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総裁記者会見要旨 ( 4月 9日)

2004年 4月12日
日本銀行

―平成16年4月9日(金)
午後3時半から約60分 

【問】

本日の政策決定会合の結果について総裁から趣旨をご説明頂きたい。また、本日発表された「金融経済月報・基本的見解」や、先日発表された3月短観の結果等を踏まえた総裁の景気認識や物価見通し等について改めてご見解を伺いたい。

【答】

本日の決定事項は2つある。既にご承知の通り、1つはいわゆる国債の品貸し──日本銀行の持っている国債を一時的かつ補完的に市場に買戻条件付で売却する──という措置である。国債市場の流動性向上、市場機能の一段の整備に資するという目的で実施するものである。海外の中央銀行でも同様のことをやっており、そういった先進事例に照らしても有効な措置である。特に、これからの日本経済を考えると、国債市場のより良き発展が非常に重要なテーマとなってくる。今の段階から、日本銀行としても、市場の発展のためにさらに肩入れしていくという趣旨のものである。

もう1つは、次回の政策決定会合までの金融政策の運営方針を現状維持とした。現在の当座預金残高目標(30〜35兆円程度)を維持しながら、今後ともマーケットに潤沢な資金供給を継続し、民間部門の前向きの努力をさらに促し、マクロ経済全体の景気回復の動きをさらに確かなものにしていきたい。この2つを決定した。

金融市場調節方針を差し当たり現状維持とした背景となる経済・物価情勢についての私どもの基本的な判断は、景気は現状緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増しているというものである。かねてから申し上げているが、輸出の増加が生産の拡大、そして設備投資の回復につながるといった「前向きの循環」が引き続き明確に働いている。加えて、先般の短観等からも判断できる通り、企業収益の増加や業況感の改善について広がりが確認できるようになってきた。また、個人消費もやや強めの動きとなっているというような実体経済の現状判断を踏まえたものである。

さらに、先行きについては、海外経済が高めの成長を続ける状況のもとで、今後とも輸出や設備投資を中心に最終需要の回復が続き、生産も引き続き増加していく可能性が高いという判断である。また、企業の過剰債務などの問題はなお根強いとかねてより申しているが、それ自身、徐々に和らぎつつあり、雇用・所得面へ次第に良い影響が及んでいくと考えられる。こうした状況下、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。

なお、物価面では、ご承知の通り、海外および国内において商品市況の上昇がかなり目立っており、それを反映して、国内企業物価はこのところ上昇してきており、先行きも国内企業物価に関する限り、当面上昇を続けるとみられる。

一方、消費者物価指数のほうは、前年比変化率でみて、このところ、ゼロ%近傍で推移している。おそらく物価の基調そのものは引き続き緩やかに改善していくとみられるが、米価格の上昇などに伴う一時的な要因の剥落によって表面的な消費者物価指数の前年比変化率は、当面は再び若干のマイナスで推移する可能性がある。

このように、経済全般をみて、次第に前向きの循環が強まりつつあるということを基本の判断にして、これまでの市場への流動性供給量というものが非常に厚めになっていることで、金融市場が非常に平穏に推移している。企業金融面でもこれをバックアップしていく環境も十分整っている。パイプの中にしっかりスチームが詰まっているという状況であるので、今後とも時間軸効果をしっかり活かしながら、金融緩和効果の浸透をさらに図っていくことができるという判断に立って、現状のまま据え置くということにしたわけである。

【問】

ペイオフ全面解禁まで1年足らずとなる中、日銀は、この度、平成16年度の考査方針を公表したが、今後、金融システムの一層の健全化に向けて、どのように取り組んでいくつもりか伺いたい。

【答】

先般、平成16年度の日本銀行考査に関する基本方針を明確にした。考査の姿勢は、従来からの方針との比較で言えば、不良債権処理に非常に重点を置いていた時代から、金融機関自身が前向きの経営姿勢がとれるように、視点が段々前向きに変わってきているという点に特徴があると思う。

特に、この16年度の考査方針については、例えば、金融機関が取引先の資産価値を把握する場合に、将来のキャッシュ・フローを重視して、債務者の評価を前向きにやっていく。経営改善計画の検証に当たっても、次第に将来のバリューとそれに伴うリスクというものに視点を移しながら、しっかりと検証していってもらいたいという前向きの方向に移っている。

