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物価安定の達成に向けて

平成12年10月25日・日本経済研究センターにおける篠塚審議委員講演

2000年10月25日
日本銀行

[目次]

  1. 1.はじめに
  2. 2.「物価の安定」に関する報告書を作成した背景
    1. (1)日本銀行の使命
    2. (2)透明性向上の必要性
    3. (3)ルールか裁量か
    4. (4)日本銀行の金融政策運営の透明性
  3. 3.「物価の安定」の内容と重要性
    1. (1)「物価の安定」の概念的な定義
    2. (2)欧米の中央銀行における「物価の安定」の数値化
    3. (3)現在の物価を巡る環境
    4. (4)物価指数のバイアス
    5. (5)「物価の安定」の数値化に関する議論の総括
  4. 4.政策委員会メンバーの経済・物価見通しの公表
  5. 5.結語
  6. 参考文献

1.はじめに

 日本銀行審議委員の篠塚英子です。私は、大学卒業後の約20年間をこの日本経済研究センターで過ごしました。本日は、いわば古巣に戻って、皆様とお話する機会を頂き、とても嬉しく思います。

 さて、日本銀行は、今月13日、「『物価の安定』についての考え方」と題する報告書(以下「報告書」と略)を公表しました1。本日は、この検討に参加した一人として、報告書で示した日本銀行の考え方と主たる論点をご説明したいと思います。

  1. 1日本銀行[2000a]。

2.「物価の安定」に関する報告書を作成した背景

 私ごとで恐縮ですが、この報告書を読んだ知人が最初に寄せた質問は、「なぜ、日本銀行は、今、この時点で、物価の安定に関する諸問題を検討したのか、それまではどのように考えていたのか」というものでした。皆様の中にも同様の疑問をお持ちの方がいらっしゃるかも知れません。そこで、まず、日本銀行が「物価の安定」を巡る諸問題を検討した背景とその問題意識からご説明します。

(1)日本銀行の使命

 そのためには、現在の日本銀行法から話を始めなければなりません。98年4月に施行された新しい日本銀行法では、日本銀行の目的を「物価の安定」と「金融システムの安定」と規定しています。また、金融政策の理念は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことであるとしています2

  1. 2日本銀行法における「目的」および「通貨及び金融の調節の理念」に関する規定は次のとおり。
    1. 第1条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
    2.  2  日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。
    3. 第2条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする

 日本銀行は、通貨の中でも最も根源的な通貨である「銀行券」を発行する主体です。したがって、通貨の健全性、これを平易な表現で言い換えますと、「国民一人一人が通貨を安心して持てるようにすること、また、安心して使えるようにすること」ですが、これに責任を持つことは至極当然であると言えます。そのためには、第1に、「物価の安定」が確保されていることが必要です。その状態とは、インフレでもデフレでもない状態ということになります。また、第2に、通貨は金融システムを通じて一国の経済の隅々まで流通しますので、通貨が通貨としての健全性を保つためには、金融システムの安定性が維持されていることが不可欠です。

(2)透明性向上の必要性

 では、日本銀行は、この目的を達成するために、どのように金融政策を運営するべきなのでしょうか。本日の講演では、欧州中央銀行(以下、「ECB」と略3)のパドア・スキオッパ理事にならって、この方法論を「金融政策運営のスタイル」と呼んでみます4。私は、中央銀行の歴史とは、最適な政策運営スタイルを希求し続けた歴史ではないかと思います。今日でも、学界関係者や海外の中央銀行関係者などの間では、最適な政策運営スタイルを巡って、様々な考え方がみられます。もっとも、どのスタイルを選択するにしても、今日、金融政策運営の当事者が最も強く意識していることの一つは、いかにして政策運営の透明性を向上させ、延いては国民の信認を確保するか、という点である、と私は思っています。実際に、近年、日本銀行を含め、世界の中央銀行は、政策運営の透明性向上のために一段と力を注いでいます。この潮流の背景として、次の2点を指摘できると思います5

  1. 3欧州中央銀行、European Central Bank。
  2. 4Padoa-Schioppa[1996](欧州中央銀行理事、当時はイタリア中央銀行副総裁)は、日本銀行の第7回国際コンファランス(95年11月)におけるスピーチ("Styles of Monetary Management"、邦題「金融政策の運営スタイルについて」)の中で、「金融政策に関する議論の焦点は、政策目標間の優先順位や金融政策手段の選択から、中央銀行が物価の安定を確保するために必要な政策立案・公表の方法論に移っている。その方法論を私は金融政策運営の『スタイル』と呼ぶことにしたい。『スタイル』は、環境に左右されることなく、長期にわたり一貫して採用され得る政策運営手法を言う」という趣旨の意見を述べている。
  3. 5金融政策運営の透明性に関する海外の中央銀行の考え方については、例えば、Ferguson[1999]、Deutsche Bundesbank[2000]などが参考になる。
  1.  第1に、政策運営の透明性を向上させること、すなわち説明責任を負うことですが、これは、中央銀行が金融政策運営の独立性を許容される条件ないしは根拠であるという考え方です6

  1. 6Blinder[1998](元米国連邦準備制度理事会副議長、現プリンストン大学教授)は、「説明責任を果たすことが、独立性を与えられた見返りとして中央銀行に課されたモラルである」という考え方を示している。
  1.  金融政策は、国民生活に大きな影響を及ぼします。したがって、国民が、独自の判断に立って金融政策を運営する独立性を中央銀行に与えている以上、中央銀行が、金融政策運営の考え方を国民に説明し、その信認を得る責任を負うことは当然の義務と考えられます。

  2.  第2に、透明性の向上は、金融政策の効果を高める可能性があるという点です。

     経済が持続的に成長していくためには、そのための基礎的な前提条件であるマクロ経済環境が安定していなければなりません。そこでは、将来の物価動向に関する期待の安定が極めて重要な必要条件になります。このためには、中央銀行が、金融政策運営に対する国民の「信認」を得ること、すなわち、「物価の安定」を実現しようとする決意とその実行力が国民から信頼されていることが不可欠です。国民の「信認」を確保するためには、まず、実際にインフレでもデフレでもない状態が維持されているという政策の効果が実績として積み重ねられる必要があります。これまで、伝統的に中央銀行は「行動すれども弁明せず」という立場をとることが多かったように思います。しかし、今日では、逆に、中央銀行の金融政策運営についての情報をできるだけ開示し、国民にそれを理解してもらうことが、政策の効果を高めることに繋がると考えられています7

  1. 7翁[1995]は、金融政策運営の透明性の重要性について、「あたかも資本市場で適切なディスクロージャーを行った優良企業が正しく評価され資本コストの低下などの対価を得るように、情報公開から信認という利益を得られる」(p.57)と述べている。

