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「貯蓄広報中央委員会委員総会」における総裁挨拶要旨

1999年 3月24日
日本銀行

(1)  貯蓄広報中央委員会の委員総会にあたり、ひとことご挨拶申し上げます。

 私が日本銀行総裁を拝命しましたのは、昨年の3月20日でありましたので、はや1年がたちますが、私の就任10日後の4月1日に独立性と透明性の2つの理念を柱とした新しい日本銀行法が施行され、新生日本銀行がスタートいたしました。こうして生まれた新しい体制のもとで、私どもはこの一年間、日本経済が抱えている2つの大きな課題、すなわち、景気の早期回復と金融システム不安の解消に向けて全力を傾けてきたところであります。

 景気の現状につきましては、先週公表した金融経済月報でも述べておりますとおり、公共投資の増加などが最終需要を下支えする中で、在庫調整が一段と進展し、生産活動は下げ止まっております。このように、景気は、足許、下げ止まりの様相を呈しております。

 ただ、企業収益が減少しておりますほか、家計の雇用・所得環境も引き続き悪化しているなど、景気の先行きについては、なお、速やかな民間需要の自律的回復を期待し難い状況が続いております。

 この間、私どもはそうした状況を踏まえ、一段の金融緩和や、そのもとでの潤沢な資金供給の継続など、金融政策面から様々な措置を講じてまいりました。特に先月来の金融緩和措置のもとで、オーバーナイト・コールレートは、最近ではゼロ%近くまで低下しているほか、1か月物や3か月物など、やや長めの短期金利も、かなり低下しております。さらに —— これには金融緩和以外の要因も作用していると思いますが —— 長期金利が一頃に比べて明確に下がり、為替相場も総じて円安方向に動いてきました。株価も1万6千円前後まで回復しています。

 私どもでは、こうした金融資本市場全体の変化が持続するならば、投資採算の改善や、金融機関・企業の資金繰りの緩和、さらには企業や家計のコンフィデンスの改善を通じて、経済に好ましい影響を与えていくものと期待しております。

 一方、金融システム問題につきましては、一昨年秋の大手金融機関等の経営破綻を契機として、国民の間に急速に不安が広がりをみてきたところであります。私自身、こうしたさなか、就任したわけでありますが、金融機関の信認回復のため、金融機関自らが自己査定結果の開示も一つの選択肢として、不良債権の情報開示に創意工夫を凝らしつつ、早期に不良債権を抜本的に処理することが必要であること、また、その際、自己資本が減少する場合は、公的資本投入の活用も含め、思い切った資本増強等を図る必要があることを繰返し申し上げてきました。このうち、公的資本投入に関しましては、今月12日、金融再生委員会が、大手15行について総額約7兆5千億円の申請を正式に承認されたところです。私どもとしては、こうした取組みが、金融システムの安定化に貢献することを期待しております。

(2) 以上のように、足許の景気は下げ止まりの様相を示し、また、金融システム面でも、信認回復に向けての前向きな取組みがみられるところです。しかし、貯蓄運動の直接的な対象である一般生活者の実感は、大きく改善をみるには至っておりません。因みに、私どもが今年2月に発表しました「生活意識に関するアンケート調査」の結果をみてみますと、経済全体としての「景況感」、個人としての「暮らし向き」のいずれについても「過去一年間で悪化している」との回答が全体の過半を占めるなど、生活者の判断は、引き続き厳しいものとなっております。

 また、こうした問題のほかに、金融面における大幅な規制緩和、いわゆる日本版ビッグバンの動きに対しましても、生活者はなお戸惑いをみせているのが実情であるように思います。ビッグバンとは、金融取引の場を、より一層効率的で魅力あるものにしていく改革であり、これにより、生活者にとっても新しい金融商品が登場し、資産運用の選択肢が広がるといったメリットが得られるようになります。ただ、その一方で、選択の結果に対して自己責任が求められるようになってまいりますが、現状では、これに対する生活者の備えが必ずしも十分ではないとの声も聞かれるところです。

(3) こうした状況にあるだけに、「自己責任意識に基づいた健全で安定した生活」ができる環境作りを求める声が、生活者の間に一段と強まっているのではないかと感じております。「貯蓄と消費のバランスのとれた生活」を勧奨し、生活者の観点から暮らしに役立つ基本的かつ分かり易い金融経済情報の提供に運動の主軸を据え、「心豊かで安定した生活」の実現を目指す貯蓄広報中央委員会の活動は、今まさに国民が最も求めているもののひとつといっても過言ではないように思われます。こうした広報活動、啓発活動の一環として、預金保険制度に関するパンフレットや、ビッグバンの内容、個人向けの金融商品を平易に解説した冊子類を提供されているということですが、私どもの立場からみましても、最近のような金融経済情勢のもとでは、きわめて適切でかつ時宜を得たものであると思います。今後も、金融面における自由化がさらに進むのに伴って、国民ひとりひとりがリスク管理を含めた正しい金融知識を身につけていくことがますます重要になってくるものと思われます。

 貯蓄と消費のバランスのとれた健全な家計運営は、ミクロの面からみて、わが国経済の安定的成長を実現していくうえでの基盤であります。その点、「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資すること」を目的とした、新しい日銀法の精神にも相通じるものがあると感じており、貯蓄広報中央委員会が、現在の3本柱を軸とした活動を引き続き展開され、国民の期待に応えていかれますことを強く念願しております。

(4) 最後になりましたが、貯蓄広報中央委員会が昭和27年の委員会発足以来、実に約半世紀の長きにわたり、その時々の時代の要請に即応した活動を展開され、大きな成果を挙げてこられましたことに改めて深く敬意を表する次第でございます。先程の会長のお話の中で、貯蓄運動に対するニーズがさらに強まっている一方で、運動を巡っていくつかの問題が生じてきているとのことでありますが、国民がかつてないほど強く「心豊かで安定した生活」を求めておりますだけに、日本銀行としても、中立・公正な立場から国民生活をサポートする貯蓄運動に今後も支援を惜しまない所存でございます。本日ご列席の皆様方におかれましても、引き続き貯蓄運動に格段のご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げまして、簡単ながら私のご挨拶とさせていただきます。

以上