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総裁記者会見要旨 2019年7月30日(火)
午後3時半から約65分

2019年7月31日
日本銀行

(問)本日の金融政策決定会合の結果について、展望レポートの内容を含めてご説明、狙い等を教えてください。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施します。

また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し得るとしています。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きや、金融政策運営の基本的な考え方について説明します。

わが国の景気の現状については、「輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している」と判断しました。

やや詳しく申し上げますと、海外経済が減速するもとで、輸出は弱めの動きとなっており、製造業の業況感も悪化しています。一方で、6月短観でみた2019年度の設備投資計画が高めの伸びを維持しており、個人消費も、緩やかに増加するなど、家計・企業の両部門において、引き続き、所得から支出への前向きの循環が働いています。なお、個人消費の一部には、前回増税時よりも小幅ながら消費税率引き上げ前の需要増もみられ始めています。この間、住宅投資や公共投資は横ばい圏内で推移しています。このように、輸出は弱めの動きとなる一方、国内需要が増加していることから、鉱工業生産は横ばい圏内の動きとなっており、労働需給は引き締まった状態が続いています。

先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとみられます。輸出は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくもとで、基調としては緩やかに増加していくと考えられます。国内需要も、消費税率引き上げなどの影響を受けつつも、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、増加基調を辿ると考えられます。今回の成長率の見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。

次に、物価面では、消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。中長期的な予想物価上昇率も横ばい圏内で推移しています。

先行きは、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値上げ許容度が高まっていけば、実際に価格引き上げの動きが拡がり、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まるとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。今回の物価見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。

リスクバランスは、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に、下振れリスクの方が大きいと考えています。また、物価の見通しについても、経済の下振れリスクに加えて、中長期的な予想物価上昇率の動向の不確実性などから、下振れリスクの方が大きいとみています。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、「物価安定の目標」の実現には時間がかかることが予想されます。

なお、展望レポートについては、片岡委員が、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対されました。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

以上に加え、今回の会合では、経済・物価の下振れリスクが大きい現下の情勢における日本銀行の金融政策運営方針を一段と明確にすることとしました。すなわち、「特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」ことを示しました。日本銀行としては、これまで同様、金融政策運営の観点から重視すべき様々なリスクを注意深く点検し、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれるリスクの顕在化を未然に防ぐために必要と判断する場合には、躊躇なく、政策対応を行う方針です。

(問)今回の金融政策決定会合は、アメリカ、ヨーロッパを含めて、世界の中央銀行が利下げや緩和の姿勢を示す中で開催となりました。海外経済の下振れリスクが大きく、モメンタムも力強さに欠ける中にあっては、日銀も追加の対応をするのではないかというような注目も集まっておりましたが、今回の政策決定において現状維持でも十分だという判断に至ったポイントについてお聞かせください。

先程、総裁が言及された、モメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には躊躇なくというような、これまで会見で何度かお示しされた考え方だと思いますけれども、この今回のタイミングでこれを公表文に盛り込んだ、明文化したということは、日銀としても金融緩和には積極的であるというようなことを内外に示す狙いもあるのかどうか、その辺りについてお聞かせください。

(答)まず、日本銀行も含め、どの国の中央銀行も、それぞれ自国の経済・物価の安定を実現することを目的として、それぞれの置かれた状況に応じて、最も適切な政策運営に努めているということです。わが国の経済・物価情勢をみますと、下振れリスクに注意が必要なことは事実ですが、先行きも、経済は緩やかな拡大を続け、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されるとみています。従って、政策運営としては、現在の強力な緩和を粘り強く続けることで、需給ギャップがプラスの状態をできるだけ長く持続し、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持することが重要であると考えているわけです。

そのうえで、このところECBやFRBが政策スタンスを修正している背景には、世界経済の不確実性の大きさがあると思います。また、海外の中央銀行が金融政策運営に何らかの変更を行うと、国際金融市場あるいは世界経済に影響を及ぼす可能性がある点にも、もちろん留意する必要があります。日本銀行としては、公表文にも明記したように、海外経済の動向を中心とした経済・物価の下振れリスクを十分注視して、「先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」方針を明らかにしたわけです。

