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「金融政策決定会合の運営と最近の金融経済情勢および日銀のバランスシート問題について」

道南地区金融経済懇談会における篠塚審議委員挨拶要旨

平成11年2月4日、於函館支店内会議室

1999年 2月10日
日本銀行

(1)はじめに

 日本銀行の政策委員会審議委員の篠塚です。本日は、道南地区の財界や金融界、官界を代表する皆様方とお話しできる機会が得られたことを、誠に光栄に思います。また、平素、私どもの函館支店が色々のご高配を賜っておりますことを、この場を借りて、厚くお礼申し上げます。

 今日は、私から新しい日銀法の下での政策委員会の様子や最近の金融経済情勢等についてご説明させて頂くとともに、皆様から忌憚のないご意見やご要望等を拝聴できればと存じます。

 ご存知のとおり、日本銀行は、昨年4月にスタートした新しい日銀法の下で、政策委員会が中心となって、金融政策をはじめとする政策や業務の運営を行っております。旧日銀法は、戦時中の昭和17年に成立したカタカナ立法であり、そこでは日本銀行の目的を、「国家総力の適切なる発揮を図るため国家の政策に即し通貨の調節、金融の調整及び信用制度の保持育成に任ずる」ことと定めていました。このように時代にそぐわなくなった旧法に対し、昨年4月にスタートした新しい日銀法では、日銀の目的を「通貨及び金融の調節」と「資金決済の安定を通じて信用秩序の維持に資すること」と明記するとともに、「物価の安定」を「通貨及び金融の調節」の理念として定めております。すなわち、常に物価の安定を念頭に金融政策を運営している訳です。また、日銀の政策・業務運営の「独立性」や、政策決定内容・決定過程を国民に対して明らかにしなければならないこと、すなわち「透明性」の確保も謳っておりまして、この2本を柱として私たちの仕事も行われております。本日も、私どもの政策を皆様にご理解頂く、すなわち「透明性」確保の一環として、このような場を設けさせて頂いたということでございます。

 前置きはこれくらいに致しまして、本日は、最初に私から、金融政策を決定する政策委員会の運営の様子や最近の金融経済情勢等についてご説明した後、皆様方から当地の実情に即したお話や忌憚のないご意見を伺いたいと存じます。

(2)金融政策決定会合の運営

 日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会は、議長である総裁、副総裁2名、私を含む6名の「審議委員」の合計9名をメンバーとし、各メンバーが9分の1ずつ平等な投票権を持って、金融政策を含むあらゆる重要な意思決定を行っています。政策委員会のうち、金融政策を審議・決定する会合を「金融政策決定会合」、それ以外の重要事項——例えば金融システム関連や日銀の業務、内部管理関連(最近では支店長宅の問題など)——を審議・決定する会合を「通常会合」と呼んでおりますが、本日は、主にこの「金融政策決定会合」の様子を簡単にご紹介したいと思います。

 「金融政策決定会合」はほぼ毎月2回行われており、前述の政策委員会メンバー9名が出席するほか、執行部からは報告者が出席します。また、大蔵大臣、経済企画庁長官は、必要に応じて出席して意見を述べることができるほか、代理者を出席させることもできますが、決定権は有しておりません。会合の流れを大まかに申し上げますと、まず執行部から金融経済動向の報告があり、その後金融経済情勢および当面の金融政策運営方針に関する討議が行なわれます。その際、金融経済情勢に関する討議をまず行い、これを終えた後、会合のメインである金融政策運営方針に関する討議を行う、という形をとっています。それぞれの討議においては、まず各委員が自分の意見を順に述べた後、質問や意見のやり取り、発言の追加等があります。後段の金融政策運営方針に関する討議の中で、その日に採決する議案が固められていきます。議論が尽くされたところで議長が議案を取りまとめ、採決に移ります。もちろん、個々の委員が議長取り纏めの議案と異なる議案を提出することは自由であり、そのような場合には、複数の議案について順に採決することになります。

 このように申し上げると、比較的あっさりと議事が進むように思われるかもしれませんが、実際には金融政策運営方針に関する討議等において侃侃諤諤の議論がたたかわされるのが普通で、朝9時から夕方の5時頃までかかることも珍しくありません。また最近では、議長が提案する議案が「全員一致」で議決されることはなく、「賛成多数」、すなわち反対者がいるという状況が続いています。この点は、海外の例をみても、例えばイギリスでは、「金利を据え置く」、「引き上げる」、「引き下げる」の3つの意見が対立したり、引き下げ幅について意見が割れたりしていますし、アメリカでも多数意見に対して反対者がいることは珍しくありません。

