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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営鹿児島県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2019年8月1日

1.はじめに

日本銀行の雨宮でございます。本日は、鹿児島県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。皆様には、日頃より、私どもの鹿児島支店の様々な業務運営にご協力頂いております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

まず初めに、6月末以降の豪雨により被害に遭われた方々に対して、心からお見舞いを申し上げます。また、豪雨による被害の影響が依然として残っている状況とも伺っております。一刻も早い復旧を果たされますようお祈り申し上げます。

さて、日本銀行は、一昨日の政策委員会・金融政策決定会合において、2021年度までの経済・物価見通しを、四半期に一度の「展望レポート」として取り纏め、公表いたしました。本日は、その内容もご紹介しながら、経済・物価情勢に対する日本銀行の見方と最近の金融政策運営について、ご説明いたします。

2.金融経済情勢

令和元年のスタートとなった5月以降、米中貿易摩擦をはじめとする保護主義的な動きが強まり、世界経済の先行きに関する不確実性が高まりました。こうしたもとで、各国の金融市場では振れの大きい展開が続いています。そこで、海外経済の現状からお話ししたいと思います。

海外経済は、総じてみれば緩やかに成長していますが、減速の動きが続いています(図表1)。米中貿易摩擦やIT関連財の減速の影響などから、世界貿易量の伸びが鈍化しているほか、グローバルな製造業の業況感も、5月には改善・悪化の境目である50を割り込みました。主要地域をみると、米国経済は、個人消費の増加などに支えられて緩やかな拡大が続いています。一方、中国は、製造業部門の弱さなどを背景に、今年の4~6月期のGDP成長率が+6.2%と、統計が遡れる1992年以降で最低となりました。また、欧州経済も、ドイツ経済を中心に、減速しています。この間、国際金融市場では、世界経済の不確実性が意識される中、6月上旬にかけて、多くの国で株価が下落する展開となりました。

こうした状況のもとで、海外の主要中央銀行は、昨年末までの金利引き上げや金融引き締めスタンスから、金融緩和方向へと政策方針を変化させています。ECBでは、先週、将来の政策金利の考え方を示すフォワードガイダンスを緩和的な方向に変更するとともに、追加緩和策の検討に着手することを表明しました。また、FRBも、昨日、約10年半振りとなる0.25%の利下げを行いました。もっとも、米国経済は、先ほどお話ししたように、緩やかな拡大が続いています。FRBのパウエル議長は、今回の利下げについて、世界経済の減速と貿易政策の不確実性による下振れリスクへの「保険的」な対応であると説明しています。

世界経済の減速は、わが国経済に対し、輸出セクターを中心に影響を与えていますが、一方で、設備投資などの国内需要は堅調さを維持しています。日本銀行は、「わが国経済は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している」と判断しています。このことは、経済全体の需要と供給のバランスを示す「需給ギャップ」という指標からも確認できます(図表2)。需給ギャップのプラスは需要超過、マイナスは供給超過を表します。需給ギャップは、景気の拡大を背景に、2017年頃に需要超過となった後、プラス幅を拡大し、現在も比較的大幅なプラスを維持しています。

以下では、もう少し詳しく需要項目別にご説明します(図表3)。まず、輸出ですが、海外経済減速の影響から、中国やNIEs・ASEAN向けの資本財やIT関連財を中心に減少しており、弱めの動きとなっています。短観における企業の業況判断DIをみても、海外経済の影響を受けやすい製造業は2期連続で大きめに低下しています。