経済の見通しについては、公表文および展望レポートの政策委員の見通しのリスク分布からお分かり頂けるように、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きいと判断しています。また、物価については、物価固有の不確実性に加え、経済の下振れリスクが顕在化して物価に影響を与える可能性にもこれまで以上に留意が必要な情勢にあると判断しています。こうした情勢を踏まえますと、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれるリスクの顕在化を未然に防ぐために必要と判断する場合には、躊躇なく、政策対応を行う方針であるということを更に明確にすることが適当と判断して、その旨を公表文にも明記することとしたわけです。従来、私は、モメンタムが損なわれるような場合には、躊躇なく、追加緩和を検討すると申し上げていましたが、今回は、更に一歩進めて、モメンタムが損なわれる惧れが高まった場合に、躊躇なく、追加緩和を行うと申し上げ、より明確に日本銀行としての対応方針を示したということです。

(問)先程の「躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」ということを公表文に明記されたところですけれども、前回会合に比べて、海外経済のリスクというのが2%の物価安定目標に与えるリスクというのが、より強まったというご認識なのでしょうか。その辺を教えてください。

(答)政策委員の中心的な見通しとしては、景気は緩やかな拡大を続けて、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されるとみていますが、そうした見通しには、海外経済の動向あるいは消費税率引き上げの影響など、様々な不確実性があって、リスクバランスは、経済・物価とも下振れリスクの方が大きいとみています。特に、海外経済を巡る下振れリスクは引き続き大きく、しかも最近の保護主義的な動きが世界経済や国際金融市場に及ぼす影響の不確実性が高まっているとみています。これらがわが国の企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要があります。物価については、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の上昇に予想以上に時間がかかるといった物価固有の不確実性に加えて、海外経済を中心とする経済の下振れリスクが顕在化して、物価に影響を与える可能性についても、これまで以上に留意が必要な情勢にあると考えています。

(問)今のご説明の続きなのですが、今回躊躇なくという部分を入れたことについて、総裁から説明がありましたが、近い将来の追加緩和を示唆したというような意味合いにとらえてよいのでしょうか。

リスク要因として引き続き消費増税の話を挙げられていますが、10月の消費税率の引き上げ後の景気減速の可能性について、黒田総裁が現時点でどのようにお考えなのか、お願いします。

(答)海外経済の動向を中心に、経済・物価の下振れリスクが大きいということですので、先行き「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるということです。時間的にすぐということを必ずしも意味してはいないとは思いますが、モメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、直ちに躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるということです。

消費増税の影響については、政府は既に様々な措置を講じており、家計のネット負担額が小幅なものにとどまるようにしていたり、各種の需要平準化策が実施されることなどから、2014年の引き上げ時と比べると、小さなものにとどまると考えています。消費税率引き上げの影響は、そのときどきの消費者マインド等によって変化し得るものであることには留意が必要ですので、引き続き注意深く点検していくという方針には変わりありません。ただ、非常に大きなものになるとは思っていませんし、先程申し上げたように、耐久消費財の一部に、小幅ですが引き上げ前の需要増ではないかとみられる動きもあるという程度です。

(問)先程から出ています「先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には」ということですけれども、このモメンタムが損なわれる惧れが高まる可能性というのは、今どのくらい高まっているとみていらっしゃいますか。

(答)特に海外経済につきましては、最近の保護主義的な動きというものが、様々な不確実性から、既に世界経済や国際金融市場にある程度影響を与えているわけです。仮にこれが長引きますと、その影響は更に大きくなってくるということです。海外経済を巡っては、様々な不確実性があるわけですが、そのリスクというのは下方に厚くなっており、それが日本経済に影響を与え、それによって物価上昇へ向けたモメンタムが損なわれる惧れがあるということです。モメンタムが損なわれるかどうかを、どういうところでみるか、というのは色々な議論があるかと思いますが、基本的には2つです。1つは、需給ギャップがプラスの状況が続いていくことがやはり非常に重要で、そのもとで企業の賃金・価格設定スタンスがどのくらい積極化していくかということが重要だと思います。もう1つは、そういうことを通じて物価上昇率が上がっていったときに、企業や家計の物価上昇予想といったものがどの程度上がっていくかです。この2つが非常に重要なポイントになると思いますので、十分注視し、モメンタムが損なわれる惧れが高まっているかどうか、きちんとチェックしていくということになると思います。