 金融政策決定会合については、冒頭申し上げました「透明性」の確保の観点から、会合後速やかに結果を公表していますし、月初めの会合の2営業日後には総裁が記者会見を行っています。また、議事要旨の公表が義務付けられており、これを受けて、ある会合の議事要旨を、その次の次の金融政策決定会合で承認したうえで、その会合の3営業日後に公表しています。すなわち、金融政策決定会合のスケジュールにもよりますが、早ければ会合の約1か月後には、議事要旨によって議論の概要が公けになる仕組みです。また、月初めの会合では、日本銀行の金融経済情勢に関する基本的な見解を決定し、これを「金融経済月報」という形で、2日後に公表しております。ご参考までに、最新の「議事要旨」——これは昨年11月27日開催分です——と、1月19日の決定会合後に公表した「金融経済月報」をお手元にお配りしました。この「金融経済月報」の冒頭の書出しが我々の認識している現状を端的に表しておりまして、1月公表分では、「公共投資増加などから、悪化テンポが徐々に和らいでいる」となっています。なお、議事要旨では、反対意見を述べた委員の氏名のみ公表されますが、議論の部分は無記名であり、10年後に公表される「議事録」において、各メンバーの意見が名前入りで掲載されます。

 これら「議事要旨」や「金融経済月報」は、紙ベースのもののほか、日銀のインターネット・ホームページにも掲載されています。「金融政策決定会合の運営」からはやや話題がそれますが、この機会にホームページの宣伝もさせて頂きますと、平成8年11月に開設して以来2年強の間に、累計で1,000万件を超えるアクセスがあるなど、かなり好評を博していると自画自賛しているところです。ご覧になったことのある方もいらっしゃるかもしれませんが、日銀の使命と業務、歴代総裁一覧、組織といった概要にはじまって、金融政策関連の諸決定・公表事項、短観などの統計資料や論文、日銀の決算内容からビデオ貸出サービスや中途採用募集要領にいたるまで、大変充実した内容が盛り込まれておりますので、是非一度覗いてみて下さい。余談ですが、聖徳太子の100円札は実は今でも使えるといったことも、日銀のホームページに掲載されています。

(3)最近の金融経済情勢

 次に、最近の金融経済情勢についてですが、私どもの認識は、先程申しましたように「景気は全般的にまだ悪いが、悪化のテンポは、公共投資の増加から徐々に和らいでいる」、というものです。こうした全般的な景況観のうち、企業収益、雇用、企業金融の3点に絞って若干のご説明をいたします。

 第1の企業収益ですが、この悪化が依然として大変に大きいことが、今回の不況を長引かせている背景です。企業収益が改善しないのは、企業が先行きの展望を描けないために、新たな成長に結び付く設備投資が起きないことがあります。その背景となっている要因をご説明しますと、バブル経済期に作られた過剰設備の調整がまだ十分に完了していないこと、家計の萎縮により消費が改善しないため生産増加の期待に結び付かないこと、実体経済が良くないにもかかわらず為替が大きく円高方向に転じ輸出企業を圧迫していること、国内需要が弱いために国内物価の下落に歯止めがかからず企業収益の悪化材料となっていること、といったものであります。

 第2の雇用の悪化は、GDPの約6割を占める個人消費に大きな影響を与えるため、景気回復の足を引っ張るという点で厳しい要因です。日本的な雇用慣行が根強いわが国では、解雇などのドライな雇用調整は一般には実施されることは少なかったのですが、97年秋の大型金融機関の破綻以来、日本の労働市場に構造変化の兆しが見られはじめ、人々の認識も一変したといってよいでしょう。これから一段と雇用調整が厳しくなると危惧されます。98年11月の失業率は日米が逆転して、日本が4.4%、米国が4.3%となっており、日本がかつて経験したことのない厳しい状況だと言えます。因みに、12月は日本が4.3%となり、米国と同値となっております。他方、日本と同様に雇用安定を誇り、日本より失業率が低かった韓国では、98年初から日本の失業率を追い越し、一年を待たずして日本の倍の8%に達しようとしています。これも日本と同様、金融機関の倒産・合併などの金融不安に端を発した激変です。このような他国の例は、今の日本は十分にリストラを終えておらず、今後、一段のリストラが進むのではないかとの危惧を抱かせるものであり、これからの政策にとって雇用問題が重要なポイントとなることを示しております。

