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総裁記者会見要旨 2019年4月25日(木)
午後3時半から約65分

2019年4月26日
日本銀行

(問)本日の決定内容と展望レポートについて説明をお願いします。

(答)本日の決定会合では、強力な金融緩和を粘り強く続けていくという日本銀行の政策運営方針をより明確に示すため、政策金利のフォワードガイダンスを明確化するとともに、強力な金融緩和の継続に資する措置を実施することを決定しました。

具体的には、まず、フォワードガイダンスについて、「海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している」ことと変更しました。

あわせて、強力な金融緩和を粘り強く続けていくため、円滑な資金供給および資産買入れの実施と市場機能の確保に資するよう、適格担保の拡充、成長基盤強化支援資金供給の利便性向上、国債補完供給の要件緩和、ETF貸付制度の導入、という4つの措置を講ずることも決定しました。

また、金融市場調節方針については賛成多数で、長期国債以外の資産の買入れ方針については全員一致で、これまでの方針を維持することを決定しました。

次に、経済・物価見通し等について、展望レポートに沿って説明します。

わが国の景気は、海外経済に減速の動きがみられるもとで、輸出や生産は、足許では弱めの動きとなっており、製造業の業況感も悪化しています。一方、3月短観でみた2019年度の設備投資計画がこの時期としては高めの伸びとなり、個人消費も、振れを伴いながら緩やかに増加するなど、家計・企業の両部門において、引き続き、所得から支出への前向きの循環が働いています。こうした点を踏まえ、景気の総括判断については、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している」としました。

先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとみられます。輸出は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくもとで、基調としては緩やかに増加していくと考えられます。国内需要も、消費税率引き上げなどの影響を受けつつも、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、増加基調を辿ると考えられます。2020年度までの成長率の見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。

次に、物価面では、消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。物価の上昇を遅らせてきた諸要因の解消に時間を要している中で、中長期的な予想物価上昇率も横ばい圏内で推移しています。

先行きは、マクロ的な需給ギャップがプラスの状況が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値上げ許容度が高まっていけば、実際に価格引き上げの動きが拡がり、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まるとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。2020年度までの物価見通しを、従来の見通しと比べると、概ね不変です。

もっとも、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響など、そうした経済・物価の中心的な見通しに対する不確実性は大きいと考えられます。リスクバランスについては、経済・物価ともに、下振れリスクの方が大きいと判断しています。物価面では、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、「物価安定の目標」の実現には時間がかかることが予想されます。

なお、展望レポートについては、片岡委員が、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対されました。

以上のような認識のもと、日本銀行は、冒頭申し上げたように、政策金利のフォワードガイダンスの明確化と、適格担保の拡充などの措置の実施を決定したところです。こうした対応は、強力な金融緩和の継続に対する信認を高め、「物価安定の目標」の実現をより確かなものとすることに資するとともに、金融市場の安定にもつながると考えています。

また、これまで同様、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため必要と判断される場合には、迅速に、政策の調整を行う方針です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。

(問)本日の展望レポートでは、2021年度におきまして、目標とする2%になお届かない1.6%という見通しが示されました。一方、本日の決定内容では、フォワードガイダンスの明確化あるいは強力な金融緩和の継続に資する措置ということが決定されたわけですけれども、本日の決定内容というのは、物価目標の実現に向けた金融緩和の強化あるいは追加の金融緩和である、というような理解でよろしいでしょうか。

(答)先程申し上げた通り、わが国の景気は、先行き、基調として緩やかな拡大を続けるとみられ、物価も、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。もっとも、海外経済の動向をはじめ、経済・物価の先行きを巡る不確実性は大きいと思われますし、また、2%の「物価安定の目標」の実現には、なお時間がかかることが見込まれています。

こうした認識のもと、日本銀行は、「物価安定の目標」の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く続けていくという政策運営方針をより明確に示すことが重要と判断しました。

このため、日本銀行の金融緩和姿勢に対する市場や国民からの信認の強化に資するよう、政策金利のフォワードガイダンスを明確化することとしました。また、適格担保の拡充など、円滑な資金供給や市場機能の確保に資する措置を講じることとしました。

