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【挨拶】どうなるキャッシュレス決済手段:対面決済の未来第7回FinTechフォーラム

日本銀行理事 池田 唯一
2018年11月30日

はじめに

日本銀行理事の池田でございます。本日は第7回FinTechフォーラムにお集まりいただき、誠にありがとうございます。

今回のフォーラムでは、昨今、注目を集めておりますキャッシュレス決済、なかでも店頭での対面決済をテーマに取り上げました。日本は、ATMへのアクセスが良く、クリーンな紙幣が提供され続けており、偽札も少ないことから、現金の使い勝手が大変よい国だといえます。同時に、情報技術の発展やスマートフォンの普及などをきっかけに、このところ、多様なキャッシュレス決済サービスが登場してきており、店頭での決済をより便利で安全なものにするための手段として発展することが期待されています。

1.多様化する対面決済手段

わが国では、従来、現金以外の対面決済手段として、クレジットカードが広く普及しており、近年においてもその決済額は増加を続けています。また、ICチップを埋め込んだカードやスマートフォンをかざして決済する非接触型の電子マネーも、早くから提供されてきました。最近では、QRコードを用いてスマートフォンで決済するサービスが次々に登場しており、決済手段が多様化するとともに、数多くのサービス提供事業者が市場に参入し、かつそうした事業者の業種も様々となっております。そして、このように多様な事業者が、ユーザーすなわち消費者の開拓と、加盟店の開拓というふたつの市場開拓を活発に進めており、キャッシュレス決済は、金融・決済において最も注目を集める分野のひとつとなっています。

本日は、非接触型の決済サービスやQRコード決済サービスを提供されている事業者の方々をお招きして、こうした多様な決済サービスの現状と課題、そして、今後の展望について、様々な角度からのお話を伺うとともに、ディスカッションをさせて頂く予定です。

2.日本銀行の視点

こうしたトピックを日本銀行FinTechセンターが取り上げるのは、便利で安全な決済サービスの普及や新しい金融サービスの登場が、日本経済の成長に貢献しうるものだからです。リテール決済におけるイノベーションは、決済に関する利便性の向上やコストの削減といった、決済そのものの高度化に資するだけではありません。例えば、様々な企業が決済に付随するデータをマーケティングに活用したり、あるいは決済以外のサービスと連動させることで、新たなサービスや付加価値を生みだすことができると指摘されていますし、そうした取組みは既に盛んに行われています。

その一方で、新しい決済サービスが特別のリスクを内包していることもありえます。リテール決済は国民生活や経済活動を支える重要なインフラであり、その安全性や安定性が強く求められます。とりわけ、現金と同様、身近なものであるだけに、いつでも安心して使えるサービスであること、個人情報保護や不正利用などに関し、セキュリティの面で適切な対応が採られていることが重要になるでしょう。

また、新たな決済サービスが誕生し、それが普及する過程では、決済インフラの構造に大きな変化が生じていく可能性があります。中央銀行には、わが国全体の支払決済の安全性や効率性に広く目配りしながら、新しい動きや可能性を適切にモニターし、未来の決済インフラの姿を展望していく役割が期待されているものと考えています。

3.キャッシュレス決済サービスの発展に向けた課題

さて、決済ビジネスではネットワーク外部性が強く働く、すなわち、沢山の人が使う決済手段ほど利便性が高まり、多くのユーザーや加盟店を集めることによって普及がさらに一段と進展することが考えられます。QRコード決済が極めて短期間のうちに普及した中国や、モバイル送金サービスが急速に普及したスウェーデン、クレジットカード決済が浸透した韓国など、対象となる決済手段は様々ながら、キャッシュレス決済がネットワーク外部性を急激に高め、一気に拡大したとみられる事例も存在します。

わが国における、便利で安全なキャッシュレス決済サービスの普及ということを考える場合には、どのような課題があるのでしょうか。これには、さきほど述べました決済のネットワーク外部性や、加盟店側における導入インセンティブに加え、ユーザー側にある心理的なものも含めた抵抗を如何に取り払うかということも関係しているかもしれません。

スマートフォンを用いた新しい決済サービスでは、まず、使ってみようと思い立ち、アプリをインストールし、銀行口座やクレジットカードの情報を登録し、店舗で実際にスマートフォンを取り出して使ってみるというように、何段階かの壁があるように思われます。

こうした消費者行動や心理の分析は、リテール決済ビジネスに限らず新たな個人・家計向け金融サービスを考案し、普及させる際にも重要なヒントになりえるのではないでしょうか。新たな金融・決済サービスを普及させていくための手がかりは、こうしたところにあるのかもしれません。

このほか、市場全体の拡大に向けた取組みのあり方も重要な論点になると思われます。現在の統計では、クレジットカードの年間決済金額は約58兆円、電子マネーの年間決済金額は約5兆円となっていますが、最近、こうした定義に当てはまらないものを含め、様々な決済サービスが次々に登場し、市場獲得に向けて激しい競争が行われています。

このことは、決済サービスをめぐるイノベーションの促進という観点からは望ましい環境とも考えられますが、各サービスの市場規模が結果として小さいものにとどまると決済のネットワーク外部性が働きにくいとも考えられます。その中で、様々な事業者がイノベーションを促すための競争的な環境を維持しながら、適切に協調して市場拡大を促進するような取組み、例えば、QRコードの標準化を推進する産学官での取組みもその一つだと思われますが、今後、そうした各種の取組みをどのようにして進めていくかも、ひとつの論点であると思います。

おわりに

リテール決済に活用される金融技術は世界中どこでも利用可能なはずです。しかし、各国のキャッシュレス決済の利用状況や、広く利用されている決済手段の違いをみると、金融・決済インフラの歴史的な発展経緯が強く影響しているように思われます。

しかし、スマートフォンが登場以来10年もしないうちに広く普及したように、新しい決済サービスがユーザーや加盟店に、徐々にあるいは急速に受け入れられ、リテール決済を巡る風景を大きく変えていく可能性は否定できないでしょう。インターネットやスマートフォンの普及により、リテール決済手段には大きな変化の波が起こりつつあります。画像認証技術などを活用することで、小売店の棚から選んだ商品を外に持ち出せば、それだけで決済が終了するといったような、決済行為を意識させない「決済のinvisible化」も試みられています。

本日のフォーラムが、キャッシュレス決済の現状や課題を知り、その将来を考えるうえで有益なものとなりましたら、大変幸いです。

ご清聴ありがとうございました。