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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2016年10月21日

目次

1.はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。信用組合業界は、平素より、相互扶助の理念に基づく協同組合組織の金融機関として、地域・業域・職域で活動する中小企業や個人に対して金融サービスを提供し、わが国経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対して、日本銀行を代表し、心より敬意を表したいと思います。

本日は、最初に、日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムを巡る話題についてお話しします。

2.日本銀行の金融政策運営

日本銀行は、先月の金融政策決定会合において、これまでの金融緩和策についての「総括的な検証」を行い、その検証結果を踏まえて、金融緩和強化のための新しい枠組である「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。

新しい政策枠組みは、2つの要素から成り立っています。第1に、金融市場調節によって長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、第2に、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」です。

まず、「イールドカーブ・コントロール」について説明します。日本銀行は、1月のマイナス金利の導入以来、大規模な国債の買入れとの組み合わせによって、イールドカーブ全体にわたって金利の低下を促してきました。その結果、国債金利だけでなく貸出金利なども低下しており、景気にプラスの影響をもたらしました。ただ、一方でイールドカーブの過度な低下やフラット化は、金融機関収益への影響が大きいほか、保険や年金などの運用利回りの低下を通じて、マインド面に悪影響を及ぼす可能性もあります。新しい枠組みでは、経済・物価情勢だけでなく、金融情勢も十分踏まえたうえで、2%の「物価安定の目標」を実現するために最も適切なイールドカーブの形成を促していくこととします。

具体的には、毎回の決定会合で決定・公表する「金融市場調節方針」において、(1)日本銀行当座預金に適用する短期金利および(2)10年物国債利回りの操作目標、の2つの金利水準を示します。今回の決定会合では、概ね現状程度のイールドカーブをイメージして、短期政策金利を−0.1%とするとともに、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう長期国債の買入れを行うこととしました。また、買入れ額は、年間増加額約80兆円をめどとしました。

イールドカーブ・コントロールを中心とする新しい枠組みでは、従来の枠組みに比べて、経済・物価・金融情勢に応じてより柔軟に対応することが可能です。結果として、政策の持続性も高まるものと考えています。

次に、「オーバーシュート型コミットメント」について説明します。日本銀行は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという新しいコミットメントを導入しました。

ここで「量的・質的金融緩和」導入以降の3年間を振り返りますと、企業収益は過去最高水準となる一方、失業率が3%まで低下するなど労働需給は大幅に改善しており、3年連続でベアが実施されました。そうしたもとで、消費者物価はエネルギー価格の影響を除けば2年11か月連続でプラスで推移しており、わが国の経済は、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなりました。

しかしながら、2%の「物価安定の目標」は実現できていません。これは、(1)原油価格の下落、(2)消費税率引き上げ後の需要の弱さ、(3)新興国発の市場の不安定化などの「逆風」によって、実際の物価上昇率が低下し、もともと過去の物価にひきずられやすい予想物価上昇率が弱含んだことが主な要因です。

「オーバーシュート型コミットメント」は、弱含んでしまった予想物価上昇率を引き上げるためのものです。もともと2%の目標を実現するということは、景気変動などを均して平均的に2%を実現するということですから、2%を超えて推移する局面は想定されています。しかし、金融政策には効果が現れるまでに時間差があることを踏まえると、実際に2%を安定的に超えるまで金融緩和を続ける、というのは極めて強いコミットメントです。これによって、2%の「物価安定の目標」の実現に対する人々の信認を高めることを狙いとしています。

日本銀行は、新たな枠組みのもと、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、今後とも金融緩和をしっかり推進してまいります。

3.金融システムを巡る話題

次に、金融システム面についてお話しします。

金融仲介活動の現状をみると、金融機関の貸出は、幅広い業種での資金需要を背景に、堅調な伸びを維持しています。信用組合の貸出も、前年比3%近い伸びを続けています。また、金融機関や機関投資家などによる有価証券投資の面でも、リスクテイクの動きが拡がっています。

こうした金融仲介活動のもとで、企業や家計の資金調達環境はきわめて緩和的な状況となっています。他方、マクロ的にみて、行き過ぎたリスクテイクや信用量の増加といった金融活動の過熱を窺わせる状況にはなっていません。現時点では、金融システムの安定性に大きな問題は生じていないと判断しています。

もっとも、金融機関の収益の状況をみると、低金利環境のもとでの貸出利鞘の縮小や、高齢化や人口減少といった構造的な要因を背景に、基礎的な収益力は趨勢的に低下しています。特に、マイナス金利政策の導入以降は、市場金利の低下や競争の激化などを背景に、貸出金利の低下が加速しており、収益のさらなる下押し圧力として作用しています。地域経済に基盤を置く信用組合にとっても、厳しい経営環境であることは確かですが、地域経済が活力を高めていくうえで、信用組合が、地域の企業や家計に対する金融サービスの提供を通じて果たす役割は大きいものがあります。また、地域経済の活力向上は、信用組合自身の経営基盤の強化に繋がっていくと考えています。

こうした中、信用組合業界では、本年4月、「信用組合の中長期ビジョン」を策定し、「資金・知恵・ネットワーク」の3つの面で、構造変化に適応した新たな相互扶助を実践することを掲げておられます。これを踏まえ、各信用組合では、地域で成長が見込める分野への資金供給の強化や、コンサルティングによる組合員の起業・創業支援、店舗の地域コミュニティ拠点としての活用といった取り組みを進めておられます。また、全国の組合員をつなぐ「しんくみネット」についても、4月に全面リニューアルを行い、利用促進を図るなど、取引先の営業・経営支援活動にも注力されています。こうした皆様の取り組みが、今後、さらなる成果を上げていかれることを強く期待しています。

4.おわりに

最後になりますが、今後、信用組合業界が、ますます発展していかれることを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。