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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策埼玉県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 政井 貴子
2016年11月21日

目次

I.はじめに

本日は、埼玉県の行政および金融・経済界を代表される皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、日頃より調査統計局のほか日本銀行各部署の業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りして御礼申し上げます。

金融経済懇談会は、日本銀行の政策委員が、金融経済情勢や金融政策についてご説明申し上げるとともに、各地の経済・金融の現状や日本銀行の政策に対するご意見などを拝聴させていただく機会として開催しております。

本日は、経済・物価情勢や日本銀行の金融政策などについてお話させていただき、その後、皆様から当地の実情に即したお話やご意見などを承りたく存じます。

II.経済・物価情勢

日本銀行は、今月初めの政策委員会・金融政策決定会合において、「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」を取りまとめ、2018年度までの経済・物価見通しを公表しました。

経済・物価情勢については、「展望レポート」の内容に沿って、お話したいと思います。

1.海外経済の動向

はじめに、海外経済の動向ですが、現状については、「緩やかな成長が続いているが、新興国を中心に幾分減速している」と判断しています。

先行きについては、現在のような状態が暫く続いたのち、先進国の着実な成長が続き、新興国も、その好影響の波及や各国の政策効果によって、徐々に成長率を高めていくと想定しています。先月公表されたIMFの世界経済見通しでも、概ね同様の見方が示されています(図表1)。

主要地域別にみると、米国では、鉱工業部門は力強さに欠けますが、家計支出の堅調さに支えられた回復が着実に続いており、先行きについても、緩和的な金融環境が下支えとなり民間需要を中心にしっかりとした成長が続くと見込まれます。

欧州では、英国のEU離脱を巡る不確実性が重石となりますが、基調としては緩やかな回復経路をたどるとみられます。

中国については、輸出・生産面を中心に幾分減速した状態が続いていますが、先行きは製造業部門に鈍さを残しつつも、当局が景気下支えに積極的に取り組むもとで、概ね安定した成長経路をたどると想定しています。

中国以外の新興国・資源国では、景気刺激策の効果やIT関連需要の回復を受けて前向きな動きもみられますが、全体としては減速した状態がなお続いています。暫くこうした状態が続くとみられますが、先進国の着実な成長の波及や景気刺激策の効果などから、徐々に成長率は高まっていくと予想しています。

2.わが国の経済・物価情勢

(1)現状

次に、国内の経済・物価情勢についてお話します。

わが国の景気については、「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている」と判断しています。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加基調にあります(図表2)。9月短観における2016年度の事業計画をみると、GDPの概念に近いベースの設備投資計画は、収益計画が幾分悪化しているにもかかわらず、総じて堅調が維持されています(図表3)。また、個人消費は、一部に弱めの動きがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しを続けています(図表4、図表5)。輸出は、先ほどお話した海外経済動向のもと、横ばい圏内の動きとなっています。こうした内外需要を映じて、鉱工業生産は、横ばい圏内の動きが続いています(図表6)。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比が小幅のマイナスとなっています(図表7)。

(2)先行きの見通し

先行きについては、見通し期間中、景気面では「暫くの間、輸出・生産面に鈍さが残るものの、その後は緩やかに拡大していく」と予想しています。国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、増加基調をたどると考えられます。この間、海外経済の回復に伴い、輸出は緩やかな増加に転じるとみられます。以上のもとで、見通し期間を通じて、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。10月の展望レポートにおける政策委員見通しの中央値をみると、実質GDP成長率は16年度+1.0%、17年度+1.3%、18年度+0.9%となっています(図表8)。

