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【講演】

日本経済と金融政策

日本金融学会2014年度秋季大会における特別講演

日本銀行政策委員会審議委員 宮尾 龍蔵
2014年10月18日

目次

1.はじめに

本日は、長年お世話になってきた日本金融学会で講演する機会を頂戴しましたこと、大変光栄に存じます。早いもので、日本銀行の審議委員に就任して4年半が経過しました。この間を振り返ると、グローバル経済は、欧州債務危機、米国の「財政の崖」など大きな逆風にさらされ、わが国は東日本大震災にも見舞われました。そうした中で、先進国の中央銀行は、いずれもそれぞれの非伝統的な金融政策を遂行し、未踏の領域をさらに奥深く進んでいます。日本では昨年「量的・質的金融緩和」を導入して、一段と強力な金融緩和を実施しています。

これらの取組みに対して、学界でもさまざまな見方やご意見があり、活発な議論や研究が行われていると承知しています。私も、学界出身の一人として、以下のようなさまざまなことを自問自答してきました。

(1)2年ほど前からわが国経済は「消費主導」による回復が続いているが、なぜいま「消費主導」なのか。その原動力は何か。それは持続するのか。

(2)世の中の多くの予想に反して、消費者物価は、昨年来順調に伸びを高めてきたが、その原動力は何か。企業はコストを販売価格に転嫁する動きを強めてきているが、なぜいま可能なのか。

(3)国債買入れなどの非伝統的な金融政策の効果については、学界でも見方が分かれているが、効果を疑問視する声――「平時にはそもそも効果はなく、マーケットが誤解しているだけ」、「一時的な資産価格バブルをもたらすだけで、経済をむしろ不安定化する」など――にはどう答えるのか。

これらの問いに対して自分なりに回答を模索してきましたが、それらはいずれも、経済の潜在的な成長力や収益力、所得形成力といった供給サイドの「実力」をどう捉えるかに密接に関わっています。言うまでもありませんが、景気回復のメカニズムや持続性、そして政策の効果や課題を議論するには、経済の供給面の状況を正しく把握することが重要です。

そのような問題意識のもと、私は、これまで講演などで、現在の日本経済の回復の大きな特徴は、従来の「輸出主導」ではなく「消費・非製造業主導」であること、そしてその背景となる原動力としては、いくつかの側面から供給サイドの実力が高まっていることを強調してきました1。すなわち、(1)企業部門では内外さまざまな前向きな取組みが進展し、非製造業の収益力やグローバル化を加速する製造業の「稼ぐ力」が高まっていること、(2)企業の労働需要は基調的に高まり雇用・所得環境の改善は続いていること、(3)女性や高齢者などの自発的な労働参加が促され家計の労働供給も増加してきていること、などです。

日本銀行は、現在、2%の物価安定目標を掲げて、「量的・質的金融緩和」を遂行しています。後ほど詳しく述べるように、経済の実力が高まれば、2%の物価安定目標も、持続的な景気回復を伴ってバランス良く、よりスムーズに達成され、安定的に持続することができます。経済の実力が高まれば、政策の効果は発揮されやすくなり、金融面の不均衡など潜在的な副作用は抑制されやすくなると考えられます。経済の実力が高まるなかで、思い切った政策がより高い効果を発揮すれば、企業や家計の前向きな取組みや構造転換が一層後押しされ、経済の実力がさらに高まるといった好循環も期待できます。

以下では、まず日本経済の供給サイドの改善状況について、改めて検討したいと思います。そのうえで、金融政策に関する論点をいくつか述べます。最後に、今後の経済物価動向をめぐる留意点について触れることとします。

1「わが国の経済・物価情勢と金融政策」(2014年4月10日、岡山金融経済懇談会)などをご参照ください。

2.わが国の経済物価動向と供給サイドの改善

(1)緩やかな回復を続ける日本経済

わが国の景気は、消費税引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から生産面を中心に弱めの動きがみられていますが、基調的には緩やかな回復を続けています。本年4〜6月の実質GDPは前期比年率−7.1%と大幅なマイナス成長となりましたが、これは1〜3月が同+6.0%と駆け込み需要から大きくプラスとなった後の反動とみられます(図表1)。こうした振れを均して、1〜3月と4〜6月を合わせて、その前の半年間である昨年7〜12月と比較すると、年率+1.0%の成長となります。このように均してみれば、潜在成長率を上回る成長を続けており、回復の基調は維持されています。

