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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 白川 方明
2011年10月21日

目次

はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠に有難うございます。皆様方には、日頃から、日本銀行の政策や業務の運営に多大なるご協力を頂いています。本席をお借りして、厚く御礼を申し上げます。

信用組合業界の皆様におかれましては、地域・業域・職域における中小零細企業や家計に対する金融サービスの提供を通じて、わが国経済の発展に貢献されています。先般の震災後は、被災地の信用組合では、迅速な店舗の復旧・業務の再開に全力を挙げられ、預金者に対する柔軟な預金払い戻しや円滑な資金供給に積極的に取り組んでおられます。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表したいと思います。

以下では、折角の機会ですので、最近の金融システム面の動向と今後の課題、および最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営について、お話させて頂きます。

金融システムの動向

まず、金融システム面の動向についてお話します。わが国の金融システムは、震災以降も、全体として安定性を維持しています。信用組合全体の2010年度決算は、厳しい環境の中でも昨年度に続き黒字を確保しました。もっとも、後から詳しく申し上げますが、内外の金融経済情勢は不確実性の高い状況にあります。

この間、企業の資金繰り面をみますと、全体としては改善した状態にありますが、信用組合の主な取引先である中小零細企業については、厳しい経営状況が続くもとで、なお苦しいとする先が少なくないと認識しています。こうした中、信用組合の皆様方におかれては、相互扶助の理念を踏まえ、中小零細企業の資金繰りをしっかりと支えておられます。それと同時に、経営相談などのコンサルティング機能を通じて、取引先の経営基盤の強化にも努めておられます。

わが国では、今後、被災地の復興とともに、積年の課題である成長力引き上げに取り組むことが一層重要になってきます。そのためにも、金融機関が企業の活動を積極的に後押しすることは大変重要な前提となります。皆様方におかれては、今後とも、地域密着という特性を活かしつつ、企業に対する資金提供や経営改善の支援、家計に対するライフプランの策定など、顧客ニーズに応じたきめ細やかなサービスの提供を行っていかれることを期待しています。

また、そうした金融仲介機能をしっかりと果たしていく上でも、適切なリスク管理は欠かせません。信用リスクの面で申し上げると、貸出条件緩和を行った先をはじめ、業況が悪化した取引先の経営改善の状況をしっかりと見極めていくことが必要です。市場リスクの面では、欧州の財政問題を背景に国際的な金融資本市場が神経質な状況にあるもとで、外貨建債券をはじめとする有価証券にかかるリスク管理が一層重要になっています。さらに、震災の経験を踏まえた業務継続面での取り組みも重要な課題です。このように、リスク管理面での課題は多岐に亘っていますが、経営陣の皆様におかれては、是非先頭に立って、こうした課題に積極的に取り組んで頂きたいと考えています。

最近の金融経済情勢と日本銀行の政策運営

次に、皆様方の業務運営を取り巻く環境として、マクロ経済の動向についてお話します。わが国の経済は、持ち直しの動きが続いています。生産や輸出は、震災による落ち込みからの回復過程に比べてペースは緩やかになっていますが、増加を続けています。

景気の先行きについてですが、夏場までの日本経済は、震災により生じた供給制約が、いかに早く解消されるかという点にかかっていました。しかし、そうした供給制約は概ね解消しましたので、今後は需要動向が最も重要なポイントになります。この点、海外経済は先進国を中心にこのところ減速傾向にあり、当面その傾向が続くとみられます。しかし、やや長い目でみれば、内需が旺盛な新興国・資源国を中心に、海外経済は高めの成長を維持できると考えています。加えて、国内需要についても、被災地でのストック復元の動きが、公共インフラの整備、企業の設備投資、消費財の買い替えなど、様々な面で次第に顕現化してくると予想されます。以上を踏まえますと、日本経済は、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。

ただし、そう申し上げた上で、こうした見通しには、様々なリスクがあることは十分認識しています。とくに重要なのは、海外経済を巡る不確実性です。また、そうした不確実性の増大を反映して、金融・資本市場では、グローバルな投資家のリスク回避姿勢が強まっています。その結果、世界的に株価が低迷しているほか、米欧では信用スプレッドが拡大している一方、米国やドイツの国債、円やスイスフランなど、安全とみなされる資産・通貨には、資金が集まりやすくなっています。

このように、世界経済が全体として減速し、しかも円高圧力が強まりやすいもとでは、日本経済の先行きについて、下振れリスクを意識する必要があります。日本銀行は、先行きそうした展開になる可能性があることも意識して、8月の金融政策決定会合において、金融緩和を一段と強化し、現在、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めています。

今後、世界経済の下振れリスクを回避するうえで、欧州ソブリン問題の動向が当面の焦点となります。欧州の当事者によりこの問題への対応が進められていることもあって、足もと市場における緊張が幾分和らいでいるように見受けられます。しかし、市場の信認を得るためには、財政の立て直しや金融システムの安定化に向けて、さらなる取り組みを着実に実行していくことが不可欠です。この点については、日本銀行としても、G7やG20の場において、日本の金融危機の経験も踏まえつつ、繰り返し主張しているところです。

日本経済自身の課題としては、先程も少し触れたとおり、中長期的な成長力の強化が、引き続き重要です。日本経済は、震災以前から、急速な高齢化や労働生産性の伸び悩みなどを背景に、経済成長率の趨勢的な低下という問題に直面してきました。さらに、震災後は、復旧・復興の着実な推進や、電力の安定供給の確保など、新たな課題も加わっています。しかも、わが国の政府債務残高は、国際的にみても高い水準となっていますので、財政への信認をしっかり維持することも重要な課題です。日本銀行でも、中長期的な成長力の強化に、中央銀行の立場から貢献するという観点から、昨年6月に、成長基盤強化のための資金供給オペレーションを導入しました。本年6月には、新たな貸付枠を設けて、金融機関によるABLなどの取り組みを支援しています。

今後も、日本銀行としては、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。

おわりに

最後になりますが、信用組合業界では、本年初から、全国の組合員をオンラインで繋ぐ「しんくみネット」の本格運用を開始されるなど、取引先のビジネスチャンスの拡大に積極的に取り組んでおられます。経済が発展していく上では、様々な金融ニーズに応じ得る多様な金融機関の存在は欠かせません。その意味で、相互扶助を基本理念とする協同組織の金融機関として、信用組合の役割は大変大きいものがあります。今後とも、信用組合業界が中小零細企業や家計のニーズに適切に応え、地域経済の発展に貢献されることを祈念いたしまして、私からの挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。