(問)今そのチェックの中でどのくらい高まっているという判断なのでしょうか。

(答)海外経済を中心とするリスクが高まっていることは事実ですが、足許で需給ギャップがプラスの状況はまだ続いていますし、この春以来、食料品等の値上げの動きが拡がっているということもあります。また、予想物価上昇率も、下がってきたものが、このところずっと横ばい状態で安定しています。ただ、まだ上がっていくという状況にはないので、状況をよくみていく必要があると思います。いずれにしても、足許でモメンタムが損なわれたとか、損なわれる惧れが高まっているとは言えないと思うのですが、海外経済を中心としてリスクが高まっている状況ですので、これが長引けば、日本経済についても下振れリスクが更に高まり、そのもとで「物価安定の目標」に向けた物価上昇のモメンタムが失われる惧れが高まる可能性がありますので、その場合には躊躇なく追加緩和を検討するということです。

(問)FRBとECBが利下げをする方向となっていますけれども、そうした中で、それが日本の為替ですとか物価に与える影響はどのくらいあるとみていらっしゃいますか。

(答)それぞれの国の中央銀行の政策は、それぞれの国の経済・物価の安定を確保するために行われているわけです。FRBやECBの金融政策そのものについて何か申し上げる立場にはありませんが、世界経済の不確実性がそれぞれの国の経済・物価に影響を与えることを避けるために適切な金融政策を行えば、それぞれの国・地域の経済・物価がより安定するということですので、世界経済にとっても、ひいては日本経済にとってもプラスになると思います。短期的に金融市場や為替が動く動かないということよりも、基本的に、適切な金融政策を通じて、それぞれの国・地域の経済が持続的に成長し、物価が安定するということは、世界経済にとっても日本経済にとってもプラスですので、それは金融・為替等にとってもマイナスになることはないと思っています。

(問)先程来お話が出ている「躊躇なく」のくだりのところなのですが、政府の骨太の方針でも、「リスクが顕在化する場合には、機動的なマクロ経済政策を躊躇なく実行する」とありますし、最近安倍総理が財政政策を語るときに「躊躇なく」という言葉を好んで使っているようにもみえるのですが、改めてこの「躊躇なく」のくだりを明文化したことは、政府と改めて歩調を合わせるという意味合いがあるのかどうか教えてください。

(答)別にそういうことは考えていませんが、いずれにしても、政府は従来から、海外経済を中心とする様々な下振れリスクが顕在化するような惧れがある場合に、躊躇なく機動的なマクロ政策運営を行うということを明確にされていて、その点は私どもと平仄が合っていると思います。何か表現や言葉について調整したということは全くありません。

(問)今回の会合で明日のFOMCに関する議論はどの程度行われたのでしょうか。それとマーケットは利下げを、幅は多少前後しますが、確実視していると。今回の判断は、利下げを前提にした判断という認識でよろしいでしょうか。

(答)政策委員会で今回どのような議論が行われたかというのは、「主な意見」や議事要旨として公表されることになっていますので、それをご覧になって頂きたいと思いますが、当然、世界経済や国際的な金融資本市場の動向については議論になり、それらを踏まえて、日本の経済・物価・金融情勢を議論し、金融政策の決定を行いました。

(問)足許のスナップショットをみると、それぞれ緩和方向に向いているということですが、アメリカは数年来ずっと正常化を進めてきていて、その間も日本はずっと粘り強く緩和をしてきているということでいうと、次の一手のハードルも、自ずから、だいぶ意味もハードルの高さも変わってくると思うのですが、政策の余地について、緩和のステージを含めてどのようにお考えでしょうか。

