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総裁定例記者会見要旨 (9月11日)

1998年 9月14日
日本銀行


—— 平成10年 9月11日(金)
午後 3時から約1時間

【問】

先般の新たな金融緩和措置は日本の経済・金融について日銀の非常に強い危機感を示す形だったと思うが、日本の景気回復、金融システムの建て直しに向けて、総裁としては政府に対して今後どんなことを期待するか。

【答】

一昨日、申し上げたところだが、今日本の経済が直面している最大の課題は、「景気の回復」と「金融システムの建て直し」であり、それが同時にかつ早期に達成されなければならない。両方は相関連したことで、そういう課題の達成に向けて、私どもとしても、中央銀行の立場から最大限の努力を払っており、今回の金融緩和措置もその一環である。

一方、政府におかれても、大変多くの努力を払っておられる訳で、金融システムの建て直しに向けての諸法案が、今国会で審議されており、昨日、今日と与・野党間で白熱した議論が行われていると伺っている。また、景気対策の面では、4月に打ち出された総合経済対策の効果がこれから少しずつ出てくるのではないかと思っている。少し発注が遅れているということは聞いているが、先月末位から出始めていると聞いている。さらに、新政権は、財政構造改革の凍結を前提にして、切れ目なく公共投資を出していくことを試みておられる訳で、いわゆる「15か月予算」を組む方向にあると思う。それに6兆円を超える規模の個人所得・法人所得に対する減税に関しても、検討が本格化してくるとみられる。

私どもとしては、こういう施策が、家計や企業のコンフィデンスというか、気持ちを高めていくということが大切だと思う。そういうことが、早期かつ着実に実施されていくことを期待している。

【問】

政府・自民党は、13兆円の公的資金から資本注入して金融機関を破綻前に処理するという方針を固めて議論を進める一方、依然として国会では与・野党の協議が難航しているという状況の中で、総裁は金融機関の破綻前処理についてどのように考えているか。

【答】

金融機関が抜本的に不良債権処理を図る過程で、過少資本になったり、あるいは経営困難に陥るというようなことが十分予想される訳で、この場合、その金融機関の信用力が失われて、自助努力だけではいずれ破綻に繋がっていくといった可能性は少なくないと思われる。

仮に内外で多様な取引を行っている金融機関、あるいは地域で大きなウエイトを占める金融機関が破綻すると、内外の市場に大きな混乱を招くことになり、国民経済にとって極めて重大な影響を及ぼす危険は否定できないと思う。特に、現在のように邦銀全体の信認が低下している状況の下では、信認低下の連鎖を通じてこうした危険が一層高まることが懸念されている。

こういうことを考えると、私どもとしても、金融機関が破綻に陥る前に信認を回復することのできる枠組みが整備されることは、大きな意義があると考えている。勿論こうした措置があまり緩になりすぎて、モラルハザードに繋がるというおそれがあってはならない訳だが、こうした点を含めて、日本の金融システムに対する信認を回復し、その安定を図る観点から、いわゆる破綻前処理について議論が深められていくことを期待している。

また、公的資金の出資等によって資本の補填とか、充実を図るという枠組みは、こうした破綻前処理を考えていくうえで、極めて大きな役割を果たすものではないかと思う。

最近、大手の銀行・証券の金融再編の動き——三菱グループの金融機関が一緒になって共通の仕事をしていくということ、あるいは住友銀行と大和證券の動きとか、興銀と野村證券の動きとか、日興證券とトラべラ−ズの提携、山一證券の後の仕事をメリルリンチが引き取ってやっている──が出てきている。ビッグ・バンが始まり、不良資産の整理が始まる中で、こうした金融再編の動きが進んでいくのではないかと私はみている。

それは非常にグッドタイミングだと思う。市場でアタックを受けるとか、あるいは株価が急に下がるとかいう、特定の銀行が攻められる時に、こういうことが出てくるというだけでなくて、やはり今の金融機関全部がこの時点で、私の立場で言えば3つのこと、1つは不良資産の処理、2つ目はリストラ──かなり強力なリストラ──、3つ目は将来の経営の大きな流れをつけていくこと、この3つのことを是非同時にスタートして頂きたい。攻められてからやるのではなく、今この時点で同時にスタートして頂きたい。特に大銀行の場合は、そのことを強く期待したい。色々な動きが新聞で報道されており、非常に私も心強いとは思うが、かなり急がなければ攻める方が早いから、このことはこの機会に期待したいということを申し上げたいと思う。直ちに実行に移して頂きたいということである。その前提になる自己査定、自己開示、早期償却──不良資産を早く落としていくこと──が一番大事だと思っている。

