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平成13年度の考査の実施方針等について

2001年4月3日
日本銀行

1.平成12年度を振り返って

(1)概要

平成12年度の考査は、(a)個別の取引先金融機関等の業務・財産状況の把握、(b)金融システム全体のリスクや、そのリスクが発現するメカニズムの継続的な把握、(c)これらの情報の活用による日本銀行の業務全般への寄与、という考査の担うべき役割を十分に果たしていく観点に立って実施した。

具体的には、「平成12年度の考査の実施方針等について」(12年3月28日公表)において示した重点事項に即して、(a)金融機関等の経営体力の的確な把握に加え、(b)経営体力の悪化を事前に防止するという予防的観点にウェイトを置いた「リスク管理重視」考査を実施した。さらに、(c)日本銀行当座預金および国債決済のRTGS化(13年初から実施。以下RTGS化という。)への準備状況等の把握を中心に決済リスク管理のターゲット考査を実施したほか、(d)金融業務のシステム依存度やオープンシステム(インターネット等)の活用度合が高まる中、情報セキュリティに関わるリスク管理状況についてもターゲット考査を行った。

また、考査運営面では、事務負担軽減の観点に配慮しつつ、考査周期や調査内容を、考査先の経営体力やリスク管理状況に応じて弾力的に設定するよう努めた。

考査実施先数の実績
業態 実施先数
銀行 31
信用金庫 59
その他(外国銀行、証券会社等) 21

この他、決済、マーケットリスク管理、RTGS化、情報セキュリティなどに焦点を絞ったターゲット考査(24先)を実施した。

(2)考査内容における重点事項にかかる主な結果

イ.経営体力、信用リスク

自己査定やそれに基づく償却・引当の適切性、繰延税金資産の計上方法の検証に加えて、時価会計の導入に伴う影響の把握を行った。また、基本的な信用リスク管理の枠組みの有効性に加え、信用格付制度の導入・活用などがどの程度進捗しているかという点についても、チェックを行った。

  • 自己査定、償却・引当について、行庫内のマニュアルにおける記述や、営業店における実際の運用状況に課題がある金融機関がみられた。
  • 繰延税金資産の計上に関しては、将来の課税所得の見積りの前提をやや楽観的に想定している先が散見された。
  • 信用リスク管理手法の整備については、多くの金融機関で、信用格付制度の導入・精緻化、信用リスクの定量化に着手する動きが広がっており、相応の進展がみられている。ただし、定量化の成果を与信業務運営などに実務的に結び付けていくに当たっては、経営方針との整合性確保や倒産確率に係るデータ整備の問題など今後検討すべき課題を残している金融機関も多かった。

ロ.市場・流動性リスク

金融商品にかかる時価会計の拡充もあって市場リスク管理の重要性が一段と高まる中、業務内容やリスクの状況に見合った適切な管理体制が敷かれているかどうかの検証に重点を置いた。

  • 地域の資金需要が弱い状況を反映して債券投資を積極化させている金融機関において、リスクの定量的把握や運用責任部署以外の部署によるチェック体制(フロントに対する牽制)の確立など市場リスク管理体制の整備が立ち遅れているため、市場リスクの増大が十分に認識できていない事例がみられた。
  • 金融商品を複合的に組み込んだハイリスク・ハイリターンの債券をリスク認識が不十分なまま購入している事例が散見された。
  • 流動性リスクの管理体制は、概ね整備され適切に運用されているが、一部の金融機関では、緊急時の対応方針が明確でなかったり、緊急時における資金調達手段の利用可能性に関する検証が十分でない事例がみられた。

ハ.オペレーショナル・リスク

事務リスク面については、事務の集中化が進展している中、本部および事務センター等のリスク管理体制に重点を置いて調査した。また、システム・リスク面では、インターネットを利用した金融業務が拡大している状況の下で、金融機関における情報セキュリティの重要性と対応策を取り纏めたペーパーを公表した(平成12年4月)ほか、同業務を積極的に展開している先を中心に情報セキュリティ・ターゲット考査(7先)を実施した(これ以外の考査でも、適宜システム・リスク管理のチェックを実施)。

  • 事務指導・検査体制の整備が遅れている事例が散見された。特に、事務を関連会社や他社へアウトソースしている金融機関において、アウトソース先に対する管理体制が手薄になっている事例がみられた。
  • オープン系システム特有のリスクへの対策が不十分で、ID・パスワードが適切に管理されていない事例、セキュリティ・ポリシーは策定したものの、これに基づくリスク分析が行われていない事例、内部検査や外部監査が有効に機能していない事例があった。

ニ.決済リスク

決済システムの安定性確保という観点から、引き続き個別金融機関における決済リスク管理に関する調査を行った。特に、RTGS化の準備状況や関連するリスク管理状況に焦点をあて、通常考査の中でチェックしたほか、決済ボリュームが大きい先を中心にターゲット考査(15先)を実施した。その結果を踏まえて留意事項を取り纏め、取引先金融機関に還元した。

  • 日銀当座預金や国債の残高管理をより堅確に行う余地がある事例、対顧客日中与信の管理を強化すべき事例、システム障害等に備え緊急時対応の整備が必要な事例などがみられた。

2.平成13年度の考査における重点事項

わが国金融システムの現状をみると、公的資本や民間からの資本調達などを通じた金融機関の資本基盤の拡充、金融機関の破綻処理の進捗、さらには、合併・再編の動きの広範化など、システムの安定化に寄与する取組みが進んできている。

しかし、金融機関の抱える不良債権については、ここ数年間で相当額を処理してきたにも拘らず、新規の発生が嵩んだこともあって、なお捗々しい減少をみていない。平成13年度末で金融機関の預金等の全額保護が終了する点を踏まえ、個々の金融機関が、それぞれの実情に即し、この問題に対し適切な対応と展望を示していくことが、全体としての金融機能の維持・向上にとって極めて重要である。

