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【挨拶】

わが国の経済・物価情勢と金融政策

石川県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 森本 宜久
2012年8月2日

目次

1.はじめに

日本銀行の森本宜久です。本日は、石川県の行政および金融・経済界を代表する皆様方にご多忙の中お集まり頂き、お話しする機会を賜り、誠にありがたく、光栄に存じます。また、皆様には、日頃より金沢支店による業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りして、厚くお礼申し上げますとともに、今後ともご指導を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

さて、日本銀行では、総裁、副総裁および政策委員会審議委員からなる「政策委員」が、できるだけ頻繁に各地を訪問し、私どもの政策についてご説明申し上げ、そして直接ご意見をお聞きして、政策判断に活かすこととさせて頂いております。本日の懇談会もそうした趣旨で開催させて頂きました。

本日は、まず私から、マクロ的な内外経済の現状、先行き見通しとリスク要因についてお話しさせて頂き、次にこうしたもとでの日本銀行の金融政策についてご説明し、最後に、石川県経済についても若干触れさせて頂きたいと思います。その後は、皆様方から当地の実情に即したお話や、忌憚のないご意見を承りたく存じます。よろしくお願いします。

2.最近の金融経済情勢

(1)国際金融資本市場と海外経済情勢

国際金融資本市場

まず、わが国の経済を左右する国際金融資本市場や海外経済の動向についてお話しさせて頂きます。国際金融資本市場では、欧州債務問題を巡って、悲観論の高まりとその後退を繰り返しています(図表1)。昨年半ばから昨年末にかけては、周縁国の財政の持続可能性に関する懸念から、市場の緊張が高まりました。本年入り後は、春先にかけて、欧州連合(EU)各国による財政規律強化策の導入や、ユーロ圏などによるギリシャに対する第二次支援策の決定、欧州金融安定基金(EFSF)および欧州安定メカニズム(ESM)の融資能力増強への合意などの進展を受けて、緊張が緩む局面もみられました。こうした取組みの進展にもかかわらず、春先以降は、ギリシャの国内政治の混乱からユーロ危機がささやかれ、スペインでも金融システムに対する懸念から同国の10年物国債利回りが一時7%を上回るなど、再び神経質な動きとなっていました。その後、ギリシャでは新政権が発足し、6月末の欧州首脳会議では、今後の成長戦略が謳われたことに加え、ESMを使った銀行への直接資本注入も視野に入れて、汎欧州の金融監督制度の創設を検討していくことなどで合意しました(図表2)。こうした合意を受け、スペインの金融システム不安と政府債務の増大の悪循環に歯止めが掛かるとの期待などから、市場は一旦落ち着きを取り戻しましたが、これも長続きはせず、同国の10年物国債利回りは7%前後で推移しています。一方、銀行間の資金調達市場は、欧州中央銀行(ECB)による潤沢な資金供給等により、本年入り後は総じて安定した状態が続いています(図表3)。しかし、欧州の財政・経済構造改革や金融システム面の対応を巡る不確実性の解消には今暫く時間を要するものと思われます。欧州債務問題の展開には、これからも十分な注意が必要です。

海外経済情勢

そうしたもとで、海外経済には緩やかながら改善の動きもみられていますが、全体としては減速した状態から脱していません(図表4)。地域別にみると、欧州経済については、輸出に持ち直しの動きがみられますが、域内需要の低迷を背景に停滞が続いています。周縁国を中心に、財政緊縮化への取組みや金融環境の悪化に伴う実体経済の下振れが、財政や金融機関の財務状況の一段の悪化に繋がるという悪循環に陥っています。この結果、ドイツなどコア国と周縁国の間の景況感格差が広がっています。例えば、失業率をみても、ドイツが東西統合後の最低水準の5%程度であるのに対し、スペインでは20%台に達し、若年層では5割を超えています(図表5)。また、周縁国経済の悪化はコア国の企業マインドにも影響を及ぼしており、当面は欧州経済の停滞が続くとみられます。

