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【講演】急速に変化する世界経済環境のもとでの中央銀行の直面するチャレンジ

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シンガポール通貨庁における講演(1月7日)及びユーラシア・ビジネス経済学会における基調講演(1月9日)の邦訳

日本銀行政策委員会審議委員 白井 さゆり
2014年1月9日

目次

1.はじめに

本日は、シンガポールにおいて皆様にお目にかかり、お話しする機会を賜りまして、光栄に存じます。私は、2011年4月から日本銀行の審議委員として金融政策運営の決定に携わっております。その経験を踏まえ、本日は急速に変化する世界経済環境における金融政策と中央銀行が直面するチャレンジについて私の見解をお話しします。

まず、世界金融危機前後の世界経済の調整プロセスについてご説明いたします。そのうえで、先進国・地域(米国、ユーロ圏、日本、英国)の金融政策の枠組みについて共通する特徴やこれらの中央銀行が直面する課題についてお話しを進めていきます。その後、話題を(途上国を含む)新興諸国、とくにアジア地域に移しまして、世界金融市場との連関性が高まるなかで、これらの地域の中央銀行が直面する課題についてご紹介いたします。最後に、各中央銀行が採用する金融政策の相互に及ぼす影響や対処方法に関する議論や実践について触れたいと思います。

2.世界経済の調整プロセス:3つの段階

2008年のリーマンブラザーズ破綻とそれに続く世界金融危機の発生以降、すでに5年以上が経過していますが、世界経済の需給ギャップは依然としてマイナスの領域(需要不足の状態)にあります。一般的に、先進諸国は世界金融危機から比較的大きなマイナスの影響を受けた一方で、新興諸国は比較的順調に同危機を乗り切ってきたと見なされています。この間、世界経済は回復に向けた調整の道のりを辿っていますが、この過程を3つの段階に分けて考えることができると思います。

経済調整プロセスの第1の段階:2007−09年

まず初めに、米国経済が明確に減速し始めた2007年から世界金融危機直後の2009年までの時期に注目してみましょう。この期間においては、世界経済はかなり似通った動きを示していたことが分かります。それは、実質GDP成長率の各国間の相関が、全世界のサンプルをとった場合も、先進諸国と新興諸国の間においても、かなり高まっていたことから明らかです(図表1)。こうした相関の高まりは、世界最大の経済大国である米国で金融危機が発生したこと、そしてそれが金融チャネルを通じて世界最大の経済地域であるユーロ圏に波及したことで、世界的な景気後退が生じたことを反映しています。また、そうした成長率の相関の高まりは、世界各国がほぼ同時期に金融緩和と財政拡大を実施したことで相乗効果が働いたことで、2009年末までには世界経済は深刻な景気後退の底を脱したことを反映しています。

経済調整プロセスの第2の段階:2010−12年

その後、世界経済は第2の段階に移行し、先進諸国と新興諸国の間において成長パターンに乖離が見られるようになりました。これは、この期間にこれら2つの地域の間で実質GDP成長率の相関が大きく低下したことからも明らかです(前掲図表1)。先進諸国では景気回復力に弱さが残り、ユーロ圏の周縁諸国では2010年から債務危機が発生し厳しい緊縮財政と景気後退に直面するようになりました(図表2)。とはいえ、この間、前例のない金融緩和を続け、大幅なマイナスの需給ギャップに対して懸命に対処してきたことが、先進国全体としては二番底を回避することに寄与したと言えます。その一方で、新興諸国では比較的高めの成長が見られ、とくにアジア地域では成長のモメンタムが高まり、世界経済の牽引役を果たすようになりました。この時期の新興諸国の良好な経済成長は、主に貿易・直接投資(FDI)チャネルを通じて先進諸国に対して外需の拡大をもたらし、先進諸国の多国籍企業の活動を支えました。

新興諸国の力強い経済成長のダイナミックスは、1997−98年のアジア通貨危機以降に、経済のファンダメンタルズが着実に改善してきたことも一因となっています。良好な経済のファンダメンタルズは、相対的に財政・政府債務状況が良好なこと、対外債務問題が改善したこと、外貨準備の蓄積が進んだこと、金融セクターの健全性が高まったこと等から確認できます。さらに、こうした地域では中間所得層が育ってきていることから財・サービスに対する内需が拡大し、先進諸国の低迷による外需の弱さを相殺する方向に寄与しました。そのうえ、中国では、2009−10年に実施された大規模な財政拡大と金融緩和もあって強い経済成長を実現しており、アジア域内の生産・貿易ネットワークの拡大やFDI活動の活発化を通じて他の新興諸国の経済の追い風となりました。堅調な内需と域内の経済活動の拡大によってアジアの新興諸国の多くはトレンドを上回る成長を実現しただけでなく、一部の諸国では景気の過熱感やインフレ圧力が高まり、世界のコモディティ価格の上昇をもたらしました。

経済調整プロセスの第3の段階:2013年から現在まで

2013年以降、世界経済調整プロセスは大きく変貌を遂げ、第3の段階に移行したと考えています。すなわち、新興諸国では成長のモメンタムが幾分失われるなかで、先進諸国が成長率を高めています(前掲図表2を参照)。国際機関等の見通しでは、今後数年間は、こうした成長パターンが継続し、先進諸国の経済成長の上昇ペース(上昇幅)は新興諸国の上昇ペースを上回ると見込まれています。とはいえ、先進諸国の景気回復パターンは決して強固で安定したものではありません。それは、当面の間、先進諸国全体としてマイナスの需給ギャップが続くことが予想されていることからも、裏付けられます1。さらに、今後は、先進国経済の改善が進むにつれ、その改善ペースの違いが明確になり、それと相まって各中央銀行の金融政策スタンスの違いも徐々に顕在化していくと考えられます。その際、金融緩和政策の行方やフォーワードガイダンスの解釈を巡って市場参加者の間で見方の違いや変更が頻繁に生じる可能性があるとみています。その結果、そうした投資家の行動によって国際金融資本市場や世界経済がどのような影響を受けるのかに注意していく必要があると考えています。

一方、新興諸国の動向をみると、多くの国で、最近の経済成長は幾分減速しています。この理由として、財政拡大や金融緩和による景気対策が一服したこと、幾つかの諸国では構造問題が顕在化していること(たとえば、財政赤字と経常赤字の拡大、民間債務の拡大、不動産バブルの兆し)等を指摘できます(前掲図表2)。過去10年ほどの間に、アジア地域は世界からの資本調達において、従来のFDIチャネルに加えて、ポートフォリオ投資チャネルを通じて世界金融市場との連関性を強めています。これは、後でご説明いたしますが、外資系金融機関からの融資が中心であった1990年代とは異なる、新しい課題を新興諸国にもたらしています。

  1. 1 IMFのWorld Economic Outlook(2013年10月)によると、実質GDP成長率については、先進国は2013年1.2%、2014年2%、2015年2.5%、新興国・途上国は各4.5%、5.1%、5.3%と予測され、需給ギャップについては、先進国は、2013年はマイナス2.9%、2014年はマイナス2.5%と推計されています。なお、OECDのEconomic Outlook(2013年11月)によると、OECD加盟国の需給ギャップは、2013年はマイナス2.6%、2014年はマイナス2.3%、2015年はマイナス1.8%と推計されています。

