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日本銀行の景気についての判断は何を見ればわかるの?

作成: 2000年 6月
改訂: 2003年11月

日本銀行は金融政策を決定するに当たって、金融や経済の状況についてさまざまな角度から判断を行っています。景気とは、文字通り、実体経済の状況に加え、企業や家計の経済活動に対するマインド(意識、受け止め方)を表わす言葉ですから、その状況の判断に当たっては、最近及び先行きの金融・経済状況を示す指標の分析のみではなく、企業の業況感や消費者マインド等の指標をみるなど、総合的な視点が重要となります。

景気動向の調査としては、各種の統計を用いて経済の全体像を直接的に分析するマクロ調査と、主として企業に対する聴き取り調査を通じて得た情報に基づき分析するミクロ調査があります。この点日本銀行では、本店が日本経済全体の動きを分析すると同時に、地方の支店・事務所等も地元経済の動きを絶えず追っており、こうして全国から集められた情報が景気の判断に役立っています。

日本銀行の景気判断は、毎月「金融経済月報」によって公表されています。

目次

金融政策決定会合における景気判断

日本銀行政策委員会は、通常、月に2回、金融政策を決める会合(金融政策決定会合)を開催しています。この会合は、マクロの金融政策を決定するほか、その判断の基礎となる国内外の金融、経済情勢等の動向について議論し、現状判断を行っています。

金融経済情勢に関する日本銀行の見方をまとめた「金融経済月報」は、(1)「基本的見解」、(2)「背景説明」および(3)「参考計表」からなっています。このうち「基本的見解」の部分は、毎月第1回目の金融政策決定会合で、検討・決定されます。「金融経済月報」の「基本的見解」は各月最初の会合の当日に対外公表されます。また、「背景説明」を含む全文は翌営業日に対外公表されます。

「基本的見解」を政策委員会で決定する旨を定めた日本銀行法の条文

第15条 次に掲げる通貨及び金融の調節に関する事項は、委員会の議決による。

前各号に掲げる事項の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解その他通貨及び金融の調節に関する日本銀行としての見解の決定又は変更

具体的な景気判断の材料

日本銀行の景気についての判断である「金融経済月報」を見ながら、景気の具体的な判断材料について見てみましょう。

「金融経済月報」の「背景説明」の部分では、金融経済全体の状況を「1. 実体経済」、「2. 物価」、「3. 金融」の3つのパートに分け、その中でいろいろな要素に注目しながら詳しく景気を判断しています。

1.実体経済

2.物価

  • 輸入物価、企業物価、消費者物価、企業向けサービス価格

3.金融

  • 金融市況、市場金利、預金・貸出金利、株価、為替相場
  • 量的指標、預金・貸出量、マネーサプライ、マネタリーベース、企業金融

景気判断の材料(1) ― 実体経済面 ―

「金融経済月報」の「1. 実体経済」のパートでは、モノやサービスに対する最終需要面の動きに加え、その供給面や雇用・所得面の動きにも注目し、これらの最近および先行きの動向を、各種統計を用いたり、企業に対する聴き取り調査等を通じて分析しています。

a. 最終需要の動き

経済は、国や地方公共団体(政府)、外国の個人、企業や政府(海外)、会社(企業)、個人(家計)などの経済主体によって成り立っています。最終需要とは、生産されたモノやサービスのうち、他の製品をつくるための原材料としてではなく、各経済主体によって最終的な使用のために需要される部分です。主な最終需要項目としては、政府部門による「公共投資」、海外部門による「(純)輸出」、企業部門による「設備投資」、家計部門による「個人消費」と「住宅投資」などがあります。

公共投資

国や地方公共団体による道路の整備や、公共施設の建設などに係る支出が「公共投資」です。わが国の「公共投資」は、経済(GDP)全体の1割弱程度の割合を占めており、主要国の中では最も高い水準となっています。わが国では、政府の景気対策として「公共投資」がしばしば用いられており、景気の悪化を防ぐ上で大きな役割を果たしています。「公共投資」は、最近の動向については公共工事に関連する財の出荷等、先行きについては公共工事請負金額や、国・地方の予算といった発注面の動きから、その動向を判断します。

輸出入

海外部門と関係のある最終需要を示すものは、「純輸出」です。これは、輸出から輸入を差し引いたものです。輸出は日本の企業がつくったモノやサービスに対する海外からの需要であり、輸入は、海外の企業がつくったモノやサービスに対する日本の需要です。輸出の増加は、国内の生産活動を活発化させる一方、輸入の増加は、国内需要の一部が海外に流れるという意味で、その分生産の伸びを抑えることとなるので、輸出と輸入の差である「純輸出」がどのように変化しているかも国内の景気を判断するうえで見逃せない点です。最近の「輸出入」の動きは、貿易統計から把握できますが、先行きに関しては、為替レートや海外市場における需要動向等から判断することとなります。

