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金融政策決定会合議事要旨

(2001年10月11、12日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年11月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年11月21日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年10月11日(14:00〜16:04)
    10月12日( 9:00〜13:05)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口泰(  副総裁  )
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原眞(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(11日)
    村上誠一郎 財務副大臣(12日)
  • 内閣府 小林 勇造 政策統括官(経済財政—運営担当)
    (11日、12日<12:10〜13:05>)
    竹中 平蔵 経済財政政策担当大臣
    (12日<9:00〜12:10>)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(9月18日)で決定された方針1にしたがって、日本銀行当座預金残高が6兆円を上回ることを目標として、潤沢な流動性の供給を行った。

 この間の市場動向は、3つの局面に分けて捉えることができる。

 第1は9月末までの局面である。この時期、米国のテロ事件の影響に中間期末越え要因も加わり、流動性需要が大きく高まった。これに対し日本銀行は、一時は日銀当座預金残高が10兆円を上回る大量の資金供給を行った。こうした中で、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、期末日を含め、0.002〜0.003%で安定的に推移した。

 第2の局面は、10月第1週(1日〜5日)である。この時期、内外の金融市場が落ち着きを取り戻したことに加え、中間期末越え要因も剥落し、流動性需要は減少した。これを受けて日本銀行は資金供給額を徐々に減少させたが、資金余剰感の強まりを背景に、コールレ−トは史上初めて加重平均値で0.001%まで低下した。

 第3の局面は、10月9日以降である。一部外銀が大量の超過準備を保有し続けるようになっている。こうした中で、コール市場全体では資金が大量余剰になっているにもかかわらず、個別の資金の取り手に対して出し手がなかなか現れず、コールレートがやや強含むケースもみられている。市場では、こうした現象を「コール市場の機能低下」と捉える見方もある。

 この背景としては、(1)テロ事件の発生以降、一部外銀の円転コストがかなりのマイナスとなっており、資金を無利子の日銀当座預金に積んでも鞘が抜ける、(2)同時に、これらの外銀は、現在の超低金利の下、事務コストなども勘案すれば、コール市場等でわざわざ運用を試みる意味はないと判断している、という事情がある。

  1. 「当面、日本銀行当座預金残高が6兆円を上回ることを目標として、潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 本邦株価のテロ事件以降の落ち込み幅は、欧米に比べれば小幅に止まっていたが、10月入り後、欧米の株価が反発する中で、本邦株価もそれに連動する形で持ち直している。市場では、テロ事件による直接的な影響は一巡したとの見方が多い。

 ただし、先行きの株価動向について、市場では、米国の実体経済や日本の構造改革(とりわけ不良債権処理)の動向などを睨んだ神経質な展開を続けるとの見方が多く、インプライド・ボラティリティはかなり高めとなっている。なお、株価を業種別にみると、空運や輸送機械に加え、銀行株全般の不芳が目立っている。

 この間、長期金利は横這い圏内で推移しており、市場では、当面、1.3〜1.4%程度で推移するとみる向きが多い。

 クレジット・スプレッド(国債と民間債との利回り格差)をみると、高格付債については横這い圏内で推移している一方、トリプルB以下の格付の債券については幾分拡大している。これは、(1)経済情勢の悪化や、(2)テロ事件以降の株価の不安定な動きに加え、(3)本邦流通大手の経営破綻を受け、市場が信用リスクに敏感となっていることを反映している。とりわけ、銀行発行債のクレジット・スプレッドの拡大傾向が目立っている。

(2)為替市場

 円の対米ドル相場は、テロ事件を受けた米国経済の先行き不透明感の高まりなどを背景に、9月20日には一時115円台まで上昇した。もっともその後は、日本の通貨当局による為替介入や米国株価の持ち直しなどを受けて反落し、最近では概ね120円前後で推移している。

3.海外金融経済情勢

 テロ事件発生後の海外情勢の特徴点は、次の3点にまとめられる。第1に、世界同時的なコンフィデンスの悪化、第2に、米国を中心とする雇用情勢の悪化、第3に、金融市場におけるリスク回避指向の強まりである。

 米国では、テロ事件以前から労働需給の悪化傾向がみられていたが、テロ事件後、航空会社をはじめ多くの企業が新たな人員削減計画を発表するなど、雇用環境は厳しさを増している。消費者コンフィデンスも、急速に悪化している。

 こうしたもとで、FRBは9月17日および10月2日に、政策金利の引き下げ(FFレート誘導水準:3.5%→3.0%→2.5%)を実施した。なお、FF先物金利からみて、市場は、次回FOMC(11月6日開催予定)での0.25%の金利引き下げを、ほぼ織り込んでいる。

 また財政面では、テロ事件発生を受け、9月14日に緊急対策予算措置(総額400億ドル)が可決され、また21日には航空産業に対する資金支援措置(総額150億ドル)が可決された。

 欧州では、輸出の伸びの鈍化などを受け、独、仏、伊など主要国で景気減速が明確化している。すなわち、生産はIT関連を中心に減少傾向を辿り、設備投資も減速しているほか、労働需給や消費者コンフィデンスも悪化している。この間、物価は安定化の方向にある。

