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総裁定例記者会見要旨 (8月13日)

1998年 8月14日
日本銀行

—— 平成10年 8月13日(木)
午後 3時から約 1時間

【問】

日銀の景気の現状認識および先行きの見通し如何。また、当面の金融政策の運営スタンス如何。

【答】

景気の現状は今日発表した「金融経済月報」の中でお示ししたとおりであるが、私どもとしては、日本の経済情勢の現状について、「全般に悪化を続けている」と判断している。このことは、「金融経済月報」の最初に書いてあると思う。

すなわち、最近では、中小企業を中心に設備投資の大幅な減少が続いている。雇用・所得の環境も一段と悪化している。この結果、生産・所得・支出を巡る循環はマイナス方向に働き続けている。この間、物価面では、消費者物価が実勢ベースでみて、昨年比マイナスで推移している。また、金融面でも、民間銀行貸出が低迷を続けており、マネーサプライの伸び率も総じて鈍化傾向を辿っている。

先行きについてみると、総合経済対策の効果がこれから出てくるものと予想されるため、景気のさらなる悪化は徐々に歯止めが掛かってくるものと思われる。しかし、経済活動の水準が既にかなりの程度低下していることを踏まえると、これが速やかに自律的に回復に繋がっていくとみることも難しいように思う。

そうした中で、今後注目すべきポイントとしては、三つあると思う。一つは、新政権のもとで、補正予算による公共投資の追加や所得税・法人税の減税の検討を含む税制の改革といった新たな景気対策がどういうふうに具体化されていくのか、第二に、不良債権処理が、「金融再生トータルプラン」関連法案に関する国会審議を含め、どのようなテンポで進められていくのか、第三に、これらがどのように企業や家計のコンフィデンスに効果をもたらしていくか、それによって経済の自律回復力が高まっていくかどうか、という点にあると思う。

私どもの金融政策については、一昨日に金融政策決定会合が開かれ、こうした経済情勢に対する認識とか、政策手段の効果、それがもたらす副作用、そういった様々な点について十分な討議を行った。その結果、当面の金融政策運営について、これまでの思い切った緩和基調を維持することを決定した訳である。

私どもとしては、現在の金融調節方針のもとで、日々の金融調節に当って、CPオペなどを弾力的に活用しながら、潤沢な資金の供給に努め、金融市場の安定化、さらには企業金融の円滑化を視野に入れて、最大限の努力をしていきたいと考えている。

【問】

新政権は6兆円を上回る所得税・法人税減税や、来年度予算で公共事業費をかなり上積みする方針を打ち出すなど、積極財政のスタンスをとっているが、こうした政府の財政運営スタンスの評価如何。

【答】

先程も申し上げたが、総合経済対策の効果はこれから出てくると思う。ただ、これだけで速やかに自律的な景気回復に繋がっていくとも考えにくい状況にある。こうしたもとで、新政権が、かなりの規模で、所得税・法人税の減税や、補正予算による公共投資の追加など、新しい景気対策を策定する方針を明確にしていることは、大変適切なことと考えている。

また、明年度の概算要求基準も本年度の当初対比で減らさないということを昨日お決めになったように伺っている。そういう具体的な内容については、今後国会の場で審議されていくものと思う。従って、私の立場で、例えば個別の税率などについて、詳細にコメントすることは適当でないと思う。

ただ、原則論として申し上げれば、中長期的には財政支出面での効率化が図られていくことが重要であると思う。また、税制の面では、法人税の実効税率引下げなど、民間経済の活力を高める方向での見直しが切に望まれる。

従って、新しい景気対策も、こうした中長期的な課題と整合的な形で検討されていくことが大切であると思っている。中長期のビジョンが明確化されることによって、減税や公共投資等が持つ短期的な需要刺激効果も、より大きなものになっていくのではないかと考えている。

【問】

「金融再生トータルプラン」関連法案が、国会に提出されたが、これについて、野党から一部異論も出ており、論議が長引くのではないかという見方もあるが、日銀としての見解如何。

