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経済・物価の将来展望とリスク評価 (2001年10月) 1

  1. 「経済・物価の将来展望とリスク評価(2001年10月)」は、10月29日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

2001年10月29日
日本銀行

(経済・物価情勢の将来展望)

(1)本年度から来年度にかけてのわが国の経済や物価の動向を展望する場合、米国テロ事件やその後の諸情勢の展開が世界経済に与える影響、わが国が取り組もうとしている構造改革や財政再建の内容・スピードなど、不確実な要因が従来以上に多い点に留意する必要がある。

 この点を十分認識したうえで、まず、本年度下期を展望すると、輸出の落ち込みを起点とした生産の大幅な減少の影響が内需面に拡がっていく可能性は高く、日本経済は厳しい調整過程を辿ることは避けられないとみられる。

 来年度については、米国をはじめとする海外経済の回復時期が来年度前半になるとみれば、標準的なシナリオとしては、年度下期にかけて、わが国の輸出も回復に転じ、景気は全体として下げ止まりに向かうと考えられる。しかしながら、その場合でも、海外経済の回復テンポは緩やかなものに止まると予想されるうえ、日本経済には様々な構造調整圧力が残っていることから、景気の明確な回復にはなお時間を要する可能性が高い。

 このような実体経済の動向を反映して、物価は、需要面から低下圧力が強まりやすい状況にあり、供給面におけるコスト切り下げの動きが続くことと相俟って、本年度から来年度にかけても、なお緩やかな下落傾向が続く蓋然性が高い。

(2)需要項目別の動きを展望すると、次のとおりである。

 公共投資は、現時点で入手可能な情報から判断する限り、本年度に続き来年度もさらに減少する見通しである。輸出は、米国・東アジア諸国をはじめとする海外経済の調整が長期化していることから、本年度中は大幅に減少するとみられる。来年度については、海外経済が緩やかに回復するとすれば、それに伴い、いずれ輸出も増加に転じると考えられる。

 こうした中、来年度上期にかけて、在庫調整圧力が残存し、生産は減少傾向を辿る公算が高いと予想される。企業収益は減少を続け、設備投資もIT関連分野を中心に減少傾向を辿る可能性が高い。こうした企業部門における調整の影響を受け、家計部門の雇用・所得環境の悪化が見込まれ、それに伴い個人消費は次第に弱まっていくと考えられる。したがって、来年度下期にかけて輸出主導で景気が下げ止まりに向かう場合でも、内需の回復にはなお時間を要するものとみられる。

(3)金融面の動きを展望すると、日本銀行による強力な金融緩和政策の結果、金融市場では極めて緩和的な状況が維持されるとみられる。しかし、上記のような総需要の停滞傾向や、企業の過剰債務圧縮の動きが続くもとでは、こうした金融緩和が資金需要の増加に繋がることは想定しにくい。一方、金融機関サイドでは、自らの財務状態の改善を図るため、借り手のリスクと収益性をより正確に反映した貸出金利の設定努力を継続するものとみられる。

 このような状況のもとで、民間銀行貸出は、弱めの動きを続けるとみられる。他方、マネーサプライは、低金利のもとでの流動性預金に対する高水準の需要や、金融機関による国債投資を背景に、経済活動との対比では相対的に高めの伸びを維持すると考えられる。

(4)物価について、まず、需給バランスをみると、日本経済の短期的な供給能力の伸びが年1%台に低下している可能性が高いが、そのもとでも、前述のような需要見通しを前提とすると、需給ギャップは来年度にかけて拡大する公算が高く、物価下落圧力は持続すると考えられる。この間、海外からの安値輸入品の流入、規制緩和、流通合理化等の供給サイドの要因は、引き続き物価を低下させる方向に作用するとみられる。

 各種の物価指数は、これらの要因を反映して、緩やかな下落傾向を辿り、本年度および来年度の国内卸売物価や消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マイナスを続ける見通しである。

 以上のような景気・物価情勢を踏まえると、名目所得の伸びはマイナスが続くとみられる。

(経済・物価情勢の将来展望に関するリスク評価)

(5)金融政策運営に当たっては、上記のような展望を、先行きの経済・物価動向について最も蓋然性が高い標準シナリオとして想定している。しかし、内外経済の直面する不確実性の大きさを考慮すると、標準シナリオの評価に当たっては、以下に述べるような下振れないし上振れとなる可能性(リスク要因)を、従来以上に念頭に置いておく必要がある。

 第1のリスク要因として挙げられるのは、米国をはじめとする海外経済や、IT関連分野の動向である。

 前述の標準的なシナリオでは、海外経済の回復時期は来年度前半としたうえで、その回復テンポはかなり緩やかであることを想定した。しかしながら、IT関連の調整が一段と長期化したり、米国テロ事件が直接・間接に、企業および家計の心理面や生産、支出活動に一過性に止まらないような悪影響を及ぼすことになれば、海外経済の調整がより広範でかつ深いものとなるリスクがある。その場合には、わが国の輸出・生産がさらに落ち込むと考えられる。また、日本経済の回復の遅れ自体が海外の景気回復を遅らせる要因となりうる点にも、留意が必要である。

 一方で、米国の積極的な金融・財政政策の効果などから、米国経済ひいては海外経済が比較的速やかに回復する可能性もある。その場合には、来年度以降、わが国の輸出・生産へのプラスの影響が強まると予想される。