3.先進諸国・地域における中央銀行が直面するチャレンジ

つぎに、先進諸国・地域の主要な中央銀行が採用する金融政策の枠組み等について共通する特徴とこれらの中央銀行が直面するチャレンジについてお話しいたします。

(1)主要中央銀行の金融政策運営等に関する共通する特徴

世界金融危機以降、主要な先進諸国の中央銀行は積極的に金融緩和政策を実施しています。この間の、金融政策運営や中央銀行に期待される役割には一定程度の収斂ないしは共通する特徴が見られることを指摘いたします。それらは、(1)「2%あるいは2%近くの数値」を物価安定の定義や目標として採用、(2)物価安定を達成するために「中長期の予想インフレ率」をアンカー(安定化)させることの重要性の高まり、(3)「非伝統的な金融緩和政策手段」として大規模な金融資産の買入れの実施、(4)もうひとつの非伝統的な金融政策手段としてのフォーワードガイダンスの採用、そして (5)中央銀行のマクロプルーデンス政策面での役割強化、の5点です。以下、それぞれご説明いたします。

第一の特徴:物価安定目標としての2%の採用

まず、第一に、先進諸国・地域の主要な中央銀行は、金融政策運営に関する透明性を高める対応策の一環として、中長期の物価安定目標として2%ないしは2%近くの数値を採用するようになっています。欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行はこの点で先駆者であり、世界金融危機の発生以前からこの数値目標を掲げています。一方、連邦準備制度理事会(FRB)と日本銀行は、世界金融危機後に採用しています。

  • FRBは2012年1月に、個人消費支出(PCE)デフレーターをもとに、長期インフレゴールとして2%掲げています。
  • ECBは、2003年5月に物価安定を「中期的には、2%未満であるがその近辺("below, but close to, 2% over the medium term")」と定義しています。指標は欧州連合(EU)基準の消費者物価指数(HICP)を使っています。
  • 日本銀行は、2013年1月に物価安定目標として消費者物価(CPI)ベースで2%を採用しています。また、金融緩和を推進し同目標をできるだけ早期に実現することを目指すとしています。
  • 英国では、財務大臣が2003年12月に、参照する物価指標を小売物価指数からCPIに変更した際に、2%目標を採用しています。2%目標達成に関する実際の金融政策運営はイングランド銀行が実施しています。

ここで日本銀行の政策決定に携わる一人として、2%目標の採用が日本の金融政策史上において大きな転換を意味することを強調しておきたいと思います。それは、15年間にわたって続いた緩やかなデフレを克服すべく中央銀行としての明確な決意を象徴しています。このデフレの期間において、日本経済は、成長期待が乏しく、家計・企業・金融機関においてデフレ・マインドが蔓延していましたので、そうした状況から脱すべく、現在、2%の実現に最大限努めています。この点については後述いたします。

世界的な視点で見ますと、世界の主要中央銀行の物価安定目標が概ね2%の数値に収斂したということは、「国際金融アーキテクチャー」の観点から見ても目覚ましい進展を示唆しています。なぜなら、世界の4大主要通貨——ドル、ユーロ、円、ポンド——は、ジャン=クロード・トリシェ前ECB総裁の言葉を引用すれば、「今や、ブレトンウッズ体制の崩壊以降、初めての世界的なノミナルアンカー(名目アンカー)を確立することになった」と言えるからです2。現時点では、いずれの諸国・地域も世界金融危機からの景気回復過程にあることも影響して、実際のインフレ率は2%から乖離しています。しかし、これらの経済がやがて正常化していけば、各中央銀行は最終的に2%程度の物価安定を達成することが期待されています。

こうした2%前後の緩やかなインフレ水準で主要国・地域の経済が推移する状況に達すれば、長期的に見れば、主要通貨の間で為替相場はより安定して推移する可能性があると考えられます。これにより、より安定的な国際金融アーキテクチャーの形成を側面から支えることになります。世界レベルでノミナルアンカーを構築することは、日本にとっても重要なインプリケーションがあると思います。なぜなら、日本では1970年代以降の長期的な円高趨勢は、日本のインフレ率が他の先進諸国・地域と比べて相対的に低い状態が一貫して続いてきたことに関連があると思われるからです。

さて、皆様は、ここで主要中央銀行が何故2%の数値を選択しているのか疑問をもたれるかもしれません。それは、中央銀行の間では、デフレの方が緩やかなインフレよりも経済にとって弊害が多いことから、デフレに陥らないようにある程度の「インフレのバッファー」があることが望ましいとの共通の認識があるからです。さらに、短期の金利がゼロとなってそれ以下に下げられない状態を示す「ゼロ金利制約」を回避する必要があるからです。とくに、景気後退局面において柔軟な金融政策の発動の余地を十分維持しておくためにも、平常時においてある程度のインフレを実現しておく必要があると考えられています。

  1. 2 Jean-Claude Trichet, "2013 Per Jacobsson Lecture: Central Banking In the Crisis - Conceptual Convergence and Open Questions on Unconventional Monetary Policy," Lecture at an event for the IMF/World Bank Annual Meetings in Washington, D.C., The Per Jacobsson Foundation, 2013を参照。

第二の特徴:中長期の予想インフレ率を2%程度に安定化へ

第二に、先進諸国・地域の中央銀行は、「長期的な物価安定」を実現するためには「中長期の予想インフレ率が安定」していることが不可欠との認識に立って、同予想インフレ率の動向を注視するようになっています。FRB、ECB、およびイングランド銀行では、中長期の予想インフレ率はこれまでのところ2%前後でアンカーされていると判断してきました。現在でも、その状態が維持されているとの立場に立っています。もちろん、これらの中央銀行でもインフレ期待が不安定化する懸念は皆無ではありません。従いまして、これらの中央銀行の主要な金融政策運営上の関心は、インフレ期待をアンカーし続けることに十分注意を払いながら、金融緩和を継続して景気の改善を図ることにあります。なお、「予想インフレ率を2%にアンカーしている」ということは、たとえ日々のインフレ率が景気変動及びコモディティ価格や食料価格の変動といった要因によって2%を超えたり下回ったりすることがあったとしても、長い目で見れば、2%に収斂していく傾向があることを指しています。これが、「2%で物価安定している状態」と言えます。

それに対して、日本銀行ではまだ中長期の予想インフレ率を2%にアンカーさせる状態に達していません。つまり、日本銀行にとって、2%の物価安定目標の達成は、景気回復を図りながら予想インフレ率を現在より高い水準でアンカーさせることを目指すことであり、他の中央銀行に比べてチャレンジングな内容と言えます。この目的を実現するには、まずはあらゆる経済主体によるデフレ・マインドや経済行動が克服されることを促し、その上でインフレ期待を安定的に高めていく手順を踏む必要があるのです。