【答】

今般国会に提出された「金融再生トータルプラン」関連法案では、破綻処理の円滑化を図るとともに、破綻金融機関の健全な借り手に対する融資を継続するための仕組みとして、公的ブリッジ・バンク制度の導入が盛り込まれている。また、不動産関連権利等調整委員会や、サービサー制度の創設といった土地や債権の流動化に資するための重要な施策が盛り込まれている。これは非常に大きな期待を持って、実現を期待したいと思う。

日本銀行としては、こうした諸施策に関し、国会で十分な議論を経て早い時期に合意が得られて、実施に移されること、それによって不良債権処理のプロセスがさらにスピードアップして、一刻も早くこの問題の解決が図られることを期待している。

【問】

FBの発行方式の見直しを、これまで検討してきていると思うが、現在の検討状況と今後の展望如何。

【答】

このFB——政府短期証券——というのは、残高としておそらく40兆円近くあると思うが、これはご承知のように、その大部分——30兆円近く——を日本銀行が引受けて、保有している。これはかねて申し上げているように、今、円の国際化が展望されて、短期金融市場の整備という観点から言っても、国が発行する短期の政府証券という意味では、最も信頼の置ける、しかも流動性が高い証券ではないかというふうに思う。そういう意味からもビッグ・バンで、国際金融市場ができるに当って、真っ先に市場に出回って然るべき証券ではないかというふうに思う。

また、中央銀行の政府に対する信用を極力限定していくべきだという観点から考えても、こういった類のものを、今までの日銀引受ではなくて、公募入札の形式で、市場に売っていくということが必要なのではないかと——非常によいタイミングなのではないか——というふうに思っている。こういうFB市場といったようなものを作り上げていくことが、円の国際化の第一歩であり、そしてまた、円を非居住者が持ったり使ったりする使い勝手のよい通貨にしていくための、非常になくてはならない玉だというふうに考える。

政策委員会においても、既にこの問題は何回か検討を重ねて、共通の理解が得られている。こうした政策委員会の総意を踏まえて、担当の部署に対しても、国庫の資金繰り等の問題にも十分配慮しながら、公募入札の具体案を早く取りまとめていくように、強く指示もし、期待しているところである。

私どもとしては、関係者の理解を得て、FBの公募入札化ということを早期に実現するように、引続き最大限の努力を払って参りたいというふうに考えている。

【問】

銀行CPのオペ対象を巡る検討というのは、どこまで進んでいるか。またいつ頃決まるのか。

【答】

CPオペはご承知のように、昨年秋辺りから非常に積極的に行ってきている。オペの対象という点については、市場でそれを受け入れてくれているペーパーであれば、買っていける訳であるけれども——今CP残高で、おそらく13兆円位市場に出回っており、その内日本銀行にあるのが、4兆5千億円位である——これは、当面市場から日本銀行がオペの対象として買って、そういうことで直接企業に資金繰りをつけるということができる訳で、今後もっともっと市場が大きくなっていくことができればというふうに思っている。その中で特にどういうふうに選別するかということは、今後の問題である。色々直接金融方式、このことによって銀行の手許も余裕が出ることは明らかであるから、その分は他に貸出に回せるということになる訳である。

銀行発行のCPというのをオペの対象にするかどうかという点については、検討中であり、この点はまだ結論が得られていないということである。

【問】

日本の景気の現状について、FRBのグリーンスパン議長が非常に手遅れであるというような趣旨の発言をしたと、外電で伝えられているが、そういう悲観的な海外の見方についてどうみているか。また、経済企画庁の堺屋長官が月例経済報告の内容を少し変えたということをどう評価しているか。さらに政府の景気認識について、日銀総裁としてこれからどういう注文をつけていくか。

【答】

グリーンスパン議長がおっしゃったのは——私も日本の新聞で小さく見ただけで、どういう席でどういうふうにおっしゃったのか分からないが、この前ここに来られてかなりの時間一緒に色々な話をする機会が何回かあった訳だが、そういう時に——やはり金融機関の不良債権の整理ということが遅れていると、バブルが弾けてから7年以上経って、まだ70兆とか80兆とか大きな数字が減っていってないと、このことは、やはりこれが減っていかない限り、日本経済に対する内外の信認(を回復できず)、ひいては経営者や国民のコンフィデンスの回復、それが日本経済の再生をもたらしていく(ことができない)、そういう筋書きをいつもおっしゃっておられるので、おそらく金融機関の不良資産の処理が捗々しくいってないのではないかと、そのことに対する考えが頭の中にあって、それがそういう表現になって出ていったのではないかと思っている。