主要な項目別にみると、設備投資は、海外経済の減速や既往の円高の影響により、本年度末にかけて、製造業を中心に一旦下押し圧力がかかるものの、その後は、緩やかな増加を続けると予想しています。これは、きわめて投資刺激的な金融環境が維持されるもと、高水準の企業収益が見込まれるなか、財政投融資や投資減税などの財政政策の効果、そして期待成長率の緩やかな改善などが効いてくるためです。さらに、企業収益が多少下振れしたとしても、(1)東京オリンピックを見据えた投資、(2)人手不足等に対応した効率化・省力化投資、(3)設備の老朽化に対応した維持・更新投資などを中心に、設備投資を下支えする姿を想定しています。個人消費は、経済対策にも支えられた実質可処分所得の増加を背景に、緩やかに増加していくと見込まれるほか、住宅投資は、持ち直しを続けると予想されます。輸出は、見通し期間の中盤以降、新興国の減速の影響が和らぐのに伴い、わが国が比較優位を持つ資本財の輸出が徐々に持ち直すことなどから、ごく緩やかに上昇していくと見込まれます。鉱工業生産は、来年度入り後、経済対策の効果も顕現化するなかで、緩やかな増加に向かうと見込んでいます。

また、物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみられますが、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、見通し期間の後半には2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。10月の展望レポートにおける生鮮食品を除く消費者物価の前年比について、政策委員見通しの中央値は、16年度-0.1%、17年度+1.5%、18年度+1.7%となっています(前掲図表8)。

(3)経済・物価見通しに関する留意点

以上、2018年度までの経済・物価の中心的な見通しをお話しました。この見通しには当然、上下双方向のリスクがありますが、経済、物価とも下振れリスクは引き続き大きいと考えています。

私自身が特に懸念しているのは、海外経済の不確実性の高まりを背景として、グローバルな金融市場が急変するリスクです。米国における新政権の経済運営、英国のEU離脱に向けた交渉、欧州における金融セクターを巡る問題など、不透明感が高い状態が続きます。このような中では、金融市場はどうしてもボラタイルになりやすいものです。個人及び企業のマインドは、足もと底堅く推移しています(図表9)。本年入り後の国際金融市場の混乱や、国内においては、熊本地震、夏場の悪天候など悪化しやすい状況が続いたなかで、よく踏み止まったとの印象を持っています。こうした動きは、心強いところですが、海外情勢を中心に非常に不確実性の高い状況が続くなか、金融市場の急変は、このように踏み止まっているマインドに悪影響を及ぼし得るため、引き続き警戒が必要だと思います。こうした中、日本銀行自身が無用に市場のボラティリティを高めることのないよう、金融政策を運営していくことも重要だと考えています。

III.日本銀行の金融政策

次に、日本銀行の金融政策についてお話します。

日本銀行は、本年9月の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について「総括的な検証」を実施しました。また、検証の結果を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、これまでの金融緩和の枠組みを強化する形で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定しました。まず、検証のポイント及び新しい枠組みについて、改めてご説明します。

1.「総括的な検証」のポイント

「総括的な検証」については、ポイントを3点申し上げます(図表10)。

(1)「量的・質的金融緩和」の効果

日本銀行が2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以降の3年余りで、わが国の経済・物価情勢は大きく改善しました。「量的・質的金融緩和」で想定されていたメカニズムは、主として実質金利の低下を通じた効果です(図表11)。実際、「量的・質的金融緩和」は、予想物価上昇率の押し上げと名目金利の押し下げにより、実質金利を低下させました(図表12)。この間も、自然利子率は趨勢的に低下しましたが、「量的・質的金融緩和」の導入後の実質金利はその水準を十分下回っており、金融環境は改善しました。このように、きわめて緩和的な金融環境の実現を通じて、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではない状態まで来たことは、「量的・質的金融緩和」の成果と言ってよいと思います。これが第1のポイントです。

