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総裁記者会見要旨 2019年10月31日(木)
午後3時半から約60分

2019年11月1日
日本銀行

(問)本日の決定内容について説明をお願いします。

(答)本日の決定会合では、先行きの経済・物価見通しを展望レポートとして取りまとめるとともに、「物価安定の目標」に向けたモメンタムについて評価を行いました。経済・物価情勢の点検の結果、日本銀行は、「『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にある」と判断しました。

また、こうした認識を明確にする観点から、新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定しました。具体的には、「政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」ことを示しました。

金融市場調節方針については、賛成多数で、長期国債以外の資産の買入れ方針については、全員一致で、これまでの方針を維持することを決定しました。

次に、本日決定・公表した、展望レポートと「『物価安定の目標』に向けたモメンタムの評価」に沿って、経済・物価の現状と先行き、金融政策運営の基本的な考え方について説明します。

まず、わが国の景気の現状は、「輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響が引き続きみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している」と判断しました。先行きを展望すると、「当面、海外経済の減速の影響が続くものの、国内需要への波及は限定的となり、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続く」と考えられます。

やや詳しく申し上げますと、海外経済は、成長ペースの持ち直し時期がこれまでの想定よりも遅れるとみられます。そうしたもとで、わが国の輸出は、当面、弱めの動きが続くと考えられます。

もっとも、国内需要については、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、海外経済の減速の波及は限定的となり、増加基調を辿るとみられます。すなわち、設備投資は、緩和的な金融環境のもとで、建設投資や省力化投資、研究開発投資などを中心に、緩やかな増加を続けると考えられます。個人消費も、雇用・所得環境の改善が続くもとで、緩やかな増加傾向を辿るとみられます。

また、海外経済についても、各国のマクロ経済政策の効果発現やIT関連財の調整の進捗などを背景に、先行き、成長率を高めると予想されます。

こうしたことから、わが国経済は、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続き、均してみれば、潜在成長率並みの成長を続けるとみられます。

次に、物価面です。消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。中長期的な予想物価上昇率をみると、横ばい圏内で推移しています。先行きは、当面、原油価格の下落の影響などを受けつつも、見通し期間を通じて景気の拡大基調が続く中で、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。

ただし、リスクバランスは、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きいほか、物価の見通しについても、経済の下振れリスクに加えて、中長期的な予想物価上昇率の動向の不確実性などから、下振れリスクの方が大きいとみています。特に、海外経済を巡る下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、これらが顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶ可能性があると考えられます。

こうしたもとで、今回の会合では、「物価安定の目標」に向けたモメンタムについて評価を行いました。モメンタムを評価する際の主な要因のうち、「マクロ的な需給ギャップ」をみると、海外経済の減速や消費税率引き上げなどの影響から、いったんプラス幅を縮小するとみられます。もっとも、国内需要は、海外経済の減速の波及は限定的となり、増加基調を辿ると考えられるほか、海外経済も、先行き、成長率を高めることが見込まれることから、「マクロ的な需給ギャップ」は、見通し期間を通じて、均してみれば現状程度のプラスを維持すると考えています。次に、「中長期的な予想物価上昇率」をみますと、現状は、横ばい圏内で推移していますが、家計や企業の物価に対するスタンスをみると、一部には積極化の兆しもみられています。こうした中、先行き、「マクロ的な需給ギャップ」がプラスを維持していくもとで、予想物価上昇率は、上昇傾向を辿ると考えられます。

以上の「マクロ的な需給ギャップ」と「中長期的な予想物価上昇率」の見方、更には、原油価格や国際金融市場の動向などを踏まえて、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについては、一段と高まる状況ではないと判断しました。もっとも、海外経済を巡る下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、引き続き注意が必要な情勢にあると考えています。

なお、展望レポートについては、片岡委員が、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対されました。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、先程申し上げたように、政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じます。

(問)日銀は9月の会合で、経済・物価動向について、今回の10月会合で改めて点検するという方針を示すとともに、総裁もマイナス金利の深掘りを含めた追加緩和について、「前向きだ」ということを強調されてきました。今回、マイナス金利の深掘りを見送ったわけですが、一方で、フォワードガイダンスの修正をして、将来の利下げを示唆するというかたちになったのだろうと思いますが、どういう点検の結果に基づいてこういう政策の組み合わせにしたのか、その判断の内容についてお願いします。