グリーンスパン議長もそうだったし、ティートマイヤー総裁も「日本経済というのは、皆さんが心配される程弱くないんだ、強いんだ」ということをおっしゃったのを記憶しておられると思うが、あの辺の方々の基本的な見方は、今でも変わってないと思っている。ただ、やはりやるべきことをやっていかないと、段々海外からの信認が薄らいでいくし、自信を喪失していく。それがまたアジアやアメリカなどにも反映していく。そういうことを心配しておられることは、容易に想像できる。そういうようなことが、ああいう表現になって出たのかなと、私は推測しているが、特にここにきて非常に心配しておられるというふうには聞いていない。

【問】

政府の「月例経済報告」への注文如何。

【答】

堺屋長官への注文(ということだが)、今週の初めに政府の月例経済閣僚会議に陪席させて頂いたが、堺屋長官が現状を説明しておられた。非常にはっきりとものをおっしゃる。今度の月報をご覧になって分かるように、従来の「停滞」というような表現を「低迷している」といったように、ずけっと書いておられ、「中味も段々これからはっきりものを言っていくのだ」というようなことをおっしゃっておられるようだ。

私どもも、政府の経済見通しというものは——なかなか成長率などは色々見方があって——今の1.9%というようなことはとても実現できそうにないと思うが、そういうものもこれからどうやって修正していかれるか見ている訳である。まだ替わられたばかりなので、はっきりした変化がどういうふうに表れてくるか非常に楽しみにしてみている。

【問】

堺屋長官は、経済成長率見通しについて、プラス・マイナス0.5%程度というような発言をしているが、総裁はどの程度と考えているか。

【答】

この数字はなかなか難しいが、1~3月がマイナス1.3%といった状況であるから、秋頃から仮によくなっていくとしても、「ゲタ」がマイナスであるから、年度でいけば、仮にプラスになるにしても、あまり大きなプラスにはなり得ないのではないかという感じがする。

【問】

最近円安が進行しているが、ファンダメンタルズ等からみて、行き過ぎだと考えているか。また、原因についてどうみているか。

【答】

今日も147円前後になっているが、この水準が高いのか安いのか等について、私はコメントする立場にはないが、為替相場というのはその国の経済のファンダメンタルズを表わすんだということがよく言われる訳である。経常収支——6月分が今日発表され、経常収支は100億ドル位の黒字であるが、毎月これ位の黒字が溜まっている訳であるから、そういう意味からも随分黒字体質(であり)、国際収支のサイドみれば、これがどれだけ(対外)投資されるにしても非常に大きな黒字を出していることは間違いない訳で、——そういった点だけからみれば円は安過ぎるというか、オーバー・ディプリシエーションではないかというような見方もあると思う。

私も通貨というのはできれば強い方がよいと、国益に沿うんだというふうな(考えである)——これは私の長年の経験から出てきた個人的な理念であるが——。それにもかかわらずどうしてこんなに円が弱いのかと言われると、やはりいつも申し上げるように、最近の金融資本市場の動きの中で、金融システムの建て直しということと、景気の回復という関連し合った二つのことが今の日本経済の課題である訳である。そのことが今一つ捗々しく進んでいないということに対する内外の市場の見方というものが相場になって現われているんだというふうに思う。

従って、こういう点が一つ一つ改善されていけば、あるいは手が打たれていけば、もう少し円・ドル相場も強くなっていくことが期待されると思う。しかし相場というのは今日もロシアががたがたしていて独マルクが非常に弱くなるなど、世界全体との関連が色々あるから、一つのことだけをみてものは言えないと思うが、中央銀行の立場、責任者としてできるだけ健全な通貨にしていきたいというふうに思っている。

