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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年4月24、25日開催分)

2019年6月25日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年6月19、20日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2019年4月24日(14:00~15:58)
 
4月25日(9:00~12:20)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 茶谷 栄治 大臣官房総括審議官(24日)
うえの 賢一郎 財務副大臣(25日)
 
内閣府 中村 昭裕 内閣府審議官(24日)
田中 良生 内閣府副大臣(25日)
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 奥野聡雄
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局経済調査課長 一上 響
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画役 永幡 崇
企画局企画役 長野哲平
企画局企画役 法眼吉彦

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(3月14、15日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.02%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、-0.1%台後半で概ね横ばい圏内の動きとなっている。

株価(日経平均株価)は、米国株価の上昇や米中通商交渉の進展期待などを背景に上昇し、最近では、22千円程度で推移している。為替相場は比較的安定した動きを続けており、円の対ドル、対ユーロ相場ともに、前回会合以降、横ばい圏内で推移している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。先行きについては、当面は減速の動きが続くものの、その後は、中国などにおける景気刺激策の効果発現やグローバルなIT関連財の調整の進捗などにより幾分成長率を高め、総じてみれば緩やかに成長していくとみられる。

米国経済は、拡大を維持している。輸出は、緩やかな増加基調にあり、個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて増加基調にある。設備投資も、企業の業況感が足もと低下したものの、良好な水準を維持していることなどから、増加基調にある。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(PCEデフレーター)は、前年比+1%台半ば、コアベースは同+2%近傍で推移している。先行きの米国経済は、拡張的な財政政策などに支えられ、拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速している。輸出は、横ばい圏内で推移している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にあるものの、設備投資は、製造業の業況感悪化などを背景に、増勢が鈍化している。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(HICP)は前年比+1%台半ば、コアベースは同+1%近傍で推移している。先行きの欧州経済は、製造業部門の調整進捗に伴い、次第に減速した状態から脱していくと予想される。この間、英国経済は、EU離脱を巡る混乱に備えた駆け込み需要から、成長率が一時的に高まっている。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けているものの、弱めの動きもみられている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+1%台後半で推移している。先行きの中国経済は、米中貿易摩擦や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に緩やかに回復している。インドの景気は、内需を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、欧州の弱めの経済指標などを受け、3月下旬にかけて先進国の株価に調整の動きがみられたが、その後は、市場予想を上回る中国の経済指標や米中通商交渉の進展期待などを背景に、多くの国で株価が上昇した。米欧の長期金利は、米国の利上げ観測の後退などから、いったん低下したが、4月入り後は、投資家のリスク回避姿勢の後退などを背景に上昇に転じている。商品市場では、原油価格は、産油国が減産を継続するもとで、上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、足もとでは弱めの動きとなっている。先進国向けは増加基調を続けているものの、新興国向けは足もと弱めの動きとなっている。先行きの輸出は、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる。

公共投資は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。先行きについては、オリンピック関連工事に加え、自然災害を受けた補正予算や国土強靱化政策などを背景に、増加するとみられる。

設備投資は、増加傾向を続けている。先行指標である機械受注は、昨年10~12月に比べて1~2月は減少したが、建築着工・工事費予定額(民間非居住用)は、月々の振れを伴いつつも、増加傾向を続けている。先行きの設備投資は、当面、海外経済の減速の影響から幾分減速すると見込まれる。その後は、資本ストックの積み上がりなどが減速圧力として作用するものの、緩和的な金融環境や成長期待の緩やかな改善などを背景に、緩やかに増加していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も高めの伸び率となっている。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準にあるほか、失業率も引き続き低水準で推移している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、10~12月に前期比で増加した後、1~2月の10~12月対比も増加を続けた。先行きの個人消費は、当面は、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果などに支えられて、緩やかな増加を続けると見込まれる。その後も、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面もみられるものの、緩やかな増加傾向を辿るとみられる。

住宅投資は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などを受けて減少傾向にある一方、持家が足もと増加していることなどから、全体として横ばい圏内で推移している。

鉱工業生産は、足もとでは弱めの動きとなっている。先行きについては、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、その後は、海外経済が総じてみれば緩やかに成長するもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、横ばいとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比は、足もと0%台半ばとなっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台半ばのプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で4~5%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台半ばの伸びとなっている。