このような対応は、強力な金融緩和の継続に対する信認を高め、「物価安定の目標」の実現をより確かなものとすることに資するとともに、金融市場の安定にもつながるものと考えています。

(問)本日の決定会合は、定例の会合としては、平成時代最後ということになりますけれども、この30年余りの金融政策を振り返って、総裁のご所見あるいは新たな令和の時代に向けて決意のようなものがございましたらお願いします。

(答)私自身は、日本銀行の総裁に就任したのが2013年3月ですので、6年少しということで、平成時代の30年全体を振り返るというのもやや僭越ですが、現在の私からみて、やはり平成時代のわが国の金融政策は、ある意味デフレとの闘いであったと総括できるのではないかと思います。

いわゆるバブル崩壊以降、金融機関の破綻による景気の急速な悪化もあって、潜在成長率は趨勢的に低下し、景気に中立的な実質金利である「自然利子率」も低下しました。同時に、物価上昇率も趨勢的に低下し、緩やかな下落に転じていきました。このため金利面では、平成10年を過ぎた頃には、短期金利がゼロ制約に直面することとなり、景気低迷やデフレから抜け出すのに十分な水準まで、実質金利を引き下げることが難しくなったわけです。平成最後の10年間に生じた、リーマンショックや欧州債務危機、東日本大震災などの出来事も、デフレから抜け出そうとする日本経済にとって大きな試練になったと思います。

そうした状況に直面する中、日本銀行は、デフレを克服するため、伝統的な短期政策金利の引き下げといった政策にとどまらず、様々な新しい施策、いわゆる「非伝統的な金融政策」手段を活用してきました。金融政策運営の観点から平成時代を振り返りますと、多くの国に先駆けて、「非伝統的な金融政策」に挑戦し、進化させてきた時代といえるのではないかと思います。

そして、平成25年には、2%の「物価安定の目標」を定め、それまでよりも一段と強力な「量的・質的金融緩和」を導入しました。現在も、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という強力な金融緩和を粘り強く続けています。こうした枠組みのもとで、わが国の経済は大きく改善し、消費者物価の前年比も、ここ数年、プラスの状況が定着しています。このように、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではない状況で、平成の終わりを迎えることができたと思います。

もっとも、これまでのところ、2%の「物価安定の目標」は実現できていないわけでして、元号が令和に変わっても、「物価の安定を図ることを通じて、国民経済の健全な発展に資する」という、日本銀行の使命は変わらないと思います。今後とも、そうした使命を果たすべく、わが国の中央銀行として最大限の努力を続けていく所存です。

(問)2つお伺いします。まず1つはフォワードガイダンスの修正ですけれども、いまお話がありましたように、粘り強く続ける方針を明確化したということですが、「2020年春頃」としているこの期限にどういう思いを込められているのかということと、この期限はこれまで「当分の間」でやや曖昧にしてきた低金利の継続期間が少し延びたというふうに理解してよろしいのでしょうか。

もう1つは物価の見通しなのですけれども、21年度も1.6%ということですが、これは21年度末まで2%は達成できないということなのでしょうか。もしそうだとすると、2%の達成時期について、いま現在のお考えをお聞かせください。

(答)まず、1点目のフォワードガイダンスについては、基本的にはより明確化したということです。以前のフォワードガイダンスでは、10月の消費税率引き上げを例示しつつ、経済・物価の不確実性ということで、「当分の間」、現在の非常に低い長短金利を継続するという言い方になっており、どうしてもこの税率引き上げが予定されている10月が近づくにつれて、ガイダンスが想定している期間である「当分の間」という時間軸が分かり難くなり、やや短くみられる懸念がありました。それに加えて、何よりも、最近になって世界経済の不確実性がかなり大きく焦点になってきたということもありますので、「当分の間」というのがかなり長い期間であることを明示しました。「少なくとも2020年春頃まで」ということですから、当然のことながら、従来皆さんが考えておられたよりもだいぶ長い、「少なくとも」と言っていますので、「当分の間」というのは、2020年の春よりもっと長くなる可能性も十分あるわけで、そうした意味で「当分の間」というのはかなり長い期間であることを明示したということです。