(答)「『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」方針を公表文で明らかにしたわけですが、緩和手段につきましては、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速等、様々な対応があり得ます。また、これらの組み合わせや応用といったことも考えられると思います。いずれにしましても、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを前提に考えることになるため、引き続き、主として、実質金利や資産価格のプレミアムを通じて、政策効果が発揮されることになると思っており、追加的な手段はいくつもあり得ると思っています。

(問)「惧れが高まる場合には」と先程から強調されていますけれども、これはいわゆる予防的・保険的な、というところを示唆されているということでしょうか。

(答)予防的というのが何を指すかという議論は色々あると思いますが、まさに「モメンタムが損なわれる惧れが高まる場合」ということですので、モメンタムは損なわれていないわけです。そういう意味では予防的と言ってもいいかもしれません。

(問)そうであるならば、今回、予防的追加金融緩和という考え方を導入された、最も大きな転換したものの原因は何でしょうか。

(答)それはやはり、海外経済を中心としたリスクの高まりです。海外経済のリスクについては、展望レポートその他で色々示していますが、保護主義の高まりというのが一番大きなものだと思います。その他にも地政学的リスクとか、英国のEU離脱の帰趨とか、それから中国等の景気刺激策の効果の発現の時期とか、海外経済を巡るリスクは色々あって、それが高まっているという認識のもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まった場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じるということを明示したわけです。

(問)年後半の景気の回復シナリオについて、総裁の現時点でのお考えを教えてください。

(答)年後半、2020年にかけて緩やかに回復していくというシナリオは、これはIMFのシナリオでもあり、多くの国際会議等でも支持されている考え方です。この点、先週公表されたIMFによる最新の世界経済見通しでも、2019年の成長率は年平均で+3.2%となっているわけですが、10~12月の前年比は+3.4%と年平均を上回る見通しとなっており、2019年末にかけて幾分成長率を高めていくという見方をIMFは依然として維持していると思っています。いずれにしましても、海外経済の持ち直しについては、リスクがあることは事実ですし、そういうことを通じて仮に日本経済・物価等に影響が出てきた場合には、先程申し上げたようなタイミングで措置をとるということです。

(問)今回、片岡委員が「短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましい」ということで反対したという表記がありますが、短期政策金利の引き下げということでご提案されたのは、片岡委員が初めてのようですが、短期金利のこの引き下げについては副作用とか色々指摘されてきたと思いますが、この辺り、政策委員からこのような提案が出たことにつきまして、総裁はどのような受け止めでしょうか。

(答)公表文の注にあります通り、片岡委員は「短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましい」ということを言われて、現在の金融調節方針に反対をされたわけです。具体的にどのような議論があったかということは、「主な意見」や議事要旨をご覧になって頂きたいと思います。マイナス金利につきましては色々な議論があることは私も承知していますが、この考え方は片岡委員の考え方であって、現時点で政策委員会で共有されているということではないと思います。

(問)ECBとかFRBが今緩和に動くということ、利下げに動くという背景に、物価が上がりにくいという状況があるということで、欧米のメディアなどを見ていますと、日本化ということで、物価が上がりにくい、低インフレが続く状況については、日本化を避けたいということを色々なコメンテーターの方が言ったりしています。そういうある意味日本を反面教師というような見方もあるのですが、今、先進国でいわゆる日本化ということに対する惧れが出ているということについては、総裁はどのように受け止められていらっしゃいますか。

(答)日本化、ジャパナイゼーションということで何を意味しているのか私もよく存じませんが、日本では1998年から2013年までデフレが続いたわけです。そのもとで低成長、それから失業率も高いという状況が続いたわけですが、2013年以降、そういったデフレの状況ではなくなり、成長率も高まり、労働市場も極めてタイトになって、企業の収益状況もかつてのバブル期を超えるような状況になっているわけです。そういった意味で、この1998年から2013年まで続いた、デフレ状況で低成長、高失業という状況に陥らないようにということであれば、それはそれで当然のことだと思います。