II.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、市場予想を上回る中国の経済指標や米中通商交渉の進展期待などを背景に市場センチメントが改善し、このところ、多くの国で株価が上昇しているほか、為替相場や長期金利も、総じて落ち着いているとの認識を共有した。複数の委員は、主要国において、一部の経済指標に景気対策の効果を示唆する動きがみられていることに加え、英国のEU離脱の再延期や各国中央銀行の緩和的スタンスの継続なども、足もとの金融市場の安定に寄与していると述べた。円の対ドル相場について、複数の委員は、リスクセンチメントの改善が、日米金利差の縮小などによる円高圧力を抑制しているとの見方を示した。一人の委員は、足もと、金融市場は落ち着いているが、世界経済を巡る不確実性は大きく、先行き、実体経済と金融市場が共振して悪化する可能性には警戒が必要であると述べた。この間、原油価格について、ある委員は、産油国の減産によって幾分回復しているものの、昨年秋以前の上昇軌道には復していないと指摘した。

海外経済について、委員は、中国や欧州を中心に減速の動きがみられるが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。複数の委員は、グローバルな製造業PMIが50近くまで低下し、世界貿易量も弱めの動きとなっていることには留意が必要であると述べた。もっとも、何人かの委員は、良好な雇用・所得環境などに支えられ、多くの国で内需が堅調に推移しており、これが海外経済の緩やかな成長を下支えしていると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、当面は減速の動きが続くものの、その後は、中国における景気刺激策の効果発現やグローバルなIT関連財の調整の進捗などを背景に、総じてみれば緩やかに成長していくとの認識を共有した。何人かの委員は、引き続き下振れリスクには注意を要するが、IMFの見通しにもあるとおり、現段階では、世界経済は本年後半に持ち直していくという見方が妥当であると述べた。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、拡大を維持しているとの認識で一致した。多くの委員は、良好な雇用・所得環境や株価回復などを背景に消費者マインドも足もと改善しており、個人消費は引き続き増加基調にあると指摘した。米国経済の先行きについて、委員は、拡張的な財政政策などに支えられ、拡大を続けるとの見方を共有した。ある委員は、こうした財政政策の効果が、本年後半にかけて次第に剥落してくる可能性があることには注意が必要であると述べた。別の一人の委員は、米国では、企業債務がGDP比でみて歴史的高水準にあり、トリプルB格相当の社債も多いことから、こうした銘柄が景気後退局面で格下げとなれば、市場環境が急速に悪化するリスクがあると指摘した。

欧州経済について、委員は、減速しているとの認識を共有した。何人かの委員は、個人消費は総じてみれば増加基調にあるものの、自動車排ガス規制の強化や中国経済減速の影響などから、ドイツを中心に、生産・輸出は弱めの動きとなっているとの認識を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、製造業部門の回復に伴い、次第に減速した状態から脱していくとの認識で一致した。複数の委員は、英国のEU離脱交渉は未だ着地点がみえないほか、ドイツ経済の不確実性も高いことなどを踏まえると、先行き、欧州経済が早期に回復軌道に復していけるかどうか、なお不透明感が高いと述べた。

中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているものの、弱めの動きもみられているとの見方で一致した。多くの委員は、米中貿易摩擦やITセクターの調整が、生産や輸出入の下押し要因と作用しているものの、景気刺激策の効果もあり、このところ、経済の改善を示唆する動きもみられ始めていると指摘した。中国経済の先行きについて、委員は、今後、米中貿易摩擦や当局による債務抑制政策の影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。何人かの委員は、景気刺激策の効果が次第に顕現化してくるほか、IT関連財の調整の進捗なども期待されるため、年後半にかけて、中国経済の成長ペースは回復してくる可能性が高いと述べた。

新興国経済について、委員は、中国経済の減速の影響を受けている面はあるが、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出の増加基調が一服しているものの、良好な消費者マインドや景気刺激策の効果などから、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。先行きの新興国経済について、委員は、中国経済の減速やIT関連財の調整の影響を受けつつも、各国の景気刺激策の効果などを背景に、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しているとの見方で一致した。何人かの委員は、1月に大きく減少した輸出や生産の反発は、足もとやや弱めであるほか、3月短観をみても、海外経済の影響を受けやすい大企業・製造業の業況感は悪化していると指摘した。もっとも、多くの委員は、輸出・生産面の弱さは、これまでのところ、設備投資や個人消費などにははっきりと波及しておらず、所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムは維持されているとの見方を示した。そのうえで、何人かの委員は、先行きの景気をみていくうえでは、輸出や生産の減少が、国内需要や雇用・所得環境にどのように影響していくかがポイントになると指摘した。

