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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策

大分県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 宮尾 龍蔵
2011年3月23日

目次

1.はじめに

日本銀行の宮尾龍蔵です。ご多用の中、釘宮大分市長並びに大分県の経済界を代表される方々にお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。また、私どもの大分支店の業務運営に対し日頃よりご理解とご協力を賜っており、この場を借りてお礼申し上げます。

本日は、まず今回の東北地方太平洋沖地震で犠牲となられた方々に対して心よりお悔やみを申し上げるとともに、被災者の皆様に対して衷心よりお見舞いを申し上げます。今回の地震は観測史上最大規模であり、その被害は地理的にも広範囲に亘っています。また被災に伴う電力供給を巡る問題に発展するなど、その影響は国民生活・経済活動に広く及んでいます。まさに国難ともいうべき状況ですが、たとえ時間がかかっても、私たちはこの大震災を必ずや乗り越えて、しっかりと復興するという視点を忘れてはならないと思います。

以下では、はじめに今回の地震の影響と日本銀行の対応について述べ、その後、わが国の経済物価情勢と金融政策について概観し、最後に大分県経済についての感想をお伝えすることとします。

2.東北地方太平洋沖地震の影響と日本銀行の対応

(1)決済システム・金融市場

まず、地震発生後の決済システムをみますと、東北地方の太平洋沿岸地域を中心に、金融機関の一部店舗の損壊やATMの稼働停止などが生じました。また、地震発生当日、一部の金融機関ではシステムトラブルもみられました。しかし、被災を免れた店舗を用いたり、休日営業を行って預金の払戻しを行うなど、懸命の対応を行っています。被災地域の手形交換所の一部は、現在も交換業務を休止していますが(18日現在15先)、今申し上げたような努力もあって、日銀ネットを含め、それ以外の地域では、決済システムは全体として円滑に稼働しています。

日本銀行も、地震発生直後に「災害対策本部」を立ち上げて日銀ネットの正常稼働を確認するなど、日本銀行自身の業務継続体制の確保を図っています。支店等を通じて、土日を問わず、被災地への現金供給を行うなどの対応を図ったほか(東北地方の支店・事務所を通じた関係地域への現金供給額は12(土)・13日(日)が550億円、14〜18日が2,560億円)、その後の電力供給を巡る計画停電に対しても、一部支店では自家発電を利用して業務を継続するなど、決済が滞ることのないよう万全を期しています。また、日銀ネットは、日本の決済の根幹をなすインフラとして、電力の安定供給の対象として頂いています。被災地においては、現金需要が見込まれるほか、傷んだ通貨の引き換えなど、さまざまな金融上のニーズが出てくるものと思いますので、日本銀行として、被災地の支援には全力を挙げて取り組んでいきたいと考えております。こうした積極的な対応により、今後も、日銀ネットの運行や現金の供給体制を引き続き確実なものとし、わが国決済システム全体の安定に全力を尽くして参りたいと考えています。

この間、金融市場の動向をみると、短期金融市場は、週明けの14日(月)朝から資金の出し手が資金放出を控える動きが広がり、コール市場での取引が成立しない状況がみられたことから、昨年(2010年)5月以来の即日オペに踏み切るとともに、1週間で82.4兆円もの資金をオファーし(14日:21.8兆円、15日:20.0兆円、16日:13.8兆円、17日:15.6兆円、18日:11.15兆円)、そのうち57.8兆円を市場に供給しました(14日:15.1兆円、15日:14.95兆円、16日:8.7兆円、17日:10.3兆円、18日:8.7兆円)。この結果、オーバーナイト・コール市場は足元では比較的落ち着いて推移しています。

これに対し、CPや社債市場では、投資家のリスク回避姿勢が強く、CP・社債を引き受ける動きが細り、発行されたレートが大幅に上昇するなどの動きがみられました。足元でも、発行金利は高めで推移しておりますが、この背景として、地震の影響に加え、長引く被災原発の問題が少なからず影響しているとみられます。また、株式市場と債券市場でも、先行きの不透明感の高まりに伴う投資家のリスク回避の動きを映じて、株価と長期金利が低下しました。特に株価の下落は大きく、15日には日経平均が前日対比▲1,015円にのぼりました。これは、1日の下落率としては、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマン・ショック後に次ぐ過去3番目の大きさです。さらに、為替市場も、地震発生直後は円安方向に振れたものの、その後はリスク回避の流れを受けて円が買い戻され、17日早朝には一時76円台前半まで到達しました。その後は、金曜日のG7の協調介入もあって、為替はドル/円が80−81円台で推移しており、株価も幾分持ち直しています。