リーマンショック以降10年経っているわけですが、欧米の中央銀行の目標としている2%の物価安定の目標になかなか達していないことについては、一般的に、デジタル化とかグローバリゼーションとか、あるいはリーマンショックの影響が残っているとか、色々な議論があるところです。それは日本化という話というよりも、むしろグローバルに一般的に起こっていることであって、何か日本に特有の現象が起こっているということとは少し違うのではないかと思います。1998年から2013年の日本の状況を指してジャパナイゼーションというのであれば、そうならないようにするというのは当然のことだと思います。

(問)今回、展望レポートで経済・物価の見通しについて小幅に下方修正していますが、景気回復、主に海外経済の回復が後ずれしているのではないかという指摘もあります。今回フォワードガイダンスについては維持されていますけれども、少なくとも来年春になれば海外経済の動向について判断がつくだろうという見通しにも現在変化はないと考えてよろしいのでしょうか。

(答)今回、フォワードガイダンスについては特に見直しをしなかったわけですが、そもそもこのフォワードガイダンスは、世界経済や消費税率引き上げの影響等を中心とする不確実性が、最低でも、といいますか、短くても来年春までははっきりしない可能性があるということで、そうしているわけです。そもそも「当分の間」というのはかなり長い期間であり、そういう意味で特に今ここを変える必要があるとは思っていません。世界経済の回復が後ずれしているのではないかということについては、2019年末にかけて成長率が若干戻り、IMFの見通しでも2020年には+3.5%の成長に戻るということですので、基本的なシナリオは崩れていないと思います。2019年末にかけてピックアップしていくという見方は変わっていないと思うのですが、ピックアップしていく時期が若干後ろにずれているという可能性はあります。

(問)今後の政策手段についてお伺いしたいのですが、総裁はマイナス金利も排除していないということだと思うのですが、「リバーサル・レート」について、総裁は、2017年の講演の中で言及されて、6月の決定会合の中でも、ある審議委員の方が、「主な意見」によると、言及されたということですけど、その2017年当時は、総裁は、信用コストも低いし、貸出も増えているし、ということを例に挙げて、そういった状態にはなっていないということでした。今現状、「リバーサル・レート」というのは、日本の今の金融環境にどの程度アプライするのでしょうか、その点をお伺いします。

(答)これはなかなか難しい話で、現状、「リバーサル・レート」のようになっているとは思っていません。大手行も地域銀行も順調に貸出を伸ばしていますし、累次の金融システムレポートで示しています通り、現時点で、例えば、利益の減少や資本の減少等によって貸出が抑制され、金融仲介機能が損なわれるということにはなっていませんので、現時点で「リバーサル・レート」の議論が適用するとは全く考えていません。どのくらいになったらそういうことが起こり得るかというのは、それぞれの国の金融システムや経済動向にもよると思いますので、一概には言えないと思います。ECBはかなり大きなマイナス金利を、しかも中央銀行の当座預金のほぼ全体にかけているわけです。スイスも同様、確か-0.75%だったと思いますが、それを当座預金の多くにかけています。わが国の場合は、-0.1%を、いわゆる政策金利残高という日本銀行における金融機関の当座預金のごく一部にかけているわけです。そういうこともあって、現時点で「リバーサル・レート」で金融仲介機能に障害が出て、それによって銀行の融資が減ってしまうとか、大きな影響を受けるような状況にはなっていませんし、今すぐそういう状況になるような状況でもないと思っています。

(問)追加緩和を検討する場合、講じる場合に、イールドカーブはもうかなりフラット化しています。長短金利を引き下げるというのはもちろん選択肢ではあると思うのですが、そういったことをする場合は、フラット化し過ぎて景気、経済に悪影響が及ばないように措置を講じるということなのでしょうか。

(答)具体的に追加緩和措置を検討して講じるという場合には、当然それによる景気・物価に対するプラスの影響と、金融システムに対する副作用といったものを総合的に勘案していくことになると思います。まだ具体的に中身を検討しているわけではありませんので、ご質問には直接はお答えしにくいのですが、確かに米国も欧州もかなりイールドカーブがフラット化しています。更には、その一部は逆イールドになっています。そういう影響をどうしてもわが国のイールドカーブも受けますので、ある程度はそういうこともあって、また更にはわが国固有の事情もあって、相当イールドカーブがフラット化しています。それはもう少しスティープになった方が正常だということはその通りだと思います。ただ、具体的に金融緩和の追加措置を講じるときに、どのような政策をとるかというのは、やはりそのときの経済、物価、特に金融情勢を十分考慮し、副作用にも十分に目配りして、適切な追加策を講じるということ以上に具体的なことを今申し上げるのは難しいと思います。

