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日本経済の持続的な成長

内外情勢調査会における福井日本銀行総裁講演要旨

2005年2月28日
日本銀行

目次

 日本銀行の福井でございます。本日は、このように多くの皆様の前でお話する機会を賜り、厚く御礼申し上げます。

 本年は、4月にはペイオフが全面解禁される中で、金融システムの安定を確保しつつ金融機能の高度化を図るとともに、経済全体としても景気を持続可能な成長へと導いていかなければなりません。そうした意味で、日本経済の将来への道筋を固める非常に大切な年であると考えております。本日は、最近の金融経済情勢に関する私どもの見方、そのもとでの日本銀行の金融政策運営について、お話ししたいと思います。

最近の景気情勢

 日本銀行では、金融政策決定会合での検討を経て、経済金融情勢に関する「基本的見解」を毎月公表しております。2月の「基本的見解」では、足もとの景気情勢について、「わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられるものの、基調としては回復を続けている」という判断を示しています。

 判断の中に「生産面などに弱めの動きがみられる」という表現が入っているのは、輸出が横ばい圏内で推移している中で生産に弱めの動きがみられるなど、景気が「踊り場」的な局面にあることを表したものです。生産は、IT関連分野で、デジタル家電などの需要の伸びが見込んでいたほどは高くなかったことや、パソコン、携帯電話などの世界需要が下振れていることなどを受けて、在庫調整が続いていることから、弱めの動きとなっています。加えて、素材関連の供給力不足という供給面の事情も影響しています。例えば、鉄鋼や化学といった素材業種では、アジアへの輸出の好調が続く中でフル操業に近い状態が続いており、生産水準のさらなる引き上げが難しくなっています。また、自動車などの加工組立業種でも、鋼板などの資材が調達できないため、思うように増産できないといった話を聞きます。こうした業種では、生産が増やせないのですが、受注は好調ですので、マージン拡大や生産性改善により採算の引き上げを進めることが可能となっています。

 この間、企業収益は、IT関連分野では下方修正の動きがみられますが、全体としては、高水準で推移しています。短観をみますと、2004年度の全業種・全規模の売上高経常利益率は、90年代以降の2回の景気回復のピークを超え、バブル末期の水準を上回る見込みです。こうした企業収益の改善に加えて、過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力が和らいでいることもあって、2004年度の設備投資計画は、多くの業種において上方修正され、2005年度についても、企業経営者の方からお話を聞く限り、設備投資意欲は総じて強いようです。家計部門では、雇用面での改善傾向が続き、最近はようやく所得でみても下げ止まるようになりました。個人消費は、天候要因などに左右されがちで、力強さを欠いてはいますが、比較的底堅く推移しています。

 先行きについては、海外経済が米国、中国などを中心に拡大基調を続ける中で、IT関連分野での調整も春以降一巡すると見込まれます。こうした中で、わが国の景気はいずれ、現在の「踊り場」的な局面を脱し、次第に持続性のある成長軌道に移行していくとみられます。

在庫循環からみた現局面

 こうした判断について、日本銀行は少し楽観的過ぎるのではないかという声を頂戴することがあります。そうした声の中でも多いのは、景気は好況と不況を繰り返すものであり、いったん上昇のモメンタムを失った景気は下降に向かわざるを得ないのではないかという見方です。こうした見方は、在庫循環のメカニズムなどによって起こる、短期的な景気循環を重視したものと考えられます。

 一般に、景気が良くなり、製品が良く売れて出荷が伸びると企業の在庫は減少します。そして企業は在庫を復元するために生産を増やしていきます。生産を増やし続けていると、企業の見方が強気化する中で、生産の増加ペースが出荷の増加ペースを上回って、今度は在庫が積み上がっていきますので、どこかの段階で企業は生産の抑制を余儀なくされます。出荷が企業の予想を下回った場合にも、在庫の積み上がりを解消するため、企業は生産を減らさなくてはなりません。こうした在庫を巡る企業の行動がもたらすGDPの変動は、平均的にみれば無視できるのですが、わが国の景気の「山」「谷」を振り返ってみますと、とくに景気後退期においては、GDPの変動に対する影響度合いがそれなりに大きなものとなっています。