 NIEs、ASEAN諸国では、IT関連を中心に米国・日本向け輸出の減少が続いており、生産も減少している。足許でみられている米国経済の見通しの下方修正は、そのまま、対米依存度の高いこれらの国々の先行き不透明感の高まりに結びついている。こうした中で、IT関連輸出への依存度の高い台湾やシンガポールで、とりわけ景気の悪化が目立っている。この間、中国は、輸出の伸びは鈍化しているが、財政支出の増加や高水準の直接投資の流入により内需が引き続き好調であることから、高成長を維持している。

 国際金融面では、各国で市場参加者のリスク回避指向が一段と強まっている。米国では、テロ事件を契機に社債間スプレッドが拡大しており、10月入り後は低格付債の新規発行はストップしている。また、アルゼンチンやブラジル、トルコの国債の対米国債スプレッドも大幅に拡大している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気の現状をみると、生産の大幅な減少の影響が雇用・所得面にも拡がっており、調整は厳しさを増している。加えて、テロ事件を契機として、景気の先行きに対する不透明感が一段と高まっている。

 需要項目別にみると、輸出は、海外経済の減速や世界的なIT関連需要の低迷を背景に、大幅な減少が続いている。仕向地別にみると、米国・アジア向けの不芳が続く中で、最近では欧州向けの減少も目立っている。このような輸出環境の悪化の中で、設備投資の減少もはっきりしてきている。住宅投資は低調であり、公共投資も減少している。個人消費は横這い圏内にあるが、足許では、パソコンや乗用車販売など、やや弱めの指標もみられている。

 このような最終需要の減少に加え、電子部品や素材の在庫調整圧力が強いこともあって、生産は大幅な減少を続けている。8月の鉱工業指数をみると、電子部品の在庫調整はようやく進み始める一方、素材の在庫調整が遅れ気味となっている。

 こうした生産の減少を受けて、企業収益は製造業を中心に大きく減少し、企業マインドも一段と悪化している。9月短観の業況判断DIを業種別にみると、昨年にかけて大幅に改善した情報関連分野での悪化が著しいが、最近では素材・建設関連の悪化も目立っているほか、非製造業でも、サービスなどでやや弱い動きが拡がりつつある。このような企業部門の調整を受け、家計の雇用・所得環境も厳しさを増している。

 この間、テロ事件の直接的な悪影響は、今のところ旅行業界など一部に止まっている。しかし、事件を契機に海外経済は一段と減速するとの見方が拡がるもと、輸出企業は先行きへの警戒感を強めている。

 景気の先行きを展望すると、輸出は、海外経済の減速傾向が強まりつつある中で、当面は減少すると考えられる。設備投資や公共投資も減少を続け、個人消費も次第に弱まっていく可能性が高い。こうしたもとで、生産は本年中はかなり大幅な減少を続けるとみられる。

 情報関連財の在庫調整が進捗すれば、来年入り後はこの面からの生産下押し圧力は小さくなると考えられる。しかし、生産減少の家計所得への影響が強まりつつある中、政府支出の減少や海外経済の調整後ずれも踏まえれば、生産全体が下げ止まるまでにはかなりの時間を要するとみられる。さらに、テロ事件の影響等により米国の個人消費が下振れし、自動車などの対米輸出が大幅に減少する事態となれば、それを起点とする在庫調整が誘発される可能性にも留意が必要である。

 物価面をみると、国内卸売物価は、(1)技術進歩要因に加え、(2)内外の需給緩和を背景とする電子部品や鉄鋼、非鉄金属などの下落、さらには、(3)既往の原油高や円安の影響の一巡などから、マイナス幅がやや拡大している。消費者物価は、輸入品・輸入競合品の価格下落を主因に、弱含みで推移している。

 先行き、国内需給バランス面からの物価低下圧力は徐々に強まっていくと考えられる。さらに、技術進歩や規制緩和、流通合理化といった物価低下要因も働き続けると予想され、当面、各種物価指数のマイナス幅は、横這いないし幾分拡大するとみられる。

(2)金融環境

 前回会合以降の金融環境の面での特徴点は、3点にまとめられる。

 第1に、世界的なリスク回避指向の強まりの中で、本邦社債市場でも、一部債券のクレジット・スプレッドの拡大や発行困難化といった限界的な変化がみられること、第2に、中小企業金融に、若干の引き締まり傾向がみられること、第3に、マネタリーベースやマネーサプライといった量的金融指標が高い伸びを示していることである。

 まず、社債市場では、テロ事件の影響に伴うリスク回避傾向の強まりに加え、本邦流通大手の経営破綻もあって、このところ、トリプルB以下の格付の社債に対する市場の見方が厳しくなっている。10月入り後、こうした社債は発行されていない。

 中小企業金融についてみると、依然として緩和感の強い状況であるが、9月短観による中小企業の資金繰りや、中小企業からみた銀行の貸出態度は、若干厳しめの方向に振れている。

 この間、マネタリーベースやマネーサプライといった量的金融指標は、足許伸びを一段と高めている。すなわち、マネタリーベースは、9月には前年比14.2%といった高い伸びを示した。また、M2+CDの伸び率も、9月には前年比3.7%まで高まった。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状と先行き