(問)いわゆるMMT、現代貨幣理論についてのご見解をお聞かせください。7月もこの理論的支柱とされる教授が来日されて話題になったのですが、お聞きしたい点は2つです。何をもってMMTという話なのですが、おそらく財源の心配なく躊躇なくどんどん出しなさいという話と、インフレはその惧れがあったときに対応すれば十分であるというように伝えられていると思います。総裁はこの考え方についてどうみますか。

また、MMTがこれだけ話題になることの背景について何かお感じになることがありますでしょうか。先程も出ていましたけれども、長引く低インフレとか低金利、あるいはもしかしたら長期停滞の惧れみたいなことで、少し金融政策に対する世界的な限界とは申しませんが、以前とは違う状況になっていることが、財政の方に期待を高めてしまっているようなところがないでしょうか。背景について、もしお感じになるところがあったらお聞かせください。

(答)MMTにつきましては、色々な議論があって、しかもその理論モデルが必ずしもはっきりしないので、どういう前提で、どういうモデルを考えておられるのかはっきりしないということもありますので、何とも申し上げかねます。金融政策と財政政策を一体化するというか、国債を発行した分を全部中央銀行に引き受けてもらうというような前提というのは、日本を含めてどこの国でも正しくないと思います。そのような、いわゆる財政ファイナンスをするとか、そういう話というのは、理屈として成り立たないだけではなく、経済が好ましい方向に動くとも思われません。従って、私はこの議論が有効であるとか正しいとは思っておりません。

なぜ話題になっているかという点は、おっしゃったように財政政策でもっとやればよいということがあるのかもしれませんが、それは財政政策の議論としてすればよいのであって、別にMMTとして、ということでもないと思います。MMTの議論は、財政政策でやればよいというだけではなく、国債を発行して全部を中央銀行に引き受けさせる、金融政策と一体となってやれ、というものです。財政政策の役割が大きいというのであれば、どうぞやってくださいというだけの話です。話題になっている背景には、特に米国においてそういうものがあるのかもしれません。わが国の場合には、財政政策は「共同声明」にもありますように、短期的には機動的な財政運営を行うことで成長等にプラスになるようにすると同時に、中長期的には財政の健全性を確保するということです。機動的な財政運営ということは、2013年の「共同声明」以来、一貫していますので、MMTが特に日本で話題にならないといけないという理由は、よく理解できないところです。

(問)「躊躇なく」の話ですが、この会見を何年も聞いていますが、総裁は前々から、「必要があったら速やかに」ということは言っていらっしゃるわけです。「躊躇なく」という文言も、前回の記者会見で聞いたような気がしてならなくて、そうすると先程の質問で緩和強化というようなことが出て、総裁は否定もされなかったのですが、今回は緩和強化ということでとらえてよろしいのでしょうか。

(答)今回の公表文では、私が従来からそれまでの公表文に沿って申し上げていた、モメンタムが損なわれるような状況になれば、躊躇なく政策を検討するといった言い方よりも一歩というかやや前進して、モメンタムが損なわれる惧れが高まった場合には――まだモメンタムは損なわれていないのですが――、躊躇なく、追加的な金融緩和策を講じると、かなり踏み込んだ言い方になっています。海外経済を中心としたリスクが高まっており、それがわが国の経済・物価に波及してくる惧れも高まっています。仮に「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが具体的に高まってきた場合には、躊躇なく追加的な金融緩和を講じるということです。これは従来から申し上げているよりもかなり金融緩和に向けて前向きになったとは言えると思います。

(問)例えば分かりやすい例で言うと、こんな例でよいのかどうかということですが、金融政策を刀だとして、次の緩和策を、今までも口では何かあったら刀を抜くぞというように言ってきたけれども、今回は柄に手を掛けたぐらいの違いはあると、そんな理解でよろしいでしょうか。