一方、非製造業の業況判断DIは引き続き良好な水準にあるなど、国内需要は堅調さを維持しています。企業収益が総じて高水準を維持するもとで、設備投資は増加傾向を続けています(図表4)。短観の設備投資計画は、調査時期毎に一定の修正パターンを示すという特徴がありますが、直近の6月時点の短観をみると、2019年度の設備投資計画は、過去の6月時点の平均を上回っており、しっかりと増加を続ける計画となっています。能力増強投資や人手不足に対応するための省力化投資、成長分野への研究開発投資など、幅広い分野の投資に支えられているようです。非製造業分野での投資意欲も旺盛で、例えば、eコマースの拡大を受けた物流施設の建設やインバウンド需要向け宿泊施設の建設などが増加しています。個人消費についても、雇用・所得環境が着実な改善を続けるもとで、緩やかに増加しています。自動車や家電販売など、一部には、消費税率引き上げ前の需要増がみられるとの声も聞かれますが、前回増税時よりは小幅なものにとどまっているようです。なお、消費関連については、訪日外国人旅行者によるインバウンド需要も、この6年間で約4倍と大きく増加しています。当地でも、鹿児島空港への国際線の新規就航などを契機に、訪日客が急増していると伺っています。当地を始めわが国には魅力のある地域が多く、訪日客の裾野は、着実に拡がってきているようです。

次に、わが国経済の先行きについてお話しします(図表5)。「展望レポート」でも示したとおり、日本銀行では、わが国の経済について、「当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続く」とみています。これを数字で表しますと、実質GDPの成長率は、2019年度+0.7%、2020年度+0.9%、2021年度は+1.1%と予想しています。日本銀行は、わが国の経済が長い目でみて実現できる成長率、いわゆる潜在成長率を1%弱とみていますので、わが国経済は、先行き、その実力に見合った伸びを続けると考えています。

こうした先行きの見通しにおいて、重要なポイントは2つあります。1つは、先行き海外経済がどのように持ち直していくかという点です。もう1つは、その間におけるわが国の内需の持続性という点です。以下では、順番を変えて、初めに内需の持続性についてお話しします。

まず、個人消費ですが、雇用・所得環境の改善が続くもとで、先行き緩やかな増加傾向を続けるとみています。消費税率引き上げの影響には注意が必要ですが、2014年の税率引き上げ時と比べると、家計の負担額が小幅であること、政府が各種の需要平準化策を導入していることもあり、影響は小さいとみています。また、公共投資も、国土強靭化策によるインフラ投資を中心に、先行き増加が見込まれており、景気下支えに寄与すると考えています。その上で、鍵を握るのは、設備投資です。本年度の設備投資計画がしっかりと増加を続ける姿であることは、既にお話しした通りです。この背景には、高水準の企業収益と緩和的な金融環境とともに、海外需要の変化や景気循環の影響を相対的に受けにくい中長期的な戦略投資や非製造業の投資需要が根強いことも支えになっています。先行きも、設備投資は、緩やかに増加していくと予想しています。このように、わが国経済の頑健性は増しているとみていますが、海外経済や市場の動向次第では、企業や家計のマインドに影響を与える可能性もあります。特に、海外経済の不確実性が今後さらに高まる状況となれば、製造業を中心に企業の投資スタンスが慎重化していく可能性にも注意が必要と考えています。そこで、もう1つのポイントである海外経済の動向について、話題を進めます。

先行きの海外経済については、当面、減速の動きが続くものの、その後は、緩和的な金融環境が下支えとなる中で、中国における景気刺激策の効果やIT関連財のグローバルな調整も進捗することから持ち直し、総じてみれば緩やかに成長していくとみています。先行き、海外経済が持ち直しへと向かっていく見通しは、これまでと大きくは変わっていません。同様の見方は、先日公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでも示されています(図表6)。世界全体の成長率見通しは、2019年に3.2%と減速したあと、2020年は、過去平均並みである3.5%に復する姿となっています。地域別にみると、米国は、緩やかな拡大を続けるほか、中国は、米中貿易摩擦や債務抑制策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみています。また、欧州も、弱めの動きがみられる製造業部門の調整進捗に伴い、次第に減速した状態から脱していくと予想されます。とはいえ、海外経済を巡る下振れリスクは引き続き大きく、特に、保護主義的な動きによる影響の不確実性は高まっています。米中両国は、貿易問題の解決に向けて交渉を継続していますが、対中以外も含め、今後の米国の通商政策の展開については依然、予断を許さない状況です。海外経済を巡る不確実性としては、貿易摩擦以外にも、中国の景気刺激策の効果発現のタイミング、IT関連財の調整の進捗度合い、英国のEU離脱交渉の帰趨といったこともあります。先行き、海外経済を巡る不確実性が今後さらに高まる場合には、関係国の貿易活動などに対する下押し圧力のみならず、企業マインドや金融市場の不安定化という経路を通じて、内外経済に広く影響が及ぶリスクには注意が必要と考えています。先ほどお話しした内需の堅調さが維持されている間に、海外経済が持ち直してくるか、丁寧に確認していきたいと思います。

