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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2013年10月18日

目次

はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠に有難うございます。

信用組合業界の皆様におかれましては、日頃より、地域・業域・職域における中小零細事業者や生活者に対する金融サービスの提供を通じ、わが国経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対して、日本銀行を代表し、心より敬意を表したいと思います。

さて、本日は、日本銀行の金融政策運営および最近の金融経済情勢と、金融システムを巡る話題について、お話しさせて頂きます。

日本銀行の金融政策運営と最近の金融経済情勢

日本銀行は、本年4月、15年近く続いたデフレからの脱却を目指し、「量的・質的金融緩和」を導入しました。それから約半年間、日本銀行はこの政策を着実に進めてまいりました。具体的には、「消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」という明確なコミットメントのもとで、長期国債やETFの買入れを行い、マネタリーベースを増加させてきました。マネタリーベースは、昨年末の138兆円から9月末には186兆円まで拡大しています。また、長期国債の保有残高も、同じ期間に、89兆円から126兆円に増加しています。

その政策効果はしっかりと現れてきており、こうしたもとで、金融市場や実体経済・物価には、前向きの動きが拡がっています。

まず、金融市場をみると、株価は年初来で約4割上昇し、為替も円高修正が進みました。長期金利は、先進主要国の長期金利が軒並み上昇する中にあっても、巨額の国債買入れによって強力に抑制されています。10年物の国債金利をみると、年初の0.8%程度から、最近では0.6%台まで低下しています。このような中、各種のアンケート調査の結果などをみると、「物価が上昇する」と考える人の割合が増加するなど、予想物価上昇率は、全体として上昇しています。したがって、実質金利は低下しており、民間需要を刺激しています。

こうしたことも受けて、わが国の景気は、家計・企業の両部門で所得から支出へという前向きな循環メカニズムが働くもとで、緩やかに回復しています。個人消費は、雇用・所得環境の改善の動きがみられる中、底堅く推移しています。また、設備投資も、企業収益が改善する中で、これまで弱めに推移していた製造業も含めて、持ち直しています。今月初めに公表した短観をみますと、企業の業況感は、製造業・非製造業、大企業・中小企業ともに、明確に改善を続けています。2013年度の事業計画についても、売上高と経常利益が上方修正される中で、設備投資をしっかりと増加させる計画となっており、収益の改善が前向きな支出活動につながっている姿が確認されました。

物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が、6月に1年2か月振りのプラスに転じたあと、8月は0.8%までプラス幅を拡大しています。石油製品などのエネルギー関連の押し上げだけでなく、個人消費が底堅く推移するもとで、幅広い品目に改善の動きがみられるようになっています。

先行きについても、わが国の景気は、緩やかな回復を続けていくとみられます。こうしたもと、消費者物価の前年比は、プラス幅を次第に拡大していくとみられます。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する考えです。

金融システムを巡る話題

次に、金融システムを巡る話題についてお話しします。

最近の金融機関の貸出動向をみますと、信用組合も含めて、このところ伸びを高めており、足もとでは前年比2%程度の増加率となっています。もっとも、こうした動きは大企業向けを中心としたものですし、業種の面からみても、牽引役に拡がりがみられていないことも否めません。

このような背景には、15年にわたるデフレのもとで、企業や家計が、リスク回避的な行動を強めてきた点があると思います。特に、企業部門は長らくキャッシュフローを下回る投資しか行っておらず、景気の持ち直しが資金需要に繋がりにくい状況が続いてきました。人口減少が続く地方経済では、その傾向が強かったと考えられます。しかし、経済が活力を取り戻していく過程で、金融機関が取引先の前向きの行動に働きかけていく役割はやはり大きいと考えています。日頃から業況を把握し、対話を重ねておられる金融機関は、最も身近な存在として、取引先の努力を引き出し、支援できる立場にあるように思います。

この点、信用組合の皆様は、相互扶助、地域密着といった特性を活かしながら、円滑な資金供給に加え、顧客ニーズに応じた情報提供、経営指導・相談業務などに注力し、金融面から地方経済を支える努力をされてきています。例えば、電子記録債権に関しては、本年2月に「でんさいネット」が稼働を開始したところですが、その利用拡大の動きが注目されます。信用組合業界では、この面での専門知識の蓄積・共有を図るとともに、取引先を対象にした説明会を開催するなど、「でんさいネット」の一段の普及促進に積極的に取り組んでおられます。また、全国の取引先をインターネットでつなぎ、ビジネスマッチングを可能とする「しんくみネット」の機能拡充や利用促進を通じ、引き続き取引先に対する営業・経営支援にも注力されていると伺っています。このような企業間のビジネス・コミュニティの構築は、地域産業の活性化を後押しするうえで大変重要であると思います。

こうした取組みの中には、実を結ぶまでに根気と時間を要するものも多いと思います。しかし、実体経済に前向きの動きが拡がるもとで、信用組合の皆様が工夫を凝らし、取引先の経営改善や創業・起業支援などに粘り強く取り組んでおられることは、私どもとしても大変心強く思います。取引先の活力向上は、長い目でみれば、信用組合の収益力向上・経営基盤強化にもつながっていく筈です。このような動きが拡がりをみせ、信用仲介活動の活性化に弾みがついていくことを期待しています。

おわりに

最後になりますが、今後とも、信用組合業界が取引先の幅広い金融ニーズに適切に応え、地域経済の活性化に貢献されることを祈念いたしまして、私からの挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。