 97年から98年にかけてと、2001年から2002年にかけての、直近2回の景気後退局面でも、最終需要が落ち込む中で在庫が大きく積み上がり、その調整が景気を大きく下押ししました。一方、今回局面の在庫の状況をみますと、在庫水準は低く、企業の認識でも、在庫過剰感はそれほど強くないようです。こうしたことの背景には、多くの企業が、財務効率化の観点もあって、抑制的な在庫保有スタンスを堅持してきたことがあります。業種別にみても、IT関連分野では調整圧力が生じていますが、素材、機械等の業種では、出荷に生産が追いつかない結果としてむしろ在庫逼迫感が台頭しています。IT関連分野の在庫調整も、メーカーが早めに生産ペースを落としていることなどから、基本的には軽度の調整で済むとみられます。こうした状況ですので、今回の場合は、在庫調整が出発点となって景気が下降に向かう可能性は低いと考えられます。

外需を巡る動向

 過去を振り返ってみますと、このような内需の状況よりも外需を巡る動向の方が、景気の下振れリスクとして強く意識される時期もありました。例えば、97年には、アジアの通貨危機が、2001年には、世界的なITブームの行き過ぎの調整が、わが国経済に大きな影響を及ぼしたことは、まだ皆さんの記憶にも新しいと思います。経済のグローバル化が進む中で、各国の景気変動が連動する度合いは以前よりも高まっています。そして今回も、国際政治情勢の先行きなどを巡る不確実性や、それとも関連して原油価格が高騰してきたことなどから、海外経済とそれを受けてのわが国の外需の先行きに不透明感が払拭できない状態が続いてきました。

 この点、現状では、海外経済は、——原油価格は高止まりを続けていますが、——成長持続が懸念される状態を脱して、米国および中国を中心に、着実な拡大を続けています。米国では、家計支出や設備投資などの国内民需が引き続き増加しており、雇用者数も改善傾向を辿っています。「双子の赤字」の持続性に市場の関心が集まっていますが、米国経済がインフレなき高成長を持続し、内外の投資家に魅力的な投資機会を提供していることを考えると、同国の経常収支のファイナンスに支障が生じる事態は当面は考えにくいように思います。大型減税の影響などから急拡大した財政赤字についても、今後は景気の持続的な拡大が期待される中、税収の増大から赤字が縮小に向かうことが予想されています。中国経済については、引き続き投資過熱や、電力不足などインフラ面のボトルネックのリスクが指摘されており、その動向は、これに対する政府の対応策とも合わせて、見守る必要があると考えられますが、堅調な内外の需要に支えられて、同国経済が力強い拡大を続けていることには変わりがありません。こうした点からみると、昨年までとは異なり、海外経済に下方のリスクばかりを意識しなくても良くなっているように思います。

構造問題との関係

 国際的な景気の同時性が高まる中で、各国の景気の振幅が大きくなるのではないかと言われたこともありましたが、最近では、主要国の景気の振幅はむしろ縮小傾向にあるように見受けられます。こうしたことの背景として、(1)経済構造が需要の振幅の小さいサービスを中心としたものに変化している、(2)企業の在庫管理技術が向上しているため、在庫循環の振幅が小幅化している、(3)中央銀行に対する信認が高まり、インフレ期待が落ち着いているもとで、急激な金融引き締めによる景気の落ち込みがない、といった点が挙げられています。もっとも、わが国では、90年代以降の景気後退は、景気の振幅が縮小するどころか、いずれも「谷」がきわめて深いものとなりました。先ほど挙げたような仮説は、わが国でもある程度当てはまるはずです。それでも景気の「谷」がきわめて深いものとなった背景としては、——必ずしも一つの要因に特定できる訳ではありませんが、——企業の過剰設備・過剰雇用・過剰債務、そしてそれと表裏をなす金融システムの脆弱性が、経済に下押し圧力として働いていたことが大きいと考えられます。

