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主要金融機関におけるストレステストとその実務に関する調査

グローバル金融システム委員会により設立されたG10中央銀行のタスクフォースによる報告書

2001年 4月
国際決済銀行・グローバル金融システム委員会

日本銀行から

 全文は、こちら (bis0104a.pdf 248KB) から入手できます。

日本銀行仮訳

はじめに

 グローバル金融システム委員会(CGFS、1999年まではユーロカレンシー・スタンディング委員会と呼称)は、金融安定化に関する課題を検討する中央銀行のフォーラムである。CGFSは、しばしば、グローバルな金融市場での慣行の進展がもたらすインプリケーションについて、検討することを求められてきた。

 CGFSが設置したサブグループは、近年、国際的なインターバンク市場の機能、金融派生商品、標準化されたリスク管理手法の持つシステミック・インプリケーションといった分野に関する検討を行ってきた。

 リスクの計量化と管理に関するこれまでの検討をさらに進めるため、CGFSは、2000年3月、主要な金融機関において利用されているストレステストに関する国際的な調査を実施するためのタスクフォースを設立した。本報告書に詳述するタスクフォースの検討成果は、2001年3月のCGFS会合で議論された。CGFSは、市場リスクを管理する手法としてのストレステストの役割に関する一般的な理解に貢献することを企図して、本報告書を公表することとした。

 調査結果は、個別の金融機関にとって、自社のストレステストの枠組と、他の金融機関の枠組とを比較するための有益なベンチマークとなることが期待される。さらに、CGFSは、ストレステストに採用されているシナリオの特徴について継続的に情報を収集することが、G10中央銀行による市場モニタリングにとって、潜在的に有益であると認識している。この点に関し、調査結果は、グローバルな金融市場における潜在的なストレスの特徴やその源泉に関する市場参加者の見方について、有益な視座を与えている。将来的には、こうした情報が、金融市場におけるマクロ的なリスク・プロファイルを知るための手がかりとなる可能性がある。

 タスクフォースの議長は、フランス銀行委員会のアラン・デゥシャトーが務めた。議長とCGFSは共に、調査に協力していただいた金融機関に謝意を表したい。CGFSは、今回の調査は、中央銀行と市場参加者の間の共同作業の優れた事例であると考えている。調査への回答は、各社自身のリスク管理の目的に照らして価値があるだけでなく、市場に関する基礎的情報源を補完するという意味でも有益である。

 CGFSは、今後とも引続きこの分野に関心を持ち続ける。このため、CGFS議長としては、報告書の内容および調査を継続することのコストとベネフィットに関し、皆様からコメントお寄せ頂きたいと考えている。

山口 泰
グローバル金融システム委員会議長
日本銀行副総裁

要旨

ストレステスト調査の目的と構成

 BISグローバル金融システム委員会 (The Committee on the Global Financial System<以下CGFS>) は、2000年初、ストレステストのシナリオに関する調査を実施した。「ストレステスト」とは、金融機関が、例外的だが蓋然性のあるイベントがもたらす潜在的な脆弱性を把握する手法である。近年、ストレステストは、バリュー・アット・リスクやその他のリスク計量化手法とともに、その重要性を増している。CGFSは、G10中央銀行総裁のためにグローバルな金融市場の安定性をモニターするという使命を負っている。CGFSは、次の3つの目的のためにタスクフォースを設置した。それは、(1)ストレステストがリスク管理において果たしている役割について理解すること、(2)市場参加者が重大なリスクと考えているイベントを把握すること、さらに、(3)ある時点におけるリスクテイク姿勢の多様性に関する情報を明らかにすることであった。

 10か国から43の金融機関(商業銀行および投資銀行)が調査に参加した。2000年5月31日時点で全社規模で実施しているストレステストが報告された。同時に、リスク管理上ストレステストをどのように実施・活用しているかという点に関する7項目の質問に対しても回答を得た。幾つかの報告金融機関に対しては、回答内容を確認し、より踏み込んだ議論をするためのフォローアップ・インタビューも行われた。

ストレステスト・シナリオ

 43行から、293本のストレステスト・シナリオ(例えば株式市場のクラッシュといった潜在的なイベントに基づくストレステスト)、131本のセンシティビティ・ストレステスト(例えばイールドカーブのパラレルシフトといった、密接に関係するリスクファクターの標準的な変動に基づくストレステスト)が報告された。分析の主要部分を占める293本のストレステスト・シナリオについては、図1 と表2に示した。多くの先が共通してストレステストを行っている分野としては、株価、金利、エマージング市場、およびクレジット/流動性スプレッドの4つが挙げられる。これに次いで、欧州、日本、北米(為替レートにかかるストレステストを含む)といった、特定の地域に着目したものも多く報告された。少数ではあるが、コモディティに関連するリスクファクターやオプション市場(ボラティリティに対するショック)に注目したストレステストも報告された。