輸出の現状について、委員は、足もとでは弱めの動きとなっているとの認識を共有した。何人かの委員は、中国経済の減速やグローバルなIT関連需要の鈍化などを背景に、中国向けの資本財や情報関連財の輸出の落ち込みが目立つと指摘した。先行きの輸出について、多くの委員は、製造業PMIの新規輸出受注の動きなどを踏まえると、当面は、弱めの動きとなるものの、その後は、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくとみられるもとで緩やかな増加基調に復していくとの見方を共有した。

公共投資について、委員は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連需要や自然災害を受けた補正予算の執行、国土強靱化等の支出拡大から、増加するとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、増加傾向を続けているとの見方で一致した。複数の委員は、支店長会議での報告などによれば、非製造業を中心に省力化・合理化投資が増加するなど、設備投資は、その裾野を拡げつつ堅調に推移していると述べた。また、多くの委員は、3月短観における2019年度の設備投資計画をみると、輸出・生産の弱さにかかわらず、この時期としては、製造業を含めて高めの伸びとなったと指摘した。もっとも、このうちのある委員は、例年、この時期の投資計画は暫定的な性格が強いことには留意が必要であると付け加えた。先行きの設備投資について、多くの委員は、機械受注などの先行指標の動きを踏まえると、当面、海外経済の減速の影響から幾分減速する可能性があるとの見方を示した。その後の見通しについて、委員は、景気拡大局面の長期化による資本ストックの積み上がりなどが減速圧力として作用するものの、良好な企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、設備投資は緩やかに増加していくとの見方で一致した。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も高めの伸び率となっているとの認識を共有した。複数の委員は、今年のベースアップ率は、大企業を中心に春先は昨年をやや下回っていたが、その後は、人手不足感が強い中小企業で高めのベアが実現していることなどから、足もと、全体としても昨年を幾分上回る水準で推移していると述べた。ある委員は、わが国の労働市場には、依然として男性を中心にスラックが残っているとしたうえで、こうしたスラックが完全に解消され、雇用の逼迫が賃金上昇率の明確な加速に繋がる時点まで、労働市場の改善が続くことが必要であると述べた。

個人消費について、委員は、雇用・所得環境の改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの認識を共有した。先行きの個人消費について、委員は、消費税率引き上げの影響から下押しされる局面もみられるものの、雇用・所得環境の改善が続く中、株価上昇による資産効果もあって、緩やかな増加傾向を辿るとの見方で一致した。ある委員は、雇用者所得の増加がかなりの程度貯蓄に回っていることを踏まえると、足もとの生産の減少が消費の減少に繋がるまでには多少の時間があると考えられるが、一方で、消費税率の引き上げが消費の減少を早めてしまう可能性もあると指摘した。また、この委員は、財政赤字が縮小するもとで、家計貯蓄率が上昇していることは、財政拡大の余地があることを示していると述べた。

住宅投資について、委員は、貸家系の新設住宅着工戸数が減少傾向にある一方、持家が足もと増加していることなどから、全体として横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、海外経済に減速の動きがみられるもとで、足もとでは弱めの動きとなっているとの認識を共有した。先行きの生産について、委員は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、その後は、海外経済が総じてみれば緩やかに成長するもとで、基調としては緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、消費者物価の前年比は、プラスで推移しているが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いているとの認識を共有した。もっとも、多くの委員は、内需が堅調を維持し、人手不足も続く中、プラスの需給ギャップを起点として、賃金・物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは引き続き作動しているとの認識を示した。この点に関し、何人かの委員は、人件費や原材料価格の上昇を背景に、足もと食料品などの値上げが増えてきていることが日次や週次の物価データからも確認できると指摘した。この間、予想物価上昇率の動向について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。ある委員は、食料品の値上げなどによって、このところ、家計の予想物価上昇率が幾分上昇する動きもみられていると指摘した。