また、金融機関自身の経営姿勢そのものについても、不良債権処理一辺倒から、今後は、多様な信用供与チャネルの創造に向けて、能動的な与信ポートフォリオ管理を行って欲しいと思っている。既に見られ始めている、貸出債権の流動化や組換え等の積極的な取り組みといった前向きの姿勢を、我々としても、──乏しい知識ではあるが──持てる知識を十分参考に供しながら、強力に支援していきたい。こうしたことが、新年度の考査方針のバックボーンを成していると思う。

ご指摘の通り、1年後に迎えたペイオフ全面解禁は、是非実施して欲しいし、金融機関は──以前から申し上げているが──、極力自分の足でこれを飛び越えて欲しい。このような私どもの基本的な考え方に、今申し上げた考査の方針もつながっている。

つまり、公的当局の全面的なサポートで、バーを飛び越えてもらうということではなくて、極力金融機関自身の足で飛び越えてもらいたい。そうしなければ、ペイオフ全面解禁後、金融市場において、さらに言えば、グローバルな金融市場において、しっかりした競争関係の中に立ち向かっていけないだろうという想定に立っているからである。

【問】

前回の諮問会議で郵政民営化の中間報告案が提示され、総裁も論点を提示されたが、具体的な経営形態の青写真がまだ全く示されていない。秋にまとめる予定の最終報告に向けて、議論の焦点、課題あるいは望まれることを改めてお伺いしたい。

【答】

ご指摘の通り、私は前回の諮問会議で会議用の資料を提出したが、その内容はもうご承知の通りである。

考えていることは何と言っても民営化であるから、どういうビジネスをやるにしても、マーケットの中で信認を持って見られるレベルにまで、十分収益性の高いビジネスモデルを作り上げるということが基本になる。郵便事業、金融事業、保険事業にしても──最近はさらにネットワーク事業というような概念も出てきつつあるが──、民営化された郵政というビジネスの主体が、それぞれのビジネスについて十分収益性を上げられるだけのビジネスモデルを築くということが大前提だと思う。特に金融ビジネスについては、政府保証という前提を抜きに考えなければならない。また、市場原理と必ずしも両立しない商品性というものを重要な道具として、これまでの郵政がもし仕事をしてこられたとすれば、やはり市場原理と両立するようなかたちに商品性の大きな修正をしなければならない。そうした前提のもとで、いかにして収益性を上げていくか、特に金融ビジネスについて言えば、そのような前提のもとで、いかに資金調達能力、資金運用能力、この両面のノウハウを築き上げながら、効率的に十分なリスク管理体制を整えていけるか、ということがポイントになると思っている。

最終的にどのような組織形態になるかということは、今後議論されることであるから、本日この時点で組織論に踏み込んでお話しをするわけではない。しかし、金融事業、保険事業あるいは郵便事業、その他ネットワークを活用しながら新しいビジネスをやるということになると、私どもは特に金融の世界で責任を持って仕事をしている立場であるので──せっかく金融システムというものが不良債権問題の処理をかなり進め、来年のペイオフ完全解禁、さらにはそれを乗り越えて、より健全な市場というものを視野に入れながら努力をしてきているわけであるから──、その中で郵政の民営化という問題が入ってきた時に、様々なかたちで新しいシステミック・リスクが降りかかるということは絶対避けなければならない。1つは、先程申し上げた通り、郵政のビジネスそのものの収益性が十分確立されるということである。またもう1つは、金融以外に様々なビジネスをやるという場合には、金融以外のビジネスのリスクが金融に降りかかってきて、結果として大きなシステミック・リスクが金融市場にかかってくるということも避けなければならない。そういう意味ではビジネス相互間のリスク遮断のメカニズムが非常に重要である。今後、組織論、機能論を議論するにしても、閂(かんぬき)となるような重要なポイントについて、我々が考えるところを取りあえず主張させて頂いたというところである。