【問】

宮沢大蔵大臣が、今週バブル当時の責任について、政策責任を認めて事実上陳謝された訳であるが、バブル当時の日銀の責任については、どう総括しているか。

【答】

私もここ(日銀)にいなかった時のことであり、(当時の)総裁の発言はよく記憶していないが、日本銀行としても、バブルの発生とその崩壊が経済に大きな振幅をもたらしたという経験を踏まえて、金融政策のあり方というものに重い反省をもたらしたものであることは私も十分承知しているし、そう受け止めていると思う。

80年代後半のバブルの発生については、基本的には、自由化、国際化などの経済環境の変化のもとで、経済全体が「右肩上がり」するものだという幻想が生まれたことによる面が、非常に政策の転換をやりにくくしていたということは理解できると思う。当時は大幅な経常黒字の是正とか円高の回避が最優先という時代であった訳で、一方では物価の安定基調が維持されてきたというメリットもあった訳である。そうしたもとで、結果として金融緩和というものが非常に長期にわたって続いたことがバブルの発生の一端になったということも否定できないところだと思う。

こうした経験を踏まえて、近年、日本銀行は、政策運営を行うに当って次のようなことを念頭に置くことにしている。一つは、為替相場の安定とか対外不均衡の是正のために、過度に金融政策に依存した対応をとることは適切でないということである。言い換えれば、金融政策に当っては、あくまでも「インフレなき持続的な成長」を目標としていくということである。もう一つは、資産価格とかマネーサプライの動向、こういったものにも十分留意していく必要があるということをあの経験から教えられたと思う。今後とも、こうした点などに十分配慮して、適切な金融政策の運営に努めて参りたいと思っている。

【問】

昨今の株式市場での金融株の動きについてどのような認識を持っているか。また、それに対してどういう対応を想定しているか。

【答】

金融株、銀行株が下がってきたということは、確かにここ数日をみても株価の下落の一つの非常に大きなファクターになっている。これは、特に特定の銀行の合併問題を巡って色々な噂が飛び交っていて、そういうものが日本の大銀行というか19ある都市銀行、あるいは信託、長期信用銀行といったような大銀行の内外の信認に水をかけているということは、容易に想像できるところで(あり)、そういったところから金融株、銀行株が下がっているんだと思う。

これは私が2か月ほど前にもここで申し上げたように、もっと貸出の自己査定をしっかりやり、自己開示をして早くバランスシートから落とせるものは落としていく、あるいは落とせないにしても引当を積み上げていく——そういう外からみてはっきり分かるような経営なり、ディスクロージャーをしていかない限り、なかなか信認を回復するということには繋がらないのではないかという不安を持っている。今度、金融監督庁と連携しつつ19行に対して、不良貸出中心に考査を始めることとしたが、これなどもおそらくこの機会に一つの刺激になると思うし、私どもにとっても色々経験を教えられるところではないかというふうに期待している。

今、当面している合併問題、これは既に両行からこういう方向で合併を検討するということを公表した訳であるから、私どももそれに賛成をしている訳で、是非とも一刻も早く合併の話合いができることを強く期待している。今、両行の経営トップを委員長とする合併検討委員会というのが持たれて、非常に精力的に話合いを進めている。両行は業態が違うし、かなり広範にわたった議論になる訳であるが、これが早い時期にある程度譲り合って合併が成功することを心から願って、強く期待しているところである。

【問】

今日の「金融経済月報」で、金融市場の動きについて、金融機関の信用リスクとかあるいは9月中間期末の流動性リスクについて企業の間に根強い警戒心があるというふうな記述があったが、そこについてはどういうふうに日銀としては考えているか。

【答】

9月末のことを皆さん心配しておられるようである。私どもの窓口、第一線でもそのことを十分頭に入れてかなり潤沢な資金を出すと同時に、期末越えの資金の供給も出しているから、十分9月末を無事越えていくような日々の調整をやっているはずである。一昨日の金融政策決定会合で0.5%を若干下回るオーバーナイトの無担保コール金利を維持していく——現状維持——、という決定を行ったが、それを前提にして9月期末越えを意識しながら日々の資金調整を行っていることと思う。特にご心配頂くことはないのではないかというふうに私は考えている。それに加えて、先程のCPオペといったようなものも、もう少し量を増やしてやっていくこともできようかというふうに思っている。