2.経済・物価情勢の展望

2019年4月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとの見方を共有した。わが国の輸出について、委員は、当面、弱めの動きとなるものの、その後は、海外経済の緩やかな成長などを背景に、緩やかな増加基調に復していくとの見方で一致した。国内需要について、委員は、当面、設備投資が幾分減速すると見込まれるが、その後は、消費税率引き上げの影響を受けつつも、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。こうした議論を経て、委員は、わが国経済は、先行き、均してみれば、潜在成長率並みの成長を続けるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、2019年1月の展望レポートでの見通しと比べると、2020年度までの成長率は、概ね不変であるとの見方で一致した。

続いて、委員は、わが国の物価情勢について議論を行った。まず、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べて物価が弱めの動きを続けている背景について、委員は、基本的には、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることの影響が大きいとの認識を共有した。加えて、委員は、企業の生産性向上余地の大きさや、近年の技術進歩、女性や高齢者の弾力的な労働供給などは、経済が拡大する中にあっても、企業が値上げに慎重な価格設定スタンスを維持することを可能にしているとの見解で一致した。この点に関し、ある委員は、非製造業へと裾野を拡げつつ、堅調な設備投資が続いていることは、生産性の向上によってコスト上昇圧力を吸収する余地が引き続き大きいことを示唆しているとの認識を示した。

次に、委員は、先行きの物価動向について、議論を行った。大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。これらの委員は、2019年1月の展望レポートでの見通しと比べると、2020年度までの物価上昇率は、概ね不変であるとの見方で一致した。

さらに、委員は、消費者物価の前年比が2%に向けて徐々に上昇率を高めていくメカニズムを、一般物価の動向を規定する主な要因に基づいて整理した。まず、マクロ的な需給ギャップについて、大方の委員は、労働需給の着実な引き締まりや資本稼働率の上昇を背景に、均してみればプラス幅を拡大してきているとの認識で一致した。また、大方の委員は、先行きの需給ギャップについても、比較的大幅なプラスで推移するとの見方を共有した。次に、中長期的な予想物価上昇率について、大方の委員は、先行き上昇傾向を辿り、2%に向けて次第に収斂していくとの認識を共有した。その背景として、これらの委員は、(1)「適合的な期待形成」の面では、需給ギャップの改善などに伴う現実の物価上昇率の高まりが、予想物価上昇率を押し上げていくと期待されること、(2)「フォワードルッキングな期待形成」の面では、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことが、予想物価上昇率を押し上げていく力になると考えられることを指摘した。何人かの委員は、需給ギャップはプラスの状態を続けているものの、多くの財・サービス価格が上向くほど、企業の価格設定スタンスは積極化しておらず、適合的期待形成の影響等を通じて、「物価安定の目標」を実現するには暫く時間がかかると見込まれるとの認識を示した。一人の委員は、現状、現実の物価が上がらないから予想物価上昇率が上がらず、予想物価上昇率が上がらないから現実の物価も上がらないという膠着状態に陥っていないか、検証が必要であると指摘した。この間、別のある委員は、需給ギャップの拡大が物価を押し上げにくくなっている可能性や、予想物価上昇率が弱めの動きを続けていることなどを踏まえると、現時点では、この先、2%に向けて物価上昇率が伸びを高めていくとは判断できないと述べた。

このほか、日本経済の成長力と物価動向の長期的な関係について、委員は、最近の女性や高齢者の労働参加の高まりや、生産性向上に向けた企業の取り組みは、短期的には、賃金や物価の上昇圧力を弱める方向に作用するが、より長い目でみれば、経済の成長力を強化し、賃金や物価の上昇圧力を高める可能性があるとの見方で一致した。