 これらのストレステスト・シナリオを子細にみると、以下の3つの特徴がある。第1に、着目されるリスクの非対称性である。例えば、株価やエマージング市場について、クラッシュの方がブームよりもストレステストの対象となり易い。金利の上昇およびクレジット/流動性スプレッドの拡大の方が、金利低下やスプレッド縮小より、広くストレステストの対象とされていた。為替レートに関しては、ドル安シナリオの数がドル高シナリオの数を上回ったものの、相対的に偏りは少なかった。リスクマネージャーに対するインタビューによれば、こうした非対称性は、(1)エクスポージャーの非対称性(例えば、銀行は、金利上昇や株価下落、クレジットスプレッドの拡大リスクに晒されている)、(2)イベントの発生確率に関する非対称性(例えば、センサス実施時点において株価水準が歴史的にみて高い水準にあったために、株式市場がクラッシュするリスクの方が高い)、(3)過去のストレスに関する経験の非対称性、で説明できるとされた。

 第2に、金融機関は、バリュー・アット・リスクなどの統計的リスク指標では十分に把握できないリスクを抱える市場や商品については、ストレステストに強く依存するということである。リスクマネージャーによれば、バリュー・アット・リスクではリスク計測が正確に行えない市場や商品が存在する理由として、ヒストリカルデータの不足、価格が突然大きくジャンプする傾向、流動性の低さ、オプション取引に係る非線形リスクの存在などが挙げられた。

 第3に、エマージング市場を対象としたストレステスト・シナリオの数が、他の特定の地域を対象としたシナリオの数に比べ多く報告されたことである。 エマージング市場は、特にストレステストに向いている市場が存在するという上述の結論の代表例とされた。

 タスクフォースは、類似したタイトルがつけられたストレステスト・シナリオを比較し、その内容がどの程度実際に似ているかを比較した。その結果、同じヒストリカル・イベントに基づくシナリオでも、その中身は随分と異なっていることが分かった。例えば、「1987年株式市場クラッシュ」と名付けられた20本のヒストリカル・シナリオにおいて、採用されているS&P指数の下落率は、4%から36%までばらつきがあった。このうち、10本のシナリオでは、株価の下落が金利にもノックオン効果をもたらすことを想定しているが、他の10本では想定されていない。また、金利への影響を想定した10本のシナリオのうち、6 本は金利の低下を、他の4 本では金利の上昇を想定している。リスクマネージャーに対するインタビューによれば、こうした差異は、金融機関のポートフォリオ、ショックを計測する際のタイムホライゾン、ポジションを流動化する際に要すると想定している時間の差に関する多様性を反映しているとのことである。

リスク管理においてストレステストが果す役割

 タスクフォースが知る限り、今回の調査は、ストレステストにかかる初めての世界規模のサーベイである。この調査は、金融機関のストレステストに対する見方について情報を提供するだけでなく、現在の慣行を概観する上でも有益である。

 調査に対する回答によれば、報告金融機関においては、ストレステストが標準的なリスク管理技術として定着している。全ての報告金融機関が、自社のリスクプロファイルを理解し、経営陣とコミュニケーションを行うためにストレステストを用いている。半数以上が、リスクリミットを設定するためにストレステストを用いている。2割が、資本配分のためにストレステストを用いている。3分の2が、ストレステストの結果を踏まえて、ヘッジを行ったり、ポジションを手仕舞ったりしたことがあると答えた。ただし、その後のインタビューから、そうした行動は、決して機械的に行われるのではなく、その場の状況に応じて対応が異なることが明らかになった。大多数の金融機関は、いくつかのストレステストを高い頻度(日次もしくは週次)で実施している。もっとも、インタビューの中では、いくつかの金融機関は、より複雑なシナリオについては、実施コストが高いため、実施頻度は低くなる(月次もしくは四半期毎)と回答した。4分の1の金融機関は、ストレステストにおいて、市場の変動と取引相手の信用(倒産)リスクとの相互作用について限定的ながら勘案している。

インプリケーション

 調査から得られたインプリケーションとして、以下の点が興味深い。第1に、ストレステストは、金融機関のリスク管理において要としての役割を果たしているという点である。第2に、ストレステストの結果を解釈する上で、金融機関は市場における自社のポジション、独自のストレステストの活用方針、およびリスク管理が有する相互干渉的な側面を考慮している。このため、ストレステストを通じて得られる情報に対する金融機関の対応は、一様ではない。この点について、タスクフォースは、バリュー・アット・リスクとストレステストの間に明確な差があると認識している。バリュー・アット・リスクを用いる際には、市場でのショックに対する金融機関の対応は機械的であると指摘されることがある。一方、ストレステストにおいては、対応が多様であり、フィードバック効果の発生を懸念させる証拠は得られなかった。