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「RTGSで決済 安全に」

日本銀行信用機構室決済システム課長 青木 周平
(出典:日経金融新聞 平成12年8月23日)

 日本銀行には約七百の金融機関の預金口座がある。この口座は金融機関同士のお金のやりとりなどに使われている。

 例えば、A銀行がB銀行に百億円を支払う場合、A銀行は日銀に「百億円を当行の口座からB銀行の口座に振り替えてほしい」というメッセージ(振替指図)を送る。「振替指図」を受けた日銀は、それに従ってA銀行の口座の残高を百億円減らし、B銀行の残高を同額だけ増やす。これが「決済」である。

来年初から一本化

 「振替指図」を受けた中央銀行が「決済」を行う場合、「時点ネット決済」と、「RTGS」という二つの方法がある。日銀は従来、システム上は双方を提供してきたが、実際には、ほとんどが時点ネット決済だった。これを来年初からRTGSに一本化する予定である。

 時点ネット決済では、日銀が様々な金融機関(以下「銀行」)から受け付けた「振替指図」が、毎日一定の決済時刻〈=時点〉までためておかれる。各決済時点が来ると、各銀行のその時点の「受取総額と支払総額の差額」が計算される〈=ネット〉。決済時点には、この差額のみが銀行の口座から引き落とされたり、入金されたりする。

 このように、時点ネット決済は個別銀行の資金負担が軽いという意味で効率がよい一方、社会的なリスクが大きい。決済時点が到来した時に、差引支払額に見合うお金を預金口座に用意できない銀行があれば、すべての銀行の決済がストップする。

 こうなると、ネット決済はすべてやり直しとなり、いったん大もとにある多数の債権債務関係にさかのぼらねばならない。その場合、ほかにも支払い不能の銀行が現れたり、決済完了が大幅に遅延するなど、決済システムには大きな混乱が生じかねない。銀行が破たんしうる環境の下では、時点ネット決済のこの弱点が大きな問題となってくる。

 もう一つの決済方法であるRTGS(リアル・タイム・グロス・セトルメントの頭文字)は、時点ネット決済の問題点を克服する。これは日本銀行が、「振替指図」を受け付けると直ちに〈=リアル・タイム〉、他の「振替指図」とネットせず一件ごとに〈=グロス〉決済する〈=セトルメント〉仕組みである。

 RTGSは、当該振替指図を他の振替指図と差し引き計算しない。このため、ある銀行が支払いを行えなくなっても、基本的にその影響が及ぶのは、当該銀行からの入金を予定している銀行に限定される。時点ネット決済のように、支払不能の影響が一気に金融システム全体に波及することは回避できるわけであり、より安全な決済方法である。

 日本銀行は、今日の金融環境を踏まえれば、そうした長所をもつRTGSへの一本化が不可欠と考えた。1996年から約四年間、パブリックコメントを求めつつシステム開発などの作業を行い、来年1月4日に移行の予定となっている。欧米・アジアなどの各国でも1990年代を中心に中央銀行が相次いでRTGSへの移行に踏み切っている (表を参照)

(表)主な国のRTGS導入

  • 表

当座貸し越しを提供

 ところで、RTGSは金融システムの安全性を大きく向上させる仕組みであるが、支払金額を受取金額で打ち消すことができない分、個別銀行にとっては、決済に必要なお金(流動性)の量が時点ネット決済よりも多くなる。

 この問題に対処するため、RTGSでは通常、中央銀行が、一日の終わりにお金を返してもらう約束で、銀行に当座貸し越しなどの形で流動性供給を行っている。決済用の流動性の供給を日中に限るのは、一日の受け払いがすべて終了した段階では、各銀行の預金残高は時点ネット決済の場合と同様プラスに戻り(図を参照)、RTGSを理由とする宵越しの資金供給は不要だからである。来年初にスタートする日本のRTGSでも、日本銀行は銀行に「担保の差し入れは求めるが無利息」の日中当座貸し越しを行うこととしている。

 RTGSへの移行で、日本円の決済が混乱に陥るリスクが削減され、日本の金融システムの安定は一層増すこととなる。

(図)ある銀行の1日の入出金

仮設例、始業時の日銀への預金残高= 40億円

  • 図

市場慣行も変ぼう

 また、RTGS移行に伴い、金融市場における取引や決済の慣行も大きく変わる。

 例えば現在の時点ネット決済のもとで、よその銀行からお金(コールマネー)を借りた銀行は、その返済を13時時点、また返済に使うお金(新規のコールマネー)の調達も同じ13時時点に行うこととし、返済と調達が打ち消し合うようアレンジすることが多い。

 この点RTGSでは、リスクの拡散を防ぐため、様々な取引をまぜこぜにせず、一つ一つ決済する。このため市場関係者は、コールマネーについて「朝から返済を先行して行い、新規取引の決済はその後に行う」というアレンジを新たに導入するほか、これ以外にも様々な慣行の見直しを行う予定である。

 このように、RTGSへの移行は広がりの大きいインフラの変更であるだけに、関係者の多大なエネルギーを必要とする。市場レベルでの対応にとどまらず、個別金融機関においても、このような新しい決済の仕組みや慣行への対応に力が注がれている。これまでのところ、新たな慣行づくりなど、移行に向けた作業は順調に進展している。さらに、今月からは、金融機関と日本銀行が協力して総合的なテストも行われている。こうした準備を経て、日本のRTGSが円滑にスタートすることを念じている。

以上