委員は、経済・物価情勢の先行きの中心的な見通しに対する上振れ・下振れ要因についても議論を行った。まず、経済の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)海外経済の動向、(2)消費税率引き上げの影響、(3)企業や家計の中長期的な成長期待、(4)財政の中長期的な持続可能性の4点を挙げた。ある委員は、2019年度は海外経済の減速や消費税率引き上げの影響等、2020年度以降はオリンピック関連需要の一巡やIT分野の動向等に注意を要するとの見解を示した。多くの委員は、米中間の貿易問題を始めとする保護主義的な動きの帰趨やその影響、それを含めた中国経済の動向、ITサイクルの調整が想定以上に長引く可能性など、海外経済を巡る下振れリスクは大きいとみられ、これが、わが国の企業や家計のマインドに与える影響を注視していく必要があると述べた。中国経済について、ある委員は、当局による景気対策の効果は本年後半には顕れてくると期待されるが、企業部門が高水準の債務を抱える中、以前に比べて政策展開は慎重であり、その効果の大きさには不透明な部分が大きいとの見方を示した。このほか、多くの委員は、米国のマクロ政策運営が国際金融市場や新興国経済に及ぼす影響、英国のEU離脱交渉の展開、各種の地政学的リスクなども、海外経済を巡るリスク要因として挙げられると述べた。消費税率引き上げの影響について、複数の委員は、2014年の引き上げ時に比べて家計のネット負担額は小幅なものにとどまるとみられるが、経済に対する影響が、その時々の消費者マインドや雇用・所得環境などによって変化し得ることには留意する必要があると述べた。こうした議論を経て、委員は、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に、下振れリスクの方が大きいとの認識で一致した。

次に、物価に固有の上振れ・下振れ要因として、委員は、(1)中長期的な予想物価上昇率の動向、(2)マクロ的な需給ギャップに対する価格の感応度、(3)為替相場の変動や国際商品市況の動向、の3点を挙げた。このうち、中長期的な予想物価上昇率の動向について、委員は、先行き上昇傾向を辿るとみているが、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してくるまでに予想以上に時間がかかり、現実の物価が弱めの推移を続ける場合には、適合的な期待形成を通じて、予想物価上昇率の高まりも遅れるリスクがあるとの見方で一致した。ある委員は、わが国では、プラスの需給ギャップが持続することによる物価上昇圧力と、企業の生産性向上などの物価抑制要因が併存しており、今後とも、不確実性が高い状況が続くとの見方を示した。こうした議論を経て、委員は、物価の見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きいとの認識を共有した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策の基本的な運営スタンスについて、大方の委員は、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けるもとで、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。多くの委員は、プラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、現在の政策のもとで、きわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であると述べた。ある委員は、当分の間、世界経済の動向と消費税率引き上げの影響を見極めつつ、金融機関や市場機能面への副作用にこれまで以上に留意しながら、現行の金融緩和政策を維持していく必要があるとの認識を示した。そのうえで、この委員は、従来と同様、今後とも金融と財政のポリシーミックスが維持されることが重要であると付け加えた。一人の委員は、現在の政策枠組みは、市場の状況に対応するための一定の柔軟性を有しており、副作用を軽減しつつ、市場環境が変化するもとでも緩和的な金融環境を維持しやすい政策であると指摘した。この間、ある委員は、新しい時代に平成のデフレ不況を繰り返してはならないと述べ、物価安定の目標からまだ距離がある現状では、追加緩和論にも相応の妥当性があると指摘した。そのうえで、この委員は、物価上昇のモメンタムが失われた時には、機動的かつ断固とした追加緩和を行うべきであるとの認識を示した。別の一人の委員は、遅行指標である雇用や賃金をみても、景気の局面変化を事前に正確に見通すことは難しいことや、先行き、時間とともに金融緩和の副作用が累積していくことを踏まえると、2%の早期達成に向けて、現時点で金融緩和を強化する必要があると述べた。このほか、ある委員は、2%の実現になお時間を要する見込みであることを踏まえると、現在の政策枠組みの持続性強化に繋がり得る取り組みを不断に検討していく必要があるとの認識を示した。また、別のある委員は、息長く経済の好循環を支えて、「物価安定の目標」の実現に資するべく、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適宜適切に金融政策の枠組みに調整を加え、その持続性を強化するという、これまでの政策スタンスを維持することが重要であると述べた。