 景気の現状について、大方の委員は、(1)生産の大幅な減少の影響が家計の雇用・所得面にも拡がっており、前回会合(9月18日)以降、調整はさらに厳しさを増している、(2)米国におけるテロ事件の発生を契機に、先行き不透明感も一段と高まっている、との認識を共有した。

 ひとりの委員は、現時点で入手できる国内経済指標は、なおテロ事件前のものが多いが、それでも、(1)企業部門の調整が、雇用・所得面を中心に、家計部門に徐々に及んでいる姿を示しており、(2)個人消費の面でも弱めの指標がみられる、と指摘した。別のひとりの委員も、IT関連分野の調整が続く中で、その影響が、素材などその他の製造業や非製造業の一部、さらには家計の雇用・所得環境など、他の分野に徐々に波及しつつある、と整理した。

 さらに別のひとりの委員は、景気の現状について「後戻り状態を継続している」との総括感を示したうえで、(1)テロ事件以前から、米国経済の減速傾向の強まりは日本経済の悪化を加速させる方向に作用してきたが、(2)テロ事件はこれに拍車をかける方向に働いていく可能性が高い、との認識を述べた。

 まず、米国のテロ事件の影響も踏まえた海外情勢について、討議が行われた。

 大方の委員は、テロ事件の国際金融面への影響について、(1)取引や決済を巡る混乱は概ね回避されている、(2)株価などへの一時的なショックの影響も一段落し、10月以降は各国の株価も持ち直している、(3)ただし、市場参加者のリスク回避指向は強まり、各種のクレジット・スプレッドが拡大している、と整理した。また、実体経済面への直接の影響については、米国をはじめ各国において、コンフィデンスの悪化や先行き不透明感の高まりを招いている、と指摘した。

 米国の実体経済について、多くの委員は、(1)テロ事件前から、家計・企業のコンフィデンスや労働需給の悪化など、調整の深まりや後ずれを示す指標がみられていたが、(2)テロ事件以降、個人消費関連指標などの下振れが目立っている、と指摘した。このうち複数の委員は、米国経済の調整が在庫調整に止まらず、企業設備や耐久消費財の広範なストック調整を伴って進むリスクが高まっている、と述べた。

 さらに、何人かの委員は、米国経済の調整の深まりが世界経済に及ぼす影響に言及した。ひとりの委員は、米国経済の減速傾向の強まりが、発展途上国の経済見通しの悪化に結び付いていると述べた。別のひとりの委員は、既に一部アジア諸国の輸出減少が一段と顕著になっていることを指摘した。

 一方で、何人かの委員は、(1)米国では、政府支出の拡大や減税、FRBの相次ぐ利下げ措置など、財政・金融の両面でかなりの規模の政策対応が採られていること、(2)足許、米国をはじめとする世界経済の減速傾向が強まる中、各国の株価はむしろ持ち直していること、を指摘した。

 このうちひとりの委員は、テロ事件は、少なくとも短期的には米国経済にとってのダウンサイド・リスクと捉えられるが、情勢はきわめて流動的であり、今後の政治・軍事情勢次第では、経済主体のマインドが再び持ち直す可能性も否定できない、と述べた。別のひとりの委員は、米国の個人消費の下振れは、政府支出の拡大や減税措置によって、今後ある程度相殺されていく可能性も考えられる、と指摘した。そのうえで、これらの委員は、(1)米国における財政出動や金融緩和の効果が、今後どのように出てくるのか、また、(2)世界的な株価の持ち直し傾向が、投資家のどのような先行き見通しを反映しているのか、注視していく必要がある、と述べた。

 このような海外情勢を踏まえたうえで、日本経済の現状と先行きについて、討議が行われた。

 企業部門の動向に関し、ひとりの委員は、(1)製造業では、IT関連分野の調整が素材など他の業種に波及しており、本年度下期の回復期待はほぼなくなっている、(2)非製造業でも、製造業部門の調整の波及が、とりわけ企業向けサービスの分野などで明確となっている、と指摘した。

 別のひとりの委員も、(1)建設需要(非住宅)が減少し、昭和42年頃のレベルに落ち込む見込みである、(2)これまで比較的堅調を維持してきた自動車業界は、9月以降の国内販売の陰りや米国自動車販売の減少を受けた対米輸出減から生産計画を下振れさせている、と紹介し、業況悪化の動きが広範な業種に拡がっていると述べた。そのうえでこの委員は、企業にとっては収益確保が最大の課題となっているが、量・価格ともに下落する中ではコスト引下げが唯一の対応になるとして、今後はワークシェアリングなどを通じた労働分配率の引下げや中国等への海外生産シフト、規制緩和によるインフラコストの引下げによるコストダウンといった動きが加速していく、との見方を述べた。

 さらに別のひとりの委員は、IT関連以外の業種でも人員削減の動きが目立ってきていることを指摘した。

 次に家計部門の動向について、多くの委員は、(1)企業部門の調整の影響が、特別給与や限界的な雇用を中心に、雇用・所得面に表れていること、(2)消費者コンフィデンスにも悪化傾向がみられること、(3)こうした中で、個人消費は横這い圏内の動きを続けているが、一部には弱めの指標もみられていること、を指摘した。

