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【挨拶】

最近の金融経済情勢と金融政策運営

沖縄県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 中曽 宏
2016年3月3日

目次

1.はじめに

日本銀行の中曽でございます。本日は、当地の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃より日本銀行那覇支店の様々な業務運営にご協力を頂いております。この場をお借りして改めて厚くお礼申し上げます。

日本銀行は、1月末の金融政策決定会合において、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定いたしました。本日は、皆様との意見交換に先立って、私から、まず、最近の経済・物価情勢と先行きの見方についてお話ししたいと思います。その後、今般導入を決定した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」についてご説明しつつ、日本銀行の最近の金融政策運営についてお話しいたします。

2.内外の経済・物価情勢と先行き

国内実体経済の現状と1月「展望レポート」の見通し

最初に、国内の経済情勢についてです。結論から申し上げると、年明け以降、国際金融資本市場では振れが大きい展開になっていますが、日本経済のファンダメンタルズはしっかりしており、過度に悲観的になる必要はないと考えています。

国内実体経済の現状としては、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要は増加基調をたどっています。企業部門をみると、収益は、実体経済の改善に加え、原油安や既往の円高修正も手伝って明確な改善を続けており、過去最高水準に達しています(図表1)。そのもとで、設備投資は緩やかな増加基調にあります。また、家計部門では、労働需給の引き締まりが続いています。有効求人倍率や短観の雇用人員判断DIをみると、1992年前半頃と同程度の水準まで改善しています。また、失業率も低下しており、このところ3%台前半と1997年以来の低水準となっています。労働市場は、求人と求職のミスマッチによるもの以外の失業は無いという、いわゆる「完全雇用」に近い状態にあります(図表2)。こうした労働需給の引き締まりを反映して、雇用者所得も緩やかに増加しています。雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、個人消費は底堅く推移しています。

先行きの景気についても、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要は増加基調をたどると考えています。輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に、緩やかに増加するとみられます。このため、わが国経済は、基調として緩やかに拡大していくと予想しています。こうした実体経済の先行きの見通しを、1月末に公表した「展望レポート」に沿って申し上げると、2016 年度にかけては、潜在成長率を上回る成長が続くと予想されます。2017 年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動などの影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しますが、プラス成長は維持されるものと予想しています。1月の「展望レポート」における政策委員の実質GDP成長率見通しの中央値で申し上げると、2015年度は+1.1%、2016年度は+1.5%、2017年度は+0.3%となっています(図表3)。

わが国の物価情勢と見通し

次に、物価情勢です。「量的・質的金融緩和」の導入以降、わが国の物価動向は、大きく変化してきました。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、「量的・質的金融緩和」導入前の▲0.5%から、2014年4月には、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで+1.5%まで改善しました(図表4)。その後、消費者物価の前年比は低下し、このところ0%程度となっていますが、これは一昨年の夏場以降、原油価格が大きく下落したことの影響が大きかったためです。この間の物価の基調を確認するために、変動の大きい生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価の前年比をみると、「量的・質的金融緩和」導入前はマイナスとなっていましたが、2013年10月にプラスに転じた後、28か月連続でプラスを続けており、直近では+1.1%まで上昇しています。また、消費者物価の構成品目に着目すると、上昇した品目数から下落した品目数を差し引いた指標は、はっきりと上昇しています(図表5)。すなわち、物価の上昇は、幅広い財・サービスにわたって広がりを持って観察されているということです。

先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の見通しは、大まかに言えば、物価の基調的な動きに、エネルギー価格が消費者物価に与える寄与度を足し合わせることで算出されます。1月の「展望レポート」では、原油価格については、ドバイ価格が1バレル35ドルを出発点に、2017年度までの見通し期間の終盤にかけて40ドル台後半に緩やかに上昇していくと想定しています。そうした前提のもとで、エネルギー価格が消費者物価(除く生鮮食品)の前年比を下押しする度合いを試算すると、▲1%ポイント強と、足もと最大となっています。こうした下押し圧力が先行き弱まっていくなか、物価の基調も着実に高まっていきますので、消費者物価の前年比上昇率にも物価の基調的な動きが現れやすくなっていきます。このように物価の基調は着実に改善しており、先行きについても、メインシナリオとしては、わが国経済が基調として緩やかに拡大するもとで、消費者物価の前年比も「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。この結果、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2017年度前半頃に「物価安定の目標」である2%程度に達すると予想しています。