【問】

日本の銀行に対する信認が非常に低下している訳であるが、その中で特に海外市場でジャパンプレミアムが再び拡大したり、ドルなど外貨資金調達が難しくなっているというふうに言われているが、総裁はこの現状をどうみているか。また、日銀としてどういうことを考えているか。

【答】

邦銀が海外でドル資金、外貨資金を調達するということが非常に難しくなってきているということは皆さんもご承知だと思うし、(資金を)とれるところでもジャパンプレミアムというのが付いてくると(いうことで)、この辺は非常に困難になってきていると思う。このために外貨資産を圧縮したり、あるいは国内で円を調達して円資金を円投という形で外貨に換えて海外で使っているという邦銀が多くなってきているのが現状ではないかと思う。

国内市場においても、金融機関によって資金調達力の違いはかなりはっきり出てきている訳で、——これによって今特段の問題が起こっているという訳ではないが、——国内金融市場でも金融機関の信用リスクに対する警戒感がかなり根強く銀行の市場調達金利が高止まりを続けてきている。

一昨日、私どもが一段の金融緩和を決めたのは、このような金融市場全般の動きをも踏まえたものであると申し上げてよいと思う。私どもとしては新しい金融調節方針の下で、引続き資金の潤沢な供給を行うことによって、金融市場の安定に万全を期していく考えである。

こうした措置によって、金融機関の円資金調達の一層の円滑化を図っていくということが、先程申し上げた円資金投入による外貨購入といったルートを通じて外貨繰り全般にもスムーズな流れができていくということを考えている。

【問】

9日の金融市場調節方針の変更に関する発表文には、「金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、コールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」とあるが、「金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合」というのは具体的にはどういった場合か。また、それは誰が判断するのか——政策委員会か、それとも執行部か。

【答】

予め具体的なケース——こういう時にはこの尚書きを発動するといったようなこと——を念頭に置いて書いた訳ではない。

対外公表文の中でも述べてあるように、このところ、金融資本市場では、先程も申し上げたような金利のリスクプレミアム、あるいは株価などが非常に不安定な動きを示している訳で、そういう市場の動向を踏まえると、何らかのきっかけで不安心理が一気に増幅していく、あるいは市場が急激に逼迫していくといったような事態も十分予想しておかなければいけないというふうに思っている。

そうした不測の事態に柔軟かつ機動的に対処するということを考えて、先程の「金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合」について、「新たなレートの誘導目標にかかわらず、一層の潤沢な資金供給を行う」ということを尚書きで付けた訳である。

これを決定するのは、急を要する時には、執行部が第一線で決めなければならないことが十分あり得ると思うが、基本的にはその場合でも、可及的速やかに政策委員会に報告する、あるいは承認を得るというような建前にしている。

【問】

破綻前処理について、13兆円の資本注入枠の資金を不良債権の処理に充当するということは現行法で可能と考えるか。

【答】

それは定められた条件を満たすのであれば、現在の13兆円の方の資金は金融危機管理審査委員会の決裁を経て使うことができると思う。この3月にやったのもそういう意味での、貸し渋り対策というか、BIS規制もあるし、資本を強化することによって、貸し渋りを防いでいくということでやった訳であるから、そのことはこれからも出てくるかもしれない。しかし、ご質問の問題については、国会で、あるいは与・野党間で議論が行われているところであるので、その点についてはどういうやり方がよいかというのは、私の立場で今はまだ述べる訳にもいかないと思うが、特に大銀行の場合は合併あるいは破綻前に(公的資金を)入れていくことが必要なケースも多いのではないかと考えている。

【問】

民主党は「長銀は実質的に破綻しているので、現行法の破綻処理でやるべきだ」というような姿勢を示しているが、それについての総裁の考え如何。

【答】

これは、長銀の検査がまだ済んでないし、実情をみたうえで検討されることになるのではないかと思っている。

【問】

総裁は「大手銀行の破綻は避けるべきだ」ということの理由の中で、特に海外での影響を強調しており、具体的な例としてデリバティブの話をとり上げているが、例えば最近の国会では、「長銀の場合、デリバティブの影響はもう殆どなくなっている」という議論も行われているが、この点についての認識如何。

