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日本銀行における外国為替市場介入事務の概要

作成 2000年 6月
改訂 2007年 1月

2010年 7月

金融市場局為替課

目次

1. はじめに

日本経済は、変動相場制度へ移行した1973年2月以来、趨勢的な円高基調の中でしばしば為替相場の大幅な変動を経験してきました。これに対応して、わが国では、そうした為替相場変動がもたらす実体経済への悪影響を緩和するために、しばしば外国為替市場への介入(「外国為替平衡操作」とも言われます。以下、「為替介入」ないし単に「介入」と呼ぶことにします)が行なわれてきています。最近でも、為替介入は新聞・ニュース等でしばしば話題に上りますが、その実務面については意外と知られていないようです。
そこで、このレポートでは為替介入の基本について、実務を中心に出来るだけ分かりやすく解説することを試みています。

本レポートの構成は以下の通りです。
第2節では、為替介入とは何か、その法的位置付け等について説明します。
第3節では、為替介入事務の内容をやや詳細に説明することによって、為替介入の意思決定等、その実務的側面を解説します。
最後に第4節では、介入に伴って発生する資金の調達や運用の側面について、その概要を説明します。

2. 為替介入とは何か

介入の定義・法的位置付け

為替介入とは、一般に、通貨当局が外国為替市場において、外国為替相場に影響を与えることを目的に外国為替の売買を行なうことを言います。わが国では、財務大臣が円相場の安定を実現するために用いる手段として位置付けられており、為替介入は財務大臣の権限において実施されます1。日本銀行は、その際に財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行しています2。したがって、新聞・ニュース等でしばしば使われる「日銀介入」という言葉は、やや誤解を招きやすい表現であるといえます。(なお、財務省では、介入の実施状況について、財務省ホームページで公表しています。為替介入制度の各国比較については、別添を参照)。

為替介入の種類

さて、為替介入は通常、東京市場において実施されます。ただし、日本時間の午後5時頃を過ぎると外国為替取引の大宗は欧州市場へ、さらにその後はニューヨーク市場へと移っていくため、こうした時間帯に介入の必要性が生じた場合には、海外の通貨当局に対して介入の実施を委託することが多くなります(「委託介入」)。こうした場合の委託の判断や、介入金額・対象通貨・介入手法等も財務大臣によって決定されます。いずれの市場で介入が行なわれるにせよ、介入に必要な資金はすべて、財務省所管の「外国為替資金特別会計」(後述)の資金をもって充てられます3。なお、財務大臣の代理人としての日本銀行が海外の通貨当局に委託を行なうのと同様に、海外の通貨当局が東京の取引時間帯に介入の必要性を判断したときには、海外の通貨当局からの要請に基づいて、日本銀行が海外通貨当局に代わって介入を実施することもあります(「逆委託介入」)。4

為替介入は、各国の通貨当局が自主的に判断して決めることですが、複数の通貨当局が協議のうえで、各通貨当局の資金を用いて同時ないし連続的に為替介入を実施することを「協調介入」と呼んでいます。

為替介入の目的

為替介入は、『外国為替及び外国貿易法』における「財務大臣は、対外支払手段の売買等所要の措置を講ずることにより、本邦通貨の外国為替相場の安定に努めるものとする」との規定を踏まえ、円相場の安定を目的として財務大臣によって行われます。

1 『外国為替及び外国貿易法』(いわゆる外為法)においては、「財務大臣は、対外支払手段の売買等所要の措置を講ずることにより、本邦通貨の外国為替相場の安定に努めるものとする」(第7条第3項)と定められています。
2 『日本銀行法』では、日本銀行は、「本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とするものについては、(中略)国の事務の取扱いをする者として行うものとする」(第40条第2項)と規定されています。また、『外国為替資金特別会計法』は、「財務大臣は、前条の規定による外国為替資金の運営に関する事務を、日本銀行に取り扱わせることができる」(第6条第1項)と定めています。
3 この点、「委託介入」はあくまで日本の資金が用いられているという意味で、海外の通貨当局が自己の資金を用いて行なう介入とは異なります。
4 このタイプの為替介入では、委託した海外通貨当局の資金を用いて行われることとなります。

