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【挨拶】わが国の金融政策と経済・物価情勢

沖縄県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 中村 清次
2011年11月9日

目次

1. はじめに

私は、日本銀行政策委員会審議委員の中村と申します。本日は、お忙しい中、沖縄県の行政ならびに経済界を代表される皆様方との懇談の機会を賜り、誠に光栄に存じます。日頃は、支店長の杉本をはじめ日本銀行那覇支店が大変お世話になっており、この場を借りまして厚く御礼申し上げます。

政策委員会とは、一般企業で言えば取締役会に相当し、金融政策の運営に関する事項を決定するとともに、日本銀行の運営方針を決定し、執行状況を監督する日本銀行の最高意思決定機関です。

総裁、副総裁2名と、審議委員6名の9名で構成されていますが、その構成メンバー9名は、全国各地を訪問し、行政や企業のトップの方々から、地域の経済情勢や日本銀行に対するご意見などをお伺いし、多様な地域経済の実態の把握に努め、政策決定に反映させることと致しております。

皆様のご理解とご協力を賜りたく、宜しくお願い申し上げます。

本日は、まず私から内外経済の現状、先行きの経済見通し、足許の金融政策運営、そして最後に沖縄県経済についてお話ししたいと思います。

もとより、経済の実態は、地域、業種、企業規模等により異なりますので、一括りでは中々語れるものでもありません。私の話は、日本経済をマクロ的に俯瞰した話が中心となりますので、どうしても、皆様が日々の経済活動を通じて実感しておられる経済の実態とは異なる点もあると思われますが、ご理解を頂きたいと思います。日本銀行では、このような意見交換会を各地で開催すると共に、国内にある32の支店や調査部門のミクロヒアリング情報などを通じて、幅広く実体経済の把握にも努めています。私は、外航海運に38年、フェリーを中心とした内航海運に4年、通算で42年間に亘り民間の海運業に携わっておりましたので、こうしたマクロとミクロの差異については、理解しているつもりです。

2. 最近の内外経済情勢

(1)東日本大震災から足許までのわが国経済の状況変化

わが国経済は、3月11日の東日本大震災により、サプライチェーンの寸断と電力供給不安という二つの大きな供給面での制約に直面しました。このため、震災以降、生産が大幅に減少し、輸出も自動車関連が5割減少するなど大きく落ち込みました。原子力発電所の事故に伴う電力供給制約などによる不透明感の高まりとも重なり、企業や消費者のマインドが悪化し、わが国経済は、大きく下押しされました。その後、サプライチェーンの修復は、わが国製造業の強みである現場レベルの様々な創意工夫により、当初の想定よりも早いペースで進められました。夏場のピーク時における電力不足についても、生産体制のシフトのほか、節電への幅広い協力から、生産が大きく抑制される事態は回避できました。このように、わが国経済は、震災の被害に伴う供給制約を概ね解消し、内外の需要動向の水準が鍵となる局面に立ち至っています。以下では、海外経済および国内経済の現状、先行きに対する見通し、見通しに対する不確実性、並びに金融政策運営方針について、お話し申し上げます。

(2)海外経済の現状

海外経済については、先進国経済の成長ペースは鈍化していますが、新興国・資源国経済が牽引するかたちで、全体としては緩やかな回復傾向が続いています。IMFは、本年9月、今後3年間の世界経済の成長率について、それぞれ、2011年+4.0%、2012年+4.0%、2013年+4.5%の成長となるとの見通しを示しました。今回の成長率見通しは、6月対比下方修正されましたが、先進国経済が減速している中、2000年からリーマン・ショックが発生した2008年までの平均である+4.1%と同程度の水準となっていることを踏まえると、必ずしも低い訳ではありません。世界の経済成長率に対する、中国をはじめとする新興国・資源国の寄与度は7割を超えており、新興国・資源国経済の重要性を改めて認識させられます。