【答】

私が先月(の記者会見で)申した時には、大手銀行、特にマネーセンターバンクと呼ばれている10数行の銀行は、国内だけでなくて海外に非常に大きな影響力を持っているということを申し上げる例としてデリバティブに言及したつもりである。

デリバティブ取引の総残高は、BIS(国際決済銀行)の統計でみても、この10年間で20倍以上増大している。非常に大きな想定元本残高を持ち、信用リスクの残高だけをみても相当な金額を邦銀は持っている訳で、こういうところがデフォルトを起こすということは、海外あるいは国内でも非常に大きな影響、混乱を呼び起こすことは間違いないと思うし、こういうことが起こると、日本の銀行の信用にかかわってくる——日本の銀行がデリバティブ市場に入っていけなくなる──といったようなことすら懸念される訳である。

デリバティブ取引というのは、相互に非常に密接に結びついているばかりでなく、外為市場とか、債券市場とかを含めて複雑に連鎖している。こうした中で、万一金融機関の破綻に伴ってデリバティブ取引が清算されると——デフォルトの扱いになるということになると——相手方はこれによってアンカバーになったポジションを一斉に解消しようとするだろう。今申し上げたような複雑な連鎖を通じて、各種の市場に様々な混乱を招くおそれがあると思う。

邦銀の大手というのは、一般に内外に極めて多数の顧客を持っている訳であるし、デリバティブ取引も含めて広範かつ多岐に亘った取引をしている訳であるから、万が一にも大手銀行が破綻した場合には、その影響はデリバティブ市場のみならず、様々な取引の連鎖を通じて、内外の金融システム、金融市場に非常に大きな影響を及ぼしていくおそれがあることは考えておかなければならないと思う。

最近大きくなってきたマーケットであるし、20兆円を超えるような大きな資産を持った銀行がデフォルトをしたというような事例は今までまだないから、どれだけの影響──私どもの予想できない面での影響──が出てくるかということも十分考えておかなければならない。「何が起こるか、何と何がどうなるかを言ってみろ」と言われても、ちょっと想像もつかない問題であるというふうに申し上げておいた方がよいのではないかと思う。「影響がある」とおっしゃる方もいるし、「影響はあまりない」とおっしゃる方もいるし、この辺は大きな銀行がそういうことになった時にどういうことが起こるかということは、あまり楽観的に考えるべきことではないと思う。

【問】

総裁は8月の記者会見で、長銀と住友信託銀行の合併について「強く期待する」というふうに言ったと思うが、その長銀の検査が長引き、野党からあのような声が出る中で、あくまで現行法を前提にして、長銀が住友信託銀行の要請を全て満たしたうえで、通常の合併をするということは可能と考えているか。

【答】

私はこの前にも申し上げたように、両行のそれぞれの特色を活かして合併ができれば、非常に望ましいというふうに思っている。そのために公的資金の導入も何らかの形で行われていかざるを得ないものだと思う。

これが、これからの1つの前例になり得るものであるだけに、──法案との関係等もそれぞれ国会で議論が行われている訳で──できることならば、動き出した合併の話が成就することを今でも強く期待している。

【問】

金融資本市場の動きを大分懸念されていたが、昨日、今日と、例えば社債市場で金利のリスクプレミアムが縮まったという話も聞かないし、株価も大きく下げている。その辺りの評価をどう考えているか。また、店頭株市場で日銀株が下落しているが、これはどう思うか。

【答】

金融市場で債券の利回りが非常に下がってきているというのは、──史上最低ということが言えるかもしれないが──、これはある意味では株から債券に(資金が)移っているということもあるのかもしれない。特に、米国の株が非常に下がっているということが日本にも強い影響を与えていることは見逃し難いというふうに思う。先般、少し外人の買いが入って株が一時高くなったが、その後また少し下がってきて、これからどうなっていくかということは非常に注意深くみていきたいと思っている。

日銀の出資証券については、私もよくフォローしていないが、市場に出ている訳でもないし、限られた数のものである。少しが動けば値段はすぐ動く類のものであると思う。

【問】

今日の株価は既に800円を超すような大幅な下げになっており、一段の金融緩和があまり株価の方に影響を与えていないようにみえるが、そこはどのように受け止めているか。

【答】

そこは1日、2日の株の動きで何とも申し上げることはできない。昨日米国の株がかなり下がっているようであるし、資産価格は、コンフィデンスの問題が大きい。今回の金融緩和措置に加えて、今後、政府の総合経済対策とか、金融再生トータルプランが着実に実施されていけば、資産価格にも必ず良い結果を及ぼしていくというふうに思っている。

