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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策函館市金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 櫻井 眞
2017年10月18日

1.はじめに

日本銀行の櫻井でございます。本日は、当地の行政および金融・経済界を代表する皆さまとの懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆さまには、日ごろより日本銀行函館支店の業務運営に際して様々なご支援を頂いております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

本日は、皆さまから、当地経済の実情に関するお話や、私どもの政策・業務運営についての忌憚のないご意見を承りたく存じます。まず、私から、国内外の経済動向や日本銀行の政策運営等について、私見も交えつつお話しさせて頂きます。

2.内外経済の現状と先行き

海外経済

まず、海外経済の動向です。海外経済は、緩やかな成長を続けています(図表1)。金融危機以降停滞していた世界の貿易活動が、2016年後半から回復しており、足もとの世界経済の成長を後押ししています。多くの国で、企業収益の改善に伴い設備投資が増加しているほか、雇用・所得環境の改善を背景に個人消費も堅調に推移しています。北朝鮮情勢の緊迫化に対して、国際金融市場が反応する場面もみられましたが、今のところ投資家のリスク回避の動きは限定的です。

地域別にみると、米国や欧州はしっかりとした回復を続けています。世界の貿易活動の回復に連れて輸出が緩やかに増加しています。雇用・所得環境の改善を背景に個人消費が増加基調にあるほか、企業収益が改善する下で設備投資の持ち直しの動きも続いています。米国では、大型ハリケーンの影響で景気が一時的に下押しされる可能性が高いですが、過去の経験等も踏まえると、復興需要にも支えられて回復のモメンタムは維持されると思われます。欧州では、主要国の選挙等を通過し不透明感が後退する下で、このところ循環的な回復力が一段と強まっています。

新興国では、中国は総じて安定した成長を続けています。既往の金融引き締めの効果もあって民間の固定資産投資は増勢が鈍化していますが、機動的な財政運営の下で公共投資は高い伸びを続けています。輸出も基調として持ち直しているほか、個人消費は良好な雇用・所得環境を背景に底堅く推移しています。NIEs・ASEANでは、輸出が増加基調にある下で、企業・家計のマインド改善や各国の景気刺激策の効果などから内需も底堅く推移しています。資源国は、既往の資源価格の底入れもあって、このところ回復傾向が鮮明になっています。

先行きの海外経済は、全体として緩やかな成長を続けるとみています。先進国の着実な成長に加え、その好影響の波及や各国の政策効果によって、新興国の回復もしっかりとしたものになっていくでしょう。IMFが今月発表した世界経済見通しでは、世界経済の成長率は前回見通し(7月時点)から上方修正され、2017年に+3.6%、2018年に+3.7%と伸び率を高めていく姿が予想されています。

もちろん、こうした見通しには不確実性が伴います。米国では、税制改革などの経済政策運営を巡る不透明感が引き続き強いように思います。FRBによる金融政策正常化の進展が見込まれる下で、米国の金利上昇等が国際資金フローに及ぼす影響にも注意が必要です。昨年来、いくつかの新興国で大規模な資金流入がみられていることから、反動が生じた際には影響が大きくなる恐れがあります。また、北朝鮮情勢をはじめとする地政学的リスクが高まっているほか、英国のEU離脱交渉の展開とその影響なども先行きのリスク要因です。より長い目でみると、近年の保護主義的な動きにも引き続き注意が必要だと思います。貿易と直接投資によるサプライチェーンの構築が、過去、長期に亘り世界経済の成長をけん引してきました。今後、保護主義的な動きが強まり、貿易や直接投資が制限されて既存のサプライチェーンの再構築を迫られることになると、世界経済は大きな混乱を来し、またその主要な推進力を失うことになるでしょう。これらの不確実性に留意しつつ、引き続き、海外経済の動向をしっかりと点検していきたいと思います。

国内経済の現状

次に、国内経済の動向です。わが国の景気は緩やかに拡大しています(図表2)。海外経済の緩やかな成長に伴い、輸出が増加基調を続けています。政府の大型経済対策の執行が進捗し、金融政策と財政政策の相乗効果も強まっています。企業部門、家計部門の双方で所得から支出への前向きな循環が強まっており、外需主導から内需の回復を伴うより自律的な経済成長へと移行しつつあります。都市部から地方へ、大企業から中小企業へと景気改善の裾野が拡がっており、経済の頑健性は一層強まっていると感じています。成長率は、2006年以来となる6四半期連続のプラスとなりました。この間、平均して年率+1.7%と、0%台後半とみられる潜在成長率をはっきりと上回る高めの伸びが続いたことで、資本や労働の稼働率を示すマクロの需給ギャップははっきりと改善しています。人々のマインド面にも着実にプラスの影響をもたらしていると思います。

