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【挨拶】 イタリア銀行日本駐在員事務所設立30周年記念式典における挨拶の邦訳

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日本銀行総裁 黒田 東彦
2019年6月11日

本日は、イタリア銀行日本駐在員事務所の設立30周年記念式典にお招きいただき、大変光栄に存じます。ビスコ総裁、チコーニャ代表ほか皆様におかれましては、30年の節目を迎えられましたことに、心よりお祝い申し上げます。また、貴事務所が長きにわたって日伊両国の中央銀行間、ひいては両国間の友好・協力関係の強化・発展に貢献してこられたことに、厚く御礼申し上げます。

貴事務所が開設された1989年といえば、日本では、元号が昭和から平成へと改まった年にあたります。それから30年、今年は奇しくも元号が平成から令和へと変わる節目の年となりました。平成元年という年は、日本経済にとっては、いわゆるバブル経済の末期にあたります。この年、日経平均株価は38,915円と、既往最高値を記録しました。その後、日本経済は、1990年代後半の厳しい金融危機、そして1998年以降は長年にわたるデフレを経験することになります。今日、日本経済は「デフレではない状況」まで回復しておりますが、それでもなお、長年のデフレの経験などから、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っており、その転換に時間を要しています。こうした中、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現のために、粘り強く、大規模な金融緩和を継続しているところです。イタリア銀行日本駐在員事務所の皆様には、平成という激動の時代における日本銀行の政策の発展を見守って頂いたことになります。

世界に目を転じますと、1989年は、ベルリンの壁が崩壊し、歴史的なマルタ会談にて冷戦の終結が宣言されるなど、国際政治の面でも大きな時代の転換点となりました。冷戦構造の崩壊を経て、世の中は一気にグローバリゼーションが進み、貿易・金融面での各国の結び付きが強まりました。こうしたグローバリゼーションは、世界経済に大きな富をもたらしました。他方で、その急速な拡大に伴うひずみ、あるいは1990年代後半のアジア通貨危機、2000年代後半の世界金融危機をはじめとする国際金融危機の要因となった可能性にも留意する必要があります。

こうした激動の30年間を乗り越えてきた日伊両国ですが、現在、両国はいくつかの共通の課題に直面しています。高齢化の進展は、その中でも極めて挑戦的な課題の一つです。G20諸国の中でみますと、日本の平均寿命は84.1歳と最も高く、イタリアは83.1歳と2番目に高い水準にあります。社会保障費の増大などから、債務残高のGDP比率が高水準にある点も共通しています。こうした高齢化に関連する様々な課題については、先週末に福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議にビスコ総裁と一緒に出席し、議論してきました。会議において、各国のこれまでの経験を共有し、共通した問題の所在を明らかにするとともに、持続可能で包摂的な成長を実現するための基盤づくりに必要な政策対応について忌憚なく議論できたことは、大変意義深いものでした。今回の議論で明らかになった点を踏まえ、イタリアや日本を含む政策当局者は、高齢化社会をより良いものにすべく、それぞれの国の状況に合ったかたちで必要な調整を進めていく必要があります。

ここで、日本銀行とイタリア銀行との関係についてお話ししたいと思います。日本銀行とイタリア銀行は、G7やG20をはじめとする様々な国際会議に参画しています。会議などの配席は国名のアルファベット順であることが多いため、こちらにいらっしゃるビスコ総裁とは、隣同士で座ることがしばしばです。イタリア銀行の高いリサーチ力に裏打ちされたビスコ総裁の深い洞察やご知見には、いつも大いに学ばせていただいています。また、私の古くからの友人であるマリオ・ドラギECB総裁は、2006年から2011年までイタリア銀行総裁を務められ、様々なかたちで日本銀行に協力をいただきました。さらに時代を遡りますと、1962年に、後の1975年から1979年にイタリア銀行総裁を務められたパオロ・バッフィ氏が来日され、中央銀行間協力の礎を築いていただきました。当時、日本銀行は、将来の日本経済の国際化を展望して、各国中央銀行等との関係の親密化に努めていました。イタリア銀行副総裁であったバッフィ氏は、世界16か国の中央銀行幹部を集めて日本銀行がホストした10週間の研修プログラムにおいて、金融政策、準備預金制度、金融協力といった講義をご担当されました。このように、イタリア銀行には、日本銀行が世界との繋がりを深めるうえで、長きにわたって様々な支援をしていただいており、私どもとしても深いご縁を感じています。

最後に、最近のイタリアと日本の関係について一言申し上げたいと思います。2015年のミラノ万博、2016年の日伊国交150周年などの様々な機会を通じて、イタリアでは、日本やその文化に対する関心が、かつてないほど高まっていると伺っております。また、今年2月には日本とEUの間でEPAが発効し、総人口6.4億人、世界のGDPの約3割、貿易額の約4割を占める世界最大級の経済圏が誕生しました。これにより、日伊両国企業間での貿易・投資が一段と増加するとともに、連携が深化することが期待されます。

冒頭に触れた新しい元号「令和」には、「美しい調和」、さらにいえば、「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」という意味が込められているとされています。グローバリゼーションが急速に進展した「平成」時代に続き、「令和」時代は、グローバリゼーションの課題にも向き合う時代となりますが、両国が心を寄せ合い、関係がさらに発展していくことを祈念しております。

最後になりますが、東京に事務所を設立されて30年の節目を迎えられたことに改めてお礼とお祝いを申し上げるとともに、今後、40周年、50周年とさらに年輪を刻みつつ、イタリア銀行と日本銀行、イタリアと日本両国間の友好と協力関係が一段と発展していくことを祈念しまして、私からの祝辞に代えさせて頂きます。ありがとうございました。