(答)今回の会合では、経済・物価の現状評価と見通しを取りまとめたうえで、特に、「物価安定の目標」に向けたモメンタムについて、需給ギャップと予想物価上昇率等の観点から点検をしました。公表文の別紙に示されている通りですが、点検の結果、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないとの判断に至ったため、金融市場調節や資産買入れについて、現在の方針を維持することにしたわけです。

もっとも、海外経済の下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、引き続き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な情勢にあることは事実であり、モメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる考えです。

今回の新たな政策金利のフォワードガイダンスも、こうした緩和方向を意識した政策運営を行うという日本銀行のスタンスを明確にすることを目的として決定したものです。

(問)FRBが昨日、3回連続の利下げを決定しました。ECBも含めて米欧の中銀は緩和姿勢を強めているわけですが、日銀としては今回追加緩和を見送っています。海外中銀に比べて出遅れ感はないのかということと、総裁がかねておっしゃっている「緩和に前向き」というところから後退しているのではないかという声もあるかと思いますが、その辺りお願いします。

(答)どの国の中央銀行も、それぞれの自国の経済・物価の状況をみて、経済・物価の安定を実現することを目的に、最も適切な政策運営に努めているということだと思います。

最近では、FRBやECBの金融政策運営は、世界経済減速の長期化や不確実性の高まりと、そのもとでの国内経済・物価の動向を踏まえて、昨年の正常化方向の動きから、金融緩和方向に変化してきています。この間、日本銀行では、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、極めて強力な金融緩和を粘り強く続けています。そのうえで、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きくなるもとで、7月の会合以降、緩和方向への意識を強めて政策運営を行うスタンスを明確にしてきているわけです。

今回の会合において、わが国の経済・物価情勢を点検した結果、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れは一段と高まる状況にはないと判断しましたので、金融市場調節や資産買入れについては、現在の方針を維持することとしました。もっとも、引き続き、物価のモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な情勢にあると考えており、そうした観点から、政策金利のフォワードガイダンスの変更によって、緩和方向をより意識して政策運営を行うというスタンスを明確に示したところであり、緩和スタンスが後退したということはありません。

(問)総裁はこれまで追加緩和の方策として4つの手段、もしくはその組み合わせを常々おっしゃってきましたけれども、今回のフォワードガイダンスでは、長短金利の現状の水準もしくは下回る水準というように明記しました。今後、追加緩和を行う場合は、金利の引き下げというのが第一の選択肢になっていくのかをお伺いします。

(答)政策金利について、長短金利が現行の水準あるいは更に低下した水準が今後当分続くということを明記したわけで、緩和方向をより意識して政策運営を行うことを金利のフォワードガイダンスで示したわけです。追加緩和の手段としては、もちろん政策金利の引き下げ、資産買入れプログラムの拡大、マネタリーベースの増加ペースを加速するといった様々なオプションがあり、具体的に追加緩和を決めるときの経済・物価・金融情勢を踏まえて最適な組み合わせあるいは改善した形で行うわけで、政策金利に限られているということはありません。ただ、あくまでも政策金利のフォワードガイダンスとして、現状の低い水準ないしはそれを下回る水準が、かなり長い期間続くということをお示ししたわけです。

(問)前回9月の決定会合以降、日銀短観があり、さくらレポートがあり、色々データも出てきたと思うのですが、日本経済のリスクは、前回9月から比べてどう変化しているとお考えですか。

(答)短観や支店長会議などの報告を聞く限り、基本的に海外経済のリスクは更に高まっている可能性があると思います。他方で、内需については、外需が弱く、輸出が弱いことが鉱工業生産に反映され、企業マインドも製造業を中心にやや弱まっている状況ではありますが、内需全体でみますと、短観、支店長会議の報告、各種統計をみる限り、設備投資が大変堅調であり、消費も緩やかではありますが伸びているという状況です。従って、外需の弱さが内需、あるいは製造業の弱さが非製造業に波及していくという感じではない、あるいは限定的であるということです。海外経済のリスクはやや高まっているものの、それがまだ内需に波及していない、あるいは限定的であるという意味では、日本経済自体が前回よりも非常に弱まっているわけではないですが、海外経済を中心としたリスクは高まっているので、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについては、引き続き十分注意していく必要があるという状況だと思います。