【問】

イラクでの邦人拘束が経済に及ぼす影響は、直接、間接いろいろあるかと思うが、最近のテロ懸念も含めて、テロと経済との関係をどのようにお考えか。

【答】

世界経済が次第に順調な拡大過程に入っている。グローバル経済と密接な連関を持ちながら、日本経済も次第に自律的な拡大メカニズムに向かおうとしている。そして、おそらく物価の状況についても、一番のベースとなるところで、少しずつ改善が進みつつあるのではないか。このような状況であるが、今後とも、この良い傾向がさらに強まっていくかどうかをみる時、いくつかのリスクがあるということは、かねてから申し上げている。

そのうちの1つの地政学的リスクというものから引き続き目が離せないということは、かねてから申し上げてきた。幸いにして、昨年3月に始まったイラクとの直接の武力対決は短期で終わったけれども、その後のイラクの新しい体制の確立、それだけではなくて、グローバルな価値観の相克というものが、様々な地政学的リスクをより拡散されたかたちで起こしてくるリスクがある。そのようなリスクは、やはり、あまり軽減されないでずっと続いているという感じを、今回の不幸な事件を目の当たりにして改めて痛感している。

今回は、ボランティア活動をなさって積極的に現地で行動されている方々が不幸に見舞われたということで、まことにお気の毒だと思っているが、経済との関係で言うと、そのような地政学的リスクが、引き続き起こって欲しくないけれども、起こり得るような厳しい条件が我々の前にずっと続いているのだということは、冷静に認識しておく必要がある。

これに対しては、少なくとも、私どもは経済の面から考えるわけであるが、実体経済としての日本経済が、外からのショックに強い体質を備えていく必要があり、そのためには、民間部門の企業、金融機関が自ら体力強化に一層の努力をして頂く。我々は、そうした努力を金融面からフルにバックアップしていく。もう1つは、金融資本市場が様々なショックを吸収する「吸収力」というものを常に備えているようなマーケット・コンディション(市場環境)を、用意し続けて行かなければいけないということが、再度確認された。

幸い今回は、金融面から、現在約33兆円という非常に多額の流動性供給を続けているし、消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるまでは、断固今のフレームワークは続けるという時間軸効果に対する信認もしっかり頂戴している。こういう状況のもとであるので、地政学的リスクについても、今後の出方次第ではあるが、相応の吸収力を備えて対応できていると考えている。

【問】

今回のイラクにおける邦人拘束を始めとするイラク情勢の混迷化が、景気にどういった影響を与えるかといった議論は、今回の決定会合でも出たのか。

【答】

地政学的リスクについては、毎回政策決定会合でも議論し、濃淡の差はあれ点検している。今回は、決定会合の直前に起こったことであり、このこと自身の一部始終の影響を全部評価し尽くすというわけにはいかなかったが、今申し上げた通り、取りあえずマーケットがショックを吸収する力は相応に備えているという前提のもとで、今回は基本的な政策スタンスはノーチェンジという結論を出した。今後どのようにマーケットが反応するのか、実体経済にどういう影響が及んでいくのかといった点は、冷静かつ十分にウォッチしていくことを確認した。

【問】

財務省からの外債の買戻しにつき期限延長するという話があると思う。これについての日銀の対応と、延長することに関しての総裁の考えをお聞かせ願いたい。

【答】

日本銀行は、昨年12月末にこの取決めの要綱を公表した。今おっしゃった、売戻日が3月31日以前に来る外貨債券の買入れについては、外為特会が売却した外貨債券を買戻すために必要な円資金の調達が可能となるまでの間に限り、その期限を3か月の範囲内で延長することができるという取決めに初めからなっており、事前に公表させて頂いている。実際に延長するかどうかは、それまでの買入れの額の大きさとか、3月末の時点での政府の資金繰り事情等を考慮した技術的な判断に委ねようということになっていたが、その技術的な判断の結果として、ある部分について、この取決めの通り3か月の範囲内で延長することにした。延長そのものが予定の行動であったというわけではないが、延長しうるということは、取決めの中であらかじめ用意していたものである。