 以上の2点は、企業及び消費者の心理を引き続き慎重にしている要因であり、先行きの景気にとっては悪化要因といえます。3番目の企業金融は、一頃に比べていくぶん落ち着きをとりもどしたため、従来に比べて景気の悪化テンポが和らぐ要因と考えられます。企業金融の逼迫感がいくぶん和らいできたことの背景としては、政府による信用保証制度の拡充措置に加え、日本銀行による潤沢な資金供給やオペ・貸出面での措置(これは後述します)を挙げることができます。こうした状況は、企業倒産件数の増加傾向に歯止めがかかったことや、海外での金融機関の資金調達コストに直接響くジャパン・プレミアムが落ち着いてきたことなどからもうかがわれます。他方、企業の資金需要動向をみると、大企業を中心に手元資金を厚めに確保しようとする動きが依然として続いている一方、設備投資など実体経済活動に伴う資金需要は引き続き低迷しているものとみられます。こうしたことを受けて、M2+CDでみたマネー・サプライの伸び率も、大きな変化なく推移しています(98年7−9月は前年比3.7%、10−12月は4.0%)。

 以上、私どもの、「景気は全般的にまだ悪いが、悪化のテンポは、公共投資増加から、徐々に和らいでいる」 という判断の背景のうち、3つを取り上げてご説明致しました。

 ここで、企業金融に関連して、昨年11月13日に開催された金融政策決定会合において私どもが決定したいくつかの措置について簡単に述べたいと思います。日本銀行は、景気の悪化に歯止めをかける狙いから、思い切った金融緩和スタンスを維持してきておりましたが、わが国金融機関を取り巻く厳しい市場環境や企業業績の悪化を反映して、金融機関の慎重な融資姿勢は変わらず、昨年末から今年度末にかけて企業金融が一層厳しさを増す可能性がありました。このため、私どもでは、日本銀行の資産の健全性に留意しつつ、年末、年度末に向けた企業金融の円滑化に資することを狙いとして、11月に、CPオペの積極的な活用、企業金融支援のための臨時貸出制度の創設、社債等を担保とするオペレーションの導入の検討、という3つの措置について決定した訳です。

 各々の措置をご説明致しますと、まずCPオペについては、既に一昨年秋以来活用してきた訳ですが、日々の金融調節においてこれを一層積極的に活用することとしました。具体的には、買入対象となるCPの期間を、従来の3か月以内から1年以内に拡大すること、また、CPオペの対象となるCPは、まず金融機関が日本銀行に持ち込み、オペ対象として適格か否かを日本銀行が審査するのですが、その審査期間を短縮化することを決定しました。この措置は直ちに実施されましたが、その後市場では期間の長いCPの発行が増えてきているように窺われ、効果が出てきたものと考えています。
 次に企業金融支援のための臨時貸出制度ですが、これは、昨年末および今年度末の企業金融の円滑化に資することを狙って、臨時措置という位置付けで実施するものです。あくまでも臨時の措置ですので、4月には廃止することになっております。具体的には、昨年の9月末から12月にかけて企業向け貸出を増加させた金融機関に対し、貸出増加額の50%については、これを日銀が手形貸付の形でリファイナンスするというものです。その際に日銀が金融機関から受け取る担保は、国債のほか、日銀が適当と認める民間企業債務——民間企業振り出しの手形など——とし、しかも都銀、長信銀、信託、農中は担保の50%以上が民間企業債務でなければならないこととしました。

 この制度に基づく貸出を希望した金融機関は102先で、これらの先は10月~12月期に約8兆円貸出を増加させました。日銀による貸出の限度額は、全体でその半分の4兆円となりますが、これまでのところ、70先に対して1兆円強の貸出を実行しました。なお、日本銀行函館支店管下でも、複数金融機関から申請があり、26年振りに貸出を実行しております。今後も、2月および3月に、貸出の限度額残額の範囲内で、希望する金融機関に対して貸出を実行することになります。10月~12月期の金融機関貸出の実績をみますと、信用保証制度の活用や金融機関の資金繰り逼迫感が幾分緩和しつつあることなどを背景に、これまでの減少傾向に歯止めがかかる形になったようにも窺われます。私どもでは、日銀による潤沢な資金供給の継続や金融システム対策の進展に加え、この臨時貸出制度も、金融機関の資金繰り逼迫感の緩和に寄与したものと考えています。因みに、企業金融の逼迫感が和らいでいることもあって、これまでのところ貸出額は限度額の4分の1程度ですが、2月以降、どういった形で推移するかを注意深く見守っていくつもりです。