次に米国経済は、基調としては緩やかな回復が続いています。個人消費は、ガソリン価格下落に伴う実質購買力の増加もあって底堅く推移し、住宅市場にも持ち直しの兆しが窺われます。また、設備投資は、足許、底堅い企業収益を背景に増加傾向にあります。ただ、企業マインドに弱めの動きがみられるほか、雇用者数の増勢はこのところ鈍化しています。さらに、バランスシート調整圧力が残る中で、欧州債務問題の影響や、来年初から予定されている財政支出削減や年末に期限切れとなる減税の取扱い等の、いわゆる「財政の崖」を巡る不確実性により、家計や企業は支出スタンスを積極化させ難いとみられます。これらの点を勘案すると、米国経済の回復は先行きも緩やかなものになるとみられます。

この間、新興国・資源国経済をみますと、成長ペースが鈍化した状態から脱していませんが、総じてみれば内需が堅調に推移するもとで高めの成長を維持しています。このうち中国経済では、既往の引締め策により民間不動産投資などが減速し、一頃に比べ成長ペースが鈍化していますが、輸出や銀行貸出が増加傾向を示すなど、底打ちの兆しも窺われています。中国政府では、投資プロジェクトの認可加速や省エネ家電等の補助金導入に加えて、金融政策面では、消費者物価の伸びが縮小傾向にあるもとで、2か月連続で政策金利の引下げに踏み切るなど、景気対策に本腰を入れ始めています。先行きについては、目覚ましく高い成長率になるわけではありませんが、政策効果が発現するにつれて、成長率が徐々に高まっていくものとみられます。NIEs・ASEAN経済については、輸出は欧州や中国の減速の影響を受けていますが、内需が総じて底堅く推移しており、生産は緩やかに持ち直してきています。先行きは、ブラジル等その他新興国も含めて、インフレ率の低下に伴う実質購買力の回復や緩和的な金融環境のもと、成長率は次第に高まっていくものとみています。

(2)日本経済・物価情勢

経済情勢

次に、こうした海外経済のもとでの日本経済についてお話しさせて頂きます。日本経済は、リーマン・ショックからの回復途上において、東日本大震災により再び大きく落ち込んだ後、昨年秋口までは着実に持ち直してきましたが、その後は、海外経済減速や円高の影響等から、本年春先までは全体として横ばい圏内の動きとなりました(図表6)。このところは、復興関連需要や個人消費等の国内需要が堅調に推移しているほか、輸出にも持ち直しの動きがみられ、全体として緩やかに持ち直しつつあります(図表7)。

国内需要が堅調に推移している背景をみると、復興関連では、社会基盤や設備・住宅の修復・建替需要が、公共投資や設備投資、住宅投資の増加につながっています。また、耐震・業務継続体制の強化や新エネルギー分野への投資、省エネ関連消費など、大震災を契機とした企業・家計行動の変化もそうした需要を下支えしています。個人消費では、震災の影響で一旦抑制された需要の回復(ペントアップ需要)や、エコカー補助金といった政策効果による押上げもありますが、高齢者関連ビジネスにおける企業の供給体制の強化などによる支出増加も影響していると考えられます。

不確実性は大きいですが、6月の日銀短観や地域経済報告でも確認されましたように、わが国経済の先行きは、国内需要が引き続き堅調に推移し、海外経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。こうした内外需要のもとで、生産・所得・支出の前向きな循環メカニズムが徐々に強まることから、2012年度全体をみると、比較的高い成長率となることが予想されます。2013年度については、復興需要による景気押し上げ効果が徐々に減衰していくことなどから、成長率は、2012年度対比では幾分鈍化しますが、海外経済が全体として高めの成長を続けるもとで、堅調に推移するものと考えられます。日本銀行が7月に公表した経済見通し(図表8)では、実質GDPの成長率についての政策委員見通しの中央値は、2012年度+2.2%、2013年度+1.7%となっています。