(2)実体経済

今回の地震が実体経済に与える影響については、東北地方では港湾や道路などの社会インフラを始め大きな被害がみられているほか、首都圏においても大規模な工場の被災が伝えられるなど、地震の被害が地理的にも広範囲に及んでいます。物流面でも正常化には時間がかかると予想されるほか、首都圏を含め、電力の安定供給に関する懸念も継続しています。その一方で、日一日と復旧へ向けた取り組みが進められているのも事実です。

こうした中で、今後の影響について考えてみると、定性的ながら3点程度指摘することができると思います。

第一に、当面は、生産設備など供給面への被害の影響が大きく現われ、生産活動や物流を中心に、経済活動にマイナスの影響が及ぶとみられます。被災地域には自動車や電子デバイス関連などの部品・部材メーカーが数多く存在するため、一時的とはいえ、国内外のサプライチェーンの寸断が余儀なくされています。第二に、先行きの不透明感が、家計や企業のマインド悪化を通じて、経済活動を下押しする惧れがあります。そして第三に、中期的には、復興に向けた様々な需要が出てくるとみられますが、タイミングやどの程度の規模となるかは現時点で不確実であり、見通しにくいという点です。

現時点で、今回の地震の影響を定量的に把握することは困難ですが、巨大な津波を伴った過去最大規模の地震であり、ライフラインや物流インフラの復旧に時間を要しているのが実情です。そういった点を鑑みると、少なくとも供給面から経済活動が下押しされる程度は、たとえば16年前の阪神・淡路大震災時に比べても大きく、場合によっては長期化する可能性には、十分注意しておく必要があると考えています。

(3)政策対応

以上のような状況を踏まえ、日本銀行としては、今回の地震が当面のわが国の経済・金融情勢に与える影響を点検し、金融政策運営方針を速やかに公表していくことが、国民心理の安定や金融資本市場の安定を確保する上で重要であると認識しました。このため、もともと2日(3月14日・15日)を予定していた金融政策決定会合の日程を1日とし、情勢判断の結果として、金融緩和を一段と強化することが必要と判断しました。特に、企業マインドの悪化や金融市場におけるリスク回避姿勢の高まりが実体経済に悪影響を与えることを未然に防止することが、現在、最も適切な政策対応と考えられることから、リスク性資産を中心に資産買入れ等基金を5兆円程度増額し、40兆円程度とすることとしました。具体的には、5兆円の増額分のうち、CP・社債等とETF、J−REITのリスク性資産を3.5兆円程度、長期・短期国債を1.5兆円程度買い入れることとしました。

今後の状況については依然不確実ではありますが、日本銀行は、金融機関や金融システムへの影響についての状況把握に努めるとともに、決済システムと金融市場の安定確保に向けて、全力で取り組んでいく方針です(図表1)。

3.わが国の経済物価情勢と金融政策

(1)概況

わが国経済は、足元の踊り場から脱却し、やや長い目で見れば緩やかな回復を続けていくと判断してきました(図表2)。一方で、今般の地震が日本経済へ及ぼす影響は、少なくとも短期的には、決して小さくないと予想されます。当初想定していた景気・物価見通しにどのような影響を及ぼすかについては、従来から指摘してきたリスク要因とともに、細心の注意をもって点検していく必要があります。以下では、主に震災前に検討を進めてきた情勢判断であることをお断りしたうえで、海外経済から順に見ていきたいと思います。

(2)海外経済

まず米国経済については、金融・財政両面からの追加刺激策の効果も相まって、景気回復が継続しています(図表3)。企業の景況感は製造業、非製造業とも改善し、グローバル企業の好業績にも支えられて株価は上昇基調にありました。そうした中で、設備投資は緩やかながら回復基調にあるほか、個人消費についてもリーマン危機前の水準を上回って回復してきています(図表4)。一方で、家計のバランスシート調整にはなお時間を要するものとみられ、住宅投資は、新築住宅販売を中心に依然として低水準で推移しています(図表5)。雇用・所得環境についても、一頃と比べて一定の改善は窺われますが、そのペースは緩やかなものにとどまっています(図表6)。