第三の特徴:非伝統的な金融緩和政策手段としての大規模な資産買入れ

第三に、FRB、日本銀行、および イングランド銀行は、資産買入れオペを通じて非伝統的な金融政策を実施しています。この手法は、主として超短期の名目金利(すなわち政策金利)の引き下げによって金融緩和を実施してきたこれまでの手法とは大きく異なっています。これらの中央銀行とECBは、2008年のリーマンブラザーズ破綻以降に政策金利がほぼゼロまで低下する状態に達しています3。そこで、FRB、日本銀行、およびイングランド銀行は、政策金利がほぼゼロにまで引き下げられた後でも、より長期の金利はプラスの領域で推移していることから長期金利に対して低下圧力を加えることで、金融緩和環境をつくることに努めています(この点は後述)。たとえば、国債利回りは企業借り入れ、社債、住宅ローン等に関連する長めの金利の決定においてベンチマークとして機能していることから、国債利回りへ低下圧力を高めることで企業や家計の資金調達コストを抑制し、それによりこれらの経済主体の経済活動を下支えできると考えられます。

  • FRBは、2013年12月までは月450億ドルのペースで長期国債を、月400億ドルのペースでエージェンシー住宅ローン担保証券(MBS)を買入れてきましたが、2014年1月からは、長期国債は月400億ドル、エージェンシーMBSは月350億ドルへと、買入れペースを減速することになっています。また、保有する国債の元本償還分は国債に再投資し、保有するエージェンシー債およびエージェンシーMBSの元本償還分はエージェンシーMBSに再投資しています。
  • 日本銀行は、長期国債の保有残高が2013年と2014年の2年間で2倍に拡大するように年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行っています。この他、国庫短期証券、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)等も買入れています。なお、資産買入れ継続期間については、後にフォーワードガイダンスの所で説明しますように、2年間に限定されるものではないことを付け加えておきます。
  • イングランド銀行は、現在は、過去に買入れた3,750億ポンドの資産保有残高を維持しています。

FRBは、2012年12月に公表された公表文において、資産買入れを継続する経済状況の条件として、「物価安定が維持される状況のもとで、労働市場の見通しが大幅に改善するまでは」という表現を用いています。さらに、2013年6月にはバーナンキ議長は記者会見において資産買入額の減額決定に関連する基準としてより包括的なガイダンスを示しています。その基準とは、(a)労働市場の改善の継続、(b)経済成長の緩やかな持ち直し、(c)インフレが時間の経過とともに2%に向けて収斂していくとの見通し、の3点を挙げています。そのうえで、今後発表される経済指標がこの見通しと整合的ならば、資産買入れは2013年の後半に減額するのが適切であり、買入れは2014年半ば辺りに終了するであろうとの見通しが示されました。その後、2013年12月には、完全雇用と労働市場の見通しの改善に向けた累積的な進展に鑑みて、2014年から買入れ額を緩やかに減額させることが決定されました。同時に、先行き得られる情報が、全体として、労働市場が継続的に改善し、インフレ率の長期的な目標(2%)へ回復するという見通しをサポートするものであれば、先行きの各会合で資産買入れ額を更に減額(一般的には100億ドルずつ)させていくとの見通しが示されました。

ECBについては、他の3つの中央銀行と異なり、主な非伝統的な金融政策手段として「固定金利の全額供給方式による流動性供給」を用いています。そのうえで、従来よりも流動性供給のオペ期間を長期化し、受け入れ担保範囲も拡大しています。長期リファイナンスオペ(LTRO)については3か月物に加え、2011年と2012年に3年物を2回実施しています。2012年9月には予め国債(残存期間1-3年)の買入れ上限額を定めない「新たな国債買入れプログラム(OMT)」を導入しています。ただし、OMTの発動には包括的なマクロ経済プログラムや予防的プログラムに付随する厳格な財政再建・経済改革の実施が必要条件とされています。また、国債買入れで市場に供給された流動性は完全に不胎化されるため、他の中央銀行のような量的金融緩和政策ではありません4。3年物のLTROについては期限前返済が2013年から開始しています。

  1. 3 FRBは2008年12月からフェデラルファンド金利の誘導目標を0−0.25%に引き下げてからは同水準を維持しています。ECBは2011年11月に主要リファイナンスオペ金利(1.5%から1.25%へ)の引き下げを再開し、段階的な引き下げを行っています。直近では2013年11月に同金利を0.5%から0.25%に引き下げています。イングランド銀行は2009年3月からバンクレートを0.5%に引き下げてからは同水準を維持しています。一方、日本銀行は2010年10月から無担保コールレートのオーバナイト物金利を「0.1%前後」から「0−0.1%程度」に引き下げて同水準を維持しましたが、2013年4月に金融市場調節方針の誘導目標をマネタリーベースに変更しています。
  2. 4 ECBは、2010−11年に「証券市場プログラム(SMP)」の下で長期国債を限定的に買入れましたが、同額の流動性を不胎化しています。SMPは、金融政策のトランスミッション・メカニズムを改善するために信用緩和政策として実施されています。2009−10年と2011−12年には金融機関の資金調達環境を改善するためにカバードボンドの限定的な買入れを実施しましたが、量的緩和政策ではなく、信用緩和政策とみなされています。

第四の特徴:非伝統的な金融政策手段としてのフォーワードガイダンス

第四に、4つの中央銀行はいずれも将来の金融政策スタンスについて市場や国民に情報を提供するためのコミュニケーション手段として、フォーワードガイダンスを導入しています。一般的に、中央銀行は2つの目的でフォーワードガイダンスを採用すると考えられます。ひとつは、市場や国民に金融政策の「通常の政策反応関数」(たとえばテイラールール)についての明確な情報を伝えるためのコミュニケーション手段として用いる場合です。もうひとつは、ゼロ金利制約下の中央銀行が、通常(の政策反応関数をもとに)市場や国民が想定する水準よりも、「緩和的な」金融緩和スタンスを維持していることを市場や国民に伝えるためのコミュニケーション政策として用いる場合です。

  • FRBは2012年12月に、(0−0.25%の)例外的に低いフェデラルファンド金利の誘導目標は、「(1)少なくとも失業率が6.5%を上回る状態にあり、(2)1年から2年先の間のインフレ率が(連邦公開市場)委員会の長期目標である2%を0.5%を超えて上回らないと見込まれ、(3)長期的なインフレ期待が引き続き十分にアンカーされている限り、適切である」と明記しています。また2013年12月にはこのガイダンスを強化し、失業率が6.5%を下回るようになっても、インフレ率が2%を下回り続けることが予想される場合には、同誘導目標を十分長い間維持することが適切となる可能性が高い、との文言を追加しています。
  • ECBは、2013年7月に記者会見用の公表文において、「長期にわたり、ECBの主要政策金利を現状あるいはそれより低い水準に留めることを予想している。この予想は、広範な実体経済の弱さや金融動向の低調さを前提に、全体として抑制されたインフレ見通しが中期的に継続することに基づいている」と明記しています。
  • 日本銀行は2013年4月に「量的・質的金融緩和」の導入に伴い、金融緩和の時間軸に関する二つの表現を含む公表文を公表しています。第一の表現は、「2%の物価安定の目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」という内容です。そしてこの目的を実現するために、金融市場調節の操作目標を無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、マネタリーベースを2013年と2014年の2年間に2倍に拡大するように年間約60〜70兆円に相当するペースで増加させることにしました。第二の表現は、「量的・質的緩和は、2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」という内容です5
  • イングランド銀行は、2013年8月に将来の金融政策運営に関する包括的なフォーワードガイダンスを発表しています。公表文では、「失業率が閾値である7%に低下するまで、特定の制約条件が成立しない限り6、現在0.5%である政策金利の引き上げは行わない。また、失業率が7%を上回り続ける状況において、追加的な金融緩和が必要と判断した場合、資産買入れの増額を行う用意がある。また、買入れた資産の残高については、7%の閾値に到達し、かつ以下の制約条件が成立しない限りは、維持される」と明記されています。