それから2点目は、展望レポートの政策委員の大勢見通しの中央値でいいますと、消費者物価指数(除く生鮮食品)でみて、2019年度が1.1%、2020年度が1.4%、2021年度が1.6%です。もちろん、これは2021年度の2020年度に対する上昇率であり、2021年度の12か月の間の動きは明らかにしていませんので、2021年度全体として1.6%であっても、2021年度中に2%に絶対にならないとはいえませんが、概ね2021年度に2%に達する可能性は低く、従って、今回展望レポートで見通し期間を1年延ばしたもとでも、2%に達するのは、やはりその見通し期間の先になりそうだということです。ただ、12か月の間の物価の動きを特定しているわけではありませんので、2021年度中に2%になる可能性が絶対ないともいえないということだと思います。

(問)2点お伺い致します。1点目は、今の質問とも関係するのですが、この今示されている2021年度というのは、総裁の任期でいうと、もう就任されて9年目というところにあたりまして、総裁の任期が終わるまでには、更にその後1年しかないということになりますが、場合によっては総裁の任期中に2%を達成できないということもあり得るのか、その辺、自信のほどを教えてください。

もう1点、先程、今日は平成最後の決定会合ということでしたけれども、元号とこの金融政策というのは直接関係するものではありませんが、デフレではない状況で平成の終わりを迎えることができたと、先程は前向きに捉えていらっしゃいましたけれども、デフレ脱却宣言まではいけなかったということで、この辺残念に思ってらっしゃる気持ちがあるのか、この辺りを教えてください。

(答)私の任期と結びつけて物価安定目標云々をいうのは僭越だと思いますが、いずれにしても2013年1月の政府と日本銀行の「共同声明」でもあるように、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということは、日本銀行としてコミットしているわけです。当然そういった方向で2%に達することを期待していますし、そうなると信じていますが、任期云々というのは僭越なので、直接的にお答えするのは避けたいと思います。

デフレ脱却宣言は、ご承知のように政府がされることです。もうデフレではない状況になっている、つまり持続的に物価が下落するという状況では全くない、という意味ではデフレではないのですが、デフレ脱却というためには、政府はまたすぐデフレに戻るようなことのない、しっかりとした状況になったかどうかをいくつかの指標で判断して、デフレ脱却宣言をされると伺っています。ですから、それについては直接に申し上げかねますけれども、日本銀行として2013年1月にできるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を実現するというコミットをしているわけですので、6年経ってもまだ2%の「物価安定の目標」を達成できていないということは、大変残念だと思っています

(問)「少なくとも2020年春頃まで」という文言ですが、説明が長くなってくると、その分緩和の時期も長引いてくるような気がしてしまう、ということもありますし、その反面、その「2020年春頃」以降、緩和縮小に向かうのかとも受け取られかねないと思いますが、そうした中でもこの言葉を入れた、この時期を明確化したというところ、改めてなぜこれを入れようと決意されたのかという理由を教えてください。

(答)2019年10月の消費税率引き上げを例示して、経済・物価の不確実性を踏まえて、当分の間、現在のような低い長短金利を維持する、と申し上げてきた中で、消費税率の引き上げが行われたらすぐ金利の見直しをするのか、と取られる向きもあったので、そういうことではありませんということです。むしろ、世界経済の不確実性という点を特に挙げているのは、ご承知のように、IMFも含めて、今年の後半から世界経済は成長を加速していくという見通しになっていますが、そこにもまだ不確実性は残っているためです。ですから、少なくとも2020年の春頃までは、金利を引き上げるような見当は全くありませんし、それより先でも、「当分の間」ですから、かなり長い期間にわたって、現在の極めて低い長短金利を継続するということでして、2020年春になったら何が何でも金利を見直すというようなことは全く考えていません。

(問)10月に予定されています消費税率の引き上げについてですが、自民党の萩生田幹事長代行が、6月調査の短観の内容次第では、その延期もあり得るという認識を示したことによって、にわかに日銀短観が消費税増税の鍵を握る存在になってきていると思いますが、その受け止めについて教えてください。