そうした中、最近の国際商品市況の上昇が米国経済に及ぼす影響について、注意してみていく必要があります。マーケットが認識するインフレ期待は、昨年秋から上昇基調にあります(図表7)。また、家計のインフレ期待も今年に入って上昇し、消費者コンフィデンスの直近の指標は下落に転じています(図表8)。

国際商品市況は、もともと新興国による実需が旺盛な下、投機的な資金流入や中東情勢の混乱もあって、上昇ペースが加速してきました(図表9)。今回の震災を契機に、世界的なリスク回避が強まっており、足元では軟調に推移していますが、一方で、新興国の高成長を背景とする実需がベースにあるとすれば、これまでの基調的な上昇・高止まり傾向の一部は持続する可能性もあると考えられます。商品市況の今後の動向と、それが米国はじめ世界のインフレ期待にどのように影響を及ぼしていくのか、注視していきたいと思います。

次に、東アジア・特に中国を中心とした新興国経済については、昨年後半の減速局面を脱し、引続き高い成長ペースを維持しています。成長の構図をみると、中国経済が力強い内需拡大を続ける中で、アジア周縁国の中国向け輸出が伸長し、それが内需に波及するという好循環が続いています(図表10、11)。

こうした中で、アジア・新興国では、旺盛な内需に国際商品市況の上昇も加わり、インフレ懸念が強まりつつあります。加えて、内需拡大を持続させる観点では、物価上昇に見合った賃金の引き上げは不可欠であるため、これがさらにインフレ圧力を高める可能性があります。このため、各国では、高成長を持続するための環境を整えるべく、徐々に政策金利の引き上げを進めてきています(図表12)。これまでの緩和的な政策運営—いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」—が長期化して高インフレが定着する場合には、景気にマイナスとなることから、未然に回避するためにも早め早めの対応が重要です。アジア・新興国は、世界の成長センターであるだけに、今後の対応が注目されます。

最後に、欧州経済については、ドイツ等の主要国を中心に輸出主導の緩やかな回復を続けています(図表13)。インフレ率の上昇傾向はより明確となってきており、欧州中央銀行は将来の利上げを示唆しています。他方で、財政問題を抱える周縁国では長期金利が高止まりしており、不確実性の高い状態が続いています。

(3)わが国経済

こうした米国経済の回復やアジア・新興国の高成長を受けて、世界的な情報関連の在庫調整の影響が一巡しつつあるほか、個人消費も駆け込み需要の反動から持ち直しの動きがみられており、震災前の判断ですが、わが国経済においても、輸出・生産の回復を核として踊り場を脱却しつつあります(図表14)。

この間、震災前までの市場の動きをみると、ドル/円相場が80円台前半で推移する一方で、株価は上昇基調を維持してきました(図表15)。こうした背景には、米国の金融緩和を受け、米国をはじめとして海外株価が上昇していることに加え、企業収益・キャッシュフローが大幅に回復していることがあげられます。一方で、設備投資や個人消費といった内需関連項目、雇用・所得環境の改善は、緩やかなものにとどまっています(図表16、17、18)。また需給ギャップ、物価動向の改善ペースも総じて緩やかです(図表19)。米国のように、企業部門の好調さが家計部門に波及していく経路がやや弱いように窺われます。

その背景には、仮に輸出主導の景気回復を実現しても、国際商品市況の上昇等により輸入コストが上昇していれば、交易条件の悪化によって実質所得は流出する、その結果、GDPは増えても国内総所得はそれほど増えない、というメカニズムが考えられます。たとえば2000年代の景気回復期(リーマン危機前、2002年〜2007年)において、実質GDPの成長率は平均1.8%でしたが、交易利得を除いた国内総所得(実質GDI)の成長率は平均1.2%にとどまりました。その間、純輸出の拡大がもたらした実質GDPの増加(6年間の累計額)は23兆円ですが、同時期の交易利得の増加は▲18.7兆円、したがって、18.7兆円の交易損失が発生した結果、国内総所得は4.3兆円しか増えていないことになります(図表20)。

