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「財政赤字を憂える会」における藤原副総裁発言要旨

1999年11月18日
日本銀行

目次

本席の配布資料(図表1~12)は、こちら(ko9911c.pdf 140KB)から入手できます。

はじめに

 本日は、このような場でお話する機会を得られましたことを、たいへん光栄に存じます。私の立場からは、財政問題に触れつつも、それとの関連を踏まえながら、金融政策を中心にお話しするのが、適当かと思います。

景気の現状と先行き

 まず、政策論の前提として、日本経済に対する私どもの認識をお示ししておきたいと思います。

 お手元の資料の図表1をご覧ください。足許の景気は、下げ止まりから持ち直しに転じつつあると判断しております。公共投資や住宅投資が増加して、経済を支えているうちに、夏頃からはアジア経済の回復等を反映して輸出が増加し始め、在庫調整も一段と進みました。このため、鉱工業生産は、夏頃から増加に転じており、7~9月は前期比+3.9%と、近年みられない高い伸びとなりました。10~12月も、堅調に推移する見込みです。

 下には短観のグラフがございます。これは、業況判断DIと申しまして、景気を「良い」と感じる企業の割合から、「悪い」と感じる企業の割合を引いたもので、企業のマインドを表す代表的な指標のひとつです。これをご覧いただきますと、企業のマインドは、まだ水準は低いですが、昨年末以降、着実に改善傾向を辿っています。

 次に、図表2をご覧ください。物価も落ち着いております。例えば、消費者物価は昨年の秋頃はマイナスに落ち込み、デフレ的な様相を呈していましたが、最近はほぼ横這いになっています。ときどき、日本が大恐慌に陥っているかのようなイメージで、「国債引き受けでも調整インフレでも何でもやるべきである」、というような論調が、海外の学者などから聞かれることがあります。しかし、今ご覧いただいた景気や物価の情勢からみて、日本がデフレの真っ只中にあるかのような認識を前提とした議論は、適当でないことがおわかりいただけると思います。

 しかし、同時に、まだかなり大きな需給ギャップが存在していることにも、注意しなくてはなりません。需給ギャップの具体的な数字を計算するのは難しいので、下のグラフでは、短観を使って、企業経営者が肌で感じる「需給ギャップ」を示してみました。具体的には、設備が「不足」していると感じている企業の割合から「過剰」と感じている企業の割合を引いた設備判断DIと、雇用に関して同じように作成したDIとを、合成した指標を作ってみました。このグラフが下に行けば行くほど、設備と雇用を総合的にみた供給余力が大きい、すなわち需給ギャップが大きい、ということになるわけです。これをご覧いただきますと、2つのことがわかると思います。第1に、需給ギャップの拡大はどうやら止まったよう思われこと、第2に、それでもなお相当の過剰設備や過剰雇用が存在していることです。私どもは、このような点も含め、将来の景気や物価に関する様々な要因を踏まえて、現段階では、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはまだ至っていないと判断しています。

 次に図表3をご覧ください。景気の現状を、GDP統計で確認しておきますと、前年比でみたGDPは、本年に入ってプラスに転じつつあります。ただ、その中身をみますと、政府支出が大幅なプラスとなって、全体を支える姿になっています。この4~6月までのGDP統計では確認できませんが、夏以降は輸出も景気を支えていると思われます。一方、個人消費は、一応プラスになってきてはいますが、他の消費関連データの動向も考え併せますと、まだ回復しているとみることはできません。また、設備投資は、製造業では下げ止まりの兆しがみられるとはいえ、全体としてはまだかなりのマイナスを続けております。つまり、景気は、財政と輸出に頼って何とか水面上に顔を出してきましたが、民間需要の自律的回復のはっきりした動きはみられない、というのが今の情勢です。

財政赤字をどう考えるか

 しかし、いつまでも財政に頼っているわけにはいきません。財政赤字が行き過ぎれば、民間部門の健全な発展を阻害しますし、長い目でみてインフレ圧力が高まっていきます。したがって、「物価の安定」を目的とする日本銀行としても、この問題については重大な関心を払わざるをえません。