【問】

米国の金融市場の安定、米国の減速していると言われる景気の下支えのためにどのような対策が必要と考えているか。例えば、米国は利下げをする必要があると考えているか。

【答】

他の国のことであるので、私からは何とも申し上げかねる。今回の私どもの引下げは、先日も申し上げたように、米国との話合いで行ったものではない。(米国の株価が)下がっていると言っても、かつてグリーンスパン議長が「合理性のないexuberance」と言って、株価が上がっていくのを牽制されたことがあるが、その時に比べるとまだ高い訳である。世界的にロシアとか中南米でかなり株が下がっている——アジアがかつてそうであった——訳で、そういうところでヘッジファンドその他に相当損が出ていることがあるのかもしれない。そういうものが米国で売りになって出てきているのかもしれない。そこはよく分からない。ただ、米国の経済自体も少しずつ変わってきていることが数字の上でもはっきりと出ている。

先週の金曜日、グリーンスパン議長が、U.C.バークレーで、"Is there a new economy?"(新しい経済が始まるのか)という講演を行った。これは私どもに非常に示唆を与え、面白く、しかも内容の豊かな講演である。この中で次のようなことを言っている。

「米国経済が世界経済から影響を受けない繁栄のオアシスであり続け得るとは信じ難い」、すなわち繁栄のオアシスの中に米国だけがゆったりとつかって、繁栄をエンジョイしているという訳にはいかない時代になったということを言っている。

「このところ海外の動向は、国内需要の堅調な米国経済に対して、インフレおよび総需要を抑制する方向に作用してきた。海外の混乱が深まり、これが米国金融市場にフィードバックするにつれて、こうした抑制効果は強まってくる可能性が大きい」、海外で起こっていることは、米国経済の足許にかなり強い影響を与えてきているということを言っておられる。

もう一つ非常に面白いというか、注意・注目されること——ロシアと日本のこと——を最後で言っている。「日本では、貯蓄率も粗投資も我々よりはるかに高い状態が続いてきたが、1人当たりの潜在成長力は我々に比べ低下しつつあるようにみられる。日本経済の正常ではないパフォーマンスの原因に少なくとも部分的にはよたよたした金融システムが寄与しているという点を主張することができるだろう」、これなどは、私どももよくみておられるなという感じがしないでもない。

【問】

米国の株が相当下がり、中南米にも動揺が広がるなど、アジアの危機から始まって世界的にマーケットがかなり動揺している。総裁は、国内に対して非常な危機感を持っているのと同様、国際経済に対してどういう危機感を持っているのか。また日銀としてどういうふうに訴えていくのか。

【答】

私は、日本については、かなり危機感というか、この辺で気持ちを引き締めてかからなければという決意・危機意識を感じている。

しかし他の国についてはどうか。アジアの問題はかなり落ち着いてきている。今むしろ、中国、ロシアあるいはラテンアメリカといったところに、かなり米国の投資が向かっていて、ロシアの国債を買っていたら、それが全部駄目になってしまって大きな損をしたというようなことがある。ラテンアメリカもそうであろうが、そういう大きな資金の流れがある。原燃料の値段が下がってきて、あのあたりが非常に弱くなってきているということもある。そういうところへ投資していた大きな金がやはりかなりの損を生んで、そのために世界の金融市場全体がかなり荒れているということは言えると思う。しかしそれがこれからさらに激しくなっていくかというほどには、危機感を感じていない。経済自体もヨーロッパはかなりしっかりしているし、米国も悪いと言いながら、クリントン大統領の問題など色々なことで、今のところ少し乱れているように思うが、基本的にはそう急激に政策を変えなければならないという事態ではないのではないかと推測している。

そういうことで、全体として決して良くはないが、それほど世界的な不況を強く心配するよりも、そういうものだということをよく直視して、流れを頭の中に置いて、日本の政策を考えていかなければならないと思っている。

【問】

9日に公表された新しい金融調節方針の中で尚書きの部分を書いた背景としては、例えば金融機関の破綻も想定しているのか。

【答】

これから何が起こるか分からないが、近い過去では、やはり山一と拓銀の破綻が一緒に起こった時に、短期金利やその他が急激に大きく振れたことが頭の中にない訳ではない。そういうことがすぐ近い将来に起こるかどうかは、私は当面はそんなことはないと思う。