国際金融資本市場と海外経済

一方、国際金融資本市場では、年明け以降、原油価格の一段の下落に加え、中国経済に対する先行き不透明感などから、投資家のリスク回避姿勢が強まり、株価が世界的に下落するもとで、安全資産である円が買われるという神経質な展開となっています。そこで、次に国際金融資本市場に動揺をもたらしている背景となっている海外経済の現状と先行きについてお話ししたいと思います。

海外経済を俯瞰しますと、新興国経済が減速していますが、全体としてみれば、先進国を中心とした緩やかな成長が続いています。地域別に申し上げると、米国では、堅調な家計支出に支えられた回復が着実に続いています。市場では米国経済に対する慎重な見方もありますが、実体経済面で新たな悪材料が生じている訳ではなく、そうした市場の見方は、やや悲観的過ぎるように思います。また、欧州経済も、緩やかな回復を続けています(図表6)。

世界的に関心が高まっている中国経済については、製造業部門の過剰設備や在庫調整が下押し圧力となっており、減速した状態が続いていることは事実です(図表7)。中国以外の新興国・資源国経済については、アジアの一部でIT関連需要が持ち直しているものの、中国経済の減速の影響が波及し、資源価格の下落も長期化するもとで、全体としては減速した状態が続いています。先行きの中国経済については、製造業部門を中心に幾分減速しつつも、当局が景気下支えに積極的に取り組むもとで、概ね安定した成長経路をたどると想定しています。その他の新興国・資源国経済についても、一部の資源国では減速した状態が当面続くものの、総じてみれば、先進国の景気回復の波及や景気刺激策の効果などから、徐々に成長率を高めていくと予想しています。

3.日本銀行の金融政策運営

金融緩和の基本的なメカニズム

しかしながら、年明け以降、先程申し上げたように金融市場では不安定な動きが続いています。1月末の金融政策決定会合では、金融市場の動揺が企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換を遅延させ、物価の基調にも悪影響を及ぼすリスクが増大しているとの指摘が多くの政策委員からなされました。そうしたリスクの顕在化を未然に防ぎ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、日本銀行として、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入の決定に至ったものです。

以下では、日本銀行の金融政策運営についてお話ししたいと思います。まず、今般導入した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のご説明に入る前に、日本銀行がこれまで進めてきた金融緩和の基本的なメカニズムについて振り返っておきたいと思います。

金融緩和は一般に、先行きの物価上昇率を勘案した金利――これを「実質金利」と呼びます――を引き下げ、設備投資や住宅投資などの経済活動を刺激することを主たる波及経路としています。物価上昇率を勘案するのは、先行き物価が上昇していくと予想されるのであれば、企業の売上や賃金も増加することが見込まれるため、その分、実質的な金利負担は、表面上の金利――「実質金利」と区別する意味で「名目金利」と呼びます――よりも軽くなるからです。

そのうえで、どこまで実質金利を下げるのが適当かという政策判断の目安となるのが、「自然利子率」という概念です。自然利子率とは、その国の経済において、景気を加速も減速もさせない中立的な金利水準を言います。自然利子率との比較でみて、実質金利を低い水準に引き下げることで、金融緩和効果が発揮されます。自然利子率の水準は、一般的には、その国の経済が持っている潜在的な成長力、いわゆる「潜在成長率」によって決定されると考えられます。日本の潜在成長率は、1980年代には3〜4%でしたが90年代入り後、大幅に低下し、直近では0%台前半ないし半ば程度と推計されています。

