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長崎県金融経済懇談会(3月5日)における三木審議委員講演

平成11年3月5日、於セントヒル長崎

1999年 3月 8日
日本銀行

1.はじめに

 日本銀行の政策委員会審議委員を務めている三木です。長崎県の官界、財界、金融界を代表する皆様にお目にかかる機会を得ましたことを大変光栄に存じております。私共の長崎支店は、事務所の時代(昭和20年4月〜昭和24年2月)も含めると、まさに被爆の体験も含めて戦後の長崎経済の発展と共に歩んで来たと申せましょう。そして、支店としてはこの3月1日で満50年を迎えることができました。その間、皆様方から大変なご高配を賜わって参りましたことを、この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。また、長崎支店に対し、今後ともより一層のご支援ご鞭撻を賜わりますようお願い申し上げます。

 私は、昨年4月1日の新日銀法施行と共に審議委員に任命され、まだ約1年ではありますが、前職では43年間鉄鋼業に携わり、八幡製鉄、新日鉄で長年営業を担当してきました。そうした経緯もあり、得意先である造船業のメッカである当県には、これまで何度となく訪れておりますが、こうして再びお邪魔することができましたことを大変うれしく思っております。

 本日は、大勢の方々にお集まり頂いたという経緯もあり、はなはだ恐縮ですが、高いところから約30分ほどお時間を頂戴し、新政策委員会の運営状況、日本経済の現状と問題点、日銀の金融政策について、審議委員の1人としてどのように捉え、考えているかを、かいつまんでお話申し上げてみたいと思います。

2.新政策委員会の運営について

 さて、日本銀行は、昨年4月の改正日銀法施行に伴い、新しい枠組みの政策委員会を設置し、独立性の強化と透明性の向上という理念の体現に努力して参りました。

 日本銀行の意思決定が、「政策委員会」という組織でなされること自体は従来と変わりはありませんが、構成や運営の仕組み等は大きく変更されています。旧法下では、政策委員会というボードのほかに正副総裁、理事といった執行部で形成された「円卓まるたく」と呼ばれるボードが存在し、世間からは意思決定プロセスが2元化されているという批判を受けてきました。新法下では、こうした状態が改められ、政策委員会が唯一のボードとなっています。新しいボードは、金融政策だけでなく、信用秩序の維持、業務執行の基本方針などの日銀の全重要事項をしっかりと掌握しています。この点については、最後にもう一度触れたいと思います。

 また、議決権のあるメンバーも従来の5人から9人に増員され、全員が国会の同意を得て内閣により任命されます。構成も、私のような根っからの産業界育ちが2人、マスコミ経験者の副総裁が1人、わが国トップクラスの経済学者が2人——しかも1人は女性で労働経済の権威——が加わりました。

 政策委員会には、公定歩合の変更等の金融調節事項を審議する金融政策決定会合と経営に関する事項をはじめとするその他の重要事項を審議する通常会合とがあります。過去、とりわけ金融政策決定会合については、臨時の抜打ちの会議とすることがよくありましたが、現在では、通常月2回、事前に公開された日程で開催され、長い時は会議が8時間にも及びます。金融政策決定会合の主な内容は1か月後に「議事要旨」として公表し、アカウンタビリティーの向上に努めています。さらに10年後には「議事録」として逐語的に公表されます。このため、メンバーは自分の一言、一言に責任を持って会合に臨んでいます。

 新体制に移行してから金融政策決定会合も含め100回を超える政策委員会を開催してきましたが、現在の政策委員会は、一般事業法人の経営会議、常務会、取締役会の3つの機能が統合された会議に相当するものと、実際に感じています。

3.足許の日本経済

 98年度も残りわずかですが、今年度の日本経済は誠に厳しいものでありました。振り返ってみますと、97年度に発生した(1)消費税引上げ等の影響、(2)アジア新興国の突如とした経済混乱、(3)拓銀、山一破綻を契機とした日本の金融システムの混乱といった大波を、98年度経済はもろにかぶってしまいしました。実質GDPが97年10〜12月期以降4四半期連続してマイナスとなったことが、その荒波のすごさを物語っているとも言えましょう。