(答)消費税率の引き上げを含めて、財政運営については、政府・国会の責任において行われるものですので、ご指摘の点について具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。日銀短観はご承知のように、極めて包括的な調査でして、その回答率も極めて高く、しかも相当長く続いていますので、その統計のくせなどもわかっていますし、私どもが金融政策を議論する上で極めて重要な指標であると思っています。ただ、これはアンケート調査ですので、いわゆるハードデータではなくてソフトデータであるということを十分私どもは認識しながら、いわば企業の短期的な先行きの動きをみるために活用しているものです。財政云々の話は、私の方からコメントするのは差し控えたいと思います。

(問)重ねてフォワードガイダンスでお伺いします。今回、「2020年春頃まで」ということで、カレンダーベースで時間軸を設定したわけですけれども、今後、時間軸が更に延びる場合なのですが、やはり引き続きカレンダーベースで期限を考えていくのか、それとも物価とか経済指標に紐付けて考えていくこともあり得るのか、その辺の現時点の総裁の考えをお願いします。

(答)現在のフォワードガイダンスは、基本的には、いわゆるステートコンティンジェントすなわち経済・物価情勢に応じて、またデータディペンデントという、そのときまでに得られたデータや情報を用いて判断する、という仕組みです。今回、海外経済の動向をフォワードガイダンスの判断要素に加えたことで、よりその点は明確になったと思います。そのうえで、今回「少なくとも2020年春頃まで」という具体的な時期を示していますが、これは、先行き少なくともこの期間は、現在の極めて低い長短金利が適当であるような経済・物価情勢が続くと想定しているということを分かりやすく示したものです。いずれにしても、「当分の間」というのは、「少なくとも2020年春頃まで」ということで、それ以上になることも十分あり得ることを示していますが、あくまでも基本的な考え方としては、ステートコンティンジェントでデータディペンデントであるということだと思っています。将来このフォワードガイダンスを変えるかどうかや、変える場合にどうなるかというのは、その時点での議論によるということだと思います。

(問)消費増税の件で3点お伺いします。まず、ハードデータではないアンケートである日銀短観を、増税延期の材料として扱うことの正当性についてまず1点教えてください。2点目が、財政規律という観点から消費税増税の必要性について総裁はどのようにお考えかというところを教えてください。3点目が、現在の国内景気は増税を延期する程悪化しているのかという、景況感について教えてください。

(答)まず全体として、この消費税の増税云々の問題というのは、財政運営の根幹でありまして、あくまでも政府と国会の責任において行われるものですので、中央銀行の立場から何か具体的なコメントをするというのは差し控えたいと思います。従って、そういう判断のときにどういう状況をみて判断するか等について、私から何か申し上げることは差し控えたいと思います。そのうえで一般論として申し上げますと、わが国の政府債務残高は極めて高い水準になっておりまして、政府が中長期的な財政健全化について市場の信認をしっかりと確保することは、極めて重要だと思っています。2013年の政府・日本銀行の「共同声明」においても、政府は持続可能な財政構造を確立するための取組みを着実に推進するということになっておりまして、今後ともこうした取組みがしっかりと進められるということを期待しています。

(問)金融緩和継続に資する諸措置の中の、ETF貸付制度の導入についてです。背景として、どういう背景でこうした制度の導入を検討することに至ったのか。今、たぶん日本でETF貸借市場というのは殆どないのではないかと思っているのですけれども、市場関係者の要望などがあったのか、それから、検討とありますのでどのぐらい時間をかけるのか、そして、金融緩和の継続に資する諸措置の中にあるのですが、流動性が向上するのだろうということは想像できるのですけれども、金融緩和あるいはリスク・プレミアムに資するというようなところに働きかける効果も期待されているのでしょうか。