これらの概念を用いると、90年代以降の金融政策は、次のように整理されます。日本銀行はバブル経済崩壊後の景気の落ち込みに対応するため、政策金利を累次にわたって引き下げた結果、90年代末には、短期金利はほぼゼロ%となりました。もっとも、この期間には同時に、潜在成長率の低下に伴って自然利子率も低下していました。また、国民の間に「先行き物価が下がっていく」とのデフレ心理が広がった結果、名目短期金利をゼロ%まで引き下げたにもかかわらず、実質金利を自然利子率よりも有意に低い水準まで引き下げることが出来なくなってしまったのです。

このような状況を打開するため、2013年4月、日本銀行は「量的・質的金融緩和」を導入しました。この政策は、2つの手段で実質金利を引き下げることを狙っています(図表8)。ひとつは、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の早期実現に強くコミットすることによって、予想物価上昇率を引き上げることです。もうひとつは、名目金利の引き下げ余地を活用することです。たしかに、短期金利は既にゼロ%に達しましたが、長期金利には、まだ引き下げ余地がありました。そこで、日本銀行が大量の国債を買い入れることによって、短期金利だけでなく、10年物国債などの長期金利、さらには20年物以上の超長期金利も含め、イールドカーブ(利回り曲線)全体にわたって、金利に低下圧力を加えることとしました。

こうした「量的・質的金融緩和」の現在までの政策効果の波及状況を、具体的なデータに触れつつお話しします。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入が決定される前の時点で、既に10年物国債利回りは過去最低水準まで低下しており、イールドカーブ全体が極めて低い水準に押し下げられてきました(図表9)。同時に、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇してきました。各種のサーベイ指標などをみると、「量的・質的金融緩和」によって予想物価上昇率は、概ね0.5%ポイント程度引き上げられたとみています(図表10)。このような名目金利の低下と予想物価上昇率の上昇は、実質金利が大きく低下したことを意味しています。実際、「量的・質的金融緩和」の導入後、実質金利は、マイナス圏内で推移してきました。史上最低水準まで低下した実質金利が民間需要を刺激した結果、わが国の景気は緩やかな回復を続け、物価の基調も改善してきたことは、先程申し上げた通りです。

金利のゼロ制約と「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の枠組み

今般導入した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、これまで所期の効果を発揮してきた「量的・質的金融緩和」の基本的なメカニズムを維持しつつ、これをさらに強化するものです。従来、「金利はゼロ%以下には下がらない」という考え方――これを「金利のゼロ制約」といいます――が、常識とされてきました。しかし、現在ではECBを含む欧州の複数の中央銀行が、実際にマイナス金利政策を実施しています。

名目金利がマイナスにならないと考えられていた理由は2つあります。まず、民間金融機関が中央銀行に保有する当座預金にマイナス金利を課せば、金融機関にとっては損失となります。この点、極端な場合、金融機関の収益が過度に圧迫されれば、金融仲介機能が低下し、そもそもの目的である金融緩和効果が弱まることにもなりかねません。もうひとつは、マイナス金利の幅が大きくなれば、金融機関には、当座預金から現金(銀行券)を引き出すことによって、マイナス金利を回避する誘因が働くためです。この点については、多額の現金保有には、運搬・保管コスト、さらには盗難リスクなどが伴うため、直ちに現金への大量シフトが生じるという訳ではありませんが、マイナス金利の幅には自ずと限界があると考えられます。逆に言えば、これら2つの条件がクリアされれば、中央銀行の当座預金にマイナス金利を課すことで、マイナスの短期金利を実現し、イールドカーブの起点を引き下げることができます。