設備投資

企業による最終需要には、「設備投資(正確には民間企業設備投資)」があります。たとえば、企業による工場や機械など生産施設・設備の購入、スーパーや百貨店の店舗の新設などがこれに当たります。「設備投資」は、経済全体の15%程度と「個人消費」に次いで高い割合を占めているほか、財やサービスの供給能力を形成するため、経済成長の原動力としての役割も果たしています。また企業では、この「設備投資」の増減を通じて、供給能力を需要対比でみて適切な水準となるように調整していることから、「設備投資」の変動は一般に大きく、これが経済の変動にも大きな影響を与えます。「設備投資」の分析に際しては、設備投資に関連する財の出荷状況や、設備投資の先行指標である機械受注等の動きを把握すると同時に、設備稼働率、企業収益、企業金融、さらには企業の業況感や設備過剰感等、企業の設備投資行動に大きな影響を与える要因をつぶさに見て行くことが重要となります。また企業に対する聴き取り調査から得た情報も、こうした分析を裏付けたり、設備投資の新しい動きを見出して行く上で重要な役割を果たします。なお、革新的な企業や業種が多く現われる局面では、従来型企業によって代表される設備の稼働率がそれほど上昇しなくても、新規の設備投資が出てくる可能性があることには留意する必要があります。

個人消費、住宅投資

最終需要のうち、最も大きな割合を占めるのは、家計がモノやサービスを購入するために行う支出である「個人消費」です。「個人消費」はGDP(国内総生産)の55%程度を占めています。家計が食料や衣料品、あるいは自動車のような耐久消費財を買う、さらには映画や旅行に行く(こうしたサービスを買う)ことなどを通じて、消費に対する支出を増やしたり減らしたりすることが、景気に大きな影響を与えます。もっとも、「個人消費」は、他の最終需要項目に比べれば安定的であり、景気の変動に対して同時ないし若干遅れて動く傾向があります。こうした「個人消費」の分析に当たっては、各種販売統計や企業に対する聴き取り調査から得られたモノやサービスの販売面の動きに加えて、家計の所得・消費面の動きが重要となります。また、各種アンケート調査によって示される消費者のマインド面の動きを丁寧に追うことで、「個人消費」の基調を判断する手掛かりが得られます。

また、家計部門による最終需要には、個人が住宅を新築・増改築したりする際の支出である「住宅投資」があります。「住宅投資」は、経済(GDP)全体の5%程度の割合を占めるに過ぎませんが、住宅建築には木材や金属製品など多くの材料や製品が使われるほか、住宅を購入すると、家具やカーテンを新調するなどの付随的な消費も行われます。このため、住宅投資が経済に与える影響は、それが直接的に占める割合以上に大きいといえます。「住宅投資」の分析に当たっては、住宅の着工統計やマンションの販売統計等によって最近の動きを把握するとともに、住宅金融公庫への借入れ申し込み件数や住宅の建設を左右する諸々のマクロ変数(例えば、所得、金利、地価の動きや人口動態の変化等)によって先行きの動きを考えます。

b. 供給面や雇用・所得面の動き

生産、在庫

こうした最終需要の動向を受けて決まってくるのが「生産」と「在庫」です。企業は、自社の製品に対する需要がどの程度になるかを予測しながら生産活動を行います。企業が生産した製品は、需要に応じて出荷され、残りの部分は、企業の在庫となります。企業は急に顧客からの注文(需要)が増えても対応できるように、ある程度計画的に在庫を持っていますが、予想以上に製品の売れ行きがよかったり、逆に悪かったりすると、在庫が減ったり増えたりします。仮に、製品が思うように売れず、企業が保有したいと考えている以上に在庫が増えてしまった場合、生産量を抑え、在庫を減らすように調整します。この結果、在庫の水準は、「景気の回復→後退→回復」という変化に伴って「在庫の減少→増加→減少」と、循環的な動き(在庫循環)をすることになります。このように、在庫の動きは景気判断をする上での材料となります。最近の生産、出荷、在庫等の動きは、生産・出荷・在庫統計により確認することが出来ますが、先行きの動向については、これまで見てきた先行きの最終需要動向に加え、企業に対する聴き取り調査に基づく情報等によって判断することとなります。なお、供給面という意味では非製造業の活動動向も重要であり、やや速報性に劣るものの、時に第3次産業活動指数等の動きも総合的に見ていくことが求められます。