(答)ETFの貸付制度につきましては、市場関係者から要望があることは事実です。その背景は、昨年からETFについて証券会社等にマーケットメイキングを求める形になっており、証券会社としては、ある程度手持ちの在庫がないとうまくマーケットメイクが行いにくいということがあります。その中で、日本銀行がETFを通じて持っている株式の額というのは、東京市場の3%とか4%と小さいわけですが、ETFだけみますと7割や8割、ものによってはもっと率が高いということで、市場でマーケットメイクする証券会社からみると、非常に手持ちが少なく、その結果ビッド・アスク・スプレッドがやや開いてしまったり、市場の流動性や市場機能が十分に発揮されにくくなっているという意見があります。それはある意味で納得のいくところですので、こうしたETFの貸付制度を創設することによって、ETFの市場がより良く機能するようになることを期待しています。ETFを買い入れているのは、当然あくまでもそういうことを通じてマーケット全体のリスク・プレミアムを圧縮し、ひいては経済全体、物価にも良い影響を及ぼすということを期待してやっているわけですので、市場がより良く機能するようになることを期待しているわけです。ただ、これは全く新しい制度ですので、市場関係者ともよく詰めた話し合いをする必要もありますし、それから、この新しい制度については財務大臣の認可が必要になっています。従って、他の措置と違って実現までに若干時間がかかると思いますが、これ自体はマーケットの機能をより良く発揮させるための措置です。そういうことを通じて、全体として、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環として現在やっている措置についても、より効果を発揮できるようになると期待しています。

(問)金融機関経営に関するご認識なのですけれども、4月中旬に日銀が発表した金融システムレポートで、金融機関経営、特に地域金融機関の経営に関してはかなり厳しめのトーン、警告を発せられたように思います。半年前と比べてですね。総裁ご覧になって、今の金融機関経営、あるいは特に地域金融機関の経営の現状、課題についてどんなふうにお考えか。そして、やはり直感的には、これは超低金利あるいは金融緩和政策の影響もあるのだろうなと想像するのですけれども、その辺りも含めて教えて頂けますでしょうか。

(答)過去6年間、地域金融機関の純利益は比較的良い水準で推移しているわけですが、中身をみますと、いわゆる業務純益というか貸出による基礎的な収益はだんだん下がってきています。それを、これだけ景気が良くなって倒産がとても減っていますので信用コストがどんどん減っているということと、手持ちの株式や債券の売却益で穴埋めし、かなり良い純利益の水準を維持してきたわけです。しかし、信用コストも歴史的にみて非常に低い水準にあり、一部には反転の兆しもありますし、少なくともこれ以上下がっていくことはちょっと考えにくいです。それから、株式や債券もかなり売却し、売却益を出すものもやや少なくなっているわけですので、地域金融機関の業務純益の低下傾向をこのまま放置すると、だんだん全体としての利益にも影響してくることが懸念されていることは事実です。これは以前から指摘している点です。そうした中で、足許では、かなり良い純利益を上げていますし、資本や流動性も十分です。しかも、地域金融機関は貸出を3%程度伸ばしていますし、金融機関としてしっかりした金融仲介機能を果たしておられるので、今の時点で問題があるわけではないのですが、5年、10年といった少し長い目でみると、あるいはリーマンショックのようなことがすぐ起こるとは思いませんが、仮に何かそのようなショックが起こったときの影響など色々なことを考えますと、業務純益がだんだん低下していくという傾向は、やはり対応していく必要があります。

この傾向は、実はこの6年の間というよりももっと、15年、20年くらいずっと続いている傾向です。一番大きな理由はやはり構造的な要因で、地方における人口減少、それから企業数の減少が続いているということです。そうした中でも、地域金融機関として、様々な金融サービスを提供し、地域経済の振興に役立つ形で、地域金融機関自身の利益も確保していくということは可能であるとは思うのですが、ただこのままでいると、5年、10年経つと難しくなる銀行も出てくるということを示し、既に経費節減等様々な努力はしておられますが、地域金融機関に、合併や業務提携なども含めた更なる様々な改革の努力をして頂く必要があるのではないか、ということを指摘しています。ですから、足許で大変なことになっているということではない、信用仲介機能も十分果たしておられる、資本も流動性も十分あるということで、長期的なことについて今のうちから対応していった方がいいのではないかという指摘です。

(問)フォワードガイダンスのところにまた戻って恐縮なのですが、かなり長い間やることを明確にしたかったということなのですが、ただ、マーケットの中には、来年4月を意識すると結構思っていたより早いではないか、と。というのも、最近、追加緩和の期待が増えていたようで、来年にも利上げがあるとみている方は結構少数で、この「2020年春頃」というのは、ある意味ちょっと日銀はタカ派なのではないか、とそういう見方もあるのですが、それについてお願いします。