 現在の回復局面では、こうした構造調整もかなり進捗しています。企業の収益率は、90年代以降の2回の景気回復局面のピークを超え、バブル末期の水準を上回ろうとしているということは、既に述べました。企業の抱える問題の調整の度合いは、結局、企業の収益性に反映されるとの見方に立ちますと、長いトンネルを抜けたとも評価し得る状況です。こうした中で、これまで大幅な下落を続けてきた地価も下落幅を縮小してきています。地方では大幅な下落が続いている一方、都心の一部では急激な上昇を示している例もみられるなど、これまでになかった変化が観察されてきており、その動向や背景にある動きが注目されます。

 金融システム面では、不良債権問題を中心に、わが国金融システムの健全性回復に向けた対応が相当進んできていることは、ご承知のとおりです。そうしたもとで、金融機関の流動性調達面での不安は一段と後退しており、日本銀行による資金供給オペの札割れにみられるように、金融機関の日本銀行当座預金への需要も減退する方向にあります。4月のペイオフ全面解禁以降も、各金融機関がさらなる経営改善に向けて努力していくことにより、金融システムが一層健全化し、さらには活性化していくことが期待されます。このように金融システムが強化されていけば、企業収益の改善とともに構造調整が進み、その中で企業の前向きな動きが途切れない、という好循環はより強まっていくと考えられます。そうした中で、他の主要国と同様、景気の振幅が小さくなっていく可能性があります。

 以上、述べてきたように、在庫など国内の不均衡が小さいことや、海外景気が拡大を続けるとみられること、構造調整が進捗していることなどを背景に、今回局面における景気の腰は強いものとなっています。そうしたことを踏まえると、景気は、足もとの「踊り場」的な状況を乗り越え、回復を続けていく可能性が高いとみられます。先行きの景気について私どもが念頭に置いている、次第に持続性のある成長軌道に移行していくという姿についても、時間の経過とともに、はっきりみえるようになってくると思います。

物価下落の現状評価

 次に、金融政策運営についてお話したいと思います。

 90年代以降、今回で3度目の景気回復局面となりますが、金融政策面では、ほぼ一貫して金融緩和を続けています。日本銀行は、バブル崩壊後の91年から95年までの4年間で、公定歩合を6%から0.5%にまで引き下げました(現在の公定歩合は0.1%)。その後も景気が十分回復せず、物価が下がる中、99年にはゼロ金利政策を導入しました。現在は、短期の金利をこれ以上下げられなくなっている中で、金融機関により多くの資金を供給する政策、いわゆる「量的緩和政策」を行っており、これを「消費者物価指数の前年比が安定的にゼロ%以上となるまで」継続すると約束しています。日本銀行がこのように思い切った金融緩和を進めてきたのは、物価下落が企業収益の下落などを通じて経済活動の収縮を招き、それがさらなる物価下落をもたらすことを通じて、金融政策の目的である中長期的な物価安定が損なわれるというリスクがあるからです。

 一般に、物価が大きく変動すると、家計や企業をはじめとする様々な経済主体にとっては、個々の価格の変化が、その財・サービスの需給を反映したものなのか、それとも一般物価という「物差し」自体が歪んだのかを正確に認識することが難しくなります。その結果、経済全体としての効率的な資源配分が損なわれるほか、将来に向けての不確実性も高まります。この点は、物価が上がる時にも下がる時にも発生する問題ですが、加えて、物価の下落には特有の問題があります。第一に、名目賃金に下方硬直性がある——名目の賃金を下げるのにはいろいろと難しい面もある——場合、物価が下がる局面では、実質賃金の調整が進みにくくなり、企業収益や雇用に悪影響を及ぼします。また、第二に、物価下落予想が強まれば、それだけ実質でみた金利は上がります。実質金利の水準を維持するには、名目金利を下げることになりますが、名目金利はゼロに達した場合には、それより低くはなりませんので、実質金利が経済にとって適切な水準より高くなり、経済活動を収縮させるということも起こり得ます。第三に、こうした実質金利の上昇や、物価下落局面で起こりがちな資産価格の下落によって金融機関などの資産内容が悪化する、ということも生じます。こうした現象が強まってくると、物価と経済活動の負の循環メカニズムを通じて、マクロ経済に多大な損失が発生する可能性があります。

