公表資料・広報活動

ホーム > 公表資料・広報活動 > 講演・記者会見 > 講演・挨拶等 2017年 > 【挨拶】黒田総裁(平成29年度入行式)

平成29年度入行式における黒田総裁挨拶

2017年4月3日
日本銀行

皆さん、おはようございます。日本銀行への入行、おめでとうございます。今年も、本店と支店、合わせて149名の新入行員の皆さんを迎えることができ、大変嬉しく思います。日本銀行の役職員を代表して心から歓迎します。

本日、皆さんが集まった日本銀行本店がある日本橋本石町は――支店入行の人は、明日から研修で来ていただきますが――今から400年以上も前に、豊臣秀吉から関東に国替えを命じられた徳川家康が、質の高い小判の普及を目指してその製造所を設けさせた、由緒ある場所です。17世紀末には、この地が金貨製造の拠点である「金座」となり、この界隈での金融業の発展を受けて、1896年(明治29年)に日本銀行本店が置かれました。この時建築された本店本館は、日本近代建築界の雄である辰野金吾により、当時の技術と意匠の粋を集めて設計された文化的価値の高い建物です。現在この本館は、東日本大震災の教訓も踏まえ、巨大地震が来ても倒れることがないように免震化を進めています。百年以上にわたり、わが国の金融経済の激動の歴史を見つめてきた建物が、現代の最新技術により、新たな基礎を与えられようとしているのです。

このように日本銀行本店を巡る歴史を振り返りますと、その時々で時代背景や金融経済情勢は大きく異なっていても、「通貨価値の安定」――現在の日本銀行法のもとでは、「物価の安定」とそれと密接に関係する「金融システムの安定」と言うのがより相応しいのですが――を通じて経済の発展に努めていくことの重要性は、どの時代においても全く変わりがない、ということを改めて強く感じます。日本銀行は、わが国の中央銀行として、この責務に応えていかなければなりません。同時に、時代によって日本銀行を取り巻く環境が大きく変化する中で、いつの時代にも変わらぬ責務を果たすためには、本館の免震化が象徴するように、最新の知見と技術を駆使して、常に新たな挑戦を続けていくことが求められます。

現在、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、強力な金融緩和を推進しています。2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、昨年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」、9月には「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と、金融緩和を強化してきました。これらはまさに、物価の安定を目指して、これまでの知識・経験を活かすとともに、実務面でも最大限の工夫を凝らしながら、前例のない挑戦を続ける中で生み出されてきたものです。

本日入行する皆さんが日本銀行で勤務する間にも、日本銀行を取り巻く環境は大きく変化し続けると思います。その中で「物価の安定」と「金融システムの安定」を確保していくためには、この中央銀行としての責務を常に意識するとともに、外部環境の変化に的確に対応していくことが大事です。こうした観点から、新入行員の皆さんに心掛けてほしいことが3点あります。

1点目は、「幅広い視野で物事を考えてほしい」ということです。日本銀行が担っている金融政策と金融システム政策はいずれも裾野が広く、わが国の社会・経済全体に大きな影響を与えます。グローバル化が進んだ現代では、世界経済にも少なからぬ影響を及ぼしています。同時に、日本銀行も、わが国や世界の社会・経済の動向から大きな影響を受けます。皆さんが生まれた平成以降でみても、バブルの崩壊と金融システム不安、リーマンショックや欧州債務危機、アジアをはじめとする新興国の台頭、最近では英国の欧州連合離脱など、大きな変化が絶え間なく生じています。また、少子高齢化の進展、ITなどの技術革新といった構造変化や、人々の経済成長、物価、財政などに対する予想の変化の影響もあります。こうしたもとで、日本銀行が適切に政策を遂行していくうえでは、「幅広い視野で物事を考える」、さらには「世の中の底流にある基調的な変化を捉える」という姿勢が大変重要です。

2点目は、「日々の仕事にしっかりと取り組んでほしい」ということです。日本銀行は銀行業務を通じて政策を行っていますので、実際の仕事は地道なものがほとんどです。また、皆さんにとっては、どの仕事も初めてで、先輩から教わっても、何故そうするのか分からないことも多いと思います。しかし、取り組んでいるうちに、一つひとつの仕事には大切な意味があり、その積み重ねが日本銀行の政策を支えていることが分かってきます。まずは、先輩の指導のもと、基本動作を身に着けてください。同時に、様々な理論も参考にしながら、常に自分の頭で考えることを習慣づけてほしいと思います。世界の中央銀行の中で、日本銀行の大きな強みの1つは「現場力」、すなわち正確でスピーディな実務遂行力の高さです。現在の強力な金融緩和を支えているのも、この「現場力」です。これを身に着けるためには、日々の仕事に地道に取り組んでいくことが何よりも大事です。

3点目は、「周囲の人に信頼される人になってほしい」ということです。日本銀行にとって、国民の皆さんから信頼を得ることは、政策を遂行するうえで大変重要な前提です。皆さんにとって「周囲の人」と言えば、まずは上司、先輩、同僚の人たちでしょう。やがて金融機関や企業の方をはじめ、幅広い方々と接する機会が増えていきます。こうした方々の意見に良く耳を傾け、日本銀行の考えも良く伝えることで、日本銀行に対する信頼が形作られていきます。日本銀行に対する信認は、皆さん一人ひとりに対する信頼の上に成り立っていることを心に留めてほしいと思います。

今日から、皆さんの長きにわたる社会人生活が始まります。健康に留意し、常にフレッシュな気持ちとチャレンジ精神を大事にしながら仕事に取り組んでください。

私からの話は以上です。皆さんの晴れやかで希望に満ちた表情を拝見していますと、日本銀行という組織が新たな活力を得たことを実感します。日本銀行の使命を果たすため、ともに頑張って行きましょう。皆さんが、元気で活躍されることをお祈りして、私からの歓迎の挨拶とさせていただきます。