(2)わが国における予想物価上昇率の期待形成メカニズム

第2のポイントは、予想物価上昇率の形成についてです。予想物価上昇率とは、家計や企業の将来の物価の変化に対する見方のことですが、わが国においては、これが過去の実績に引きずられる傾向――このことを「適合的な」要素と表現します――が、諸外国と比べて際立って強いのです(図表13)。日本銀行は、「量的・質的金融緩和」を通じてフォワード・ルッキングな期待形成への転換を図ってきました。「フォワード・ルッキングな期待形成」とは、「実際の物価上昇率は様々な要因で変化するが、やがては中央銀行が目標とする上昇率に収束する」という見方です。しかし、これが十分に強まる前に、原油価格の下落などから、現実の物価上昇率が低下した結果、人々の予想物価上昇率は適合的な期待形成を通じて、低下しました(図表14)。このことが、依然として2%の「物価安定の目標」を実現出来ていない主な要因であると考えられます。言い換えれば、「物価安定の目標」を実現するためには、フォワード・ルッキングな期待形成が人々の間にしっかりと根付いていくこと――こうした状態を「インフレ期待がアンカーされている」と言います――が大変重要です。

(3)イールドカーブ引き下げの効果と留意点

第3のポイントは、大規模な国債買入れとマイナス金利政策の組み合わせがイールドカーブ全般に影響を及ぼすうえで有効であり、きわめて緩和的な金融環境の実現に効果的であることです。これを受けて、貸出・社債・CP金利ははっきりと低下しました(図表15、図表16)。

一方で、過度な金利低下は、金融仲介機能に悪影響を及ぼす可能性があります。金融機関の預貸利鞘は、90年代以降、趨勢的に縮小傾向となっており、その意味で、かねてより金融機関経営の課題でありました。ただ、マイナス金利の導入後、預金金利の低下幅は、貸出金利の低下幅と比べて小さいものでしたので、この傾向に拍車を掛けたことは否めません。また、長期金利や超長期金利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回りを低下させています(図表17)。こうしたことが、将来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面を通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性もあります。このため、金融政策運営にあたっては、このような金融機能への影響にも配慮していく必要があります。

2.「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のポイント

以上のような検討を踏まえ、新たな金融緩和の枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入が決定されました。この枠組みは、2つの要素から成り立っています。1つは、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を維持する「オーバーシュート型コミットメント」、もう1つは日本銀行が長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」です。

(1)オーバーシュート型コミットメント

まず、オーバーシュート型コミットメントは、先ほど触れました「総括的な検証」のポイントの2点目に対応するものになります(前掲図表10)。すなわち、予想物価上昇率を高めていく方法として、これを採用しています。もともと、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、金融緩和政策を継続するとコミットしています。今回、このコミットメントに加えて、消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を維持することを約束したものです。今回、敢えて、「安定的に2%を超えるまで」と実績値に基づく約束を行うことで、日本銀行の強い決意を示すこととしたものです。

(2)イールドカーブ・コントロール

次に、イールドカーブ・コントロールです。これは、さきほど申し上げた「総括的な検証」のポイントの2点目と3点目に対応しています(前掲図表10)。イールドカーブ・コントロールにおいても、大量の国債買入れを継続していくことは、これまでと何ら変わりありません。これまでと異なるのは、従来、マネタリーベースや国債保有残高の増加ペースを操作目標としてきたのに対して、新しい枠組みでは、短期政策金利と10年金利の操作目標を示すこととしたことです。これまでの枠組みは、実務的な運営方法が明確なのですが、望ましいイールドカーブとの対比でみて、金利の引き下げが不十分なものに止まったり、逆に過度な引き下げをもたらす可能性がありました。新しい枠組みでは、直接長期金利を目標とすることから、経済・物価・金融情勢に応じて柔軟かつ効果的な金融政策運営が可能になったと考えられます。結果として、政策の持続性を高めることとなり、予想物価上昇率を高めていくうえでも強力な枠組みとなります。さらに、「総括的な検証」のポイントの3点目で触れました、金融仲介機能に与える影響にも配慮しつつ、政策運営することが可能なものとなっています。

IV.2%の「物価安定の目標」の実現に向けて

日本銀行は、「総括的な検証」で、日本経済が「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなったとしつつ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、これまでより強力な枠組みを導入しました。次にこの点について、お話ししたいと思います。

