる日本国債の振り替えは日銀に開かれた現地中銀と邦銀の口座の間で行われ、日銀が相手国中銀に国債のカストディーサービス(保管、受け渡し、元利金受領など)を提供する。現在は、タイ、シンガポール、フィリピン、インドネシアの4カ国の中銀との間で取り決めが締結されている」

新興国中銀を技術支援、海外との窓口=国際局国際連携課(3)〔日銀探訪〕(2016年1月14日掲載)

「ルワンダ中央銀行総裁日記」は、日銀に勤務していた服部正也氏が、国際通貨基金(IMF)の依頼により1965年にアフリカ・ルワンダの中銀総裁に就任し、同国の経済を再建しようと6年間にわたって悪戦苦闘した経験の手記だ。服部氏の活動に象徴されるように、日銀は自らの経験を踏まえ、途上国や新興国の中銀に対する技術支援に力を入れてきた。支援内容は、銀行券の発券実務、金融経済統計の改善、決済インフラの構築、金融市場の育成、金融危機対応、人事制度の運営など幅広い。国際連携課の副島豊課長は「他国の中銀の業務の近代化・高度化に協力することは、長い目で見れば日本の利益にもなる」と強調する。例えば、日銀が採用しているものに近い決済システムを導入している新興国中銀とは、さまざまな面で協力関係を結びやすくなる。中銀の「仲間づくり」は、グローバルスタンダードやアジアスタンダードの構築につながっていく側面もあると言えよう。

「日銀は以前から他中銀への技術支援を行ってきたが、ソビエト連邦消滅に伴い独立国家共同体(CIS)諸国が独立したときには、国際通貨基金(IMF)や世界銀行などと協力しながら中央アジアへ人材を派遣するケースが急増した。その後、90年代の初めに全行的な推進体制が整備され、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)のメンバー国を中心としたアジア諸国に対する支援が増加した。一部の新興国のレベルが上がり、技術支援から双方向型の技術協力に移行するケースも増えた」

「技術支援や技術協力では、現地に日銀職員を派遣する場合と、相手方の職員を受け入れる場合の両方がある。最近の事例では、ミャンマー中央銀行『資金・証券決済システム近代化プロジェクト』構築への貢献が挙げられる。システム構築やオペレーション面で日本型が採用され、国際協力機構(JICA)のもとで日本のITベンダー、コンサルティング会社と共にプロジェクトに参加した。日本の経験を伝えることが有益な場合も少なくない。例えば、資本移動の自由化や金融自由化の歴史、資産バブルの発生・崩壊とこれに続く金融危機などは、現在の中国にとって示唆するところが多々あり、中国人民銀行との意見交換も活発に行われている。アジアに限らず、広範な中銀や当局との間で、対話や技術支援を続けている。2015年は上半期だけで相手方職員の受け入れ件数延べ20件、229人で、銀行券の発券実務、国際収支統計の改善、決済インフラ構築、人事制度運営、内部監査の在り方、広報・金融教育活動、日本の金融危機対応の経験、中小企業向け制度金融など幅広いテーマについて、日銀の他部署の協力も得ながら支援を実施した」

「このほか、ほぼ毎日のように海外から電子メールや書面、電話で質問や要望が寄せられる。先方の問題意識をよく聞き、すり合わせをしながら適切なプログラムを作成する手間は大変だが、そうした努力が有益な技術提供と先方の感謝、日銀への信頼、コネクションの拡充につながっている。相手国中銀やアジア各国中銀の研修センターへの講師派遣なども含めて、多種多様な活動に、限られたスタッフで効率的に取り組んでいる」

「技術支援や技術協力と一部重なっているが、業務量として大きいのが国際交流・渉外業務。途上国や新興国に限らず、世界各国の在京大使館、中銀東京事務所、中銀本部、規制・監督当局、国際機関、大学・研究機関など、さまざまなところからアクセスがある。交流の内容も、来日するVIPと当行役員との面談、日銀行内での講演・ディスカッション、各種の調査・問い合わせ、海外コンファレンスなどでの講演・報告など多様。在京大使館や中銀東京事務所とは半期に一度、交流会を開いているほか、これらの駐在員の交代時には行内の各部署との関係維持もお手伝いする。日銀各部署が海外向けにPR活動する際に運営の支援を行うこともある」「課の運営で心掛けているのは、仕事の内容や意義を、一般職も含めた課員全員に理解してもらうこと。組織の目的に照らして仕事の意義を大局的につかめれば、働くことのモチベーションや新しい取り組みにチャレンジしようという意欲も刺激される。課の仕事で必要とされる知識やスキルは多岐にわたる。また、日々変わっていく世界に追い付いていくため中銀業務も進化を続けている。本当に大変だが、これを楽しむ雰囲気をつくり上げていきたい」

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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