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新日本銀行法下での政策委員会の金融政策運営と最近の金融経済情勢
平成10年10月8日・石川県金融経済懇談会における後藤審議委員挨拶要旨
1998年10月12日
日本銀行
1.はじめに
日本銀行で審議委員を務めている後藤です。ご案内のとおり、本年4月に新たな日銀法が施行されましたが、私は、旧日銀法の下で、平成7年10月に日本銀行政策委員に任命され、新日銀法の附則の規定により、本年4月以降も、新法下の審議委員として引き続き政策委員会に出席しています。私は、このように新旧双方の日銀法の下での政策委員会に出席するという経験に恵まれた訳ですが、新たな政策委員会では、議決事項も拡充され、従来にも増して活発で多様な議論がなされ、名実ともに日本銀行の最高意思決定機関となったことを実感しています。メンバーは、私のような留任組2名に加え、新たに多様なバックグラウンドを持つ4名の審議委員を迎えました。また、執行部からも総裁に加え、新たに副総裁2名も加わり、総勢9名の委員が、さまざまな角度から日本銀行の政策や業務運営について審議しております。総裁や副総裁のみならず、こうした審議に携わっている審議委員も、できるだけ外に対して日本銀行の考え方や行動についてお話するとともに、世の中の生の声を承り、政策に活かしていけるようにとの観点から、各地の金融経済界の方々と懇談の機会を持つことになりました。こうした趣旨から、このたび石川県の金融経済界の方々と懇談の機会を持つこととなりました。
本日は、まず、私から、新日銀法の下で半年を経て定着してきた日本銀行の政策委員会の議事運営についてご紹介したうえで、最近の金融経済情勢および当面の金融政策運営方針について、お話しすることとします。
その後、金融経済の現状、日本銀行の金融政策運営などについて、皆様の忌憚のないご意見、ご要望を承われれば幸いです。
2.日本銀行における政策委員会の議事運営について
新日銀法における理念
新日銀法制定の一連の作業の中で一貫して貫かれていた理念は、政策決定における日本銀行の「独立性強化」と、これに伴う政策決定過程の「透明性向上」であるといえます。独立性強化とは、文字どおり日本銀行政策委員会が政府から独立して中央銀行としての政策を決定する、ということであります。大蔵大臣による広範な業務命令権や役員解任権は姿を消しました。現行法では、金融政策は、原則として月2回開催される金融政策決定会合において、参加メンバーの投票によってのみ決定されることが明確化されました。
これに対し、透明性という理念は、独立性を高める一方で、日銀が「唯我独尊」とならないよう、また市場の信認を得られるように、金融政策決定のプロセスにおいてどのような議論がなされ、どのような判断からそうした政策が決定されたのかについて世の中に明らかにしよう、との考え方から生まれたものです。公的政策を実行していく上での説明責任(アカウンタビリティー)を負っている、と言ってもよいと思います。
こうした新日銀法の理念を実現すべく運営されている政策委員会は、金融調節事項を議題とする金融政策決定会合と通常会合からなりますが、金融政策決定会合は、通常は毎月2回(年末・年初、お盆などの時期は月1回)開催されます。マーケットに安心感を与え、その信認を得るよう外国の例にならって3か月ごとに向う6か月間の開催予定日が公表されています。通常会合は、毎週火曜日と金曜日の午前中に開催されます。
ここでは、金融政策決定会合を例にとって、その議事運営の模様を具体的にご紹介することとしたい。
政策委員会会議室
政策委員会は、日本銀行本店内の政策委員会会議室で行われます。この会議室には直径3.7メートル程度の円形のテーブルがあり、これを9人の政策委員会メンバー、必要と認める場合に出席する大蔵大臣、経済企画庁長官またはその代理者、それに執行部からの担当に応じた報告者が取り囲むこととなります。政策委員会の金融政策決定会合は、通常午前9時から開催されます。