 こうした負の循環メカニズム——いわゆるデフレ・スパイラル——に陥ることを未然に防ぐべく、日本銀行は、思い切った金融緩和を続けてきました。一時、1%にまで達していた消費者物価の前年比マイナス幅は、需給環境の改善に伴い、生鮮食品を除くベースで、現在、0.2~0.3%程度まで縮小しています。内訳を仔細にみると、景気動向に感応的な「財」の価格については、前年比マイナス幅が徐々に縮小し、足許ではほぼゼロ近傍となっています。幾分恣意的な要素は否めませんが、石油製品価格や公共料金、米価格といった特殊要因を除いたベースでみても、下落幅は緩やかな縮小傾向を辿っています。企業関連の物価指標をみると、企業物価指数が前年比上昇を続けており、企業サービス価格指数は前年比マイナス幅を縮小してきています。経済にとって重要な意味を持つと考えられる家計や企業のデフレ期待は、各種のアンケートでみる限り、2001年頃をボトムに着実に後退してきています。

 こうした状況では、先に述べたような、名目賃金に下方硬直性があることによる問題や、名目金利がゼロ以下にはならないことによる問題などはそれほど深刻化しないため、物価と経済活動の負の循環メカニズムが強く働くような状況ではないということも言えるように思います。現に、一昨年以降、消費者物価の前年比マイナスが続く中で、景気は回復基調を続けてきています。こうしたことを踏まえると、物価下落の性格は、2001年から2002年にかけて需要の落ち込みからデフレ・スパイラルが懸念された頃と現在とでは、かなり異なってきているように思います。

金融緩和の効果

 金融政策を取り巻く経済、物価の状況は、このように、時間の経過とともにその意味するところが変わってきます。通常であれば、こうした局面変化に応じて政策スタンスを修正していくというのが、通常の金融政策のあり方です。米国FRBでは、昨年6月以降、0.25%ずつという慎重なペースで、6回のFOMCで合計1.5%の利上げを実施しています。しかし、日本銀行は、量的緩和政策を導入するに当たって、「消費者物価指数前年比が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を続ける」という、中央銀行としては異例の約束をしています。日本銀行がこうした「約束」を行っているのは、日本経済が物価と経済活動の負の循環メカニズムが働き得るような状況に再び陥らないようにするためです。こうした政策の枠組みは、景気回復の中でより強く民間の活動を支える効果を発揮すると考えられます。すなわち、量的緩和継続の「約束」を通じて、景気が良くなっても物価が上昇しない限り先行きの短期金利は上昇しないという予想が維持され、その結果として、企業は引き続き低い金利で資金を借りることが可能となります。他方、これまでの収益力強化の取り組みもあって企業の収益率は高まっており、前述した金利を通じて企業の前向きの投資行動を起こす力も、その分強まっていると考えられます。企業が先行きへの自信を強めれば、このような金融環境のもと、必要な資金を調達し支出活動を活発化させることは容易であると考えられます。

 こうした異例の緩和政策のもとでは、行き過ぎが生じていないかといった点に注意が怠れません。ここで言う「行き過ぎ」とは、経済の持続的な成長と整合的ではない経済行動・現象のことです。米国では、長期に亘る低金利が流動性を著しく高め、これが、極端に小さい信用スプレッド、住宅市場での投機的需要の顕在化といった過度なリスクテイキング行動につながっているのではないかという議論がなされています。信用スプレッドの縮小は世界的に共通して起こっている現象ですが、わが国の場合、それがやや目立っており、リスクに対する認識は希薄化していないかどうかという観点が欠かせなくなってきています。また、長期まで含めたイールド・カーブのフラット化についても、市場が緩和の長期継続を過度に織り込むような価格形成を行っていないかという目を常に持っておくことが必要と言えましょう。こうした観点から十分に注意を払いつつ、政策運営を行っていく必要があることは言うまでもありません。