1.「物価安定の目標」の意義:再訪

そもそも日本銀行は、なぜ2%の「物価安定の目標」の実現が必要と考えているのでしょうか。これに対する考え方は、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のため、政府と日本銀行が政策連携を強化し、共同で公表した2013年1月の共同声明に明確に示されていると思います(図表18)。日本銀行はそれまで、「中長期的な物価安定の目途」として、「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域、当面は1%を目途」としていました。このとき、「物価安定の目標」を日本銀行が導入し、その目標を消費者物価上昇率で2%としたのは、次の認識に基づくとしています。導入後4年近く経過したいま、改めて再訪する意義があると思いますので、以下引用します。

日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。

日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す。

「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・
日本銀行の政策連携について(共同声明)」より抜粋

ここで重要な点は、2%目標はあくまで、日本経済の競争力と成長力の強化に伴って、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていく、との認識に基づくということです。日本銀行に対しては、「無理に物価だけを引き上げるべきではない」、あるいは、「構造改革で潜在成長率を高めることなしに、金融緩和しても意味がない」といった趣旨の議論が一部にあると承知しています。もっとも、この引用部分から分かるとおり、「物価安定の目標」は、物価だけ上昇すれば良いということではもちろんありませんし、構造改革をはじめ、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組みの進展は、2%目標の認識の前提です。言い換えますと、「需要の刺激か供給サイドの強化か」や「金融政策か構造改革か」といった議論を耳にすることが多いのですが、これらは二者択一ではありません。その時々の状況に応じて、どちらかに力点が置かれるものですが、いまの状況では、双方を追及すべきものだと思います。

このように、2%の「物価安定の目標」は成長力の強化と共にあるものです。そうでなければ、長期にわたるデフレを経験してきたわが国においては、物価の上昇に対する漠然とした不安が生じてしまうように思います。

2.「三面作戦」の重要性

経済の競争力と成長力の強化に向けた取組みが特に重要になってきているのは、日本に限ったことではありません。IMFは、本年4月の理事会において、先進国が高い水準で持続的な成長を維持するためには、(1)構造改革、(2)金融緩和の継続、(3)プルーデントな財政サポートから成る、「三面作戦」(“three-pronged approach”)が必要であることで概ね一致していますし、G7首脳宣言やG20の声明でも、金融政策、財政政策および構造改革を総動員することの重要性が謳われています。

繰り返しになりますが、日本経済にとって必要なことは、家計や企業の前向きな動きが加速し、成長力が高まっていくもとでの物価上昇です。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」を実現するため、強力な金融緩和を推進していきます。そのもとで、成長力の強化に向けた取組みのモメンタムを高めていくことは、予想物価上昇率の引き上げにも繋がっていくと思います。ここは重要なところであり、成長力の引き上げには、相応の時間を要すると思われますが、そのモメンタムが高まっていくだけでも、予想物価上昇率は上昇するとみています。

予想物価上昇率は、いわば個人や企業の物価観ですから、それを変えていくのはそう簡単なことではありません。長期にわたるデフレを経験してきたわが国ではなおさらです。もともと、「量的・質的金融緩和」では、必ずデフレから脱却するという日本銀行の強く明確なコミットメントを示すために、目標達成までの期限の目途が2年程度とされました。このため、目標の達成に長い時間を要しているようにみえますが、見方を変えますと、まだ3年半しか経過していないとも言えます。もちろん、気長にやっていけばよいというものではありません。まず、日本銀行が「物価安定の目標」に向けた強いコミットメントを様々な形で示していくことが引き続き重要です。そして、日本銀行がきわめて緩和的な金融環境を維持し、そのうえで、政府が大規模な経済対策への取組みを進めるなか、成長力の強化に向けた取組みを官民でこれまで以上に加速させ、民需を高めていく努力が必要だと思います。