【問】

先程の金融機関のディスクロージャーに関してであるが、総裁は、銀行が自己査定の結果を公表することを求めているのか、あるいは今の自己査定が非常に甘く引当不足であるということを言っているのか。

【答】

ディスクロージャーについては、今度SEC方式で行っているが、SEC基準は、言ってみれば最も甘いというか低い線で、そこについては、各行それぞれディスクローズもしておられると思う。自己査定を行って、第二分類の中でも、第一分類に近いものと、あるいはもう少しリスクの多いものをはっきりと分けて、——官庁や検査をしたところが、全体をまとめた数字を出すというのではなくて——、「私のところは不良資産の現状はこうなっている。これに対して、これだけの準備を整えている──これだけの手当、引当を準備している」ということを、単なる量でなくて、質を含めてディスクローズすることによって初めて、内外の市場は「なるほど、この銀行はこういうことなのか。それならば安心して預金・取引ができる」ということになる訳である。タイミングは期末でもよい──適当なタイミングでよい──と思うが、こういうことを行ってもらいたいと思う。

米国などでもSEC基準でディスクローズすると同時に、JPモルガンなどをみてもお分かりの通り、自分のところのレポートに、ディスクローズを、自分の判断で行っておられる。そのようなことが、金融機関に対する信認の材料になっていくと思う。

【問】

市場が金融機関に対して非常に不信に思っているのは、ディスクローズの領域が足りないということよりも、むしろ引当不足であると思う。また、海外から不良債権の処理が遅れているという指摘があるのも引当不足のためであると思うが、総裁はそのような認識を持っていないか。

【答】

引当が不足のところもあるだろうし──、一概には言えないと思う。それこそもう少しディスクローズをはっきりしてもらって、それに対してどういう引当を積むかということをはっきりさせることが、大切であると思う。

【問】

総裁は、先程「マーケットが日本の大手銀行に対する信認に水をかけた形になっている」旨発言したが、特に海外からの日本の大手行に対する見方が厳しいのではないかと思う。こうした海外の厳しい見方が邦銀の海外業務などに影響を与えることを心配していないか。

【答】

それは、よく言われるジャパン・プレミアムという形で、日本の銀行の出先あるいは日本の銀行が海外の金融機関等から資金を借りようとすれば、プレミアムを付けられるということに典型的に表われていると思う。最近では、それをさらに一歩越えて、貸してもらえない。

従って、日本の金融機関の出先もそうであろうし、日本の企業の出先もそうかもしれないが、海外でドルを借りるということが非常に難しくなってきているので、金利の安い日本の円を——「円投」と称しているが——海外に送って、それでドルを調達して——スワップで(ドルを)買う場合が多いのであろうが——、それを現地の必要資金として使っている。それだけドルの需要が増えるから、円安・ドル高の一つの原因はここにあるということを、私はこのところ感じている。これなどは、実際問題として、日本の金融機関あるいは日本への資金供与に対して、彼らが渋っているというのは、非常にはっきりした不信の表われではないかというふうに思う。

【問】

「金融再生」の話をする時に、最近「ハード・ランディング」とか「ソフト・ランディング」という言葉がよく使われる。小渕新政権になって、「金融再生に当って『ハード・ランディング』はあり得ない」という見方が、最近の株式市場で失望をかっている側面もあると思う。総裁自身は、日本経済にとって、大手行を大蔵省・日銀主導で再編するような、あるいは大手行の破綻を睨んだような「ハード・ランディング・シナリオ」がよいと考えているのか、それとも「ソフト・ランディング・シナリオ」がよいと考えているのか。

【答】

何がハードで、何がソフトかという線の引き方が非常に難しいと思う。金融機関が急遽破綻するということが、金融システム・金融市場に非常に大きなショックを与える。それによりある意味で将棋倒しといったようなことが起こるとすれば、これは、何としてでも手を打って、急に倒れたりすることのないようにしていかなければいけない性質のものであると思う。それは、その時その時の状況によって違う。