今申し上げたようなマイナス金利の問題点を解消する方法として考案したのが、金融機関が日銀に保有している当座預金を3つの階層に分割し、その一部にのみマイナス金利を適用するという「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」です。新たに考案した日銀当座預金における「階層構造」は、金融機関の収益が受ける影響にも、できるだけ配慮するために導入したものです(図表11)。すなわち、金融機関の日銀当座預金残高を3階層に分割し、当座預金口座における既往の保有額の大半には、引き続き、0.1%のプラス金利の付利を続けることとしました。具体的には、「1階」部分として2015年1月から12月までの平均預金額を「基礎残高」と定義し、もともとゼロ金利が適用されていた所要準備を超える部分である約210兆円に対し、これまで通りプラス金利を付利します。

次に、階層構造の「2階」部分にはゼロ金利が適用されます。この部分は、今後、マネタリーベースの増加に伴って、マイナス金利の適用残高が累増していくことを防ぐためのものであり、将来的に適宜のタイミングで見直すこととしています。なお、貸出支援基金にかかる資金供給および被災地金融機関支援オペは、今後、無利息で実行しますが、日銀当座預金の適用金利との間で逆鞘となり、これらの制度の利用を妨げることがないよう、各金融機関の利用残高に対応する金額にはゼロ金利を適用します。また、所要準備残高にも、これまで通り、ゼロ金利を適用します。

これら「1階」と「2階」の額を超える当座預金残高に対してのみ▲0.1%が適用されます。これが階層構造の「3階」部分となり、政策的にマイナス金利が付利されるという意味から「政策金利残高」と呼んでいます。今般、日銀当座預金の付利金利が▲0.1%となったということは事実ですが、実際にマイナス金利が適用されるのは、今申し上げた通り、「政策金利残高」のみであり、具体的には現在260兆円程度存在する当座預金のうち一部――マイナス金利のスタート時点では10兆円程度――です。

したがって、金融機関の収益が受ける影響は、かなりの程度緩和される一方、イールドカーブの起点を引き下げるという政策効果は、しっかりと発揮されます。これは、国債の売買など金融取引の価格は、ある新しい取引を行うことに伴う――経済学の専門用語で言うところの――限界的な(marginal)損益によって決定されるからです。すなわち、限界的な日銀当座預金の増加分に▲0.1%の金利が課される仕組みである以上、それがイールドカーブの起点になります。

もとより、こうした日銀当座預金保有に伴うコストとは別に、イールドカーブ全体が低下すること自体が金融機関収益にマイナスの影響をもたらすという面があることも事実です。ただ、この点は、マイナス金利政策に限らず、金融緩和政策に一般的に当てはまるものであり、金融緩和がもたらす効果と裏腹の関係にあります。マイナス金利政策の効果が現れれば、設備投資や住宅投資などの民間需要が増加することが見込まれます。その意味でマイナス金利政策は、デフレ克服へのプロセスを加速させるものです。そうすることが一日でも早い低金利環境からの脱却と金融機関の経営環境を好転させる近道にもなると考えています。金融機関におかれては、こうした点につき、是非、ご理解を賜ったうえで、潜在的な資金需要を積極的に掘り起こし、新たなビジネスチャンスに繋げて頂くことを期待しています。

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の波及効果

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、これまで通り、大規模な長期国債買入れによって長期金利の低下を促しつつ、日銀当座預金の一部に▲0.1%の金利を適用することでイールドカーブの起点を引き下げるものです。この結果、金利全般に、より強い下押し圧力を加えられます。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果は既に現れています。国債のイールドカーブは一段と低下しており、10年程度のゾーンまでマイナスになっています(前掲図表9)。国債利回りの低下を受けて、金融機関の貸出の基準となる金利や住宅ローン金利もはっきりと低下しています。これらの金利低下の効果は、今後、実体経済や物価面に着実に波及していくものと考えています。

この点、預金金利もマイナスになるのではないかとご心配の方もいらっしゃるかもしれません。顧客向けの預金金利は、各金融機関の経営判断によって設定されるものですが、既にわが国よりも深い幅のマイナス金利を導入している欧州諸国においても、――例えばスイスでは▲0.75%となっていますが――預金金利がマイナスになっているケースはほぼ皆無であることは強調しておきたいと思います。欧州での経験を踏まえれば、わが国においても、個人向け預金金利がマイナスとなるという心配は杞憂だと思っています(図表12)。

