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【挨拶】第90回信託大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2015年4月15日

目次

はじめに

本日は、第90回という節目を迎える信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。皆様におかれましては、常日頃より、経済・社会を取り巻く様々な環境変化に的確に対応されつつ、信託の特性を活かした金融商品やサービスを提供されることで、わが国経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して心より敬意を表したいと思います。また、皆様には、平素から、日本銀行の政策や業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りしてお礼申し上げます。

金融政策運営と経済・物価情勢

私からは、まず、日本銀行の金融政策運営と経済・物価情勢についてお話しします。

日本銀行は、15年にわたるデフレから脱却するため、一昨年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、昨年10月には、その拡大を決定しました。

「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現に対する強く明確なコミットメントと、それを裏打ちする大規模な金融緩和によって、予想物価上昇率を引き上げるとともに、名目金利に低下圧力を加え、実質金利を低下させることを主な波及経路として想定しています。実質金利が低下すれば、民間需要が刺激され、経済全体の需給ギャップが縮小し、物価に上昇圧力がかかります。

わが国経済の動きをみると、「量的・質的金融緩和」は、所期の効果を発揮していると考えています。景気は、企業・家計の両部門で所得から支出への前向きな循環メカニズムが作用しており、緩やかな回復基調を続けています。企業部門では、収益が過去最高水準となっており、設備投資も緩やかな増加基調にあります。家計部門では、雇用・所得環境の改善が続くもとで、個人消費は底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も収束しつつあります。

物価面をみると、エネルギー価格下落の影響から、消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて0%程度まで低下していますが、物価の基調は着実に改善しています。需給ギャップは、概ね過去平均並みの0%程度まで改善しているほか、予想物価上昇率は全体として上昇しており、企業の賃金や価格設定行動にも変化がみられています。したがって、原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくとの前提にたてば、消費者物価の前年比は、原油価格下落の影響が剥落するに伴って伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2%に達する可能性が高いとみています。

信託業界への期待

次に、信託業界の皆様に期待する役割について申し上げます。

信託業界では、これまで、資金の調達や資産の運用・管理への様々なニーズを踏まえ、幅広い金融商品やサービスを提供してこられています。最近では、わが国における高齢化の進展を踏まえ、教育資金贈与信託の拡充や結婚・子育て資金信託の導入、事業・資産承継における信託の活用など、新たな商品の提供やサービスの拡充に、積極的に取り組んでおられます。また、「日本版スチュワードシップ・コード」の導入をきっかけに、コーポレート・ガバナンスの面から、企業の持続的な成長と顧客の投資リターン拡大を図る新たな取り組みが加速していることにも、注目しています。

業界全体での信託財産残高は、このところ、過去最高の水準で推移しているとお伺いしています。今後も、経済・社会の変化に伴い、信託に期待される役割はますます広がっていくと考えています。皆様には、今後とも多様な顧客ニーズを踏まえながら、わが国経済の持続的な成長に資するよう、信託機能を活用した取り組みをさらに進めていかれることを期待しています。

おわりに

最後に、皆様方のますますのご発展を祈念し、私のご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。