 ひとりの委員は、雇用環境に関し、労調ベースでみた正社員や自営業主が大幅に減少していると指摘したうえで、当面、非常に厳しい状況が続くとの認識を示した。

 別のひとりの委員は、雇用・所得環境が悪化傾向を辿っている一方で、消費支出はなお「平時」の状態にあると述べた。ただし、販売統計などを細かくみると、サ−ビス消費は堅調を維持しているが、自動車や家電などの耐久財消費では弱い動きがみられており、先行き、支出も弱まっていくとみられる、との見方を示した。

 さらに別の複数の委員は、生産減少の影響が、家計の雇用・所得環境に徐々に及んでいる中で、今後とも生産の減少は続くとみられることを踏まえれば、当面、個人消費に景気回復の牽引役を期待することは難しい、との見解を示した。

 物価動向に関し、ひとりの委員は企業の価格設定の視点から、(1)「国際競争価格への鞘寄せ」といった形で、輸入品・輸入競合品の価格低下が続いており、日本企業がアジア諸国等とのメガコンペティションに晒されている中、わが国の高コスト体質是正を迫る海外からの価格低下圧力は今後とも継続する、(2)生産性向上・技術革新を反映した価格下落も続いている、(3)他方、景気悪化に伴う需給バランスの悪化も価格下落に拍車をかけており、企業は生産調整で対応しようとしているが、在庫調整が長引くもとで、対応はなかなか進んでいない、と整理した。別のひとりの委員も、素材業種ではキャッシュ・フロー維持のために稼働率を落とせない先が多く、需給バランス悪化による価格低下圧力が強く働き続けている、と指摘した。

 さらに、やや長い目でみた経済や物価の先行きについて、議論が行われた。

 各委員は、日本経済の先行きを展望するうえで、引き続き、海外経済の調整の深さや完了時期が鍵となる、との認識を示した。そのうえで何人かの委員は、具体的な注目点として、(1)IT関連分野のグローバルな調整がどの程度続くのか、(2)米国の耐久財消費(とりわけ自動車販売)がどの程度減少するのか、という点を挙げた。

 さらに、国内経済面で注目すべきポイントとして、多くの委員は、(1)現在はIT関連分野を中心としている設備投資調整の動きが、今後どの程度の拡がりをみせるのか、(2)労働需給や消費者コンフィデンスが悪化傾向を辿るもとで、今後、個人消費がどの程度持ちこたえるのか、(3)今後、構造改革の具体的な取り組みがどのように進み、これが、経済にいかなる影響を及ぼしていくのか、という点を挙げた。

 そのうえで、何人かの委員は、先行きの経済についての厳しい見方を示した。

 ひとりの委員は、少なくとも来年度上期までの景気回復は展望し難い、と述べた。その理由としてこの委員は、(1)IT分野を中心とする海外経済の調整は後ずれする傾向にあり、外需の回復は当面展望し難いこと、(2)構造改革による国内民需の掘り起こしにも時間がかかること、などを挙げた。

 別のひとりの委員も、今年度に加え、来年度の成長率もかなり低めとなり、マイナス成長となる可能性も念頭に置く必要があると述べた。さらに、需給ギャップと物価との関係(短期フィリップス・カーブ)を踏まえれば、総需要が低迷し、現実の成長率が潜在成長率を下回る(すなわち、需給ギャップが拡大する)もとでは、来年度も物価の前年比マイナス幅が縮小することは見通し難いと指摘した。

 この間、ひとりの委員は、(1)テロ事件により、米国は第二次大戦以来の危機にあり、金融ユーフォリアは終焉を迎えている、(2)米国株価は年末にかけて上昇した後、NYダウは9,370〜9,533ドル、NASDAQは1,655〜1,721ポイントが天井となり、来年は一段安となる可能性がある、といった厳しい見方を示した。また、原油価格について、冬季の需要次第であるが、9月中旬の21ドル/バレル程度で底を打った可能性がある、と主張した。さらに、日本経済に関し、(1)景気動向指数などからみて、今後10か月程度は景気下降を続ける可能性が高い、(2)本年度は1923年、98年に次いで、GDPが名目・実質ともマイナスとなり、来年度も同様となる可能性が高い、(3)景気は98年以上に厳しい状況となることが予想される、と指摘し、こうした情勢を踏まえ、「改革工程表」を危機対応型に転換することが望まれる、と述べた。

 また、この委員は、日本経済の中長期的なファンダメンタルズという点でも、人件費格差の大きい中国との競争もあって、電気機械を中心に国内産業の国際競争力が低下している、との見方を示した。この点に関し、別のひとりの委員も、電気機械では、生産の海外シフトが趨勢的に国内生産の低下要因として働き続けている、と指摘した。

2.金融面の動向

 まず、多くの委員は、短期金融市場において、足許、外銀などが大量の超過準備を保有する傾向が強まっており、コール市場の流動性が低下しているようにみられることを指摘した。