(問)前回までは「少なくとも2020年春頃まで」と時期のめどを記載していたわけですが、それを外した意味は何でしょうか。

(答)2020年春頃といっても、「当分の間、少なくとも2020年春頃まで」ということでしたが、今回の展望レポートの委員の見通しをご覧頂くと、成長率は若干下振れ、物価上昇率については今年来年と特に原油価格の下落を反映してやや下振れしているという状況のもとで、先程申し上げた新しい政策金利に関するフォワードガイダンスを出しました。2020年春頃までというくらいでは終わらない、相当長く現在の低い長短金利、あるいは更にそれよりも低位の金利もあり得るとフォワードガイダンスを変えたわけです。それと同時に、カレンダーベースのように取られやすい前のフォワードガイダンスを変えて、あくまでも「物価安定の目標」に向けたモメンタムに紐付けた形で、現在の低い長短金利水準あるいはそれよりも更に低い水準が、当分の間続くというフォワードガイダンスを示したわけです。

(問)展望レポートをみますと、初めの方で「国内需要への波及は限定的となり」ですとか、「景気の拡大基調が続くとみられる」ですとか、海外経済の下振れリスク等不透明要因がまだまだある中で、かなりポジティブな書き方だなという印象を受けたのですが、この書き方にした理由は何でしょうか。

(答)2019年度から2021年度の政策委員の経済見通しをご覧頂いても、若干下振れはしていますが、2019年度は+0.6%、2020年度は+0.7%、2021年度は+1.0%と、当面、潜在成長率を若干下回ることがあり得るとしても、2021年度までの見通し期間を均してみると、潜在成長率並みの成長になるという見通しです。その背景の1つは、先程申し上げたように、確かに世界経済の減速等を背景に、わが国の輸出が弱含んでおり、鉱工業生産も弱含んでいることは事実ですが、設備投資が短観だけでなく他の見通し等をみても、かなりしっかりしているということです。先程申し上げたように単純な能力増強投資というよりも、省力化投資や建設投資、あるいは技術革新に向けた投資等、より景気の短期的な変動に左右されにくい根強い投資需要が窺われますので、外需が当面弱くても設備投資を中心とした内需はしっかりしてくると思われます。もちろんその他にも、雇用者所得のプラスが続いていますし、公共投資はこれから更に伸びていくと思われますので、内需がかなりしっかりしているということが1つです。

もう1つは、世界経済自体についてもIMFが見通しを最近出しましたが、今年の見通しは+3.0%、来年の世界経済の成長は+3.4%ということで、過去確か10年くらいの平均の+3.5%に近いところまで戻っていくという見通しになっています。世界経済の成長の回復が少し後ずれしている――おそらく半年くらい後ずれしたとは思うのですが――、それでも来年の半ばか前半には回復に向かっていくというのがIMFの見方であり、私どももそんなところが正しいかと思っています。外需もどんどん下がっていくのではなくて、来年には回復基調に戻るということですので、そういうことも踏まえて、経済見通しを述べているということです。

(問)7月、9月と緩和姿勢を強めてこられた背景には、アメリカと中国の対立というのが大きく影響していたと思うのですが、その緊張もいったん和らぎ、11月には調印もあるかもしれないという話で、この米中の緊張緩和というのが今回の決定にどう影響しているのか、それとどういった議論を昨日今日と、主に米中についてされたか教えてください。

(答)確かに、米中の貿易摩擦がどんどん深刻化していくということが続いていたのですが、先頃米中でいわば第一段階の一定の合意ができたということで、明らかにマーケットにも好ましい影響を及ぼしています。そういう意味で、米中の貿易摩擦がどんどん深刻化するのではなく、緩和方向に向いてきたのではないかということは確かです。ただ、米中間ではかなり幅広い問題が議論されていますし、まだ第一段階についても最終的な合意ではなく、暫定的な合意です。より全体的に米中の貿易摩擦、経済摩擦、技術摩擦といったものが完全に解消したわけではないですし、今後どうなっていくかには、まだ一定の不確実性が残っているという感じだと思います。従って、一定の改善がみられたことは事実ですが、不確実性、不透明性が払拭されるには至っていないのではないかということだと思います。