マイナス金利政策のもとでは、幅広い金利が低下することは事実です。このことは、預金金利が金融政策によってマイナスになるということを意味するものではありません。一方で、資金の借り手からみれば、当然、支払利息が減少することを通じたプラス効果がもたらされます。例えば、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入後の住宅ローン金利をみると、もともと極めて低水準であった預金金利の下げ幅を大きく上回って低下しています。住宅ローン金利の低下は、住宅投資を刺激し、景気拡大効果をもたらします。そもそもマイナス金利政策に限らず、およそあらゆる種類の金融緩和は、金利の低下を伴うものです。個別の主体によって、金利の変化による影響は、短期的には異なり得るものですが、経済全体でみれば、金融緩和による金利の低下は民間需要を刺激し、景気の拡大効果をもたらすものと考えられます。

デフレ脱却と持続的な成長へ向けた日本銀行の決意

わが国では15年以上にわたってデフレが続きました。今後、日本経済が持続的に発展していくためには、一刻も早くデフレから脱却することが最優先の課題です。日本銀行が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定したのは、その使命達成に向けた揺るぎない強い意志を表すものです。「量的・質的金融緩和」政策の導入以来、この3年間で日本経済はデフレ脱却に向けて着実に歩みを進めてきましたが、物価安定目標の達成は未だ途半ばです。この間、変化する経済金融情勢に適応するため、金融政策の枠組みも様々な工夫を重ねながら進化を遂げてきました。

この点、昨年12月の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」の円滑な遂行のための措置を決定したことに触れておきたいと思います。特に、(1)適格担保の拡充と、(2)買入れ長期国債の平均残存期間の長期化という措置を講じました。適格担保の拡充については、日本銀行が多額の国債買入れを進めるもとで民間金融機関の適格担保が減少していることを踏まえ、適格担保の範囲を拡充しておくことで、先行き資産買入れをより円滑に進めることを可能にしたものです。また、買入れ長期国債の平均残存期間の長期化については、国債市場の流動性を踏まえつつ、買入れをより柔軟かつ円滑に進めることを狙ったものです。このように、「マイナス金利」だけでなく、今後とも、「量」および「質」の面での追加緩和も、当然、選択肢となります。この新たな枠組みは、デフレからの脱却という日本銀行の任務を遂行するに当たり、強力な手段になると確信しています。

日本経済の成長力強化と金融政策

今後、日本経済が持続的な成長を実現していくためには、デフレからの脱却に加え、中期的な成長力を高めていくことも不可欠の課題です。先ほど述べたように、日本の潜在成長率は0%台前半ないし半ば程度まで低下したと推計されます。今後の人口減少を所与とすると、潜在成長率を引き上げていくうえでは、労働生産性の底上げが鍵を握ると思います。そうした観点からみると、今後推進すべき構造改革の要諦は、経済的側面だけではなく社会的な面も含め、いかに生産性を引き上げる仕組みや環境を整えていくかであると考えます。政府が構造改革の手を緩めることなくそうした役割を発揮し続けていくことを強く願っています。

もちろん、日本銀行も成長力の強化に貢献できる面があります。強力な金融緩和は、デフレマインドを払拭するとともに、企業が積極的な投資や生産性向上に取り組みやすい環境作りに資すると考えられるからです。さらに、日本銀行では、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業に対するサポートも行っています。日本銀行は「量的・質的金融緩和」のなかで年間約3兆円のペースでETFの買入れを行ってきましたが、これに加えて3,000億円の買入れ枠を新設し、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」を対象とするETFの買入れを来月から行うこととしました。成長力強化への私どもの思いを託した本スキームの稼働開始に向けて、市場関係者のみなさまから様々な前向きなご意見を頂戴しており、買入れ対象基準や買入れスキームの検討を精力的に進めているところです。