物価情勢

次は物価情勢です(図表9)。国際商品市況は、昨年秋以降、世界経済の減速を受けて弱含んで推移していました。本年春先には、地政学リスクの高まりなどを背景に原油を中心に強含みましたが、6月末にかけて反落した後、概ね横ばいとなっています。ごく足許では原油価格は下げ止まる一方、穀物価格は天候不順の影響から強含んでいます。先行きの国際商品市況は、海外経済の成長に沿って、緩やかなペースで上昇していくものとみています。こうしたもと、国内企業物価指数はこのところ前年比マイナスで推移しています。先行きは、当面緩やかに下落した後、国際商品市況の緩やかな上昇や、需給ギャップの改善を反映して、緩やかに上昇していくとみられます。

次に生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比をみると、昨年夏頃からは概ねゼロ近傍で推移しており、当面こうした動きが続くとみられます。先行きは、中長期的なインフレ予想が安定的に推移するとの想定のもと、需給ギャップの改善(図表10)などを背景に、消費者物価指数の前年比は、2013年度にかけて0%台後半となり、その後、当面の「中長期的な物価安定の目途」である1%に遠からず達する可能性が高いと見通しています。日本銀行が7月に公表した物価見通し(図表8)では、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比についての政策委員見通しの中央値は、2012年度+0.2%、2013年度+0.7%となっています。

(3)リスク要因

以上の経済の中心的見通しに対しては、上下双方向のリスクがあります。最も影響が大きいと考えられるのは、欧州債務問題をはじめとする、海外の金融経済の先行きに関する不確実性です。欧州首脳会合での合意などを受けて、スペインの金融不安は一時後退しましたが、債務問題の根本的な解決には背景にある財政・金融システム・実体経済の三者間の負の相乗作用を断ち切ることが必要であり、対外競争力が低下している周縁国各国が財政・経済構造改革を着実に進めていくことが不可欠です。また、ユーロ圏の統合を深化させる取組みとして「銀行同盟」や「財政統合」に向けた議論がEU内で続けられており、これらを前進させていくことが重要だと思います。こうした中、改革が着実に進む場合は市場からの信認が強化され世界経済の上振れ要因となる可能性があります。しかし、ドイツなどのコア国では、財政統合等により周縁国支援の負担が増すことに対する懸念があり、具体策の実現には曲折も予想されます。この間に欧州債務問題が深刻化したり、不透明感が強い状況が続くと、米国や中国など他地域にとっても景気回復の重石となります。その結果、わが国の輸出停滞が続くこととなれば、復興関連需要がピークアウトした後の牽引役として期待される外需への移行が円滑に行われず、前向きの循環メカニズムがはっきりと作動しない可能性が懸念され、十分な注意が必要です。

次に国内要因としては、復興関連需要を巡る不確実性や、電力需給やエネルギー関連の技術革新等が中長期的な成長期待に与える上下双方向の不確実性等が挙げられます。また、将来不安を通じた支出抑制や長期金利への影響という点において、財政の持続可能性に関する課題もあります。これからも社会保障費等の増加圧力がかかり続けることを踏まえると、歳入・歳出の両面で財政の構造改革を進め、財政規律に対する信認を維持していくことが重要です。この点、財政健全化への取組みが進められており、その動向を注視したいと思います。物価については、国際商品市況を中心とした輸入物価を巡る上下両方向の不確実性等があります。

3.金融政策運営

次に、こうした経済情勢のもとでの金融政策運営についてお話しします。わが国経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路へ復帰するためには、成長力強化の努力と金融面からの後押しの両面にしっかりと取り組んでいくことが極めて重要です。そうした認識のもと、日本銀行は、現在、成長支援資金供給を通じて成長基盤強化を支援するとともに、資産買入等の基金の積み上げを着実に行うことを通じて、強力な金融緩和を間断なく推進しています(図表11)。また、金融市場の安定確保にも万全を期しています。

以下では、それぞれの枠組みについてご説明したいと思います。

(1)強力な金融緩和の推進

まず、強力な金融緩和の推進についてです。日本銀行では、2010年10月に新たに「包括的な金融緩和政策」を導入し、その後、金融緩和を間断なく強化しています。「包括的な金融緩和政策」では、政策金利の誘導目標水準を「0〜0.1%程度」とする実質的なゼロ金利政策、「基金」を通じた金融資産の買入等、そして物価安定を見通せるようになるまでこうした措置を継続するとの時間軸の明確化の3つの措置を講じています。