やや子細にみると、企業部門では、自動車関連や資本財を中心に輸出が増加傾向を辿っています(図表3)。企業収益は、昨年後半以降はっきりと改善しています(図表4)。法人企業統計の売上高経常利益率(全産業全規模、季節調整値)は、4~6月期に6.16%と既往最高水準を更新しました。企業の業況感も改善しています。10月2日に公表した短観では、全産業全規模の業況判断D.I.がバブル期の91年以来の水準に達しました。地域や企業規模によるばらつきも小さく、景気改善の裾野が様々な経済主体に拡がっている様子が確認できます(図表5)。この点は、今回の景気拡大局面の特徴の一つだと思います。こうした下で、設備投資は、オリンピック関連や都市再開発、人手不足に対応した省力化・効率化投資等を中心に、緩やかな増加基調にあります(図表6)。短観の2017年度の設備投資計画(全産業全規模+金融機関)は前年比+6.9%、日本政策投資銀行の調査(全産業大企業)では同+11.2%といずれも高い伸びが見込まれています。

家計部門をみると、雇用者数の増加が続く下で、労働需給が着実に引き締まっています(図表7)。有効求人倍率が1.52倍とバブル期のピークを越えて1970年代前半以来の水準に達しているほか、失業率も2.8%とほぼ完全雇用の状態にあります。こうした下で、労働需給を反映しやすいパート労働者の賃金ははっきりと上昇していますが、雇用者の大部分を占める正社員の賃金は緩やかな伸びに止まっています。個人消費は、雇用・所得環境が改善する下で、底堅さを増しています(図表8)。金融危機後の需要喚起策(家電エコポイント等)に併せて購入された耐久財等が買い替え時期を迎えていることや、昨年の大型経済対策の家計支援策(雇用保険料の引き下げ等)などが下支えに寄与しているようです。また当地でもみられるように、近年増加基調にある訪日外国人による消費も、都市部に限らず多くの地域で小売業やサービス業の売上に貢献しています。

以上のように、全体としてみると、景気が着実に改善する中で賃金の改善が遅れています。背景として、安定性を重視する日本の雇用慣行の影響が指摘されています。企業は、不況時の調整が容易でない正社員の賃金引き上げに慎重で、労働組合も、長期的な雇用の安定性を優先して高い賃上げ率を要求しない傾向があるようです。また、近年、女性や高齢者の活躍促進を企図した政府の取り組みもあって、労働供給が増えてきたことも、賃金の上昇圧力を緩和する一因となっているように思います(図表9)。特に現状は、女性や高齢者は賃金が低い傾向にあることから、結果的に人手不足に直面する企業に安価な労働力の調達機会を提供してきた面もあると思います。

国内経済の先行き

先行きも、海外経済の成長や、金融緩和政策と景気刺激的な財政政策の相乗効果を軸に、わが国の景気は緩やかな拡大を続けるとみています。

企業部門では、世界の貿易活動の回復が続くもとで、輸出が増加基調を維持すると思われます。企業収益は、内外需要の増加に伴い増益傾向を辿るでしょう。設備投資は、企業収益の改善や緩和的な金融環境に支えられて緩やかな増加を続けると見込まれます。

家計部門では、労働需要の拡大に伴い賃金の上昇圧力が一段と強まるでしょう。個人消費は、雇用・所得環境の改善に加え、引き続き耐久財の買い替え需要も見込まれることから、緩やかな増加傾向を辿ると見込まれます。こうした下で、潜在成長率を上回る高めの成長が続くことから、需給ギャップもプラス幅が一段と拡大していくものと思われます。

3.物価の現状と先行き

物価の現状

続いて、足もとの課題である物価情勢についてお話しします。生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、+0.7%まで上昇しています(図表10)。昨年春以降の原油価格の持ち直しを背景に、エネルギー価格が物価の押し上げに寄与しています。もっとも、エネルギー価格の影響も除いた消費者物価の前年比は+0.2%と、依然として弱めの動きが続いています。