 最後の、社債等を担保とするオペレーションは、社債や証書貸付債権を担保として金融機関が振り出す手形を、日本銀行が買い入れることで、資金供給を行おうというものです。これにつきましては、現在導入に向けて、実務的な検討を進めているところです。

(4)日銀のバランスシート問題について

 最後に、日本銀行の政策運営を巡って最近話題になっている日銀のバランスシート問題について、簡単にご説明したいと思います。

 日本銀行の資産、負債残高は、平成9年度中に29.1兆円増加して91.5兆円となった後、足元をみてもその規模は余り小さくなっていません。このようにバランスシートの規模が膨らんだ要因としては、まず、一昨年秋に金融システム不安が高まって以来、金融機関が手元の余裕資金を金融市場で運用することに慎重になったことなどから、市場金利全般が上昇する傾向がみられたため、これに対処するために日本銀行が大量の資金供給を行ったことが挙げられます。ただこうした措置に伴うバランスシートの拡大には、経理上の技術的な要因も含まれています。また、日本銀行は、企業金融の円滑化にも配慮して、CPオペを増加させるなどの措置を講じてきました。更に、金融システム安定化のための貸出——いわゆる日銀特融や預金保険機構向けの貸出が増加したことも、バランスシートが膨らんだ一つの要因です。

 このようなバランスシートの急速な拡大を捉えて、日銀の財務の健全性を不安視する報道等が目立つようになりました。日銀は中央銀行として銀行券を発行しており、日銀の理念である「物価の安定」は、国民が日銀を信頼して銀行券をはじめとする通貨全体を受け入れてくれるかどうかにかかっている訳ですから、「日銀の信頼度」を測る手掛かりとして、そのバランスシートに注目が集まることは、当然とも言えます。また、中央銀行の資産の劣化が原因で中央銀行に対する信認が損なわれれば、それはひいては一国の経済に対する信認の毀損につながりますから、中央銀行のバランスシートに対しては、海外からも大きな関心を呼んでいます。こうした事情から、政策委員会では、常に日銀資産のあり方について慎重に検討しながら、様々な政策を決定・実行してきております。具体的には、資産の健全性、中立性、流動性を確保することを原則としつつ、より効果的なオペレーションのあり方などを工夫している訳です。

(5)おわりに

 以上、簡単ではありますが、私どもの政策決定の様子や最近の金融経済情勢に対する認識などをお話させて頂きました。私が申し上げた点以外にも、日本経済の立て直しにとって非常に大きな論点として、金融システム安定化問題があり、こちらについては、今後の公的資金による資本注入の行方が注目されるところです。いずれにしましても、日本銀行としては、景気ができる限り早く自律的な回復に向かっていくよう、政策運営に万全を期していく積もりでおります。

以上


(参考)

金融経済懇談会出席者一覧

小池亮一
函館税関長
村井太美雄
函館財務事務所長
加藤大明
渡島支庁長
長尾明宏
桧山支庁長
井上博司
函館市助役
竹内巌
(株)北洋銀行函館支店副支店長(函館銀行協会会長行)
佐原正三
函館信用金庫理事長
相馬正明
渡島信用金庫常務
山村祐悦
江差信用金庫専務
沼崎弥太郎
函館商工会議所副会頭
函館国際観光協会会長
((株)エスイーシー社長)
村瀬順一郎
函館地方法人会会長((株)村瀬鉄工所社長)
小笠原金悦
(株)テーオー小笠原会長
相馬宏二
函館どつく(株)副社長
高口義勝
太平洋セメント(株)上磯工場長
浜出雄一
(株)東和電機製作所代表取締役
河内孝夫
(株)湯の川プリンスホテル社長
柳沢勝
(株)魚長食品代表取締役
石黒義男
函館特産食品工業協同組合理事長((株)布目社長)
小泉新一
山一食品(株)会長
田中仁
第二物産(株)会長

(計20名)