ここで、各中央銀行の採用するフォーワードガイダンスについて主に3つの違いを指摘しておきたいと思います。最初の相違点は、FRB、ECB、日本銀行は長期金利に対して下押し圧力を高めるための金融緩和政策手段として意識的にフォーワードガイダンスを採用しているのに対して、イングランド銀行は必ずしも金融緩和を目的としていない点です。イングランド銀行の目的は、現在の政策反応関数、すなわち「既存のインフレと失業率のトレードオフ」とそれに関連する金融政策スタンスについての同銀行の見解を明確に示すために採用していると考えられます。実際、イングランド銀行副総裁のチャーリー・ビーン氏は、2013年8月の講演の中で、このガイダンスの目的は、追加的な金融緩和効果を狙ったものではなく、むしろ現状のMPCの金融政策スタンスを明らかにすることにあったと説明しています7。つまり、政策スタンスに関する不透明性を減らすことで、タームプレミアムの低下と市場金利上昇の防止を狙ったものと言えます。

2つ目の相違点は、FRBとECBではフォーワードガイダンスが政策金利に適用されているのに対して、 イングランド銀行のフォーワードガイダンスは主に政策金利に適用されているものの、更なる資産買入れの可能性や過去に買入れた資産の保有残高維持に対しても関連付けられている点です。これら3つの中央銀行では、最近では、金融政策手段としてフォーワードガイダンスに重点を置くようになっています。一方、日本銀行のフォーワードガイダンスは「量的・質的金融緩和」全体に適用されており、これらの中央銀行のような政策金利に適用されていないという違いがあります。量的・質的金融緩和全体とは、金融市場調節方針の目標をマネタリーベースに設定したうえで、その目標内で長期国債を中心に様々な資産の買入れオペを実施する枠組みを指しています。

最後の相違点は、FRB、日本銀行、およびイングランド銀行のフォーワードガイダンスは「経済状況ベース」(state-contingent)あるいは「閾値ベース」(threshold-based)という点では共通していますが、FRBとイングランド銀行はフォーワードガイダンスの中に雇用関係の閾値も含めている点が、日本銀行とは異なっています。FRBの場合には、法令上、物価安定と最大雇用の実現という2つが責務とされているため、その理由は明白です。他方、イングランド銀行の場合は、物価安定が第一義的目的です。しかし、英国では、高いインフレ率と高い失業率が並存しており、金融政策上のトレードオフが生じています。そのため、そうしたトレードオフについての中央銀行の見解を明確化する必要があって、ガイダンスでは閾値として失業率を含めていると考えられます。

他方、日本銀行の主たる目的は日本銀行法の中で物価安定の実現と明記されているほか、現在、失業率自体はさほど大きな問題となっておりません。既に2013年11月には4%まで低下しており、世界金融危機前に記録した近年最低水準である2007年7月時点の3.6%にかなり近づいています。従いまして、日本ではガイダンスで用いる閾値として雇用関連の情報を示す必要性は相対的に低いと考えられます。一般的に、日本では名目賃金の下方硬直性は米欧と比べて小さく、それが相対的に低い失業率の一因だと考えられています。景気循環の局面で、企業は正規社員については特別給与や超過労働時間の調整によって、非正規社員については労働時間や勤務日数で調整する傾向があるからです。とはいえ、正規社員と非正規社員の間での賃金・その他処遇の格差問題やより柔軟な労働規制を求める企業の要望が聞かれるのも事実です。しかし、これらはどちらかと言えば構造的な性質を持ち、金融政策で対処できる領域を超えているように思います。

ECBについては、他の3つの中央銀行と異なり、特定の閾値が採用されていません。フォーワードガイダンスは、主に中期インフレ見通し(その他の指標として、経済、マネーストック、信用動向にも注目していますが)に基づいているようです。2013年8月の記者会見で、ECB総裁のマリオ・ドラギ氏は、「ECBの政策反応関数はタイムリーに中期物価安定の見通しに関連付けている」と説明しています。

  1. 5 2つの表現は相互に矛盾するものではありません。第一の表現(「経済状況ベース」と「日付ベース」のガイダンス)は、第二の表現(「経済状況ベース」、「条件付きコミットメント」)で示されたガイダンスを達成するための「必要条件」と位置付けられます。さらに、第二のガイダンスは、2%目標を安定的に実現するまで量的・質的金融緩和を継続するとのコミットメントを示したものです。二つの表現が示す時間軸は重複するものの、第二の表現の方が幾分より長期的な時間軸を内包しています。詳細は、白井さゆり「我が国の金融政策とフォーワードガイダンス−金融政策運営についてのコミュニケーション政策−」、国際通貨基金(IMF)及び米国連邦準備制度理事会(FRB)における講演(各9月19日、20日、於ワシントンDC)の邦訳、を参照。
  2. 6 制約条件としては次の3点を挙げ、一つでも成立すれば前述のガイダンスの適用を停止するとしています。それらは、(1)インフレ見通し(18〜24か月先)が2.5%を上回ること、(2)中期的なインフレ期待が十分にアンカーされていないこと、(3)現存の金融政策スタンスが金融システム安定に重大な脅威を与えているとの判断の下、金融システム政策委員会(FPC)が政策対応を講じても、その脅威を解消できないとFPCが判断するケースです。
  3. 7 Charlie. Bean "Global Aspects of Unconventional Monetary Policies," Speech at the Federal Reserve Bank of Kansas City Economic Policy Symposium, Jackson Hole, Wyoming, August 24, 2013.