国内経済の需給バランスをみても、改善傾向は続いています。日本銀行による需給ギャップ推計値は1〜3月時点でプラスに転じ、4〜6月もゼロ近傍であり、需給ギャップは概ね解消された状態にあります。短観の設備判断DIと雇用人員判断DIを加重平均した指数でみても、同様の動きが確認できます(図表2)。

次に物価動向ですが、消費者物価(除く生鮮食品、消費税率引上げの直接的な影響を除いたベース)の前年比は、昨年から上昇傾向を強め、最近では1%台前半まで改善しています。食料・エネルギーを除いた指数でみても、同様の傾向が確認できます(図表3)。こうした動きの背景には、先に確認した需給ギャップの改善傾向とともに、予想インフレ率の改善があります。たとえば、コンセンサス・フォーキャストによる中長期の予想インフレ率は、昨年から上昇基調に転じています(図表4)。

最近の景気回復の大きな特徴である「消費・非製造業主導の回復」の傾向も引き続き確認できます(図表5)。従来の「輸出主導」の景気回復パターンは、2002−08年の拡張局面に顕著に表れていますが、その後輸出は、やや長い目でみれば横這い圏内で推移しています。企業設備投資は、振れを伴いつつ緩やかに増加してきましたが、2000年代半ばの拡張局面と比べるとペースは緩やかとなっています。一方、消費は、様々な影響を受けつつも一貫して増加基調をたどり、2012年入り後は伸びを一段と高めてきました。今年4〜6月の消費支出は、駆け込み需要の反動減の影響を受け、前期比年率−19%と大きく落ち込みましたが、振れを均してみると、今年の1〜6月の消費支出は昨年の7〜12月対比−0.8%と小幅の減少にとどまっています。足許の個人消費は、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、基調的に底堅く推移しており、駆け込み需要の反動の影響は、ばらつきを伴いつつも全体として和らいできています。過去約2年にわたり、従来の景気回復要因である輸出や設備投資の顕著な増加を伴わずに、消費が一段と伸びを高め、景気回復を牽引してきたことは、特筆に価する動きと言えます。

この間、非製造業が景気回復を主導してきた姿も同様に確認できます(図表6)。大震災の影響がほぼ一巡した2012年以降をみると、製造業の活動が落ち込みから持ち直しに転じる一方、非製造業は持続的に活動水準を高めてきました。足許は駆け込み需要の反動がやや大きく出ていますが、基調として非製造業の改善は維持されているとみています。

(2)供給サイドの改善

消費需要を中心に、景気回復が持続してきた背景には、いくつかの側面で、経済の実力である供給サイドの改善が進んできたことが考えられます。

まず企業部門では、内外さまざまな前向きな取組みが進み、収益力が一段と高まってきています(図表7)。製造業企業は、海外需要地での生産・調達・設備投資、人員の現地化など、グローバル・ベースでの最適化へ向けた取組みを一段と加速してきています。非製造業企業では、潜在的な需要を喚起する新しい取組みがさまざまな分野で進展してきており、国内では、高度な物流センターの増設、宅配サービスやネット通販、コンビニやショッピングセンターの積極出店などが引き続き進展してきています。また、海外でも小売・卸売業やサービス業などのグローバル展開、企業買収など、現地での需要を取り込んで成長力を強化する動きが活発に行われています。

労働・雇用環境でも、改善基調が継続しています。企業は前向きな取組みを進める下で、労働需要を高め、雇用スタンスを積極化させています(図表8)。この1年をみると、非製造業の雇用不足感はさらに強まってきていますが、製造業でも労働需給のタイト化が進み、直近では不足超に転じています。雇用の質の面でも、企業は優秀な人手を確保する必要性などから、パート雇用を正規化する動きが徐々に進んできました(図表9)。賃金動向においても、多くの企業でベースアップが実施されて所定内給与は前年比プラスに転じ、夏季賞与の増加などから特別給与もしっかりと増加しました。それらの結果、賃金と雇用者数を掛け合わせた雇用者所得は、前年比2%程度の伸びで増加しています(図表10)。