 何人かの委員は、テロ事件の発生直後、欧米の中央銀行も市場の流動性需要の高まりに対応して大量の資金供給を行ったが、こうした流動性需要は1週間程度で鎮静化し、通常のレベルに戻ったことを指摘した。そのうえで、日本だけが中間期末を越えた後も流動性需要が高止まりし、日本銀行もこれに応じて巨額の資金供給を続けていることは、国際的にみてもかなり特異な姿といえる、と述べた。

 これらの委員はその背景として、(1)ほぼゼロに近い金利水準のもとでの、市場参加者の運用意欲の喪失、(2)テロ事件や本邦流通大手の破綻を受けたリスク回避指向の強まり、を指摘した。

 このうちひとりの委員は、外銀が多額の超過準備を保有している背景について述べた。すなわち、(1)現在の金融緩和のもと、円資金の運用・調達金利は、ターム物に至るまでほぼゼロに抑えられている、(2)テロ事件後、本邦金融機関が為替スワップを利用したドル債投資を積極化する中、一部の外銀は、こうした為替スワップ取引に応じることで、マイナスの円転コストを実現している、と解説した。そのうえで、これらの外銀が円資金をさらに運用しようとしても、金利の刻み幅を1000分の1%にしたことで金利が一層ゼロに近づいたもとでは事務コストやリスクをカバーできないと判断し、超過準備として積み上げている、と述べた。

 次に、国際金融市場におけるリスク・プレミアムの上昇が、わが国の金融環境全般に及ぼす影響について、討議が行われた。

 多くの委員は、わが国の金融システム面への影響に言及した。

 ひとりの委員は、海外市場でリスク・プレミアムの上昇傾向が広範にみられている一方、日本ではこうした動きは一部低格付社債に限られ、借り手の調達コストの全般的な上昇には結びついていないことを指摘した。その背景としてこの委員は、日本では間接金融のウェイトが高い中で、銀行の貸出金利が必ずしもリスク・プレミアムの拡大を反映して上昇していない可能性を指摘した。そのうえで、世界的なリスク・プレミアム上昇の影響は、日本では借り手の調達コストの上昇といった形ではなく、潜在的な銀行資産内容の悪化として現れる可能性が高く、今後、こうしたことが金融システム面に悪影響を及ぼす可能性がないか、注意していく必要があると述べた。

 さらに何人かの委員は、邦銀に対する市場の見方は既に厳しくなっている、と指摘した。

 まず、ひとりの委員は、本邦株価が全般に持ち直す中、銀行株価が不良債権問題への懸念などから下落傾向を続けていることを指摘した。

 別の複数の委員は、潜在的な「ジャパン・プレミアム」に言及した。すなわち、ひとりの委員は、前述のように外銀がマイナスの円転コストを実現している背景として、潜在的な「ジャパン・プレミアム」の存在を指摘した。

 別のひとりの委員は、5〜10年物のクレジット・デフォルト・スワップレートをみると、既に邦銀の信用リスク・プレミアムの拡大傾向がみられ、97〜98年頃の様相と似てきているので、警戒が必要である、と述べた。

 さらに、何人かの委員は、国際金融市場を通じた影響にも言及した。

 すなわち、これらの委員は、世界的なリスク回避傾向の強まりは、経常収支赤字国や累積債務国のファイナンスの問題に結びつく可能性があり、これが国際金融システムの動揺や為替変動などを通じて日本経済に悪影響を及ぼすリスクもあると指摘した。このうち複数の委員は、一部途上国では、株価や通貨の下落、対米国債スプレッドの拡大といった動きが既にみられている、と述べた。この間、別のひとりの委員は、アジア諸国の輸出減少などと相まって、エマージング諸国への資本フローが収縮するリスクを指摘した。

 また、企業金融の動向について、何人かの委員は、97〜98年にみられたような広範な信用収縮は生じていないが、中小企業金融の面では引き締まりの動きがみられることを指摘した。その理由としてこれらの委員は、(1)金融機関の中小企業向け貸出スタンスが総じて慎重である中で、(2)景気悪化による売上げの減少に伴って企業のキャッシュ・フローが減少していること、を指摘した。

 このうちひとりの委員は、経営健全化計画における貸出増加の要請と資産査定における金融検査マニュアルによる健全性維持の要請の間でジレンマに陥っているという銀行の声もある、と述べた。そのうえで、銀行のリスクテイク能力を高めていくためには、(1)貸出スプレッドの適正化やリストラを通じた収益体質の改善、および、(2)不良債権問題や過剰債務問題の早期解決が必要であると述べた。さらに、後者の実現のためには、要注意債権に対して引当金を厚く積むとともに、破綻懸念先以下の債権については、RCCの機能拡充を含めオフバランス化を進める必要があり、そのための体力がない先に対しては公的資本の再投入も検討されるべきである、と主張した。

 こうした議論を経て、多くの委員は、今後、金融面での要因が実体経済のさらなる下押し圧力となり、景気悪化をスパイラル的なものとしていくリスクには、十分注意が必要である、との見解を述べた。このうちひとりの委員は、わが国金融システムのリスクテイク能力の低下は、これまでも金融緩和の有効性を低める方向に作用してきたが、世界的なリスク・プレミアムの上昇は、こうした問題を一段と深刻にするリスクがある、と指摘した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営について、検討が行われた。

