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道東地区金融経済懇談会における藤原副総裁挨拶

1999年 7月 7日
日本銀行

1. はじめに

 日本銀行の藤原です。昨年春、新しい日本銀行法が施行され、独立性と透明性を二つの軸とする新しい日本銀行が生まれました。この一環として、日本銀行では、正副総裁、および政策委員会審議委員、いわゆるボードメンバーが、できるだけ頻繁に全国を訪問し、皆様に日本銀行の施策の趣旨をご説明申し上げ、かつ各界のご意見を直接にお聞きして、政策により反映させていこう、ということになりました。

 こうしたことで、本日は、 大畑 おおはた 支庁長、 綿貫 わたぬき 市長をはじめ、道東の各界を代表する皆様方にご多忙のなかをお集まりいただき、親しくお話をする機会が得られたことを誠に光栄に存じます。改めて歴史を紐解いてみますと、この釧路の地は、今を1世紀以上遡る106年前、明治26年4月に──現在の日本銀行釧路支店の建物の隣にある 幣舞橋 ぬさまいばし の前身である 愛北橋 あいほくばし ができた明治22年の後、かつ、釧路市の前身である「釧路町」が誕生する明治33年よりも前ですが、──日本銀行の「派出所」が開設された場所でありまして、私どもにとりましても、非常に ゆかり の深い場所であります。また、お札、すなわち日本銀行券のうちの千円札の図柄には、当地のシンボルである丹頂を使わせていただいており、この点でも、 ゆかり の深さを感じる次第であります。

 皆様方には、私ども日本銀行の政策ならびに業務の運営に関しましては、日頃からご協力をいただいております。近年では、平成5年、そして6年と続いた当地の大地震に際しましても、皆様方との連携により、被災後の対応に参画させていただきました。本席をお借りして、改めて、皆様方の日々のご協力に御礼を申し上げたいと存じます。

 本日は、まず私から、最近の金融政策運営および金融システム面での課題などにつきまして、私どもの考え方を申し上げさせていただたいと存じます。

2.最近の金融経済情勢と金融政策運営

 まず、金融政策運営についてですが、私どもが、2月に「より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート・オーバーナイト物を、できるだけ低めに推移するように促す」政策、いわゆるゼロ金利政策を実施して、5か月近くが経過しました。

 その後の金融情勢をみますと、オーバーナイト物レートがゼロ%に近い水準での推移を続けており、金融機関の多くには、流動性確保に対する安心感が浸透しています。また、株価が堅調に推移しているほか、長期金利も、年初に比べれば引き続き低い水準にあるなど、市場環境は全般に好転しております。さらに、金融機関の資金繰り面や自己資本面の制約が緩和されてきているなか、企業金融を巡る逼迫感も一頃に比べ和らいできております。こうした金融環境の好転が、景気に対して徐々に好ましい影響を及ぼしていくことが期待されます。

 そこで実体経済面の動きですが、設備投資は、年明け後やや持ち直しましたが、基調としては引き続き減少傾向を辿っています。また、個人消費も、全体として回復感に乏しい状態が続いています。一方、明るい動きとしましては、住宅投資が、低金利と減税の効果から、このところ持ち直しているほか、公共投資も、春先の発注大幅増を受けて、引き続き高水準で工事が進捗しています。

 こうした最終需要の動向や、在庫調整が引き続き進捗していることを背景に、生産は下げ止まっています。また、金融システムの建て直しに向けた取り組みなどの効果もあって、企業・消費者心理も下げ止まっているようにうかがわれます。

 しかしながら、企業収益が低迷しているほか、家計の雇用・所得を巡る環境も引き続き悪化しています。また、企業のリストラなどの構造改革は、日本経済の立て直しのために避けて通ることができないプロセスではありますが、短期的には、設備投資や雇用にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。こうしたことを踏まえますと、民間需要の速やかな自律的回復は依然として期待しにくい状況にあります。