このことは、マクロ経済的にみれば、経済のどこかの部門がこの損失を負担していることを意味します。2000年代の景気回復期において、企業は、賃金を抑制して総労働費用を抑えてきました。賃金費用の削減は、企業部門の懸命な構造転換・スリム化の取組みを表すものであり、生産費用の削減は供給面から景気を上向かせる役割を果たし、物価上昇を抑制します。一方で、総労働費用・賃金の減少は家計所得の減少となることから、内需への波及を弱めることになります。したがって、この間の交易損失は、企業部門のスリム化を通じて、家計部門にしわ寄せをもたらすものと見ることができます。

輸出・生産を起点とした景気回復の背後に、以上のようなメカニズムが考えられるとすると、この傾向は、リーマン危機後の回復局面でも継続している様子が窺われます。企業は、より厳しさを増すグローバルな競争環境や円高を背景に、生産の海外シフトを加速するなど、構造転換・成長力強化の取り組みをさらに進めており、その成果である企業収益を、国内での設備投資や雇用・賃金の形で振りむけることに慎重なスタンスを維持しているように見受けられます。足元までの国際商品市況の上昇基調が国内所得を抑制する下で、このようなメカニズムが引き続き働いている可能性が考えられます。

このような傾向は今後とも継続するのか、わが国の景気物価見通しにどのような影響を及ぼすのか、注意深く点検していきたいと考えています。繰り返しになりますが、以上の検討は主として震災前に行っていたものであり、震災を契機とした世界的なリスク回避の動きや世界経済、日本経済への影響については、別途細心の注意をもって点検してまいりたいと思います。

(4)金融政策

昨年10月、日本銀行は金融緩和をさらに強力に推進するため、「包括緩和」の実施に踏み切りました。包括緩和のポイントを整理すると、(1)実質的なゼロ金利政策を採用していることを明確化した、(2)物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続するとともに、その際の判断基準が「中長期的な物価安定の理解」であることを確認した、(3)短期金利の低下余地が限界的であるもとで、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促していくために、国債、社債・CP、ETF、J-REITなど、多様な金融資産の買入れなどを行うための基金を創設した、の3点です。

これは、実質的なゼロ金利継続の約束、バランスシートの拡大、さらにはリスク性資産の買い入れまで含んだ、極めて異例性の高い、非伝統的な金融政策のパッケージです。当時、海外経済の減速や急激な為替円高を背景に、企業マインドや人々のコンフィデンスが委縮し、株価など資産価格も軟調に推移していました。市場において過度に委縮したコンフィデンスやリスクテイク意欲を是正することは、リスクプレミアム低下に向けて持続的な効果をもたらすことが期待されます。実際、包括緩和の導入以後、震災前までをみれば、株価やREIT価格が上昇するなど、各種リスクプレミアムはおおむね縮小しています。また日本銀行がそこまで思い切った政策に踏み込んでリスクテイクを促すことで、企業のアニマル・スピリットを後押して、日本の成長力強化や生産性向上につながるという効果も期待されます。

米国でも、リーマン危機以降、昨年11月の大規模な資産購入プログラム(いわゆる量的緩和第2段)まで、合計4回にわたる非伝統的な金融緩和政策が実施されてきました。特に昨年11月の6000億ドルに及ぶ長期国債購入は、長期金利・借入コスト低下を通じた効果だけでなく、昨夏以降市場で見られた米国経済に対する過度に悲観的な見方、行き過ぎたリスク回避の傾向を是正し、市場参加者が要求するリスクプレミアムに持続的に働きかけて株価を上昇させる効果もあったのではと見られます。

また米国の場合には、ドルは世界の基軸通貨であることから、別のグローバルな効果波及経路も考えられます。すなわち、リーマン危機後の政策対応として、FRBが事実上のゼロ金利政策にコミットした結果、新興国や資源国などドルと連動性の高い経済では米国の金融緩和を輸入することになり、それは海外での景気拡大をもたらすことになります(図表21)。米国のグローバル企業は、もともと製造業、非製造業問わず広く世界で事業を展開していることから、ドルと連動性の高い地域の景気拡大は、米企業の収益・成長期待を高め、それが米国の株価上昇をもたらし、個人消費の回復にもつながります。したがって、過去2年以上続く米国の強力な金融緩和政策には、海外景気の拡大を経由した米国株価上昇によって自国景気を刺激する「国際的なスピルオーバー効果」も考えられるのです。