(3)ルールか裁量か

 そこで、金融政策運営の透明性を向上するためには、どのような政策運営の枠組み、すなわち、スタイルが望ましいのか、に再び戻ります。学界関係者などの間では、古くから、「金融政策はルールか、裁量か」という議論が展開されてきました。これは、金融政策をある一定のルールに則って運営するか、あるいは、その時々の金融経済情勢に応じて弾力的・裁量的に運営するか、という議論です。特に、今日では、インフレーション・ターゲティングが注目を集める中で、改めて、「ルールか、裁量か」という論点が注目されるようになっています。

 確かに、「ルールに基づく終始一貫した政策こそ市場参加者とのコミュニケーションを円滑にする」という意見には肯ける面もあります。しかし、現実の政策運営が直面する金融経済環境は時々刻々と変化します。例えば、海外の金融経済情勢には不確実性が伴いますし、国内に目を転じても、消費者や企業のマインドは、消費や投資に大きな影響を及ぼしますが、それを完全に把握する術はありません。こうした中で、硬直的で厳格なルールに基づく政策運営を採用することは、マクロ経済環境の安定性を損なう危険性が高いのではないか、と危惧します。厳格なルールによる政策運営に危険性があると申しましたが、他方、その対極に位置付けられるような、「その場その場での判断だけに頼る、純粋に裁量的な政策運営」を支持している訳ではありません。

 今日、どの中央銀行も、経済構造が激しく変化する中で、リアルタイムでの的確な政策決断が求められています。私は、こうした状況の下で実際に政策運営に携わる者の一人として、「金融政策はルールか裁量か」といった議論は不毛であると思います。むしろ、「厳格なルール」と「無制約の裁量」という両極端の中間に位置する、「制約付きの裁量」——これは、米国の気鋭の経済学者であるバーナンケ・プリンストン大学教授とミシュキン・コロンビア大学教授が用いた言葉ですが、——というスタイルを志向するべきであるという考え方に賛成です8。言い換えますと、政策決定における裁量的な部分についての透明性を高めることが、「場当たり的な裁量」を抑制できると考えています。例えば、日本銀行の金融政策の判断については、後ほど詳しく申し上げますが、議事要旨の公表や国会への報告などを通じて詳しく検証できるようになっています。こうした情報開示は政策運営の「裁量」に対する「制約」の機能を果すと思います。こうした考え方は、多くの支持を得ており、例えば、米国の連邦準備制度理事会(以下、「FRB」と略)のグリーンスパン議長は、97年9月のスピーチの中で、「経済構造が大きく変化している状況のもとでは、政策運営は必然的に裁量的にならざるを得ない」と述べるとともに、「米国の金融政策は、長い間、(厳格な)ルールと(無制約の)裁量の間で適宜バランスを取ってきた」と説明しています9

  1. 8Bernanke and Mishkin[1997]。
  2. 9Greenspan[1997]。

(4)日本銀行の金融政策運営の透明性

 実際に、日本銀行では、ご案内のとおり、新しい日本銀行法のもとで、金融政策決定会合の議事要旨を含めて以下のような方法を通じて、金融政策の透明性向上に努めて参りました。なお、本日のこの講演もホームページに掲載される予定です。

  1.  方法の第1は、議事要旨の公表です。米国や英国の議事要旨が大勢意見を中心に整理する書き振りになっているのに対して、日本銀行では、少数意見も含め、議論の内容を比較的詳細に記述しています。なお、ECBでは、現在、議事要旨を公表していません。

     さらに、議事要旨の公表のタイミングについても、今年7月の開催分までは次々回の会合で承認のうえその3営業日後に公表してきましたが、先月(9月)には、透明性の一層の向上という観点から見直しを行いました。その結果、今年8月の開催分からは概ね1か月後に公表する扱いとし、早期化に努めています10。因みに、米国では約6週間後、英国では約2週間後です11

  1. 10正確には、概ね1か月程度を目処に、次回、または、次々回の決定会合で承認のうえ、その3営業日後に公表している。また、個々の議事要旨の公表日程については、会合開催日程(3、6、9、12月に、先行き6か月分の会合開催日程を公表)とあわせて公表している。このほか、ホームページに掲載する毎回の議事要旨の欄から、直接、電子メールでその内容に関する意見を日本銀行に送ることができるように整備している。
  2. 11正確には、米国では次回会合を開催する週の木曜日、英国では会合開催の2週間後の水曜日にそれぞれ公表している。
  1.  第2は、金融政策決定会合の議事録の公表です。日本銀行では、金融政策決定会合について、発言者の氏名を明記した逐語の記録である議事録を、10年後に公表することを明らかにしています。海外の中央銀行では、米国では5年後、ECBでは30年後と、公表するまでの期間はまちまちです。なお、英国では議事録を公表しない扱いとなっています。

  2.  第3は、金融経済情勢の判断に関する情報の開示です。日本銀行では、毎月、金融経済月報を公表しています。公表時期は、議事要旨と合わせて検討し、会合の翌営業日の午後2時へと前倒し致しました(従来は、会合の翌々営業日の午前8時50分)。他方、海外の中央銀行をみますと、米国は議事要旨の中で、また、英国は議事要旨の付属資料として、金融経済情勢についての見方を説明しています。ECBでも、月初の会合後の総裁記者会見で背景説明を含むステートメントを公表し、毎月中旬に月報を公表しています。

  3.  このように、これまでにも、日本銀行は、先進諸国の中央銀行と比較しても遜色ないレベルにまで、金融政策運営の透明性を高めてきたと思います。しかし、現在の金融政策運営のスタイルが最適なものであるとは言えません。それどころか、日本銀行では、金融政策運営の透明性をさらに向上させることを企図して、今年3月以来、「物価の安定」に関する諸問題を精力的に検討し、今回の報告書の公表に至った次第です。そこで次に、この報告書の主な論点へと話を進めます。

3.「物価の安定」の内容と重要性

 「物価の安定」を巡る問題は複雑かつ多岐にわたります。その中で、今回の報告書作成に当たり、私自身は、主として、次のような問題意識を持っていました。

  1.  第1に、金融政策の目的である「物価の安定」の内容と重要性に関して、日本銀行と国民がどのようにして認識を共有するか、という点です。
  2.  第2に、金融経済情勢の判断は金融政策運営を検討する際の非常に重要な前提ですが、日本銀行が行う情勢判断が内外の市場参加者などから十分に理解されているか、という点です。

 そこで、まず始めに、「物価の安定」の内容と重要性に関する問題意識をご説明します。金融政策の理念は、日本銀行法に書かれているとおり、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことですが、ここでいう「物価の安定」とはそもそも具体的にどのような状態を指すのか、と言い換えることができます。