賃金が緩やかながら上昇する下で、企業にとっては労働コストが増加しています。しかし多くの企業は、コストの増加をそのまま販売価格に転嫁せず、様々な工夫により生産性を高めることで吸収しています。例えば、深夜営業の廃止や時間帯指定の配達サービスの縮小といった過剰サービスや非効率なビジネス・プロセスの見直し、事務職による現場部署の応援などの既存の人材の有効活用、セルフレジや物流施設の無人化、インターネットでの予約処理の導入などの省力化・効率化投資等の取り組みがみられています。

企業は、販売価格への転嫁に慎重な理由として、顧客離れが生じることへの警戒感を挙げています。企業が置かれている厳しい競争環境を踏まえると当然のことのようにも思われますが、以下に挙げる要因によりこうした警戒感が一層強められている面もあると思います。第一に、過去、数十年にわたり物価上昇率がごく低位で安定していたことから、消費者が物価の上昇に慣れていない、あるいは企業がそうした消費者の反応を見越して値上げに慎重な姿勢を強めているように思われます。第二に、スマートフォンの普及やEコマースの拡大等の影響が考えられます。消費者は、手元で広範な価格情報を容易に比較・参照し、必要に応じて遠方からでも商品やサービスを購入できるようになりました。こうした変化は、消費者の利便性を高めると同時に価格感応度を強め、結果的に企業間の価格競争を助長してきた面があると感じています。

物価の先行き

もっとも、こうした状況がいつまでも続くとは考えていません。ビジネス・プロセスの見直しや社内人材の有効活用等には自ずと限界があります。企業が値上げに慎重であっても、次第に労働コストを吸収することが難しくなっていくでしょう。そうした状況では、同じ競争環境にある他社も同様に限界を感じている可能性が高いと思われます。そのため、今後は個社の値上げとともに競合他社が追随する動きが増えてくると思います。現実に値上げの動きが広がれば、消費者も物価の上昇をある程度当然のこととして受け止めるようになると思います。そうなると、企業にとっては更なる値上げの余地が拡がります。雇用者も、物価の上昇分を賃金に反映するよう求めることになるでしょう。こうした循環的なメカニズムの下では、物価上昇率は2%の目標に向けて次第に上昇基調を強めていくと考えられます。

そうした状況がいつ訪れるか、正確に予測することは困難です。しかし、既に運輸業界や外食産業等の一部では労働コストの上昇を理由に値上げに踏み切る動きがみられています。先行き値上げを検討している企業が増えているといった報道も多く聞かれるようになりました。業界により状況は大きく異なるでしょうが、全体として値上げに向けた機運は高まりつつあるように思います。また、最近は、値上げを表明した企業で株価が大きく上昇するなど、世の中の受け止め方も少しずつではありますが変化しているように感じます。首尾よく値上げできた企業の事例等を眺め、値上げにより必ずしも顧客が離れることはないとの見方が増えているということだと思います。消費者も、人手不足に関する報道等が増える中で、企業の置かれた状況に徐々に理解を示し始めているのかもしれません。

以上纏めると、足もとの物価の動きは弱めですが、景気の改善に伴い労働需給が一段と引き締まるに連れて、いずれ物価上昇に向けた循環的なメカニズムが働くものと考えられます。既に、その兆候もみられ始めており、物価上昇に向けたプロセスは着実に進展しているものと評価しています。

4.金融政策

長短金利操作付き量的・質的金融緩和

日本銀行は、昨年9月に金融緩和政策を強化するための新たな枠組みとして「オーバーシュート型コミットメント」と「イールドカーブ・コントロール」の2つの要素からなる「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました(図表11)。

「オーバーシュート型コミットメント」は、生鮮食品を除く消費者物価の前年比が実績として安定的に2%を超えるまで日本銀行がマネタリーベースの拡大方針を継続することにコミットするものです。人々が、物価が毎年2%程度上昇することが当然と考えるようになるには、日本銀行がこうした強い決意を示すとともに、2%を超える物価上昇を実際に経験することが重要だと考えています。

「イールドカーブ・コントロール」では、2%の「物価安定の目標」に照らして最適と考えられる長短金利の形成を促します。現状、短期の政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標を0%程度としています。導入から1年が経過しましたが、これまでのところ長短金利はこうした金融市場調節方針と整合的な水準に維持されています。この間、主たる操作目標が量から金利にシフトしたことで、国債の買入額がその時々の市場環境や累積的な国債買入れの進捗等により相応に変動すること、またその結果として政策の持続性が高まったことが確認されたように思います。