こうしたもとで、わが国の金融環境は緩和の動きが続いています。短期金融市場では、オーバーナイト物コールレートは0.1%を下回る水準で推移しています。長期金利は、残存期間3年までの国債利回りが0.1%となり、10年債も約9年振りの低水準で推移しています。企業の資金調達コストも、例えば新規貸出約定平均金利が1%程度となるなど、緩やかに低下しています。

「中長期的な物価安定の目途」のもとでの時間軸の明確化

本年2月の金融政策決定会合では、日本銀行のデフレ脱却に向けた姿勢をより明確にするために「中長期的な物価安定の目途」を導入しました(図表12)。この「中長期的な物価安定の目途」は、日本銀行として、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的であると判断する物価上昇率を示したものです。現在は、「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途」としています。そのうえで、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、先程申し上げました強力な金融緩和を推進していくこととしています。このように時間軸を示すことで、日本銀行の金融緩和姿勢をより明確なものとしています。

「資産買入等の基金」の増額

現在、実施している「資産買入等の基金」は、短期金利の低下余地が限界的となっているもとで、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促し、金融緩和を一段と強力に推進するために創設したものです。日本銀行のバランスシート上に基金を設け、国債、CP、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)など多様な金融資産の買入れと固定金利方式による資金供給を行っています。創設以来、累次に亘って規模を拡大してきましたが、本年も2月、4月に増額し、現在は、本年末までに65兆円程度、さらに来年6月までに70兆円程度まで資産買入等を進めていくこととし、強力な金融緩和を推進しています。また、この4月には、より長めの金利に働きかけるため、買入れ対象とする長期国債および社債の残存期間について、従来の「1年以上2年以下」を「1年以上3年以下」に延長しました。7月には、買入予定残高の達成を確実なものとする観点から、従来0.1%であった短期国債、CP買入れの入札下限金利を撤廃するとともに、買入資産等の内訳を見直しています。7月20日時点の残高は約53兆円ですが、来年6月末まであと17兆円程度を着実に積み増していくことで、強力な金融緩和を今後も間断なく進めていきます。先行き、景気が改善していくと、こうした資産買入等を継続していくことによる政策効果はより強まっていくものと考えています。

(2)成長基盤強化を支援するための日本銀行の取組み

次に、「成長基盤強化を支援するための資金供給」についてお話しします。わが国経済に不可欠な成長力強化を支援する観点から、そうした分野への融資・投資を行う金融機関に対し、長期(最長4年)かつ低利(現在0.1%)の資金を供給しています(図表13)。基本となる貸付枠は3兆円で2010年6月にスタートしました。その後、2011年6月には、資本性の資金である出資や、ABL(Asset Based Lending)という従来型の担保や保証がなくても、金融機関の目利き力次第で成長企業を発掘できるタイプの融資を対象に、5千億円の特別枠を設定しています。さらに、本年に入り、基本となる貸付枠を3兆円から3.5兆円に増額するとともに、より小口の投融資を対象とした5千億円の特別枠や、米ドル資金を活用した120億米ドル(1兆円相当)の特別枠を設けました。

6月上旬時点の日本銀行による貸付残高は、特別枠も合わせた全体で約3.2兆円となっています。米ドル特則については9月に第1期の貸付を行う予定です。また、民間金融機関が行った投融資の分野別の分布状況をみると、環境・エネルギー事業が3割弱、医療・介護・健康関連事業が2割弱を占めるほか、「その他」に分類されていますが、地場産業活性化への取組みなども行われています。幅広い金融機関が自らの顧客基盤や地域性などの特性に応じて、成長を支援するファンドを組成する等の多様な取組みを行っており、この制度を利用した民間金融機関による投融資額は日本銀行による貸付額を大きく上回っています。日本銀行としては、着実に貸付を実施することで、引き続き成長分野への資金の流れを後押しし、わが国の成長基盤の強化に向けて、中央銀行としてできる限りの貢献を果たしていきたいと考えています。