(問)今回、物価の展望レポートの見通しを下方修正されましたが、そうなると適合的な性格が強いインフレ期待にも影響を与えると思うのですが、今のインフレ期待は横ばい状態が長い間続いていることを考えると、経済は既に2%達成に向けたモメンタムをかなり失っているのではないかという見方もできると思うのですが、いかがでしょうか。

(答)モメンタムについての評価は、別紙でかなり詳しく述べていますし、参考資料の形で色々データもお示ししていると思いますが、2%に向けたモメンタムを評価するにあたって一番大きな要素は、やはり需給ギャップの動向と中長期的な予想物価上昇率の動向ということになると思います。需給ギャップにつきましては、製造業中心に輸出の弱さの影響を受けていますので、一時的に若干プラスの幅が縮小するかもしれませんが、2021年度までの見通し期間を通じてみると、やはり現在程度のプラスの需給ギャップが続くだろう、というのが1つです。

もう1つは、予想物価上昇率ですが、これは一時下がってその後上がったのですが、今のところはずっと大体横ばい圏内で推移していて、2%に向けてまだ上昇していくという状況になっていないことは事実です。ただ、色々な予想指標をみますと、今の時点で下がっていくという状況でもない一方、上がっていくという状況にもなっていないということです。いわゆる適合的な予想形成という要素が強い日本においては、需給ギャップがプラスの状況が続いて、物価の上昇率が上がっていけば、当然、予想物価上昇率も上がっていくと思いますので、プラスの需給ギャップが続くことが非常に重要ではないかと思っています。

(問)最近、パウエル議長をはじめFRBの幹部からYCCについての発言が増えているのですが、先月パウエル議長は追加緩和、金融緩和の手段としてYCCのようなものも検討に値するとか1つであると発言したうえで、比較的短いところをターゲットにするのが良いのではないかという主旨の発言をされています。日銀は現在、10年の金利をターゲットにしているのですが、超長期金利があまり下がり過ぎないようにしつつ、短中期金利をしっかりと下げていきたいと考えると、例えばより短い金利をターゲットにしたり、短いところの金利をターゲットとして今のYCCに付け加えるといったアイディアはいかがでしょうか。

(答)そういう議論を政策委員会でしているわけではありませんので、何とも申し上げかねますが、ご主旨はよく理解しました。その点について議論はしていませんので、何とも申し上げかねます。

(問)消費税増税から1か月経ちましたが、前回増税に比べれば反動減が少ないというのが基本シナリオだと思いますが、昨日発表の統計で、小売販売額が前回増税時に次ぐ高い伸びを示しました。改めまして、消費税増税の今後の個人消費、日本経済に与える影響を教えてください。

(答)10月の消費税率引き上げ前の駆け込みの状況については、ある程度データが出ていますが、2014年にあったような住宅や自動車の駆け込みは、政府が減税措置などを講じたこともあって、殆どみられません。他方、家電製品については、2014年のときは何か月も前から売れ始めて、増税直前の3月に大きな駆け込みがあったのですが、今回はそれほど前からの駆け込みはありませんでした。増税直前の9月になって、家電製品の駆け込み的な売り上げ増がかなりあったことは事実ですが、7月が冷夏でエアコン等が非常に売れなかったことの反動も若干あったかもしれません。全体としてみると、家電製品でも2014年に比べると駆け込みの程度はだいぶ小さいです。食料品は全く駆け込む必要がなく、実際にも殆ど駆け込みが起こっていないということですので、前回と比べると駆け込みの程度が相当小さいことは事実です。10月以降に反動がどのくらいあるかといったデータはまだ十分ではないので、もう少し様子をよくみる必要があると思いますが、足許で日次や週次の小売店の売り上げ等をみますと、前回のような大きな落ち込みはみられていないと思います。従って、全体として、消費税率引き上げの影響は2014年の引き上げの時と比べると大きくない、むしろ小さいことは確かだと思いますが、消費の色々なデータの蓄積をもう少しみていく必要はあると思っています。