雇用、所得

「雇用」や「所得」は、企業の生産活動の動きから大きな影響を受けますが、一方で、家計の支出行動を通じて最終需要に大きな影響を与えます。例えば、生産が減少すれば、失業率が上昇したり給与やボーナスが減少することとなりますが、これが結果的に、家計の消費を手控えさせ、景気にはマイナスに作用します。「雇用」や「所得」に関しては、雇用・所得関連統計により最近の動きを確認すると同時に、生産面の動き等から、先行きの動きを判断します。また、最近のように企業リストラクチャリングが広まっている状況では、企業に対する聴き取り調査等を通じて、こうした企業経営の変化が雇用・所得に与える影響を分析して行くことも重要となります。

景気判断材料(2) ― 物価面 ―

「金融経済月報」の「2. 物価」のパートでは、物価に関するいろいろな統計について注目しています。物価とは、モノやサービスの価格を総体的に捉えたものですが、これは、経済の実態を映す「鏡」や「体温計」にもたとえられます。すなわち、あるモノの価格は、基本的には、そのモノに対する需要と供給のバランスを反映するからです。またその一方で、こうした物価の変動自体が経済活動に大きな影響を及ぼします。

ひとくちに物価といっても、それが企業の間で行われる取引か、企業と個人の間の取引かなどにより、同じモノやサービスでもいくつもの価格が存在します。例えば、企業間で取引されるモノの価格としては「企業物価指数<CGPI>」があります。このうち、国内の企業間取引における契約時の価格を把握した指数が国内企業物価であり、輸(出)入取引の価格を集計した指数が、輸(出)入物価指数です。国内の物価動向への影響という観点から、比較的、輸入物価の動向が注目されます。また、企業間で取引されるサービスの価格には、「企業向けサービス価格指数<CSPI>」があります。一方、消費者が購入するモノやサービスの価格としては「消費者物価指数<CPI>」などがあります。日本銀行では、こうした物価指数に加え、国内外の商品市況(原油、銅、アルミ、金、木材、コーヒー、大豆などの市場での取引価格)、さらには、既存資産である土地を対象とした地価指数など、あらゆる価格の動向について絶えず注意を払いながら、総合的に物価の動きを分析しています。なお、先行きの物価動向を考えるに当たっては、現存する生産設備や生産に従事可能な人口の動き等によって決まる潜在的な供給能力と、最終需要との関係を表わす需給バランスの動きが重要な指標となります。また、この他にも、為替レートや海外商品市況の変化、技術革新の進展や賃金の動き、企業の価格設定行動の変化等が物価に与える影響も十分考慮することが必要です。

景気判断材料(3) ― 金融面 ―

金融政策を決定するうえで、金融に関する各種の情報収集・分析も欠くことのできない重要な要素です。

a. 金融市況の動き

短期金融市場や債券市場の金利や株式市場の動向は、企業活動の実態や景気動向に関する市場参加者の見通しを反映しています。また、為替相場は、異なる通貨同士の交換比率であり、基本的には、両方の国のファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)を反映して推移すると考えられます。ただ、こうした金融市況は、時として市場参加者の期待や思惑から、経済の動向などを反映した水準から離れて、乱高下することもあります。

金融市況を見る上で重要なことは、ひとつの指標をみるだけでなく、いろいろな市場で起こっていることを総合的に観察することです。

例えば、長期金利が上がったとします。それが、日本の景気の先行き見通しが改善したことによるものであれば、株価も上昇し、円高になっているでしょう。一方、同じ長期金利の上昇でも、先行きインフレが発生するかもしれないと懸念された結果だとすると、株価は下落し、円安になっていると考えられます。もちろん、世の中では、いろいろなことが同時に起こっていますので、いつもこれほど単純に図式化できるわけではありませんが(例えば、為替相場は相手国の要因で別の方向に動いているかもしれません)、他の市場の動きも合わせて判断することによって、その背景がより正確にわかるようになります。

b. 量的指標の動き

通貨供給に関する情報の収集・分析も重要な要素です。日本銀行は、国内で流通している通貨量を示すマネーサプライ等の動きを密接にモニターしているほか、貸出市場や債券・株式市場における企業の資金調達額や調達条件をモニターしたり、主要金融機関に対し貸出量や貸出金利の変動の背景等について聴き取り調査を行い、これらに関する分析も行っています。

実体経済と通貨供給量との間には、長い目でみると、一定の関係があると考えられます。すなわち、景気が良く、企業や個人の経済活動が活発な時は、お金の受け払いも多く、マネーサプライの伸びも高いという傾向があります。ただ、時として、景気が悪くてお金が動いていないときでも、マネーサプライが増加することがあります。金融システムに不安があるような場合、企業は、いざお金が欲しい時にすぐにお金を借りられないかもしれないと考えて、手許の資金を多めに持つこともあります。そうすると、企業の預金が増えるので、マネーサプライが増えます。このように、マネーサプライと経済活動の関係は必ずしも1対1というわけでありませんので、その背景について十分分析する必要があります。

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