しかし、日本の銀行——特に大銀行——が「自分のところは大丈夫だ」というふうに思わないで、今すぐにでも先程申し上げた3つの(課題)——不良資産の処理、リストラ、そして将来への経営の歩み方——を決めて進んでいくべきではないか。金融再編あるいはビッグ・バンが4月から始まって、かなり海外からの動きも激しくなってきている訳であるから、ここで色々な形での金融再編が起こってもおかしくない。今までの間接金融一本槍の日本の金融というものがもっともっと直接金融にシフトしていくことが起こり得ると思う。

今日もマネーフローをみていて感じたのだが、1,200兆円という日本の国民の金融資産というものの中で銀行預金というもののウェイトが非常に高い訳である。預けた人はそのままその金が返ってくると思っている訳であるが、それを運用しているサイドでは、証券で運用したり、あるいは不動産を担保にして貸したりしているものの価値がうんと下がっている訳である。バブルが弾けて以来、かなりの下がり方がある訳で、預金は変わらないで、持っている資産の価値がうんと下がっているということは一つの銀行だけではない。全部がそう(であると)いうことを考えると、銀行の方で、基本的にやはり先程申し上げたようなこと——不良資産をどうやって消すか、それから銀行の中の大きなリストラをどうやって行っていくのか、それから、どこと組んで、あるいはどこと一緒になって、あるいはどういう業務に自分達は特色を活かしていくのかというような流れを、今ここで決める時期ではないかということをもう一度強調させて頂きたいと思う。

どこの銀行が攻められているから、その銀行はここで動いて立ち直るということではなく、──全体の数字をみていても、かなりの無理が金融機関にあることは確かであり──自己査定、自己開示をやって自分の金融資産の中身をよくみたうえで、償却できるものから償却を早くして、軽くしていき、売れるものは売って、その入ってきた金で——随分損は出るかもしれないが——新しい投資をやる、あるいは新しい貸出をやることによって利益が出てくる訳であるし、日本全体がそれで立ち上がっていける訳であるから、そのことを今やらなければいけない時期であるというふうに思っている。

【問】

大手金融機関の相当の数が直ちに海外から全面撤退すべきであるというような識者の意見もあるようであるが、如何お考えか。

【答】

今の1,200兆円という個人金融資産に対して、銀行の貸出というのは700兆円位あるが、これが多すぎるのかどうなのかというのは、議論のあるところだと思う。

数を減らすということも大事であると同時に、同じような貸出で競争するだけでなく、色々な証券と一緒になって、——あるいは持株会社を作ったケースも既に出ているが、——ウェイトをどちらへ移していくかという、通常のこれまで日本経済を支えてきたバンキングの中身を変えていく、あるいは今までの貸出本位というもののウェイトを小さくしていくとか、あるいは全部が全部海外に出ることが必ずしも必要ではなくなってきている訳で、そういうものを引揚げるところは引揚げていくとか、それぞれの銀行によって自分のところに適した将来の歩み方を決めて欲しいというのが、先程申し上げた3つ目の私の期待——お願い——である。そういうことをやる時期が今だと思うし、それは特定の銀行——攻められているところ——だけが慌ててやるというのではなく、全体についてそのことを今やらないと、いずれはどこかで攻められるという感じがする。

【問】

今現在、日銀は長銀に対して資金繰り支援をしているのか。

【答】

行っていない。

【問】

金融政策についてであるが、以前の政策委員会の議論では、金融政策手段の温存というようなことも緩和の議論の中で言われていたと思うが、今回緩和策をとったことで、これ以上景気のダウンサイドリスクが顕現化した時に、何か金融政策手段は残っているのか。

【答】

それは、全くこれで全部出しきったというものではないから、まだまだ打てる、打つべき手はあると思う。

【問】

日銀はこれまで考査の結果、「長銀は債務超過ではない」との見解をとってきたと思うが、考査時点では先般のリストラ策は考慮していなかったと思う。今回リストラ策で関連ノンバンクについては全額債権放棄している訳であるが、それを考慮に入れたうえで、日銀の考査の結果と突き合わせて、改めてどう判断しているか。

【答】

この前の考査は3月末時点で6月に私はその数字を見せてもらった。それ以降の資産の劣化というか値打ちが下がっているようなことは十分あり得ると思うが、最近の数字はまだみていない。今金融監督庁で検査をやっておられるところであるし、先日長銀が自己査定結果を国会で開示した数字に関しても、まだあの段階では債務超過であるとは思わない。

