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【挨拶】オープン・イノベーションによる付加価値の創造第2回FinTechフォーラムにおける挨拶

日本銀行理事 桑原 茂裕
2016年11月8日

目次

はじめに

日本銀行の桑原でございます。本日は「第2回FinTechフォーラム」にお集まり頂き、誠にありがとうございます。

本日のフォーラムのテーマは「金融サービスにおけるオープン・イノベーション」ということですので、「オープン・イノベーションによる付加価値の創造」についてお話をさせていただきたいと思います。

1.イノベーションの重要性

20世紀初頭に活躍したマクロ経済学者シュンペーターは、長期的な均衡をイノベーションがない沈滞した状況と捉え、好況はイノベーションによって経済が攪乱されることによって始まると主張しました。すなわち、イノベーションを不断に繰り返さないと、経済は持続可能性を維持できないと考えたのです。

足もとの状況に目を転じると、テクノロジーの進展、グローバライゼーションの深化などによって、企業を取り巻く競争環境は厳しさを増しています。また、サービスの受益者の価値観や属性は多様化・細分化しており、企業にとっては、よりきめ細かい付加価値の提供が必要になってきています。そして、スマートフォンの爆発的な普及によって、インターネットが従来以上に日常生活の中に入り込んでくるなかでは、こうした傾向はこれまで以上に強まっていくことが予想されます。

わが国の産業が持続的な成長を確保するためには、柔軟かつスピード感を持ってこうした競争環境に対処していくことが鍵になります。今日の成長戦略の柱である「第4次産業革命」の本質も、IoTAIといった技術を活用してイノベーションを起こしていくことにあると言えます。

金融業も例外ではなく、新しい情報技術を活用した顧客サービスの向上が当然必要とされています。金融機関が、イノベーションによって自らのビジネス・モデルを変革し、変化に対応していくこと、果断にフロンティアにチャレンジしていくこと、これらによって付加価値を高めていくことが求められています。

2.イノベーションがオープンであることの意義

イノベーションを推進するに当たっては、そのスピードとインパクトが鍵になります。多様な価値観やニーズに、素早く、そして的確に応えていくことができなければ、持続的な成長は達成できません。しかし、このとき、従来のように、自らのリソースのみを利用する「自前主義」によるイノベーションに頼っていると、おのずと限界が生じてきます。

ここに「オープン・イノベーション」の意義を見出すことができます。外部企業のリソースや知見を活用することで、新たな付加価値を提供できるようになり、顧客満足度をより高めることが可能になります。さらに、独自の強みを有している分野についても、外部のノウハウを選択し活用することで、一段と高い付加価値を提供していくこともできるでしょう。

オープンなイノベーションの重要性は、近代の産業発展の事例からも学びとることができます。1883年に締結されたパリ条約は、特許、実用新案などの工業所有権の保護を目的とした国際条約です。特許制度には、イノベーターに専有権を付与し開発者利益を保証するという元々の目的に加えて、他人の模倣を恐れて秘密にされがちだった産業技術のノウハウの公表が促され、次なるイノベーションのヒントになる効果があると言われています。事実、このパリ条約を契機として、世界的な科学技術の爆発的な発展が始まりました。つまり、情報をオープンにすることには、イノベーションを促進する大きな効果があるのです。

この事実を現代になぞらえてみれば、1980年代初頭のパーソナルコンピュータの黎明期に基本ソフトの情報が公開されたことにより、ソフトウェアや周辺機器の開発が急速に進展した事例や、2000年代における携帯電話、スマートフォンの開発が、オープンソースによる世界共通のプラットフォームによって加速された事例が挙げられます。これらは、情報の公開と共有によってイノベーションが促進された典型例と言えます。

3.金融業におけるオープン・イノベーション

金融業においては、最近フィンテックが大きな注目を集めています。こうしたなか、伝統的な金融機関のみならず、いわゆるフィンテック企業から、これまでにない柔軟で多様なアイディアが持ち込まれ、新しいサービスが次々と提供されつつあり、今後、金融業のビジネス・モデルが大きく変化していく可能性を秘めています。そして、こうした変換期こそ、スピード感を持って多様な価値観やニーズに的確に対応していくことが必要であり、オープン・イノベーションを推進していくことの重要性がますます高まっているものと考えます。

一方で、金融業において、オープン・イノベーションを推進するに当たっては、リスクや留意点を意識しておく必要があります。

第一に、セキュリティ面のリスクがあります。金融機関は円滑な金融・決済システムの根幹を成すものであり、ネットワークのオープン化によってサイバーセキュリティ面のリスクに晒されることには十分な留意が必要です。顧客からの同意を確保しつつ、オープン化によるリスクの増大をしっかりと制御することは、オープン・イノベーションを通じた金融業の発展を促進するために必要なことであり、また利用者の利益を守るうえでも非常に重要な観点です。

第二に、高付加価値のサービスによって顧客利便性を高めるに当たっては、顧客のみならず、金融機関、フィンテック企業も含めた3者のwin-win-winの関係を確保することが鍵になります。この点、フィンテック企業は既存の金融機関を破壊する“Disruptor”だと囃す向きがありますが、発想を転換して、フィンテック企業を金融業の付加価値創造力を高める“Stimulator”として捉える方が、前向きな成果への近道だと考えています。金融機関とフィンテック企業が協調しながら、合意を形成し、適切な競争のもとで顧客満足度を高めていく仕掛けをデザインしていくことで、日本版の金融オープン・イノベーションの推進を図っていく必要があると考えます。

第三に、金融機関とフィンテック企業の協調に当たっては、両者の間に、企業カルチャーの面で大きな差異があるということに留意する必要があります。一方にとっての常識が他方にとっては非常識となる可能性があるのです。ただ、金融分野の発展というゴールは共有できるはずです。そのために、相互理解を深め、お互いの違いを乗り越えていくことがポイントになると考えています。

4.むすびに代えて

従来、日本企業は、技術面でも、またそれを支える人材面でも、「自前主義」の傾向が強いと言われてきました。しかし、我々はいま、インターネットを活用した数々の革新的な技術やサービスが、ハードウェアの処理速度や回線速度の急速な向上と相俟って、産業の構造を大きく変えていく転換点に立っていることを十分に意識する必要があります。従って、今こそ、発想を転換し、オープン・イノベーションを推し進めていく好機と捉えるべきだと考えます。

最後に、本日のフォーラムが、皆様にとって新たな知見や視点を得る場となりますことを祈念して、私からのご挨拶とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。