【問】

金融市場と景気の回復について伺いたい。昨年の12月から景気の緩やかな回復が続いており、ここ3〜4か月をみていると、明らかに景気回復が広がっている。金融市場には景気回復を反映した動きを形成する面と、常にオーバーシュートする面とがあると思うが、景気回復の基盤を壊さないことが日銀の役割であるとすれば、現在の金融市場は──長期金利、株、為替ともに、こうした景気を反映した動きであるように思うが──、素直に景気回復を反映して形成されているとお考えか。また、もしそれが崩れた場合には、日銀としては、景気回復の基盤を壊さないために、何かしなければならないようなこともありうるのか。

【答】

今、「景気回復の基盤を壊さないように」という言葉を使われたが、私ども流に言えば、「景気回復の基盤をより強固にしていくために」と前向きの姿勢をとっている。日本銀行が直接、景気回復の基盤を強固にできるということではもちろんないが、民間企業、金融機関がそうした回復の基盤をより強固なものにする方向で努力をされる時に、我々の金融政策がそれをしっかりとバックアップしていく。こういう論理構成と実際の政策の組み立て方で努力をしてきているということだ。

私どもの判断は──今日、冒頭のご質問に対する答えの中でも既に申し上げたが──、この1〜3月の日本経済の動きをみると、景気回復のスピードという点では、当然、昨年第4四半期の非常に速いスピードからみて、若干のスピード調整──反動調整──の局面に入っていると思う。今おっしゃった「景気回復の基盤」という点からこの動きをみると、一言で言えば、景気回復に広がりが出ているということであるし、前向きの循環メカニズムが次第に強まる方向にある。この点の判断が非常に重要で、私どもはその点をしっかり判断の基礎に据えている。従って、今の金融緩和政策の目的である、「景気回復の基盤を次第に強固にしていく」、「そのための民間の努力を後押ししていく」という点では、効果を上げつつあると考えている。

一方で、市場に非常にかく乱的な動きが起こって、せっかくこういう良い方向の動きに対してダメージを与えるような動きになっていないかどうか──あるいはそういうことが起こりうるのかどうか──ということは、我々はいつも注意深く見ている。今の円相場の水準はどうだとか、長期金利の水準がどうだとか、特定の時点の相場水準について、それが景気回復の基盤に対してプラスなのか、マイナスなのか、中立なのかという判断をすることは、なかなか難しいと思う。1つだけ感想を申し上げれば、一頃のように長期金利だけが飛び出して高騰する、あるいは、為替相場だけが飛び離れた動きをするといった頃から比べて、最近は──私自身の感想に過ぎないのかもしれないが──、金利、株価、為替相場の動きというものが、相互に連関性を保ちながら動くようになってきていると思っている。市場が互いに良い牽制をしながら動いていくとすれば、経済実勢に沿った市場の条件を作っていく上で、我々としては相対的に望ましいというか、やり易い状況になってきていると思っている。今の水準がどうだというコメントではないということをもう一度念を押すが、市場全体の動きが相互にチェックをかけながら、市場自身が経済の実勢に沿った動きを探っているということが、今、我々から見えるようなかたちで出ていると思っている。