しかし、日本の19行といった場合には、かなり大きな影響力があるし、金融サイド・資金サイドだけでなくて、デリバティブといったフューチャーの取引を行っているところが随分多いので、そういうものが急遽倒れた時にどういうことが起こるかというのは、想像すればすぐに分かると思う。思わぬところに大変なマイナスの影響が生じていく可能性が十分にある訳である。特に海外に進出し、海外と付き合いの多い大きな金融機関が破綻するということに対しては、通貨当局としては、かなり用心深くして、極力波を大きくしないように手を打っていくということが務めではないかというふうに思う。

【問】

大手19行に関する総裁の今の言葉は、大手19行が破綻した後の影響を防ぐと言っているのか、あるいはそもそも大手19行はできるならば破綻しない方がよく、合併などの方法で金融再生を行った方がよいということなのか。

【答】

突然破綻するという類の破綻の仕方は回避すべきであると思う。力のないところは、サバイブしろと言っても無理があるのであろうから、そういうところは吸収合併するなり、相手を見つけて自分のところの経営を売っていくなり、色々な解決策があり得ると思う。第三者に非常に大きな迷惑をかけることのないように、通貨当局として十分に配慮しないと、単に(国内の)預金者とか借り手とかだけではなくて、海外にも非常に大きな迷惑をかけることになり得ると思っている。

【問】

ブリッジ・バンクは大手行には使えないという声もあるが、如何か。

【答】

まだ、ブリッジ・バンクがどういう形になるのか、私もよく分からない。

実際問題として、使えるものであれば使えばよいと思うが、非常に大きな銀行をブリッジ・バンク1行で吸収していけるものでもないかもしれないし、その辺は一概には言えない。ブリッジ・バンクを19行が使ってはいけないということを言うのもおかしい。どういうスケールのものができていくのか、これからもう少し見ていかなければ分からないというのが、私の正直なところである。

誰がどうやって経営していくのか——2年とか、5年とか言われているが——大きな銀行を長年に亘ってブリッジしていくというのは、容易なことではないと思う。アメリカの場合もブリッジ・バンクが随分できたが、皆平均7ヵ月で民間に移っていっている訳である——それは殆ど皆うまく成功したようであるが。

【問】

一昨日の金融政策決定会合では、どのような反対意見が出たのか。また、調整インフレについては、先日否定的な見解を述べたが、「マネタリー・ターゲティング」や「インフレーション・ターゲティング」については、どの程度検討が進んでいるのか。

【答】

決定会合での少数の反対意見というのは、オーバーナイトの無担保コールの誘導レートを決定したマジョリティの主張——公定歩合を若干下回る——実際、今0.45%位のところで動いていると思うが——それをもう少し、下へ降ろしたらどうかというような意見が、反対意見の内容である。これ以上のことは、(議事要旨が)発表された時にご覧頂きたいと思うが、「方向を言え」と言われれば、そういう方向である。

それから、調整インフレというのは、私どもの長い経験で、インフレーションというのは、一度起こると、簡単に調整などできるものではない——逆に調整デフレというものも難しいと思う。これは、量を出せば金融は緩むと同時に金利も下がっていく訳で、それがもたらす色々な影響は大きい訳である。できることであれば、インフレでもないデフレでもない通貨の安定を前提にして持続的な成長を図っていくということが、私どもの使命であり、目標であるということである。

調整インフレについては、色々論文が出たり、意見が出たりしているが、今のところ、──各国の中央銀行を初め、あまり強い反対は起こっていないと思っているが──、私どもの今まで歩いてきた道からいっても、「これでいいんだ」というふうに私は信じている。色々なことを——時代が変わり、経済の構造が変わり、各国との関係も変わってきている訳であるから——そういうところを踏まえて、広く色々な勉強をしていくことは必要だと思っている。そういう意味での研究は続けてくれていると思う。

【問】

インフレでもない、デフレでもないということは、卸売物価、消費者物価の伸びを「ゼロ」にするのが目標であるということか。

【答】

安定をしていればよいと思う。「ゼロ」でなければいけないというものでもないと思う。

以上