 図表4の上のグラフをご覧ください。OECDによれば、日本の財政赤字は、本年はGDPの約11%に達し、かつてのイタリア並みまで拡大するという見通しになっています。もちろん、その国その国、その時その時で、マクロの経済事情は大きく異なりますので、「かつてのイタリア並みだからもうだめだ」というように、単純には結論づけられないことも事実です。現在の日本経済は、家計の貯蓄率が高く、企業の資金需要も弱い状況にあります。このため、財政は確かに大幅な赤字ですが、家計と企業を併せた民間部門全体の貯蓄は財政赤字を大きく上回り、日本経済全体としてかなりの貯蓄超過になっています。そのために、経常収支は大幅な黒字になっており、余剰資金が海外へ流出しているのです。つまり、今のところ、財政赤字は民間の貯蓄で円滑にファイナンスされており、国の資金調達と民間の資金調達とがぶつかり合って金利が上昇するといった状況にはなっていません。因みに、下の長期金利のグラフをご覧いただきますと、日本の長期金利は歴史的にみても、他の先進国と比べても、非常に低い水準にあることがわかります。

 しかし、そうは言っても、財政赤字の規模が非常に大きくなっていることは紛れもない事実ですし、中長期的にみれば、急速な高齢化等を背景に、国民の貯蓄率は低下していくでしょう。したがって、財政再建に向けて、真剣な議論がなされていかなければなりません。その際に、中央銀行の立場から申し上げておきたいことは、インフレとの関係です。

 よく、財政赤字解消の方策として、「最終的にはインフレ以外にはないのではないか」という見方があります。つまり、国の債務をインフレで実質的に帳消しにしようという考え方です。インフレが持つ経済的、社会的なマイナス面を考えれば、これはもともと中央銀行として受け容れられる方策でありませんが、「そもそもインフレにしたからといって財政再建が実現できるわけではない」ということも、この際強調しておきたいと思います。

 国債が取り引きされる市場では、人々は常に経済を先読みしながら売買を繰り返しています。しかも、その市場は世界中の市場とリンクしていて、資金は内外を自由に出入りしています。そのような中でインフレを許容するような政策を講じると、それだけで内外の投資家は不安になり、将来のインフレ分を上乗せした高い金利を前もって求めるようになります。つまり、インフレによっていくら名目の税収が増加しても、国債金利の急上昇で国債費も加速的に増加し、結局財政赤字は減らないのではないか、ということなのです。かつて、戦費調達国債の返済負担を、高インフレによって帳消しにした経験をわが国も持っているわけですが、市場が発達している現在では、そうしたインフレに頼る戦略は、副作用があるばかりでなく、もはや効果自体が期待できなくなっているように思います。

 つまり、財政再建に奇策はありません。やはり、しっかりした政治的決意のもとに、日本経済が目指す構造改革の方向と整合性を取りつつ、不断に財政支出の効率化を図っていく、という方法論しかないのではないでしょうか。なお十分な回復力を持たない民間経済を、財政面から今しばらく補完していくことも必要ですが、その際に、今申し上げたような構造改革との整合性を明確にして、民間経済が自分の力で回復していく環境を整えていくことが、重要であると思います。

ゼロ金利政策の継続

 財政についてはこれぐらいにして、金融政策に話題を移したいと思います。図表5をご覧ください。現在日本銀行が行っている金融政策は、オーバーナイト金利をできるだけ低めに推移させるという、いわゆる「ゼロ金利政策」です。そうした超低金利を実現するために、日本銀行は、金融機関が法律上積まなければならない準備預金——所要準備——を1兆円ほども上回る豊富な資金を、供給し続けています。量的にみても非常に思い切った金融緩和を行っているわけです。また、この1兆円というのは固定的なものではありません。日本銀行は、市場の地合いを日々みながら、例えば市場金利が上昇するかもしれないような局面では、機動的かつ弾力的に資金供給額を拡大しています。

 図表6をご覧ください。10月13日の金融政策決定会合では、ゼロ金利政策の持つこうした弾力性について、改めて市場に明確に示すことといたしました。同時に、コンピューター2000年問題などで市場金利の上昇圧力が強まる場合でも、日本銀行として弾力的に対応する方針であることを明らかにしました。また、金融政策手段の機能向上という観点から、短期国債を対象とするアウトライト——買い切りや売り切り——のオペを導入することなども決定いたしました。このように、日本銀行は、金利の引き下げ余地がなくなってしまった状況にあっても、様々なきめ細かい措置を打ち出すことによって、金融緩和の効果を一層浸透させていくよう、努めている次第です。