 ところで、今日の物価情勢を巡り、多様な意見がみられます。例えば、「多少インフレ率を引き上げる方が日本経済のためになる」といった調整インフレ論は繰り返し提唱されています。また、現在、消費者物価が前年比マイナスで推移していることについて、「消費者の実質購買力を高める」という意見がある一方、「その理由や背景の如何を問わず、依然としてデフレ的である」といった見解も根強いように思います。さらには、こうした観点に立って、「ゼロ金利政策の解除は、日本銀行がデフレを許容することを意味する」といった批判まで聞かれています。

 これらの様々な意見があることを踏まえますと、私は、日本銀行と国民の間で、「物価の安定」に関する考え方が必ずしも十分には共有されていないと判断せざるを得ないのです。

(1)「物価の安定」の概念的な定義

 報告書では、最初に、「物価の安定」に関する概念的な定義を改めて明らかにしています12。金融政策が目指すべき「物価の安定」とは、国民からみて、「インフレでもデフレでもない状態」であること、言い換えますと、「家計や企業などの様々な経済主体が、物価の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状態」であるという定義です。すなわち、一般に、経済活動における意思決定は、現在の資源配分だけではなく、将来についての見通しに基づく異時点間の資源配分という側面を強く持っています。したがって、日本銀行が追求するべき「物価の安定」とは、そうした経済主体の意思決定に対し中立性を保つような、「中長期にわたる、持続的な物価安定」ということになります13。金融政策は、人々の意識の中に、「物価は先行きにわたって安定している」という安心感が根づくことを目指しているのです。

  1. 12日本銀行は、従来から、金融政策が長い目でみた実体経済や物価の大きな変動をできるだけ回避するように運営する、という考え方を主張していた。例えば、三重野元日本銀行総裁は、94年5月の講演において、「物価の安定は物価指数の安定ではない。物価の背後にある経済の動きが中長期的にみて、バランスの取れた持続的な成長であって、はじめて真の物価安定といえる。」と述べている(三重野[1994])。
  2. 13望ましい物価上昇率に関する理論的な論点整理については、白塚[2000a]、同[2000b]が参考になる。

(2)欧米の中央銀行における「物価の安定」の数値化

 次の論点は、「物価の安定」の概念的な定義を何らかの具体的な数値で示すことができるか、ということです。今回の検討では、「現時点では、『物価の安定』を特定の物価指数の数値で表現することは適当ではない」という結論に至りました。その背景について、海外の中央銀行との比較も交えながら、やや詳しくご説明します。

 まず、米国の連邦準備制度(以下、「FRS」と略14)、および、ECBでは、この「物価の安定」をどのように捉えているのか、を確認します15。なお、これらの中央銀行と日本銀行の間には大きな共通点があります。すなわち、(1)インフレーション・ターゲティングを採用していないこと、(2)中長期的な「物価の安定」を第一義的な目的として金融政策を運営していること、の2点です16

  1. 14米国の中央銀行は、FRB(連邦準備制度理事会)、および、全米各地にある12の連邦準備銀行(地区連銀)から構成される米国連邦準備制度(FRS<Federal Reserve System>)。
  2. 15米国FRS、ECB、およびその設立前のブンデスバンクなどでは、インフレーション・ターゲティングを採用していないという共通点があるが、その「物価の安定」の考え方については、日本銀行企画室[2000b]が詳しい。
  3. 16なお、米国FRSの金融政策の目標は、連邦準備法により、「物価の安定、最大の雇用、穏やかな長期金利」と規定されているが、自ら刊行している解説書(Board of Governors of the Federal Reserve System[1994])の中で、(1)金融政策は、まずは「物価の安定」を目指して運営されるべきであり、(2)他の政策目的である「最大の雇用」や「穏やかな長期金利」は、こうした政策運営を通じて、最も効果的に実現される、という考え方を示している。

 米国のFRSでは、議長講演などを通じて、「物価の安定」とは、「経済主体が意思決定を行うに当たり、将来の一般物価の変動を気にかけなくても良い状態」17といった定性的な考え方を示していますが、これを特定の数値では示していません。その理由について、グリーンスパン議長は次のように指摘しています。すなわち、(1)「一般物価水準」やその変動といった概念の定義やその把握が困難であること18、(2)物価を計測する手法が社会や技術の変化・進歩に対して常に遅れる可能性があること19、(3)インフレの基本的な物差しとして資産価格をどのように取り扱うかが困難であること20、などです。

  1. 17Greenspan[1996]。
  2. 18Greenspan[1998]。
  3. 19Greenspan[1997]。
  4. 20Greenspan[1997]。

 他方、ECBでは、現在、「物価の安定」について、「ユーロエリア全体の消費者物価21の上昇率が中期的に前年比+2%を下回ること」と、具体的な数値で示しています22。このように、ECBが「物価の安定」を具体的な数値で定義している理由として、次の3点を挙げることができます。第1に、ユーロエリアを構成する各国の物価動向が様々であったため、「物価の安定」の定義を定量的に示さないと、将来、ある国で高いインフレ期待が生まれ、延いてはユーロエリア全体の金融政策運営が困難になる可能性もあること、第2に、設立後の日が浅く物価安定を達成した実績がないため、物価安定に向けた政策スタンスへの信認を早期に確立する必要があったこと、そして、第3に、欧州通貨統合参加のための収斂基準として、既に、「消費者物価指数の上昇率が最も低い3か国の平均値から+1.5%ポイント以内にあること」という条件が課されており23、「物価の安定」の数値化にはある程度馴染みがあったとみられること、などです。

  1. 21正確には、HICP(Harmonised Index of Consumer Prices)。これは、各国の消費者物価統計を調整して計測対象の項目を共通化した、ユーロエリア全体の消費者物価指数である。
  2. 22ドイゼンベルグ総裁は、その理由について、(1)観察されるインフレ率にはおそらく上方バイアスがあると考えられる、(2)ところが、インフレ率の計測には難しい問題があり、バイアスの程度はよく分からない、(3)もっとも、いかなる上方バイアスがあっても、それは「2%」には収まるだろう、と説明している。こうした説明から、ECBでは、統計上のバイアスを除けば、基本的にはゼロインフレを目指しているとみられる。Duisenberg[2000]。
  3. 23この結果、具体的には、ユーロ導入第一陣を決定した98年春の審査においては、オーストリア、フランス、アイルランドの当時のCPI上昇率の単純平均値(+1.2%)に1.5%ポイントを加えた+2.7%が参照値にされた。