次に地域毎の経済についてお話したいと思います。まず米国経済は、減速しつつも緩やかな回復を続けています。本年7〜9月期の実質GDP成長率(季節調整済み前期比年率換算)は+2.5%と、前期の+1.3%から伸び率を高めました。自動車販売を中心に個人消費が堅調に推移したことや、好調な企業業績を背景に設備投資が増加したことなどから、成長ペースがやや高まった格好です。住宅市場の動向は引き続き低調であり、このため、家計のバランスシート調整の重石となっています。米国の不動産関連情報会社Zillowによれば、米国の住宅ローン債務者の約3割は、住宅価値が住宅ローン債務残高を下回る「ネガティブ・エクィティ」の状態にあり、米国家計のバランスシート毀損の大きさをお分かり頂けると思います。失業率も9%台で高止まっており、雇用の回復も捗々しくありません。また、このところの欧州債務危機は、米国の金融・資本市場にも影響を及ぼし始めており、FRBは、先週開催された公開市場委員会(FOMC)において、米国経済の先行きの成長見通しを引き下げました。こうした中、財政面や金融面からの景気刺激策の余地は限られています。先行きについては、回復は続けるとは思われますが、成長のペースは緩やかなものに止まるとみています。

欧州では、世界経済の減速を背景に輸出が鈍化しており、ユーロ圏全体として減速しています。欧州経済の最大の課題は、申し上げるまでもなく、公的債務問題です。当初は、ギリシャをはじめとする一部の欧州周縁国の債務問題でしたが、その後、欧州全体を巻き込んだ問題へと急速に拡大しました。こうした事態の拡散により、金融・資本市場ではリスク回避姿勢が急速に強まると共に緊張が高まっており、企業や消費者のマインドが強く下押しされています。また、金融機関による貸出姿勢の厳格化のほか、欧州金融機関の資産圧縮の動きとも相俟って、実体経済にもマイナスの影響が現れ始めています。先行きについても、欧州債務危機の長期化に伴う下押し圧力の継続や、ユーロ圏諸国の財政再建策に伴う緊縮財政により、国ごとのばらつきはあるものの、全体としては、回復ペースが減速した状態で推移するとみています。こうした中、欧州中央銀行(ECB)は、先週開催された定例政策理事会において、政策金利の引き下げを決定しました。欧州債務危機の帰趨については、今なお不確実性が強く、市場の信頼回復については、予断を許しません。

新興国・資源国では、欧米経済の減速を背景に輸出の増勢が鈍化しているものの、旺盛な内需を中心に、高めの成長が続いています。一部の国では、自国の金融・資本市場の不安定な動きや、景気に対するマイナスの影響を懸念し、引き締め的な金融政策スタンスを緩める動きもみられますが、多くの国ではインフレ圧力が強い状態が続いています。この間、中国では、2011年7〜9月期の実質GDP前年比は+9.1%と、成長ペースは小幅ながらも低下していますが、高めの水準で推移しています。一方、消費者物価指数の前年比は+6%の上昇と、政府の目標水準である+4%を大きく上回って推移しています。先行きについては、インフレや不動産バブルの抑制に注力しつつ、全体としては、高めの成長を維持すると想定されます。

(3)国内経済の現状と先行き

わが国経済は、これまでのところ、持ち直しの動きが続いています。9月短観では自動車関連産業を中心に業況判断DIが大幅に改善し、設備投資も、下期計画が上方修正されるなど、増加傾向が確認されました。生産も、9月の鉱工業生産指数(速報)は、これまでの急速な回復が一服し、前月を小幅下回りましたが、先行きについては再び増加傾向に復するようです。なお、こうした見方には、タイの洪水の影響があまり考慮されていないと考えられるため、今後、注意を要します。こうした生産の持ち直しを受け、9月の実質輸出も、自動車を中心に増加傾向を辿り、既に震災前の水準を上回っており、企業活動は総じて改善傾向にあります。個人消費は、消費者マインドが持ち直し方向で推移する中、小売関連、旅行、外食関連など、幅広い業態で持ち直しつつあります。こうした中、9月の訪日外国人数は、放射能汚染に関する風評被害や為替円高もあって、前年を25%程度下回っていますが、マイナス幅は、4月を底に緩やかに改善しています。

先行きについては、輸出が、為替円高の影響のほか、在庫復元や、供給制約で一時的に失った日本製品の市場シェアの回復による需要の一巡に連れ、持ち直しペースが頭打ちとなる可能性もあります。一方、国内においては、震災復興関連需要にも動意がみられ、全体としては緩やかな持ち直しを続けるとみています。また、第三次補正予算についても国会で審議されており、震災復興関連需要は、今後増加していくと思われます。