今後の金融政策運営

現状、物価の動きは弱めで、目標の2%からはかなりの距離があります。この点は真摯に受け止める必要があると思います。もっとも先ほどお話ししたように、景気はしっかりと改善しており、物価上昇に向けたプロセスは着実に進展しています。また、今後経済が長期的な成長力を強め、物価にかかる人々の見方が変化する下では、景気に中立的と考えられる実質金利の水準(自然利子率)が高まるとともに、現実の実質金利が低下することで、金融緩和の効果は一段と強まることが期待されます。こうした点を踏まえると、当面は、現行の枠組みの下で強力な金融緩和をしっかりと推進していくことが肝要と思われます。

なお最近は、景気が改善していることもあって、2%の目標が高過ぎるとの指摘も聞かれるようになりました。しかしながら、2%の目標は国内外の事情を広く勘案して設定されたものであり、容易に変更すべきではないと考えます。少し詳しく説明します。まず、消費者物価指数には、物価上昇率が実態よりも高めになる統計上のくせがあります。そのため、実態として物価を安定させるには、消費者物価指数がある程度のプラスである必要があります。また、金融政策の対応余地は上下に対称ではありません。金利をゼロを大きく下回る水準まで引き下げることは難しいため、デフレへの対応余地は相対的に限られます。そのため、普段からある程度プラスの物価上昇率を確保しておくことが望ましいと考えられます。また、2%の目標は主要先進国に共通するグローバル・スタンダードでもあります。同じ2%を目標とすることで、長い目で見た為替レートの安定、ひいては物価の安定にも資すると考えています。

5.経済の供給面の拡大について

賃金・物価の改善が遅れている理由として、いくつかの点を指摘しました。改めて整理すると、労働供給の増加や企業の生産性向上に向けた取り組みといった経済の供給面の拡大が主な要因の一つだと考えています。この点は、今後の経済・物価情勢を考える上で特に重要だと思いますので、以下、少し詳しくお話しさせて頂きます。

まず労働供給についてみると、わが国の労働力率は、直近8月までの5年間で1.8%ポイント上昇しました(前掲図表9)。労働力人口では192万人増加しており、これはこの間の就業者数の増加=282万人の約7割を労働力人口の拡大でカバーしてきたことになります。労働力率のトレンドは2012年頃を境にはっきりと上昇に転じています。高齢化の進展に伴う労働力率の低下圧力も勘案すると、実態としてはかなり急ピッチで労働参加が進んだことになります。背景には、保育所・介護施設の整備や、健康寿命が延びる中での定年の延長・廃止といった、女性や高齢者の活躍促進策等を通じた様々な構造変化があると思います。こうした変化が、人手不足に直面する企業に追加的な労働力の調達機会を提供し、結果として、賃金・物価の上昇圧力を緩和する方向に作用したと考えています。

生産性については計測誤差が大きいためかなり幅をもってみる必要がありますが、例えば米国の調査機関の報告によると、わが国の生産性は、近年、主要先進国対比高めの伸びを示しています(図表12)。これまでわが国の生産性は低いと言われてきましたが、裏を返せば向上余地が大きいということでもあります。足もと、多くの企業が生産性の向上に取り組んでいることは既にお話しした通りです。人手不足を契機に、急速にキャッチアップが進んでいる状況にあると思います。

改めて申し上げるまでもないことですが、こうした供給面の拡大は経済の長期的な成長力を高めます。人口が減少傾向にあるわが国にとって、成長力の強化は大変重要な課題です。成長力の低下は、財政の持続性にかかる懸念や、企業や家計の将来不安を通じた支出の抑制姿勢等にも繋がります。この点、足もとの動きは、短期的に賃金・物価を下押すとしても、経済全体としてみれば間違いなくプラスだと思います。直近の6四半期連続のプラス成長も、循環的な要因だけではなく、こうした構造的な変化に下支えされている面があると思います。日本銀行としても、とにかく物価が上昇すれば良いと考えているわけではありません。経済の好循環が続き国民生活が豊かになるもとで、物価の安定が実現することが大事だと思います。2013年に政府と共同で公表した声明でも、「デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現」を目標に掲げています。足もとの動きはこうした目標に則したものと評価しています。