 このように、「物価の安定」の定義を数値化することについては、(1)数値化によって、「物価の安定」の定量的なイメージや、これに向けた中央銀行の政策運営スタンスが分かり易くなるというメリットがある一方、(2)複雑かつ多様な内容を含む「物価の安定」という概念を、特定の数値によって単純化することに伴うデメリットがあることが分かります。そして、「物価の安定」を特定の数値で示すかどうかについては、各国の中央銀行が、それぞれの置かれている社会・経済環境を踏まえつつ、どちらがより望ましいかを選択している、ということであり、どちらが正しいとか、普遍的な方策があるということではないと思います。

(3)現在の物価を巡る環境

 翻って、日本の、現局面における「物価の安定」の数値化の問題に目を転じます。私自身も、「物価の安定」を、消費者物価指数、卸売物価指数、あるいは、GDPデフレータといった特定の物価指数の変動として定義できれば分かり易い指針になる、といった意見は十分に理解できます。

 しかし、金融政策は、単に、「分かり易ければ良い」というものではありません。まず、何よりも、先ほど挙げた各々の物価指数そのものが、必ずしも常に同じ変化を示す訳ではなく、むしろ各々が違った方向を示すことがあります。また、そもそも、金融政策運営の透明性向上が望ましい理由は何か、を改めて考える必要があります。金融政策は、「持続的な物価安定」の実現を目指して運営するものです。したがって、この目標の達成に資する限りにおいて、金融政策運営の透明性向上が求められる、と考えるべきです。こうした観点から、「物価の安定」の数値化を考えるうえでは、先ほど整理した米国や欧州の中央銀行をみてもお分かり頂けるとおり、現在、その国が置かれている経済・社会環境、とりわけ物価環境をどのように評価するか、ということが議論の出発点になります24

  1. 24日本銀行調査統計局[2000a]は、90年代の物価情勢の背後にあるマクロ経済環境を整理したうえで、現在の物価環境を評価するために必要と思われる論点を丁寧に整理している。

 そこで、現在の日本の物価環境についてご説明します。

 物価の動きは、総需要と総供給の関係によって規定されます。すなわち、一般に、インフレ率は、(1)需給ギャップ、(2)期待インフレ率、(3)供給ショック、といった要因によって変動すると考えられています25。今日、「現在でも日本はデフレである」といった主張もみられますが、その論者が証左としてしばしば指摘するのは、日本の消費者物価が、昨年第4四半期以降、前年比マイナスで推移していることです。そこで、こうした物価情勢を私たちがどのように理解しているか、という点について、これらの要因に則してご説明します。

  1. 25インフレーションと失業率の短期的な関係を示す代表的な表現であるフィリップス曲線は、通常、
    (インフレ率)=(期待インフレ率)+(正の係数)×(失業率−自然失業率)という式で表される。
    これを、オークンの法則を用いて、インフレ率と需給ギャップの関係式に変換すると、
    (インフレ率)=(期待インフレ率)+(正の係数)×(需給ギャップ)+(その他要因)となる。
    そこで、期待インフレ率が直近のインフレ率に影響を受ける、すなわち「インフレの慣性」が生まれると考えると、上記の関係は、
    (インフレ率の加速度)=(正の係数)×(需給ギャップ)+(その他要因)という関係式になる。
    物価変動の決定要因については、肥後・中田[2000]、粕谷・大島[2000]が参考になる。

(需給ギャップ)

 インフレ率を規定する第1の要因である、「需給ギャップ要因」は、現在、縮小していると考えられます。

 需給ギャップとは、潜在GDPと実際のGDPの乖離によって、マクロ的な需給バランスを捉えようとするものです。そのためには、潜在GDPを正確に計測することが出発点ですが、実際には潜在GDPの計測には多くの問題が指摘されています。例えば、潜在GDPの推計については、労働、資本、全要素生産性からなるマクロの生産関数を推計した後、労働と資本を最大限使用した時のGDPとして求めることが一般的です。ところが、資本ストックについては、90年頃までの膨大な設備投資によって積み上がりましたが、90年代のグローバル化に伴う産業構造の変化や、最近では情報通信技術の導入が始まりつつあるといったことを踏まえますと、みかけ上は設備が残存していても大量に陳腐化している可能性が高いと思います26。また、従来は、非製造業の稼働率を100%稼働、あるいは、全要素生産性についても技術進歩を映じて一定率で上昇すると仮定することが一般的でしたが、こうした仮定が過大推計に繋がっている可能性もあります。したがって、需給ギャップを用いて議論する場合には、こうした様々な仮定に由来する計測誤差がかなり大きくならざるを得ないことを十分に理解することが必要です。

  1. 26増田[2000]。

 わが国の潜在成長率は、90年代を通じて低下している可能性がかなり高いと思われます。すなわち、日本銀行の調査統計局では、「わが国の最近の供給能力は、概ね1%程度の伸びに止まっている」といった試算結果も示しています27。また、IMFのスタッフも、日本の潜在成長率は、「80年代後半の3.7%程度から、現在では1%程度まで低下している」、といった推計結果を示しています28

  1. 27日本銀行調査統計局[2000a]、p.20。
  2. 28Bayoumi[2000]。

 この背景として、まず第1に、労働力人口の頭打ちや時短推進などを背景に、生産に投入できる労働量(=雇用者数×労働時間)が減少しています。第2に、資本ストック面でも、近年、日本の企業が資本効率を重視する姿勢を強める中で、設備投資が抑制され、資本ストックの伸びが鈍化しています29。さらに、このところ、経済のグローバル化や情報通信技術の進展といった経済構造の変化に伴って、90年頃までに積み上げられた資本ストックが大量に陳腐化している可能性が高いことも既に指摘したとおりです。また、第3に、労働生産性が低下している可能性が考えられます。すなわち、こうした構造変化の過程では、労働者も、従来のように企業内で培われる特殊技能ではなく、汎用性があり、しかも高度な技能が一段と求められます。しかし、技能に対する要件の変化には、本来、短期的には対応し切れないことから、労働生産性が低下し、延いてはわが国の全要素生産性が少なくとも現時点では低くなっている可能性があります。

  1. 29前田・吉田[1999]。

 他方、現実の実体経済活動に目を転じますと、(1)設備投資が情報関連財を主体に高い伸びを続けていること、また、(2)企業の人件費抑制スタンスは続くとみられるものの、企業部門における収益増加や生産活動の積極化につれて雇用・所得環境も緩やかに改善しつつあること、などから、景気は全体として緩やかながらも回復しています。

 したがって、潜在GDPと現実のGDPの乖離を示す需給ギャップは縮小の方向に向かっており、需給ギャップの大きさ、すなわち需要の弱さに由来する物価低下圧力は大きく後退している、と考えられます。