日本銀行では、4月と10月の年2回、わが国経済の先行き見通しを示す「経済・物価情勢の展望」(以下、展望レポート)を発表しています。先般、発表した「展望レポート」での、実質GDP成長率見通しは、2011年度が+0.3%、2012年度が+2.2%、2013年度が+1.5%となり、7月時点の中間見直しに比べると、海外経済の減速に加え、為替円高の影響を反映し、幾分下方修正となりました。

消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しについては、マクロ的な需給バランスが緩やかに改善していく中にあって、2011年度はゼロ%、2012年度は+0.1%、2013年度は+0.5%と想定しています。前回見通しと比べますと、本年8月に5年毎の基準改定があったことを主因にして、下方修正となっています。基準改定は、消費者物価指数が、時代と共に変化する商品構成、生活様式や消費者行動を反映できるように、構成品目や品目のウェイトの評価が見直された事によるもので、旧基準と比べ1〜7月の平均で▲0.6%程度の下方改定となりました。

(4)先行きの見通しに対する不確実性

先行き見通しに対しては、上振れ要因、下振れ要因双方に不確実性が大きく、下記の下振れ要因については、特にその動向を注意して見守る必要があります。

第一に、欧州債務危機の帰趨は、不確実性が極めて高く、また、最終的な解決に向けては、長期化の可能性が高いという点です。10月末に開催されたEU、ユーロ圏サミットにおいては、ギリシャの債務削減、欧州金融機関の自己資本増強、危機時のセーフティーネットとしての欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の融資能力の増強等について合意されました。当該合意発表後、国際金融・資本市場は一時的に落ち着きを取り戻しました。しかしながら、その後のギリシャの国内政治の混乱やG20カンヌ・サミットでの討議でも明らかなように、包括支援策や当該国の財政再建策の詳細およびその実行性については不確実性が極めて高く、欧州金融機関の信用力に対する市場の警戒感は変わっていません。例えば、欧州の銀行間の資金取引に関しては、リスクプレミアムとしての上乗せ金利は高止まっており、緊張状態が続いています。これは、欧州債務危機が、ギリシャやイタリア等の過剰債務国の債務問題に止まらず、ユーロ圏の過剰債務国の国債の信認低下を起点に、欧州の民間金融機関の信用力の低下や、実体経済への下押し圧力の高まりが、互いに「負の相乗効果」として作用しているためです。こうした状況下、市場は悪材料に対しては極めて敏感になっていることもあって、いわゆる「テールリスク」には警戒が必要です。こうした状態から欧州経済が抜け出すためには、周縁国の抜本的な財政構造改革と共に生産性や競争力の強化等による中長期的な成長率の引き上げが肝要です。しかしながら、民主的な手続きを踏みながら痛みを伴う意思決定を進めるには、一定の時間を要することは避けられず、市場が許容できる時間軸との乖離が懸念されます。さらに、今般の欧州債務危機により、ユーロ圏の経済・財政運営のガバナンス上の課題も浮き彫りにされました。過剰債務国の財政構造改革だけでなく、こうしたユーロ圏の財政運営の課題も含めた抜本的な制度の改善を図ることが、当該地域におけるこの種の危機の再発抑制に繋がるものと思われます。

第二に、米国経済については、家計におけるバランスシート問題が重石となり、景気は上には弾みにくく、下には振れ易い状況が、今後も続くとみています。住宅市場や雇用動向の回復にはしばらく時間を要すると思われ、財政面や金融面からの政策対応余地が限られている中、米国経済の減速が想定以上に長引くリスクにも注意しておく必要があります。

第三に、企業マインドが下振れるリスクです。わが国の多くの企業は、東日本大震災の被害に伴う様々な供給制約要因に全力を挙げて対処し、ここにきて漸く量産体制に移行、失った内外の市場シェアの挽回に取り組んでいる段階です。こうした、まさにこれから、という局面での海外経済の減速や、為替円高の進行は、輸出企業を中心に、収益の下方修正等を通じて企業マインドの下押し圧力となります。更には、原発の再稼働に絡む電力の供給制約懸念もあり、設備投資等、雇用にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。