 また、物価面をみますと、原油など国際商品市況の底入れが、一時的には、物価を支えるとみられますが、こうした実体経済の状況のもとで、物価に対する潜在的な低下圧力は、引き続き残存していると考えられます。

 このように、足許の景気は、「下げ止まっているものの、回復へのはっきりした動きはみられてない」という状態にあります。一昨日公表された企業短期経済観測調査(短観)をみましても、業況判断や製品需給・資金繰りを巡る判断は改善しましたが、生産設備や雇用の過剰感にはほとんど変化がなく、また設備投資計画も慎重なものとなるなど、全体として、今申し上げたような景気の情勢を確認する内容となっています。

 こうした状況を踏まえ、日本銀行としては、デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまでは、現在の思い切った金融緩和基調を維持し、経済活動を引き続きしっかりと下支えしていく考えです。

3. 金融システム面の課題

 次に、金融システム面の課題について申し述べます。

 日本銀行では、コンピュータ2000年問題への対応を、当面の最重要案件の一つと位置付け、金融界全体として早期かつ適切な対応が図られるよう取り組んできたところです。

 当地の金融界におかれても、現在、急ピッチで対応を進められていることと存じます。ただ、この問題は、コンピューター化された社会のなかで、極めて広がりの大きいものであるだけに、様々な分野で予想外の事態が発生しかねないものでもあります。したがって、自らのシステム面の対応さえ十分であれば良いというものではなく、不測の事態に備えた「コンティンジェンシー・プラン」をしっかりと策定しておくことが肝要です。

 当地の金融界の皆様方におかれてましても、こうした点をも念頭に置きつつ、最後まで手を緩めることなく万全を期していただきたいと思います。私どもとしても、引き続き、皆様方と密接に連携しながら、備えをさらに確実なものにしていく所存です。

 次に、わが国金融システムを如何に再生していくかという点に目を転じますと、個々の金融機関が極力早期に不良債権の処理を完了するとともに、金融再編の流れをも視野に入れて、営業基盤の強化や業務の再構築を図っていくことが重要と考えています。

 近年、金融界では、それぞれの業態において、顧客サービスの向上や業務の効率化および経営基盤の強化などの観点から、戦略的な合併や提携が進められています。こうした動きは、金融機関を取り巻く厳しい環境への有力な対応策の一つであり、将来を見据えた経営戦略を立てていく上での重要な選択肢として、今後とも地域の実情に応じて真剣に検討されることを期待しているところです。

 なお、昨日、金融審議会より、「預金保険制度に関する論点・意見の中間的な整理」が公表されましたので、この問題について簡単に触れたいと思います。本ペーパーは、セイフティーネットの柱である預金保険制度の今後のあり方、つまり、預金等の全額保護を始めとする各種の特例措置が終了する2001年3月末以降の預金保険制度のあるべき姿について、ここ数年の経験も踏まえ、幅広くかつ詳細に検討すべき課題を論じています。

 今後、このペーパーを基に、金融審議会等の場でさらに具体的に検討が進められていくことになるものと思われますが、この問題は、国民各層の関心が非常に高い重要な問題であり、私どもとしても、少しでも早く成案が得られるよう期待しているところです。勿論、日本銀行としても、そうした検討作業に積極的に貢献して行きたいと考えています。

4. おわりに

 当地は「霧」が名物ですが、釧路空港には、優秀なる誘導システムがあり、飛行機の順調な発着が確保されているとうかがっております。私も、昨日、無事「時しらず」の鮭の季節に当地に参ることができました。わが国経済も、今申し上げましたとおり、霧の深いなかから脱しようとしている状態にありますが、一刻も早く「霧」から脱するべく、関係の各位と力をあわせつつ、離陸誘導の努力を続けたいと考えている次第であります。

 当地におきましても、日本銀行釧路支店が窓口となり、皆様方のご理解とご支援を引き続き賜りたいと考えておりますので、どうぞ宜しくお願いを申し上げます。

 私からのお話は、ひとまず以上とさせていただきます。

以上