こうした議論を経て、委員は、強力な金融緩和を継続していくにあたって点検すべき課題について議論を行った。多くの委員は、経済・物価の先行きを巡る不確実性が大きく、2%の実現にはなお時間がかかることを踏まえると、「物価安定の目標」の達成に向けて、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくという日本銀行の政策運営方針をより明確に示すことが重要であるとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員は、こうした金融緩和姿勢に対する信認の強化に資するよう、先行きの経済・物価見通しが1年延びるこのタイミングで、昨年導入した政策金利のフォワードガイダンスを明確化することを検討してはどうか、との意見を述べた。何人かの委員は、最近の海外経済を巡る不確実性の高まりを踏まえると、その動向についても、フォワードガイダンスの判断要素に加えることが適切であると指摘した。ある委員は、現行のフォワードガイダンスにおける「当分の間」が、相応に長い期間を想定していることを分かりやすく示すため、海外中銀の例を参考に、何らかのかたちで具体的な時期に言及することが考えられると述べた。このほか、多くの委員は、強力な金融緩和の継続を確かなものとしていくためには、円滑な資金供給や市場機能の確保に資するような措置の導入を検討する必要があるとの認識を示した。この点に関し、何人かの委員は、施策の効果や金融機関からの要望などを踏まえると、日本銀行適格担保の拡充や日本銀行の保有する国債やETFの有効活用などが、検討対象になり得ると述べた。

こうした委員の意見を踏まえ、議長は、執行部に対し、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていく政策運営方針をより明確に示す観点から、どのような対応が考えられるか説明するよう指示した。

執行部は、まず、多くの委員が言及した政策金利のフォワードガイダンスの明確化に関し、一案として、現在の文言を一部変更し、「海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」とすることが考えられると述べた。「少なくとも2020年春頃まで」という時期について、執行部は、海外経済やグローバルなITサイクルが持ち直すタイミングや、消費税率引き上げの影響を見極めるのに要する期間などを勘案したものであると説明した。また、「少なくとも」との記述により、「2020年春頃」を超える可能性を示すことで、「当分の間」が相応に長い期間を念頭に置いていることを明らかにする効果があると述べた。

続いて、執行部は、金融機関の要望等も踏まえつつ、強力な金融緩和の継続に資する措置として、以下を主な内容とする案を提示した。

  • 企業・地方公共団体等債務に関する要件緩和や、セカンダリー市場で取得した政府向け証書貸付債権の受け入れなどにより、日本銀行適格担保の範囲を拡充する。
  • 成長基盤強化支援資金供給の利便性を高めるため、利用先に利用実績を踏まえた利用枠を付与し、その範囲内で資金供給を実施する。
  • 最低品貸料の引き下げや銘柄別の売却上限額の撤廃等により、国債補完供給の要件緩和を行う。
  • 日本銀行が保有するETFを市場参加者に一時的に貸し付けることを可能とする制度の導入について、日本銀行法上の認可取得を条件に検討する。

これらの措置の実施時期について、執行部は、ETF貸付制度の導入を除き、実務上の準備が整い次第速やかに実施することが想定されるが、一部については、次回以降の金融政策決定会合で基本要領等の所要の改正が必要になることを説明した。

執行部が提示したフォワードガイダンスの案について、多くの委員は、日本銀行の金融緩和姿勢に対する市場や国民からの信認強化に資するものとして、適切であるとの認識を示した。ある委員は、「少なくとも2020年春頃まで」とすることで、具体的な時期の情報を示しつつ、オープンエンドの要素も維持しているとしたうえで、コミットメントの実効性確保と政策運営の柔軟性確保という2つの要請がバランスよく考慮されていると述べた。この間、一人の委員は、フォワードガイダンスを明確化すること自体には賛成であるが、その場合には、物価目標との関係をより明確化し、いわゆるデータ・ディペンデントな内容とすることが望ましいと述べた。この点に関し、ある委員は、その時々のデータや情報を用いて経済・物価の不確実性を判断するという点で、現在のフォワードガイダンスもデータ・ディペンデントであり、今回の見直しも、そうした判断を行う時間軸を分かりやすく示すためのものと理解していると述べた。ある委員は、物価上昇率に加速する気配がみえない中にあっては、現在の金融緩和を粘り強く続けていくことを明確化することの意味は乏しいという見解を示した。そのうえで、この委員は、「物価安定の目標」の早期達成のためには、予想物価上昇率に直接働きかけることが重要であり、そうした観点から、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和を行うことを約束するという、コミットメントの強化策が必要であるとの意見を述べた。何人かの委員は、消費税率引き上げが予定されている10月が近付くにつれて、「当分の間」が示す時間軸が分かりにくくなり、市場参加者の見方が日本銀行の想定以上に短くなるおそれもあることから、このタイミングで、「当分の間」が相応に長い期間を想定していることを明確化することは、金融緩和の効果を持続していくためにも必要であると述べた。