なお、タイの洪水については、タイへの直接輸出の減少や、タイを含めたアジア地域におけるサプライチェーンの障害を通じて、わが国の生産にマイナスの影響を及ぼすと考えられることから、今後、注意していく必要があります。

(5)財政再建に対する各国の取り組み

主要先進国の財政収支は、長期的にみた経済成長率の低下や高齢化の進行に伴う社会保障負担の増大などを背景に、悪化傾向にあり、財政健全化は先進国の共通した政策課題と言えます。こうした中、先進国の多くは、リーマン・ショックによる急激な景気後退に対応して、財政面からの積極的な景気刺激策や支援策を発動したこともあり、財政状況が大幅に悪化しています。欧州債務問題に対する懸念が強まる中、世界経済の波乱要因になるとして、過剰な公的債務に対する市場の目線は一段と厳しさを増しています。今年に入ってからも、格付機関は、主に財政赤字削減策が不十分であることを指摘しつつ、アメリカ、日本、スペイン、イタリアなどの国債の格付けを引き下げました。先週行われたG20カンヌ・サミットでは、中期的な成長基盤強化に向けた取り組みの一つとして、昨年6月のトロント・サミットで合意された財政健全化に向けたコミットメントが再確認されており1、先進各国は、緊要度の高い政策課題として財政再建に取り組んでいます2

  1. 1)米国では、本年8月には、財政統制法が成立し、2012〜21年度にかけて2.1兆ドル以上の財政赤字を削減することで合意されました。
  2. 2)ユーロ圏諸国については、単一通貨ユーロの信認を守る為もあり、「財政収支赤字はGDPの3%以内、政府債務残高はGDPの60%以内に抑制すること」が、マーストリヒト条約上求められています。ドイツの財政収支赤字の対GDP比率は▲3.3%ですが、本年4月に欧州委員会に提出した「安定プログラム」では、2011年にも、財政収支赤字の対GDP比率を▲3%以内に抑制することなどを示しています。フランスの財政収支赤字の対GDP比率は▲7.0%ですが、財政収支赤字の対GDP比率については2013年までに▲3%以内に圧縮し、2016年までに均衡させるとしています。
  3. 3)英国では、キャメロン政権は今年1月より付加価値税を引き上げると共に、公的部門(一般政府、公的企業)の財政赤字の対GDP比率を、2013年度までに半減させることや、2015年度までに公的部門の純債務残高対GDP比率の減少を目指しています。

こうした中、わが国の、財政収支赤字の対GDP比率は▲8.1%ですが、一般政府債務残高(グロスベース)の名目GDP比率は199.7%と、米国の93.6%、フランスの94.1%、ドイツの87.0%、英国の82.4%と、先進国の中での突出振りが目立ちます。欧州債務問題の発端となったギリシャの147.3%や、市場の信認が揺らいでいるイタリアの126.8%と比べても遥かに大きいのです。こうした状況下でも、わが国の10年国債金利は、最近10年超の間、概ね2%を超えることなく、最近では1%前後で推移しています。財務省のデータによれば、公債残高は2001年以来の過去10年間で392兆円から667兆円と約7割も増加したにも拘わらず、国債の利払費は9.4兆円から9.9兆円とほぼ横這いで推移しています。このように、傾向的な国債発行残高の増大にも拘らず、わが国では、低利での円滑な資金調達ができているため、危機感の低下と問題の先送りに繋がったと思われます。

わが国ではバブル崩壊以降、低成長が続く中で、企業が財務体質の強化に動き借り入れの圧縮に努めたこともあって、金融機関の余剰資金が積み上がり、国債に資金が向かい易い状態が続いています。1%前後の利回りの国債に対する継続的な需要は、国内金融機関の資金運用対象が限定的な中で、わが国の国債が安全で流動性が高い金融商品であり、今後も信認が継続されるであろうとの期待が背景となっています。