その一方で、日本や米国で実施されている非伝統的な政策は、無規律・無制限な金融緩和ではないという点が重要です。日本の包括緩和政策では、あくまでも臨時、異例の措置であることを明確にするために、資産買い入れ等を行う基金は日本銀行のバランスシート上に創設して管理しています。米国においても、バーナンキ議長は、大規模資産購入プログラムは短期的な施策であり、中長期的な物価安定にコミットしている点を強調しています。

以上、最近の日米の金融政策とその効果について考察してみましたが、共通して浮かび上がってくるのは、市場のマインドやコンフィデンスが過度に悲観方向に振れた際に、中央銀行の積極的なアクション・資産購入がそれを是正し、リスクプレミアムに持続的に働きかける効果があるのではという点です。

先に申し上げたとおり、今回の地震を受けて、先週初めの金融政策決定会合において、金融緩和を一段と強化する観点から、リスク性資産を中心に基金の増額を行いました。未曽有の震災に直面し、企業マインドの委縮や過度なリスク回避姿勢を是正し、実体経済の悪化を食い止めることを狙いとする意味で、上記と同様の効果が期待されます。まだ先行きの不確実性が高い状況が続きますが、正常化に向けた様々な取り組みが進むにつれて、本措置は強力な効果を発揮するものと考えています。

4.おわりに〜大分県経済について

結びにあたり、当地について述べたいと思います。

まず、大分県は高度成長期に新産業都市として指定され、大分臨海工業地帯が形成されて以降、半世紀弱にわたって官民を挙げて成長の期待できる企業誘致を積極的に進められてきました。このため、鉄鋼や石油などの素材産業だけでなく、精密機械、半導体、自動車など、加工産業の集積も進み、非常にバランスが取れた厚みのある産業構造となっています。製造業の県内総生産に占める割合(2007年度)をみても、全国平均21.2%、九州平均17.1%に対して、当地は23.3%と高くなっています。また、1事業所当り製造品出荷額や、従業者1人当り製造品出荷額ではいずれも九州トップ、全国でみても3位と、非常に生産効率に優れた工場が多いと言えます。このように、製造業のウエイトが高い地域であるだけに、リーマン・ショックに伴う輸出・生産の減少の影響を大きく受けましたが、生産効率に優れた最新工場が多いこともあって、その後の海外経済の復調に伴い、輸出・生産が比較的順調に回復しています。

加えて、当地では例えば関アジ、関サバ、城下カレイといった海の幸、生産量トップの乾シイタケやカボス、湯布院、別府といった国際的に有名な温泉など、ブランド力の高い資源が豊富にあることを改めて認識いたしました。このほか、高い成長を続ける東アジア諸国と近接する地理的優位性を有し、生産や観光などで当地は大きな「地の利」があると思われますし、今月、全線開通いたしました九州新幹線、あるいは現在当県で延伸工事が進められている東九州自動車道など、交通インフラの整備により、九州域内あるいは関西圏を含めた交流が活発化することも期待されます。

大分県経済の今後を展望しますと、今後の当県の成長に繋がる動きとして2つの話題に注目しています。一つには、医療・福祉分野での広域連携の動きです。大分県は従来から医療機器メーカーが集積し、医療機器生産額では全国4位にありましたが、昨年10月には、隣県の宮崎県と連携し、「東九州地域医療産業拠点構想(東九州メディカルバレー構想)」を策定しました。医療・福祉分野は、国の成長戦略のなかでも成長分野に位置づけられており、景気変動に左右されにくい安定的な産業分野という特性もあって地域経済への貢献が期待される産業です。今後、こうした広域連携をもとに産学官が連携を深め、産業集積が進んでいくことを期待しています。

二点目は、自然エネルギー利用による地域活性化です。大分県は、全国トップの温泉源泉数、湧出量を誇り、こうした地熱エネルギーに支えられて、都道府県別の自然エネルギーの供給量と自給率はともに全国1位と、自然エネルギー利用の先進県となっています。自然エネルギーについては、近年、環境問題への取組み強化の動きと相俟って官民一体となった取組みが全国で進められていますが、大分県でも、小水力発電、バイオマス発電といった地熱発電以外を含めた自然エネルギーの利用を推進する動きがみられています。地場企業の中にも、自然エネルギー分野をビジネスチャンスと捉えて、新たなイノベーションを通じて異業種参入する動きがみられているということで、今後の成長に期待しています。

では、私からはこのくらいにさせて頂き、皆様との意見交換に移らせて頂きたいと存じます。ご清聴頂きまして、誠にありがとうございました。