(答)そういう見方はあまりないと思います。あくまでも消費税率引き上げの影響を見極めるということだけでなく、むしろ世界経済の不確実性と、これが本当に年後半に回復していって万事うまくいくのか、まだ分からないわけですから、最低2020年の春頃までは見極める必要があります。それだけではなく、「当分の間」というのは、ご承知のように英語ではfor an extended periodというので、日本語としても私はかなり長いと思っていたのですが、市場の人達はもっと短いと思っておられたらしいので、もっと長いのです、ということをより明確にしたということです。

(問)ジャパニフィケーションとか、海外で日本が金融緩和をやっても物価が上がらない、物価が目標に達しないというところ、ヨーロッパは顕著なのですが、日銀が6年間大規模な緩和をやってきて、更に3年をみてもなかなかいかないという状況は、それぞれの国の事情等あるとは思うのですが、中央銀行全体にとってどういった示唆があるのでしょうか。

(答)人に示唆を与えるようなつもりもありませんが、ご案内の通り、日本銀行は2013年4月に「量的・質的金融緩和」という、それまで以上にかなり大胆な大規模な金融緩和を始めて6年経つわけです。米国の中央銀行もリーマンショック直後からかなり大規模な緩和をし、QE1、QE2、QE3とやってきて、ようやく2%の物価安定目標に近づいたというところです。ECBは、一部はそれより前に、リーマンショックの1年前に欧州のあるファンドが破綻したときから、かなり量的に緩和を始めていて、その後の欧州債務危機のもとで、非常に大胆で大規模な金融緩和をしてこられましたが、物価は今2%にはまだ達しておらず、1%台の前半くらいだと思います。わが国の場合は、0.8%、1%弱くらいですが、そういう意味では、各国とも物価安定目標の達成までには時間がかかっています。

そうしたもとで、実は経済は相当回復して堅調に推移しており、特に今の労働市場のタイトさという点では、米国、日本はほぼ完全雇用というところです。その割になかなか物価の上昇が加速していかないという状況ですが、その背景には、いわゆるフィリップスカーブがフラット化したのではないか、などと色々なことが言われています。わが国の場合は、やはり一番大きいのは1998年から2013年まで15年続いたデフレというものが、企業や家計のデフレマインドというものを作って、なかなか予想物価上昇率がしっかり上がっていかないということがあり、またそうしたもとで、企業の賃金・価格設定スタンスがまだ十分に積極化していないということもあると思います。

ただ、そうしたもとでも、先程来申し上げているように、需給ギャップのプラスが続いていますし、賃金も上がってきています。今年のベアも最初の集中回答時期には、大企業が中心だったので、昨年よりちょっと低めだったのですが、その後は中小企業もベアが出てきて、足許では昨年よりベアの上昇率は少し上回っているという状況です。

やはり賃金も上がってきて、そして物価も上がっていくという状況が、一番持続可能であり、着実に物価安定目標に近づいていくものであると思います。欧米も、というよりも日本が特に時間がかかっているということは事実ですが、現在のようなプラスの需給ギャップを続けていくことを通じて、実際の賃金・物価が上がり、それを反映して予想物価上昇率も上がっていくということになって、徐々に2%に近づいていくというモメンタムは維持されているのではないか、と思っています。日本の状況が欧米の教訓になるということは必ずしもないと思いますが、経済が比較的好調な割に物価がなかなか上がってこないという状況が似ているということは、事実だと思います。

(問)フォワードガイダンスに、時間軸を今回入れたということについてのお尋ねなのですが、FRBが四半期毎に政策金利の見通しというのを示していますけれども、これをパウエル議長が、色々市場が先を見越して色々思惑等々で混乱するということで、見直す考えを示唆していますけれども、世界経済が不透明化したりしますと、なかなか時間軸で先行きを見通すというのが難しくなっていくと思いますけれども、その辺のこのフォワードガイダンスの効果の一方で、懸念されることというか、今後注意すべきことというのはありますでしょうか。