3.物価情勢

続いて、わが国の物価情勢についてご説明します(図表7)。わが国の消費者物価は、1990年代末以降、長年にわたって、「物価が持続的に下落する」、いわゆるデフレの状況が続いてきました。こうした状況を打開すべく、2013年4月、日本銀行は「量的・質的金融緩和」を導入し、かつてない強力な金融緩和に踏み切りました。その後、わが国の経済は大きく改善し、消費者物価の前年比はプラスの状況が定着しています。このように、わが国は、既に「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。

そのうえで、最近の物価動向についてお話しすると、現状、消費者物価の前年比は+0%台半ばであり、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、なお弱めの動きとなっています。もっとも、景気の拡大基調が続くもとで、プラスの需給ギャップを原動力として、賃金や物価が緩やかに上昇するという基本的なメカニズムは働き続けています。今年の春闘では、6年連続でベアが実現しました。全体では、昨年並みの水準となり、特に、人手不足の影響を受けやすい中小企業で高めのベアとなっています。

こうした賃金の上昇に加え、物流費などのコスト上昇も続く中で、このところ、企業では、これらのコスト上昇分を販売価格に転嫁する動きがゆっくりと拡がっており、物価に底堅さが感じられます。2つの例をご紹介したいと思います(図表8)。1つ目は、食料品や日用品、サービスなどの価格の上昇です。スーパーで販売されている食料品や日用品の価格をみますと、4月以降プラス幅が明確に拡大しています。また、一般サービスに含まれる外食や家事関連の価格も、前年比のプラス基調が定着しています。2つ目は、企業の価格設定スタンスが、企業規模に関わらず積極化していることです。消費者物価との関連が強い、消費関連業種の販売価格判断DIをみると、2017年頃から、「上昇している」と答えた企業の割合が、「下落している」と答えた企業の割合を上回るようになっており、また、その度合いが徐々に拡大しています。

もちろん、家計にとって、物価の上昇は、それだけをみれば、決して喜ばしいことではありません。大事なことは、家計が値上げを許容できるよう、雇用・所得環境の改善が伴っていることです(図表9)。この点、一人あたりの賃金と雇用者数を掛け合わせた雇用者所得をみると、名目賃金はここ数年上昇しているほか、雇用者数の伸びもプラス基調が定着していることから、増加を続けています。このように、雇用・所得環境が改善するもとで、家計の値上げ許容度が緩やかながらも高まってきていることが、物価の底堅さの背景にあると考えています。

次に、物価の先行きについてご説明します(前掲図表5)。7月の「展望レポート」の生鮮食品を除く消費者物価の前年比の見通しは、政策委員の中央値でみると、2019年度は+1.0%、2020年度は+1.3%、2021年度は+1.6%となっています。徐々に上昇率を高めていく姿ですが、2%の「物価安定の目標」の実現には、なお、時間がかかるともみています。この背景には、様々な理由がありますが、特に、1990年代末以降、長きにわたって続いた低成長やデフレの経験などから、賃金や物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることの影響が大きいと考えています。企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重な見方は、先ほど述べたように、ゆっくりと変化してきていますが、なお明確に転換するには至っていません。企業は、引き続き、省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しによるコスト上昇圧力の吸収にも努めています。また、女性や高齢者の労働参加が進んでいることも──そのこと自体は経済全体の成長力を高めるうえで望ましいことですが──物価上昇に時間がかかる要因になっています。