企業のコミットメントと変化への対応力

 もっとも、一部にこうした現象がみられるとは言っても、現状は、経済全体として前向きの動きが十分に強まっているという状況ではないように思います。既にみたとおり、民間の設備投資は増加を続けており、一部では攻めの姿勢を明確にし始めた企業も出てきたように見受けられます。しかし、そうした動きはまだ限定的で、収益が拡大しても、有利子負債の削減を進めることを優先して、設備投資についてはもう少し様子をみておこうといった企業がなお少なくないように思います。設備投資を増やしていてもその額はキャッシュフローの範囲内という企業がほとんどです。今回の景気回復局面では、企業の在庫投資スタンスが慎重であることも先ほど指摘しました。依然として銀行貸出の減少が続いていることも、こうした企業の先行きに対するコミットメントの弱さを端的に表していると考えられます。

 企業の立場に立ってみれば、90年代の景気の大幅な振幅や90年代後半の金融システム不安を経験して、事業リスクや財務リスクの大きさが意識されたため、できるだけ、有利子負債は返済し、自己資本を厚めに持っておきたいと考えるのは、十分理解のできることです。また、内外商品市況の高騰から素原材料や中間財の価格が明確に上昇する一方、消費者の価格をみる目は厳しく、値上げは難しいという、原材料高、製品安といった環境で、事業展開を行っていくのは容易なことでないと考えられます。さらに今後について、例えば少子高齢化という、大きな環境変化を不安視する見方もあるかも知れません。もっとも、先行きが不透明だからと言って、いつまでもコミットメントを行わないということでは、経営が成り立たないという面もあるように思います。利用可能な技術や競争環境もどんどん変化し続ける中で、企業が中期的に高い収益力を維持していくためには、経営資源の再配分を継続的かつ迅速に行うと同時に、潜在的な高収益分野に挑戦し続けることが必要なはずだからです。

 こうしたことを行う環境は整っています。まず、労働市場においては、産業構造の変化や収益力引き上げの要請のもとで、雇用関連の規制緩和、人々の価値観やライフスタイルの変化などを受けて、非正規雇用が拡大しております。このことは、企業のコミットメントの弱さを表している半面、労働市場の機能が高まってきているという点で、変化への対応力は以前より高まっていることを示していると考えることができます。次に、潜在的な高収益分野に挑戦し続けるということについてはどうでしょうか。例えば、これまで所得が伸び悩む中で個人消費が底堅い動きを続けてきたことには、企業による消費者ニーズの取り込み努力とそれを受けた魅力的な新商品・新サービスの提供といった要因が無視できないように思います。家計支出の内訳をみると、国内外への旅行や、生涯教育・自己投資ニーズに対応した教育関連、健康・スポーツ関連のサービスなど、幅広い項目が伸びています。こうしたことは、企業の積極的な取り組みがいろいろな分野で実を結び始めていることを表していると考えられます。併せて、金融緩和の効果が企業金融面でも浸透しています。短観の企業からみた金融機関の貸出態度は、中小企業でも、「緩い」とする企業の数が「厳しい」とする企業の数を上回っています。

 そうしたことを考えても、今後は、フリーキャッシュフローを負債圧縮に回さずに、成長のための設備投資や投融資、研究開発などに使う企業が増えてくるとみられます。あるいは、自社株消却、配当性向の引き上げなどを行うのかも知れません。さらには、緩和的な金融環境を利用して、資金調達を行った上で、前向きの活動を行っていくという企業も徐々に増えてくると思います。こうした動きは、わが国経済がバランスのとれた成長過程を辿っていく中で、広がってくるはずです。この間、金融機関は、新しい金融技術・金融資本市場の利用を通じて、リスク管理の一層の高度化と収益力強化を図りつつ、資本を効率的に活用して、企業や個人の金融サービスに対するニーズに的確に応えていく取り組みを進めようとしています。このように、産業と金融の間の呼吸のあった動きは始まっています。産業と金融双方の前向きの動きの歯車が噛み合ってくれば、わが国経済は、短期的な景気循環を越えて、息の長い拡大を続けていく可能性が大きく高まると考えられます。

 日本銀行としても引き続き金融政策面から、民間の方々の前向きの努力を積極的にサポートしていきたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

以上