【問】

本日の会合で全員一致で現在の枠組みが維持された一方で、最近、審議委員の間では、現在の量的緩和の枠組みについて副作用を指摘する意見もあるが、総裁の考えを伺いたい。

【答】

本日の政策決定会合で、次回の決定会合までの調節方針ノーチェンジの決定は全員一致であった。金融緩和の枠組みについては、かねてからお伝えしていた通り、欠点なき政策というのはないのであって、必ずプラスの効果が期待し得る部分と副作用の面というものが背中合わせになっている。その状況がどうであるかというところを絶えず点検しながら前進してきている。現在の33兆円を中心として幅のある流動性供給枠を次回政策決定会合まで続けるということについて全員一致であったということは、少なくとも次回決定会合までに予見し得る実体経済、物価、金融面の動きを前提とする限りプラスの効果が大きく、副作用のほうが少なかったいうことで意見が一致したということであったと私は思っている。講演、インタビューあるいはその他いろいろな機会を捉えて、政策委員会のメンバーがそれぞれに高い見識を披露し、様々な意見を開陳させているが、それは委員によってそれぞれ意見の内容が微妙に違うということだと思う。しかしながら、おそらく副作用として認識されている中身については、各委員ごとにそんなに大きな差はなく、私自身が抱いているものともそんなに差はないのではないかと思う。超緩和に伴う副作用ということであれば、例えば言葉は悪いが民間部門にある種のモラル・ハザードを生みやすいのではないか、問題企業の整理淘汰が進むべきところに時間的余裕を与えすぎないかということは当然あるだろう。それから我々の領域である金融市場、金利機能という点からしても、金利機能をかなり犠牲にした政策であるということを繰り返し私自身も申し上げていることである。30兆円を超える流動性の供給というのは、ずっと先のいわゆる皆さんの用語で言えばエグジット(出口)──私はあまりエグジットとは言わないがエグジットという皆さんの言葉を借りて言えば──の時点での負担が増すということは、おそらく共通に認識されていることだろうと思っている。それらを頭の中に置きながらも、当面、今のフレームワークで緩和政策を続けること、つまり時間軸のコミットメントをしっかり保ちながら続けていくということのプラスのほうが大きいという点で、政策委員会は一致しているとご理解頂いて良いと思っている。

【問】

金融教育の啓蒙について、総裁は熱心に取り組まれる意向だと伺っている。また、金融広報中央委員会のいろいろなイベントにも総裁自ら出席するという意向もあるやに聞いているが、具体的な狙いとどんなことに取り組んでいくのかについて伺いたい。

【答】

金融広報中央委員会で今年度からさらに力を入れようとしている金融の教育については、私自身の考えあるいは日本銀行の考えと、金融広報中央委員会が新しく方針として出していることと非常に平仄があっていると思っている。これから先、日本経済がより持続可能性の強い回復ないし成長過程に入っていく──個々の企業からみてもより競争力の強い条件を整えていく──という前提に立った場合、我々の持っているお金が──私がいつも使っている言葉で言えば──より活き活きと使われていかなければ困る。安全へ安全へとお金が逃げ回るというのではなく、お金を自分自身が使うときも、金融仲介機能を通じて他人にお金を使って頂く場合にも、本当に活きる方向に使われないといけない。そうでなければ、企業が付加価値創造の最前線でグローバルな競争に勝っていくための有効なお金として活用されないということになる。お金そのものの動きがより前向きになっていかなければならない。金融機関とか金融市場の機能は、あくまでも仲介機能であり、本当にお金を持っているのは我々、最終的には個人である。個人が持っているお金が、金融機関なり金融市場を通じて最終的なお金の使い手のところで、活き活きと使われるように流れていかなければならない。そういう意味では金融機関が不良債権問題を早く処理して、来年のペイオフ全面解禁を見事に乗り切り、さらに競争力をつけていく必要があり、金融市場自身も従来のように狭い金融市場ではなく、シームレスな、より幅の広い金融市場になっていくということが必要である。それと同時にお金の最終保有者が、どこにお金を置くかという点も含めて、お金に対する新しいセンスをより強く身に付けて頂くことが重要で、お金を最初にどこに置くかという出発点のところから有効なお金の流れの糸口がつけられるようなものにしていかなければならない。そういう意味で金融広報中央委員会が今年度の方針として打ち出されたより前向きな姿勢を日本銀行としては積極的にサポートしたいし、私個人としてもサポートしていきたいと思っている。生活に身近なテーマを取り上げての全国キャラバン講座を開くということも聞いている。できれば私もキャラバン講座に出たいと思っている。それから金融広報中央委員会というのは、名前が覚えにくい──私も貯蓄広報中央委員会という昔の名前が先に出てしまい、今の名前は確認しないとなかなか出てこないことがしばしばあって大変申し訳なく思っているが──という点でも、既に新しいニックネーム「知るぽると」を発表した。若い人には非常にぴんとくるニックネームをつけ、ロゴもいれたということで、わかりやすい顔つきでこの運動が積極的に展開されていくことを私自身強く期待しているし、サポートしたいと思っている。

【問】

年度末には発券センターでシステム障害が発生し、先日は札幌支店のメール・サービスのアドレスの誤送信があったが、こうしたミスが相次いだことについて、総裁の意見を伺いたい。綱紀の緩みみたいなものがあるのか。また、再発防止に向けてどのような考えがあるのかもあわせて伺いたい。