 ところで、需給ギャップに関連して、近年、金融緩和・引き締めの度合いを測る目安として、スタンフォード大学のテイラー教授が考案した「テイラー・ルール」という考え方が注目されています。この基本的な考え方は次のとおりです。すなわち、(1)金融政策は、潜在成長率には影響を与えることはできない、(2)長期的にみると、インフレと失業はトレード・オフの関係にはなく、インフレを高めるメリットはないため、金融政策は原則としてゼロインフレを目指すべきである、(3)もっとも、短期的には、インフレ率の変動と失業率の変動との間にはトレード・オフが存在する、(4)したがって、政策金利は、「現実のインフレ率−目標インフレ率」と需給ギャップの双方を勘案し、現実のインフレ率が目標インフレ率を上回っている分、および、需給ギャップがゼロを上回っている分だけ、政策金利を高めにすること(逆であれば、政策金利を低めにすること)が適当である、という考え方です30

  1. 30Taylor[1996]。なお、具体的な算出式は、次のとおり。
    (テイラー・ルールによる政策金利)=(潜在成長率)+(期待インフレ率)+(正の係数<α>)×(現実のインフレ率−目標インフレ率)+(正の係数<β>)×(需給ギャップ)
    なお、正の係数αおよびβは、中央銀行の政策選好を表し、物価安定重視型であればαが大きくなり、経済成長率重視型であればβが大きくなる。

 こうしたテイラー・ルールによって計測された政策金利は、潜在成長率の前提の置き方によって左右される面がかなり大きいという点には十分な注意が必要です31。私は、テイラー・ルールも含め、金融環境を総合的に判断・評価する手法については、今後とも、様々な観点から検討を続けることが有益であると思います。しかし、他方、これらを文字通り厳格な「ルール」として政策運営に利用すること、例えば、テイラー・ルールに基づいて算出される政策金利を用いて現在の金融緩和・引き締めの度合いを判断することには慎重でなければならない、という立場です。むしろ、政策運営の一助となる目印(ガイドポスト)と捉えるべきであると考えています。

  1. 31Greenspan[1997]。

(インフレ/デフレ期待)

 次に、インフレ率を規定する第2の要因である、「期待インフレ率」についてですが、この点は、現状では、インフレ期待はまだみられず、また、逆にデフレ期待が定着するということもない状況ですので、その要因は無視し得るほど小さいと思います。

 例えば、名目賃金の上昇率には、インフレないしはデフレの「期待」が含まれていると考えられます。すなわち、賃金交渉において労働者が決めようとするのは、名目賃金ではなく、実質賃金、すなわち実質の購買力です。したがって、名目賃金の上昇率は、人々が抱くインフレ期待、あるいは、デフレ期待によっても左右されます。実際に、一人当たりの名目賃金の上昇率をみますと、デフレ・スパイラルの瀬戸際に立っていたと思われる98~99年には、前年比マイナスとなっていましたが、このところ、賃金の下落には漸く歯止めが掛っています。このことからも、現状は、物価下落によってデフレ期待が浸透し、名目賃金の下落などを通じてデフレ傾向が強まっていく、といった経済状況ではないと判断できます。

(供給サイドの要因)

 消費者物価が下落している第3の要因は「供給サイドの要因」です。わが国では、90年代を通じて、技術革新、規制緩和、流通合理化、さらに、為替円高化やアジア諸国の工業化などを背景とした割安な製品の輸入増加、などの供給サイドの構造変化が続いています。

 これらの要因のうち、技術革新以外は、いわゆる「価格破壊」的な現象として観察されます。とはいえ、経済学の定義では、企業部門において価格破壊がみられるというだけでは、それをデフレ的現象とはいいません。一般的に、デフレ・スパイラルとは、物価下落と需要減少の悪循環です。製造業を例に取りますと、製品価格の低下に直面した企業が、その価格低下に対応したレベルにまで、人件費を即座に削減することができない場合には、結果として、ユニット・レーバー・コストが上昇し、労働分配率が上昇し、さらに企業収益が圧迫されます。この結果、企業の投資やその他の支出が一段と削減され、やがて賃金も大幅に引き下げられます。要するに、企業収益と雇用者所得はともに減少します。こうした一連の流れが加速しますと、価格低下から、収益減少、賃金低下、雇用減少、そして消費減少、需要減による生産削減、さらなる価格低下という悪循環、すなわちデフレ・スパイラルとなります。

 したがって、わが国経済がデフレ的な状況にあるか否かを判断するには、所得の分配面について、「雇用者所得の減少を伴うことなく、企業収益が増加しているか」に着目することが適当です。例えば、価格破壊が全般的な需要減退の下における「投げ売り」的な行動であれば、それはデフレ的な現象である可能性があります。しかし実際には、流通の合理化など、供給ショック(一種の技術革新)が大きく影響しているケースも多々みられます。すなわち、流通業界では、小売店の中でも新興の勢力が、グローバルに利用されている安値で高い品質の製品・商品を供給するためのビジネス・モデルを導入する一方、既存の量販店などでも効率性の向上に向けて知恵を絞っています。こうした流通合理化は、(1)規制緩和(例えば、出店調整や営業時間の弾力化など)によって新規参入が容易になっているケース、(2)日本とアジアの国際分業体制が確立されているケース、(3)為替円高化によって拡大した内外価格差が裁定的な行動を惹起したケース、などといった供給側の構造変化が複合的に影響を及ぼしあった結果であると考えることができます。さらに、需要サイドでも、消費者が「価格は安く、かつ、品質は高い」商品・サービスの選好を一段と強めてきていることも、こうした供給構造の変化を促進していると思います。

 これらの要因に基づく価格低下が実質購買力を増大させ、延いては最終需要の増加に繋がる場合には、物価の下落と企業利潤の増大が両立する可能性は高く、こうした状況はデフレ的であるとはいえないと考えています。もっとも、企業の立場からみますと、こうした供給サイドの変化はマイナスのイメージとして受け取られる面もあると思います。すなわち、新しいビジネス・モデルの浸透が、競合する既存の企業に対しては、仕事量の減少や流通マージンの縮小を通じて、収益を圧迫する面があることは否めません。したがって、私は、先ほど一括りに「流通合理化」と申しましたが、こうした要因による価格低下を簡単に「良い」現象と割り切るつもりはありません。

(4)物価指数のバイアス

 このように供給サイドの構造変化が強くみられる中では、現実に観察される物価指数の信頼度という視点に対する関心はさらに高まります。すなわち、金融政策が目指す「物価の安定」とは、全ての商品・サービスを包含した「一般物価の安定」ですが、「一般物価」に対応する固有の物価指数というものがある訳ではありません。現実の物価指数については、(1)上方バイアスがあり、かつ、(2)上方バイアスの大きさは景気の変動や技術進歩などによって変動する、という研究成果があります32