労働供給面では、人口動態の影響などからこれまで低下基調にあった労働参加率は2012年を底に下げ止まり、持ち直しに向けた動きも伺われます(図表11)。これを男女別、年齢層別に見ると、とりわけ女性の労働参加率の上昇傾向が顕著ですが、男性も65〜74歳の層を中心に近年上昇傾向が明確になってきています(図表12)。この背景には、全般に人手不足感が強まるなかで、企業側が、短時間勤務など柔軟な勤務体系を導入して女性の労働参加を促したり、技能やノウハウ継承の必要から高齢者雇用を促進したりする動きがあると思われます。

こうした労働参加率の改善の動きが、主として景気回復による一時的・循環的なものか、それとも持続的・構造的な変化なのかは、いましばらくデータの蓄積を待って判断する必要があります。もし後者の部分が少なからず含まれているのなら、潜在的な労働投入量が下げ止まり、その分潜在成長率は上向くことになります。

潜在成長率の推計には技術的な困難さがあることは、多くの研究者が同意するところだと思います2。多くの分析では、経済変数の潜在的な系列への代理として、HPフィルターなどのトレンド成分を使いますが、最近の姿を――サンプル期間の終期にかけて――リアルタイムで把握することは、特に難しい作業です。労働参加率のトレンド推計値を図表11で確認すると、この1〜2年は低下しています。ただ、先ほど申し上げたような労働参加の動きが持続的・構造的なものであれば、振り返ってみると労働参加率の真のトレンドは下げ止まり、その結果、潜在成長率が上方に修正される可能性は小さくないとみられます。この点、十分な留意が必要です3

以上、企業収益、労働需要や雇用・賃金、そして労働供給といった側面から、経済の供給サイドの改善の様子を改めて確認してきました。いずれの面も、2012年ごろから改善の動きが明確化してきているという点で共通しています。つまり、企業・家計の前向きな取組みを背景に、企業収益や雇用者所得、労働参加などで表される経済の所得形成力が全体として強まってきた姿が浮かび上がります。その結果、経済全体の恒常所得の見通しが改善し、あるいはそれに加えて将来への雇用不安や不確実性が大きく後退して、消費主導の回復につながってきたとする見方をサポートします。すなわち、2012年ごろから、経済の供給面という「実力」の改善が原動力となり、消費需要を中心とした内需の持続的な回復がもたらされてきたと解釈できるのです。

以上の議論を踏まえ、潜在成長率の推計値を確認しておきましょう(図表13)。人口一人当たりでみた潜在成長率は、2010年頃に下げ止まり、それ以降概ね横ばい圏内で推移しているように窺われます。潜在成長率の推計値は幅を持ってみなければなりませんが、少なくとも上記の留意点からは、過去1〜2年の潜在成長率は、数年後に振り返ると、より上方に修正される可能性があります。経済の供給面の状況、とくに足許にかけての動きを把握するには、潜在成長率の推計値だけに依拠するのではなく、企業や家計の実態と総合してみることが重要と考えられます。

2潜在成長率の推計アプローチや、それに付随する論点に関しては、たとえば日本銀行「経済物価情勢の展望〈2014年4月〉」(p.36−37)のBOX「マクロ的な需給バランスの動向」をご参照ください。
3将来、潜在成長率もしくは潜在GDPが上方修正されると、需給ギャップは下方修正される筋合いにありますが、次の小節で議論するように、経済の供給面の改善を背景に需要がやや長い目で見てより大きく増加する場合には、需給ギャップはむしろ改善する――そして物価上昇圧力も高まる――可能性が考えられます。

(3)物価上昇圧力の高まり

経済の供給サイドの改善により、消費需要を中心に内需が持続的に増加すると、物価上昇圧力は高まる可能性があります。このことを理論的な観点から考えると、次のような3つの点を指摘できます。

第1に、標準的な「総需要・総供給曲線」分析で考えれば、供給面の改善は、それ自体は、総供給曲線(あるいはフィリップス曲線)を右下方へシフトさせるため、景気は改善する一方で、物価上昇を弱める要因となります。しかし、同時に、総需要が持続的に増加すると、総需要曲線は右上方へシフトして、物価上昇圧力が強まります。どちらの要因が勝るかは優れて実証的な問題ですが、わが国のデータを用いて全要素生産性の上昇(生産性ショック)の影響を検証した実証分析によれば、後者の需要増による物価上昇圧力がより上回って、供給サイドの改善が需給ギャップの改善と小幅の物価上昇をもたらすという結果が得られています4