(6)第2のリスク要因としては、金融資本市場の動向が挙げられる。

 各国の金融資本市場は、IT関連を中心とした株価の調整が続いていたところへ、米国テロ事件の影響が加わり、株価の一段の下落、社債やエマージング諸国債券の信用スプレッドの拡大、米ドルの対主要通貨での下落、さらには一部の市場では流動性が低下する現象もみられた。株価や米ドル相場は概ねテロ事件以前の水準に戻っているが、今後、世界経済の調整が長期化する見通しが強まる場合には、投資家のリスク回避の動きがさらに拡がるなど、世界の金融資本市場において不安定な状態が続く可能性は否定できない。そうしたもとで、エマージング市場を含めて、国際的な資金の流れに変調を来たす可能性もある。わが国でも、9月以降、金融機関の流動性需要が高まったり、低格付社債の信用スプレッドが拡大する現象がみられており、そのような状態が続くことも考えられる。

 こうした中で、国内の株価がさらに下落すれば、企業・家計のコンフィデンスの悪化や金融機関の融資スタンスへの影響を通じて、わが国の景気に悪影響が及ぶ惧れがある。また、米国経済の先行き不透明感を背景に大幅な円高が生じれば、わが国の輸出や企業収益にマイナスに作用することになる。

(7)第3のリスク要因としては、不良債権処理の進み方とその影響が挙げられる。

 まず、金融機関の不良債権処理や、それと表裏の関係にある企業の過剰債務解消の動きが一段と進展する場合には、短期的には、企業倒産や失業の増加などが生じる可能性がある。しかし、そうした不良債権問題の改善が、金融システムの機能強化に資するものとして、内外の金融資本市場で前向きに評価される場合には、様々なルートを通じて、経済にプラスの効果が及ぶ可能性が高い。とくに、金融仲介機能の回復が期待されるようになれば、日本銀行が現に行っている強力な金融緩和政策の効果が十分活かされる基盤が整うことになる。

 逆に、景気の調整長期化や株価・地価の下落を背景に、多額の不良債権が新規に発生したり、既存の不良債権の処理が遅れる場合には、わが国の金融システムに対する信認が低下し、これが実体経済に対しても深刻な悪影響を及ぼすリスクがある。

(8)第4のリスク要因としては、経済・財政の構造改革の影響が挙げられる。

 日本経済が安定的かつ持続的な成長軌道に復帰するためには、構造改革の進展が不可欠である。この点、政府において、「改革工程表」や「改革先行プログラム」が作成されるなど、現在、様々な分野で構造改革の具体化に向けた動きが始まっている。構造改革の推進は、短期的には、企業倒産や失業の増加を招く惧れがあるが、一方、構造改革への道筋が明らかになり、これが内外市場の日本経済への信認向上や国民の将来に対する不安感の緩和に繋がれば、企業や家計の支出増加といったプラスの効果が前倒しで実現するという、二面性を有している。

 財政構造改革の帰趨も、景気や物価の先行きに大きな影響を与える。まず、財政支出は需要項目のひとつであることから、短期的には財政構造改革の内容やスピード如何によって、需要への直接的なインパクトは異なり、景気に与える影響も違ってくる。より長期的な観点からは、わが国の政府債務が高水準であるだけに、財政規律に対する投資家の信認は重要な要因である。仮に、投資家の信認が低下するようなことがあれば、長期金利の上昇や、それに伴う金融機関経営への悪影響が、経済活動を下押しする可能性がある。逆に、財政再建に向けた長期的な展望が示されるとともに、民間需要を引き出す方向で財政支出の内容が見直されれば、景気にプラスに作用すると考えられる。

以上

(参考)

政策委員の大勢見通し2

対前年度比、%。( )内は4月時点。

表 政策委員の大勢見通し
  実質GDP 国内卸売物価指数 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2001年度 −1.2〜−0.9
(+0.3〜+0.8)
−1.2〜−1.0
(−0.9〜−0.6)
−1.1〜−1.0
(−0.8〜−0.4)
2002年度 −1.1〜+0.1 −1.3〜−0.9 −1.3〜−0.9
  • 政策委員の見通しを作成するに当たっては、先行きの金融政策運営について、不変を前提としている。
  1. 2今回、先行きの不確実性が従来以上に大きいことに鑑み、各政策委員は最大0.5%のレンジの範囲内で見通しを作成することとした。「大勢見通し」は、9名の政策委員の見通し値(各項目毎に計18個)のうち上から2個、下から2個、計4個の値を除いて、幅で示したものである(政策委員が単一の値で見通しを作成した場合は、当該値を2個と数える)。また、政策委員全員の見通しの幅は下表のとおりである。
     なお、消費者物価指数の見通しは、4月時点では1995年基準、今回は2000年基準で作成した(2001年入り後の前年比下落率をみると、新基準は旧基準に比べて0.3%ポイント程度拡大している)。

対前年度比、%。( )内は4月時点。

表 政策委員の大勢見通し
  実質GDP 国内卸売物価指数 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2001年度 −1.6〜−0.6
(−0.1〜+1.0)
−1.5〜−0.9
(−1.5〜−0.5)
−1.3〜−0.9
(−1.0〜−0.3)
2002年度 −1.7〜+0.2 −1.9〜−0.5 −1.7〜−0.5