このように時間はかかっていますが、先行き、物価上昇率は、徐々に高まっていくと予想しています。景気の拡大基調が続き、マクロ的な需給ギャップが比較的大幅なプラスとなるもとで、消費者物価の前年比は、ここ数年、プラスの状況が定着しています。需給ギャップの先行きについては、基本的には、比較的大幅なプラスを維持するとみています。こうしたもとで、賃金上昇率の高まりを受けて家計の値上げ許容度が高まり、企業の価格設定スタンスもさらに積極化していけば、価格引き上げの動きが一段と拡がっていくと考えられます。賃金や物価が上昇する経験が積み重なることにより、賃金や物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行も次第に薄れていくと予想されます。そうしたもとで、先行きの物価動向に関する人々の予想である予想インフレ率も、徐々に高まっていくと見込まれます。このように、プラスの需給ギャップを起点に現実の物価が上昇し、それが予想インフレ率の高まりに繋がるという、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは引き続き維持されていると考えています。ただし、先ほどお話ししたように、海外経済を中心とする経済のリスク要因が顕在化した場合には、需給ギャップの下振れや、金融市場の変動などを通じ、物価のモメンタムが損なわれる可能性には注意が必要です。

4.日本銀行の金融政策運営

続いて、日本銀行の金融政策運営についてご説明します。

現在、日本銀行では、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を実施しています(図表10)。具体的には、短期の政策金利を「▲0.1%」、10年物国債金利の操作目標を「ゼロ%」程度と定め、国債市場において大規模な国債買入れを行っています。この間、世界的に金利が低下する中、わが国の長期金利も一時▲0.195%まで低下し、現在も▲0.15%程度で推移しています。また、資産価格のプレミアムに働きかける観点から、ETFなどの資産買入れも行っています。

こうした強力な金融緩和策のもと、わが国の金融環境も、きわめて緩和的な状況が維持されています。企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しています(図表11)。貸出金利は、0%台半ばと既往ボトム圏にありますし、社債発行金利も0%に近いきわめて低い水準です。また、金融機関の貸出態度も積極的です。こうしたもとで、銀行貸出は、家計・企業部門が全体では貯蓄超過となっている中にあっても、6年超にわたり、前年比2~3%の高い伸びを続けています。

このように、強力な金融緩和のもとでのきわめて緩和的な金融環境は、企業や家計の支出活動を刺激し、需給ギャップがプラスになることに大きく貢献しています。日本銀行としては、「物価安定の目標」を実現していくため、強力な金融緩和を粘り強く続け、需給ギャップがプラスの状態をできるだけ長く持続し、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持することが重要であると考えています。

以上が日本銀行の基本的な金融政策運営方針ですが、冒頭で申し上げたように、世界経済の不確実性が高い中、主要国中銀が金融引き締めから、金融緩和方向にスタンスを変更するもとで、今後の政策運営についてご質問を受けることが多くなっています。そこで、海外中銀の政策運営と我々の政策運営との関係について、基本となる考え方をお話したいと思います。3つのポイントがあります。

第1に、どの国の中央銀行も、自国の経済・物価情勢に応じて適切な政策運営を行うというのが大原則であり、他中銀の政策スタンスに直接左右されるものではないということです。第2に、もっとも、他中銀の政策運営の背景にある要因が、自国の経済・物価情勢に影響を及ぼすものであれば、当然、その要因については、十分考慮する必要があるということです。このところ、FRBやECBが政策スタンスを修正している背景には、世界経済の不確実性の大きさがあります。日本銀行も、海外経済を巡るリスクをしっかりと認識し、それがわが国の経済・物価動向にどのような影響を与えるかを見極めることが重要と考えています。そして、第3に、主要中銀の政策は、世界経済やグローバル金融市場に少なからぬ影響を与えるものなので、これが自国の経済・物価情勢にどのような影響を与えるかという観点からも動向を注視する必要があるということです。この点、今回のFRBの利下げは、世界経済の不確実性が大きいもとで、景気・物価が実際に下振れることを未然に防ぐための対応です。米国の利下げが日本経済に影響を及ぼす経路には、金融・為替市場や実体経済活動など様々なものがありますが、基本的には、米国経済の足取りが一段としっかりとしたものになるのであれば、世界経済ひいては日本経済にとってもポジティブな影響が及ぶと考えられます。