3. 為替介入の実務

前述の通り、日本銀行は、財務大臣の代理人として為替介入を実行しますが、その際の実務部隊となるのが金融市場局為替課(以下、日銀為替課)と国際局バックオフィスグループです。

情報収集

日銀為替課では、為替ディーラー等の市場参加者や、日本銀行の海外事務所および海外中銀と緊密にコンタクトをとる一方、内外の情報提供サービス会社の情報をも利用することによって、為替相場動向を日夜注意深く把握・分析しています。さらに、こうした為替相場情報とともに、海外における債券・株式市場の動向、商品市況等についての情報収集・調査も行なっており、為替相場を軸にした多面的なモニタリング体制を敷いています。

このようにして集められた情報は、日本銀行内において、金融経済情勢に関する判断材料の一つとして政策委員会等へ報告されます。また、介入に関する財務大臣の代理人としての立場から、毎日、財務省の為替介入担当部署である国際局為替市場課(以下、財務省為市課)に報告されています。

為替介入の決定

為替相場が急激に変動する場合等には、財務省為市課から日銀為替課のディーリング・ルームへホットラインを通じて連絡が入ることになります。日銀為替課は、為替相場変動の背景や、介入決定の判断に資するような最新のマーケット情報を提供します。

そうした情報も踏まえ、財務大臣が介入の決断を下すと、財務省為市課から介入実行の具体的指示が伝えられ、介入が実施されます。財務大臣は、介入を効果的・効率的に実施するために為替市場における様々な要素を勘案して、実施方法を決定します。日銀為替課は、介入の実行と平行してマーケット情報を集め、市場の反応等を財務省為市課へ提供し、これを基に実施方法が見直されることもあります。

資金決済

介入に係る取引条件についての合意(約定といいます)が成立すると、それから先の作業は日本銀行国際局のバック・オフィス(バックオフィスグループ)に引継がれます。バック・オフィスは、ディーラー(フロント・オフィスと呼ばれます)が結んだ約定の内容を取引先バック・オフィスと照合・確認し(コンファメーション)、実行する(決済の終了)までの過程を担当する部署のことを言います。

バック・オフィスでは、まずフロント・オフィスから回付された約定内容を記録した証票を基に、取引先と電話やSWIFT5等を用いて内容を照合・確認します。次に、決済のための作業に入りますが、介入資金の決済は、原則として介入に用いられた通貨を発行している国の中央銀行預け金勘定間の振替えによって行われています。

5 The Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略。国際間の銀行取引に伴うメッセージの伝送を行なうデータ通信システムのこと。運営主体の本部はブリュッセルにあり、日本銀行は1987年から参加しています。

4. 為替介入資金の調達と運用

最後に、為替介入に要する資金の調達や、介入を通じて得た外貨の運用等について、簡単に説明することとします。

日本銀行が財務大臣の代理人として行なう為替介入は、すべて政府の「外国為替資金特別会計」(以下、「外為会計」)6の資金を用いて行われます。この資金は、大別して外貨資金と円資金によって構成されており、ドル買い・円売り介入の場合には、「政府短期証券(FB)」を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買い入れる一方、ドル売り・円買い介入の場合には、外為会計の保有するドル資金を市場で売却して、円を買い入れることになります。

外為会計は、これまでの円高局面での外貨買い・円売り介入の累積等から高水準の外貨資金を保有しています。こうした外貨資金は、財務大臣によって、流動性・安全性等に最大限留意しつつ運用が行われているところであり、その大宗は流動性等に問題のない主要先進国債券に運用されています。前述のバック・オフィスは、こうした外貨資産運用の実務にも携わっています。

6 同会計は「外国為替資金」と、その運営に関する経理を行なう狭義の特別会計との2本の柱から成り立っています。外国為替資金は、政府の行なう外国為替等の売買等のために設けられた資金で、これに属する外貨資金の受払いは外為会計の歳入歳出外のものとして取り扱われます。他方、狭義の特別会計では、外国為替等の売買損益や介入に係る資金の運用調達金利等を歳出・歳入として経理しています。