(3)金融市場の安定確保の取組み

このほか、日本銀行では多様な資金供給オペレーションを活用して、金融市場の安定確保に万全を期しています。昨年3月の震災発生直後には、リーマン・ショック直後を上回る過去最大の資金供給をオファーしました。また、欧州債務問題が深刻化した昨年11月末には、主要6か国中銀間で連携して「米ドル資金供給オペレーション」の貸付金利を引き下げ、市場の安定確保に努めました。その際には、米ドル以外の5か国通貨の資金供給に備えた多角的スワップ取極の締結に合意するなどの協調対応策も合わせて講じています。

4.成長力強化に向けた課題

(1)デフレ脱却へ向けた成長力強化の重要性

先程、成長力強化を支援するための日本銀行の取組みについて触れましたが、成長力を強化するうえでの課題についてお話ししたいと思います。わが国では、少子高齢化や国際競争力低下の影響などから成長率が趨勢的に縮小してきました(図表14)。家計や企業の将来の成長期待が低下することで消費・投資が抑制され、マクロ経済全体として需要が供給能力を下回る状態が長らく続いており、これが物価の下押し圧力となっています。足許では、景気の持ち直しにつれて需給ギャップは縮小傾向にありますが、なお供給能力を▲2%程度下回っています(図表10)。物価動向には、国際商品市況など様々な要因が作用しますが、デフレから脱却するためには、根本的な要因である需要不足の問題に取り組むことが重要です。さらに、少子高齢化が進行するもとで持続的な経済成長を実現していくには、その需要を満たすための供給力を確保し続けていくことも重要な課題です。

(2)グローバル需要の取込みとイノベーションによる需要創出

需要不足の解消には、新興国経済などのグローバル需要の取込みと、海外・国内両面での潜在需要の掘り起しに取り組むことが不可欠です。

まず、グローバル需要への対応では、輸出面での努力とともに、海外投資から得られる所得の拡大にも目を向けることが重要です(図表15)。海外直接投資に伴う所得は国内総生産(GDP)には計上されませんが、国民総所得(GNI)の成長につながっています。また、国際分業の進展は、関連財輸出の増加や国内労働力の成長分野へのシフトを通じて成長力強化にもつながると考えられます。

もう一方の潜在需要の掘り起しについても、持続的な取組みが重要です。個別の財・サービスの市場では、初期の低成長期を経て急成長のフェーズを迎えた後、需要が飽和して成長が鈍化します。このため、経済全体の成長力を維持していくためには、潜在的な財・サービス需要を掘り起す需要創出型のイノベーションを加速して成長分野に厚みを持たせ、国内外の需要を確保していくことが大事だと思います。また、少子高齢化に伴う人口構成のシフトも、需要面での構造変化を促しています(図表16)。例えば、個人消費については、団塊の世代など、60歳以上の世帯主の世帯による消費支出の割合が既に4割を超えています(図表17)。そうした世代に対し、タイムリーに、ニーズに合った財・サービスを供給することが重要な課題となっています。

先程も少し申し上げましたが、国内企業については、このところ企業収益や業況感が改善傾向にありますが、これは補助金や復興需要等による押上げ効果だけではなく、幅広いシニアビジネスやいわゆる「創エネ・省エネ・蓄エネ」で対応が急がれる環境・エネルギー分野、情報・通信分野などで潜在需要への対応や社会的課題の解決に向けて積極的な取組みが進みつつあることも示しているとみています(図表18)。例えば、自動車産業では環境性能に優れたハイブリッド車等のエコカー販売が好調であり、蓄電池など関連市場の拡大も期待されています。また、情報・通信分野ではスマートフォンが本格的な普及期にあり、その基盤を利用し、電子書籍や音楽等の配信サービスなどに加えて、位置情報に基づいて近隣の飲食店を紹介するといった、インターネットと連動して実際の店舗へと顧客を誘導するような新しいサービスも拡大しつつあります。さらに、コンビニエンスストア業界では、一時、店舗数が飽和状態に近いと言われていましたが、品揃えの充実や宅配にも踏み出すなどサービス面でもシニア層や女性への対応を進めたことで、一店舗当たりの売上高が上昇に転じています。今後も、そうしたイノベーションを一過性の取組みとするのではなく、幅広い分野で途切れることなく続けていくことが極めて重要だと思います。