ゼロ金利政策の効果と限界

 今ひとつの重要なポイントは、こうした思い切ったゼロ金利政策を、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで続ける」旨を明確にしているという点です。こうした日本銀行の強い決意表明もあって、ゼロ金利政策の効果は、金融市場に広く浸透してきています。

 図表7をご覧ください。市場では、オーバーナイト金利だけでなく、3か月物などのいわゆるターム物金利も、きわめて低い水準まで低下しています。確かに、ごく足許は、2000年問題に対する漠然とした不安から、3か月物のユーロ円金利はやや上昇しています。しかし、見方を変えれば、昨年は年末越えのユーロ円金利が0.7~0.8%程度だったのですから、今年は2000年問題に対する不安心理があっても、なお0.3%台と昨年の半分程度に収まっていると言えるでしょう。

 図表7の下は、長期金利(10年物国債利回り)と株価(日経平均)のグラフです。景気は、今年の初め頃に比べればだいぶ明るい動きが出てきていますので、株価は1万8千円台と年初より約4千円も高い水準まで上がってきています。しかし一方で、長期金利は、ごく最近でも1.7~1.8%程度と、今年の1月や2月頃に比べて、むしろ落ち着いた動きになっています。つまり、長期金利は、景気回復期待を次第に織り込みつつも、ゼロ金利政策による「金余り状態」のもとで、大きくは上昇しにくい状況になっているように思われます。

 ゼロ金利政策の効果は、金融機関の貸出行動にも及んでいます。図表8をご覧ください。上のグラフは、短観の貸出態度判断DIですが、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出姿勢は昨年よりはだいぶ緩和されてきています。確かに97年までの状態には戻りきっていませんし、個々にみれば銀行からお金が借りられないというケースもあるでしょうが、全体としては、昨年のような厳しい「貸し渋り」は和らいできたと言えそうです。

 ただ、下のグラフにみられるように、実際の貸出は低迷が続いています。これは、基本的には、設備投資が減少を続けるもとで、企業の資金需要が乏しいことを反映した動きだと思われます。多少収益がよくなったら、まずは過去に借り入れた債務の返済が優先、という企業も多いようです。また、昨年は企業金融を巡る環境が厳しかったため、企業はいざという場合に備えてあらかじめ多めに資金を調達しておくという行動をとりました。しかし、今年は、優良企業であればいつでも資金調達ができるという安心感がありますので、これまで多めに手許においておいた資金も、一部返済に回されているようです。その意味では、やや皮肉ではありますが、金融緩和の効果が浸透して流動性に関する安心感が強まってきたからこそ、今は一時的にせよ、かえって貸出が低迷しているという面もあるように思います。

量的ターゲティング

 こうした貸出面の動向からもわかりますように、金融政策だけで自然に資金需要が出てくるというものではありません。日本経済が本格的に回復していくためには、やはり、金融緩和の継続に加えて、財政からのサポート、構造改革、民間の自助努力、といったいろいろな要素が合わさっていく必要があると思います。ただ、金融政策の面でも、もっといろいろなことができるのではないか、というご意見も引き続き多いと感じています。そのひとつが、いわゆる「量的緩和論」です。

 先ほどお話した通り、今のゼロ金利政策というのは、すでに十分な量的緩和でもあるわけですが、マネタリーベースとかマネーサプライ等の量的な指標に目標値を設けてはどうか、とおっしゃる専門家も少なくありません。この点についても、政策委員会で議論してまいりましたが、こうした方法を採用することは適当ではない、というのが大勢の意見となっています。

 図表9をご覧ください。こうした量的ターゲティング政策が難しい理由は、大きく2つあります。ひとつは、目標値をどうやって達成するのかというコントローラビリティーの問題です。「量」を増やしていくためには、金利を引き下げて資金需要を刺激しないとならないのですが、その余地はもはやきわめて限られています。もうひとつの問題は、そもそも意味のある目標値を作れるのか、という点です。下のグラフにありますように、例えば98年のマネタリーベースは、8%前後の高い伸びを続けていたのに、同じ98年の名目GDPは大幅なマイナスになってしまいました。逆に、今年に入ってからは、マネタリーベースの伸び率は5~6%程度に鈍化していますが、名目GDPはほとんどマイナスが消えて、プラスに転じそうなところまできています。このように、量的指標と実体経済との関係というのは、かなり不安定ですので、意味のある説明可能な目標値はなかなか設定できません。