主な経済指標の公表が月末から月初にかけて集中するので、これまでの経験から月の第1回目の会合の方が経済認識や政策判断の議論が濃密になり、第2回目の会合はその後の半月間をレビューして月初の判断の評価、変更の要否を討議するという形が定着してきています。月の第1回目の会合は6~8時間、第2回目の会合は3~5時間をこれまで要しています。
陪席者
円形テーブルの報告者席の後方には、執行部から報告のための待機者と事務局が陪席することとなっています。金融政策決定会合の陪席者は、最小限に絞られています。具体的には、例えば、8月11日の金融政策決定会合の議事要旨をご覧頂ければお解り頂けるとおり、報告者としては、担当理事2名、金融市場局長、国際局長、調査統計局長、企画室企画第1課長、調査統計局の課長クラス1名が出席しており、また、事務局としては、政策委員会室長、同室調査役1名、企画室調査役2名が出席しています。
会合の事前準備
出席メンバーが揃い、会合の開始時刻になると、議長が開会を告げ、議事が開始されます。委員会で執行部からの説明に使われる資料は、政策委員会金融政策決定会合の招集通知とともに、事前に会合の2営業日前までに配付されます。事前配付資料は、金融経済情勢に関する執行部からの現状分析について十分具体的に記載されたもので、図表も含め大部のものですが、委員はこの資料およびその他の情報について、十分に検討、評価し、会合における自らの発言内容や問題意識を概ね固めたうえで、会合に臨むことになります。
前々回議事要旨の承認
こうした準備を経て、会合当日の議事が行われることとなりますが、通常は、まず最初に、前々回会合(通常は約1か月前の会合)の議事要旨の承認が行われます。議事要旨は、あらかじめ政策委員会の各メンバーにドラフトが回付されます。各委員による確認、微調整を経て、毎回の会合の冒頭で、委員会として承認します。
金融経済動向の執行部説明
実質的な議事の最初のステップは、金融経済動向についての執行部からの説明であります。執行部からの説明は、公表している議事要旨からも窺えるように、(1)最近の金融調節、(2)為替市場動向、(3)国内経済情勢、(4)国内金融情勢、の4つの区分で報告が行われ、それぞれについて、必要に応じ、質疑応答がなされます。まず、金融市場局長から、前回会合以降の金融調節の運営実績と金融市場の動向について、説明がなされます。次に、国際局長から、為替市場の動向、米国、欧州、東アジア諸国などの金融経済情勢について、説明がなされます。その次に、調査統計局長から、国内経済情勢についての説明がなされます。この部分は、執行部説明の中でも最も多くの時間が割かれるところです。最後に、企画室企画第1課長から、国内の金融情勢について、報告がなされます。こうした執行部からの一連の説明および質疑応答を通じて、金融経済の現状に関する執行部の分析が各委員に対し提供されることになります。
金融経済情勢に関する討議
続いて、各委員による金融経済情勢および当面の金融政策運営方針に関する本格的な討議が開始されます。まず、金融経済情勢についての各委員の意見が順番に披露されます。この段階では、各委員は金融経済情勢の現状認識についてのみ発言します。ここでは、金融政策の運営方針については一切語られません。各委員が発言する場合には、その前に発言した委員の現状認識についての賛否も含めて発言されることが多く、各委員の発言が一通り終了する頃には、参加メンバーに、各委員の現状認識が概ね理解されることとなります。さらに、必要に応じ、各委員への質問・意見、発言内容の追加がなされます。こうした過程を経て、各委員の発言、討議が終了するのは、通常お昼前後となるので、ここで、昼食の時間になります。
当面の金融政策運営に関する討議