  1. 32物価指数のバイアスの推計については、米国のボスキン・レポート(96年12月、正確には、「CPIの精度に関する専門家委員会による報告書」)の公表が端緒とされている。ボスキン・レポートの主たる関心は、物価指数のバイアスが、物価指数と連動している税制・財政支出(特に社会保障、年金)に与える影響が大きいといった点にある。なお、日本における消費者物価指数の計測を巡る問題点については、白塚 [1998]、総務庁統計局[1999a]、同[1999b]を参照。

 その理由としては、まず、品質調整の問題があります。すなわち、物価指数は「品質一定という条件の下における純粋な価格変化のみを把握する」ことが大原則になります。しかし、新しい商品・サービスが次々と登場する中で、現在、新旧の商品・サービスの価格差から品質変化に伴う価格変化分を適切に除外する調整手法の研究は続いていますが、なお統一的な方法論が確立するまでには至っていないのが実情です。

 次に、価格調査の問題があります。先ほども申し上げましたような流通業界における様々な変化の中で、「値引き」の方法が複雑・多岐にわたっていますが、販売と同時ないしは事後的に行われる値引きを含めた「実売価格」を正確に調査することにも困難を伴います。

 このほかにも、個々の商品・サービスの価格指数を総合的に平均するうえで、そもそも、サンプリングは適切か(調査サンプルの代表性、および、品目ウエイトの問題)、また、どのように平均することが適当かという指数算式の問題、などといった論点も指摘されています。

 したがって、物価指数の作成は、経済構造の激しい変化に対応し切れていないという意味で、現在も改善の余地がある統計と言えます。これらを利用するうえでは、その限界、および、今後の統計作成技術の進展などに応じてそれぞれの指数の性格が変化する可能性もあることには十分な留意が必要です33

  1. 33日本銀行調査統計局[2000b]は、物価指数作成の経験も踏まえ、指数作成の具体的な実務、作成過程で直面する諸問題などについて、詳しく説明している。

(5)「物価の安定」の数値化に関する議論の総括

 改めて現在の物価を取り巻く環境をみますと、消費者物価の前年比が既にマイナスとなっているにもかかわらず、企業収益の回復は明確になっており、また、賃金も漸く下げ止まっています。さらに、今後を展望しますと、サービス分野などにおける規制も引き続き緩和され、また、技術革新や流通合理化も一段と加速するとみられます。したがって、このような構造変化が進行する中で、当面、統計上の物価下落が景気の回復と両立し続ける可能性は十分に考えられると思います。そうした考え方に基づき、報告書では次のように総括しました。すなわち、「現在の日本の状況を考えると、経済の健全な発展と整合的な『物価の安定』の定義を特定の数値で示すことは困難である。そうした中で、仮に何らかの数値を公表しても、現実の金融政策運営に関する信頼に足る指針にはなり得ず、結果として金融政策運営の透明性向上にも役立たない可能性が高い」というまとめです。

 ところで、「物価の安定」の数値化に関連して、「なぜ、インフレーション・ターゲティングを採用できないのか」といった質問を受けることがあります。そこで、私どもの考え方を簡単に申し述べたいと思います。

 インフレーション・ターゲティングとは、(1)中央銀行が中期的に達成すべきインフレ率を目標として掲げるものの、(2)それは厳密なルールではなく、産出量や雇用の変動にも配慮して弾力的に運営する、という政策運営です。これは、先ほど申し上げた「制約付き裁量」という考え方を具体化するスタイルの一つであると考えられます。現在では、ニュージーランド、英国、カナダ、スウェーデンなどが採用しており、近年、世界的にも注目を集めています。

 ところで、一口にインフレーション・ターゲティングと言いますが、何か特定の「インフレーション・ターゲティング理論」なるものがある訳ではありません。むしろ、その具体的な内容は国によって千差万別であるといっても過言ではありません34。例えば、インフレ目標の設定については、英国では政府が決めますが、スウェーデンでは中央銀行が単独で設定し、ニュージーランドやカナダなどでは政府と中央銀行との協議により設定します。また、具体的なインフレ目標も、英国では、「小売物価指数の前年比が+2.5%」35といった「一つの数値」ですが、その他の国では、例えば、「消費者物価指数が0%~3%」という「幅」を示しています。さらに、目標から外れた場合の説明責任のあり方なども各国でまちまちです。このことは、現実のインフレーション・ターゲティングが、理論モデルに依拠して組み立てられたものではなく、それぞれの国における経済・社会環境に照らして試行錯誤で形作られてきた歴史的な所産という性格が強いことを反映しているからであると思います。

  1. 34インフレーション・ターゲティングを採用している諸国における具体的な政策運営のあり方などについては、日本銀行企画室[2000a]が詳しい。
  2. 35正確には、モーゲージ金利支払いを除く小売物価指数の前年比。因みに、英国では、92年10月、大蔵大臣から「モーゲージ金利支払いを除く小売物価指数の前年比を1~4%の範囲内とする」旨の発表があって、インフレーション・ターゲティングが導入されたが、その後、見直され、97年6月以降は現在の目標値が継続されている。

 それでも、インフレーション・ターゲティングを採用している国々には、次の3つの共通した特徴点がみられます。まず、(1)中期的な「物価の安定」を目指す姿勢を明確にしていること、次に、(2)政策運営の透明性向上に高いウエイトを置いて様々な工夫を行っていること、さらに、(3)その際に、インフレ率に関する目標値や見通しの公表という手段が用いられていること、の3点です。インフレーション・ターゲティングを採用している国にはこのような特徴点がみられますが、実は、これを採用していないその他の国の政策運営と本質的に異なるのは、最後の点、すなわちインフレ目標値等の公表だけであると考えられます。

 そこで、インフレーション・ターゲティングを採用するに当たっては、健全な経済の発展と整合的な「持続的な物価安定」という状態を具体的な物価指数の変化率の数値で示すことが不可欠になります。ところが、今回の日本銀行における検討の過程では、只今申し上げましたとおり、金融政策の運営上の指針となり得る「物価の安定」の定義を具体的な数値で示すことは適当ではない、という結論に至りました。したがって、目標値の設定が条件となり、それに対して政策的にコミットする、インフレーション・ターゲティングの採用についても、当然、「現在の状況の下では、現実的ではないし、適当でもない」と判断した次第です36

  1. 36翁・小田[2000]は、ゼロ金利下でのインフレーション・ターゲティングの導入の是非について論点を整理している。

 なお、学界などでは、実際に金融政策を運営するうえでは、(1)デフレ・スパイラルを回避するための余地を確保する、(2)物価指数には上方バイアスがある、などといった理由から、「物価指数の変化率でみて若干のプラス(small but positive)の物価上昇率を目指すべきである」という見解がみられます。しかし、私は、仮に、現時点において、物価を取り巻く環境の特殊性などを全く無視して、そのように「物価の安定」の定義を若干のプラスとして数値化しますと、例えば、「定義である以上、直ちに達成するべき目標である」、したがって、「日本銀行は、目標達成を不退転の旗印にして、目標を達成するために、国債引き受けといったことを含め、あらゆる手段を尽くすべきである」といった「調整インフレ論」的な主張が勢いを増す可能性があると思います。その帰結は、中長期的なインフレ目標を掲げつつ経済情勢をみて弾力的に政策を運営するという、本来のインフレーション・ターゲティングのメリットが大きく損なわれることになりますし、長い目でみて国民経済に大きな災いをもたらすことになると案じられます。