インフレ・ターゲティング

 それでは、日本銀行の目的である「物価」そのものに、直接目標値を設定してはどうか、という考え方もあろうかと思います。いわゆるインフレ・ターゲティングと呼ばれている政策の枠組みです。

 図表10をご覧ください。インフレ・ターゲティングの目的は、(1)「物価安定」への強い決意を示すとか、(2)金融政策の透明性を高める、というような点であって、そうしたインフレ・ターゲティングの精神は、私どもも共感を覚えるものであります。問題は、具体的な数値目標をうまく決められるかどうかです。一例として、消費者物価に前年比1~3%という目標レンジを設定した場合を考えてみたいと思います。下のグラフで、86年から88年のあたりをご覧いただくと、消費者物価の動きは、前年比1%を下回っています。この時期は、金融緩和が行き過ぎてバブルの一因になったとのご批判をいただいている時期ですが、もしこのインフレ・ターゲティングにしたがっていれば、この時期にもっと金融を緩和しておくべきであったという結論になってしまいます。また90年から91年頃は、バブルの弊害が誰の目にも明らかになってきた頃ですが、消費者物価はぎりぎり3%ぐらいのところでしたので、インフレ・ターゲティングで考えれば、引き締めの必要性はそれほど明確でなかったということになっていたかもしれません。

 このように、ひとつの物価指標に、あらかじめ特定の数値目標やターゲット・ゾーンを設定する方法には、難しい問題があるのです。したがって、結局のところ、需要動向や資産価格などにも十分目配りし、いろいろな情報を総合的に判断して政策を決めなければなりません。実際に、イギリスなどインフレ・ターゲティングを採用している国でも、ターゲットは2年ほど将来の予測という形で示しており、政策運営に当たっては、今述べたような総合的な判断に基づいて行っているのです。

 このような例からみても、大切なことは、日本銀行における検討の内容や判断の根拠を、月報や議事要旨、その他いろいろな場で明らかにしていくことによって、政策の透明性を図っていくことだと思います。以上の考え方に基づいて、現在、日本銀行は、数値目標こそ設定していませんが、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまでゼロ金利政策を続ける」ことを明確にし、政策判断の根拠をなるべく透明にすることによって、インフレ・ターゲティングと同様の効果を狙っているわけです。もちろん、私どもとしても、金融政策の運営手法やその枠組みについては、いろいろな方のご意見に耳を傾けながら、勉強は続けてまいりたいと考えています。

長期国債買い切りオペ

 次に、日本銀行は短期の資金供給だけでなく、長期国債をもっと購入してはどうか、というご意見もよくきかれます。

 まず、日本銀行が国債を直接引き受けてはならない、という点については、財政法でも禁止されておりますし、広くご理解をいただいていると思いますので、改めて詳しくは申し上げません。ところが、日本銀行が市中から買う国債の量を増やすことは構わないのではないか、とのご意見は結構多いのです。そこで、図表11をご覧いただきたいのですが、現在日本銀行が行っている長期国債の買い切りオペは、あくまでも経済規模の拡大など中長期的な要因に伴って必要となる資金を、円滑に供給するという観点から行っているものであり、その時々の情勢に応じて機動的に運営する金融政策とは、目的や考え方がもともと異なっています。そうであるからこそ、銀行券の長期的な増加トレンドに概ね見合うように行うという考え方のもとで、現在は、月4千億円というペースを崩すことなく実施しているわけです。

 ところが、もしもこうした考え方を変えて、長期金利が上がりそうになったらよりたくさんの国債を買う、という運営にしてしまいますと、日本銀行にもっと大量に国債を買ってほしい、という世間の期待がいたずらにどんどん強まるリスクがあります。また、長期金利は、景気や物価の先行きに対する市場の最大公約数的な見方で決まるものですから、日本銀行が多少国債を追加的に買ったところで、長期金利が低下する保証は全くありません。ですから、長期金利が下がるまで買う、ということにすると、一体どれだけ買い続ければよいのかわからないのです。このように、長期金利の抑制や国債消化の促進、という目的で長期国債の買い切りオペを始めてしまうと、国債の購入量に歯止めをかける理屈がなくなってしまい、多くの方が反対しておられる日銀引き受けと、事実上同じになってしまうリスクがあると考えています。