(答)そのたとえが適切かどうかは分かりませんが、おっしゃりたい趣旨はよく分かります。

(問)物価のモメンタムで重要なことは、需給ギャップと人々の物価観とのご説明だったのですが、総裁のご認識として、今、現段階ではその要素を左右する一番重要な要素、それを変更させる要素は、やはり海外経済の動向が鍵を握っているとお考えなのでしょうか。

(答)現に昨年の後半以降、世界経済、特に欧州、中国が減速し、わが国の中国等に対する輸出が減少するということで、製造業の業況判断も悪化し、それから様々な指標が、特に製造業について悪化してきて、その影響がわが国経済にも及んできています。ただ、現状、製造業はGDPの2割くらい、その他の非製造業等が8割くらいあるわけですが、消費が底堅く、設備投資計画がかなり強めに出ていまして、そういう意味で内需がかなりしっかりしていることが支えになっていることは事実です。

下方リスクについては、米中貿易摩擦やその他色々な状況がもっと長引いて、世界経済の回復とテンポが更に遅れるとか、スローダウンするといったことになりますと、わが国の製造業に影響が出るだけでなく、内需にも影響が出てくる惧れがあるということです。そういう意味ではやはり、現時点をとらえれば、海外経済を中心としたリスクが高まったということが大きいと思っています。

(問)マイナス金利についてですが、現在使っている政策、イールドカーブ・コントロールは、マイナス金利の修正版と私も思っていましたし、マーケットもそう受け止めてきたと思うのですが、今日片岡委員からマイナス金利をすべきだという話があったということですし、ECBも検討しているというレポートを出していて、国際的な環境も少し変わってきているのかなと思うのですが、先程質問の中に、総裁は選択肢としてマイナス金利を持っておられるとおっしゃった方がいました。今までのところ日本の市場は、マイナス金利は副作用が多すぎて政策の選択肢ではない、と考えていると思うのですが、選択肢になり得るものだというお考えなのでしょうか。

(答)4つの可能なオプションの1つに、短期政策金利の引き下げといっており、今マイナス金利となっていますので、当然マイナス金利も選択肢の1つであることは、公表文にも書いてある通りです。なお、マイナス金利を変更して、イールドカーブ・コントロールにしたわけではありません。イールドカーブ・コントロールのもとでも、-0.1%というマイナス金利は適用されています。それまでの「量的・質的金融緩和」、そしてマイナス金利の導入後には、名目金利が下がって実質金利も下がり、経済、景気にとってプラスだったわけです。問題は、超長期を中心としたイールドカーブが非常にフラットになって、超長期まで非常に低下してしまったことは、必ずしも経済の刺激にプラスにはならないのではないかということで、イールドカーブ全体が経済・物価に適切な形になるように、イールドカーブ・コントロールを導入したということです。その中でも短期政策金利を-0.1%にしているということは、イールドカーブ・コントロール全体の1つの要素です。

(問)緩和に今まで以上に前向きになっているというご発言が先程の質問の中からあったわけですけれども、そう受け取っていいということですね。そういう中で、消費税を上げてもいいのでしょうか。景況感からみて、消費税を今は総裁は上げるべきだと。もし安倍さんに聞かれたらどうお答えになられますか。

(答)そういう仮定の質問にはお答えできませんが、いずれにせよ財政の問題は政府・国会がお決めになることであって、私から何か申し上げるつもりはありません。ただ、1点だけ申し上げるとすれば、今回の消費税率の引き上げは、前回のような3%ではなくて2%であり、しかも食料品については全ては増税しません。そのうえ、幼児教育の無償化や大学教育の奨学金の提供などを講じて家計の負担は非常に小さいものになっており、更に減税やポイント還元で、需要の変動を均すようにしていますので、マクロ的にみれば影響は極めて小さいものになっていると思います。消費者マインドの動向等によって影響は変わりますので、状況は十分注視していく必要があると思いますが、事前の考慮としてはかなり十分な対応策がとられていると思っています。

以上