【答】

内部管理の改革、組織の活性化については──既にご説明する機会を前回頂戴した──、昨年就任して以降、日本銀行の組織の運営について、スリム化の路線は崩さないが、それ一本槍というよりは前向きに日本銀行全体が戦略的に動けるように、「戦略・起動・実現」というキャッチフレーズで新しい運動をしている。それと同時に、内部の役員、あるいは職員に毎回話しかけるたびに、そのように前向きに座標軸をシフトさせていくと言っても、日本銀行の仕事はサッカーでいえばゴールキーパーの役割であるから、守りの堅実性を失ってはゲームは負けだと言ってきている。「堅確性」という言葉が日本銀行の中では昔からあって、事務ミスを起こさないという意識を再確認しながらやろうと毎回訴えてきている。昔に比べると人員削減が進み、少ない人数で、ゴールキーパーとしてあらゆる球を確実に受け止め、その球をもっとも有効に配球していくという前向きな両面作戦を始めているが、堅確性の部分に傷がつかないかという点は、私自身、非常な関心事項である。発券センターでのシステムの問題、札幌支店で起こった基本動作に絡むようなミスといった好ましくないことが起こる度に、私自身も大変心を痛めている。国民の皆さまにこういったかたちでご迷惑をかけないように今後とも最大限努力していくと共に、事務の堅確性は日本銀行の生命線であると再度確認したい。近々、支店長会議もあるのでよく確認しておきたいと思っている。

【問】

エグジット(出口)戦略について伺いたい。エグジットというと、財政政策のほうでも、財政再建に向けたエグジットというものがあると思うが、これは国債管理政策ともからんでおり、まず財政再建を進めて、その後から金融政策を進めていくのか、その辺りは非常に難しいと思う。財政再建をしないまま、このまま景気が良くなってくると、長期金利が跳ね上がり、金利急騰のリスクもあるから、国債管理政策を十分行っていき、そこで金融政策としての役割があるのではないかと思う。その辺りで、財政との関連でエグジット政策というものをどうお考えになるのか伺いたい。

【答】

時間的距離との関係では、大変複雑なご質問であり誤解なく聞いて頂きたい。非常に重要な点である。

まず、金融政策の「エグジット」は——私は「エグジット」という言葉は今まで使ってないし、今のご質問のお言葉を借りてお返ししているだけである——、日本経済をデフレから早く脱却させる——日本銀行の金融政策のターゲットで言えば、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になる——ということである。こうしたことをなるべく早く実現するために、最大限努力しているし、今後とも努力していく。そういった意味ではなるべく早くということだが、これだけ経済の方向性が良くなってきても、なおその時間的距離を非常に至近距離において考えるという状況にはなっていない。つまり、早く実現したいが、残りの1マイルはなお厳しいという相対的な時間感覚を持っていることを認識して頂きたいと思う。

それから、財政再建という言葉をお使いになられたが、長期的に見て日本の財政規律というものをより強めていくことが当然重要な課題である。この時間的距離はもっと長い。金融政策が今の緩和のフレームワークの段階を過ぎる時期からさらにその先において、非常にロングランな、しかし非常に重要な課題として意識していかなければならない。おそらく、金融政策が今お尋ねになったようなかたちで「エグジット」という時期を過ぎた以降の状況になると、人々が経済政策全体を見た場合に、財政規律を将来にわたってどう確立していくかという点について、デフレの状況が続いている今の状況よりもより厳しく、より厳格な判断を持ってウォッチしていくであろうと思っている。また、そのような人々の視線に我々は強く期待しており、長期的に見て財政規律というものがしっかりと担保される前提のもとでなければ、より均衡のとれた日本経済の姿にたどりつくための望ましい金融政策を組み立てていく作業そのものに困難さが加わるということにもなってくる。従って、日本銀行も時の経過とともに財政規律に対する見方を厳しい方向にしていかなければならないと思っているが、これは非常にロングランな課題である。政府は既に、10年くらい先を展望して、プライマリー・バランスの回復——ないしはプライマリー・サープラスの実現——というターゲットをしっかり持ってこれから前進していこうとしておられる訳だが、おそらく時の経過とともにそれがどのような具体的な裏付けをもって実現されていくのかについて、より詳しく人々の検証作業が始まるだろうと私は見ている。

