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経済・物価の将来展望とリスク評価 (2000年10月) 1

  1. この「経済・物価の将来展望とリスク評価」は、10月30日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

2000年10月31日
日本銀行

(経済・物価情勢の将来展望)

 今年度から来年度にかけてのわが国経済の基調的な動きを展望すると、民間需要主導の緩やかな景気回復が持続する可能性が高いと判断される。物価面では、各種物価指数を総じてみれば、横這い圏内の安定的な推移を辿ることが予想される。ただし、わが国経済には、企業や金融機関のバランスシート問題やリストラの継続など、様々な構造調整圧力が残存しているため、景気の力強い拡大は期待しにくいものと見込まれる。また、景気回復のパターンは、暫くは「企業部門先行・家計部門遅行」の姿を辿るものと予想される。

 需要項目別の動きを先行き1年程度について示すと、次のとおりである。まず、公共投資は、現時点で判明している情報を前提とすれば、「日本新生のための新発展政策」に基づく事業の執行を受けて、来年度上期にかけて増加する見通しである。純輸出(輸出−輸入)は、東アジア地域で現地在庫復元の動きが一巡するため一時的に停滞したあと、来年度入り後は緩やかな増加傾向に復するものとみられる。設備投資は、情報・通信関連を中心に増加を続けることが予想される。このような状況のもと、企業収益は改善傾向を続ける可能性が大きいが、一方で企業のリストラが続くことから、企業収益の増加の家計所得への波及は、過去の景気回復局面に比べて時間を要すると考えられる。このため、個人消費の回復テンポは緩やかなものにとどまるとみられる。

 金融面では、景気の緩やかな回復にもかかわらず、民間銀行貸出は低迷し、マネーサプライの伸びも低いものにとどまる公算が大きい。これには以下のような事情が反映している。第1には、企業の手元流動性圧縮の動きが続いていることが挙げられる。企業は1997年秋から98年秋にかけての金融システム不安時に予備的動機から資金調達を積極化させたが、金融システム不安の後退と共に、積み上った手元資金を徐々に削減する動きを続けている。また、これに加えて、格付け等市場評価を意識した財務リストラも企業の借入返済を促す一因となっている。第2に、収益の改善に伴って企業のキャッシュフローが高水準で推移しているうえ、設備投資などの支出水準がこれをまだ下回っているため、実体経済活動の改善が資金需要に結びつきにくい状況にあることが挙げられる。

 物価面をみると、需給ギャップの評価が重要な論点となる。最近の経済の急速な構造変化を反映した資本ストックの経済的な価値の低下や労働市場のミスマッチの増大を考慮すると、潜在的な供給能力の伸びは低下していると考えられる。こうした供給能力の伸びの低下と前述のような先行きの需要見通しを前提とすると、需給ギャップは緩やかに縮小傾向を辿ると考えられる。

 物価指数の動きは、以上のような需給ギャップの動きに加え、コスト要因にも影響される。国内卸売物価は、当面、国内需給の改善が下支え要因となるもとで、原油価格上昇の影響も加わるため、概ね横這い圏内の動きになるとみられるが、技術進歩による機械類等の趨勢的な価格低下の影響は強く、今後、若干弱含む可能性がある。

 一方、消費者物価(除く生鮮食品)は、当面、これまでの円高や流通合理化の進展等を受けて弱含む見込みである。来年度にかけては、原油価格上昇の影響や国内需給の改善が遅れて波及していくが、他方で供給サイドからの価格引き下げ圧力が持続するため、概ね横這い圏内で推移することが展望される。

 このように、物価上昇率の見通しは全体としてゼロ近傍ないし若干のマイナスである。ただし、企業収益の増加が続き、雇用・賃金も緩やかながら改善に向かっていることを踏まえると、以上のような物価動向をきっかけにして、経済活動が抑制される可能性は小さいと判断される。

(経済・物価情勢の将来展望に関するリスク評価)