 大方の委員は、(1)生産減少の影響が雇用・所得面にも拡がっており、前回会合以降、調整はさらに厳しさを増している、(2)米国のテロ事件を契機に、先行き不透明感が一段と高まっている、との認識を共有した。さらに、(3)金融市場では、流動性需要が振れやすい状況が続いていることを指摘した。

 これらの委員は、流動性需要が大きく振れる中で日銀当座預金に固定的な目標値を定めて調節を行うと、金融市場の安定を損なうリスクが大きい、との見解を示した。そのうえで、9月18日に決定した、日銀当座預金の上限を定めない柔軟な調節方針を維持し、潤沢な流動性を機動的に供給していくことが適当である、との見解を共有した。

 何人かの委員は、9月12日以降の調節は事実上ゼロ金利政策とみなし得るが、これは市場の安定を維持するうえで有効であったと評価した。このうちひとりの委員は、現在の市場動向に鑑みれば、(1)執行部には、現在の調節方針のもとで、市場の安定確保を優先課題として潤沢な流動性の供給を行ってもらう、(2)そうした調節の結果として日銀当座預金残高が大きく振れる場合には、その背景についてきちんと報告を受けていく、というやり方が望ましい、と付け加えた。

 別のひとりの委員も、緊急時モードとも言える今の市場環境の中では、現在のような調節方針とすることが妥当である、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、「物価水準ターゲット」を導入するとともに、そのもとで日銀当座預金残高を10兆円に増額すべきである、と述べた。さらに、(1)現在の調節方針はコールレートの目途を定めていないにもかかわらず、実際にはコールレートを、0.01%を下回るレベルで安定させるような調節が行われている、(2)こうしたことは決定会合で決められておらず、問題であり、また「ロンバート型貸出制度」を導入した意味もなくなる、と主張した。

 何人かの委員の求めに応じ、執行部から、金融調節の実際について、追加的な説明が行われた。

 すなわち、執行部からは、(1)現在の調節方針の目的は、「金融市場の安定を確保」し、「金融緩和のより強力な効果浸透を図る」ことにあると認識している、(2)「市場の安定」の状態を見極めるに当たっては、その時々の市場参加者の認識や金利の刻み幅の変更といった制度変更など、様々な要因を踏まえた判断が必要となる、(3)執行部としては、その時々の市場の地合いなどを十分注視しつつ、現在の調節方針の趣旨を実現するため、できるだけ市場を安定させるよう努めている、(4)ロンバート型貸出制度は、その現実の利用の有無にかかわらず、金利が大きく跳ね上がることはないという安心感を市場に与えている、との説明がなされた。

 さらに、先行きの政策運営のあり方についても、議論が行われた。

 まず、足許みられている流動性需要の高止まりや振れと、そのもとでの金融調節を巡る問題について、各委員が発言した。

 多くの委員は、超低金利のもとで市場参加者が余剰資金の運用を諦めて抱え込んでいることが、日銀当座預金の高止まりと市場の流動性低下・資金偏在といった現象の共通の背景となっており、資金の「量」と緩和効果との関係が崩れてきていると指摘した。

 このうちひとりの委員は、日本銀行の思いきった金融緩和のもとで、日銀当座預金を保有する機会費用が限りなくゼロに近づいている中では、その残高が振れやすくなり、またその結果、日本銀行が資金偏在の調整役を果たさなければならないケースが増えることは、当然の帰結といえるのではないか、とコメントした。

 こうした議論を経て、何人かの委員は、「物価下落に歯止めをかける上で、マネタリーベースや日銀当座預金の量的拡大自体が効果を有する」といった見解と、こうした金融市場の現実との乖離は、一段と著しくなっている、と述べた。

 さらに、現在の金融緩和の評価を踏まえた、先行きの金融政策運営のあり方という観点から、多くの委員が発言した。

 多くの委員は、(1)日本銀行は本年入り後、金利の引き下げというオーソドックスな政策手段を使い果たした中で、新たな緩和手段を懸命に模索してきた、(2)しかし、構造問題や総需要の不足という日本経済の根本的な問題に対し、中央銀行本来の役割である「流動性の供給」によって対応することの限界も、8、9月の政策対応の経験を通じて一段と明らかになっている、との見解を述べた。

 ひとりの委員は、3月以降の政策対応の効果を、次のように整理した。すなわち、(1)積極的な日銀当座預金の供給により、短期金利の限界的な低下を促した効果はあったが、短期金利がほぼ下限に至った現在、さらなる日銀当座預金の増額に、こうした効果は期待できなくなっている、(2)日銀当座預金の増額が他の金融資産の運用の増加を促すといった「ポートフォリオ・リバランス」の効果はみられず、もっぱら超過準備保有の増加を招いている(逆に言えば、市場参加者が「ポートフォリオ・リバランス」をせずに超過準備を積み上げていることが、高水準の日銀当座預金の供給を可能にしている)、(3)長期国債の買入れ増額も、むしろ財政規律への懸念を招いている面がある、と述べた。そのうえで、金融政策が今後、単独でさらにできることは、理論的には、金融不安等により流動性需要が増大する場合への対応に限られるのではないか、と述べた。