実際、こうした取組みは、現在進行形で進んでいます。先般、政府は大規模な経済対策を決定されたところですし、「働き方改革」については、本年度内を目途に具体的な実行計画を取りまとめると伺っています。また、成長戦略の新たな司令塔として「未来投資会議」を立ち上げられています。こうした取組みは、一朝一夕に成果が出るものでもありません。例えば、昨今、その重要性が叫ばれることの多いインバウンド観光については、もともと政府が経済活性化戦略として、グローバル観光戦略を示されたのは2002年であり、「ビジット・ジャパン事業」の開始は翌2003年です。それから10年かけて、訪日外国人旅行者数は倍増し、2013年に年間1,000万人超となり、今年は既に2,000万人超を記録したということです。また、昨年における訪日外国人の旅行消費額は、5年前の4倍を超える3兆円台まで拡大しています。先月、日本銀行が公表した「地域経済報告」(通称「さくらレポート」)では、インバウンド観光需要の獲得に向けた最近の企業の取組みを紹介していますが、地方も含めて課題の把握と解決に向けた企業の前向きな動き――例えば、海外の旅行代理店への働きかけやSNSを活用したPRのほか、先進的な例では、旅行者の帰国後も越境EC(電子商取引)を通じて需要獲得を図る動きなど――が広がっていることが特徴的です。少子高齢化が進展するわが国では、ややもすれば将来への不安ばかりが強調されがちですが、すぐに効果が目に見えなくとも、創意工夫を凝らしながら絶え間なくこうした取組みを続けることが、日本経済の成長に繋がっていくと思います。

V.おわりに ―― 埼玉県経済について ――

最後に、埼玉県経済についてお話しさせていただきます。

埼玉県は、人も企業も集まってきているポテンシャルの大きな県であると思います。国勢調査(2015年)によると、当県は全国で人口が増加した8つの都県の一つですし、県民の年齢構成をみると、生産年齢人口のウェイトの高い「若い県」であるとも言えます。また、企業については、埼玉県の過去10年間(2005年~2014年)の本社転入超過数は約1,000社にも及び、全国1位となっています。

埼玉県の優位性としては、東京に隣接していることのみならず、その「充実した交通インフラ」が見逃せないと思います。道路網は、東北道、関越道が県内を南北に縦断しているほか、昨年に県内全線開通した圏央道や東京外環道によって東西の道路網も充実し、中央高速道路や東名高速道路へのアクセスも容易です。また、新幹線も、東北・上越・北陸新幹線等が大宮を始めとする県内を走り、今年からは北海道とも結ばれました。このような交通インフラの充実は、災害が少ないことなどと併せて埼玉県経済にとって大きな魅力になっているように思います。

もちろん、このような埼玉県にも課題がない訳ではありません。私の話を締めくくるにあたって、2点申し上げます。

第1に、少子高齢化社会を迎えるなかで、地元企業がどのように安定的な成長を続けていくかという点です。当県は「モノ作り県」と言われるように、高い競争力を有する製造業が数多くありますが、後継者問題に悩む企業も少なくなく、技術の継承が課題となっています。こうした課題には、行政や地域金融機関との連携が大変期待されているところです。このほか、今後の成長分野と期待される観光については、外国人観光客の需要をより一層取り込んでいくことも重要になると思います。2019年には熊谷ラグビー場でラグビーワールドカップが、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技が県内で4種目開催されることが決まっていると伺っています。こうしたイベントは、蔵造りの街並みで有名な「小江戸川越」、盆栽の聖地とも言われる「大宮盆栽村」、自然豊かな「秩父長瀞地域」など、当地の魅力的な観光スポットを内外にアピールする好機になると思います。

第2に、現在、政府でも議論が進められている「働き方改革」への対応です。埼玉県には比較的子育て世代が多く住んでいらっしゃいますが、そうした人たちのワーク・ライフ・バランスの実現には、教育・子育て支援から医療・介護支援まで、幅広い社会インフラの拡充が欠かせません。こうした社会インフラの拡充は、人々が生き生きと働ける地域社会を実現することにも繋がると思います。

これらの課題に関しては、県を始め、各自治体、団体、企業等では既に様々な対応を進めておられているとお聞きしております。そうした県内の皆様の努力が実を結び、今後とも埼玉県が更なる発展を遂げることを期待しています。

ご清聴ありがとうございました。