第2に、財サービスの差別化や高付加価値化を伴って売上が持続的に増加する場合、企業の価格設定行動がより前向きになることも考えられます。すなわち、需要の増加が持続すると予想される中で、企業がより高いマークアップ(利幅)を設定したり、生産コストをよりストレートに販売価格に転嫁させることが可能となります。そうした動きが構造的なものであれば、フィリップス曲線の傾きがより急になり、これも物価上昇圧力を高めることになります。

第3に、供給サイドの改善は、人々の中長期的なインフレ予想を高めるというメカニズムも考えられます。人々が将来も景気や売上が持続的に良くなると予想すると、たとえば将来のフィリップス曲線の関係から、人々は将来の物価上昇率も高まると予想するでしょう(New Keynesianの「フォワードルッキングな」インフレ予想のメカニズム)。つまりそれは、人々のやや長い目でみた予想インフレ率を上昇させるので、フィリップス曲線の切片は上方にシフトすることになります。

実際、中長期の予想インフレ率は、徐々に高まってきています(前掲図表4)。中長期の予想インフレ率の動きは、先にみた一人当たり潜在成長率の動きとも、直近の時期を除けば概ね相関しているように窺われます(前掲図表13)。

このようなメカニズムが総合して作用する中で、図表3の実績からも示唆されるように、消費者物価インフレ率への上昇圧力は高まってきていると解釈することができます。すなわち、(1)需給ギャップの持続的な改善ならびにその将来見通しの強まり、(2)企業の価格転嫁力の高まり、(3)中長期的な予想物価上昇率の上昇、といったメカニズムを通じて、全体の物価上昇圧力を高める方向に作用してきているとみられます。

なお、物価上昇を説明する別のロジックとして、「供給面の低迷が制約となって物価が上昇してきた」とする議論がありますが、それはどう考えるべきでしょうか。この点については、実際に供給面の実力が高まっているかどうかが重要だと考えています。つまり供給面の改善を伴わない物価の上昇は、結局のところ需要の伸びを制約し、経済活動の拡大を妨げることになります。しかし、ここ1〜2年の状況は、全く逆に供給面の改善を示唆する動きが明確になっており、実際、需要も持続的に伸びています。すなわち、財・サービスへの需要や労働に対する需要が供給の改善幅を上回って持続的に増加しており、財・サービスの生産や雇用の改善が進み、物価や賃金も緩やかに上昇しています。これらの点を踏まえると、最近の物価の上昇を供給面の低迷や制約で説明することは難しいと思われます。

4宮尾龍蔵『マクロ金融政策の時系列分析』(日本経済新聞社、2006年)、第8章を参照。

3.金融政策運営

以上述べてきた最近のマクロ経済状況は、非伝統的な金融政策を遂行するうえでも、望ましい環境を提供すると考えます。以下で述べるように、経済の実力が高まれば、2%の物価安定目標も、持続的な景気回復を伴ってバランス良く、よりスムーズに達成され、安定的に持続することができます。経済の実力が高まれば、政策の効果は発揮されやすくなり、金融面の不均衡など潜在的な副作用は抑制されやすくなります。

(1)2%の物価安定目標

昨年1月、日本銀行は、政府との「共同声明」を発表し、消費者物価上昇率2%という物価安定目標を導入して、その早期実現を約束しました。

その当時の状況を改めて振り返ると、外部環境に明確な進展がありました。すなわち、2012年後半の時期、極めて強い逆風であった欧州債務危機、米国の「財政の崖」などの下振れリスク要因が和らぎ、不確実性が大きく低下しました。そうしたなかで、日本銀行は政府と連携し、国全体で早期のデフレ脱却とデフレ心理の払拭を目指し、持続的な経済成長の実現へむけて取組むことを明示したのです。

国民の望む「物価の安定」とは、単に物価が上昇するだけでなはなく、雇用、賃金、企業収益の改善などを伴いながら、経済がバランス良く持続的に改善し、その結果として、物価の緩やかな上昇が実現する状態を指します。その目標を、消費者物価上昇率で「2%」としたのは、経済の成長力や競争力強化へ向けた幅広い主体の取組みが進展し、持続可能な「物価の安定」と整合的な物価上昇率は上昇していくという認識に基づいています。