 別のひとりの委員も、3月に新しい金融緩和の枠組みに移行し、マネタリーベースは最近では前年比約15%と大幅に増加しているが、民間金融機関の貸出スタンスなどに殆ど変化はみられていない、と指摘した。そのうえで、こうした事実は、需要の創出という点に加え、広義のマネーを増やしていくという点でも、金融政策以外の政策の役割が重要であることを示している、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、現在、追加緩和策として外部から提案されている様々な資産購入策には、実際には「金融政策」ではなく「財政政策」の範疇に属するものが多い、と指摘した。

 こうした議論を経て、多くの委員は、現時点では、日銀当座預金の目標値をこれ以上引き上げることが単独で持つ効果に慎重な見解を示した。そのうえで、先行きの金融政策運営について、(1)今後、年末・年度末を控える中、金融システムや企業金融面で問題が生じた場合の流動性供給や、(2)仮に景気がスパイラル的な悪化を示す場合に、政府の政策とあわせて何らかの方策を取り得る余地があるのか、といった観点から検討していくのが適当ではないか、と述べた。

 このうちひとりの委員は、構造改革と矛盾しない形での財政面での工夫による需要創出策や、不良債権の抜本的な処理のための方策が、真剣に検討される必要がある、と述べたうえで、そうした取り組みに対し中央銀行として何らかの貢献が可能かどうかを考えていくのが、理に適った方法であろう、とコメントした。

 さらに、委員会では、物価安定に向けたマクロ経済政策のあり方について議論が行われた。

 何人かの委員は、物価の継続的な下落について、債権債務の実質価値の変動や、実質金利の上昇という観点から、インフレ同様望ましくないのは当然であると述べた。このうちひとりの委員は、デフレは実質賃金や相対価格の調整を困難にし、構造改革を阻害するとの考えを示した。別のひとりの委員は、景気の回復とデフレ脱却は、日本経済の最大の課題である、と発言した。

 そのうえで、多くの委員は、議論されるべきは、いかに物価下落に歯止めをかけるのかという「手段」の問題であると指摘した。

 ひとりの委員は、(1)「フィリップス・カーブ」の理論が示すように、物価変動は需給バランスの影響を大きく受ける、(2)したがって、現在の物価下落を食い止めるためにも、結局は需要を引き出す方策を考えていくことが重要となる、(3)一方で、あくまで長期の関係を示す貨幣数量式の考え方を足許の物価動向に当てはめ、「インフレもデフレも貨幣的な現象であり、量的拡大が物価下落の防止に直ちに有効である」と論じることは無理がある、と指摘した。さらに、現在、マネタリーベースやマネーサプライが高めの伸びを維持しているにもかかわらず、物価が下落傾向を続けている事実は、まさしく、物価と量的金融指標との関係が短期的には極めて不安定であることを示している、と指摘した。

 別のひとりの委員は、日本経済の最大の課題は、持続可能な形で総需要を喚起することであり、それが物価の継続的な下落を食い止めることにもつながる、と述べた。そのうえで、そのためには、(1)現在の強力な金融緩和の枠組みを維持するもとで、(2)不良債権処理を通じて金融システムの機能を回復させるとともに、(3)民間需要をうまく喚起するような政策運営が不可欠である、との見解を示した。さらに、構造改革の面で、内外の信認が得られ、民需の持続的な拡大を引き出すような抜本的な取り組みを政府が進めていくよう、強く期待したい、と発言した。

 さらに別のひとりの委員は、景気回復とデフレ脱却のためには民間(企業および銀行)の自助努力と財政、金融の「合わせ技」が必要であるが、金融政策の立場からも、デフレを許容しないという断固たる姿勢はアピールし続けていくべきである、とコメントした。

 これに関連して、何人かの委員は、インフレ・ターゲティングについて、現在の物価を巡る情勢や政策手段の制約を踏まえれば、現時点でこれを採用することは適当でない、との見解を示した。

 ひとりの委員は、(1)物価を上げるために「何でもあり」といった手段を採る調整インフレ策は、絶対に採るべきではない、(2)諸外国で導入されているインフレ・タ−ゲティングは、あくまでインフレ抑制策として採られている、(3)物価目標の数値化(レベルもしくは変化率)は必要であるが、それはあくまで「物価の安定」という目標を示すものとして議論することが必要である、と述べた。そのうえで、名目金利がほぼゼロに達し、また、構造調整圧力を抱えている日本経済の現状を踏まえると、達成期限付きのターゲットを設定しても、達成手段・コントローラビリティを欠いている、と述べ、物価目標の数値化は、デフレから脱却し、物価を巡る状況が「平時」に復してから検討すべき事柄であるとの考え方を示した。

 さらにこの委員は、金融市場では、インフレ・ターゲティングの導入を長期債価格の下落要因と捉える見方が強く、こうした現実も踏まえた慎重な議論が望まれる、と付け加えた。