以上、お話ししてきたように、私は、デフレ克服に向けた金融政策と潜在成長率の引き上げに向けた構造改革は、日本経済が持続的な成長軌道に復するために、車の両輪として進められなければならないと考えています。金融政策については、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入で金融緩和をさらに進めました。アベノミクスの元の「第三の矢」である成長戦略については、より高く、より速く飛んで欲しいと願っています。そして何よりも、家計や企業には、かつてない緩和的な金融環境をとことん活用してもらい、前向きな経済活動に取り組んで頂きたいと思っています。

4.おわりに

最後に沖縄県経済の現状等についてお話しします。

沖縄県経済は、全体として拡大を続けています。この背景としては、公共投資が高水準で推移していることと、為替水準や国際航空路線の増加、さらに訪日ビザの要件緩和などに支えられ、観光需要が増加していることが挙げられます。建設、観光業を起点とした企業活動の活発化から、雇用・所得環境も着実に改善しており、個人消費においても高単価商品への選好がみられるなど、所得から支出へという前向きの循環メカニズムが働いております。これを裏付けるように、那覇支店の短観における企業の景況感は、昨年9月と12月の2期連続で既往ピークを更新しています。

好調な観光需要について仔細にみると、昨年の沖縄県への観光客数は、中国など海外からの観光客の大幅増加により、前年比70万人増の年間776万人と、こちらも既往ピークを更新しました。本年入り後も、増加基調は続いており、これまでのところ、中国経済の減速による影響はみられていません。観光需要が高まるなかで、ホテル客室稼働率や客単価は上昇しています。また、昨年の繁忙期には、外国人観光客の増加により、国内観光客が沖縄旅行を諦めるという状況も生じたとのことでした。この観光需要は、近隣諸国における海外旅行ブームや那覇空港の滑走路増設により長期化するとの見方に加え、国際観光拠点をテーマとした「国家戦略特区」への指定が、ホテル建設等の民間設備投資の増加に繋がっています。また、免税品やお土産品需要を通じて小売業や卸売業の業績にも波及しています。

今後を展望すると、沖縄県では主要産業である観光業について、「観光収入1兆円」、「観光客数1,000万人」という目標を掲げています。こうした目標達成のために、「世界水準の観光リゾート地」として海外からの富裕層を取り込む方向性が示されています。その実現には、豊かな自然、15世紀の琉球王国の誕生に始まる歴史的・文化的資産という強みを活かしていくとともに、観光業の一層の高付加価値化を推進していくことが必要になると思います。

このほか、地理的特性を活かした取り組みとして、物流面では、アジア主要都市への最速物流拠点を目指した「沖縄国際物流ハブ」の整備が着実に進められています。また、新たな国際コンベンション施設の整備が決定しており、MICE(meeting, incentive, convention, and exhibition/event)需要の喚起やビジネスマッチングの促進が期待されています。こうしたインフラ整備は、近隣諸国の経済成長に伴い、沖縄県の振興に大きく貢献するものとみております。

当地には「万国津梁(ばんこくしんりょう)」という言葉があります。15世紀、琉球王国が中継貿易国家として繁栄をきわめていた時の言葉と聞いています。琉球王国は、日本、中国、朝鮮、東南アジア諸国、いずれからも近い場所にありました。その地理的な優位性を活かし、貿易船を用いて世界の懸け橋となるという意味と理解しています。「万国津梁」という言葉は、現在の沖縄にも当てはまります。しかも、より一層、当てはまると思います。国際物流のゲートウェイ機能だけではなく、観光地としても、世界の懸け橋となっているからです。

日本銀行としても、那覇支店を中心に、沖縄県経済の特性を活かした一層の発展に、少しでも貢献できるよう努めてまいりたいと考えています。

最後になりましたが、沖縄県経済のますますの発展を心より祈念し、挨拶の言葉とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。

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