この信認は、国債の利払いや償還資金を裏付ける将来の国の収入が担保されており、さらには、中長期的な財政健全化や通貨価値の維持に向けた、政府や日本銀行の意思と能力に対する信頼に支えられていると考えられます。ギリシャは、実体経済に大きな変化がなかったにも拘わらず、10年国債の利回りが2009年10月の4%中盤から、半年後の2010年4月には9%近くにまで急上昇し、現在は28%前後で推移しています。これは、償還能力の裏付けとなる中長期的な財政バランスの改善に向けての政府の意思と能力に対し、市場参加者による信認が、非連続的に変化したからです。

わが国の長期国債については、銀行、保険・年金部門が、残高の6割3を超える部分を保有しており、その原資が預金や保険料であることを踏まえると、究極的には、保有者は国民とも言えるのではないでしょうか。しかしながら、国民には、そのような意識はあまり無いのが実情ではないでしょうか。わが国では、高齢化が急速に進む中にあって、個人金融資産や金融機関の運用スタンスが将来に亘っても、これまでと同様、安定的に国債への投資に向かうとは限りません。

こうした点も踏まえると、現在1%前後で推移している長期金利が、何らかの切っ掛けで上昇に転じ、金利負担が著しく財政を圧迫する事態も想定外とは言えません。

わが国では、昨年6月に「財政運営戦略」が閣議決定され、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化し、その後、債務残高の対GDP比率を安定化させることが明記されています。

当面は、低利での資金調達が可能であり、わが国の国債の需給関係に大きな支障を来たすとは考えられません。しかしながら、借金は返さなければならず、踏み倒すことも出来ません。また、インフレにより、借金残高を実質的に目減りさせることも、インフレに伴う経済的なコストの大きさに照らして考えると、解決策とはならないのです。抜本的な財政改革に近道はなく、さまざまな痛みを伴いますが、財政健全化には時間を要すことより、残された時間は限られます。低金利の下、市場からの信認が得られている今のうちに、景気の動向にも配慮しつつも、中長期的な財政健全化に向けた具体策を地道に実行に移すことが求められているのです。

  1. トロント・サミットの宣言文では、「先進国は、2013年までに少なくとも赤字を半減させ、2016年までに政府債務の対GDP比を安定化又は低下させる」とされていますが、日本については「日本の状況を認識し、我々は、成長戦略とともに最近発表された日本政府の財政健全化計画を歓迎する」としています。なお、トロント・サミット前に閣議決定された「財政運営戦略」では、2015年度までに基礎的財政収支の赤字の対GDP比率を2010年度水準から半減させ、2020年度までに黒字化することを目標としています。
  2. 本稿で引用されている、政府債務残高の対GDP比率は、OECD Economic Outlook 89 Database、2010年「General government gross financial liabilities」を、また、政府財政収支の対GDP比率は同「General government financial balances」を、それぞれ参照。
  3. 日本銀行「資金循環統計」。長期国債および財政投融資機関債の合計値に占める銀行、保険・年金部門の保有残高シェア。

3. 金融政策運営

次に、金融政策運営についての話に移ります。日本銀行では、昨年10月以降「包括的な金融緩和政策」の下、強力な金融緩和策を導入すると共に、「金融市場の安定確保」並びに「成長基盤強化の支援」の3つの措置を通じて粘り強い貢献を行っています。特に、本年3月の東日本大震災以降は、内外経済の減速や為替や金融・資本市場の不安定な動きなどの影響に対する懸念の高まりから、金融緩和を一段と強化しています。

日本銀行は、短期金利の低下余地が極めて限定的となっている状況を踏まえ、昨年10月に導入した包括的な金融政策のもとで、「資産買入等の基金」による金融資産の買入れ等を進めており、買入れ等の規模については、この間、累次にわたり大幅な増額を行ってきました。また、日本銀行は、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件にではありますが、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、1%程度の物価上昇率が展望できる情勢になるまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしています4

最近の政策対応としては、本年8月には先行きのリスクを相当程度前広に織り込み、「基金」の規模を40兆円から50兆円に思い切って拡大しました。しかしながら、その後、海外経済の減速や為替円高の景気への影響等の強まりなど、下振れリスクの一部が顕在化したことを受け、展望レポートの見通しを、7月時点と比べて、幾分下方に修正しました。さらに、国際金融資本市場や海外経済の動向次第では、こうした経済・物価情勢の見通しが、さらに下振れる懸念が強まったと判断しました。この為、8月時点で拡大した「基金」の購入枠に達するまでには約10兆円の余裕があったものの、10月27日の政策決定会合で、当該「基金」の内の国債買入れ枠を5兆円追加し、金融緩和を一段と強化することを決定したのです。