4.政策委員会メンバーの経済・物価見通しの公表

(「経済・物価の将来展望とリスク評価」の公表)

 以上のとおり、今回の検討では、「物価の安定」の概念を明らかにしたものの、現在の物価を巡る環境の特殊性などを踏まえ、その定義を数値化することは適当ではない、その結果として、目標の数値化が不可欠なインフレーション・ターゲティングの採用も適当ではない、と判断しました。しかし、インフレーション・ターゲティングを採用している国々における政策運営のスタイルが多様であるように、ターゲティングを採用していない政策運営においても様々な工夫を持ったスタイルがあり得ます。それを言い換えますと、金融政策を、「無制約の裁量」ではなく「制約付きの裁量」という基本的な枠組みの中で運営するものの、その裁量的な部分に関する透明性をできるだけ高めるために工夫をするということです。

 そこで、金融政策決定会合において政策運営のあり方を議論する場合に、私自身の頭の中がどのようになっているのか、を改めて思い返してみました。まず、(1)先行きの経済・物価情勢について、多くの前提や仮定の下で、蓋然性が高いと思われる経済のメカニズム、および、こうした所謂「標準的見通し」を上振れさせる、また、下振れさせる要因は何か、といったことを考えます。そのうえで、(2)毎月1回ないしは2回ある決定会合では、前回会合以降に新たに公表された経済指標やその他の情報をできるだけ収集・分析して、実際の経済の動きと想定している動きの「ずれ」が生じているのか、その「ずれ」は趨勢的なものか不連続な異常値か、などといった検討を加えます。

 金融政策は、このような政策決定参加者一人一人の情勢判断を基礎として運営されています。情勢判断については、これまでにも、毎回の決定会合の議事要旨や金融経済月報の中である程度は織り込んでいますが、先行きの経済・物価の見通しを必ずしも明示的に示してはいませんでした。そこで、今回の検討では、金融政策運営の透明性を一段と向上させるためには、新たに「経済・物価の将来展望とリスク評価」を公表することが適当であるという結論に至りました。

 具体的には、(1)年2回(4月、10月)という頻度で、その月の金融経済月報に「経済・物価の将来展望とリスク評価」というパートを新設する、また、(2)その中で、参考計数として、実質GDP、国内卸売物価指数、消費者物価指数(除く生鮮食品)の3つの変数について年度平均前年比の値を「政策委員の見通し」として示す、さらに、(3)この政策委員の見通しについては2種類の計数を公表する、すなわち、一つは、政策委員がそれぞれ作成する見通し計数のうち最低値、最高値を1個ずつ除いたものを「幅」で示した「大勢見通し」であり、もう一つは、最低値、最高値を含む全ての見通し計数を「幅」で示した「全員の見通し」です37。この参考計数である「政策委員の見通し」について、これまでに比較的多く受けた質問を念頭において、やや詳しくご説明します。

  1. 37日本銀行[2000b]。

(見通しの対象)

 まず始めに、「なぜ、見通しの対象を消費者物価、国内卸売物価、実質GDPの3つとしたのか」ということです。物価については、消費者物価と国内卸売物価がともに代表的な指数ですので、これら両方についての見通しを示すことが必要かつ妥当であると判断しました。さらに、物価の動きは、その背後にある実体経済の動きとの関連で評価する必要がありますので、経済全体のイメージを示すためには、実質GDPの成長率の見通しも合わせて示すことが適当であると考えました。

(大勢見通しと全員の見通し)

 次に、「政策委員の見通しに関する大勢見通しと全員の見通しの違いは何か」という論点です。そもそも、政策委員会では多数決で全ての議案を決定していますので、大勢見通しは、政策決定に対応する見通しということになります。しかし一方、政策委員会における議論は多様です。斯く言う私自身も、ゼロ金利政策が解除されるまで、解除を主張した少数派でした。議論に幅がある場合には、それを国民に明らかに示すことも重要です。こうした観点から、大勢見通しと全員の見通しの双方を公表することが、金融政策運営の透明性向上に資すると判断した訳です。

 これに関連して、「なぜ、執行部の見通しを公表しないのか」という質問も受けることがあります。確かに、執行部では、——具体的には調査統計局ですが、——様々な前提を置いて、見通しやシュミレーションを試算する作業を行っています。しかし、これは、あくまで、私ども政策委員会メンバーが判断するための参考資料の一つという位置付けです。改めて申し上げるまでもなく、金融政策運営は、各メンバーの討議を通じて、その多数決によって決定されるものです。したがって、金融政策運営の透明性を向上させるうえで意味があるのは、金融政策を決定する委員の見通しである、というのが政策委員会の大勢意見となりました。

(政府の経済見通しとの関係)

 また、「政府の経済見通しとの関係をどのように考えるか」という論点があります。政府の経済見通しについては、政府として必要な諸施策の推進を前提として経済の姿を示すものであると理解しています。一方、政策委員会の各メンバーの経済・物価見通しは、金融政策が不変であるという前提を置いて、その下で金融政策の運営スタンスを決定するうえで基礎となる先行きの経済情勢について、各委員の見方を「幅」の形で示すものです。因みに、海外の例をみましても、政府と中央銀行の見通しは必ずしも一致している訳ではなく、むしろ異なることが多いようにみられますが、それで経済政策運営の整合性が問題になるというものではありません38。むしろ、仮に違いがあるならば、その背景をどのように理解するのか、といった点を十分に議論することが、より適切な経済政策運営に資するものと考えています。したがって、日本銀行としては、日本銀行法の枠組みに則って、今後とも、政府との十分な意思疎通に努めていくという方針であることは改めて言うまでもありません。