昼食が終了すると、会合のメインテーマである当面の金融政策運営方針について各委員から意見が述べられます。この討議は、会合のクライマックスとも言え、この場面で、金融政策運営に関する議案を明確に提示する場合もあれば、この段階では大枠のスタンスを示すのみにとどめ、委員間での討議を経たのちに、自らの意見を明示する場合もあり、さまざまなスタイルで発言がなされます。金融政策運営に関する各委員の発言がなされたあと、全体を引取るかたちで、議長である総裁の意見が述べられます。その後、必要に応じて各委員間で、意見のすり合せ、対立点の明確化がなされ、採決の対象となる議案の内容が徐々に固まっていきます。また、政府からの出席者がある場合には、当該出席者から意見が述べられることもあります。
採決
議論が十分尽くされたとみられるところで、議長が議案を取りまとめ、採決を行うこととなります。採決は議長のイニシアティブで行われますが、委員から異なる議案が提示された場合には、その議案を先に採決するのが通例です。議案が読上げられ、各委員が当該議案を添付した議決書類の賛成、反対、棄権のいずれかの欄にサインを行います。採決の時には政府からの出席者は席を外すことになっています。
なお、政策変更があった場合には、委員による議論を経て対外公表文が作成され、採決が行われることとなります。
金融経済月報の「基本的見解」の採決
このように金融政策の運営方針の決定がなされた後、毎月の第1回目の会合では、翌々営業日に公表予定の金融経済月報について検討がなされ、冒頭の基本的見解について、必要に応じ委員の意見に基づき修正が加えられたうえ、採決がなされます。
対外公表
金融政策決定会合の議決結果については、会合終了後、約30分後に対外公表されます。対外公表の方法は、公表資料の記者クラブへの配付と日本銀行ホームページを通じたインターネットによる公表により行われます。なお、政策変更のあった場合は、当日中に、議長による記者会見が行われます。
このほか、毎月の第1回目の会合については、その2営業日後に、金融経済月報が公表されるほか、総裁の定例記者会見が行われます。また、前々回の金融政策決定会合(通常は1か月程度前)の議事要旨は、承認された日の3営業日以後に公表されることとなっています。
なお、会合への出席者は、公表までは、その内容について守秘義務が課されることになります。
以上お話したとおり、日本銀行の政策委員会は、新日銀法の理念である「独立性の強化」、「透明性の確保」を実現するために、如何に注意深く議事の進行がなされているかが、おわかり頂けたことと思います。
後ほどお話するとおり、去る9月9日の金融政策決定会合において政策変更を行いました。その際の金融政策決定会合の具体的な議事の内容については今はまだ申し上げられませんが、10月16日には議事要旨が公表される予定になっています。
新法下では政策委員会の討議の中で合意形成が行われるようになったので、個々の委員も委員会としての結論を予め知ることはできず、政府筋にも今回の新法下で最初の政策変更は意外性をもって受け止められたようです。
3.最近の金融経済情勢と当面の金融政策運営方針について
当面の金融経済情勢と金融政策運営方針
日本銀行は、95年9月以来0.5%の公定歩合を維持するとともに、無担保コールレート・オーバーナイト物について、「公定歩合をやや下回る水準」となるよう、運営してまいりましたが、去る9月9日の金融政策決定会合では、公定歩合を据え置く一方、コールレートの誘導目標を「0.25%前後」へ引き下げることを決定しました。あわせて、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、この誘導目標にかかわらず、市場に対して一層潤沢な資金供給を行うという異例の意思表明をいたしました。
本年4月に新日銀法が施行され、新しい政策委員会がスタートして以来、私どもでは、すでに極めて低い水準にある金利について、一段の引き下げを考えるのかどうか、また、それはどのような場合に行うべきかといった点について、議論を重ねてきました。