また、賃金・物価への影響に限ってみても、長い目でみれば必ずしもマイナスとはならないと思います。労働力率の引き上げ、ビジネス・プロセスの見直しや既存の人材の有効活用といった取り組みには自ずと限界があります。いずれこうした面からの賃金・物価の下押し圧力は減衰していくでしょう。また、長期的には供給面の拡大が賃金・物価の上昇に繋がるメカニズムも存在します。第一に、企業の期待収益や家計の恒常所得の増加により、設備投資や個人消費といった需要面が活性化されます。第二に、企業の長期的な経営環境にかかる見通しが好転することで、賃金設定にかかるスタンスが前傾化することが期待されます。第三に、労働生産性の上昇率は、長期的には実質賃金の上昇率に一致することから、長い目でみれば賃金に上昇圧力をもたらします。第四に、経済の長期的な成長力が高まることで、自然利子率が上昇し、金融政策の緩和効果が高まります。こうした点を勘案すると、時間の経過に連れて、短期的なマイナスの影響を徐々に長期的なプラスの影響が上回ることが期待されます。換言すれば、経済の供給面の拡大は、短期的に物価・賃金の上昇を遅らせることはあっても、それを長期に亘り止めることにはならないと考えています。

以上の点を踏まえると、現状は経済の前向きな構造変化に伴う調整過程と捉えることもできると思います。足もとの賃金・物価の上昇率が低いことだけをもって、過度に否定的にみるべきではないでしょう。個人的には、需要・供給の両面がバランスよく成長しつつあり、賃金・物価も将来の上昇に向けた歩みを着実に進めていることから、むしろとても良い状態にあると感じています。その点、重要なことは今の流れを止めないことだと思います。そのためには、日本銀行は現行の枠組みの下で、引き続き強力な金融緩和を推進していくことが重要だと考えています。同時に、政府や企業による構造改革など成長力強化に向けた様々な取り組みが続くことを期待しています。

6.おわりに ―― 道南経済について ――

最後に、道南地域の経済について触れたいと思います。

道南経済にとって、昨年3月の北海道新幹線の開業は大きなプラス効果をもたらしました。昨年の夏には、関東・東北方面からの新幹線利用客が増加し、ホテルに空室がないといった状況も発生しました。今年は新幹線開業2年目を迎え、さすがに昨年ほどの盛り上がりはないものの、新幹線開業前に比べると観光面では好調さを維持しています。一方、当地のもうひとつの主力産業である水産加工業は、原料となるイカ・ホタテの不漁が続く中で厳しい状況となっており、道南経済を全体としてみると、道内他地域や全国と比較して弱めの動きとなっていることは否めません。

道南地域には豊かな可能性があります。観光面では、昨年まで3年連続で「最も魅力的な市町村」の全国一位となった函館のほか、松前の桜、江差追分、大沼や駒ケ岳といったブランド力のある観光資源が目白押しです。また、周辺には、イカ、マグロ、ブリなどの日本有数の漁場が広がるほか、噴火湾岸でのホタテ養殖は全国的に有名です。さらに、知内のニラや厚沢部や今金のジャガイモ、七飯の果樹園など、地域ごとに特色ある農業を展開しています。製造業でも、造船やセメント生産といった長い伝統を有する業種に加え、最近では北斗市などに半導体工場が作られるなど、多様化がみられています。

一方で、道南は高齢化と人口減少が他地域にも増して進んでいるのも事実です。人口減を食い止めるべく、当地の特性を活かした産業を育成していくことは重要な課題です。そのような取り組みとして、当地の気候や土壌がフランスのブルゴーニュ地方に近いことに着目し、高級ワインの生産に乗り出したというのは興味深い一例であり、道南地区における農業の6次産業化、高付加価値化の一つの可能性を示していると思います。

2030年度末には北海道新幹線が札幌まで延伸される予定です。新幹線の札幌延伸は函館や道南全域にメリットがある一方、当地が「通過駅」となり、経済の活力が札幌に吸い寄せられてしまうリスクもない訳ではありません。その意味では、当地における経済活性化への取り組みは待ったなしともいえます。当地の潜在力を活かした成長戦略が実を結び、道南経済の発展に繋がることを祈念して、私からの挨拶とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。