(問)最近いくつかの金融機関のトップから、マイナス金利の深掘りを念頭においているかと思うのですが、日銀の政策に対してやや疑問視する声が出ているかと思います。前回会合以降、たしかアメリカだったと思うのですが、総裁は講演で副作用対策の必要性に言及されているかと思います。今後、仮に追加緩和に踏み切る場合、副作用対策を打つ考えがあるのか、その辺りをよろしくお願いします。

(答)具体的に追加緩和を検討して行うときに、そのときの経済・物価・金融情勢を踏まえて判断するということだとは思いますが、まず第一に低金利環境が長期化していますので、金融仲介機能や市場機能に及ぼす影響など、政策のコスト面にも一段と留意が必要になっていることは事実です。ただ、政策のコストとベネフィットを比較衡量した上で、必要と判断すれば金融政策面から対応するということには変わりはなく、コストがあるから追加緩和を行うことができないとは考えていません。ただ、コストを十分考慮しなくてはいけませんので、そのときに必要があると考えれば、副作用、コスト面に対する対応も検討していくことになると思います。今回の政策決定会合では具体的に金融緩和措置を検討したわけではなく、物価安定目標に向けたモメンタムの評価を行い、モメンタムを損なう可能性が一段と高まっているわけではないということで現状維持を決めましたので、そういったことについて具体的な検討はしていません。従来から申し上げている通り、当然ベネフィットとコストを十分に比較衡量して、適切な政策をとることになると思います。

(問)フォワードガイダンスの見直しで、先程、少なくとも来年3月までと言っていたのが、それを超えてかなり長く続くとおっしゃいましたけれども、これはいつ頃というか来年いっぱいくらいは今の環境が続くといった時期的なものは何かあるのでしょうか。というのは、フォワードガイダンスとは市場との対話や外部との対話を含めて、より金融政策の方向性を分かりやすくするものであるはずなのに、時期を取ってしまうと、逆に分かりづらくなったという印象があるのですが、その辺りをお願いします。

(答)諸外国の中央銀行のフォワードガイダンスでも、カレンダーベースのことをやった場合もありますけれども、最近、物価安定目標との関係など──データディペンデントというとどうしてもそうなるわけですけれども──に紐付けてフォワードガイダンスを設ける例が多くなっています。リーマンショック後、あるいは物価上昇率が大きく下がってしまっているときなどには、少なくともいつまでは必ずこういう緩和や低金利を続ける、と言う意味は非常にあると思いますが、現状のような、欧米の場合もそうですし、日本の場合においても、むしろ物価安定目標に紐付けて、物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれる惧れがある期間においてはこういうことをずっと続ける、と言ったほうがよりコミットメントとしてはっきりしているし、しっかりしていると考えたわけです。

(問)これまで公表文で、躊躇なく追加緩和をするとか、前回でいいますと、今回経済物価情勢を点検するというようなことを改めて公表文に書かれて、マーケットでは、「今回もしかしたら追加緩和があるのではないか」という見方もやはり出ました。このような追加緩和姿勢を常に出し、前進した前進したとおっしゃって、結局今回も見送りでした。市場とのコミュニケーションにおいて、やると言ってやらないということを続けていくと、逆にこの政策スタンスが疑われるということはないのでしょうか。

(答)そういうつもりは全くありません。あくまでも、金融政策はデータディペンデントであるわけです。そういった姿勢を常に示しており、7月そして9月の会合でも、特に前回の会合以降、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて相当注意してみていく必要があるということで、今回、モメンタムの評価をかなり詳しく議論し、分析して公表しました。金融政策はどこの国でもそうですが、データディペンデントであることは事実です。現状海外のリスクが高まっている状況でありますが、様々なリスクを勘案するとモメンタムが損なわれる惧れというのが、今回一段と高まっているという状況ではないので、前回同様の金融政策を維持することにしたわけです。しかしながら、やはり注意が必要な状況というのは相変わらず続いているということは事実だと思います。

(問)副作用の話ですが、金融仲介機能とか市場機能の話で最近みていると、金融機関が収益悪化に耐えられなくなって、いわゆる手数料、最近でもメガバンクが窓口やATMの振込手数料を上げたりしています。そうなると、消費者にいわゆる金融緩和の副作用が転嫁されつつあり、今回フォワードガイダンスに書いてあるように、更にその超低金利が長く続くとなると、消費者への副作用、一般の人に副作用という面も出てくるのではないかと思うのですが、その辺りはどうお考えでしょうか。

