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【挨拶】全国信用金庫大会における挨拶

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2018年6月20日

はじめに

本日は、全国信用金庫大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。

信用金庫業界の皆様方におかれては、地域とともに歩む金融機関として、中小企業のサポートや地域経済の活性化に積極的に取り組んでおられます。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して改めて敬意を表したいと思います。また、皆様方には、日頃より、日本銀行の政策や業務運営に多大なご協力を頂いています。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

本日は、はじめに経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてお話しし、次に金融システム面の話題について申し上げたいと思います。

経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、海外経済は、先進国と新興国の景気がバランスよく改善するもとで、着実な成長を続けています。先行きについても、幅広い地域で景気の前向きの循環が働いていることから、当面、海外経済がしっかりとした成長を続ける確度は高いとみています。IMFの「世界経済見通し」をみても、2018年、2019年の成長率は、いずれも+3.9%と、90年代以降の長期的な平均を超える高い伸びが予想されています。

こうした海外経済の成長にも後押しされて、わが国の経済は、緩やかに拡大しています。企業部門についてみると、輸出・生産が、増加基調を辿るもとで、企業収益は過去最高水準で推移しており、設備投資も増加傾向を続けています。家計部門でも改善の動きが続いています。完全失業率が1993年以来の2%台半ばまで低下するなど、労働需給は一段と引き締まっており、雇用者所得が緩やかな増加を続けています。こうした雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。

先行きについても、わが国経済は緩やかな拡大を続けるとみています。2018年度は海外経済が着実な成長を続けるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けるとみています。2019年度から2020年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するとみられますが、堅調な外需に支えられて、景気の拡大基調が続くと見込んでいます。もちろん、こうした景気拡大の持続性を巡っては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響など、様々な不確実性がありますので、引き続き注意深くみていきたいと思います。

物価上昇率については、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、2%の「物価安定の目標」に向けて上昇率を高めていくと予想しています。もっとも、これまでのところ、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景に、景気の拡大や労働需給の引き締まりと比べて、物価は、なお弱めの動きが続いています。需給ギャップの着実な改善を原動力として、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているとみていますが、先行きの物価動向については、引き続き注意深く点検していく必要があると考えています。

金融政策運営面では、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、強力な金融緩和を進めています。具体的には、2016年9月に導入した「イールドカーブ・コントロール」の枠組みのもとで、その時々の「経済・物価・金融情勢」を踏まえながら、2%の実現のために最も適切なイールドカーブの形成を促すこととしています。こうしたもとで国債金利は安定的に推移し、わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にあります。

先ほど申し上げたように、世界経済が着実な成長を続けるもとで、わが国の景気は、緩やかに拡大しています。しかしながら、2%の「物価安定の目標」までにはなお距離があり、日本銀行としては、現在の強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適切であると考えています。

金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題について、お話しします。

わが国の金融システムは全体として安定性を維持しています。そのもとで、信用金庫を含む地域金融機関は、ミドルリスク企業向けを含む中小企業向け貸出に注力するなど、金融仲介活動は引き続き積極的な状況にあります。

一方で、地域金融機関の経営環境に目を転じると、長引く低金利環境に加え、地域の人口や企業数の減少に直面するもとで、金融機関間の貸出競争が激化しており、基礎的収益力は趨勢的に低下しています。

そうした厳しい経営環境ではありますが、地域経済の活力を高めていく上で、地域に根差した信用金庫が果たす役割は大きいと考えています。例えば、地域の企業のニーズや課題を踏まえ、その成長分野への進出や生産性向上を支援したり、家計の資産形成を促進していくことが重要と考えられます。これらの取り組みを通じて、地域経済の活力向上を図ることは、信用金庫自身の収益力向上や経営基盤の強化にも繋がっていくと考えています。

この点、信用金庫業界では、本年度からスタートした「しんきん『共創力』発揮3か年計画」において、地元企業への円滑な資金供給に加え、価値ある提案や肌目細かな支援を行うことによって、地域社会の成長に貢献していくとされています。また、金融仲介サービスの付加価値向上を図ると同時に、信用金庫間での業務の共同化などによる経営効率化を図ることで、信用金庫自身の収益力を高めていく方針も打ち出されています。

日本銀行としても、考査・モニタリングのほか、貸出増加や成長基盤強化を支援するための資金供給の実施、セミナー等を通じて、皆様方の取り組みを引き続き積極的にサポートしていきたいと考えています。

おわりに

最後に、信用金庫業界が今後ますます発展していかれることを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。