第五の特徴:中央銀行のマクロプルーデンス政策面での役割強化

第五に、世界金融危機の発生をきっかけにして、世界ではマクロプルーデンス政策を重視するようになっています。これは、金融安定を達成する目的で既存の(各金融機関の健全性を達成することを目的とする)「ミクロプルーデンス政策」だけでは金融システム全体としての安定を必ずしも実現できる訳ではないと考えられるからです。この背景には、2000年代半ばまで続いた「大いなる安定」(Great Moderation)の時期において、一般物価の安定性は十分維持された反面、世界金融危機を防げなかったことへの反省が各国に浸透していることが挙げられます。マクロプルーデンス政策では、金融システムを構成する金融機関や金融市場等と、それらの相互連関、実体経済と金融システムの連関がもたらす影響が重視されます。この点、中央銀行はマクロ経済や金融市場の動向、金融取引の把握に努めているほか、金融システムの安定確保のために個別金融機関等に対する最後の貸し手機能を有しており、こうした特性・機能を活用することがマクロプルーデンス政策面で有効であると考えられます。このため、いくつかの先進諸国・地域の中央銀行では、マクロプルーデンス面での中央銀行の役割強化が図られています。

例えば、イングランド銀行では金融機関の監督機能が「金融サービス機構」(FSA)から移管される形で2013年に「プルーデンシャル規制機構」(PRA)を設立しています。さらに、同年にマクロプルーデンス政策を担当する委員会として「金融システム政策委員会」(FPC)を正式に発足させています。FPCはバーゼルIIIの合意を反映して「カウンターシクリカル資本バッファー」を導入するほか、「セクター別の資本バッファー」も主要な政策手段として活用すると見込まれています。さらに、金融政策を担当する「金融政策委員会」(MPC)との協調促進を図ろうとしており、現在は、具体的な手法を模索しているようです。欧州連合(EU)レベルでは、2010年にECB総裁・副総裁、EU加盟国の中央銀行総裁等を含む「欧州システミックリスク理事会」(ESRB)を設立し、域内のマクロプルーデンス政策を担当しています。金融システムに関連するシステミックリスクの発生の警告、様々なリスクの特定化、必要に応じて是正勧告の実施を行っています。

米国では、金融セクターの監視が連邦・州レベルで分かれていたため金融危機をもたらすようなシステミックリスクへの監視が不十分であったとの反省から、2010年にマクロプルーデンス政策を担当する「金融安定監督委員会」(FSOC)を設立しています。同組織は財務長官を議長とし、FRB議長や関連規制当局の代表等が参加しています。米国の金融システム安定に対するリスクの特定や市場の監視を行い、プルーデンス規制・監督に関するFRBへの勧告や国内外の金融規制動向等に関する連邦議会への助言・提案等の権限が付与されています。この間、日本では、金融行政を担当する金融庁と中央銀行である日本銀行が、それぞれの機能を活かすかたちで協力しながら、金融システムの安定を図る体制が採られています。日本銀行は、金融機関に対する考査やオフサイトモニタリングを行いつつ、マクロプルーデンスの視点から金融システムの安定性やリスクに関する様々な分析を行うといった活動を行っています。

(2)先進諸国・地域の中央銀行が直面する主な課題

非伝統的な金融政策の効果については、相互に影響し合うため完全に区別するのは難しい面がありますが、主として、(a)長期金利に対する下押し圧力を通じた効果、(b)ポートフォリオ・リバランス効果、(c)資産効果、(d)外国為替への影響、(e)信用緩和の効果等が考えられています。実質長期金利の下押し圧力は、タームプレミアムを通じた名目金利への下押し圧力と中長期の予想インフレ率を高めることによる実質金利の下押し圧力が考えられます。日米欧の中央銀行ではタームプレミアムの押し下げ圧力をある程度想定していますが、それに加えて、日本銀行では予想インフレ率の上昇による実質金利の下押し圧力が生じることも想定しています。

中央銀行の課題(1):緩やかな、ないしは低迷する貸出の伸び率

実際、先進諸国・地域ではこれらのチャネルを通じた効果が幅広く見られており、それによって経済成長や雇用等の実体経済へもプラスの効果が確認されています。しかしながら、これらの中央銀行が直面する課題のひとつは、大規模な流動性を供給しているにもかかわらず、民間セクターへの貸出の伸び率が、米国や日本では、緩やかなペースに留まっていることにあります(図表3、4)。ユーロ圏や英国では、貸出の伸び率は足元では底を脱しているように見えますが、まだマイナスの領域で推移しています。なお、ユーロ圏のマネタリーベースの縮小は3年物のLTROの期限前返済が主因となっています。

貸出をタイプ別に分けて見てみますと、住宅ローンは、ユーロ圏、日本、英国で伸びています。米国では家計のデレバレッジや非プライム対象の借り手に対する金融機関の貸出姿勢が厳しいこともあって、住宅ローンの増加トレンドは足元では明確には確認できません(前掲図表4)。英国およびユーロ圏コア国では、住宅ローンの増加は、低金利と幾つかの都市での住宅価格の上昇を反映しているようです。日本では、住宅ローンの増加は、2014年4月の消費税率引き上げによる住宅投資の前倒し効果、雇用・所得環境の改善、資産効果、首都圏での不動産価格の上昇期待等を反映しています。

対照的に、企業向けのローンについては米国と日本では緩慢ながらも上昇していますが、ユーロ圏と英国では減少が続いています。これら諸国・地域に共通する特徴として、企業収益の改善による内部留保の蓄積、大企業による社債発行の増加に加えて、経済の先行きに対する不確実性による慎重なスタンスが影響しているように思われます(図表5)。また、米国やユーロ圏では企業の設備投資への資金需要は弱いように見えます。

中央銀行の課題(2):大規模な金融緩和と金融市場間の連関性の拡大

中央銀行の直面する2つ目の課題は、金融市場間の連関性の高まりに関するものです。例えば、ある海外の国で長期国債の利回りが上昇すると、それにつられてその他の国の国債利回りも上昇することがあります。こうして連動する状況は、その国の経済状態の変化を反映している場合もありますが、世界の投資家による様々な内外の経済情報・ニュースへの反応や投機的取引によってもたらされることもあります。特に、その金利の上昇の影響を受けた国が大規模な金融緩和をしている場合には、その緩和効果がそうした金融市場の連関性の効果によって損なわれる可能性があります。

ECBがフォーワードガイダンスを導入したのも、こうした意図しない上昇圧力を意識して、金融緩和環境を維持するためととらえることができると思います。実際、ECB総裁のマリオ・ドラギ氏は、2013年7月の記者会見で、概ね経済の弱さが継続しているにもかかわらず、金利曲線の様々な期間で見られる金利上昇への懸念を表明しています。そして、フォーワードガイダンスの導入は、ECBによる中期インフレ見通しの評価と政策反応関数を明確に伝えるためだと説明しています。このことは、ガイダンスの採用が、低金利水準の維持が適切であるというECBの金融緩和スタンスを市場参加者に向けて明確に伝えることにあったと言えます。

日本では、長期金利の上昇圧力は今のところ限定的です。これは、日本銀行による大規模な資産買入れがリスクプレミアムの圧縮を通して下押し圧力を高めているからです。図表6では、長期金利の変動要因を(主に海外要因を反映した)「共通の要因」と(主に国内要因を反映していると思われる)「その他の要因」とに分けて分析しています。これによると、最近では「その他の要因」による金利下押し圧力が、「共通要因」による金利上昇圧力を大きく上回っていることを示しています。

中央銀行が直面する課題(3):ディスインフレ或いはデフレの回避

中央銀行が直面する3つ目の課題として、幾つかの先進諸国・地域では、最近では物価の伸び率が総合およびコアともに低下する傾向が見られていることにあります。米国では、個人消費支出デフレーターの前年比伸び率が直近の11月には総合指数で0.9%、コア指数で1.1%となっており、ここ数年ではかなり低い伸び率で推移しています(CPIでは、総合指数は1.2%、コア指数は1.7%)。ユーロ圏でも同じ傾向が見られ、直近の11月にはHICPの総合指数が0.9%(10月は0.7%)、コア指数は1.1%(10月は1.0%)と低水準で推移しています。インフレ率の低下、すなわち「ディスインフレ」傾向は、エネルギー・食料価格の伸び率の低下、マイナスの需給ギャップや賃金の伸び率の低下等を反映しています。