別添 <参考>海外の為替介入制度


米国 ユーロエリア 英国
介入の決定 政府<財務省>及び連邦準備制度理事会(FRB)
…ただし、政府に優先権。
欧州中央銀行(ECB)
… 介入は、蔵相理事会が策定する一般的指示権と整合的である必要。ただし、一般的指針は、(1)ECBに諮問した後、決定されるほか、(2)物価の安定の目的を妨げるものであってはならないとされている。
政府<大蔵省>及びイングランド銀行(BOE)
… ただし、BOEの介入は、金融政策目標達成に必要な場合に限定。
介入実務の執行 ニューヨーク連邦準備銀行 ECB、各国中銀 BOE
介入勘定等 政府<為替安定化基金>及びFRB(通常、それぞれが介入金額を折半)。介入については、四半期毎に議会報告(Federal Reserve Bulletinにも掲載)。 ECB 政府<為替平衡勘定>及びBOE。介入については、月次ベースで大蔵省のホームページ上で公表。

ボックス記事 日銀ディーラーの日常

一般に為替ディーラーの朝は早いが、日銀ディーラーも例に洩れない。2時間(夏は1時間)先を行く豪州シドニー市場で朝の取引が峠を越す東京午前7時前、1日の仕事が始まる。朝一番の仕事は、毎朝恒例の市況会議に向けた情報の収集、整理、分析である。まずは前日の欧米市場の動きと相場材料を綿密に収集、次に当日の相場展開について、強弱それぞれの材料を洗い出すと共に、市場参加者の相場観を窺い、その日の相場展開を予想する。

収集する情報は、経済指標はもちろん、要人の発言、政治日程、休日情報、市場で囁かれる噂等々多岐に亘り、紙情報(新聞、FAX、雑誌等)、電子情報(情報端末、Eメール)、声情報(電話)などあらゆる媒体を活用する。情報量は膨大かつ玉石混淆なので、短い時間内に取捨選択、整理した上で、自分なりの考えを纏める必要がある。

朝の市況会議が終わっても、ほっとしている暇はない。最近は電子情報機器の発達で、全世界の情報がリアルタイムで誰でも容易に入手出来るようになり、情報収集作業の効率は格段に向上した反面、ちょっとしたニュースにも市場が一斉に反応するため、片時も気が抜けない。予想もしなかった材料で大きく振れることは珍しくない。マクロ経済理論に基づいた分析や、統計的な手法を駆使した時系列分析、歴史的考察から政治情勢分析、果ては占星術に至るまで、あらゆる側面からのチェックが求められる。

従って、日中も情報収集と分析が間断なく続くが、電話による民間の市場参加者との意見交換には、電子情報全盛の現在でも欠くことの出来ない意義がある。市場参加者の相場観は時として千差万別であるし、彼らのセンチメントの微妙な変化が次第に大きな流れを形成していくことも少なくない。こうした市場情報の読み取りには、やはり普段の対話が物を言う。さらに、外部との対話は、日本銀行の政策運営や関係者の発言等について、自ら正確な情報を提供し、誤解に基づく市場の反応を予防するという意味で、情報発信の観点からも重要である。

さて、ディーラーの動きが最も活発になるのは、やはり為替介入を実行する時であろう。日本銀行は、法律上、財務大臣の代理人として、円相場の安定を目的とした外国通貨の売買(つまり介入)を実行することと規定されている(外国為替資金特別会計法、日本銀行法等)が、ここ為替課がその実務部隊なのである。円の相場が大きく動いて経済への悪影響が懸念される状況になると、財務省との間のホットラインが鳴り響く。数名いるディーラーやそのバックアップ担当者が、慌ただしく配置に着き、ディーリング・ルーム内が緊張感で満たされる。そして介入が決定されると、チーフ・ディーラーの指示や確認の声、ディーラーの注文の声、電話の呼び鈴等でルーム内は喧騒に包まれる。

夕方も5時を過ぎると、為替取引の中心は欧州市場に移り、通常の場合、市場モニタリング業務は欧州と米国の駐在員事務所に引継がれ、ディーラーも早朝から続いた緊張感から漸く解放される。もっとも、相場が荒れている日は、東京市場と共に営業終了、という訳にも行かない。海外市場の民間ディーラーや、海外の中央銀行の為替担当者と連絡を取り、欧米の取引時間まで相場を追いかけることは珍しくない。そのうえ、海外の中央銀行に介入を委託するような場合には、日本銀行幹部が財務省と委託先中央銀行の間に入って連絡・調整を行うため、仕事は明け方に及ぶことになるからである。

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