そして、実際、この間の日本経済は、「量的・質的金融緩和」による金融面からの強力なサポートにも後押しされて、成長力強化・供給サイドの改善に向けた幅広い取組みが着実に進展してきているとみられます。まさに、雇用、賃金、企業収益などが持続的に改善するなかで、経済もバランス良く改善を続け、2%目標に向かって、物価上昇率が緩やかに高まってきているのです。

(2)「量的・質的金融緩和」の役割

昨年4月、日本銀行は、2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入しました。その際、2%目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続することを表明しました。

「量的・質的金融緩和」は、(1)マネタリーベースの大幅な拡大(年間約60〜70兆円に相当するペース)、(2)長期国債の大規模な買入れ(年間約50兆円に相当するペース)と年限長期化(平均7年程度)、(3)リスク性資産買入れの拡大、という要素で構成されています。そして、これほど大規模な金融緩和策を政策目標にリンクさせて継続するというオープンエンドの要素を持たせています。つまり期間や量を予め限定せずに、「2%目標を安定的に持続するために必要な時点まで継続する」ことにコミットし、約束しているのです。この約束は、将来の政策を予想するそれぞれのマーケットに対して強力に働きかけ、一段と緩和的な金融環境を作り出しているとみられます。

「量的・質的金融緩和」の効果は、経済の実力が高まれば、より発揮されやすくなると考えられます。企業の収益力が高まると、極めて緩和的な金融環境を生かして、前向きな取組みやリスクテイクが促され、景気浮揚効果はより高まります。大規模な国債買入れにより長めの金利に低下圧力がかかり、資産価格にも上昇圧力がかかりますが、企業収益などのファンダメンタルズが同時に改善していれば、資産価格の上昇はより持続可能となり、正当化されやすくなります。その結果、金融面の不均衡の蓄積など潜在的な副作用も抑制されやすくなると考えられます。

さらに付言すると、経済の実力が高まるなかで、思い切った政策がより高い効果を発揮すれば、企業や家計の前向きな取組みや設備投資、構造転換などが一層後押しされ、経済の実力そして政策の効果がさらに高まるという好循環も期待できます。わが国では、もともと企業収益が改善基調にあり、昨年の政策発動によって、収益力など経済の実力がさらに高まり、景気回復の持続性が強まってきた可能性があります。日本でも、あるいは米国でも、強力な金融緩和が実施され、株価が上昇基調を維持するなかで、企業収益が改善しています。収益向上へ向けた前向きな取組みが、一段と緩和的な金融環境によってさらに後押しされている可能性が窺われます(図表14)。

4.おわりに〜今後の経済物価動向について〜

最後に、今後の経済物価動向について、触れたいと思います。

先行きのわが国経済は、基調的には緩やかな回復を続け、駆け込み需要の反動などの影響も次第に和らいでいくとみられます。一段と緩和的な金融環境に後押しされ、供給サイドの改善と景気の持続的な回復の基調、そして予想インフレ率の緩やかな上昇基調は今後も維持されるとみています。雇用や賃金、企業収益の改善などを伴いながら、バランスの取れた形で、2%目標へ向けた道筋を歩んでいくでしょう。

一方で、個人消費については、耐久財消費の反動減などの影響がやや長引いており、先行きの回復ペースについて一定の留意が必要と認識しています。景気や物価の改善が今後も幅広く継続するためには、企業収益の増加というプラス効果が、賃金・雇用の増加あるいは納入価格の引き上げなどを通じて、家計や中小企業など経済の隅々まで行き渡り、支出の持続的な増加へとつながっていくことが重要です。

今後とも、2%目標を安定的に持続するために必要な時点まで、強力な金融緩和政策を辛抱強く継続していきます。経済物価見通しと上下双方向のリスクを引き続き丹念に点検し、物価安定目標の実現のために必要となれば、適切な調整を行ってまいります。こうした将来にわたるコミットメントと政策運営スタンスを明確にすることで、幅広い経済主体の前向きな取組みを金融面からさらに強力に後押ししていきます。そして、物価の安定を通じた持続的成長の実現に向けて、しっかりと責務を果たしてまいる所存です。

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