(答)フォワードガイダンス自体、アイデアは最近世に広まったわけです。一番最初はある意味で日本銀行がいわゆる時間軸効果という議論をしていたのですが、より精緻な形でのフォワードガイダンスは、やはり米国から始まったと思います。ただ、その中で、金利のドットチャートというのは、やや米国独自のものでして、それを見直す議論もありますが、現時点で見直されるような状況にあるとも思われませんし、それはそれで、それぞれの国のやり方だと思います。

フォワードガイダンスは、先行きをまさにフォワードガイダンスとして示すことによって、金融政策の効果をより一層高めるという意味があるわけです。他方で、フォワードガイダンスというのは、自分の金融政策の自由度を制限する意味もあるわけです。逆にいうと、制限しているからこそ、マーケットはそれを当てにできるという面もありますが、金融政策としては、やはりその時々の、それからその時々の先行きの経済・物価状況をみながら、適切な金融政策を運営していくことが重要であることも事実です。そこは、フォワードガイダンスのさじ加減というか、ちょうど適切なフォワードガイダンスを見出す必要があるということだと思います。何が何でも物凄く長く絶対にこうしますと言えば信用されるのか、とか、あるいはそれが却って変化する経済・物価・金融情勢に合致しなくなってしまうという問題も考えなければいけません。

そういう意味では、今回は、かなり踏み込んでフォワードガイダンスを強めたことは事実ですが、他方で、あくまでもデータディペンデントであって、「2020年春頃」というのは、「少なくとも」ですから、それよりも長くなることを意味しているわけであり、それよりも短くなることはないでしょうということです。展望レポートで見通し期間を1年延ばしたわけですけれども、消費者物価の上昇率が1.6%ということで、まだ2%には達してないという状況を踏まえて、データディペンデントであり、ステートコンティンジェントであるという基本姿勢は変わらないと思いますが、やや踏み込んで現在の大幅な金融緩和を粘り強く続けていくことをより明確に示したということではないかと思っています。

(問)粘り強く金融緩和を続けていかれるということで、その一方で、いわゆる長引く緩和による副作用とかリスクについて改めてもう一度伺いたいのですが、地銀の収益とか、金融システムレポートでは、不動産市場への融資というのはバブル期であった90年末以来の過熱という判断が出ました。いわゆる副作用、金融緩和、超低金利が続くことによる副作用とみられているのかどうかを一つ伺います。

もう一つは、不動産市場が過熱という判断の中で、日銀はまだJ-REITを買い続けていると思うのですけれども、これは呼び水効果ということで当初いわれていたかと思うのですけれども、今まだそのJ-REITを買い続ける意味というのはあるのでしょうか。

(答)まず、ヒートマップで不動産向け貸出の指標が赤になったということは事実ですが、様々なデータをみると、不動産市場が過熱しているという状況にはないということも、この金融システムレポートで指摘しています。そのもとで、J-REITについての関連資料をみると、不動産市場におけるリスク・プレミアムが過度に縮小しているという状況も窺われませんので、現時点ではJ-REITの買入れについて見直す必要があるとは思っていません。

金融機関の収益に対する影響については、これは金融システムレポートでもかなり詳しく書いている通り、一番根源的な問題というのは、構造的な要因であって、地方の人口や企業数が減少しているもとで、従来通りの支店網を張り巡らしていることが、ビジネスモデルとして成り立つのかどうかという構造的な問題があるわけです。

先程申し上げたように、この6年間は、信用コストの減少と有価証券の売却益で、全体として非常に良い収益水準を維持できており、15年以上続くトレンドとしての業務純益の減少が補填されてきていましたが、それも5年、10年と続くわけではありませんので、その基本的な構造問題に対応する必要があるということです。もちろん低金利状況というものも影響していることは事実ですけれども、例えば、金利が上がって、預金金利との利鞘が拡大したら、直ちに銀行の収益が増えるかというと、当然ですが貸出金利が下がっていることによって、銀行の貸出の量も、3%ずつくらい増えているわけです。「量的・質的金融緩和」を導入する前は、貸出が増えなかったわけですから、そういう意味では、金利を上げれば、貸出が増えなくなり、業務純益も増えないかもしれません。それから、景気が良くなったときに、物価が上がっていく中で金利が上がっていくというのは当たり前ですが、そうではないときに、金利が上がったら銀行の収益が良くなるということも必ずしもいえないと思います。趨勢として、低金利状況が続いて利鞘が縮小していることが、業務純益にマイナスの影響を与えてきたということは事実ですが、そのことと、金利を上げたら地域金融機関の収益が増加するか、というのは、また別の問題のように思います。