追加的な金融緩和を行う場合には、設備投資や住宅投資、あるいは企業収益、資産価格などを通じた好影響を期待することになりますが、企業や家計のコンフィデンスが著しく低迷していることなどを踏まえると、そうした措置にどの程度の効果を期待してよいのかが、議論のひとつの焦点となりました。一方、金利を引き下げた場合には、消費者マインドを一段と落ち込ませることにならないかどうか、あるいは、円相場の軟化がアジア通貨に伝染し、アジア経済の撹乱要因にならないかといったことが、懸念される材料でした。そうしたメリット、デメリットの比較考量や金融経済情勢の分析を行いながら、限られた金利低下幅を巡って、熟慮を重ねてきたというのが、これまでの経緯であります。8月11日開催の金融政策決定会合の議事要旨にもこれらについての議論が要約されています。
しかし、ここへきて、経済情勢は一段の悪化をみるに至りました。
実体経済面では、公共事業予算前倒し執行(上期契約目標値81%以上)にかかる発注は、8月からようやく増え始めたものの、民間設備投資や住宅投資の落ち込みがさらに著しいものとなり、雇用・所得面でも、有効求人倍率や所定内賃金の前年比が、統計の作成開始以来、最悪の数字を示すに至りました。物価も、卸売物価、消費者物価が、ともに前年水準を割り込んで推移しています。これらからみて、生産、所得、支出を巡る循環はマイナス方向に働き続け、日本経済は、デフレスパイラルの入り口に立っているとの認識を持たざるをえない状況となりました。
また、金融資本市場の不安定さも目立ってきました。株価は、ロシアの金融危機に端を発した世界的な株安のなかで、8月下旬以来、大きく下落しました。市場金利も、金融機関に対する信認の低下から金利のリスクプレミアムが拡大し、高止まりの状態を続けています。この間、8月にいったん147円程度まで安くなった円相場は大きく反発に転じ、9月上旬には、130円台前半まで回復しました。
このように、わが国経済は、足許の情勢が悪化するとともに、先行きの景気に対する不透明材料も、海外要因も含めて、むしろ増えてきたようにみられます。もちろん、今後は、総合経済対策の効果が現れてくるはずですし、その後も大型の第2次補正予算や所得・法人税減税の方針が打ち出されています。これらを踏まえると、年度の後半には、経済の悪化には徐々に歯止めがかかることが期待されますが、最近の民間経済の動向からみて、景気、物価がさらに下振れする可能性も必ずしも否定できない状況となりました。
以上のような情勢のもとで、9月9日の金融政策決定会合では、様々な論点について議論を尽くしたうえで、「経済がデフレスパイラルに陥ることを未然に防止し、景気の悪化に歯止めをかけることをより確実にする」ため、賛成多数で、今回の措置を決定しました。
私どもとしては、今回の金融調節方針のもとで引き続き潤沢な資金供給に努め、これを通じて、金融市場の安定に万全を期すとともに、マネーサプライの拡大を促していく考えであります。
今回の利下げ幅自体はさほど大きなものではありませんので、効果は小さいのではないかとの見方があることも承知しております。しかし、現在の不安心理の少なくとも一部は、金融システム問題を巡る不透明感を背景に、金融資本市場を起点として広がっております。そのことを踏まえると、新しい金融調節方針のもとで潤沢な資金供給を行い、金融機関全般の流動性確保に対する懸念を軽減することで、この面からの不安心理の鎮静にも寄与することとなるものと考えております。中小企業貸出の基準となっている短期プライムレートをはじめ市場金利は今回の措置に伴って順調に低下しています。ただ、株価へのプラスの影響は、国際的な株価下落や国内企業の業績悪化によって打ち消されたかたちになっています。また、信用リスクへの警戒感の強まりから民間債と国債の利回り格差やジャパン・プレミアムなどの信用リスク・プレミアムも、残念ながら縮小するに至っていません。10月1日に発表された9月短観は、経済情勢の全般的な悪化と先行き見通しの弱さを改めて示すものになりました。また、株価や為替も、先行き不安感と金融システム対策等への期待感から、毎日の材料によりきわめて不安定な動きをしています。こうした状況に対し、今後、今回の金融緩和措置が、景気、金融システム両面での政府の諸施策が着実かつ強力に進められていくことと相まって、景気のさらなる悪化に歯止めをかけ、企業や家計のコンフィデンスの回復にも資することを期待しています。