  1. 38例えば、米国の政府とFRBについて、経済見通し(実質GDP成長率、第4四半期の前年比)を比較しますと(政府は予算教書の中間改訂、FRBは今年7月の議会報告)、政府は、2000年が3.9%、2001年が3.2%、これに対して、FRB(中心的傾向<理事会メンバーおよび地区連銀総裁から提出された見通しのうち、最大値と最小値をカットしたレンジ、“central tendency”と呼ばれる> )は、2000年が4.00~4.50%、2001年が3.25~3.75%となっており、両年ともFRBの方が高めとなっている。
     また、物価見通しについては、現在では、政府は消費者物価指数である一方、FRBでは個人消費支出デフレータ(具体的には、消費者物価指数の個別品目指数などを用いて、基準年ウエイトによるインデックスと直近年の支出ウエイトを幾何平均し、支出ウエイトの変化を取り込んだ指数)を用いており、定義が異なる。しかし、昨年までは、政府、FRBともに、消費者物価指数の前年比(第4四半期前年比)で見通しを示しているため、昨年7月時点で比較すると、政府は、99年を2.40%、今年を2.40%、一方、FRB(同)では、99年を2.25~2.50%、今年を2.00~2.50%としている。この結果、政府の見通しは、FRBの中心的傾向の範囲内にあるが、その中では比較的高い形となっている。

(見通しの責任)

 さらに、「見通しが外れた時にはどのように責任を取るのか」というご疑問も出て参ります。他方、経済・物価見通しの具体的な計数を公表することについては、有識者の間でも、「政府の経済見通しの達成度が、0.1%といういわば誤差のレベルで問題視されるわが国の風土を踏まえると、表面上の見通し数字と実績の乖離ばかりが注目されるのではないか」、あるいは、「見通しが政策目標と誤解され、かえって政策運営の手足が縛られるのではないか」などと懸念する声も聞かれます。

 しかし、本日、鏤々申し上げましたとおり、日本銀行は、「国民経済の健全な発展」の重要な前提となる「持続的な物価安定」を確保するという使命を負っています。そして、そのためには、経済情勢が変化すれば、そうした変化に対応して適切に金融政策を運営することが不可欠です。同時に、こうした政策決定の考え方やプロセスなどをきちんと国民に説明することも、私どもに課された重要な責任の一つです。私は、新たに、「経済・物価の将来展望とリスク評価」と、その参考計数として経済・物価見通しの数値を公表することが、日本銀行と国民の間で先行きの経済・物価情勢に関する認識を擦り合わせるための出発点になると思います。そして、今回の報告書の根底に流れる私どもの考え方、すなわち、「持続的な物価安定」という目標の達成に向けて金融政策運営の透明性を一段と向上させようとする考え方をご理解頂ければ、先ほどのような懸念も杞憂に終わる筈であると思います。

(見通しの期間)

 なお、早速、今月30日に開催する決定会合で、最初の「経済・物価の将来展望とリスク評価」を決定し、翌日公表する予定です。その見通しの期間が今年度のみであることから、市場参加者などの間には、「物足りない」といった意見もみられます。

 確かに、金融政策は、その発動から物価の変動に影響が及ぶまでに、1~2年、ないしは、それ以上のかなり長いラグが存在しますので、情勢判断においても、数年先も展望した予防的な視点が欠かせません。もっとも、こうした先行きの見通しについては、対象となる期間が長くなるほど、見通しの数値自体というよりも、むしろ経済のメカニズム、ないしは趨勢的なトレンドに着目したリスクを評価し、その情勢判断を示していくことの方に大きな意味があると考えています。そうした考えに立ち、当面は、見通し計数は単年度のみとする一方、「経済・物価の将来展望とリスク評価」はその先行きまでも念頭に置くつもりです。いずれにしましても、経済・物価見通しについてはどのような公表方法が望ましいのかといった点については、今回を一つのテスト・ケースとして、見通しの期間も含め、引き続き検討していきたいと思います。

5.結語

 以上、日本銀行政策委員会の一員として、先日公表した「『物価の安定』についての考え方」と題する報告書を中心に、お話し致しました。繰り返しになりますが、金融政策は、その発動から物価の変動に影響が及ぶまでにかなり長いラグが存在します。したがって、金融政策は、先行きの経済・物価の見通しに基づいて、予防的に運営しなければなりません。他方、今日、世界中の中央銀行では、「物価の安定」を実現する能力と決意について国民から信認を確保するために、政策運営の透明性向上に一段と力を注いでいます。

 しかし、このように予防的かつ高い透明性を持って金融政策を運営しようと致しますと、次のような課題に直面するように思います。第1の課題は、先行きの経済・物価情勢をできるだけ正確に予測しようと努めましても、そこには様々な不確実性が伴うということです。これまでお話しましたように、現在の経済状況の把握や先行きの経済・物価見通しは、需給ギャップの計測誤差や、経済指標の精度など、データの不確実性や経済構造の不確実性の影響を受けざるを得ません。第2の課題は、特に先行きの経済・物価見通しに基づいて政策を変更する場合に、それは「まだ目に見えないリスク」に対する「保険」という性格も持つということです。「透明性向上」と簡単に言いましても、その意義を国民の皆様にご理解頂くことは決して容易なことではないように思います。逆に、国民の理解を得ることばかりを重視しますと、「市場や世論に迎合した政策」になる可能性もありましょう。また、今日のような不確実性が大きい中でどのような金融政策運営のスタイルが最適か、という論点は、内外のアカデミズムでも近年漸く議論が活発になった段階であり、十分なコンセンサスは得られていないと思います。

 こうした中にあって、私ども日本銀行も含めて、どの国の中央銀行も、手を拱いている訳ではありません。本日の話の中でもご紹介しましたように、各国の中央銀行の叡智や経験を互いに吸収しつつ、それぞれの経済・社会環境を踏まえて、最適な政策運営のスタイルを希求しているというのが実情です。

 私自身は、予防的かつ高い透明性を持って金融政策を運営するためには、(1)「中長期にわたり、持続的な物価安定」が国民経済にとって非常に重要であること、および、(2)金融政策はそのことを目的として運営していることについて、国民の皆様の十分な理解を得ることが必要不可欠であると思います。

 翻って、「透明性を向上させる」、「説明責任を果す」と申しますと、日本銀行から国民に向けた「一方通行の情報開示」という印象を与える嫌いがあるように思います。しかし、現実には、本日申し上げました、「物価の安定」を巡る多様な問題や先行きの経済・物価見通しのあり方、さらには不確実性の下での金融政策運営のあり方などにつきまして、日本銀行と内外の学識経験者、市場参加者、一般の国民などとの間で「双方向の良好なコミュニケーション」の関係を築いていくことが是非とも必要である、と私は考えています。こうした観点に立って、私は、今回の報告書につきましても、国民と日本銀行の間にあり得る認識の相違を浮き彫りにして、今後の建設的な議論へと繋げるための「叩き台」となることを強く願っています。

 私自身、今後とも、わが国の経済・社会環境に相応しい政策運営のスタイルの確立に向けて、微力ながら力を尽くして参りたいと改めて考えている次第です。皆様にも、是非とも忌憚のないご意見などをお寄せ下さいますようにお願い申し上げ、本日の結びとさせて頂きます。

 ご清聴に感謝申し上げます。

以上

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