 政府、日銀としては、これを受け止めるために次々と財政政策、金融政策を実施してきました。

 財政政策面では、昨年4月に第1次補正予算16兆円が編成された後、景気の落ち込みの深刻さから秋には第3次補正予算が編成され、まさに前例の無い23兆円という大規模な経済対策となりました。また、金融機関の貸し渋りに伴う中小企業向け対策として20兆円の信用保証枠拡大策がとられました。さらに、懸案であった不良債権処理についても金融再生関連法案の成立で公的資金の枠組みが60兆円に拡充されました。

 金融政策面では、9月9日に無担保コールレート(オーバーナイト物)を公定歩合(年率0.5%)をやや下回る水準から0.25%前後まで引下げたほか、11月13日には企業金融を円滑化するための3つの措置(CPオペ拡大、臨時貸出制度の発足、社債等担保オペの導入)を採ることを決定しました。

 日本経済はこうした一連の対応によって、昨年暮れ頃から実体経済はようやく「底ばい」の状況に入り、その領域で引き続き推移しているとみられます。しかしながら、景気回復の芽がなかなか出て来ません。過去のパターンであれば、どこかの分野で力強い回復の芽がそろそろ覗く時期なのですが、それがまだ見えない状況にあります。多くの人は極めて厳しい状況で現状の底ばいがかなり長引きそうだと感じているのではないでしょうか。

 昨年暮れ頃から実体経済の明暗交錯する動きが出始めたと申し上げましたが、その辺の動きをもう少し詳しくみると、

 まず、明るい動きとして、公共投資が、昨年10月以降、高水準で推移しています。月により多少振れがみられますが、第3次大型補正予算の執行本格化と99年度当初予算につながり、99年度上期一杯は高水準の発注が期待できます。

 販売好調の筆頭は新規格の認められた軽自動車ですが、軽自動車の好調分は普通小型乗用車の落込みにかなりはねており、自動車メーカーは、思うように生産水準を引上げられない状況にあります。

 家電も新技術を駆使した冷蔵庫、洗濯機、パソコン等が堅調な売れ行きを示していますが、業界全体としてみると在庫が減少しただけで、生産水準は依然前年比マイナスの領域で推移しています。

 住宅着工は、11月の年率109万戸という超低水準を底に多少とも回復してきているとみられます。住宅金融公庫の第3回分の募集(11月2日〜12月28日)は、前年比+49.9%となりましたが、これは政策減税や金利底入れ観を反映した買いの動きとみられ、この申込みは4〜6月の着工増に確実に結びつくものとみられます。

 このように、悪化に歯止めがかかってきた業種、分野でも、需要はまだらで、先行きはっきり需要回復に向かう確たる兆しはみられません。

 一方、引き続き暗い動きの代表は設備投資です。機械受注見通しや足許の金融機関への設備資金借入申込みには、ほとんど動意が見られません。99年度の設備投資計画は、計画未定の先が多いようですが、98年度に続き減少するものと思われます。

4.99年度の日本経済

 99年度を展望すると、財政政策の面では、99年度当初予算に既に恒久的減税、政策減税が組み込まれているほか、公共事業についても98年度の流れが途切れることのないボリュームが盛り込まれています。また、金融システム面では、大手行への公的資本注入が内定し、不良債権処理を含む金融システム安定化の動きは進展しています。政策面からの企業、個人のコンフィデンス回復への対応は、年金等の社会保障の問題はあるものの、大方の施策は出揃った段階に差し掛かっています。