(答)マイナス金利が日本よりも相当深掘りされ、長く続いている欧州の例をみても、個人の預金金利がマイナスになるという例はないと思いますし、わが国でもそうなっていません。いわゆる口座維持手数料とか、そういった金融機関が提供するサービスについてどのような手数料を取るかというのは、それぞれの金融機関の判断であり、私から何か申し上げることはできませんが、顧客ニーズを的確に捉えて、質の高い金融サービスを提供していくとともに非金利収入の拡大を図っていくことが重要だと思います。いずれにせよ何か特別の負担を個人にかけるということではなく、あくまでもそのサービスに見合った非金利収入のあり方についてどう考えていくかということだと思いますし、それぞれの金融機関が色々な努力をしておられます。わが国よりも大幅なマイナス金利を殆ど全体にかけてきたECBは、わが国と同じような階層化したシステムを最近導入しましたが、それでも相当部分にわが国よりも大幅なマイナス金利を付加しています。そうした欧州の状況をみても、個人預金金利をマイナスにするというところは見当たらないと思います。

(問)海外経済の下振れリスクなのですが、先程総裁はリスクが高まりつつあるとおっしゃいました。今回フォワードガイダンスの修正のベースにこうした判断があろうかと思うのですが、米中の交渉は進展の兆しがみえている、懸念されたイギリスのEU離脱も10月のハードブレグジットというのは回避された、ITサイクルも底打ちをしました、と。一時的に惧れが高まる事態にはなっていないというのはこういうことだと思うのですが、これをもってしても、下振れリスクが高まっているというようにはなかなかちょっと受け止められません。総裁は先程、米中の話のときに多岐に問題がわたっているということだったのですが、その構造問題や対立構造が長引いているということなのでしょうか。

(答)おっしゃるようなことだと思いますが、米中の話にしても、第一段階の暫定的な合意はできているわけですが、これがいつ最終的な合意になるのか、更にもっと幅広い範囲で米中で摩擦が生じているものがいつどのように解決されるのかまだ分からず、そういう状態がずっと続いているわけです。確かに足許一定の改善の兆しがみえたことは事実ですし、市場が好感したことも事実ですが、それでリスクが低下したようにはなかなかみられません。英国のEU離脱については、新しいEU離脱協定案に合意ができたのですが、議会で通っておらず、これから解散して12月12日に選挙が行われてどういう結果が出るかまだ分かりません。そういう意味では、10月31日の合意なき離脱という、よく英国の方が言う崖から落ちるような話は遠のいたのですが、なくなったかどうかはわかりませんし、不確実な情勢はまだ続くわけです。それから、確かにITサイクルは、アジアのIT関係の貿易をみると底打ちをした感があるのですが、どんどん伸びていくのか、どの程度伸びるのかというのは、もうちょっとみてみる必要があります。ただ、ITサイクルが底打ちしつつあるような感じは私どもも持っています。これは、明るい材料だと思いますが、地政学的リスクやアルゼンチン等の動向といった色々なものが挙げられます。こういうものが続いて累積していますので、リスクが低下しているとはまだ言えず、むしろ懸念が高まっているとみています。

(問)今回新しい政策金利のフォワードガイダンスを導入したことに関連して、マイナス金利の深掘りについてお聞きします。前回の会見だったと思いますが、総裁はユーロ圏に比べればまだ利下げ余地はあるとの主旨のご発言をされていたと思うのですが、一方で、金融機関の収益構造の違いにより、ユーロ圏ほどマイナス金利を下げることは難しいのではないかとの専門家の見方もあります。日本の場合、マイナス金利の深掘りは大体どの程度、つまりユーロ圏ほど推し進められるのか、どのようなイメージでみておられるのか教えて頂けますか。