 この間、別のひとりの委員は、中長期的に望ましい物価安定の状態を具体的な数字のレンジで示していくことは、一つの検討課題となり得るとの考えを示した。ただしこの委員も、目標を達成するための「手段」の問題を切り離し、徒にターゲットのみを取り上げるような論調には賛同できない、と述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、内閣府からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府としては、「改革工程表」に書き込まれた内容は、間違いなく実現されると考えており、構造改革は「第一段階の後半」に入ったと考えている。この段階では、必要な予算の裏付けや法律改正を行っていくことになる。
  •  年が明けて暫くしてからは「第二段階」に入り、国の根幹にかかる抜本的な制度改革をやらなければならない。ここでの一番大きな問題は、税制であると考えている。
  •  小泉改革には、単に景気が悪くなったから財政政策を行うといった考え方は全くない。他方、政府の貯蓄投資差額の適切な管理が重要との観点から、財政政策をやる場合には、その点に責任を持ちつつ、テロによる新しい危機的状況下で起こるスパイラル的な悪化の防止に向けて何をすべきかという、ぎりぎりの判断に基づくものとなろう。
  •  金融政策に関しては、先ほどの議論を通じて、量と価格との関係が新しい局面に入っていることは良く理解できた。我々としては、金融の面から可能な限りのサポートをして頂きたいという立場である。日本銀行におかれては、専門の立場から、いろいろと詰めた議論をして頂きたい。

 財務省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  米国における同時多発テロ事件による流動性需要の高まりに対し、日本銀行は金融市場の安定を確保するため9月18日に金融緩和措置を講じられたほか、当座預金残高が概ね8兆円を上回る潤沢な資金供給を行った結果、短期金融市場は混乱もなく中間期末を乗り越えた。今後ともテロ事件が経済や市場に与える影響を十分注視しつつ、前回決定会合以降採られてきた金融調節を継続し、引き続き8兆円を上回る潤沢な資金供給を行って頂きたい。
  •  消費者物価指数をみると、物価の下落が依然として継続している。現在の持続的な物価下落は企業活動や消費等様々な面で悪影響を与えており、日本銀行におかれては物価下落を阻止するために政策論議を深めて頂きたいと考えている。
  •  日本銀行は、物価の継続的な下落を防止するため、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けていく方針である旨表明している。依然として物価下落に反転の兆しがみられない中で、人々の心理にも強く働きかけ、こうした日本銀行としての強い政策態度を市場に浸透させるとともに、これを実効あらしめるため機動的に金融政策を運営して頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、9月18日の金融政策決定会合で決定した金融市場調節方針を維持することが適当であるとの考え方が大勢となった。

 ただし、ひとりの委員は、「物価水準ターゲット」を導入したうえで、日銀当座預金残高を10兆円程度とし、さらに、資金供給の円滑な実施のため、保有長期国債の残高を銀行券発行残高までとする現在の制限を外すべきであると主張した。

 その理由としてこの委員は、(1)デフレ防止の意思を、具体的な物価水準ターゲットによって示すべきであること、(2)達成時期を明示した物価目標を持たないと、いずれ政府によって目標を押し付けられるリスクがあること、(3)経済情勢の悪化に対応し、量的緩和を進めるべきであること、(4)現実に、これまでの当座預金の量的拡大は、10月以降の株価の持ち直しや為替の円安傾向維持に効果があったとみられること、などを挙げた。さらに、量的緩和の手段として、日銀法第33条の通常業務の範囲内で外債の購入が可能であると考えており、購入・管理方法等について検討すべきである、と主張した。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 中原伸之委員からは、金融市場調節方式について、「2001年1〜3月期平均の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)のレベル(99.1)を基準として、2003年1〜3月期平均の同指数について、その基準レベル(99.1)を維持ないしはそれ以上に引き上げることを目的として、金融市場調節を行う」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 次いで同委員から、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が10兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」とともに、これを円滑に実施するため、「3月19日決定の金融市場調節方式のうち、『ただし、日本銀行が保有する長期国債の残高(支配玉<現先売買を調整した実質保有分>ベース)は、銀行券発行残高を上限とする。』の部分を削除する」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が6兆円を上回ることを目標として、潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

 中原伸之委員は、(1)現在の、特定の数値を定めない調節方針は曖昧であり、執行部に裁量を与え過ぎている、(2)テロ事件発生後、経済情勢が不安定化する中で、量的拡大という対応を打ち出すべきである、(3)特定の目標値を定めていないことが、市場に不安感を抱かせている、(4)日本銀行が自ら具体的な物価目標を定めないと、政府によって物価目標と達成時期を押し付けられるリスクがある、と述べ、上記採決において反対した。

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を10月15日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

 中原伸之委員は、(1)情報関連財の在庫調整に関する記述は楽観的に過ぎる、(2)「情報関連財の生産減少にはいずれ歯止めが掛かるとしても」の記述は曖昧であり、削除すべきである、(3)現在の調整の速さからみて、調整が「徐々に」内需面に拡がっていくとの記述は妥当でない、(4)先行きの物価について「緩やかな」下落傾向を辿るとの表現は妥当でない、(5)公共投資の落ち込みが地方経済に大きな影響を及ぼしていることを記述すべきである、と述べ、上記採決において反対した。

以上


(別添)

2001年10月12日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

 日本銀行当座預金残高が6兆円を上回ることを目標として、潤沢な資金供給を行う。

以上