 にも拘わらず、99年度経済になかなか回復の確りした芽が覗いてこないのは何故でしょうか。その最大の要因の1つは、足許にある30〜50兆円ともいわれる巨大な需給ギャップが価格形成面で企業を大変苦しい立場に追い込んでいる点にあると思います。このギャップを公共投資等の需要面からだけでは埋め合わせることは到底できず、まさに設備の構造調整が不可避な局面に来ています。そうした調整が進展すると、当面はあれだけの財政出動を駆使して、公共投資、住宅投資、個人消費をプラス方向に持ち込んでも、その需要増加分を設備投資の落ち込みがかなり食いつくしてしまう可能性が高く、仮に、為替円高や貿易摩擦の面から輸出の伸び悩みがこれに加わるようなことになると、99年度日本経済のプラス成長の達成は厳しさを増してくるものと思われます。

 特にこの3月、4月のsituationについては、決して良い想定が望めないと申せましょう。その背景となっているのは、(1)底ばいが、かってない低水準で長引く可能性、(2)企業の3月期決算の悪化、赤字企業の続出、(3)公的資本注入の効果が現れるまでの間の問題——銀行経営の正常化の動きと貸し渋りの動きの二律背反——、(4)大規模構造調整の及ぼす負のインパクト等、であります。財政は十二分に出動し、金融政策も金利水準は限界に来ています。こうした政策と相俟って、各企業が、新製品開発や技術開発により需要を掘起しつつ、設備廃棄等のサプライサイドの構造調整リストラを推進し、合わせ技で景気回復の道筋を切り開いていくことが不可欠です。しかし、企業の雇用削減の動きが拡大した場合、雇用問題をどのように対処していけるのかという問題点は残りますし、また賃金の面でも、今春闘は、大企業でもベースダウンが有り得る難しい局面と見ざるを得ません。さらに大半の企業は、業績を当然賞与に反映させるでありましょうから、夏季賞与の大幅ダウンは避けられません。

 こうした動きは、経済にデフレ圧力を及ぼすとみられ、当面の設備投資の落ち込み度合いと消費動向には引き続き目が離せないと申せましょう。確かに、政府の財政面での対応余力は乏しい訳ですが、政府としても、失業対策の強化やリストラ絡みの設備廃棄促進策を、合わせて念頭に置いておくべきではないかと個人的には思っています。

 このような景気回復を阻むsituationを第1のsituationと呼ぶとすれば、それに上乗せした形で、1月下旬から2月の上旬にかけて長期金利上昇、円高、株価低迷という第2の悪いsituationが出現した訳です。

 こうしたsituationの悪さを考えると、景気回復に向けた政府の財政政策、金融措置、金融システム安定化策の下で、企業の自助努力による構造調整リストラを可能な限りサポートし、デフレ懸念を払拭し、景気回復に向けて足許を固めるべく、潤沢な資金供給を目指してさらなる金融緩和措置を採るべきであると日銀は判断しました。

 そして、日本銀行は2月12日に「無担保コールレート(オーバーナイト物)をできるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す」ことを決定しました。無担保コールレート(オーバーナイト物)は0.12%までは一気に調整が進み、現在はさらにそれを下回る前人未到の超低金利にトライしている状況にあります。

 その後、2月12日の政策変更は各金融市場に波及、浸透し、為替相場は113円から120円台まで円安化したほか、長期金利も2.3%から1.5%台まで低下し、株価も14,000円割れから14,500円前後の動きに流れが変わってきており、取り敢えずさらなるsituationの悪化は防げた状況にあります。私の言葉で申し上げれば、2月12日の金融政策の変更は、第1のsituationが厳しい中で、第2のsituationが重なって発生することを抑え、先行きのデフレ圧力が高まることを回避するところに最大のポイントがあったと言えます。景気を底ばいの状況から底入れの状況にそして確かな回復方向に展開するよう、政策面で早めに対応したということであります。