(答)これは何とも申し上げにくいのですが、現時点で-0.1%のマイナス金利がかかっているのは10兆円とか20兆円とかその程度ですから、何百兆円という日本銀行における準備預金の額のごく一部です。欧州の場合は多くの国で-0.5%とか相当大きなマイナスで、しかもごく一部でなく大半であったり相当部分にかかっていますので、欧州の方が大幅であり、それだけをみれば、日本のマイナス金利の深掘りの余地は相当あるということは言えると思います。他方、ご指摘のように欧州では──とはいえそれぞれの国で少し状況が違うとは思いますが──、比較的利鞘が確保されているということがありますので、マイナス金利がかなり深掘りされていることの影響が日本の場合ほど大きくない可能性はあると思います。ですから、両面あることは事実だと思いますが、私どもは依然として、必要があればマイナス金利の深掘りは日本でも可能であり、それは必要の程度によると思いますが、-0.1%でこれ以上深掘りできないということはない、と考えています。

(問)本日発表された「『物価安定の目標』に向けたモメンタムの評価」という背景説明資料ですが、記者会見で総裁がおっしゃったように、7項目のうち2項目を設備投資の抵抗力に充てているのは、非常に印象的でした。更に印象的だったのは、日本語の表記だと、海外の減速に対する設備投資の抵抗力があるかないか、ちょっとハンブルな表現なのですが、英語の表現をみると、“Steady Business Fixed Investment”と極めて堅調な設備投資、その後に“despite”が出てきて、海外の経済がスローダウンしても設備投資は堅調なのだと非常にメッセージ性が強いようにお見受けしたのですが、これは何らかのレトリック、修辞的な意味があるのでしょうか。もうちょっと深い意味はあるのでしょうか。

(答)修辞的なとか、そこに書いてある以上の意味はないのですが、事実として、このところの設備投資の堅調な状況は、数年前は、かなりの期間、設備投資が控えられていましたので、設備、機械のビンテージが非常に長くなって更新しないといけないとか、その際には省力化するといったことも含めて始まったと思うのですが、今や、物流センターの投資や、建設投資、省力化投資、技術革新に向けた様々な投資という意味で、景気循環的といいますか、特に外需の動きに大きく左右されることの少ない投資が特に非製造業において進んでいます。そういうこともありますので、事実として、わが国の設備投資が比較的堅調であると申し上げてきました。英語の方は私自身見ていませんが、1つあり得るとすれば、日米欧と比較して頂くと、米国と欧州は、消費が極めて堅調で、設備投資はやや弱くなっているわけですが、わが国の場合は、労働市場が非常にタイトである割には賃金がそこまで上がっていないですし、消費も伸びてはいるのですが、欧米ほどの伸びではありません。他方、設備投資は欧米では弱めですが、わが国ではこのところ極めて堅調ですので、その辺は外国の方が読まれると興味深いと思われるかもしれませんが、特に何かレトリックを駆使したつもりはありません。

(問)総裁は、最近のインタビューなどで、超長期の金利が下がっているのは望ましくないというように言われていて、最近、黒田総裁の口先介入がよく効くという噂を聞いてまして、総裁がそう喋ると金利が上がるという話も聞いています。ただ、今回打ち出された、かつてない強力なフォワードガイダンスによりますと、現在の水準、または、それを下回る水準で推移するというわけですから、やはり超長期の金利は意図に反して下がってしまうという危険があるのではないかと思っているのですが、先程、新たな政策をとるには、そのときに副作用対策は考えるということだったのですが、このフォワードガイダンスによって総裁自身が望まない超長期の金利の引き下げを招いてしまえば、自分で自分の首を絞めることになるのではないかという疑念についてどのように思われるでしょうか。また、それに対する対策、特に超長期の金利が下がらないようにする対策についてはどう考えているか、お聞かせください。

(答)政策金利についてのフォワードガイダンスは、当然、長期の金利にも影響が出るということはその通りだと思いますが、私どもとしては特に超長期の金利を下げる必要があるとは考えていません。むしろ、超長期の金利があまり下がり過ぎると、年金や生保の資産運用に影響し、間接的ではありますが消費マインド等にも影響が出る可能性がありますので、依然として超長期の金利が下がり過ぎるのは好ましくないと考えています。景気対策という意味では、短期・中期の金利が下がることが効果的だということが「総括的な検証」でも明らかになっています。そういう意味で、超長期の金利が下がった方が良いとか、あるいはこれによって下がるとは思っていませんが、仮にイールドカーブが非常にフラット化してしまう状況があり得るとすれば、当然、資産買入れプログラムで超長期の国債の買入れを更に減額するなど、色々な方法があり得ると思っています。

以上