こうしたディスインフレ傾向は、最近まで需給ギャップのマイナス幅が拡大しており、失業率も高止まりしているユーロ圏でやや懸念されています。一方、米国では景気回復が続いていることからディスインフレ懸念はユーロ圏に比べて大きくないように思います。とはいえ、実際のインフレ率が2%を下回る状況が長期化すれば、これらの諸国・地域の中長期の予想インフレ率が下方にシフトする可能性は否定できないと思います。また、米国でのシェールガス開発にともなう天然ガス等の価格低下が長期的に米国のトレンドインフレ率を引き下げる方向に働くかどうかという点については、中・長期的課題として考えていく必要があるかもしれません。

多くの先進諸国・地域は、日本における(1990年代初の不動産価格・株価バブル崩壊後の)1990年代末以降に発生した緩やかな「デフレ」の経験に注目しており、かなりの分析が進められてきています。そこで得られた教訓を生かして、多くの中央銀行は世界金融危機発生後に迅速に対応措置をとっており、デフレの発生を防いできました。現時点では、各国・地域ともにデフレ懸念はないようですが、仮にそうした懸念が生じた場合には、各国の中央銀行は果敢に政策対応をとっていく姿勢を示しています。

中央銀行が直面する課題(4):日本銀行の2%物価安定目標の達成に向けたチャレンジ

米国やユーロ圏でインフレ率が低下する一方で、日本では対照的に緩やかなインフレが生じつつあります。2013年6月から総合指数および「(生鮮食品を除いた)コア指数」の対前年比伸び率は、プラスの領域に移っています。直近の11月データでは総合指数は前年比1.5%、コア指数は同1.2%まで上昇しており、総合指数では米国のPCEおよびユーロ圏のHICPの伸び率を上回っています(図表7)。他方、食料品とエネルギーを除いた「欧米型のコア指数」をみますと、2013年9月に0%まで改善し、10月には0.3%、11月に0.6%とプラスの領域で伸びを高めていますが、米国やユーロ圏のコア指数の伸び率より下回っています。日本のCPIの伸び率の上昇は、広範囲の消費項目での緩やかな上昇を反映していますが、今のところ主因は、エネルギー価格、傷害保険料の引き上げ、円安のラグ効果等のようです。今後のインフレ率の上昇は、需給ギャップの改善や予想インフレ率の上昇が主因となることが期待されています。

さて、日本銀行では2013年1月に「物価安定の目標」を導入し、ターゲット水準をCPIで2%としました。その理由は、(1)再度デフレに陥らないためにある程度の「インフレのバッファー」を残しておく必要性、(2)景気後退局面において「ゼロ金利制約」を回避するために、平常時において柔軟な金融政策の発動余地を維持しておく必要性、(3)CPIの上方バイアス、(4)(既に触れていますが)世界主要諸国・地域の物価安定目標との整合性の確保等を考慮しているからです。また、実質成長率だけではなく、GDPデフレーターを通じても、ある程度の高い名目成長率を実現することは、企業・家計の経済成長期待を高めるためにも不可欠です。

一般的に、インフレーション・ターゲティング採用国では、物価安定目標を達成するための期間として2年程度を想定しています。このため、日本銀行も2%の物価安定目標を2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現すると表明しています。私自身も、経済が持続的に成長し、企業・家計に大きな負担とならない形で2%を2年程度で早く実現できるのであれば、それに越したことはないと思っています。しかし、消費者による実質所得の急速な減少への懸念や企業による自社販売価格の引き上げにおける慎重な行動を考慮しますと、現時点では金融緩和の効果が十分出尽くすにはある程度の時間がかかる可能性があるとみています。このため、2%程度の達成期間については現段階では不確実性が高いと考えています8

重要な点は、日本銀行は一時的に2%を実現すればよいと考えているのではなく、持続的な成長を伴いながら「2%の安定的な実現」を目指して金融緩和を実施しているということです。無理して一時的に2%を達成して、その後持続できなくなるような状況は回避しなくてはなりません。これに関連して、日本銀行の経済・物価の基本シナリオが大きく下振れると判断される場合には、日本銀行の信認を損なわないためにも、躊躇することなく追加緩和をすべきと考えています。その際、家計・企業の負担が過度に重くなるとみられる場合には、2年程度よりもやや緩やかなペースでの2%実現を目指した緩和が望ましいと判断されることもありうるとみています。いずれにしましても、家計・企業の経済行動やその見通しに注目しています。

また、もう一点指摘しておきたいことは、日本銀行が掲げる2%の物価安定目標の重要性について、広く一般国民からの理解が得られなければ、インフレ率を高めようとする日本銀行の量的・質的金融緩和が実を結ぶことは難しいということです。このため、そうした理解促進を図るコミュニケーション政策が重要になります。一般国民の多くは、過去15年間に経験した緩やかなデフレが決して良い経済状況ではなかったことを認識していても、インフレ率を高めることについては、生活費の上昇に直結するので納得しにくいのではないかと思います。とくに本年4月には消費税率の引上げが予定されており、金融緩和による物価上昇効果と合わせて一時的にインフレ率は2%を超える可能性があります。従いまして、「何故2%の達成が重要なのか、2%を安定的に実現した経済とはどのようなものか」等の一般国民の方々が抱くであろう素朴な疑問や懸念に答えるような、分かり易い言葉による説明を通じて、日本銀行の政策への理解と共感を広く浸透させていく努力が重要だと考えています。この点、日本銀行は最近、ホームページのトップページに、「2%の『物価安定の目標』と『量的・質的金融緩和』」という項目を新規開設し、関連情報へのアクセスの向上を図る等、分かりやすさを高める工夫を行っています。しかし、日本銀行の政策に対する更なる理解を深めて頂くためには、コミュニケーション政策面における追加的な工夫の余地があろうかと思いますので、私自身、引き続き一層の改善が進むよう取り組んでいきたいと思っています。

  1. 8 詳細については、白井さゆり「わが国の経済・物価情勢と金融政策:フィリップス曲線の形状について」、徳島県金融経済懇談会における挨拶要旨、2013年11月27日を参照。

4.新興諸国における中央銀行のチャレンジ

それでは、新興諸国、とくにアジア地域に話題を移したいと思います。新興諸国の経済は、冒頭で申し上げましたように、経済調整プロセスの第2段階の2010−12年において比較的順調に推移してきました。また、この時期に、新興諸国には多額の国際資本の流入が見られています。ここではこうした資本移動やそれに関連して同地域の中央銀行が直面する課題についてお話しいたします。

