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【挨拶】令和元年全国証券大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2019年9月26日

1.はじめに

本日は、令和元年全国証券大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。日本証券業協会、全国証券取引所協議会、投資信託協会に加盟の皆様におかれましては、常日頃より証券市場の発展に尽力され、これを通じて日本経済の安定的な成長に貢献されています。皆様のご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表します。

本日は、最初に、最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムの現状と証券業界への期待についてお話しします。

2.最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、経済情勢についてお話しします。海外経済は、減速の動きが続いていますが、総じてみれば緩やかに成長しています。こうした中、わが国の輸出は中国・アジア向けの資本財を中心に弱めの動きとなっており、企業マインドも製造業を中心にやや弱含んでいます。もっとも、内需は堅調さを維持しています。企業収益が総じて高水準を維持する中、設備投資は人手不足に対応した省力化投資などに下支えされ、増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、振れを伴いつつも緩やかに増加しています。わが国経済は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しています。先行きですが、海外経済は、当面、減速の動きが続くものの、その後は、各国における財政・金融政策の効果の発現や、IT関連財のグローバルな調整の進捗などから幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとみています。こうした海外経済の動きを背景に、輸出は、基調としては緩やかに増加していくとみられます。堅調な内需と合わせて、わが国経済は、先行きも拡大基調が続くと考えています。

物価面では、消費者物価の前年比は、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると弱めの動きとなっていますが、プラスの状況が定着しています。経済の活動水準の高さを原動力として、賃金や物価が緩やかに上昇するという基本的なメカニズムは働き続けています。先行きは、経済の活動水準が高い状態を続けるもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、予想物価上昇率も徐々に高まっていくと想定しています。そうしたもとで、物価は2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

もっとも、こうした経済・物価の中心的な見通しは、海外経済の動向を中心に下振れリスクが大きいと考えています。海外経済は減速の動きが続いており、現時点では、持ち直しに転じるはっきりとした兆しは確認できていません。また、海外経済の下振れリスクは高まりつつあるとみられます。米中貿易摩擦は、拡大・長期化の様相を呈しています。このほか、英国のEU離脱交渉の帰趨や中国の景気刺激策の効果、中東の地政学的リスク、新興国経済の動向を巡る不透明感など様々な不確実性が存在します。海外経済の動向が、わが国の経済・物価に与える影響については、しっかりと点検していく必要があると考えています。

金融政策運営面では、強力な金融緩和を粘り強く続け、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持していくことが重要です。そのうえで、日本銀行は、このところ、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに、より注意が必要な情勢になりつつあると判断しています。こうした情勢にあることを念頭に置きながら、「展望レポート」を取りまとめる次回の金融政策決定会合において、経済・物価動向を改めて点検していく考えです。日本銀行としては、今後とも、様々なリスクを注意深く点検しつつ、経済・物価・金融情勢を踏まえ、予断を持つことなく、適切な政策運営を行っていく方針です。

3.金融システムの現状と証券業界への期待

次に、金融システムの現状と、証券業界に期待する役割について、お話ししたいと思います。

わが国の金融システムの現状をみると、金融機関は、資本と流動性の両面で相応の耐性を備えており、全体として安定性を維持しています。国内の金融仲介活動は引き続き積極的な状況にあり、金融機関は、貸出や有価証券投資において積極的なリスクテイクを行っています。金融資本市場における金融仲介活動をみても、CPや社債による企業の資金調達は、発行レートがきわめて低い水準で推移するもとで増加基調を続けています。こうしたなか、金融循環の拡張的な動きが継続していますが、全体としてみると、1980年代後半のバブル期のような過熱感は窺われていません。

今後も、日本経済の持続的成長を実現していくうえで、証券業界の果たす役割は大きいものがあります。こうした認識を踏まえつつ、皆様に期待する役割を3点申し上げます。

第1に、金融資本市場を通じてリスクマネーを円滑に供給していくことです。景気拡大に伴って増加する設備投資資金や事業拡大のためのM&A関連資金の調達を目的として、企業による社債やCPの発行額は高水準で推移しています。一方、投資家サイドでも、低金利環境が続くなか、より高い利回りを求め、積極的な社債購入スタンスを維持しています。足もとでは、国内で初めて50年債が発行されるなど、企業の長期安定的な資金の調達ニーズと、収益機会を求める投資家の運用ニーズに、的確に応える動きもみられます。また、「持続可能な開発目標(SDGs)」に資する金融商品への関心も高まりつつあります。今後とも、証券業界においては、企業と投資家双方のニーズを積極的に汲み取り、これを満たしていくことが期待されます。

第2に、家計の中長期的な資産形成を支援していくことです。家計はリスク性資産の積み増しに引き続き慎重ですが、人生100年時代を迎えつつあるなか、個人のライフサイクルに応じた運用収入の獲得や老後資金の確保といった資産形成ニーズを抱えています。こうしたニーズの強さを裏付けるように、昨年1月に開始された「つみたてNISA」を含めた「NISA」関連の口座数は着実に増加しているほか、若年層への普及など利用者の裾野も広がりつつあります。また、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の新規加入者の増加も継続しています。金融機関は、これらの制度の普及促進に貢献しつつ、成長分野等への投資商品の充実や、スマートフォン、AIなどのデジタル技術を活かしたオンライン取引やアドバイザーサービスの提供などにも取り組まれています。これらを通じて、多様化する家計の資産形成ニーズに応えていくことが期待されます。

第3に、市場インフラの整備に取り組んでいくことです。昨年5月に国債決済期間のT+1化が実現したことに続き、本年7月には株式決済期間のT+2への短縮化が実現しました。この間、分散型台帳など新たな技術を金融インフラに適用する実証実験をはじめ、金融イノベーションに対応するため、業界横断で様々な検討が行われているほか、総合取引所の創設や金利指標改革への対応も進められています。今後とも、証券業界には、決済リスク削減や効率性向上を通じて、わが国金融資本市場の機能や競争力の向上を進めることが期待されます。

日本銀行としては、今後も皆様方と協力しながら、決済サービスの高度化、市場慣行の整備などを通じ、わが国金融資本市場の安定性と機能度の向上に貢献していきます。また、金融広報中央委員会の活動を通じ、家計の金融リテラシー向上にも証券業界の皆様とともに貢献していきたいと考えています。

4.おわりに

最後になりましたが、今後とも、皆様方のビジネスの発展、そしてわが国金融資本市場のさらなる発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。