【問】

先程、金融政策に関してまだ手段はあるというようなお話があったが、今回の金融緩和の措置は、思い切ってカードを切ったというような考えで踏み切ったのか、まだ手段がある中の1つとして金融緩和に踏み切ったのか。

【答】

0.5%の公定歩合を少し下回る線で今まで調整してきたコールマーケットの金利(無担のオーバーナイト物)を一度に0.25%まで下げていくために相当の資金が出ていくことは、かなり思い切った資金供給、金融緩和だと思う。

それは技術的な面が非常に大きいので、なかなか一般の方には分かって頂けない面があるかと思うが、おそらく株価にとってもこういうものはじわじわと効いていくことは間違いないと思っている。それから銀行の貸出——預金金利はおそらく殆ど変わらないと思うが——、金融機関にとってもかなり大きな影響が与えられるし、企業や一般の方々にも必ずプラス要因が出てくるというふうに思っている。それとやはり9月決算というものがあまり良くないということはじわじわと新聞で出てきているから、そういうものをうまく乗り越えていかなければならないということもある。

その他に(金融政策の手段として)どういう手があるのかということにご興味があろうかと思うが、色々な手はまだあるし、準備預金といったようなものをこれからどうしていくかというようなことも1つの手段であることは間違いないと思う。

【問】

信用第一といわれるデリバティブの世界に、長銀のような突然破綻の危機に陥るような大手銀行を事実上野放しにしたことについて、監督当局としての責任をどう考えているか。

【答】

デリバティブをコントロールしろとおっしゃっても、それは銀行の貸出、あるいは証券投資をコントロールしろと言うのと同じである。

金融機関としては——特に長銀だけがたくさん出していた訳ではないが——全体でも、確か2,000兆円位の想定元本を動かしている訳であるから、長銀だけに、「あなたのところはやめておきなさい」と言うようなことができるものではないことはご理解頂けると思う。

【問】

邦銀全体の信用が問われる事態になっている中で、「自由な取引だから勝手にやりなさい」とデリバティブの世界に野放しにするのは無責任にも聞こえるが、如何か。

【答】

デリバティブというのは、どちらかというとリスクをヘッジするための手段であるから、それを「やってはいけない」と言う訳にはいかないのではないか。

【問】

デリバティブには、リスク・ヘッジの取引以外に非常に投機性の高い取引もあると思うが、この部分に対して、何らかの規制をかけるということは考えていないのか。

【答】

それは、「為替の先物をやめなさい」というのと同じで、そういう通常の市場のある取引——これは自分のリスクでやっている訳であるから——を、「やめなさい」とか「ここまでにしてみなさい」ということであれば、何のために金融の自由化が起こったかということになり、むしろそういうことで技量が争われる訳である。しっかりしたディーラーがしっかりした先物、あるいはフューチャーの運用ができるかどうかで銀行の差がついてくる訳であり、立派な市場がどんどん育っている訳であるから、行政当局が「やってはいけない」、「やれ」とか言う類のものではないと思う。

【問】

危険なことをやるのは自由であるが、大手銀行が破綻した場合、世界に与える影響が大きいので公的資金を使って救済しなければならないというのは、一般の国民からみると釈然としないものが残るが、如何か。

【答】

デリバティブで損が出たという話は私は聞いていない。不良資産を随分持っていたことは確かであるが、ここでデフォルトが起これば、相手方と全部デフォルト条項で切らなければいけない——清算しなければいけないことになる。しかしながら、それはデリバティブで損をして、破綻の懸念が出てきたということとは異なる。

もっと他のこと——皆さん先程ご指摘になっていたようなことがいくつかあったためで、そういうものが、銀行経営——業績——を悪くしてきた訳であり、今おっしゃったようなことはマネーセンターバンクとしては、当然やっていることだと考えるべきであると思う。

【問】

公的資金を投入する前提として、長銀が関連ノンバンクへの債権放棄をすることの是非が国会で議論になっているが、これに対する考え如何。

また、長銀が債権放棄したことを前提とした公的資金投入について、金融危機管理審査委員会の審査委員の一人である総裁はどう判断しているか。

【答】

個々の銀行の問題を、こういう席で、私が申し述べる立場にないと思うので、それは申し上げる立場にはない。

以上