(1)資本流入に関連する3つの課題

新興諸国に向けた資本流入が拡大する理由として、資本受け入れ側の「プル要因」(高い経済成長期待、高い利回り、良好な経済ファンダメンタルズ等)と資本供給側の「プッシュ要因」(金融緩和政策による低い利回り、投資家による高い利回り追求等)を指摘できます。図表8では、資本流入規模が世界金融危機前よりも拡大している国があることを示しています。とくに、インドネシアとタイで大きく、次いでインドで緩やかな上昇が見られていたことが分かります。こうした資本流入はアジア地域を中心に、幾つかの特徴ある状況を示しています。それらは、(a)政策金利の決定における「リーダーに追随する行動」(follow-the-leader behavior)、(b)資本流入とそれがもたらす影響に対処するマクロプルーデンス政策の重視、(c)自国通貨建て債券発行の拡大です。以下、それらの特徴について簡単にご説明いたします。

政策金利の決定における「リーダーに追随する行動」

まず、第一に、大規模な資本流入は様々なプラスの影響を資本受け入れ国にもたらしていますが、同時に、新興諸国の中央銀行は、政策金利の決定においてトレードオフに直面するようになっています。つまり、(金融引き締め、或いは外国為替市場への介入によって拡大する流動性を不胎化する結果としての)短期金利の上昇は、受け入れ国のインフレ圧力を和らげると考えられます。しかし、金利の上昇は、利回りを追求する外国投資家による新たな資本流入を招く可能性もあります。また、輸出企業は自国通貨の増価によって打撃を受けるかもしれません。その一方で、(金融緩和、或いは、不胎化を伴わない外国為替市場への介入の結果としての)短期金利の低下は、自国通貨の増価や為替相場のボラティリティの拡大を抑制することで、輸出企業を下支えすると考えられます。しかし、金利の低下は、受け入れ国のインフレ圧力を高め、金融不均衡(不動産バブルや金融不安定化等)を悪化させる可能性もあります。

こうしたトレードオフを考慮したうえで、幾つかの新興諸国では後者の選択、すなわち短期金利の低下を選択する傾向が見られます。これは、自国通貨の急速な増価(あるいは過大評価)や為替相場のボラティリティに対する懸念を反映していると考えられます。為替相場の変動の拡大は、生産の変動を高め、経済の脆弱性を悪化させかねないからです。その結果、新興諸国の幾つかの中央銀行は、本来であれば想定される金利——たとえばテイラールール等の一定の金融政策ルールで導かれる金利——と比べてより低い金利水準を設定する傾向が見られることになります9。こうした現象は、新興諸国の中央銀行が、先進諸国・地域の主要中央銀行の低い政策金利に合わせて自国の政策金利を決定する傾向があることから、政策金利の設定における「リーダーに追随する行動」として言及されています10。このことは、物価の安定化が、為替安定化を達成しようとするあまり、状況によっては損なわれている可能性があることを示唆しています。

  1. 9 Dong He and Robert N. McCauley, "Transmitting Global Liquidity to East Asia: Policy Rates, Bond Yields, Currencies and Dollar Credit," BIS Working Papers No 431, Bank for International Settlements, 2013; Michael Spencer, "Updating Asian 'Taylor Rules'," Global Economic Perspectives, Deutsche Bank 2013等を参照。
  2. 10 Jaime Caruana, "Ebbing Global Liquidity and Monetary Policy Interactions," Speech at the Central Bank of Chile Fifth Summit Meeting of Central Banks on Inflation Targeting, Bank for International Settlements, 2013を参照。

資本流入とそれがもたらす影響に対処するマクロプルーデンス政策の重視

先進諸国・地域と比べて、幾つかの新興諸国では、世界金融危機が発生する以前から、現在ではマクロプルーデンス政策手段とも呼ばれるようになった政策手法を既に採用してきています。これは、新興諸国では変動の大きい資本流入を抑制し、資本流入がもたらす弊害の予防措置を講ずることで、金融・経済の不均衡を抑制するための手段として有効と考えられたからです。こうした姿勢は、銀行セクターに対する十分な規制・監督体制が確立していなかった1997−98年のアジア通貨危機の教訓が反映されています。

一般的に、マクロプルーデンス政策手段は、(a)「資本ベースの手段」、(b)「流動性ベースの手段」、(c)「資産側に対する手段」の3つに大別されています。資本ベースの手段には、バーゼルIIIの合意を受けたカウンターシクリカル資本バッファーや、セクター別の資本バッファー等が今後使われていく可能性が高まっています。流動性ベースの手段については、流動性比率、外貨のネットオープンポジション、預金準備比率等の活用が含まれています。資産サイドの手段としては、総与信量に対する規制、(主に住宅・不動産ローンに適用される)「借入金・担保比率」(LTV)や「債務・所得比率」(DTI)の適用、不動産購入に適用する様々な課税措置等が含まれます。新興諸国では、流動性ベースの手段や資産側に対する手段が活用されることが多いようです。とはいえ、これらの手段の有効性については、まだ国際的なコンセンサスは形成されていません。

拡大する自国通貨建て債券の発行と世界債券市場との連関の高まり

そして、第三に、アジア地域では、アジア通貨危機以降に、「銀行中心の金融システム」から、銀行借り入れと証券市場での資金調達を含む「よりバランスのとれた金融システム」へと移行しつつあります。幅広い経済主体が債券の発行を拡大できるようになっています。とくに、注目される点は、自国通貨建て債券の発行が大きく増えていることです。例えば、自国通貨建て債券が債券発行全体に占める割合は、2000年の88%から2011年には94%へ拡大し、この間、金額では1兆ドルから7兆ドルまで拡大しています11。債券の発行額は、世界金融危機後も(直後の2008−09年の不安定な時期を除けば)拡大を続けており、銀行借り入れの減速を補う役割を果たしてきました。発行額の拡大は、財政拡大の資金調達の目的で政府が国債を活発に発行したことも一因となっています。発行される債券の償還期限についても、世界金融危機以降も長期化しています。

これらの結果、新興諸国では「ダブルミスマッチ」(資産と負債の通貨上のミスマッチと満期上のミスマッチ)を減らすことができるようになり、発行体である政府、企業、金融機関のバランスシートの改善に寄与しています。こうした状況には、アジアの現地通貨建て債券市場の育成を目的とした政府・中央銀行のイニシアチブ(ABMI、ABF)も寄与してきたと考えられます。

こうした資本流入の拡大傾向は、幾つかの新興諸国において2013年5月以降に様相が一変して、流出に転じています。この状況は、とくに(経常収支の赤字、財政赤字、大規模な民間債務等の)経済ファンダメンタルズが相対的に脆弱な諸国、或いは世界金融市場と密接にリンクしている諸国において明確に見られています(図表9−11)。資本流入の逆回転は、FRBによる資産買入れ額の縮小タイミングを巡る海外投資家の見方の変化とそれによる米国金利の上昇、新興国の成長期待の修正がきっかけとなりました。それらに加えて、新興諸国への資本流入が既に累積していたことや世界の金融環境の変化も影響を及ぼしたと考えられます。