日本銀行としては、今後とも、様々なリスクを注意深く点検しつつ、わが国の経済・物価・金融情勢を踏まえ、予断を持つことなく、適切な金融政策運営を行っていく方針です。リスクを注視しながら、必要があれば、将来のリスクの顕在化を未然に防ぐために、政策対応を行うことも選択肢にある点は、日本銀行も海外の主要中央銀行と変わりません。一昨日の金融政策決定会合の公表文において、「先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」と明記したのは、こうした考え方によるものです。追加緩和の手段としては、既に公表している通り、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速など、様々な対応がありますし、様々な手段を組み合わせ、あるいは応用することも考えられます。日本銀行としては、政策のベネフィットとコストを比較衡量しつつ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれるリスクの顕在化を未然に防ぐという点も十分念頭において、その時々の状況に応じて最も適切な政策対応を行っていく方針です。

5.おわりに

最後に、鹿児島県経済についてお話しします。

鹿児島の景気は、全国と同様に、生産面を中心に海外経済の減速の影響がみられますが、内需を中心に緩やかな回復が続いているとみています。雇用・所得環境の改善を背景として、個人消費が底堅く推移しているほか、観光も国内個人客や訪日外国人客の増加に支えられ、堅調な動きが続いています。こうしたもとで、企業の業況感は良好な状態が維持されており、設備投資は、中長期的な観点から行われている戦略投資や省力化投資などに支えられるかたちで着実に増加しています。

これに対し、やや中長期的な視点から、当地経済の先行きを不安視する声も聞かれます。この背景としては、少子高齢化や人口減少などの課題に直面する中で、県内市場の縮小や当地経済を担っていく人材の不足が懸念されていることがあると思われます。

もっとも、私としては、当地の皆様がこの点を乗り越えていっていただけると期待しています。と申し上げるのも、鹿児島には、これまで幾つもの苦難を乗り越え、変革を成し遂げてきた歴史があると認識しているからです。江戸時代、薩摩藩は財政危機に直面しましたが、国内だけでなく、琉球を通じた海外との交易も拡大していくことで、これを克服しました。その際には、北前船なども活用しながら取引ルートを開拓したほか、黒糖などの地元産品の取引の拡大にも力を入れました。これらの取り組みは、その後の集成館事業にみられるように、製鉄や紡績などの最先端技術を海外から取り入れ、自ら発展させることで、日本の近代化を実現する原動力となっていきました。さらに、1867年に行われたパリ万博に薩摩焼を出品し、高い評価を得ることで、「SATSUMA」ブランドの確立にも成功しました。そして、これら一連の変革を支えたのが、伝統的な郷中教育制度や英国への留学生派遣などを通じた人材育成でした。

こうした歴史を振り返ると、今まさに求められている変革に通ずるところが多いと感じますし、実際、当地では既に変革の動きが進められています。例えば、日本一となった「鹿児島黒牛」をはじめ、農畜産品のブランド価値を磨くとともに、海外を含め域外へと販路の拡大を目指しています。また、世界自然遺産に登録されている屋久島などの豊かな自然、安全・安心で質の高い食事、豊富な温泉などの魅力を活かして、観光客の取り込みも強化しています。スマート農業の実現やキャッシュレス決済サービスの拡充など、最先端のデジタル技術を用いた取り組みも進められています。さらに、こうした取り組みの実効性を高めるために、鹿児島大学などとも手を携え、産学官の連携強化も図っています。こうした取り組みは、まさに鹿児島の皆様のDNAに刻まれた進取の精神が発揮されているものと心強く感じています。

かつて、幾つもの苦難を変革へと繋げてきた鹿児島県が、今まさに進めておられる取り組みの中から新たな活路を見出し、更なる発展を遂げられることを心より祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。