続いて、多くの委員は、強力な金融緩和の継続に資する措置について、執行部案に沿って検討を進めることが望ましいとの認識を示した。何人かの委員は、適格担保の拡充や成長基盤強化支援資金供給の利便性向上に向けた取り組みは、日本銀行による円滑な資金供給をサポートするものとして、前向きに評価できると述べた。ある委員は、金融機関が保有する国債の残高が、資金調達などの担保として最低限必要な水準に近付きつつあることを踏まえると、適格担保となり得る資産の範囲を拡充しておくことは、この先、日本銀行が国債買入れを円滑に進めていく観点からも重要であると指摘した。何人かの委員は、国債市場やETF市場において市中流通残高が少ない銘柄が増加し、市場参加者のヘッジやマーケットメイクの余地が狭まっているとの指摘があることを踏まえると、国債補完供給の要件緩和やETF貸付制度の導入は、こうした問題を緩和し、市場機能の維持・改善に繋がる可能性があると述べた。

ある委員は、フォワードガイダンスの明確化を含めた今回の措置は、全体として、強力な金融緩和の継続に対する信認を高め、「物価安定の目標」の実現をより確かなものとするとともに、金融市場の安定にも繋がるものであるとの認識を示した。複数の委員は、今回の措置が、現在の強力な金融緩和を継続していくために必要な対応であるということに加え、将来、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために必要と判断される場合には、躊躇なく政策の調整を行う方針であるということも、対外的にしっかり説明していく必要があると述べた。

このほか、委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。一人の委員は、足もとの金融経済情勢をみると、金融政策の効果が実体経済に波及していく時間軸とその副作用が累積的に強まっていく時間軸の両方に留意することや、そうした効果と副作用を慎重に比較衡量することが、一段と必要な状況になってきているとの認識を示した。また、この委員は、金融機関の預金・貸出金利には契約上、運用上のゼロフロアがあると考えられることや、民間部門の資金の運用・調達構造を踏まえると、現状以上の金利低下は、実体経済への効果よりも、副作用を助長するリスクの方が大きい可能性があると指摘した。一人の委員は、「量的・質的金融緩和」が銀行収益を悪化させているという議論は、金融緩和による景気の改善、貸出の増加、信用コストの低下、株式と債券に関する収益の増加を考えていないと述べた。そのうえで、この委員は、そうした議論は、低金利政策が銀行収益に与えた好影響を考慮せずに、貸出金利が低下しなければ、もっと利益が上がっていたはずであるという想定に基づいた議論であると指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害するおそれがあるとの意見を述べた。別のある委員は、足もと景気が局面変化の兆候をみせる中で、先行き、金融緩和の副作用が累積していくことも踏まえると、2%の目標を早期に達成するため、金融緩和を強化する必要があるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うとの方針を共有した。

IV.政府からの出席者の発言

強力な金融緩和の継続に関する議論を踏まえ、政府からの出席者より、財務大臣および経済財政政策担当大臣と連絡を取るため、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(11時36分中断、11時50分再開)。

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 本日提案のあった事項は、強力な金融緩和を継続するうえで必要なものと受け止めており、本会合において、適切に判断して頂ければと思う。また、今回の提案を含め、金融政策運営の状況等については、引き続き、丁寧かつ積極的な説明に努めて頂きたい。
  • 平成31年度予算が3月27日に成立した。少子高齢化という国難を乗り越え、経済再生と財政健全化の両立を図っていくため、本予算を円滑かつ着実に実施していきたい。
  • 4月11~12日に米国で開催されたG20は、日本議長下での最初の財務大臣・中央銀行総裁会議であった。同会合では、世界経済は、様々な下方リスクを抱えつつも、年後半から復調する見通しであるという認識を各国と共有するとともに、6月に福岡で開催されるG20に向けた日本議長下のプライオリティについて議論を行った。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気は、このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、当面、一部に弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響や、中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響等に留意する必要がある。
  • 3月27日に平成31年度予算が成立した。世界経済が不透明感を増す中にあって、予算の早期執行と2.3兆円の消費税率引き上げ対策により、経済運営に万全を期していく。経済財政諮問会議では、夏の骨太方針の策定に向けて、次世代型行政サービス、地域活性化、人的資本投資など、各分野の検討を行っている。特に人的資本投資では、就職氷河期世代のための集中プログラムを取りまとめる。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待する。
  • 今回のフォワードガイダンスの明確化は、金融緩和を継続していくことをより明確にするために提案されたものと認識しており、その趣旨について、マーケットがきちんと理解するよう、対外的に丁寧に説明して頂くことが重要と考える。
  • 10連休の対応にも万全を期して頂きたい。