 99年度の経済の経路としては、金融システム安定化策をさらに進めると共に、企業、個人のコンフィデンス回復に向けての施策、ビジョンを示し、上期の需要を公共事業で支えながら、恒久的減税や政策減税の実施により個人消費、住宅投資の潜在需要に刺激を加えるというのが第一ステップであります。勿論、これと並行して耐久消費財について、新製品、新技術で蓄積されている潜在的な買い換え需要を引き続き強力に掘起こす必要があります。そして下期に望まれる展望としては、設備投資についても、設備廃棄等の処理に先が見え始め、繰延べてきた更新投資、補修維持投資にも多少目が向き始める。そうしたステップが歩めれば、民需は下期の終わりには多少とも回復に向かうことが想定されます。後ろ向きの処理と前向きの対応を同時に進めることは難しいことです。しかし、後ろ向きの処理を果敢にスピーディーに行うこと、そして前向きな対応を呼び寄せることが、回復への出口を見つけるポイントになると言えるかも知れません。

5.日銀のバランスシート問題

 日本銀行の金融政策は、日本銀行のバランスシートの変化と密接であり、政策委員会にとって財務の健全性を維持することは重要な責務であります。98年3月末のバランスシートが前年比5割弱の膨張を示したことが内外の関心を集めた訳ですが、中央銀行の財務の健全性は銀行券ひいては日本の信用と密着したものである以上、それは当然のことと言えます。

 日本銀行のバランスシートのポイントは、(1)「資産の健全性確保」、(2)「資産の流動性確保」、(3)特定の金融資産に傾斜しないという意味での「資源配分の中立性」の3点です。日本銀行のバランスシートの97年3月末から98年3月末にかけての膨張は、国内の短期金融市場における円滑な資金供給のためにレポ・オペ、買入手形オペ(CPオペを含む)と売出手形オペの手法を柔軟に活用したこと、およびレポ・オペの経理処理に伴うバランスシートの技術的な膨張による部分が、その要因の7割を占めており、それ自体は財務の悪化ではありません。CPオペには個別企業への信用リスクがあるとの見方がありますが、信用力等の面から適格と認めるものだけを金融機関との現先方式により買入れることとしており、企業と金融機関の二重の信用により安全性を補強しています(いわゆる複名性)。

 ただ、中央銀行の最後の貸し手機能が「打ち出の小槌」のように思われている面がある点には、十分な注意が必要であると考えています。特に、預金保険機構向けの貸出は、短期のつなぎ融資に止まらずに、長期の固定化につながります。こうした貸出の拡大は、その規模によって流動性を著しく損ねます。この点は、政府、日銀による金融システム対策遂行との関連でどう判断するかだと思います。日銀の資金供給は、資本性の資金供給ではなく、流動性の資金供給(つなぎ資金)に徹するべきです。

6.日銀の取組んでいる変革

 最後に、日本銀行はかねてより効率的な経営に努めているところですが、新しい日銀法でも「適正かつ効率的に業務運営するよう努めなければならない」とされています。

 そうした中で、昨年4月には、組織改革、業績重視の人事制度改革を行いました。また、役職員の給与等についても新日銀法で求められている社会一般の情勢に適合したものとなるよう見直しを行い、新たなる支給基準を定め、役員分については昨年3月に総裁給与を22%引下げるなどの措置を、職員分については9月に平均で4%程度引下げを行いました。不要な資産等の売却には以前から取組んできたところですが、保養所等についても一斉に整理するほか、支店長社宅もマンションに切替えることで規模の縮小を図ることとしました。

 さらに、業務運営の効率化についても、内部の目だけではなく外部の目も入れて一段の効率化に取組むこととしています。また、支店の機能見直しについても検討を進めていく方針です。

 日本銀行の中に10年、20年前の慣行が見直しされぬまま残っていた部分があったことは事実ですが、日銀の風土を改め新しい時代に即した経営に変える工夫を、国民の立場に立って、政策委員会の判断の下で、信認の向上に向けて不断に行って来ていることも是非ご理解頂ければと思います。こうしたこれまでお話申し上げることの少なかった点についても、本日は触れさせて頂きました。

 ご清聴どうも有り難うございました。

以上