(3)労働力の確保と生産性の向上

次に、成長力強化のためには、需要に見合う供給力を確保することも重要な課題です。足許の労働環境は、改善傾向とは言え未だ供給過剰であり、若年者雇用を巡る厳しい情勢など解決すべき課題が残されています。しかし、先行きの生産年齢人口は減少傾向にあり、中長期的に労働力が供給不足に転じる可能性があります。経済成長率は就業者数と就業者一人当たりの生産性の伸び率に分解されますが、就業者数の減少による成長の下押し寄与は、労働力率が最近の値で一定と仮定すると、2030年代までには年平均▲1%台前半まで拡大する見通しにあります(図表14)。一方の労働生産性の伸び率はこのところ年平均1%程度ですので、このままではわが国の潜在的な成長力はマイナスに転じることになります。

こうした影響を少しでも緩和するために、労働力の面では、労働市場の柔軟性を高め、異なる産業間での労働力の移動(図表19)や、働く意欲を持ちつつも就労していない女性やシニア層などの労働参加を容易にするための取組みを進めることが重要です。半面、労働生産性については、わが国の伸び率は主要国の中で高い水準にあり、これを引き上げるのは難しい面があります(図表20)。しかし、労働生産性は、労働投入コストに対する付加価値の総額の割合ですので、成長分野に厚みを持たせて高付加価値の財・サービスを産み出し、企業が十分に利益を確保していくことができれば、生産性の伸び率は高まります。ここから所得形成を通じた前向きのモメンタムが生まれ、生産年齢人口減少のインパクトを和らげることに繋がるのではないかと思います。

わが国が、世界に先駆けて少子高齢化が急速に進むもとで、こうした成長力強化を実現することは、需要、労働力、生産性をポテンシャルの限界まで高めていく必要があるという点において難易度が高く、わが国全体として取り組まなければならない大きな課題です。こうした観点から、政府では、企業が挑戦しやすい環境を整備するため、グリーン成長、ライフ成長、人材育成、観光立国戦略等11分野で重点的に取り組んでいく「日本再生戦略」を取り纏めています。また、企業の取組みを活発化させるには、そうした環境整備だけではなく、金融面からの後押しも欠かせません。これらのことを念頭に、民間企業、金融機関、そして政府とともに、日本銀行としても、役割に則した取組みを全力で続けて参りたいと考えています。

5.おわりに ―― 石川県経済について ――

以上、景気動向や金融政策運営についてお話ししました。最後に、石川県経済についてお話ししたいと思います。

当地は、近世以来、各種の産業振興策への取組みや北前船の寄港地として各地との交易を通じ、日本海側の文化・経済の中心地として発展を続けてこられ、歴史と伝統の重みを持っておられます。また、人材の面でも、「勤勉、堅実」と言われる県民性のもと、中高齢者や女性の就業率は全国上位であり、就業率全体としても高い水準となっています。

今、わが国経済は、東日本大震災の影響による落込みを経て持ち直しの過程にありますが、短観などからみると当地経済には全国平均と比べて力強さが感じられます。これは、地理的にアジア諸国と近いという利点を活かし、製造業の輸出強化や海外進出、海外からの観光客の誘致などを通じて、中国等の新興国需要の取り込みにも着実に取り組んでこられた成果であるように思います。また、当地では、繊維産業の集積地という特徴を活かした高機能素材の開発・生産や、医療・福祉といった新成長産業も着実に育っています。さらに伝統工芸の分野においても、加賀友禅や輪島塗、九谷焼などを抱える全国有数の集積地でありますが、従来の枠にとらわれない新商品の開発や海外市場開拓などを通じて新規需要の掘り起しに取り組んでおられ、しなやかに環境変化に対応されています。2014年度末までに予定されている北陸新幹線の金沢延伸を見据えた取組みも、観光とビジネスの両面で当地の成長を牽引していくものと期待しています。今後も、勤勉で優秀な人的資源や可能性豊かな産業基盤、観光資源を十二分に活かしながら、石川県経済がますます順調に発展を遂げられることを祈念いたします。

ご清聴ありがとうございました。

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