V.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性がさらに強まる中、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、フォワードガイダンスを見直すにあたっては、物価目標との関係がより明確となるガイダンスとすることが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VI.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、多数意見が形成された。

議長からは、こうした多数意見を取りまとめるかたちで、「基本的見解」の議案が提出された。

採決の結果、賛成多数で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、4月26日に公表することとされた。なお、片岡委員は、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、物価の見通しに関する記述に反対した。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
片岡委員

VII.議事要旨の承認

議事要旨(2019年3月14、15日開催分)が全員一致で承認され、5月8日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2019年4月25日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、強力な金融緩和を粘り強く続けていく政策運営方針をより明確に示すため、以下のとおり決定した。
    1. (1)政策金利のフォワードガイダンスの明確化(注1)

      日本銀行は、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。

    2. (2)強力な金融緩和の継続に資する措置の実施

      適格担保の拡充など別紙の諸措置を実施する。

  2. 金融市場調節方針および資産買入れ方針については、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注2)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  3. わが国の景気は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、先行き、基調としては緩やかな拡大を続けるとみられる。物価も、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べて弱めの動きが続いているものの、先行き、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることなどから、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。もっとも、海外経済の動向をはじめ経済・物価の先行きを巡る不確実性は大きい。また、「物価安定の目標」の実現には、なお時間がかかることが見込まれる。
  4. こうした認識のもと、日本銀行は、消費税率引き上げの影響に加え、海外経済の動向を含めた経済・物価の不確実性を点検しながら、強力な金融緩和を粘り強く続けていくとの方針をより明確に示すこととした。あわせて、円滑な資金供給および資産買入れの実施と市場機能の確保に資するよう、適格担保の拡充などの諸措置を講じることが適当と判断した。日本銀行としては、強力な金融緩和を継続し、需給ギャップがプラスの状態を続けることにより、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを目指していく考えである。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。

以上


  1. (注1)原田委員は、フォワードガイダンスを見直すにあたっては、物価目標との関係がより明確となるガイダンスとすることが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性がさらに強まる中、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る

(別紙)

強力な金融緩和の継続に資する諸措置2

  1. 日本銀行適格担保の拡充
    1. (1)企業債務に関する信用力要件を、以下の基本方針のとおり緩和する。
      1. (1)外部格付けを取得している企業の債務については、当該企業がBBB格相当以上の格付けを取得していること。
      2. (2)外部格付けを取得していない企業の債務については、金融機関の自己査定で当該企業が正常先に区分されていること。
    2. (2)地方公共団体に対する証書貸付債権等については、貸付条件の決定方法として入札等の実施を求めない。非公募地方債については、公募地方債との表面利率および発行価格較差要件を求めない。
    3. (3)セカンダリー市場で取得した政府向け証書貸付債権等を適格担保として受入れ得ることとする。
  2. 成長基盤強化支援資金供給の利便性向上・利用促進
    1. (1)「成長基盤強化を支援するための資金供給」(円貨)の利用先に本資金供給の実績を踏まえた利用枠を付与し、その範囲内で資金供給を受けられることとする。
    2. (2)「成長基盤強化を支援するための資金供給」および「貸出増加を支援するための資金供給」について、新規貸付の実行日の期限を2021年6月まで延長する。
  3. 国債補完供給(SLF)の要件緩和

    最低品貸料の引き下げ、銘柄別の売却上限額の撤廃等の要件緩和を行う。

  4. ETF貸付制度の導入

    日本銀行が保有するETFを市場参加者に一時的に貸し付けることを可能とする制度の導入を検討する。

以上


  1. 2上記1.から3.までの措置については、実務上の準備が整い次第速やかに実施する。ただし、1.(1)、(2)および2.の措置については、次回以降の金融政策決定会合における基本要領等の所要の改正が必要となる。 本文に戻る