私どもとしては、これらの効果を通じて、今回の緩和措置の狙いが早期に達成されることを期待するとともに、改めて、景気の回復と金融システムの再生に向けて、関係者が一丸となって取り組みを強化されることを強く期待したいと考えております。
北陸経済の現状
日本銀行金沢支店の見方によりますと、ここ北陸3県の金融経済情勢も、全国的な動きと同様、最終需要の低迷が続いているようです。製造業の生産動向をみても、合繊織物、機械関連、素材関連、建設資材などの業種では、総じて生産水準の引き下げまたは低水準の生産が継続されています。また、小売商況をみても、消費者の支出マインドの慎重化、天候不順なども加わって、全般に低迷していると聞いております。百貨店売り上げが前年割れを続けているほか、観光面でも、温泉旅館の宿泊客数が減少傾向にあるようです。
景気回復に向けての政府の諸施策
景気回復に向けての政府の諸施策の状況をみると、事業規模16兆円超の総合経済対策については、平成10年度予算の上期前倒し執行が地方を中心に遅れ気味でありましたが、8月以降は、目標達成に向けて急ピッチで契約が進められている模様であるほか、第1次補正予算の執行も今後本格化してくることが期待されます。
また、平成11年度当初予算案の概算要求に当っての基本方針では、日本経済のおかれている厳しい状況に鑑み、財政構造改革の基本方針は維持しつつも当面の景気回復を最優先するとの方針が示されております。そうした方針の下で、財政構造改革法の凍結を前提として、11年度の公共事業の執行額が10年度を実質的に上回るよう配慮されております。また、切れ目のない予算執行を図るため、事業規模で10兆円を超える平成10年度の第2次補正予算を編成することとされていますが、ここへきて、政府の経済見通しが今年度マイナス1.7%と大幅に下方修正されたこともあって、第2次補正予算の前倒しや金額の上積みの動きもみられます。さらに、税制面でも、個人所得課税、法人課税について6兆円を相当程度上回る減税を行うとの政府の方針が表明されています。これらが所期の目的を遂げるべく適時適切に実行され、相応の景気下支え効果を果たすことを期待しています。
金融システム問題
次に、金融システム問題についてみますと、不良債権処理が長引く中、昨年11月には、北海道拓殖銀行や山一証券などの大型の金融破綻が相次いでおり、また、最近では、日本長期信用銀行の経営問題等が取り沙汰されているのは、ご承知のとおりです。こうした金融システム不安の高まりやこれに伴う金融仲介機能の低下は、主として個人消費の先送り、設備投資の削減という経路を通じて、わが国景気を急激に悪化させているものとみられます。このように、金融システム問題が実体経済に与える影響を勘案すれば、金融システム問題の解決に筋道をつけることは喫緊の課題といえます。
こうした中で、国会においてこれまで行われてきた金融再生法案を巡る与野党間の協議がようやく合意に達し、10月2日に法案が衆議院で可決され、目下参議院で審議されています。本法案の成立により、金融機関の破綻処理のスキームが整うこととなりますが、当面の重要な課題は、金融破綻を未然に防ぐ早期健全化スキームを早急に固めることです。
総裁が国会答弁等で申し上げているとおり、内外で多様な取引を行っている大手行や、地域で大きなウエイトを占める金融機関の破綻は、内外の金融市場に大きな影響を与えかねないため、そうした事態に至る前に最大限の努力が行われるべきであると思います。こうした先は、一般に極めて多数の顧客を抱え、海外も含め広範かつ多岐にわたる取引を行っています。このため、万が一これらの先が破綻した場合には、取引の連鎖を通じて、内外市場に大きな混乱を引き起こす惧れがあります。さらには、実体経済へもはかりしれない影響を及ぼしかねません。不良債権の重石が金融機関の自己資本を圧迫していることが信用不安をもたらしているので、抜本的な不良債権処理によって資本不足に陥るが破綻には至っていない金融機関に市場の信認を確保できるに足る金額の資本注入を行うことを含め、金融機関の再編淘汰の中で、できる限り早期に経営健全化が進められる必要があると考えています。