【問】

これまでの話と若干重複するが、素材・原料の価格の上昇についてどうのようにご覧になっており、エグジットとの兼ね合いについてどのようにご判断されているのか。また、所得・消費の動きなどの現状認識と今後の景気見通しについて、改めて整理して教えて頂きたい。

【答】

第1の問題は、世界共通の問題として起こってきている。世界経済が持続的な拡大傾向を強めれば強めるほど、最近の世界経済の構造の中では、原油、一次産品、原材料価格の上昇にスピードがつく構造になっていると思うが、同時に、最終価格——小売ないし消費者物価——段階へのパス・オーバー(波及)が、過去の世界経済のパターンに比べれば遅れがちの現象が起こっている。従って、川上段階の物価上昇が起こった時に、全般的なインフレに結びつく時間的距離がやや遠くなっていると思う。その間には、IT革命の進行があり、先進国、特に米国や日本においては、イノベーションによる生産性向上のスピードが上がってきているという重要な要素が介在していると思う。インフレの問題にしても、デフレ脱却の問題にしても、経済の持続的な回復をきちんと確保しながら、そのような方程式の中で、最終段階の物価動向の変化への時間的距離を正確に推し測りながら、今後の経済運営を進めていくことが必要であり、最も重要な点であると思う。

世界経済全体としては、これまで懸念されていたディスインフレーションのリスクが少しは減ってきているが、まだ最終段階の物価動向の目立った変化を読み取れないでいる。日本経済についても、今、消費者物価指数は表面的にはゼロになっているが、多分いろいろな特殊要因を除いて考えると、実勢はまだ若干のネガティブ・ゾーン(マイナス・ゾーン)で動いている。今の景気の回復パスが続く——あるいは先程申し上げた循環的な回復のメカニズムがさらに強まっていく——とすれば、実勢としての物価の基調はさらに改善していく。つまり、デフレ度合いが縮まる方向にいくだろうと思うが、昨年以来の米価などの特殊要因がこれから剥落することを考えると、表面的な消費者物価指数の前年比変化率は、もう1回若干マイナスになる可能性があるなど、少し複雑な状況である。その辺りのところは正確に見ながら、実勢としての消費者物価指数がどの方向に、どの程度変化しつつあるかということを、これからますます正確に見ていかなければならない段階に入っているのではないかと思う。

もう1つのご質問については、日本経済の自律的な回復メカニズムとして、企業段階で生産が増え、企業所得つまり収益が増え、投資が増えるという好循環の他に、企業収益が個人所得に還元されて、現在既に見られている個人消費の回復が所得の裏付けを伴ってよりしっかりしたものとなることで、自律的な回復メカニズムのもう1つの重要な柱が整ってくる展望が、しっかりと得られることが大事であると思っている。これまでのところ、日本経済を見ると、雇用の面では少し良い傾向が出始めていると思うが、企業は引き続き賃金政策についてかなり厳しいものを維持している。賃金面への還元という点については、調整に十分歯止めがかかったかどうか、まだこれから確認する段階である。しかし、今の趨勢からいくと、この面についても次第に良い方向への動きが出るのではないかと感じられ始めていると思う。今はその程度の認識でおり、確認作業はこれからということになると思う。

【問】

先程、デフレ脱却の時期について、なるべく早くとした上で「残りの1マイルは非常に厳しい」とおっしゃった。最近、武藤副総裁、春審議委員がそれぞれインタビューで、04年度についてはまだデフレが続くだろうけれども、05年度についてデフレの脱却を期待しているという期待感を表明されたのだが、福井総裁もそのような——同じような——期待をお持ちであるのか伺いたい。

【答】

次回の政策決定会合で、いわゆる展望レポートの新しいものをお示ししたいと思っており、今、各委員——私自身も——とも、それに向けて引き続き勉強を重ねているところである。従って、今の段階で明確なことは残念ながら申し上げられない。

先程申し上げたことの繰り返しになるが、気持ちとしてはなるべく早くと思っている。しかし、実態を分析すると、残り1マイルというのは結構厳しいという面もあり、明確にいつ頃と時期的な焦点を当てることができるかどうか、もう少し勉強の時間を頂きたいと思っている。

