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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成16年 6月 9日、衆議院財務金融委員会における福井日本銀行総裁報告

2004年 6月 9日
日本銀行

目次

はじめに

 日本銀行は先週末、平成15年度下期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を、国会に提出いたしました。今回、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

日本経済の動向

 最初に、最近の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

 前回3月の本席では、わが国の景気は緩やかに回復している、とご説明しました。その後も、輸出の大幅な増加を背景に、鉱工業生産、企業収益が拡大し、設備投資の回復持続に繋がっています。さらに、雇用者所得も徐々に下げ止まってきており、個人消費はやや強めの動きとなっています。このように経済に前向きの循環が働く中で、景気は緩やかな回復を続けており、国内需要に底固さが増しています。

 先行きについても、前向きの循環が次第に強まっていくもとで、わが国の景気は回復を続けるとみております。

 やや詳しくご説明しますと、世界経済は、地政学的リスクや原油価格高など、やや気掛かりな動きはあるものの、蓋然性の高い見通しとしては、高めの成長を続けるとみております。米国では、個人消費や設備投資が堅調に推移するもとで、これまで遅れていた雇用面の改善が明確になっており、バランスのとれた成長を続けています。また、中国をはじめとする東アジア諸国も、高い成長を続けると予想されます。こうした世界経済の状況を反映して、わが国の輸出や生産は増勢を辿ることが見込まれます。

 さらに、これまでわが国経済の回復を遅らせてきた背景の一つである企業の過剰雇用・過剰債務などの問題への取り組みが進捗してきており、輸出、生産の増加ともあいまって、企業収益は増益基調を維持するとみられます。このため、設備投資も製造業を中心に増加傾向を続けると予想されます。生産活動や企業収益増加の好影響は、雇用・所得面や資産価格の変化を通じて家計部門にも徐々に及んでいくとみられ、個人消費は緩やかな回復に向かうと考えられます。

 物価面では、このところ、国内企業物価は内外の商品市況高や需給バランスの改善を反映して上昇しており、先行きも、当面、上昇を続けると見込まれます。一方、消費者物価(除く生鮮食品)は、前年比ゼロ%近傍で推移しています。先行きに関しましては、物価の基調を左右する経済の需給バランスは着実に縮小すると見込まれますが、前年比でみると、米価格等これまで消費者物価の下落幅を縮小させてきた一時的要因の影響が順次剥落していきます。また、企業部門における生産性の向上は、商品市況等の上昇の影響を吸収する効果を持つと考えられます。これらの事情を考慮し、消費者物価は基調的には依然小幅の下落が続くとみています。

 もっとも、最近の原油価格高については、今後の動向とその影響について注意してみていく必要があると考えております。

 金融面では、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、金融市場は総じて落ち着いた状況が続いています。資本市場では、世界的な株価の下落や金利の上昇を受け、4月下旬以降、わが国の株価も一時下落しましたが、その後再び上昇しています。この間、長期金利は概して安定的に推移してきましたが、ここにきてやや強含んでおります。

 企業金融を巡る環境も、信用力の低い企業についてはなお厳しい状況にありますが、全体としてみれば、緩和される方向にあります。民間銀行の貸出は減少幅がわずかながら縮小傾向にあるほか、CP、社債といった資本市場を通じた資金調達環境も良好な状況が続いています。

最近の金融政策運営

 次に、最近の金融政策運営について、申し述べさせて頂きます。

 日本銀行は、現在、日銀当座預金残高という「量」を操作目標として金融緩和政策を実施しています。具体的には「30~35兆円程度」の目標値のもとで、金融市場に潤沢な資金供給を行っています。また、この金融緩和政策を「消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比が安定的にゼロ%以上となるまで継続する」という「約束」をしています。

 こうした政策は、金融機関の資金調達に関する安心感を生み、金融市場の安定に貢献しています。また、「約束」を通じて先行きの金利予想、ひいては市場金利を安定させる効果があり、そのもとで、企業は引き続き低利での資金調達が可能となる環境が整えられます。景気の回復を反映して、企業の投資採算は改善し、より一層前向きの行動を促すことになると考えられます。このように、現在の金融緩和政策の景気支援効果は、景気が回復を続ける状況において、強まっていくと考えられます。

 こうしたことを念頭において、日本銀行は、消費者物価指数に基づく「約束」に沿って量的緩和を継続しております。

 加えて、日本銀行は、金融緩和の効果を経済に幅広く浸透させるため、市場を通じる資金仲介の多様化・効率化にも取り組んでいます。このことは、長期的には、資本市場の整備に繋がっていくと期待されます。その一環として、昨年7月から、資産担保証券の買入れを開始し、これまでに累計で約8千億円の買入れを実施しました。また、資産担保証券市場の発展を支援するため、市場関係者とともに「証券化市場フォーラム」を開催し、市場の課題とその解決の方向性等について、議論を行ってまいりました。その成果として4月には報告書を公表し、証券化商品の価格評価をより的確かつ効率的に行うことなど具体的な提言を行っています。

 さらに、先月には、国債市場の流動性向上という観点から、日本銀行が保有する国債を補完的に市場に供給する制度を導入しました。このように、日本銀行は、幅広く金融資本市場の整備に資する取り組みを進めており、今後ともそうした努力を続けていきたいと考えております。

銀行保有株式の買入れ

 なお、日本銀行は、株価の変動が金融機関経営ひいては金融システム全般に及ぼすリスクを緩和する趣旨から、一昨年11月以降銀行保有株式の買入れを実施しております。本年5月31日時点での買入れ額は、1兆9,799億円となっております。

おわりに

 日本経済は、景気の前向きの循環が次第に強まっていくことにより、今後も回復を続けていくと予想されます。これを持続的な成長とデフレ克服の実現に繋げていくためには、引き続き、幅広い経済主体の経済活性化に向けた取り組みが重要だと考えております。

 日本銀行といたしましては、持続的な成長とデフレ克服に向けて、景気が回復を続ける中にあっても、粘り強く金融緩和を続けることで、日本経済を金融面からしっかりと支援して参る所存です。

 ありがとうございました。

以上