長期金利の上昇は心配ないのか

 それでは、もしも長期金利が上がってしまったら、日本銀行はどうすればよいでしょうか。この点に関して、まず現在の金融市場の状況を確認しておきますと、ゼロ金利政策のもとで市場には資金があふれ、一方で、企業の資金需要は低迷しています。図表11の下の表からおわかりいただけるように、銀行は9兆5千億円、保険や年金基金は14兆3千億円、1年間で国債の保有を増やしています。このように、現在の金融市場には、国債の購入に向かうための余剰資金が十分に存在しています。日本銀行は、こうした金融緩和スタンスを当面続けてまいりますので、金融政策の面から長期金利が上昇するということは考えにくいと思います。

 したがって、仮に国債利回りが上昇するとすれば、次の2つのケースです。ひとつは、景気回復の見通しがより明確になり、市場がそれを織り込んでいくケース、もうひとつは、財政赤字についてさすがに市場が本気で心配し始めるケースです。最初の景気回復期待のケースは、市場の期待を必要以上に煽らないように注意しつつも、基本的には「長期金利の自然な上昇」として受け容れていくべきものだと思います。

 後者の、市場が本当に財政の将来を心配し始めるようなケースは、厄介です。ただ、仮にそういう事態になったときに、日本銀行による国債買い切りオペの増加が、よい治療薬になるかどうかはおおいに疑問です。「中央銀行が買い支えなければならない国債はいよいよ信用できない」ということになって、格付けが下がり、長期金利はかえって上がってしまう、という副作用のリスクもあります。むしろ、財政赤字について市場が本格的に「警告」を発し始めたら、それを力づくで抑え込もうとしないで、まずは市場の声をよく聞き、財政のあり方について国民的な議論を深めていくきっかけにすべきではないかと、私は考えています。

国債市場の機能向上に向けて

 もちろん、日本銀行は、国債市場に対して何もしないということではありません。国債市場のインフラの整備に関連して、日本銀行はかなりの経営資源を投入しております。

 図表12をご覧ください。国債市場が発行・流通の両面で円滑に機能することは、わが国の金融・資本市場全体の活性化にとってもきわめて重要な課題だと考えています。そうした問題意識は、財政当局とも十分に共有されており、国債市場、さらに資本市場全般の改革について、各方面ですでに様々な努力がなされてまいりました。本年の4月から有価証券取引税が廃止されたことなどは、ひとつの画期的なステップであったと思います。

 日本銀行は、日々の金融市場調節において様々な形で国債を利用しており、いわば国債市場における「大口ユーザー」であります。そうした立場も踏まえて、日本銀行自身、近年、オペのあり方等について、精力的に見直しを行っております。国債の貸借市場を用いたレポ・オペは、今や金融市場調節の中核的な手段となっております。今年の3月にはTBオペとFBオペを「短期国債現先オペ」という形に統合し、その後これを積極的に活用しておりますし、つい先月は、短期国債のアウトライト・オペの導入や、2年債をレポ・オペ対象に加えることなどを決定いたしました。こうした取り組みにつきましては、市場参加者のニーズを吸い上げながら、今後も続けてまいりたいと考えております。

 日本の国債市場は、他の先進国などと比較した場合、まだ改善の余地が少なくないことも事実です。例えば、下の表にありますように、日本の国債発行は、10年債に極端に偏っており、発行年限の多様化によって、より広く市場の国債投資ニーズに合わせていくことができると思われます。有価証券取引税が廃止された以上、レポ取引も、もはや日本特有の貸借形態で行う必要はなく、グローバル・スタンダードである売買形態に切り替えて行くほうが、市場の透明性を高めるなどのメリットがありそうです。その他、税制や決済面など、いろいろと改革の余地はあると思いますので、日本銀行としましても、これまで同様、財政当局や市場関係者と密接に意見交換してまいりたいと思っております。

おわりに

 以上、論点がやや多岐にわたりましたが、財政赤字というのは、中央銀行の立場だけからみても、かように広がりのあるテーマだということだと思います。逆に、「財政赤字を憂える」先生方からは、金融政策について、いろいろなご質問やご注文があろうかと思いますので、忌憚のないご意見、ご批判を賜わりたいと存じます。

以上