 このように、日本経済の先行きについては、標準的なシナリオとして、物価安定のもとで緩やかな回復が続く可能性が高いと展望し得る。しかし、金融政策運営に当たっては、蓋然性は低いとしても、下振れ、上振れ両方向のリスクも念頭においておく必要がある。

 まず上記の展望は、世界経済が若干減速しつつも安定的に成長することを前提としている。

 この点で留意すべき要因としては、第1に世界的なIT需要の動向が挙げられる。米国を中心とする近年の世界景気の拡大は、世界的なIT需要に支えられてきた面がある。それだけに、各国の設備増強に伴ってIT関連財の需給が緩和する可能性、特にIT関連財への依存の強い東アジア経済への影響には留意していく必要がある。

 第2に、原油価格上昇の影響が挙げられる。原油価格の上昇については、わが国の景気・物価に及ぼす直接の影響は当面は大きくないとしても、その底流に、世界的な需要の拡大や、緩やかな増産にとどまっている供給サイドの要因があることなどを踏まえると、一部の国・地域でインフレリスクが表面化する可能性も否定できない。そうしたインフレリスクの表面化や、これに対応する金融引き締めを契機に、世界経済が大きく減速する場合には、国内景気の下押し圧力が強まるリスクがある。

 第3に国際的な金融・為替市場の動きが挙げられる。近年の世界景気の拡大に上述のようなITブームやそのもとでの過度の成長期待があるとすれば、その修正に伴って国際的な資本の流れが変化する可能性も意識しておく必要がある。そうした期待が修正された場合、わが国経済は海外経済や金融・為替市場の変調を通じた影響を受けることが予想される。

 先行きの経済・物価情勢に関するリスクとしては、上述のような海外要因のほかに、国内的な要因にも留意する必要がある。

 この面では、第1に、企業や金融機関のバランスシート調整やリストラの影響が挙げられる。これらの影響は前述の標準的なシナリオに既に織込まれている。また、そもそもこうした動きは、中長期的には経済の発展の基盤を整備するものであり、経済に対する下方リスクとしてのみ認識することは適当でない。しかし、そうは言っても、これらの影響が短期的に強まる可能性も意識しておく必要がある。現在、金融機関は融資先の信用力を慎重に見きわめつつ、優良企業向けを中心に貸出を増加させようとする姿勢を続けている。そうした姿勢は景気が緩やかな回復を続けている限り維持されると判断されるが、資産価格や企業倒産の動向如何では、金融機関の不良債権要処理額が拡大して、金融機関のリスクテイク能力が低下する可能性も否定できない。

 第2に、何らかの理由で国民の将来に対する不安感が拡大し、これが経済に下方の圧力を及ぼすリスクが挙げられる。そうした不安感の直接の源泉は雇用不安、老後の生活不安等さまざまであるが、さらにその背後には日本のマクロ経済や金融システムの直面する構造的な問題が存在する。このため、今後、例えば景気の回復テンポが予想を下回ること等を契機に、これらの問題の存在がより意識され、不安感が拡大する可能性がある。

 一方で、景気が前述のような標準的な想定を上回って回復する可能性も意識しておく必要がある。特に、現在は、長期にわたる景気低迷の結果、企業などの期待成長率がきわめて低くなっている公算が大きい。それだけに、今後、企業の中期的な期待成長率が上方修正されると、設備投資が大きく伸びることも考えられる。そうした状況のもとで原油価格が一段と上昇するような場合には、先行き物価上昇圧力が強まる可能性もある。

以上

(参考)

政策委員の大勢見通し2

対前年度比、%

表 政策委員の大勢見通し
  実質GDP 国内卸売物価指数 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2000年度 +1.9〜+2.3 0.0〜+0.1 −0.4〜−0.2
  • 政策委員の見通しを作成するに当たっては、先行きの金融政策運営について、不変を前提としている。
  1. 2「大勢見通し」は、各政策委員の見通しのうち最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものである。なお、政策委員全員の見通しの幅は以下のとおりである。

——対前年度比、%

表 政策委員の大勢見通し
  実質GDP 国内卸売物価指数 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2000年度 +1.5〜+2.3 0.0〜+0.2 −0.5〜−0.1