日本銀行としては、こうした金融緩和措置を強力に推進することを通じて、わが国経済が、デフレから脱却し、物価安定の下での持続的成長経路に復するために積極的に貢献しなければならないと考えています。

  1. 4「中長期的な物価安定の理解」とは、各政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率のことであり、現在は「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラス領域にあり、中心は1%程度」と考えています。

4. おわりに

以上、日本経済の現状と先行きの見通し、最近の日本銀行の金融政策運営などについてお話しして参りました。最後になりましたが、沖縄県経済についてお話ししたいと思います。

当地の景気は、震災の下押し圧力から脱しつつあります。すなわち、本土の電力不足問題等を契機として、観光では、個人を中心とした旅行需要が回復しているほか、IT関連は、コールセンターやデータセンター等の進出がみられています。また、個人消費は、全国トップの人口増加率を背景に、底固く推移しています。こうした状況を踏まえ、弊行那覇支店では、沖縄県内の景気について、「個人消費や観光関連を中心に、緩やかに回復している」と判断しています。

この間、当地の経済構造をみますと、輸出型製造業の集積が少なく、わが国では稀な、「内需型消費経済」となっています。このため、当地経済は、本土企業の収益動向の影響を間接的に受ける形で、本土景気に遅行して推移してきました。もっとも、最近では、観光やIT関連を中心に、本土の「オフショアリング」需要を、島嶼県にある当地が上手く吸収できていることもあって、直近の「短観調査」では、沖縄県内の業況判断DIが、全国並みのペースで改善しています。

こうした状況を踏まえ、沖縄県経済の今後を展望しますと、経済活性化に繋がるポイントとして、私としては、以下の3点に注目しています。

まず、第一に、沖縄が東アジア沿岸地域の中心に位置するという「地理的特性」です。物流面では、既に那覇空港の貨物ハブ基地化に取り組まれ、大変な成果を上げられています。また、観光面では、中国人個人観光客を対象にした数次ビザの発行が始まり、インバウンド観光客の取り込みが期待されるところです。

次いで、「自然エネルギーの活用」です。当地では、火力発電への依存度が高いこともあって、自然エネルギーの活用に向けた先進的な取り組みが進められています。離島部では、全国最大規模のスマートグリッドの実証事業が行われています。また、バイオエタノールの生産・流通やEV(電気自動車)の普及・促進といった事業も積極的に進められています。こうした取り組みにより、CO2削減が図られることはもとより、県内企業の技術力向上や雇用創出、観光地としてのブランド力向上に繋がることが期待されます。

最後に、「財、サービスの高付加価値化」です。当地には、「琉球文化」や「亜熱帯の美しい自然と独特の植生」といった素晴らしい資源があります。これらを活かした「高品質の観光・サービス」や「独自の農作物や加工品」等を本土や東アジアの顧客に提供し、物流コストを乗り越えて、他地域との差別化を図ることは、今後の県経済活性化に繋げていく上で、重要であろうと考えております。

ところで、来年5月15日には、沖縄の本土復帰40周年を迎えます。私ども日本銀行那覇支店は、沖縄の本土復帰と同じ日に開設されました。開設当時(1972年)は、沖縄の通貨を米ドルから日本円に切り替える大作業を行ないましたが、県民の皆様のご協力もあって、こうした作業は成功裡に終えることが出来ました5。那覇支店では、以来40年近く、金融界や経済界をはじめ、県民の皆様に支えられ、銀行券や金融システムの提供、地域経済に関する情報収集・還元といった業務を遂行させて頂いております。今後とも、私どもの那覇支店に対するご理解・ご協力をお願いするとともに、沖縄経済のさらなる発展を祈念して、私からの挨拶とさせて頂きます。

ご清聴頂きまして、誠にありがとうございました。

  1. 5那覇支店開設や通貨交換について、詳しくは、那覇支店のHPをご参照ください。