他方、規制緩和の進展や情報通信技術の革新を背景として金融機関の業務内容や経営構造は大きく変貌しつつあり、このような中で金融機関の直面するリスクも益々複雑かつ多様化する傾向にある。わが国金融機関が、新たなビジネスチャンスを捉え、収益力の向上を図っていくためには、この様な各種リスクを全体として的確に把握し管理する体制を整備する必要性が増してくると考えられる。

次に、決済リスクや流動性の管理も今後の金融機関経営にとって従来以上に重要なテーマになると考えられる。すなわち、決済システムについては、平成13年初より決済システム全体のリスク削減に向けての重要なインフラ整備としてRTGS化がスタートした。今後それを前提に各金融機関が自らの決済リスク管理を一層充実させ、わが国決済システムの改善が図られることが期待される。また、各金融機関においては、13年度末で預金等の全額保護が終了する点を踏まえ、自らの運用・調達全般の動向を適切に管理していく視点が従来以上に重要となると考えられる。

以上のような問題意識を踏まえ、平成13年度の考査については、取引先金融機関等の実態や今後の業務展開に即しつつ、経営体力および各種リスク管理に関し、以下のポイントに力点を置いて実施することとする。

なお、考査を実施するに当たっては、考査先の事務負担の軽減や考査の効率的な運営に十分配意した運営に努めていきたい。この観点から、考査先の有する課題の所在等に応じ、考査周期、考査内容・期間を弾力的に設定していくこととする。また、特定のリスクに関する実態把握が必要と判断される場合、弾力的な考査運営の一環として、調査対象を絞ったターゲット考査の積極的な活用を図っていく方針である。

(考査内容における重点事項)

(1)経営体力、信用リスク

  • 不良債権問題の現状に鑑み、自己資本の充実度合、新規不良債権発生の可能性の把握等、金融機関等の経営体力の的確な把握に重点を置く。加えて、各金融機関の信用リスクの態様を踏まえ、信用リスク量の捉え方やコントロールの在り方について議論を深める。
  • その際、信用格付等のツールを用い、与信全体についてのリスクの的確な把握を含め、信用リスク管理の枠組みの有効性が確保されているかどうかを重要な検証ポイントとする。具体的には、格付方法の妥当性や与信監査等内部牽制機能の有効性、さらにはこれを用いた信用コストの算出やポートフォリオ分析等の与信業務運営への利用といった点に焦点をあてて調査を行い、それをもとに、金融機関に対し、各々の実情に即した適切な活用方法への理解を求めていきたい。

(2)市場リスク

  • 金融機関の市場関連リスクの管理については、引き続き注意深い対応が必要であり、リスク管理基準の整備・遵守状況等を十分チェックしていく方針である。特に、有価証券運用ウェイトの高い金融機関にあっては、新商品を含め経営者のリスクに対する認識やその管理プロセスへの関与状況、運用責任部署(フロント)に対する牽制体制の確立等につき必要に応じ注意喚起に努めていきたい。

(3)オペレーショナル・リスク

  • 金融機関の業務運営体制の見直しに伴い、事務処理の集中化やアウトソース化の流れは一段と加速するものと見込まれる。このような事務処理体制の変化を踏まえ、それに応じたオペレーショナル・リスク管理が行われているかどうかに着目したチェックに重点をおく。特に重要な業務をアウトソースした場合には、当該業務にかかるリスク管理体制の整備状況につき重点的に調査する。
  • システム関連については、平成12年度の情報セキュリティ考査を今一歩進めた形で運営していきたい。すなわち、情報セキュリティの確保といったシステムの安全性に加え、システムの障害が適切な金融サービスの提供を妨げることがないか、システムが提供する機能・情報が業務要件に照らし的確かといったシステムの安定性や信頼性を確認していく。
  • オペレーショナル・リスクの計量化等、管理技術の高度化や経営管理上の活用の試みについては、今後の望ましい在り方を中心に、金融機関との間で議論を深めていく。

(4)決済・流動性リスク

  • 決済・流動性リスク管理については、平成13年度の重点課題と位置づける。RTGS化を踏まえ、決済システムの主要な参加者のリスクの態様がどのように変化し、その変化に的確に対応しているかどうかを調査する。仮に管理が不十分であると判断される場合には適切な対応を求めるとともに、それが市場全体に悪影響を及ぼす惧れがないかを検証していく。このようなプロセスを通じ、RTGS下における決済メカニズムが適切な形で定着し、決済システム全体としてのリスク軽減に繋がっていくことを期待したい。
  • 同時に、決済リスクの顕現化を回避する観点から、個々の金融機関が自らの運用・調達の動向を踏まえ、流動性管理を適切に行っているか、不測の事態に備えたコンティンジェンシー・プランを整備しているか等をチェックしていく方針である。

(5)統合的リスク管理等

  • わが国のリーディングバンク中心に、複雑化するリスクの態様を適切に管理する手法・体制を確立していくことは、今後の新しい金融業務を展開していく上で重要な課題である。こうした問題意識を踏まえ、複雑なリスクの態様全体の管理体制の確立を促進する観点から種々のリスクの統合的管理の手法、それに基づく資本の効率的な利用や充実度の検証など、管理技術の高度化やその経営管理上の活用について金融機関との間で議論を深めていきたい。
    また、様々な形での経営統合や新規業務の立上げなどに伴う業務運営体制の移行期において、体制面の変更を踏まえ策定されたリスク管理方針とその実際の運営の整合性が確保されているか、内部管理の枠組みの有効性が継続的に機能しているかどうかをチェックしていきたい。