新興諸国においてはダブルミスマッチがもたらすリスクが和らいでいるわけですが、2013年5月以降の資本流出の局面において、債券・外国為替市場の流動性が突然低下することで大きな影響を受けました。とくに同年5−8月にかけて幾つかの新興諸国の債券価格は大きく下落し、為替相場も大幅に減価しています。株価も大きく下落した諸国も見られます(図表12−14)。つまり、過去10年ほどの間に、証券市場での資金調達を通じて世界金融市場との連関性が高まったことで、新興諸国では先進諸国の金利動向にこれまで以上に敏感に反応するようになっている可能性があります。また、外国投資家のなかには、金利のボラティリティが突然高まると保有する証券を急いで売却して債券のロングポジションを解消する行動が見られます。さらに、外国投資家は、流動性が減少している時期を中心に、外国為替でショートポジションを増やすことでヘッジをする行為が見られています。このため、実際の資本流出がさほど大きくなくても、為替相場が大きく減価したり、変動が拡大するといった現象が、新興諸国においても起きるようになっています。

  1. 11 Iwan J. Azis, Sabyasachi Mitra, Anthony Baluga, and Roselle Dime, "The Threat of Financial Contagion to Emerging Asia's Local Bond Markets: Spillovers from Global Crises," ADB Working Paper No. 106, 2013を参照。

(2)多様化する新興諸国の経済

資本流入は、財政拡大政策や不十分な構造改革の実践とともに、最終的には一部の資本受け入れ国の経常収支や財政収支の悪化に寄与することになりました。こうした状況は東南アジア諸国連合(ASEAN)や南アジア地域の幾つかの諸国で見られています(前掲図表9、10)。現在では、2013年5月以降に資本流出に直面した諸国を中心に、資本流出への対応もあって金融引き締めや財政引き締めが実施されています。そうした政策の継続が今後も必要な国もあると思われることから、そうした国の経済成長はしばらくの間は幾分減速する可能性があるようです。対照的に、東アジア地域を中心とするその他の新興諸国では、この間の金融市場の動きには大きな影響を受けないで推移しています。そうした諸国では、(短期対外借入残高対比での)潤沢な外貨準備、経常収支と財政収支の両方の黒字計上といった良好なファンダメンタルズを維持しています。

このことは、海外投資家が新興諸国への投資を決定する際に、経済ファンダメンタルズの違い等を考慮していることを示唆しています。こうした識別があることで、アジア地域全体が波及を受けて資本流出に直面し、同時に景気後退に陥る状況を回避することができています。こうした状況は、1990年代の通貨危機の時期とは大きく異なっています。当時は、主な借り手である国内金融機関や地場企業が、外資系金融機関から資金調達することが多く、タイで勃発した通貨危機が、他の新興諸国にも波及して資本流出をもたらしたことで、インドネシア、韓国、その他の諸国へと連鎖していく現象が見られました。今回そのような波及効果が見られなかった一因としては、この間、新興諸国経済の実情がデータの開示や透明性の向上によってより広く理解されるようになっていること、金融セクターが相対的に健全性を維持していることが指摘できます。とはいえ、影響を受けなかった諸国でも、証券・外国為替市場で投資家のセンチメントが突然変わったり、投機的行動が拡大することで、潜在的にボラティリティを拡大する可能性は否定できず、十分な備えが必要なことは言うまでもありません。

5.最後に

世界金融危機が発生してから、既に5年以上が経過しています。しかし、主要な先進諸国・地域の中央銀行は、景気を拡大しディスインフレを防ぐために(日本の場合は、デフレから脱して2%の物価安定目標を達成するために)、資産買入れやフォーワードガイダンスによる非伝統的な金融緩和政策を実施しています。これらの政策は、各中央銀行が、自国の経済情勢に照らして必要であり、中央銀行の根拠法にあるマンデートとも整合的であると判断したものですが、こうした政策が他国に影響を及ぼしうることも事実です。その結果、各中央銀行は主要な先進諸国・地域の金融政策の動向についてこれまで以上に注視するようになっています。また、世界の投資家のリスク姿勢、資本フローの動向、デリバティブ取引の動向についても理解を深めていくことが、金融政策のトランスミッション・メカニズムを考えるうえで重要になってきています。

先進諸国において実施されている極めて低い金利と非伝統的手段による潤沢な資金供給とその先行きに掛かる思惑が、新興諸国の資本流出入と為替相場や金利・株価の変動を高め、その結果、景気変動を拡大しているという見解がしばしば聞かれます。他方で、幾つかの新興諸国の中央銀行では、自国通貨の増価や為替の大幅な変動を和らげるために、「非対称的な金融政策」を実行しているように見えます。例えば、大量に海外から資本が流入し景気が拡大する局面においては相対的に低い金利を維持する一方で、資本流出が進み景気が後退する局面では比較的速やかに金利を引き上げていくという政策をとるケースがしばしば見られます。この結果、新興諸国においては、(インフレ圧力や景気過熱感が高まっているにもかかわらず)長期間にわたり金利を引き上げないことにより、世界的なコモディティ価格の上昇につながった面があるように思います。 こうした資本流入とそれに関連する問題の主因が、資金提供側の政策にあるのか、或いは資本の受け手側の政策にあるのかという点で、国際的な合意には達していません。またこうした状況下での適切な処方箋についても合意には達していません。

そうしたなかで、金融市場の連関の高まりに伴い、中央銀行間の政策面での協力・協調も重要になってきています。たとえば、世界金融危機への対応として、2011年11月に6中央銀行——カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、スイス国民銀行、ECB、FRB——が決定した、米ドルを始めとする6通貨の流動性支援の提供能力を拡充するための協調策が挙げられます。こうした協調策(特に米ドル・スワップ取極)により、欧州系金融機関のドル調達金利コストは低下し市場の安定に効果がありましたし、これらの金融機関によるドル建て資産の投げ売りや急速な融資抑制等のドルベースのデレバレッジを回避できたと考えられます。また、これらのスワップ取極は一時的な措置と位置付けられ、2014年2月に期限が到来する予定でしたが、2013年10月に、別途通知があるまで存続させ、常設化されることが決まりました。

アジア地域においても資本フローのモニタリングと金融危機予防・管理の観点で、チェンマイ・イニシアチブ(CMI)が2000年に創設されましたが、現在ではそのマルチ化が図られています。しかも、2012年5月には、スワップ総額の倍増(1,200億ドルから2,400億ドルへ)、IMFリンク部分の縮小(80%から70%へ。さらに2014年には一定の条件のレビューを前提にして60%へ)、危機予防ファシリティの導入等を盛り込む形で協定を強化することが合意されています。また、CMIの枠組みの中でサーベイランス機能を果たすAMRO(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office)の国際機関化が合意されています。

最後に、世界金融危機と急速に変化する世界経済環境は、世界の中央銀行に新しいチャレンジをもたらしています。この見地から、中央銀行の政策及び世界の経済市場動向についての相互の理解を深めていくためにも、中央銀行間および市場・国民との対話はますます重要になっています。そうした対話を増やし、新しい制度・仕組みや適切な政策手段について検討・工夫してくことが、より安定した国際金融システムの構築につながり、ひいては世界経済の繁栄と安定に寄与していく可能性があると思っています。

以上で、私の講演を終えたいと思います。ご清聴ありがとうございました。