金融の量的側面をみると、実体経済活動に伴う企業の資金需要は引続き低迷していますが、民間金融機関の慎重な貸出姿勢をみて、企業の中には、手許流動性を厚めに確保しようとする動きがみられ、社債、CPなどの発行が拡大しています。ただ、直接調達によれない中小企業には資金の量、金利の両面で厳しい状況が続いており、信用保証協会の保証の拡充などの施策もとられていますが、年末越えに向けて資金の流れには十分に注意していく必要があると考えています。
中長期的視点からの構造的政策の必要性
なお、私としては、金融政策の領域外のことにはなりますが、企業や家計のコンフィデンスを回復させ、日本経済を財政支出と輸出が下支えする姿から脱して自律的回復軌道に乗せるためには、中長期的な視点からの構造的政策も必要と考えています。
第1は、経済の先行きに企業や家計が自信を持ち、経済活動を活発化させることにつながるような政策を示すことです。政府では、法人課税については、わが国企業が国際社会の中で十分競争力が発揮できるよう、実効税率を40%程度に引き下げるほか、個人所得課税についても、国民の意欲を引き出せるような税制を目指し、所得税と住民税を合わせた税率の最高水準を50%に引下げる方向で検討することを、表明しています。こうした税制の見直しについて、今後、政府税調等の場で十分な検討がなされ、早期に合意が得られることを期待しています。
第2に、先行き不安による支出抑制には、将来の所得、雇用環境についての不確実性を小さくすることが重要とみられます。例えば、減税を行っても、それが将来の増税と見合うものと考えられれば、消費を増加させる効果が減殺されるとの効果が指摘されています。中期的には行財政改革や社会資本整備の効率化を通じて財政支出を段階的に削減し、減税の財源をファイナンスすることを示すことが重要であると思います。また、年金制度等に関する将来展望を明らかにし、国民的合意を形成していくことも望まれます。
第3に、失業率が4%──欧米基準では8~9%ともいわれますが──を超えて上昇するというわが国にとっては未曾有の経験をする中で、国民の不安感を緩和し、新しい産業分野を開拓していくには、労働市場の弾力化といった構造政策と失業給付の拡充などのセーフティ・ネットを新しい観点から整備して行くことも必要ではないでしょうか。
以上
(参考)
石川県金融経済懇談会出席者
- 石川県副知事
- 杉本 勇壽
- 北陸財務局長
- 山田 孝夫
- 金沢商工会議所 会頭
- 宮 太郎(大和会長)
- 金沢経済同友会 代表幹事
- 飛田 秀一(北國新聞社社長)
- 石川県経営者協会 副会長
- 寺田 外喜男(津田駒工業社長)
- 石川県中小企業団体中央会 会長
- 安田 隆明
- 石川県商工会連合会 会長
- 市村 昭治(村昭繊維興業社長)
- 北陸経済調査会 理事長
- 八田 恒平(金沢ニューグランドホテル会長)
- 金沢法人会女性部会 会長
- 神谷 ますみ(やちや酒造会長)
- 石川県繊維協会 会長
- 丹後 清(丹後商事会長)
- 石川県ニット工業組合 理事長
- 遠藤 幸四郎(金沢合繊社長)
- 石川県鉄工機電協会 会長
- 澁谷 弘利(澁谷工業社長)
- 石川県建設業協会 会長
- 眞柄 敏郎(眞柄建設社長)
- 北陸観光協会 会長
- 上口 昌徳(かよう亭社長)
- 石川県銀行協会 会長
- 高木 茂(石川銀行頭取)
- 石川県信用金庫協会 会長
- 湯澤 重直(金沢信用金庫理事会長)
- 北國銀行 頭取
- 米谷 半平
(以上17名)