【問】

景気判断について、もう一度お聞きしたい。外需主導の回復が次第に国内需要に波及してきたという景気判断であるが、自律的回復——総裁が考えられているその概念如何にもよるが——に至る条件としてはどういうことが必要なのか。もう1点は、流動性供給のレベルが約33兆円と非常に高い規模になっているが、今後、もしこのレベルを30兆円なり25兆円なりに引き下げていく場合、このこと自体が実体経済に対してデフレ効果を持つというご判断なのか。

【答】

輸出主導という言葉をお使いになったのだが、一昔前の経済と違って、本当に経済はグローバル化している。シンクロナイゼーションという言葉を使われる方もいるが、世界経済と日本経済というのはいろいろ複雑に絡みあって動くようになっていて、なかなか切り離すことができなくなっている。従って、今の経済というのは、強いて分解すれば、世界経済が順調な回復過程にあるという面と、それと同時並行的に日本経済自身の構造改革が進んで企業が次第に前向きの投資に踏み切れるようになってきている——その前提としては、日本企業独自のイノベーションが進んでいる——という面がある。その両者が歯車のように噛み合って前進しているという姿であって、両者を分解して見ることは可能であるが、分解して動かすことは不可能だという状況になっていると思う。

そういう目で見ると、引き続き世界経済というものが大きな波を起こすことなく安定的な回復基調を続けてくれると同時に、その中で日本経済が上手い位置付けを占めながら、国内的な構造改革をより強いイノベーションに結び付けていくということが必要である。その点からいくと、繰り返し言っているが、製造業を中心に相当程度の前進がみられており、今は非製造業ないし中小企業の段階にそれが波及しつつあるところである。さらに付け加えれば、企業収益が個人所得の面に還元されて、個人消費が所得の裏付けを伴った回復過程を明確に示してくるところまで条件を整えることが必要だろうと思っている。強いて国内的に言えば、企業がより強力にイノベーションに取り組めるような段階に早く至ること、そして、おそらく将来にわたって企業はダウンサイジングの努力を緩めるということはもうないと思うが、それでも企業収益の個人所得への還元が現状よりは力強く進むということを条件に挙げることができると思う。

流動性供給のレベルを下げるということは、近い将来全く念頭にない。従って、日本銀行が突然に流動性の供給レベルを下げ、デフレ圧力を加えるという心配は全くご無用とお考え頂いて結構である。

【問】

4月後半にワシントンでG7が予定されているが、今回、日本としてはどのようなかたちで景気の状況などを伝えていきたいのか。また、前回2月のG7の時には、円高がデフレ脱却に向けた日本の政策に悪い影響を与えるという懸念があったと思うが、円高のリスクがどのように変化しているのか教えて頂きたい。

【答】

G7にはまだ時期が早いので、私の頭もそこまで行っていないが、イノベーションという面で先頭を走っている米国経済が高い生産性を上げているという事実は再三確認されている。雇用の面での安定的な回復という、もう一つ重要な要素がしっかり加わってくることが大事だとみられていたが、最近の数字は少しそれを裏付け始めているのかどうか、その点も含めて、米国経済の安定的な回復を中心とした世界経済のより持続的な回復のパスを相互に確認したいというのがナンバーワンである。

為替の問題については、恐らく相場そのものの動きをどうするという議論は、想像されるほど中心議題にはならないのではないかと思う。相場の背景にある米国のインバランスの問題と、一方で米国の潜在的な成長率の強さがどこまで上がるのか、この両面が為替相場の将来を決めていく場合に非常に重要な要素になる。しかし、それは米国経済だけでなく、欧州及び日本、アジアの潜在成長能力がどこまで安定的に上がっていくかということとの兼ね合いで、最終的なファンダメンタルズとしての相場が決まってくるということだ。米国の双子の赤字という問題だけではなくて、一方で持続的な回復のためにイノベーションを軸として各国の潜在成長能力がどれぐらい上がっていって、その間のバランス感覚がどうなのか、この組み合わせの議論が十分行われるのではないかと思う。

以上