私どもの金融政策は、日本銀行が色々な形で政策金利を下げ、あるいは長期国債を直接買って長期金利を下げるといったことを通じて、貸出金利や社債の金利が下がり、融資が拡大して、景気が良くなり、それを通じて賃金・物価も上がっていくという好循環を目指しているわけです。その際に一番重要なのは金融機関の信用仲介機能ですから、それが損なわれると金融政策の効果が減退しますので、金融機関の信用仲介機能が阻害されていないかということは十分注意してみていますし、そういうことにならないように政策運営をしていくことは重要だと思っています。

(問)最近、私たちがニュースを出していますと、毎月毎月、結構食品中心ではありますが、何年振りに値上がりというものがあるのですが、どちらかというと我々としては個人消費などが冷え込まないかというのが若干心配だったりするのですが、総裁はこうした動きをどのように捉えていますか。

(答)ご指摘のように、食料品その他値上げの色々な報道もされていまして、それがどのように今後拡がっていくか、というのは、私どもも非常に関心を持ってみています。典型的には雇用・所得環境です。雇用者所得が増えない中で物価だけが上がっていったら、それは消費にマイナスになるということは十分考えられます。現在の状況は、雇用は極めて堅調であり、賃金も、今年のベアは昨年のベアを少し上回っていることや、十数年にわたってベアはなかったわけですが、この6年はベアがあるということもあって、雇用者所得がかなり堅調に増えています。そうしたもとで物価が徐々に上がっていくというのは、消費の減退につながるとは思っていません。そういう意味では、雇用者所得の動向というのは、私どもも十分注視していますが、今ご指摘のような食料品などの一部あるいはガソリンも上がっているということが、消費の減退につながるということは、現時点では心配していません。むしろ、私どもとして非常に重要なのは、やはり雇用者所得というか、雇用と賃金が上昇していくということだと思っています。

(問)現代金融理論、アメリカのMMTについてお伺いしたいと思います。前回の記者会見で総裁は、MMTについて極端な主張だというふうにおっしゃったのですが、MMTを主張、提唱しているアメリカのケルトン教授は、日本でやっているじゃないかと、日本がモデルだというふうにおっしゃっているわけですが、総裁からご覧になって、MMTと日本でやっているアベノミクス、異次元緩和とはどこが違うのかというのを教えて頂きたいのと、仮にそれを意図してMMTを日本でやっているのではなくても、ケルトン教授からみると、外形的には同じことをやっているというふうにみえているわけですが、だとすると、意図しなくとも結果的には同じことをやっているという、金融政策上の問題点があるのではないかと思うのですが、それについてどうお考えでしょうか。

(答)質問のご趣旨がどちら側に向いているのかよく分からないので、MMTが素晴らしい理論で、それに沿って日本のアベノミクスが進んでるとおっしゃっているのか、MMTの理論が馬鹿げていて、そういうものに沿ったようなことをやるのは間違っているとおっしゃっているのか、どちらか分かりませんが、MMTの理論は、理論としてきちんとした体系になっていないので、批判・反論も難しいのです。ご承知のように、欧米の著名な経済学者は全て、これを極端な議論で全く採ることを得ないと言っておられます。私も、理論がきちっとしていないということもありますが、やはり極端な議論で適切なものとは思っておりません。また、わが国の政策というのは、2013年1月の「共同声明」にもあるように、政府と日本銀行でそれぞれ適切な役割分担をして、日本銀行は2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する、そして政府は中長期的には財政の持続可能性を高める一方で、経済に応じた弾力的な財政運営を行うということです。更には、いわゆる成長戦略といわれるような構造改革を通じて潜在成長力を高めていくという政策です。この役割分担と政策体系というのは、私は理論的にもまた政策としてもしっかりしたものであると思っており、MMTとは全く何の関係もないと思います。

以上